(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バッファ層の前記不純物濃度のプロファイルは、前記半導体基板の前記裏面から相対的に浅い領域に第1ピークを有し、前記第1ピークよりも相対的に深い領域に前記第1ピークよりも低い不純物濃度の第2ピークを有している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
IGBTの特性として、VCE(sat)(コレクタ−エミッタ間飽和電圧)やスイッチング時の電力損失がある。これらは、いずれも低いほど好ましいが、現状、まだまだ改善の余地が残っている。
本発明の目的は、従来に比べてVCE(sat)および電力損失を低減することができる半導体装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態に係る半導体装置は、第1導電型のドリフト層を挟んで表面側に第1導電型のエミッタ層が形成され、裏面側に第2導電型のコレクタ層が形成された半導体基板と、前記ドリフト層と前記エミッタ層との間の第2導電型のベース層と、前記コレクタ層と前記ドリフト層との間の第1導電型のバッファ層であって、前記ドリフト層よりも高い不純物濃度を有し、かつ前記半導体基板の裏面からの深さ方向に関して2つのピークを持つ不純物濃度のプロファイルを有するバッファ層と、前記ドリフト層に形成され、前記半導体基板の裏面からの深さ方向に関して半値幅が2μm以下の不純物濃度のプロファイルを有する欠陥層とを含む。
【0006】
上記の構成を有する半導体装置によって、従来にはない低VCE(sat)および低電力損失の半導体装置を提供することができる。
前記欠陥層は、
4He、
3He、H、P、F、Ar、As、SbおよびSiの少なくとも一種を含んでいてもよい。この場合、前記半導体装置は、たとえば、ドリフト層を有する第1導電型の半導体基板の表面部に第2導電型のベース層を形成し、当該ベース層の表面部に第1導電型のエミッタ層を形成する工程と、前記半導体基板の裏面から、第1エネルギで第1導電型不純物を注入し、次に、前記第1エネルギとは異なる第2エネルギで第1導電型不純物を注入することによって、前記ドリフト層よりも高い不純物濃度を有し、かつ前記半導体基板の裏面からの深さ方向に関して2つのピークを持つ不純物濃度のプロファイルを有するバッファ層を形成する工程と、前記半導体基板の裏面から第2導電型不純物を注入することによって、前記バッファ層に対して前記半導体基板の裏面側にコレクタ層を形成する工程と、前記半導体基板の裏面に対して
4He、
3He、H、P、F、Ar、As、SbおよびSiの少なくとも一種の粒子を照射し、前記半導体基板をアニール処理することによって、前記半導体基板の裏面からの深さ方向に関して半値幅が2μm以下の不純物濃度のプロファイルを有する欠陥層を前記ドリフト層に形成する工程とを含む、半導体装置の製造方法によって製造することができる。
【0007】
前記半導体装置の製造方法において、前記第1エネルギは、前記第2エネルギよりも高くてもよい。つまり、相対的に深いピークが先に形成され、その後、当該ピークよりも相対的に浅いピークが形成されてもよい。
また、前記半導体装置の製造方法は、前記コレクタ層の形成後、前記バッファ層および前記コレクタ層内の不純物を活性化させる第1アニール処理工程を含み、前記欠陥層を形成するときのアニール処理は、前記第1アニール処理工程時よりも低温で前記半導体基板をアニール処理する第2アニール処理工程を含むことが好ましい。この場合、前記第1アニール処理工程は、第1エネルギ密度を有するレーザ照射による第1レーザアニール工程を含み、前記第2アニール処理工程は、前記第1エネルギ密度よりも低い第2エネルギ密度を有するレーザ照射による第2レーザアニール工程を含んでいてもよい。より具体的には、前記第1エネルギ密度が1J/cm
2〜3J/cm
2であり、前記第2エネルギ密度が0.1J/cm
2〜0.5J/cm
2であってもよい。
【0008】
第2アニール処理工程を第1アニール処理工程よりも低温で行うことによって、欠陥層を良好に形成することができる。
また、前記半導体装置の製造方法において、前記粒子は、イオン注入装置、サイクロトロンまたはバンデグラフによって照射されてもよい。
また、本発明の一実施形態に係る半導体装置は、次に示す特徴を備えていてもよい。
