(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(化合物)
本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物は、下記一般式(1)に表される化合物である。
【0019】
一般式(1)において、Aは、水素原子、炭素数1から8のアルキル基、又は一般式(2)で表される置換オキシメチル基を表し、X、Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1から8のアルキル基又はハロゲン原子のいずれかを示す。
【0021】
一般式(2)において、Bは炭素数1から8のアルキル基、アリル基又は炭素数6から12のアリール基を表す。
【0022】
一般式(1)において、Aで表される炭素数1から8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基又は2−エチルヘキシル基等が挙げられる。また、一般式(2)において、Bで表される炭素数1から8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基又は2−エチルヘキシル基等が挙げられる。Bで表されるアリル基としては、アリル基又はメタリル基が挙げられる。Bで表される炭素数6から12のアリール基としては、フェニル基、トリル基又はナフチル基等が挙げられる。
【0023】
一般式(1)において、X又はYで表される炭素数1から8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基又は2−エチルヘキシル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
【0024】
本発明の一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物の具体例としては、X及びYが水素原子である場合としては、例えば、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシブトキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシペンチルオキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシヘキシルオキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシヘプチルオキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシオクチルオキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−エトキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−プロポキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−ペンチルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−ヘキシルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−ヘプチルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−オクチルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−メタリルオキシプロポキシ)アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、9−[2−ヒドロキシ−3−(トリルオキシ)プロポキシ]アントラセン、9−(2−ヒドロキシ−3−ナフチルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0025】
X、Yが水素原子以外の場合は、例えば、X及び/又はYがアルキル基である、2−メチル−9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシブトキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシペンチルオキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシヘキシルオキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシヘプチルオキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシオクチルオキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−エトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−プロポキシプロポキシ)アントラセン2−メチル−、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ペンチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘキシルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘプチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−オクチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−メタリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル−9−[2−ヒドロキシ−3−(トリルオキシ)プロポキシ]アントラセン、2−メチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ナフチルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0026】
更に、2−エチル−9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシブトキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシペンチルオキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシヘキシルオキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシヘプチルオキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシオクチルオキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−エトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−プロポキシプロポキシ)アントラセン2−エチル−、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ペンチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘキシルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘプチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−オクチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−メタリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−エチル−9−[2−ヒドロキシ−3−(トリルオキシ)プロポキシ]アントラセン、2−エチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ナフチルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0027】
