(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものに
は同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【0012】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る光送受信器1の機能構成例を示す図である。光送受信器1は、例えば加入者収容局側(以降、収容局側と称する)に配置され、加入者側宅に配置される他の光通信デバイスと通信をする例えばPON(Passive Optical Network)システムを構成する。また、光送受信器1は、加入者側宅に配置される他の光通信デバイス(図示せず)へ電力を供給する光給電システムを構成する。光給電システム及び光通信デバイスについては後述する。
【0013】
光送受信器1は、第1光信号送信部10、給電信号送信部11、合波カプラ12、第1光信号受信部13、及び光サーキュレータ14を備える。光送受信器1は、加入者側宅に配置される光通信デバイスに、音声、画像、及び文字情報の何れか又は全てを表す光信号と、給電信号を送信する。
【0014】
第1光信号送信部10は、所定の波長の光信号α
1を送信する。光信号α
1は、通信に用いる光信号であり、例えば1570nmの波長の光信号である。また、光信号α
1は、例えば音声信号の振幅を、時間軸方向で標本化し、更に量子化したディジタル信号である。また、光信号α
1は、画像信号であれば圧縮したディジタル信号である。
【0015】
光信号α
1は、例えば、線幅を40pm(約5.4GHz)、出力パワーは0dBm(1mW)に設定される。このようにディジタル情報を伝送する光信号α
1は、比較的に狭い線幅と小さいパワーである。
【0016】
給電信号送信部11は、光信号α
1の波長と異なる波長の光信号を出力することで光通信デバイスに電力を供給する給電信号β
1を送信する。また、給電信号β
1の波長は、光信号α
1と干渉しない波長に設定すると良い。給電信号β
1の波長は、例えば1530nmとする。なお、給電信号β
1のパワーは、光通信デバイスが動作するのに必要十分な大きさにする必要がある。
【0017】
合波カプラ12は、波長の異なる第1光信号α
1と給電信号β
1を1つ(合波信号(α
1+β
1))に合波する。合波カプラ12はWDMカプラである。WDM(Wavelength Division Multiplexing)とは、波長分割多重方式のことである。
【0018】
光サーキュレータ14は、合波カプラ12で合波した合波信号を相手側送受信器に出力し、相手側送受信器から送信される第2光信号α
2を第1光信号受信部13に出力する。
【0019】
第1光信号受信部13は、加入者側宅に配置される相手側送受信器である光通信デバイスから第2光信号α
2を受信する。第1光信号受信部13は、受信した第2光信号α
2から例えば音声信号の振幅を復調して外部に出力する。第2光信号の波長α
2は、第1光信号α
1の波長と同じで有っても良いし、異なっていても良い。
【0020】
給電信号送信部11は、広帯域光源11aと帯域通過フィルタ11bを備える。広帯域光源11aは、光信号α
1の波長を含む広帯域光を生成する。広帯域光源11aは、例えばASE(Amplified Spontaneous Emission)光源で構成される。なお、広帯域光源11aは、SLD(Superluminesent Diode)光源、及びSC(Super Continuum)光源で構成しても良い。
【0021】
帯域通過フィルタ11bは、光信号α
1の波長と異なり、光通信デバイスが必要とするパワーが得られ、且つ光ファイバの線形光学現象が生じる範囲内で動作する線幅の給電信号β
1を抽出する。給電信号β
1のパワーは、その線幅を広くすることで大きくすることができる。よって、光通信デバイスが動作するのに必要十分な大きなパワーの給電信号β
1を送出するためには、所定の幅以上の線幅にする必要がある。
【0022】
ただし、光ファイバに大きなパワーを入力すると非線形光学効果が生じる。したがって、給電信号β
1のパワーは、光ファイバの線形光学現象が生じる範囲内に設定する必要がある。
【0023】
ここで、光ファイバに非線形光学効果が生じる閾値について説明する。
【0024】
(SBSとSRS)
光ファイバの非線形光学効果には、誘導ブリルアン散乱(SBS:Stimulated Brillouin Scattering)と誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)の二つがある。