【0009】
具体的には、前記欠陥層は、前記半導体基板の裏面から1μm〜3μmの間に形成されていてもよい。
前記バッファ層の前記不純物濃度のプロファイルは、前記半導体基板の前記裏面から相対的に浅い領域に第1ピークを有し、前記第1ピークよりも相対的に深い領域に前記第1ピークよりも低い不純物濃度の第2ピークを有していてもよい。
【0010】
前記第1ピークの不純物濃度は、2×10
16cm
−3〜2×10
18cm
−3であり、前記第2ピークの不純物濃度は、6×10
15cm
−3〜6×10
17cm
−3であってもよい。
前記半導体基板は、40μm〜200μmの厚さを有していてもよい。
前記半導体装置は、前記半導体基板の表面から前記エミッタ層および前記ベース層を貫通して前記ドリフト層に達するゲートトレンチと、前記ゲートトレンチの内面に形成されたゲート絶縁膜を介して前記ゲートトレンチに埋め込まれたゲート電極とを含んでいてもよい。つまり、トレンチゲート型のIGBTを備えていてもよい。むろん、前記半導体装置は、プレーナゲート型のIGBTを備えていてもよい。
【0011】
前記ゲートトレンチは、2μm〜7μmのピッチで形成されていてもよいし、2μm〜6μmの深さを有していてもよい。
前記ドリフト層は、前記ベース層の直下に形成され、前記ドリフト層の他領域よりも相対的に高い不純物濃度を有するエンハンス層を含んでいてもよい。
前記半導体基板は、シリコン基板を含んでいてもよい。
【0012】
なお、上記のドリフト層、エミッタ層、コレクタ層、ベース層、バッファ層、欠陥層およびエンハンス層は、その周囲と明確な境界を有する層状に形成されているものに限定されるものではなく、半導体基板の一部を占める一定の領域であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1Aは、本発明の一実施形態に係る半導体装置1の模式的な外観図であり、
図1Bは、半導体装置1の内部構造を示す図である。
図1Aおよび
図1Bに示すように、半導体装置1は、スイッチング素子チップ2(IGBT)およびダイオードチップ3を備え、これらが樹脂パッケージ4で封止された構造を有している。半導体装置1は、さらに、両方のチップ2,3に電気的に接続された3つの端子5〜7を備えている。
【0015】
3つの端子5〜7は、ゲート端子5、コレクタ端子6およびエミッタ端子7を含む。
ゲート端子5は、スイッチング素子チップ2のゲートパッド8に、ボンディングワイヤ9を介して接続されている。
コレクタ端子6は、スイッチング素子チップ2およびダイオードチップ3の各裏面に接合されたアイランド10を有し、スイッチング素子チップ2のコレクタ(後述するコレクタメタル42)およびダイオードチップ3のカソード(図示せず)に直接接続されている。
【0016】
エミッタ端子7は、スイッチング素子チップ2のエミッタパッド11およびダイオードチップ3のアノードパッド12に、ボンディングワイヤ13を介して接続されている。
コレクタ端子6およびエミッタ端子7は、それぞれ、ダイオードチップ3のカソードおよびアノード用の端子を兼ねており、これにより、スイッチング素子チップ2とダイオードチップ3とが互いに並列に接続されている。
【0017】
3つの端子5〜7は、略直方体形に形成された樹脂パッケージ4の一側面から互いに平行に延びて配列されている。
図2Aは、
図1Aおよび
図1Bのスイッチング素子チップ2の模式的な平面図であり、主に、スイッチング素子チップ2のパッドレイアウトを示すものである。
まず、
図2Aに示すように、スイッチング素子チップ2の最表面には、たとえばアルミニウム(AlSiCu、AlCu等)からなる、ゲートメタル14およびエミッタメタル15が形成されている。ゲートメタル14およびエミッタメタル15はパッシベーション膜16で選択的に覆われている。
【0018】
ゲートメタル14のパッシベーション膜16から露出している部分は、ゲートパッド8と、ゲートフィンガー17とを含む。ゲートフィンガー17は、ゲートパッド8からスイッチング素子チップ2の周縁に沿って、当該周縁のほぼ全周に渡って延びている。この実施形態では、一対のゲートフィンガー17がゲートパッド8に対して対称な形状で形成されている。
【0019】