更にまた、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシブトキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシペンチルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシヘキシルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシヘプチルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシオクチルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−エトキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−プロポキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ペンチルオキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘキシルオキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘプチルオキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−オクチルオキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−メタリルオキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9−[2−ヒドロキシ−3−(トリルオキシ)プロポキシ]アントラセン、2,6−ジメチル−9−(2−ヒドロキシ−3−ナフチルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0028】
そしてさらに、X及び/又はYがハロゲン原子である、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシブトキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシペンチルオキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシヘキシルオキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシヘプチルオキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシオクチルオキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−エトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−プロポキシプロポキシ)アントラセン2−クロロ−、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−ペンチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘキシルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘプチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−オクチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−メタリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−クロロ−9−[2−ヒドロキシ−3−(トリルオキシ)プロポキシ]アントラセン、2−クロロ−9−(2−ヒドロキシ−3−ナフチルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0029】
そしてまた、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシブトキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシペンチルオキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシヘキシルオキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシヘプチルオキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシオクチルオキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−エトキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−プロポキシプロポキシ)アントラセン2−ブロモ−、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−ペンチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘキシルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−ヘプチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−オクチルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−メタリルオキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、2−ブロモ−9−[2−ヒドロキシ−3−(トリルオキシ)プロポキシ]アントラセン、2−ブロモ−9−(2−ヒドロキシ−3−ナフチルオキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0030】
これら例示した化合物の中で、製造が容易でかつ光重合増感剤としての効果が大きいという点で、下記に示した9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)、9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(化合物B)、9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン(化合物C)、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)が好ましい。
【0032】
(製造方法)
次に本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物の製造方法について説明する。本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物は、一般式(4)で表される9−アントロン化合物を異性化し、次いでヒドロキシエーテル化剤と反応させて合成することができる。
【0034】
一般式(4)において、X、Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1から8のアルキル基又はハロゲン原子のいずれかを示す。
【0035】
一般式(4)においてX、Yで表される炭素数1から8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0036】