【0025】
SBSとSRSのそれぞれ閾値は、式(1)、式(2)により算出できる(参考文献1:Govind Agrawal, “Nonlinear Fiber Optics,” Academic Press)。
【0028】
SBSは、光源の線幅によって、その閾値が変化することが知られている。式(1)中のΔν
Bはブリルアン利得帯域幅を示し、Δν
Pは入力光の線幅を示している。ここで、Kは偏波の係数、A
effは光ファイバの実効断面積、g
B0はブリルアン利得係数、g
Rはラマン利得係数、L
effは実効ファイバ長である。
【0029】
L
effは、光ファイバ長Lと損失係数αから式(3)で表せる。また、ブリルアン利得係数g
B0は、式(4)で算出できることが知られている(参考文献2:M. Nikles, L. Thevenaz, P. A. Robert, “Brillouin gain spectrum characterization in single-mode optical fibers,” IEEE J. Lightwave Technol., vol. 15, no. 10, pp.1842-1851, 1997.)。
【0032】
式(4)中のnはファイバ中の屈折率、p
12は光弾性定数、cは真空中の光速、λ
pは入力光の波長、ρ
0は密度、V
aは音響波の速度、及びΔν
Bはブリルアン利得帯域幅である。
【0033】
式(1)から明らかなように、SBS閾値は、線幅(Δν
P)を広げることで大きくできる。また、SRS閾値は、式(2)から光ファイバのパラメータのみに依存することが分かる。
【0034】
光ファイバに、SBS閾値を越えるパワーの光を入力すると、入力光は、伝送中に光ファイバ伝送路全体で反射され、入射点に戻る。また、SRS閾値を越えるパワーの光を入力すると、格子振動のエネルギーだけずれた光が散乱する現象が生じる。
【0035】
ここで、SBS閾値とSRS閾値の具体例について検討する。光送受信器1と光通信デバイスを接続する光ファイバを、標準的なITU−TのG.652.D(参考文献3:ITU-T G.652, “Characteristics of a single-mode optical fibre and cable”)に準拠しているシングルモードファイバと仮定する。
【0036】
表1に、シングルモードファイバの一般的なパラメータを示す。
【0038】
表1に示すように、シングルモードファイバにおいては、波長1550nmにおける光ファイバの実効断面積A
effは80μm
2、伝送損失は0.3dB/kmで規定されている。ブリルアン利得係数g
B0は、式(4)から1.64×10
-11m/Wと計算される。
【0039】
SRS閾値は、光ファイバのパラメータのみで決定され、伝送距離20kmのSRS閾値は31.8dBm(1513.56mW)である。SBS閾値は、線幅を拡げることで大きくできる。
【0040】
表2に、伝送距離を20kmに仮定した場合の線幅とSBS閾値の関係を、式(1)で計算した結果を示す。
【0042】
図2は、表1と表2の計算結果を示す図である。
図2の横軸は伝送距離[km]、縦軸はSBSとSRSの閾値[dBm]である。
【0043】
図2において、最も大きな閾値(細い破線)はSRS閾値を表す。SRS閾値よりも小さい閾値を示す特性は、大きい方から順に線幅が30pm、20pm、10pm、5pm、1pmのそれぞれのSBS閾値を表す。
【0044】
給電信号β
1の線幅を10pmと仮定すると、給電信号のパワーは24.7dBmに設定可能である。また、給電信号β
1の線幅を20pmと仮定すると、給電信号のパワーは27.8dBmに設定可能である。また、給電信号β
1の線幅を30pmと仮定すると、給電信号β
1のパワーは29.6dBmに設定可能である。このように、線幅を広げるとSBS閾値は大きくなる。
【0045】
SBS閾値とSRS閾値が一致する線幅を計算(式(1)、(2))すると52pm(但し、伝送線路20km)となる。つまり、SBS閾値とSRS閾値が一致する線幅の場合は、SBSとSRSの両方の非線形光学現象の影響を受ける。そこで、給電光β
1の線幅を、上記の一致する線幅のN倍(N:正の数)に設定すると、表2に示すようにSBS閾値はN倍にすることができる。よって、給電信号β
1の線幅を広げることで、SBS閾値の影響を無視でき、SRS閾値のみを考慮すれば良いことになる。この例の場合、光ファイバの非線形光学効果(SBS、SRS)の影響を受けずに伝送できるパワーは、SRS閾値の31.8dBm(1513.56mW)以下にする必要がある。
【0046】
