(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
布送り量調節レバーのスライド操作に基づく布送り量信号は、理想的な高精度でミシンが動作することで送られるであろう布地の推定移動量でしかない。実際には、布地の種類やユーザの手の圧力により誤差が生じる。そうすると、例えば布地の移動量と同量の下糸が繰り出す場合、布地の実際の移動量に対する下糸の供給量が過不足となり、縫い目の品質低下をもたらす虞がある。
【0008】
例えば、布送り量調整レバーのスライド操作によって布地が針落ちの度に5mm移動するように設定されていても、布地と送り歯との噛み合いが悪く、実際には4.8〜4.9mmしか移動しない場合がある。布送り量調整レバーの操作に従って、推定移動量と同量である5mmの下糸を繰り出してしまえば、下糸が0.2〜0.1mm程度の供給過剰となる。下糸の供給過剰は、上糸と下糸の糸調子を狂わせ、下糸の張力が弱く、縫い目の布地表面への露出につながる。
【0009】
また、例えば、布送り量調整レバーのスライド操作によって布地が針落ちの度に5mm移動するように設定されていても、ユーザの手による布地の送り力が強ければ、実際には5.1〜5.2mmも移動してしまう虞がある。布送り量調整レバーの操作に従って、推定移動量と同量である5mmの下糸を繰り出せば、下糸が0.2〜0.1mm程度の供給不足となる。下糸の供給不足は、上糸と下糸の糸調子を狂わせ、下糸の張力が強すぎ、縫い目の布地裏面への露出につながる。
【0010】
また、布地の移動速度が可変する場合がある。代表的にはフリーモーションモードがある。フリーモーションモードでは、押さえ足を上げておき、送り歯を針板から沈下させおく。そして、ユーザの手により布地を自在に動かす。このように布地の移動速度が可変する場合、布送り量調整レバーの操作に基づいても布地の移動量や移動速度が検出できない。そうすると、下糸の供給量を布地の移動量や移動速度に合わせて調整できず、糸調子の精度が悪くなり、縫い目の品質について高い信頼性を担保できない。
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、布地の移動に関する物理量を推定することなく実際に検出でき、糸調子を精度よく整えることのできるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明に係るミシンは、針を布地に貫通させ上糸と下糸を交絡させることで布地に縫い目を形成するミシンであって、前記布地が載置される針板と、前記針板から一部が露出し、前記布地の送りに追従して回転する球体と、前記球体の回転を検出するエンコーダと、前記エンコーダの検出結果に基づき、前記布地の移動に関する物理量を算出する算出部と、
第1のモータと、前記第1のモータによって回転する上軸と、前記上軸と連動して回転する下軸と、前記上軸を介して前記第1のモータから駆動力を受ける天秤と、前記上軸を介して前記第1のモータから駆動力を受ける針棒と、前記下軸を介して前記第1のモータから駆動力を受ける釜と、前記第1のモータとは別の第2のモータと、前記第2のモータから駆動力を受けて駆動し、前記第2のモータの駆動タイミング及び駆動量に応じて、前記下糸を供給する下糸供給体と、前記布地の移動に関する物理量に基づいて前記第2のモータを駆動させ、前記下糸供給体の前記下糸を供給するタイミング及び供給量を制御する制御部と、を備え、前記下糸供給体と前記天秤とは別に制御されること、を特徴とする。
【0014】
前記算出部は、前記布地の移動量又は移動速度を算出し、前記制御部は、前記布地の移動量又は移動速度に基づき、前記下糸供給体による前記下糸の供給量、又は供給タイミングを制御するようにしてもよい。
【0015】
前記算出部は、前記布地の移動速度を算出し、前記制御部は、前記布地の移動速度に基づき、前記下糸供給体による前記下糸の供給タイミングを制御するようにしてもよい。
【0016】
前記布地は、前記送り歯を前記針板から沈下させたまま、ユーザの手で前記布地を移動させるフリーモーションで送られるようにしてもよい。
【0017】
前記球体は、ユーザが前記布地を押える手の位置に設置されるようにしてもよい。
【0018】