具体的には、本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物の合成は、次のようにして行われる。すなわち、対応する9−アントロン化合物を溶媒中異性化し(第一反応)、次いで得られた下記一般式(3)で表される9−ヒドロキシアントラセン化合物を塩基化合物の存在下もしくは非存在下、ヒドロキシエーテル化する(第二反応)。
【0038】
第一反応の記載において、X、Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1から8のアルキル基又はハロゲン原子のいずれかを表す。
【0040】
第二反応の記載において、X、Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1から8のアルキル基又はハロゲン原子のいずれかを表す。また、一般式(1)において、Aは、水素原子、炭素数1から8のアルキル基、又は一般式(2)で表される置換オキシメチル基を表す。
【0042】
一般式(2)において、Bは炭素数1から8のアルキル基、アリル基又は炭素数6から12のアリール基を表す。
【0043】
第一反応において原料として用いられる、一般式(4)で表される9−アントロン化合物の具体例としては、9−アントロン、2−メチル−9−アントロン、2−エチル−9−アントロン、2−(n−プロピル)−9−アントロン、2−(i−プロピル)−9−アントロン、2−(n−ブチル)−9−アントロン、2−(i−ブチル)−9−アントロン、2−(n−ペンチル)−9−アントロン、2−(n−ヘキシル)−9−アントロン、2−(n−ヘプチル)−9−アントロン、2−(n−オクチル)−9−アントロン、2−(2−エチルヘキシル)−9−アントロン、2−フルオロ−9−アントロン、2−クロロ−9−アントロン、2−ブロモ−9−アントロン等が挙げられる。
【0044】
第一反応において使用する異性化剤としては、塩基又は酸が用いられる。塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属、トリエチルアミン、ピリジン、ピペリジン等の有機塩基が用いられる。酸としては硫酸、塩酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸が用いられる。これら異性化剤は9−アントロン化合物に対して、好ましくは1モル倍以上、10モル倍以下添加する。より好ましくは2モル倍以上5モル倍以下である。
【0045】
異性化反応は通常溶媒中で行われる。溶媒としては、特に種類を選ばないが、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、メタノール、エタノールのようなアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、水が好適に用いられる。
【0046】
第一反応において、9−アントロン化合物の異性化反応の反応温度は、通常0℃以上、120℃以下で行われる。より好ましくは、40℃以上、80℃以下である。0℃未満であれば、反応が遅く、また120℃を超えて加熱すると副反応がおきやすく製品の純度が低下する。反応時間は、0.5時間から3時間、通常1時間で還元は終了する。得られた、9−ヒドロキシアントラセン化合物は、通常単離せずに次のヒドロキシエーテル化反応に用いることができる。
【0047】
次に第二反応について説明する。第二反応において使用されるヒドロキシエーテル化剤としては、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化ブチレン、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ペンチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリルグリシジルエーテル又はナフチルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0048】
第二反応において、9−ヒドロキシアントラセン化合物に対するヒドロキシエーテル化剤の添加比率は1.0モル倍以上、20モル倍以下、好ましくは1.5モル倍以上15モル倍以下である。1.0モル倍未満では9−ヒドロキシアントラセン化合物が未反応のままで残留し、20モル倍を超えて添加すると生成した9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物の反応液に対する溶解度が高くなり、反応生成物から結晶化し難くなり収率が低下する。
【0049】
塩基化合物の存在下に第二反応を実施する場合に用いられる塩基化合物は、通常無機のアルカリ塩、アルカリ金属炭酸塩等が用いられる。無機のアルカリ塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が用いられる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。他にも、有機塩基である、ピリジン、ピペリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等を用いることもできる。
【0050】
ヒドロキシエーテル化反応は通常溶媒中で行われる。溶媒としては、特に種類を選ばないが、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、メタノール、エタノールのようなアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、水が好適に用いられる。異性化反応において用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0051】
ヒドロキシエーテル化の温度は、0℃以上、100℃以下、好ましくは室温以上、80℃以下で行われる。0℃未満であれば反応速度が遅すぎて、反応に時間がかかりすぎ、100℃を超えて加熱すると、副反応が起きて生成物の純度が低下する。反応時間は通常0.5時間から24時間程度である。
【0052】
反応の進行に伴いあるいは反応後の塩基の中和処理に伴い、生成物が沈殿するので、沈殿物をろ過・乾燥し、9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物が得られる。
【0053】
以上、第一反応と第二反応を分けて説明したが、第一反応及び第一反応において同一の塩基化合物を異性化剤及びヒドロキシエーテル化剤として用いる場合は、第一反応と第二反応を分けないで、一度に実施することもできる。
【0054】
(光重合増感剤)
このようにして得られた本発明の一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物は、光カチオン重合性化合物や光ラジカル重合性化合物等の光重合性化合物を、光重合開始剤存在下に重合させる際に、光カチオン重合増感剤又は光ラジカル重合増感剤として用いることができる。
【0055】
また、本発明の一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を含有する光重合増感剤は、9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を有効成分とするものであり、その全量を、9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物とするもののほか、本発明の効果を損なわない限り、9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物以外の光重合増感剤等を含んでもよい。
【0056】
このような9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物以外の光重合増感剤としては、チオキサントン化合物(例えば2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン)、ナフタレン化合物(例えば1,4−ジエトキシナフタレン、1,4−ジメトキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4−メトキシ−1−ナフトール)、アミン化合物(例えばジエチルアミノ安息香酸メチル)等が挙げられる。