つまり、伝送距離を20kmとし、且つ給電信号β
1の線幅を52pm以上に設定した場合の給電信号β
1のパワーは、SRS閾値で制限されることになる。また、
図2に示すように伝送距離が短くなると、SRS閾値とSBS閾値は大きくなる特性を示す。よって、給電信号β
1は、伝送距離を20km以内とすれば、31.8dBm(1513.56mW)以下のパワーであれば、線形光学現象の範囲内で伝送することができる。
【0047】
ここで、広帯域光源11aと帯域通過フィルタ11bの具体例を示す。
図3は、SC光源のパワースペクトルの一例を示す図である。
図3の横軸は波長[nm]、縦軸はパワー[mW/nm]である。
図3に示すように、広帯域光源11aが発生する広帯域光の波長は、400nm〜2400nmと広範囲である。帯域通過フィルタ11bは、広帯域光の一部の波長の範囲を通過させて給電信号β
1を生成する。
【0048】
帯域通過フィルタ11bの通過帯域は、例えば、光信号α
1と干渉しない波長の給電信号β
1を通過させる帯域に設定する。光信号α
1の波長を1570nmと仮定すると、その波長は遮断した方が良い。
【0049】
図4は、帯域通過フィルタ11bの特性例を示す図である。
図4の横軸は波長[nm]、縦軸は透過率[%]である。
図3に示すように、帯域通過フィルタ11bは、例えば、1530nmの波長を中心に線幅約±6nmの波長の範囲を通過させる特性である。なお、光信号α
1の波長と給電信号β
1の波長の関係は逆転させても構わない。つまり、給電信号β
1の波長は、光信号α
1の波長より長くても良い。
【0050】
このような特性(
図4)の帯域通過フィルタ11bを用いることで、広帯域光源11aの生成する広帯域光から光信号α
1の波長と干渉しない給電信号β
1を抽出することができる。この例の給電信号β
1の波長は1524〜1536nmの範囲である。そして、給電信号β
1のパワーは、大凡30mW(2.4mW/nm×12nm)である。
【0051】
加入者宅側に配置される一般的な光通信デバイスは、1mW程度の電力で動作させることができる。よって、この例の給電信号β
1のパワーは、必要十分な値である。
【0052】
以上説明したように本実施形態に係る光送受信器1は、通信先の光通信デバイスに給電信号を送出できる光送受信器であって、光信号α
1の波長を含む広帯域光を生成する広帯域光源11aと、広帯域光から、光信号α
1の波長と異なり、光通信デバイスが必要とするパワーが得られ、且つ光ファイバの線形光学現象が生じる範囲内で動作する線幅の給電信号を抽出する帯域通過フィルタ11bとを備える。これにより、光ファイバのSBS閾値の影響を受けない程度に狭帯域化させた給電信号β
1で、加入者宅側に配置された光通信デバイスを給電することができる。したがって、停電時であっても、通信用の光ファイバのみで給電と通信の両方を行うことが可能になる。
【0053】
また、本実施形態に係る光送受信器1によれば、給電信号β
1は、例えば、光信号α
1の波長より短い短波長側に中心波長を持つ。また、給電信号β
1は、光信号α
1の波長より長い長波長側に中心波長を持つ。これにより、給電信号β
1と光信号α
1の両方を、通信先の光通信デバイスに送出することができる、と共に、光信号α
1のSN比を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る光送受信器1において、光ファイバの伝送距離を20km以内とした場合に、給電信号β
1の線幅は52pm以下であり、且つ給電信号β
1のパワーは31.6dBm以下である。これにより、給電信号β
1を、光ファイバの非線形光学効果(SBS、SRS)の影響を受けずに伝送することができる。
【0055】
(光給電システム)
図5は、本実施形態に係る光送受信器1を用いた光給電システム100の構成例を示す図である。
図5は、停電時に収容局側110に配置された光送受信器1から加入者宅側120に配置された光通信デバイス2に電力を供給し、光送受信器1と光通信デバイス2の間で通信できるようにしたものである。
【0056】
なお、光送受信器1と光通信デバイス2は、説明の便宜上の理由で、その名称を変えている。光通信デバイス2は、例えば、光送受信器1と音声通話を行うものであり、その具体例については後述する。
【0057】
収容局側110は、OLT(光加入者線終端装置)111、4分岐スプリッタ112、及び光送受信器1を備える。4分岐スプリッタ112の1つのポート112aは光ファイバ114を介して8分岐スプリッタ115に接続される。
【0058】