前記針板から出現し、前記布地を一方向に送る送り歯を備え、前記球体は、前記針の針落ち点を通り、前記送り歯による前記布地を送る方向に延びる直線上に設置されるようにしてもよい。
【0019】
前記エンコーダは、前記布地の載置平面に沿った直交2方向に対応する2軸で前記球体の回転を検出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、布地の移動に関する物理量を推定量ではなく実際量として検出できるので、糸調子に起因する布地の縫製品質及び品質の信頼性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(ミシンの全体構成)
図1に示すように、ミシン1は、針板2に載置された布地100を押さえ足4で押えつつ送り歯21で送りながら、当該布地100に対して針3を貫通させ、天秤7と下糸供給体8によって供給された上糸200と下糸300とを交絡させて縫い目を形成することで、該布地100を縫製する家庭用、職業用又は工業用の装置である。
【0023】
このミシン1は、針棒31と釜5を有する。針棒31は、針板2に対して垂直に延び、垂直方向に上下動可能に取り付けられる。この針棒31は、針板2側の先端で、上糸200を保持する針3を支持している。釜5は、一平面が開口した内部中空のドラム形状を有し、針板2に対して水平又は垂直に取り付けられ、円周方向に回転可能となっている。この釜5は、下糸300を巻いたボビンを内部に収容する。
【0024】
このミシン1において、針棒31の上下動によって、針3が上糸200を伴って布地100を貫通し、針3の上昇時に布地100と上糸200との摩擦に起因した上糸ループが形成される。そして、回転する釜5によって上糸ループが捕捉され、下糸300を繰り出したボビンが釜5の回転に伴って上糸ループをくぐることによって、上糸200と下糸300とが交絡し、縫い目が形成される。
【0025】
針棒31と釜5は、共通のミシンモータ6を動力源として、各々の伝達機構を介して駆動する。針棒31には、水平に延びた上軸61がクランク機構62を介して連結されている。上軸61の回転をクランク機構62が直線運動に変換して針棒31に伝達することで、針棒31は上下動する。釜5には、水平に延びた下軸63が歯車機構64を介して連結されている。釜5が水平に設置されている場合、歯車機構64は、例えば軸角を90度とする円筒ウォームギアである。下軸63の回転を歯車機構64が90度変換して釜5に伝えることで、釜5は水平回転する。
【0026】
上軸61には、所定の歯数を有するプーリ65が設けられている。また、下軸63には、上軸61のプーリ65と同数の歯数を有するプーリ66が設けられている。両プーリ65,66は、歯付きベルト67によって連動するようになっている。ミシンモータ6の回転に伴って上軸61が回転すると、プーリ65と歯付きベルト67を介して下軸63が回転する。これによって、針棒31と釜5は同期して作動する。
【0027】
送り歯21は、針板2の下方に設置されている。この送り歯21は、布地100を送る移送手段である。送り歯21は、オーバル状に移動することで、針板2の表面から出現し、針板2の平面に沿って一方向に移動し、針板2に沈下する。針板2の表面に載置されている布地100は、送り歯21との摩擦によって、針板2から出現した送り歯21が移動する方向に追随して送られる。この送り歯21は、下軸63に取り付けたカム機構21aによって、オーバル状の運動をする動力を得ている。カム機構21aは、例えば下軸63に嵌め込まれた卵型のカムにU字状の挟持部を有するロッカーアームをカムフォロアとして構成される。
【0028】
また、針板2からは球体22aが一部を露出させている。この球体22aは全方向に回転可能となっている。球体22aの回転を布地100の送りに追従させ、球体22aの回転に関する物理量を検出することで、布地100の移動に関する物理量が検出される。球体22aは、布地100との摩擦力が上がって良好に布地100に追従するように、表面が粗いゴムボール等が望ましい。回転に関する物理量としては、回転量、回転方向、回転速度を挙げることができ、布地100の送りに関する物理量としては、移動量、移動方向、移動速度を挙げることができる。
【0029】