【0057】
9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物に対する9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物以外の光重合増感剤の添加比率は、特に限定されないが、9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物に対して0.1重量倍以上10重量倍未満である。
【0058】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、オニウム塩、ベンジルメチルケタール系光重合開始剤、α−ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤、α−アミノフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤、ビイミダゾール系光重合開始剤などが挙げられる。
【0059】
オニウム塩としては、通常ヨードニウム塩またはスルホニウム塩が用いられる。ヨードニウム塩としては4−イソブチルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサメトキシアンチモネート、4−イソプロピルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタメトキシフェニルボレート、4−イソプロピルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート等が挙げられ、例えばビー・エー・エス・エフ社製イルガキュア250(イルガキュアはビー・エー・エス・エフ社の登録商標)、ローディア社製ロードシル2074(ロードシルはローディア社の登録商標)、サンアプロ社製のIK−1等を用いることができる。一方、スルホニウム塩としてはS,S,S’,S’−テトラフェニル−S,S’−(4、4’−チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサメトキシフォスフェート、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサメトキシフォスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサメトキシフォスフェート等が挙げられ、例えばダイセル社製CPI−100P、CPI−101P、CPI−200K、ビー・エー・エス社製イルガキュア270、ダウ・ケミカル社製UVI6992等を用いることができる。これらの光重合開始剤は単独で用いても2種以上併用しても構わない。
【0060】
ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名「イルガキュア651」ビーエーエスエフ社製)等が挙げられる。α−ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(商品名「ダロキュア1173」ビーエーエスエフ社製)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名「イルガキュア184」ビーエーエスエフ社製)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(商品名「イルガキュア2959」ビーエーエスエフ社製)、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−1−オン(商品名「イルガキュア127」ビーエーエスエフ社製)が挙げられる。
【0061】
特に、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤である2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名「イルガキュア651」ビーエーエスエフ社製)、α−ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤である2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(商品名「ダロキュア1173」ビーエーエスエフ社製)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名「イルガキュア184」ビーエーエスエフ社製)が好ましい。
【0062】
また、アセトフェノン系ラジカル重合開始剤であるアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−エトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−イソプロポキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−イソブトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンジル系ラジカル重合開始剤であるベンジル、4,4’−ジメトキシベンジル、アントラキノン系ラジカル重合開始剤である2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−フェノキシアントラキノン、2−(フェニルチオ)アントラキノン、2−(ヒドロキシエチルチオ)アントラキノン等も用いることができる。
【0063】
例示した光重合開始剤の中でもオニウム塩が特に好ましい。オニウム塩として、ヨードニウム塩だけではなく、スルホニウム塩に対しても、本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物は、光重合増感効果を持つことも特徴の一つである。
【0064】
本発明の一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を含有する光重合増感剤の光重合開始剤に対する使用量は、特に限定されないが、光重合開始剤に対して通常5重量%以上、100重量%以下の範囲、好ましくは10重量%以上、50重量%以下の範囲である。光重合増感剤の使用量が5重量%未満では光重合性化合物を光重合させるのに時間がかかりすぎてしまい、一方、100重量%を超えて使用しても添加に見合う効果は得られない。
【0065】
(光重合開始剤組成物)
本発明の一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を含有する光重合増感剤は、直接、光重合性化合物に添加することもできるが、あらかじめ光重合開始剤と配合することにより光重合開始剤組成物を調製したのち、光重合性化合物に添加することもできる。すなわち、本発明の光重合開始剤組成物は、少なくとも、一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を含有する光重合増感剤と光重合開始剤を含有する組成物である。
【0066】
(光重合性組成物)
該光重合開始剤組成物と光重合性化合物を配合することにより、光重合性組成物を調製することもできる。本発明の光重合性組成物は、本発明の一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を含有する光重合増感剤と、光重合開始剤を含有する光重合開始剤組成物と、光カチオン重合性化合物又は光ラジカル重合性化合物とを含有する組成物である。
【0067】
本発明の一般式(1)で表される9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を含有する光重合増感剤と、光重合開始剤は、別々に光カチオン重合性化合物又は光ラジカル重合性化合物に添加され、光カチオン重合性化合物又は光ラジカル重合性化合物中で、結果として光重合開始剤組成物を形成してもよい。
【0068】