一方、エミッタメタル15のパッシベーション膜16から露出している部分は、エミッタパッド11と、エミッタ外周部18とを含む。エミッタパッド11は、ゲートパッド8およびゲートフィンガー17の一体環状部に囲まれたスイッチング素子チップ2の中央領域19に配置されている。エミッタ外周部18は、中央領域19から、一対のゲートフィンガー17の先端間のスペース20を介してスイッチング素子チップ2の周縁に延出し、当該周縁から一対のゲートフィンガー17のそれぞれに沿うように二方向に分岐している。このエミッタ外周部18は、ゲートパッド8およびゲートフィンガー17の全周を取り囲んでいる。
【0020】
図2Bは、スイッチング素子チップ2の内部構造を示す図であり、主に、スイッチング素子チップ2のゲート電極25のレイアウトを示すものである。
図2Bにおいて、破線で示した部分は、前述の
図2Aで示したゲートパッド8およびゲートフィンガー17の一体環状部である。
図2Bに示すように、スイッチング素子チップ2の内部には、ゲートパッド8およびゲートフィンガー17の直下に、たとえばポリシリコンからなるゲート埋め込み部21が形成されている。
【0021】
ゲート埋め込み部21は、中央領域19の直下の領域22を二分する主線部23と、領域22を取り囲む周囲線部24と、主線部23と周囲線部24とを接続するゲート電極25とを含む。具体的には、主線部23は、平面視四角形状の周囲線部24の対辺同士を接続するように形成されている。
ゲート電極25は、当該対辺に平行なストライプ状に多数形成されている(
図2Bでは一部のみを図示)。各ゲート電極25の一端部が主線部23に接続され、他端部が周囲線部24に接続されている。このようなストライプ状のゲート電極25が、主線部23を挟んで両側の領域22に形成されており、隣り合うゲート電極25と、それらの端部同士を接続する主線部23および周囲線部24とで取り囲まれた部分に単位セル26が区画されている(
図2Bの斜線部)。
【0022】
ゲートパッド8に入力された電圧は、ゲートフィンガー17およびその直下の周囲線部24、ならびに主線部23を介して、ゲート電極25に印加される。なお、この実施形態では、単位セル26の両側に形成された部分のみをゲート電極25としているが、ゲート埋め込み部21の全体、もしくはゲート埋め込み部21およびゲートメタル14を合わせてゲート電極と称してもよい。
【0023】
図3Aは、
図2Aのスイッチング素子チップ2の要部をより詳細に説明するための平面図であり、
図3Bは、
図3AのIIIB−IIIB線に沿う断面図である。
スイッチング素子チップ2は、nチャンネル型IGBTであって、半導体基板27を含む。半導体基板27は、たとえば、40μm〜200μmの厚さ(一例として60μm)を有している。
【0024】
半導体基板27は、p
−型コレクタ層28と、n
+型バッファ層29と、n
−型ドリフト層30と、n型エンハンス層31と、p
−型ベース層32と、n
+型エミッタ層33と、p
+型ベースコンタクト層34と、欠陥層35とを含む。
p
−型コレクタ層28、p
−型ベース層32およびp
+型ベースコンタクト層34は、p型不純物がドープされた半導体層である。より具体的には、n
−型の半導体基板27に対してp型不純物をイオン注入することによって形成された半導体層であってもよい。p型不純物としては、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)などを適用することができる。
【0025】
p
−型コレクタ層28の不純物濃度は、たとえば、1×10
16cm
−3〜1×10
20cm
−3であってもよい。p
−型ベース層32の不純物濃度は、たとえば、2×10
16cm
−3〜2×10
18cm
−3であってもよい。p
+型ベースコンタクト層34の不純物濃度は、たとえば、3×10
18cm
−3〜3×10
20cm
−3であってもよい。
一方、n
+型バッファ層29、n
−型ドリフト層30、n型エンハンス層31およびn
+型エミッタ層33は、n型不純物がドープされた半導体層である。より具体的には、n
−型ドリフト層30はn
−型の半導体基板27の不純物濃度が維持された半導体層であってよく、n
+型バッファ層29、n型エンハンス層31およびn
+型エミッタ層33は、n
−型の半導体基板27に対してさらにn型不純物をイオン注入することによって形成された半導体層であってもよい。n型不純物としては、P(リン)、As(砒素)、Sb(アンチモン)などを用いることができる。