上糸200の供給及び糸調子を担う天秤7は、糸駒から針3までの糸道途中に介在する柄であり、先端に上糸200が通る穴が形成されている。この天秤7は、上軸61と並行の水平軸に基端が軸支され、またクランク機構62と柄の途中が連結されており、上軸61の回転によって水平軸周りで先端を上げ下げする。天秤7は、上下動によって糸道の経路長を変更することで上糸200を糸駒から繰り出し、下降によって上糸200に余裕を待たせて上糸200を供給し、更には上がることで上糸200を引き上げて縫い目を引き締める。
【0030】
下糸300の供給及び糸調子を担う下糸供給体8は、下糸300に対する任意のタイミングでの張力付与と張力緩和によって、任意のタイミングで下糸300の繰り出し、任意のタイミングで下糸300に余裕を持たせて下糸300を縫い目形成用に供給し、また任意のタイミングで下糸300を引き下げて縫い目を引き締める。この下糸供給体8は、球体22aの回転によって検出された布地100の移動に関する物理量に応じて駆動する。
【0031】
この下糸供給体8は、釜5を横断するレバーであり、ボビンが収容された釜5の上方で水平に延びて架橋されている。下糸供給体8は、
図2に示すように、高さ変更可能に設けられている。下糸300は、下糸供給体8の下部に引っ掛かりながら、下糸供給体8の上方に設置された針板2の開口へ向かう。
【0032】
そのため、下糸供給体8が下がると、下糸300が縫い目側から引き下げられる(
図2の(b)参照)。また、下糸供給体8が下がると、下糸300が押し下げられて、釜5から直線的に針板2へ向かう下糸300の経路長(
図2の(a)参照)に対して、下糸供給体8によって屈曲させられた下糸300の経路長(
図2の(b)参照)が長くなり、その経路長の差に応じて下糸300が繰り出される。そして、下糸供給体8が上昇して元に戻ることによって、繰り出された下糸300に余裕が生じ、経路長の差に応じた下糸300が縫い目形成のために供給される。
【0033】
(送り検出部の構成)
図3乃至
図6は、球体22aを構成要素とし、布地100の送りを検出する布移動検出部22(
図10参照)の構成を示す。
図3は、針板2の表面を示す斜視図である。
図3に示すように、針板2には貫通孔22bが穿設されている。貫通孔22bは、針板2を厚さ方向に貫通し、その径は球体22aの径よりも小さい。球体22aは、針板2の裏側、すなわち布地100が載置される面とは反対の面側から貫通孔22bに嵌め込まれ、一部を針板2の表面に露出させている。
【0034】
この貫通孔22bは、
図3に示すように、送り歯21の近傍で、ユーザが布地100を押える際に、ユーザの手が置かれる場所が望ましい。例えば、ユーザから見て送り歯21の右側に設置され、右手で押えられる場所である。球体22aと布地100の接触圧をユーザの手により増加させ、布地100の移動に球体22aの回転を精度良く追従させることができるためである。または、貫通孔22bは、送り歯21の近傍で、針3の針落ち点を通り、布地100が送られる方向に延びる線上に穿設されることが望ましい。布地100の移動と球体22aの回転の誤差を低減するためである。
【0035】
図4は、針板2の裏面を示す斜視図である。
図4に示すように、針板2の裏面には、球体22aを支持するボール受け22hが固定されている。ボール受け22hは、貫通孔22bの縁を湾縁とする御椀形状を有し、貫通孔22bを下方から覆っている。ボール受け22hの内面形状は、球体22aの形状に合わせて湾曲している。このボール受け22hは、球体22aを支持するとともに、球体22aが針板2から沈下して空転することを防止する空転防止用押さえともなる。
【0036】
図5は、針板2の裏面を示す拡大図であり、
図6は、針板2の部分拡大断面図である。
図5及び6に示すように、針板2の裏面には、球体22aのX軸方向の回転成分を検出するロータリーエンコーダ22cと、球体22aのY軸方向の回転成分を検出するロータリーエンコーダ22dが設置されている。X軸方向及びY軸方向は、平行でなければ特に方向の限定はないが、布地100の送りを精度よく検出すべく、X軸方向は送り歯21の移動方向、Y軸方向はX軸との直交方向が望ましい。
【0037】
ロータリーエンコーダ22c、22dは、それぞれ、格子円盤22eと光源22fと光電素子22gにより構成される。格子円盤22eは、平面に一定角度のピッチでスリットが形成されている。光源22fと光電素子22gは、格子円盤22eの軸と平行な方向に並べられ、格子円盤22eを挟んで対向している。光電素子22gは、