光カチオン重合性化合物としては、エポキシ化合物、ビニルエーテル等が挙げられる。エポキシ化合物として一般的なものは、脂環式エポキシ化合物、エポキシ変性シリコーン、芳香族のグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの光カチオン重合性化合物のうち、フィルム形成能等の面と本発明の化合物の溶解度が高いという点で、脂環式エポキシ化合物、エポキシ変性シリコーンが好ましい。脂環式エポキシ化合物としては、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が挙げられ、例えばダウ・ケミカル社製UVR6105、UVR6110等を用いることができる。エポキシ変性シリコーンとしては、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社のUV−9300等が挙げられる。芳香族グリシジル化合物としては、2,2’−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン等が挙げられる。ビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。これらの光カチオン重合性化合物は、一種でも二種以上の混合物であっても良い。
【0069】
光ラジカル重合性化合物としては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の二重結合を有する有機化合物を用いることができる。これらの光ラジカル重合性化合物のうち、フィルム形成能等の面と本発明の化合物の溶解度が高いという点で、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステル(以下、両者をあわせて(メタ)アクリル酸エステルという)が好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリオールアクリレート、ポリエーテルアクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、イミドアクリレート等が挙げられる。これらの光ラジカル重合性化合物は、一種でも二種以上の混合物であっても良い。
【0070】
本発明の光重合性組成物において、光重合開始剤組成物の使用量は、光重合性組成物に対して0.005重量%以上、10重量%以下の範囲、好ましくは0.025重量%以上、5重量%以下である。0.005重量%未満だと光重合性組成物を光重合させるのに時間がかかってしまい、一方、10重量%を超えて添加すると光重合させて得られる光硬化物の硬度が低下し、硬化物の物性を悪化させるため好ましくない。
【0071】
なお、本発明の光重合性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、希釈剤、着色剤、有機又は無機の充填剤、レベリング剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、可塑剤等の各種樹脂添加剤を配合してもよい。
【0072】
(光硬化物)
本発明の光重合性組成物に光を照射することにより光硬化物を得ることができる。光重合性組成物に光を照射し重合させ光硬化させる場合、当該光重合性組成物をフィルム状に成形して光硬化させることもできるし、塊状に成形して光硬化させることもできる。フィルム状に成形して光硬化させる場合は、液状の当該光重合性組成物を例えばポリエステルフィルム等の基材にバーコーター等を用いて膜厚5〜300ミクロンになるように塗布する。一方、スピンコーティング法やスクリーン印刷法により、さらに薄い膜厚あるいは厚い膜厚にして塗布することもできる。
【0073】
このようにして調製した光重合性組成物からなる塗膜に、250〜500nmの波長範囲を含む紫外線を1〜1000mW/cm
2程度の強さで光照射することにより、光硬化物を得ることができる。用いる光源としては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ガリウムドープドランプ、ブラックライト、395nm紫外線LED、385nm紫外線LED、365nm紫外線LED、青色LED、白色LED、フュージョン社製のDバルブ、Vバルブ等が挙げられる。また、太陽光等の自然光を使用することもできる。特に、395nm紫外線LED、385nm紫外線LED、365nm紫外線LEDが好ましい。
【0074】
(タック・フリー・テスト)
本発明の光重合性組成物が光硬化したかどうかを判定する方法としては、タック・フリー・テスト(指触テスト)がある。すなわち、光重合性組成物に光を照射すると、硬化して表面のタック(べたつき)がなくなるため、光を照射してからタック(べたつき)がなくなるまでの時間を測定することにより、光硬化時間を測定することができる。
【0075】
(耐マイグレーション性の判定)
本発明の光重合性組成物に含まれる光重合増感剤がフィルム等に移行(マイグレーション)するかどうかを判定する方法としては、光重合増感剤を含む光重合性組成物を薄いフィルム状物に塗布したものを作成し、その上にポリエチレンフィルムを被せて一定温度(26℃)で一定期間保管し、その後ポリエチレンフィルムを剥がし、光重合増感剤がポリエチレンフィルムに移行しているかを調べ、耐マイグレーション性を判定した。剥がしたポリエチレンフィルムは、アセトンで表面の組成物を洗った後乾燥し、当該ポリエチレンフィルムのUVスペクトルを測定し、光重合増感剤に起因する吸収強度の増大を調べることにより耐マイグレーション性を測定した。なお、当該測定には、紫外・可視分光光度計(島津製作所製、型式:UV2200)を用いた。比較例の化合物である9,10−ジブトキシアントラセンと量的な比較するために、得られた吸光度を9,10−ジブトキシアントラセンの吸光度の値に換算した。換算に当たっては、紫外・可視分光光度計により本発明の化合物及び9,10−ジブトキシアントラセンの260nmにおける吸光度を測定し、その吸光度の値とモル濃度からそれぞれのモル吸光係数を計算し、その比を用いて換算した。
【実施例】
【0076】
下記の実施例により本発明を例示するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。また、特記しない限り、すべての部は重量部である。生成物の確認は下記の機器による測定に基づいて行った。
【0077】
(1)融点:ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式MFB−595(JIS K0064に準拠)
(2)赤外線(IR)分光光度計:日本分光社製、型式IR−810
(3)核磁気共鳴装置(NMR):日本電子社製、型式ECS−400 FT NMR Spectorometer
【0078】
(合成例1)9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)の合成
窒素ボックス中、攪拌機を付したオートクレーブ中で9−アントロン4.9g(25ミリモル)をメタノールに溶かし、水酸化ナトリウムの水溶液(水酸化ナトリウム4g、100ミリモル、水13g)を入れ密閉した。60℃で20分間加熱して9−アントロンを9−ヒドロキシアントラセンとした後、反応液の温度を45℃まで下げた。そこに酸化エチレン11g(250ミリモル)を温度を50℃以下、かつ圧力を0.3MPa以下に保ちつつ60分要して導入した。更に、反応温度を40℃に保持しながら反応を3時間続けた。反応終了後、室温まで冷却し、5%硫酸で中和する。中和に従い、結晶が析出するので、得られた結晶を濾別して水洗した。80℃で乾燥することで9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンを3.7g(15.5ミリモル)得た。原料アントロンに対する単離収率は62モル%であった。
【0079】
(1)融点:108−109℃
(2)IR(KBr,cm
−1):3250,3060,2930,2860,1414、1334,1277,1101,1064,1032,883,836,787,727,654,639,621,611,580.