【0026】
n
−型ドリフト層30の不純物濃度は、たとえば、2×10
13cm
−3〜2×10
15cm
−3であってもよい。n型エンハンス層31の不純物濃度は、たとえば、5×10
14cm
−3〜5×10
16cm
−3であってもよい。n
+型エミッタ層33の不純物濃度は、たとえば、2×10
19cm
−3〜2×10
21cm
−3であってもよい。なお、n
+型バッファ層29の不純物濃度については、
図4を用いて後で詳述する。
【0027】
次に、各不純物層の配置形態を説明する。半導体基板27は、その大部分がn
−型ドリフト層30である。たとえば、60μm厚さの半導体基板27において、その表面部および裏面部を除く、厚さ55μm程度の中央部がn
−型ドリフト層30となっている。
このn
−型ドリフト層30に対して半導体基板27の表面側には、p
−型ベース層32が配置され、そのp
−型ベース層32の表面部にさらに、n
+型エミッタ層33が配置されている。n
+型エミッタ層33は、半導体基板27の表面を形成している。そして、半導体基板27の表面からn
+型エミッタ層33およびp
−型ベース層32を貫通してn
−型ドリフト層30に達するようにゲートトレンチ36が形成されている。n
−型ドリフト層30のうち当該ゲートトレンチ36の下部を覆う部分が、n
−型ドリフト層30の他領域(n
−型領域)よりも相対的に高い不純物濃度を有するn型エンハンス層31となっている。つまり、n型エンハンス層31は、p
−型ベース層32の直下全体にp
−型ベース層32に接するように形成されており、ゲートトレンチ36の下部内面を形成している。
【0028】
一方、n
−型ドリフト層30に対して半導体基板27の裏面部に、p
−型コレクタ層28が配置されている。p
−型コレクタ層28は、半導体基板27の裏面を形成している。さらに、p
−型コレクタ層28とn
−型ドリフト層30との間には、n
+型バッファ層29が配置されている。
図3Aに示すように、ゲートトレンチ36は、平面視ストライプ状に形成されている。ストライプ状のゲートトレンチ36のピッチP
1は、たとえば、2μm〜7μmである。また、各ゲートトレンチ36は、2μm〜6μmの深さD
1を有している。ゲートトレンチ36には、たとえば酸化シリコン等からなるゲート絶縁膜37を介して、ゲート電極25が埋め込まれている。このゲートトレンチ36およびゲート電極25は、
図2Bでも示したが、半導体基板27においてストライプ状の単位セル26を区画する。なお、ゲートトレンチ36は、この実施形態で図示したストライプ状に限らず、たとえば、格子状(四角格子、六角格子等)、千鳥格子状に形成されていてもよい。
【0029】
各単位セル26には、その幅方向略中央に、コンタクトトレンチ38が形成されている。コンタクトトレンチ38は、ゲートトレンチ36よりも浅いものであって、半導体基板27の表面からn
+型エミッタ層33を貫通し、その底部がp
−型ベース層32に位置している。そして、コンタクトトレンチ38の底部にp
+型ベースコンタクト層34が形成されている。
【0030】
半導体基板27の表面には、たとえば酸化シリコン(SiO
2)からなる、層間絶縁膜39が形成されている。層間絶縁膜39は、コンタクトトレンチ38に連通するコンタクトホール40を有している。
層間絶縁膜39上には、たとえばTi/TiNからなるバリアメタル41を介して、エミッタメタル15が形成されている。エミッタメタル15は、コンタクトホール40およびコンタクトトレンチ38を介して、p
+型ベースコンタクト層34に接続されている。
【0031】
半導体基板27の裏面には、たとえばアルミニウム(AlSiCu、AlCu等)からなる、コレクタメタル42が形成されている。コレクタメタル42は、p
−型コレクタ層28に接続されている。
図4は、n
+型バッファ層29および欠陥層35の不純物濃度を説明するための図である。
図4では、比較のため、ピークが一つしかないn
+型バッファ層29の不純物濃度のプロファイルも示している。次に、
図3Bに
図4を加えて、n
+型バッファ層29および欠陥層35の形成位置、不純物濃度等について説明する。
【0032】
まず、n
+型バッファ層29は、
図3Bに示すようにp
−型コレクタ層28に接するように形成されており、全体に亘ってn