収容局側110に配置される光送受信器1は、ポート112aと8分岐スプリッタ115を接続する光ファイバ114に、図示を省略しているカプラを介して光ファイバ113で接続される。なお、光送受信器1は、OLT111と4分岐スプリッタ112の間の光ファイバに、図示を省略しているカプラを介して接続するようにしても良い。
【0059】
加入者宅側120に向けてOLT111を通過する光信号は、4分岐スプリッタ112と8分岐スプリッタ115によって32分岐される。その32分岐された8分岐スプリッタ115の1つのポート115aは、ONU(光回線終端装置)122で終端する。
【0060】
加入者宅側120は、光切替スイッチ121、ONU122、及び光通信デバイス2を備える。
図4では、ONU122に接続される加入者(利用者)のパーソナルコンピュータ等の表記は省略している。
【0061】
8分岐スプリッタ115のポート115aとONU122の間に、光切替スイッチ121が光ファイバを介して直列に接続される。光切替スイッチ121は、ONU122と光通信デバイス2を切り替えて8分岐スプリッタ115のポート115aに接続する。
【0062】
光切替スイッチ121の切り替えは、例えば加入者が行う。通常時は、ポート115aはONU122に接続される。加入者は、停電時に光送受信器2をポート115aに接続させるように光切替スイッチ121を切り替える。なお、光切替スイッチ121の切り替えは、停電時に自動的に行うようにしても良い。
【0063】
停電時、光送受信器1は、光ファイバ113、カプラ、光ファイバ114、8分岐スプリッタ115、及び光切替スイッチ121を介して接続される光通信デバイス2に合波信号(給電信号β
1と第1光信号α
1)を送信する。給電信号β
1は、停電時に光通信デバイス2が動作する電力を光(光パワー)で供給する。
【0064】
(光通信デバイス)
図6は、光通信デバイス2の機能構成例を示す図である。
図6に示す光通信デバイス2は、例えば光送受信器1と音声通話を行うもの(以降、光送受信器2と称する)を例に説明する。
【0065】
光送受信器2は、第2光信号送信部20、光サーキュレータ21、分波カプラ22、第2光信号受信部23、給電信号受信部24、及び蓄電池25を備える。第2光信号送信部20は、所定の波長の光信号α
2を送信する。光信号α
2の波長は、例えば1310nmである。
【0066】
第2光信号受信部23は、光信号α
1(1570nm)を受信する。第2光信号受信部23は、受信したディジタル信号から、例えば音声信号の振幅を復調して外部に出力する。
【0067】
光サーキュレータ21は、第2光信号α
2を相手側送受信器へ出力し、相手側送受信器(光送受信器1)から送信される所定の波長の第1光信号α
1と該第1光信号α
1の波長と異なる波長に最大利得を持ち自らを動作させる電力に変換される給電信号β
1とを合波した合波信号(α
1+β
1)を分波カプラ22に出力する。
【0068】
分波カプラ22は、第1光信号α
1と給電信号β
1を分波する。第2光信号受信部23は、第1光信号α
1を受信する。給電信号受信部24は、光送受信器1から受信した給電信号β
1を、自らを動作させる電力に変換する。給電信号β
1を変換した電力は、蓄電池25に蓄えても良いし、そのまま光送受信器2の各機能構成部を動作させる電力として使用しても良い。
【0069】
以上説明したように本実施形態に係る光給電システム100は、収容局側110に配置された光送受信器1から加入者宅側120に配置された光送受信器(光通信デバイス)2に給電信号β
1を送出できる光給電システムであって、光送受信器1は、第1光信号α
1の波長を含む広帯域光を生成する広帯域光源11aと、広帯域光から、第1光信号α
1の波長と異なり、光送受信器2が必要とするパワーが得られ、且つ光ファイバ114の線形光学現象が生じる範囲内で動作する線幅の給電信号β
1を抽出する帯域通過フィルタ11bとを備え、光送受信器(通信デバイス)2は、第1光信号α
1と給電信号β
1を分波する分波カプラ22と、第1光信号α
1を受信する第2光信号受信部23と、給電信号β
1を電力に変換する給電信号受信部とを備える。
【0070】
これにより、収容局側110の光送受信器1から加入者宅側120の光送受信器2に電力を供給することができ、停電時においても収容局110と加入者宅側120の間で通信することができる。つまり、通信用の光ファイバ114(光回線)のみで通信と給電の両方が行える作用効果が得られる。
【0071】
以上説明した光送受信器1は、広帯域光源11aの広帯域光から給電信号β