(3)
1H−NMR(CDCl
3,400MHz):δ4.17(t,J=8Hz,2H),4.32(t,J=8Hz,2H),7.43−7.49(m,4H),7.98(d,J=9Hz,2H),8.22(s,1H),8.32(d,J=9Hz,2H).
【0080】
(合成例2)9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(化合物B)の合成
アントロン4.9g(25ミリモル)をメタノールに溶かし、水酸化ナトリウムの水溶液(水酸化ナトリウム4g、100ミリモル、水13g)を加え、60℃で20分間加熱した後、反応液の温度を45℃まで下げた。次に、酸化プロピレン14g(260ミリモル)を少量ずつ加え、液の温度を約50℃に保持し、そのまま1時間加熱した。その後、室温まで冷却し、5%硫酸で中和した。中和に従い、結晶が析出するので、結晶を吸引濾過し、乾燥後、カーキ色の粉末2.7g(10.7ミリモル)の9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセンを得た。原料アントロンに対する単離収率は43モル%であった。
【0081】
(1)融点:128−129℃
(2)IR(KBr,cm
−1):3330,3060,2970,2920,2860,1334,1320,1279,1074,1002,931,846,787,701,657,630,610,586,
(3)
1H−NMR(CDCl
3,400MHz):δ1.37(d,J=8Hz,3H),4.11(d,J=8Hz,2H),4.47−4.54(m,1H),7.43−7.50(m,4H),7.98(d,J=9Hz,2H),8.22(s,1H),8.31(d,J=9Hz,2H).
【0082】
(合成例3)9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン(化合物C)の合成
アントロン1.94g(10ミリモル)をN,N−ジメチルアセトアミド10gに溶かし、水酸化ナトリウムの水溶液(水酸化ナトリウム1.2g、30ミリモル、水4g)を加え、60℃で20分間加熱した後、反応液の温度を45℃まで下げた。次に、メチルグリシジルエーテル1.76g(20ミリモル)を少量ずつ加え、液の温度を約50℃に保持し、そのまま5時間加熱した。その後、室温まで冷却し、5%硫酸で中和する。中和に従い、赤い水あめ状物が沈殿した。上澄みを捨て、水あめをよく水洗いし、アセトン15mlで抽出したのち濃縮乾固し、9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセンのカーキ色の水あめ状物1.17g(4.2ミリモル)を得た。原料アントロンに対する単離収率は42モル%であった。
【0083】
(1)融点:室温液状
(2)IR(ヌジョール,cm
−1):3400,3040,2920,2870,2830,1411,1338,1079,995,960,879,789,735,653,632,610,559.
(3)
1H−NMR(CDCl
3,400MHz):δ3.45(s,3H),3.73(d,J=8Hz,2H),4.24(d,J=8Hz,2H),4.41−4.48(m,1H),7.40−7.51(m,2H),7.96(d,J=9Hz,1H),8.19(s,1H),8.32(d,J=9Hz,1H).
【0084】
(合成例4)9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)の合成
アントロン1.94g(10ミリモル)をN,N−ジメチルアセトアミド10gに溶かし、水酸化ナトリウムの水溶液(水酸化ナトリウム1.2g、30ミリモル、水4g)を加え、60℃で20分間加熱した後、反応液の温度を45℃まで下げた。次に、ブチルグリシジルエーテル2.60g(20ミリモル)を少量ずつ加え、液の温度を約50℃に保持し、そのまま5時間加熱した。その後、室温まで冷却し、5%硫酸で中和する。中和に従い、赤い水あめ状物が沈殿した。上澄みを捨て、水あめをよく水洗いし、アセトン15mlで抽出したのち濃縮乾固し、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセンのカーキ色の水あめ状物1.00g(3.1ミリモル)を得た。原料アントロンに対する単離収率は31モル%であった。
【0085】
(1)融点:室温液状
(2)IR(ヌジョール,cm
−1):3370,3040,2970,2940,1412,1338,1082,995,878,840,789,735,610,559.