−型ドリフト層30よりも高い不純物濃度を有している。
図4によれば、n
−型ドリフト層30の不純物濃度が2×10
14cm
−3程度でほぼ一定であるのに対し、n
+型バッファ層29の不純物濃度はそれよりも高くなっている。より具体的には、n
+型バッファ層29は、半導体基板27の裏面からの深さ方向(
図4の左から右の方向)に関して、2つのピークを持つ不純物濃度のプロファイル43を有している。当該プロファイル43は、半導体基板27の裏面から相対的に浅い領域(
図4では、0.5μm〜1μmの領域)に第1ピーク44を有し、第1ピーク44よりも相対的に深い領域(
図4では、1μm〜1.5μm)に第1ピーク44よりも低い不純物濃度の第2ピーク45を有している。たとえば、第1ピーク44の不純物濃度は、2×10
16cm
−3〜2×10
18cm
−3であり、第2ピーク45の不純物濃度は、6×10
15cm
−3〜6×10
17cm
−3である。これにより、たとえば第1ピーク44とほぼ同じ深さにピークを一つ持つだけの比較プロファイル46を有するバッファ層が形成されている場合に比べて、大きな耐圧を保持することができる。したがって、60μm程度の厚さの半導体基板27に十分な耐圧を付与することができる。
【0033】
次に、欠陥層35は、
図3Bに示すようにn
−型ドリフト層30内において、半導体基板27の裏面から予め設定された深さ位置に広がるように局所的に形成されている。欠陥層35は、
図3Bに参照符号35Aで示すように、n
+型バッファ層29の直上に離れて形成されていてもよいし、参照符号35Bで示すように、n
+型バッファ層29と部分的に重なって形成されていてもよい。この実施形態では、半導体基板27の裏面から1μm〜3μmの間に、n
+型バッファ層29から離れて形成されている。
【0034】
欠陥層35は、
4He、
3He、H、P、F、Ar、As、SbおよびSiの少なくとも一種の粒子を照射し、さらに熱処理によってその粒子を活性化して形成された領域であるとともに、粒子の照射によって一部に結晶欠陥が発生している領域である。上記の粒子のうち、
4He、
3Heは、熱耐性が高く温度による変化が小さいので、半導体装置1をパッケージに組み込んで組み立てるときの熱ストレスによって欠陥層35が変化することを抑制することができる。
【0035】
そして、この欠陥層35は、
図4に示すように、半導体基板27の裏面からの深さ方向に関して半値幅(半値全幅)W
1が2μm以下の不純物濃度のプロファイル47を有している。この実施形態では、プロファイル47は、1.8μm〜2.3μmの領域に一つのピーク48を有していてもよい。なお、プロファイル47は、n
+型バッファ層29のプロファイル43と同様に、少なくとも2つのピークを有していてもよい。
【0036】
図5は、スイッチング素子チップ2の製造フローを示す図である。次に、
図3Bおよび
図5を参照して、スイッチング素子チップ2の製造工程の概略を説明する。
スイッチング素子チップ2を製造するには、まず、半導体基板27のもとになる半導体ウエハが準備される(ステップS1)。使用される半導体ウエハ(シリコンウエハ)は、エピタキシャルウエハおよびFZウエハのいずれであってもよいが、低VCE(sat)および高速スイッチングを実現する観点から、FZウエハである方が好ましい。FZウエハであれば、キャリア濃度の勾配が小さく移動度の大きい電子電流成分が増加するので、少ないキャリアで多くの電流を流すことができる。
【0037】
次に、半導体基板27の表面全体にn型不純物(たとえばP(リン))が注入され、その後のアニール処理で拡散させることによって、半導体基板27にn型エンハンス層31が形成される(ステップS2)。
次に、半導体基板27(半導体ウエハ)が選択的にエッチングされることによって、ゲートトレンチ36が形成される(ステップS3)。これにより、半導体基板27のアクティブ領域に多数の単位セル26が区画される。
【0038】
次に、たとえば熱酸化法によって、ゲートトレンチ36の内面にゲート絶縁膜37が形成される(ステップS4)。
次に、ゲートトレンチ36にポリシリコン等の電極材料が埋め込まれることによって、ゲートトレンチ36内にゲート電極25が形成される(ステップS5)。
次に、半導体基板27の表面にp型不純物(たとえばB(ホウ素))が選択的に注入され、その後のアニール処理で拡散させることによって、半導体基板27の表面部にp