格子円盤22eの回転により光を断続的に受光することで、パルス信号を出力する。
【0038】
ボール受け22hは、外部から内部へ連通するように、X軸方向及びY軸方向から切り欠かれている。各格子円盤22eは、その切り欠きから差し入れられて、回転可能に軸支されており、ロータリーエンコーダ22cの格子円盤22eの周面は、X軸方向から球体22aに当接し、ロータリーエンコーダ22dの格子円盤22eの周面は、Y軸方向から球体22aに当接している。
【0039】
すなわち、このロータリーエンコーダ22c、22dは、球体22aのX軸方向の回転量に合致したパルス数でパルス信号を出力し、球体22aのX軸方向の回転速度に合致した単位時間当たりのパルス数、パルス周期及びパルス幅でパルス信号を出力し、球体22aのY軸方向の回転量に合致したパルス数でパルス信号を出力し、球体22aのY軸方向の回転速度に合致した単位時間当たりのパルス数、パルス周期及びパルス幅でパルス信号を出力する。
【0040】
(下糸供給体の構成)
図7は、下糸供給体8の詳細構成を示し、
図8は、下糸供給体8の部分拡大を示す。
図7及び
図8に示すように、下糸供給体8は、レバー両端部に腕部81が延長されて成り、下糸供給体8の全体としては、上方視コの字状で側方視L字状を有する。すなわち、下糸供給体8は、釜5を横断するレバーの両端を釜5の外で下方に屈曲させ、両屈曲先端部を更に水平に屈曲させて延ばして成る。
【0041】
下糸供給体8の腕部81は、支点となる不動の支持板82にピン82aを介して軸支されている。腕部81の途中には、上げ下げの力点となるシャフト83がピン83cを介して連結されている。シャフト83は、ピン83cの連結部から垂直に降りており、軸に沿って上下動可能に軸受け84に嵌込されている。この下糸供給体8と支持板82とシャフト83は、第3種テコの関係を有し、シャフト83が軸に沿って上昇及び下降することにより、下糸供給体8は、レバーを上げ下げするように支持板82のピン82aを中心に回動する。
【0042】
シャフト83の上下動機構において、シャフト83には、軸受け84の下面に固定された圧縮バネ85が嵌め込まれている。シャフト83の下部にはフランジ83aが延設されており、圧縮バネ85の一端は、このフランジ83aを座面として、シャフト83と当接している。シャフト83には、この圧縮バネ85の延び付勢力によって押下力が常態的に付与される。
【0043】
但し、シャフト83はカム機構によって位置が規制されており、カム機構によって下降タイミングと下降可能量が制御される。すなわち、シャフト83の下部には、軸と直交する方向に延びるピン83bが貫通し、シャフト83円周面から飛び出している。ピン83bは、カムフォロアとして、ピン83bの直下に存在するカム面86aに当接している。そのため、シャフト83の圧縮バネ85による下降は、カム面86aによって規制されている。
【0044】
図9は、カム面86aの回転角とシャフト83の高さとの関係を示すグラフである。カム面86aは、最高部を0度として、180度にかけて連続的な下りの傾斜を有する。換言すると、カム面86aは、180度を最低部として、0度にかけて連続的な上りの傾斜を有する。すなわち、ピン83bが当接するカム面86aの位置に応じて、シャフト83の下降可能量が変更され、以って下糸供給体8の下がり量が制御される。
【0045】
図7及び8に戻り、カム面86aは、円筒状のカムプーリ86の上面に形成されている。カムプーリ86の下部には、周面に歯山が並ぶプーリ部86bが穿設されている。歯山は、カムプーリ86の円周方向に沿って並ぶ。プーリ部86bには歯付きベルト87が巻き付いている。また、ミシン1には、ミシンモータ6とは別個にステッピングモータ88が設けられており、歯付きベルト87は、ステッピングモータ88の回転軸とプーリ部86bとを連結している。
【0046】
ステッピングモータ88は、布移動検出部22の検出結果に応じて駆動される。ステッピングモータ88が駆動すると、歯付きベルト87とプーリ部86bを介してカム面86aが回転する。カム面86aの回転角に応じて、ピン83bが従動するカム面86aの高さが変化し、変化分に応じて圧縮バネ85がシャフト83を押し下げる。シャフト83が下がると、シャフト83に連結する下糸供給体8も支持板82のピン82aを中心に引き下げられる。また、ステッピングモータ88が逆転駆動すると、シャフト83が押し上げられ、下糸供給体8は、支持板82のピン82aを中心に押し上げられる。