1を抽出するものである。よって、光送受信器2を動作させるのに必要十分な光パワーを送出することは出来る。しかし、より大きなパワーが求められた場合は、対応することができない。そこで次に、より大きな光パワーを送出するのに好適な本発明に係る他の実施形態について説明する。
【0072】
〔第2実施形態〕
図7は、本発明の第2実施形態に係る光送受信器3の機能構成例を示す図である。
図7に示す光送受信器3は、光送受信器1(
図1)に対して給電信号送信部31を備える点で異なり、光送受信器1よりも大きな光パワーを送出することができる。
【0073】
給電信号送信部31は、広帯域光源11a、帯域通過フィルタ11b
2、及び光ファイバ増幅器11cで構成される。広帯域光源11aは、参照符号から明らかなように光送受信器1と同じである。
【0074】
帯域通過フィルタ11b
2は、広帯域光源11aが生成する広帯域光から、第1光信号α
1の波長と異なり、光ファイバ114のSBS閾値の影響を受けない線幅の給電信号β
1を抽出する。
【0075】
帯域通過フィルタ11b
2の特性は、通過帯域の透過率が高くなくても構わない。その理由は、帯域通過フィルタ11b
2で広帯域光から抽出した給電信号β
1を、光ファイバ増幅器11cで増幅するからである。よって、通過帯域の透過率は、
図3に示したように100%に近い値でなくても構わない。
【0076】
図8は、光ファイバ増幅器11cの特性例を示す図である。
図8の横軸は波長[nm]、縦軸は増幅利得[dB]である。
図8において実線で示す特性はEr添加ファイバ、破線はAI/Er添加ファイバ、及び一点鎖線はフッ化物ファイバの利得特性を示す。
【0077】
図8に示すように、比較的に平坦な利得特性を示すAI/Er添加ファイバとフッ化物ファイバに対して、Er添加ファイバは1530nmの波長にピークを持ち1570nmではほとんど利得がない特性を示す。第1光信号α
1の波長1570nmでは、ほとんど利得がないため第1光信号α
1に雑音を生じさせずに、給電信号β
1を増幅できる。なお、ASE雑音を生じる場合は、給電信号送信部11と合波カプラ12の間にフィルタを付加しても良い。
【0078】
光ファイバ増幅器11cは、給電信号β
1を、光ファイバ114の誘導ラマン散乱(SRS)による制限を受けるSRS閾値以下のパワーに増幅する。これにより光ファイバ114の非線形光学効果(SBS,SRS)の影響を受けずに光パワーを伝送できる。
【0079】
本実施形態に係る光送受信器3によれば、広帯域光源11a、帯域通過フィルタ11b2、及び光ファイバ増幅器11cの組み合わせによって、給電信号β
1を、上記のSRS閾値に迫るパワー(31.8dBm)に増幅することも可能である。
【0080】
したがって、光送受信器1よりも大きなパワーの給電信号β
1を送出することができる。また、SBS閾値に対しては帯域通過フィルタ11b
2、SRS閾値に対しては光ファイバ増幅器11cが、それぞれ作用するので設計の自由度を向上させる効果も得られる。
【0081】
本実施形態に係る光送受信器3は、光給電システム100(
図5)における光送受信器1と置き換えることができる。光送受信器3で構成した光給電システムは、通信用の光ファイバ114(光回線)のみで通信と給電の両方が行える作用効果に加えて、より大きなパワーの給電信号β1を加入者宅側120に送出することができる。また、その光給電システムは、光給電システムの設計の自由度も向上させることができる。
【0082】
なお、光ファイバ増幅器11cは、給電信号β
1をSRS閾値以下のパワーに増幅するものである。場合によっては、光ファイバ増幅器11cだけでは給電信号β
1のパワーをSRS閾値以下にできない場合も有り得る。
【0083】
例えば、帯域通過フィルタ11bで抽出された給電信号β1を、光ファイバ増幅器11cで増幅したパワーがSRS閾値を越えてしまう場合である。その場合は、光ファイバ増幅器11cと合波カプラ12の間に、光アッテネータ(
図7に図示せず)を設けるようにしても良い。つまり、光ファイバ増幅器11cは、光ファイバ増幅器と光アッテネータ(図示せず)の組みで構成しても良い。
【0084】
〔第3実施形態〕
図9は、本発明の第3実施形態に係る光送受信器4の機能構成例を示す図である。
図9に示す光送受信器4は、光送受信器1(
図1)と光送受信器2(
図6)の全ての機能構成部を備える。
【0085】
光送受信器4は、第1光信号送信部10、給電信号送信部11、合波カプラ12、光サーキュレータ14、分波カプラ22、第2光信号受信部23、給電信号受信部24、及び蓄電池25を備える。
【0086】
光送受信器4は、参照符号から明らかなように光送受信器1と光送受信器2の全ての機能構成部を備える。つまり、光送受信器3は、所定の波長の第1光信号α