−型ベース層32が形成される(ステップS6)。
【0039】
次に、半導体基板27の表面にn型不純物(たとえばP(リン))が選択的に注入され、その後のアニール処理で拡散させることによって、p
−型ベース層32の表面部にn
+型エミッタ層33が形成される(ステップS7)。
次に、半導体基板27が選択的にエッチングされることによって、各単位セル26にコンタクトトレンチ38が形成される(ステップS8)。
【0040】
次に、コンタクトトレンチ38の底部にp型不純物(たとえばB(ホウ素))が選択的に注入され、その後のアニール処理で拡散させることによって、p
+型ベースコンタクト層34が形成される(ステップS9)。
次に、たとえばスパッタ法によってバリアメタル41が形成され(ステップS10)、さらにスパッタ法によって、エミッタメタル15が形成される(ステップS11)。
【0041】
次に、半導体基板27を、裏面側が上になるように接着剤等で支持ガラスにマウントし(ステップS12)、当該裏面側から半導体基板27が薄くされる(ステップS13)。半導体基板27の薄化は、たとえば、一定の厚さまで研削(バックグラインド)し、その後は鏡面仕上げを兼ねて、エッチングによって最終の厚さまで薄くしてもよい。
次の工程は、n
+型バッファ層29およびp
−型コレクタ層28のインプラ工程である。この工程では、まず、半導体基板27の裏面側から、第1エネルギ(たとえば、1200keV程度)でn型不純物(たとえばP(リン))が注入され(ステップS14)、続けて第1エネルギよりも低い第2エネルギ(たとえば、600keV程度)でn型不純物が注入される(ステップS15)。さらに、半導体基板27の裏面側から、n
+型バッファ層29のときによりも低いエネルギでp型不純物(たとえばB(ホウ素))が注入される(ステップS16)。
【0042】
不純物の注入後、n
+型バッファ層29およびp
−型コレクタ層28内の不純物を活性化させるアニール工程(第1アニール処理工程)が行われる(ステップS17)。このアニール処理は、たとえば、照射エネルギ密度(第1エネルギ密度)が1J/cm
2〜3J/cm
2のレーザアニール(第1レーザアニール工程)によって行われてもよい。
次に、半導体基板27の裏面側から、欠陥層35の形成のための粒子照射が行われる。この実施形態では、
4Heが照射される(ステップS18)。なお、このときに照射される粒子としては、前述したように、
4Heの他、
3He、H、P、F、Ar、As、SbおよびSiの少なくとも一種の粒子であってもよい。また、照射装置としては、たとえば、イオン注入装置、サイクロトロンまたはバンデグラフを使用できる。
【0043】
次に、ヘリウムを活性化させるアニール工程(第2アニール処理工程)が行われる(ステップS19)。このアニール処理は、n
+型バッファ層29およびp
−型コレクタ層28のアニール処理よりも低温で行われる。より具体的には、n
+型バッファ層29およびp
−型コレクタ層28のレーザアニールのときの照射エネルギ密度よりも低い照射エネルギ密度(第2エネルギ密度)でレーザアニール(第2レーザアニール工程)を行えばよい。このときの照射エネルギ密度は、たとえば、0.1J/cm
2〜0.5J/cm
2であってもよい。これにより、n
−型ドリフト層30内に欠陥層35が形成される。
【0044】
その後、たとえばスパッタ法によって半導体基板27の裏面にコレクタメタル42が形成され(ステップS20)、半導体基板27が個片化されることによって、スイッチング素子チップ2が得られる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0045】
たとえば、半導体装置1の各半導体部分の導電型を反転した構成が採用されてもよい。すなわち、半導体装置1において、p型の部分がn型であり、n型の部分がp型であってもよい。
また、スイッチング素子チップ2は、前述のトレンチゲート型IGBTではなく、プレーナゲート型IGBTを備えていてもよい。
【0046】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<試作品の作製>
まず、以下で説明する特性比較に使用する試作品として、実施例1および参考例1,2に係る半導体装置を作製した。
(1)実施例1