(3)
1H−NMR(CDCl
3,400MHz):δ0.92(t,J=8Hz,3H),1.34−1.43(m,2H),1.56−1.64(m,2H),3.58(t,J=8Hz,2H),3.78(d,J=8Hz,1H),4.26(d,J=8Hz,2H),4.38−4.46(m,1H),7.40−7.50(m,2H),7.97(d,J=9Hz,1H),8.21(s,1H),8.30(d,J=9Hz,1H).
【0086】
(評価実施例1)9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)を用いたカチオン重合
カチオン重合性化合物として、脂環式エポキシ化合物3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製セロキサイド2021P、セロキサイドはダイセル社登録商標)100部に、光重合開始剤として、イソブチルフェニル(4−メチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート(ビー・エー・エス・エフ社製 イルガキュア250)5部、光重合増感剤として、合成例1と同様の方法で合成した9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)2部を混合して光重合性組成物を調製した。当該組成物を膜厚100ミクロンのポリエステルフィルム(東レ製ルミラー、ルミラーは東レ株式会社の登録商標)の上にバーコーター(No.8)を用いて膜厚が12ミクロンになるように塗布した。その後、その上からPhoseon社製紫外線LEDを用いて光照射することにより光硬化物を得た。照射光の中心波長は395nmで照射強度は50mW/cm
2である。一定時間毎に塗膜のべたつき(タック)を指触により確認した。光照射開始から当該組成物の塗布面のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は3.5秒であった。
【0087】
(評価実施例2)9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(化合物B)を用いたカチオン重合
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)の代わりに、合成例2と同様にして合成した9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(化合物B)を添加すること以外は評価実施例1と同様にして光重合性組成物を調製し、塗布・光照射した。光照射開始から当該組成物の塗布面のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は3.5秒であった。
【0088】
(評価実施例3)9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン(化合物C)を用いたカチオン重合
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)の代わりに合成例3と同様にして合成した9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン(化合物C)を添加すること以外は評価実施例1と同様にして光重合性組成物を調製し、塗布・光照射した。光照射開始から当該組成物の塗布面のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は4.0秒であった。
【0089】
(評価実施例4)9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)を用いたカチオン重合
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)の代わりに合成例4と同様にして合成した9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)を添加すること以外は評価実施例1と同様にして光重合性組成物を調製し、塗布・光照射した。光照射開始から当該組成物の塗布面のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は5.0秒であった。
【0090】
(評価比較例1)9,10−ジブトキシアントラセン(DBA)を用いたカチオン重合
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)の代わりに、市販の光重合増感剤9,10−ジブトキシアントラセン(DBA)を添加すること以外は評価実施例1と同様にして光重合性組成物を調製し、塗布・光照射した。光照射開始から当該組成物の塗布面のべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は3.5秒であった。
【0091】
(評価比較例2)光重合増感剤を用いないで行なったカチオン重合
光重合増感剤を添加しないこと以外は評価実施例1と同様にして光重合性組成物を調製し、塗布・光照射した。しかし、光照射開始から300秒照射しても当該組成物の塗布面のべたつき(タック)はなくならなかった。
【0092】
(評価実施例1)〜(評価実施例4)並びに(評価比較例1)及び(評価比較例2)の結果を表1にまとめた。
【0093】
【表1】
【0094】
以上の評価実施例1〜4と評価比較例1、2とその結果をまとめた表1より、次のことが明らかである。すなわち、本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を光重合増感剤として用いて光カチオン重合させた場合、優れた光重合増感効果を示し、タック・フリー・テストの結果からも、公知の光重合増感剤である9,10−ジブトキシアントラセン(DBA)とほぼ同等の光重合増感能を有することがわかる。
【0095】
本効果は、本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物が光照射により励起され、そのエネルギーが光重合開始剤に渡され、光重合開始剤が活性化することにより生じたものであり、同様の効果が光ラジカル重合においても発揮される。