【0047】
この機構により、下糸供給体8は、ステッピングモータ88の駆動タイミングに合わせて、ミシンモータ6の駆動と連動することなく上げ下げ可能となる。つまり、ミシンモータ6と連動する送り歯21によって推定される布地100の移動に拘束されず、布地100の実際の移動に連動させて上げ下げ可能となる。また、下糸供給体8は、ステッピングモータ88の回転量に応じて下がり量が制御されることとなる。そして、下糸供給体8が下がり過程では、下糸300に一時的な張力変化が生まれ、下糸300を縫い目側から引き下げたり、下糸300をボビンから繰り出したりする。
【0048】
(下糸供給体の制御例)
ミシン1は、布移動検出部22の検出結果を加味して下糸供給体8を制御する。
図10は、ミシン1が内蔵するコンピュータ9の機能構成を示すブロック図である。ミシン1は、CPU91、ROM92、RAM93、下糸供給体8の駆動源となるステッピングモータ88のモータドライバ94を備え、ロータリーエンコーダ22c、22dのパルス信号が入力される。CPU91は、ROM92に記憶されたプログラムの実行により、布地100の移動に関する物理量を算出する算出部91a、及びモータドライバ94を通じた下糸供給体8の制御部91bとなる。
【0049】
算出部91aには、ロータリーエンコーダ22c、22dのパルス信号が入力される。算出部91aは、パルス数、パルス周期又はパルス幅から、球体22aの回転量及び回転速度を算出する。換言すると、球体22aの回転は布地100の移動に追従するから、算出部91aは、布地100の移動量及び移動速度を算出する。回転量又は回転速度の一方のみを算出するようにしてもよい。
【0050】
図11は、布地100の移動に関する物理量を求めるアルゴリズムを示すグラフである。例えば、
図11に示すように、算出部91aは、ロータリーエンコーダ22cのパルス数、パルス周期の逆数、パルス幅の逆数、又はこれらを換算して得た球体22aのX軸方向の回転量又は回転速度を長さとし、X軸に沿って延びるベクトルをとる。また算出部91aは、ロータリーエンコーダ22dのパルス数、パルス周期の逆数、パルス幅の逆数、又はこれらを換算して得た球体22aのY軸方向の回転量又は回転速度を長さとし、Y軸に沿って延びるベクトルをとる。そして、算出部91aは、両ベクトルを合成し、合成ベクトルのスカラー値から球体22aの回転量又は回転速度を得る。
【0051】
制御部91bは、球体22aの回転量又は回転速度に応じたタイミング、駆動量及び駆動速度でステッピングモータ88が駆動するように、駆動パルス信号をステッピングモータ88に出力する。換言すると、制御部91bは、布地100の移動量又は移動速度に応じたタイミング、供給量及び供給速度で下糸供給体8に下糸300を供給させる。
【0052】
制御部91bによる下糸供給体8の他の制御例を説明する。
図12は、下糸供給体8の制御動作を示すフローチャートである。
図12に示すように、ロータリーエンコーダ22cとロータリーエンコーダ22dは、算出部91aに対して、布地100の単位時間当たりの移動量に合致したパルス数のパルス信号を出力する(ステップS01)。算出部91aは、入力されたパルス信号から布地100の移動速度を算出する(ステップS02)。移動速度の算出は、パルス信号のパルス幅やパルス周期を利用しても良い。
【0053】
布地100の移動速度が算出されると、制御部91bは、定量の下糸300を繰り出すタイミングを決定する。すなわち、定量Qの下糸300を繰り出すとして、布地100が移動速度Vで移動すると、布地100の移動量V×tが定量Qに達する時間tは、下糸供給体8を前回駆動させたタイミングから時間t=Q/V後である。
【0054】
従って、制御部91bは、定量Qと移動速度Vから時間tを算出し(ステップS03)、下糸供給体8を前回駆動させたタイミングから計時を開始する(ステップS04)。そして、時間t=Q/V経過が経過すると(ステップS04,Yes)、定量Qの下糸300を繰り出すように下糸供給体8を制御する駆動信号をステッピングモータ88に出力する(ステップS05)。ステッピングモータ88は、駆動信号に従って下糸供給体8を駆動させ(ステップS06)、下糸供給体8は、前回駆動後t=Q/V経過後に、布地100の移動量と同量となる定量Qの下糸300を供給する(ステップS07)。