実施例1の半導体装置は、
図3Aおよび
図3Bの構造(基板厚さ=60μm、ゲートトレンチピッチP
1=3.4μm、ゲートトレンチ深さD
1=2.3μm)を有し、さらに、n
+型バッファ層29の不純物濃度プロファイルが
図4のプロファイル43(ダブルピーク)である半導体装置とした。
(2)参考例1
参考例1の半導体装置は、基板厚さ=70μm、ゲートトレンチピッチP
1=7.0μm、ゲートトレンチ深さD
1=5.0μm、n
+型バッファ層29の不純物濃度プロファイルが
図4のプロファイル46(シングルピーク)であり、n型エンハンス層31および欠陥層35を備えていない点において、実施例1の半導体装置と異なる半導体装置とした。
(3)参考例2
参考例2の半導体装置は、n型エンハンス層31および欠陥層35を備えていない点において、実施例1の半導体装置と異なる半導体装置とした。
(4)参考例3
参考例3の半導体装置は、欠陥層35を備えていない点において、実施例1の半導体装置と異なる半導体装置とした。
<特性評価>
実施例1および参考例1,2,3の半導体装置の(1)耐圧、(2)VCE(sat)特性、(3)スイッチング特性および(4)効率特性を、それぞれ評価した。結果を、
図6〜
図12に示す。
【0048】
図6は、参考例2に係る耐圧評価結果を示す図であり、同一のデバイスを経時間的に観察したものである。参考例2では、ゲートトレンチピッチP
1=3.4μm、ゲートトレンチ深さD
1=2.3μmとし、基板厚さ=60μmとしている一方、n型エンハンス層31および欠陥層35を備えていない点において、実施例1の半導体装置と異なる半導体装置である。参考例2では、ブレイクダウン時の波形は
図6の実線(a)のように発振が観察され、当該発振後、さらに
図6の実線(b)の波形が観察されることから、ブレイクダウン時に素子破壊が起きていることが確認された。このことから、単純に基板厚さを70μmから60μmへと約15%削減するのみでは、ブレイクダウン時に十分な破壊耐量が得られていないことが明らかとなった。
【0049】
一方、
図7は、実施例1の耐圧評価結果を示す図である。
図7によれば、実施例1では、保障耐圧である650V以上の電圧で正常にブレイクダウンが観察されている。すなわち、n
+型バッファ層29の不純物濃度プロファイルを
図4のプロファイル43のようにダブルピークとすることで、耐圧を保持し、ブレイクダウン時の破壊耐量を向上できていることが分かる。
【0050】
図8は、実施例1および参考例1,3のVCE(sat)特性を示す図である。
図8に示すように、実施例1および参考例3では、参考例1に比べて低VCE(sat)を達成できていることが分かる。これは、主に、基板厚さを約15%削減し、n型エンハンス層31を備えた結果によるものと考えられる。一方、実施例1では参考例3とは異なりn
−型ドリフト層30に欠陥層35が形成されているが、それにも関らず、参考例3とほぼ同等の低VCE(sat)を実現できた。これは、欠陥層35が、電子線照射のようにウエハ全体に欠陥が生成して不要な欠陥が多い構造とは異なり、上記の実施形態に基づいてn
−型ドリフト層30に局所的に形成されているためであると考えられる。
【0051】
次の評価は、実施例1および参考例1,3のスイッチング特性である。
図9〜
図11は、それぞれ、実施例1、参考例3および参考例1のスイッチング特性を示す図である。まず
図10と
図11とを比較して、
図10の参考例3では、
図11の参考例1よりも約43%の電力損失を低減できることが分かる。そして、
図9の実施例1では、その参考例3よりもさらに約24%の電力損失を低減できており、参考例1からは約57%も電力損失を低減できた。これは、欠陥層35により、n
−型ドリフト層30内において良好にキャリアライフタイム制御が行われているためであると考えられる。
【0052】
図12は、実施例1および参考例1,3の効率特性を示す図である。この効率特性は、
図13に示すコンバータ回路のIGBTとして実施例1および参考例1,3の半導体装置を採用し、それぞれのPFC(Power Factor Correction)効率を求めた。
図12に示すように、参考例3では参考例1よりも約0.8%の効率を改善でき、実施例1では、その参考例3よりもさらに約0.35%の効率を改善できており、参考例1からは約1.15%も効率を改善できた。