1を送信する第1光信号送信部10と、第1光信号α
1の波長と異なる波長にパワーのピークを持ち相手側送受信器に電力を供給する給電信号β
1を送信する給電信号送信部11と、第1光信号α
1と給電信号β
1を合波する合波カプラ12と、合波カプラ12で合波した合波信号(α
1+β
1)を相手側送受信器に出力し、相手側送受信器から送信される所定の波長の第2光信号α
2と該第2光信号α
2の波長と異なる波長にパワーのピークを持ち自らを動作させる電源となる被給電信号β
2を合波した合波信号(α
2+β
2)を分波カプラ22に出力する光サーキュレータ14と、第2光信号α
2と被給電信号β
2を分波する分波カプラ22と、第2光信号α
2を受信する第2光信号受信部23と、被給電信号β
2を電力に変換する給電信号受信部24と、被給電信号β
1を変換した電力を蓄える蓄電池25を備える。なお、給電信号β
1と被給電信号β
2の波長は同じで有っても良いし、異なっていても良い。
【0087】
光送受信器4は、加入者宅側に配置しても良い。その場合、加入者宅側に配置された光送受信器4から、収容局側に配置された光送受信器4に電力を供給することも可能である。
【0088】
なお、光送受信器4は、光送受信器1、光送受信器2、及び光送受信器3で得られる全ての効果を奏する。また、光送受信器4の給電信号送信部11は、給電信号送信部31に置き換えても良い。
【0089】
以上説明したように第1実施形態に係る光送受信器1は、光ファイバ114のSBS閾値の影響を受けない程度に狭帯域化させた給電信号β
1で、加入者宅側120に配置された光送受信器2に給電することができる。
【0090】
また、第2実施形態に係る光送受信器3を構成する給電信号送信部31は、帯域通過フィルタ11b2と光ファイバ増幅器11cを備え、SBS閾値に対しては帯域通過フィルタ11b
2が作用し、SRS閾値に対しては光ファイバ増幅器11cが作用する。したがって、大きなパワーの給電信号β
1を送出することができる。また、光送受信器3の設計の自由度を向上させることができる。
【0091】
また、第3実施形態に係る光送受信器4は、光ファイバ114を挟んで双方向に給電信号を送出することができる。したがって、加入者宅側120から収容局側110に給電することも可能である。
【0092】
また、光給電システム100によれば、通信用の光ファイバ114(光回線)のみで通信と給電の両方が行える作用効果が得られる。
【0093】
なお、広帯域光源11aを、広帯域光のパワーが光信号α
1と給電信号β
1の波長の範囲で一様に低下する特性(
図3)、つまり1200nm以上の波長域でパワーが低下する特性を持つ実施形態で説明を行ったがこの例に限定されない。広帯域光の特性は、光信号α
1を挟んで短波長側と長波長側の双方にパワーのピークを持つ場合も有り得る。その場合、帯域通過フィルタ11bは、例えばエリミネーションフィルタで構成すると良い。
【0094】
図10は、エリミネーションフィルタの通過特性の例を示す図である。
図10の横軸と縦軸の関係は、
図3と同じである。
図10に例示する特性を持つ帯域通過フィルタ11bで、広帯域光に含まれる光信号α
1(1570nm)を遮断(減衰)し、光信号α
1の両外側のパワーのピークを中心とする所定の線幅の給電信号を抽出するようにしても良い。
【0095】
つまり、給電信号は、光信号α
1の波長よりも短い短波長側と長い長波長側の双方に中心波長を持ち、帯域通過フィルタ11bは、双方のそれぞれの中心波長を通過させるエリミネーションフィルタで構成される。これにより、広帯域光源11aが生成する広帯域光から、給電信号を効率良く抽出することができる。
【0096】
また、停電時に加入者宅側のONU122と光送受信器2を切り替える光切替スイッチ121を、加入者が操作する例で説明を行ったがこの例に限定されない。光切替スイッチ121の切り替えは、収容局側110から行うようにしても良い。
【0097】
また、収容局側110において、光送受信器1を4分岐スプリッタ112と8分岐スプリッタ115の間に配置する例で説明したが、OLT111と4分岐スプリッタ112の間に光送受信器1を配置しても良い。このように本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で変形が可能である。
【解決手段】通信先の光通信デバイスに給電信号を送出できる光送受信器3であって、光信号の波長を含む広帯域光を生成する広帯域光源11aと、記広帯域光から、光信号の波長と異なり、光通信デバイスが必要とするパワーが得られ、且つ光ファイバの線形光学現象の範囲内で動作する線幅の給電信号β