【0096】
(耐マイグレーション性の評価実施例)
(評価実施例5)9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)を用いたマイグレーション試験
カチオン重合性化合物として、脂環式エポキシ化合物 3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製 セロキサイド2021P)100部に対し、光重合増感剤として、合成例1と同様の方法で合成した9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)1部を混合し、調製した光重合性組成物をポリエステルフィルム上で膜厚が12ミクロンになるようにバーコーターを用いて塗布した。次いで、得られた塗布物上に低密度ポリエチレンフィルム(膜厚30ミクロン)を被せて、暗所で一日間保管したもの、二日間保管したもの、四日間保管したものを、それぞれ保管後、ポリエチレンフィルムを剥がし、ポリエチレンフィルムをアセトンで洗い乾燥した後、フィルムのUVスペクトルを測定し、260nmの吸光度を測定した。得られた9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン(化合物A)の吸光度を9,10−ジブトキシアントラセン換算した。吸光度は、一日保管後0.024、二日保管後0.025、四日保管後0.025であった。
【0097】
(評価実施例6)9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(化合物B)を用いたマイグレーション試験
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの代わりに合成例2と同様の方法で合成した9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(化合物B)を使用すること以外は、評価実施例5と同様にして光重合性組成物を調製し、試験した。アセトン洗いしたポリエチレンフィルムの260nmの吸光度を測定した結果、9−(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)の吸光度を9,10−ジブトキシアントラセン換算した。吸光度は、一日保管後0.031、二日保管後0.035、四日保管後0.032であった。
【0098】
(評価実施例7)9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン(化合物C)を用いたマイグレーション試験
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの代わりに合成例3と同様の方法で合成した9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン(化合物C)を使用すること以外は評価実施例5と同様にして光重合性組成物を調製し、試験した。アセトン洗いしたポリエチレンフィルムの260nmの吸光度を測定した結果、9−(2−ヒドロキシ−3−メトキシプロポキシ)アントラセン(化合物C)の吸光度を9,10−ジブトキシアントラセン換算した。吸光度は、一日保管後0.024、二日保管後0.025、四日保管後0.025であった。
【0099】
(評価実施例8)9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)を用いたマイグレーション試験
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの代わりに合成例4と同様の方法で合成した9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)を使用すること以外は評価実施例5と同様にして光重合性組成物を調製し、試験した。アセトン洗いしたポリエチレンフィルムの260nmの吸光度を測定した結果、9−(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン(化合物D)の吸光度を9,10−ジブトキシアントラセン換算した。吸光度は、一日保管後0.027、二日保管後0.029、四日保管後0.028であった。
【0100】
(評価比較例3)9,10−ジブトキシアントラセン(化合物D)を用いたマイグレーション試験
光重合増感剤として、9−(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセンの代わりに9,10−ジブトキシアントラセン(化合物D)を使用すること以外は評価実施例4と同様に光重合性組成物を調製し、試験した。アセトン洗いしたポリエチレンフィルムの260nmの吸光度を測定した結果、9,10−ジブトキシアントラセンの吸光度は、一日保管後0.76、二日保管後0.73、四日保管後0.75であった。
【0101】
(評価実施例5)〜(評価実施例8)及び(評価比較例3)の結果を表2にまとめた。
【0102】
【表2】
【0103】
以上の評価実施例5〜8と評価比較例3とその結果をまとめた表2より、次のことが明らかである。すなわち本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物を光重合増感剤として用いた場合、調製した光重合性組成物上にかぶせたフィルムに移行する光重合増感剤の量が極めて少なく、優れた耐マイグレーション性能を有することが分かる。一方、公知の光重合増感剤である9,10−ジブトキシアントラセン(DBA)はかぶせたフィルムに本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物の20倍以上移行していることがわかる。
【0104】
以上の結果より、本発明の9−(2−ヒドロキシアルコキシ)アントラセン化合物は、公知の光重合増感剤である9,10−ジブトキシアントラセン(DBA)と同等の光重合増感能を有するだけでなく、当該光重合増感剤を含有する光重合性組成物において、耐マイグレーション性が高い優れた化合物であり、光重合増感剤として極めて有用な化合物であることが判る。