【0055】
(作用)
図13に示すように、球体22aは、布地100が覆い被さり、且つ布地100を押えるユーザの手の位置に露出する。布地100が送り歯21の誘導により移動すると、布地100と球体22aとの間に働く摩擦力により、球体22aは、布地100の移動速度及び移動量と同一の回転速度及び回転量で回転する。ユーザの手の位置に球体22aが露出している場合、ユーザの手により布地100と球体22aの接触圧が高められており、布地100の移動に対して球体22aの回転が良好に追従する。
【0056】
布地100は、送り歯21による送り方向への移動が専らではあるが、布地100の皺や素材による引っ掛かりによって、送り方向との直交方向への移動成分も生じる。布移動検出部22は、2軸のロータリーエンコーダ22c、22dによって、布地100の送り方向成分と直交方向成分を検出しており、布地100の移動方向に関係なく、布地100の移動量や移動速度が検出される。
【0057】
例えば、フリーモーションモードでミシン1が稼働している。フリーモーションモードでは、布地100と非接触の状態に押さえ足4が上げられ、布地100と常態的に非接触の状態に送り歯21が針板2から沈下する。布地100はユーザの手により移動速度、移動方向が自在に可変される。
【0058】
図14は、布地100の移動速度変化と下糸供給タイミングの変化を示すグラフである。
図14に示すように、時間区間T1では布地100が移動速度V1で送られ、時間区間T2では布地100が移動速度V2で送られているものとする。また、下糸供給体8は、一回の駆動につき定量Qの下糸300を繰り出すものとする。
【0059】
時間区間T1では、布移動検出部22が布地100の実際の移動を検出し、算出部91aが布地100の実際の移動速度V1を検出する。そこで、時間区間T1では、t=Q/V1で示される時間間隔tで、定量Qの下糸300を供給する。すなわち、制御部91bは、t=Q/V1で示される時間間隔tでステッピングモータ88に駆動信号を送り、下糸供給体8をt=Q/V1で示される時間間隔taで駆動させる。
【0060】
時間区間T2では、布移動検出部22が布地100の実際の移動を検出し、算出部91aが布地100の実際の移動速度V2に変更されたことを検出する。そこで、時間区間T2では、t=Q/V2で示される時間間隔tで、定量Qの下糸300を供給する。すなわち、制御部91bは、t=Q/V2で示される時間間隔tでステッピングモータ88に駆動信号を送り、下糸供給体8をt=Q/V2で示される時間間隔tbで駆動させる。
【0061】
すなわち、ミシン1は布地100の実際の移動速度から下糸300が不足するタイミングを算出し、ジャストタイミングで下糸300を供給する。そのため、例えユーザが急峻な布送り変化を生じさせても、下糸300の供給不足や供給過剰は抑制され、縫い目が布地100の表面や裏面に露出することが防止される。
【0062】
(下糸供給体の他の制御例)
制御部91bによる下糸供給体8の他の制御例を説明する。
図15は、下糸供給体の第2の制御動作を示すフローチャートであ
る。球体22aが回転すると、この球体22aに当接している格子円盤22eも回転する。そのため、ロータリーエンコーダ22cとロータリーエンコーダ22dは、算出部91aに対して、布地100の移動量に合致したパルス数のパルス信号を出力する(ステップS11)。算出部91aは、入力されたパルス信号から布地100の移動量を算出する(ステップS12)。
【0063】
布地100の移動量が算出されると、制御部91bは、布地100の移動量と同量の下糸300を繰り出すように下糸供給体8を制御する駆動信号をステッピングモータ88に出力する(ステップS13)。ステッピングモータ88は、駆動信号に従って下糸供給体8を駆動させ(ステップS14)、下糸供給体8は、布地100の移動量と同量の下糸300を供給する(ステップS15)。
【0064】
(効果)
以上のように、このミシン1は、針板2から一部が露出するように球体22aを設け、布地100の送りに追従して回転させるようにし、ロータリーエンコーダ22c、22dで球体22aの回転を検出するようにし、ロータリーエンコーダ22c、22dの検出結果に基づき、布地100の移動に関する物理量を算出するようにした。布地100の移動に関する物理量は、例えば移動量や移動速度である。
【0065】
これにより、布地100の移動に関する物理量を推定量ではなく実際量として検出でき、その実際量に合わせて下糸300の供給量、供給タイミングを制御できるので、糸調子に起因する布地100の縫製品質及び品質の信頼性が向上する。例えば、布地100の実際の移動量に対して下糸300を過不足なく供給でき、糸調子が崩れて縫い目の品質が低下することを抑制できる。
【0066】
また、このミシン1では、球体22aは、布地100が覆い被さる箇所に設置するようにした。これにより、布地100との摩擦により球体22aの回転を布地100の送りに追従させることができる。更に、球体22aは、ユーザの掌が置かれる箇所に設置した。これにより、球体22aに対する布地100の接触圧を増加させることができ、軽い布地100の移動であっても球体22aは高精度に追従して回転することができる。
【0067】
尚、ユーザの手が置かれる箇所に球体22aを設置すれば、布地100の動きに合わせてユーザの手で球体22aを回転させることもできる。そうすると、布地100の端を縫製する場合等によって球体22aが露出せざるを得ない場合でも、布地100の送りに追従して球体22aを回転できる。
【0068】
また、球体22aは、針落ち点の近傍であれば、針落ち点を通り、送り歯21の運動方向に延びる直線上に設けるようにしてもよい。これにより、針落ち点での布地100の移動に関する物理量を高精度に検出することができる。そのため、布地100の移動が大きな影響を与える上糸200や下糸300の供給量や供給タイミングの設定を高精度とすることができ、布地100に対する縫製精度が更に向上する。
【0069】
ロータリーエンコーダ22c、22dは、布地100の載置平面に沿った直交2方向に対応する2軸で球体22aの回転を検出するようにした。例えば、送り歯21による布地100の送り方向と当該送り方向との直交方向の2軸である。布地100は送り歯21による送り方向にのみ移動することが理想的ではあるが、布地100の皺や素材等の原因により、この送り方向との直交成分も生じる。このミシン1では、直交成分も加味することで布地100の移動に関する実際の物理量を精度よく検出できるから、布地100に対する縫製精度が更に向上する。
【0070】
更に、天秤7、針棒31及び釜5を連動駆動させるミシンモータ6とは別にステッピングモータ88を設け、このステッピングモータ88から駆動力を受けて下糸供給体8を駆動するようにし、制御部91bにより下糸供給体8の下糸300を供給するタイミング及び供給量を制御するようにした。これにより、算出部91aは、布地100の移動に関する物理量を算出し、制御部91bは、布地100の移動に関する物理量に基づき、下糸供給体8による下糸300の供給量、供給タイミング又は供給回数を制御することができる。
【0071】
例えば、算出部91aは、布地100の移動速度を算出する。制御部91bは、布地100の移動速度に基づき、下糸供給体8による下糸300の供給タイミングを制御するようにした。これにより、布地100の移動速度から下糸300の供給が必要となるタイミングが予測でき、ジャストタイミングで下糸300を過不足なく供給することができる。従って、布地100に対する縫製精度が更に向上する。特に、フリーモーションモードであると、布地100の移動速度が頻繁に変化し、またその変化も急峻な場合があるが、このケースであっても下糸300の過不足のない供給が容易となる。
【0072】
(他の実施形態)
以上のように本発明の実施形態を説明したが、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0073】
コンピュータ9は、布移動検出部22の検出結果に加えて、ミシンモータ6のエンコーダの値、各種センサ検出結果、及び操作結果を検知し、布地100の実際の移動を含む各種縫製態様に応じて、下糸供給体8を制御するようにしてもよい。また、下糸300の供給量や供給タイミングのみならず、上糸200の供給量や供給タイミングも制御するようにしてもよい。