(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プロセッサは、前記生理学的データに鑑みた前記少なくとも1つの非定常なスペクトルピークの前記ピークパラメータの時間tにおける事後確率分布を計算するようにさらに構成され、前記事後確率分布は、瞬間の尤度に比例している請求項1に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記ユーザの指示または生理学的前例の一方または両方による情報を使用して決定される提案密度から前記1セットの粒子を初期化するようにさらに構成されている請求項5に記載のシステム。
前記プロセッサは、予測密度に従って時間tにおける前記1セットの粒子の各々についての新たな値をサンプリングするようにさらに構成されている請求項5に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記瞬間の尤度を使用して計算される正規化された重みに従って前記1セットの粒子を再サンプリングするようにさらに構成されている請求項5に記載のシステム。
前記プロセッサは、あらかじめ定められた有意性を使用して前記1セットの粒子の成分ごとのパーセンタイル値を計算することによって前記ピークパラメータについての信頼値を決定するようにさらに構成されている請求項5に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記追跡されたピークパラメータを使用して被験者の生理学的状態を示すレポートを生成するようにさらに構成されている請求項1に記載のシステム。
あらかじめ定められた有意性を使用して前記1セットの粒子の成分ごとのパーセンタイル値を計算することによって前記ピークパラメータについての信頼値を決定するステップ
をさらに含む請求項16に記載の方法。
麻酔性を有する少なくとも1つの薬物の投与、精神医学的状態、神経学的状態、睡眠、またはこれらの任意の組み合わせを体験している被験者に組み合わせられた少なくとも1つのセンサを使用してEEGデータの時系列を取得するステップ
をさらに含む請求項12に記載の方法。
前記プロセッサは、前記パラメータ評価アルゴリズムにおいて統計的サンプリング技術、カルマンフィルタ処理技術、変分ベイズ推定技術、および期待値最大化(「EM」)技術を適用するようにさらに構成されている請求項24に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記ユーザの指示または生理学的前例の一方または両方による情報を使用して決定される提案密度からパラメータ値を初期化するようにさらに構成されている請求項24に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記生理学的データの動的特徴に関する複数の動的モデルを生成し、該動的モデルを相対の適合度の指標を使用して比較するようにさらに構成されている請求項24に記載のシステム。
前記プロセッサは、薬物のレベル、薬物の濃度、および行動、あるいはこれらの任意の組み合わせを含む生理学的相関物に関する情報を使用して前記動的モデルをさらに生成する請求項24に記載のシステム。
前記プロセッサは、前記追跡されたスペクトルパラメータを使用して被験者の生理学的状態を示すレポートを生成するようにさらに構成されている請求項24に記載のシステム。
【背景技術】
【0003】
本発明は、広くには、被験者の状態を監視および/または制御するためのシステムおよび方法に関し、さらに具体的には、生理学的データに関する動的な時間−周波数構造のモデルにもとづく特徴評価を使用して被験者の状態を監視および/または制御するためのシステムおよび方法に関する。
【0004】
脳活動の表面記録の場合において、例えば睡眠の最中に生じ、あるいは麻酔薬の投与の結果として生じる中枢神経系の変化など、中枢神経系の変化を、頭皮に配置された電極を通じて脳内の電気インパルスを測定する神経EEG記録によって観測できることが、75年以上前に示されている。結果として、脳波図を、心電図を心臓および心臓血管系の状態の
追跡に使用することができるのと同じやり方で、例えば睡眠の最中あるいは鎮静状態または全身麻酔のもとにある患者の脳の状態をリアルタイムで
追跡するために使用できると主張されている。
【0005】
患者の脳の状態を監視するために臨床医によって使用されるツールとして、特定の生物学的プロセス、タスク活動、睡眠、麻酔薬の投与、および他の臨床処置からもたらされる神経回路網の活動の測定を手助けすべく開発された生理学的なEEGにもとづくシステムが挙げられる。例えば、そのような監視システムは、手術室および集中治療室において全身麻酔または鎮静状態のもとにある患者の意識のレベルを
追跡するために使用される。EEGデータから導出されるスペクトルおよびエントロピの情報を組み合わせる独自のアルゴリズムを使用して、そのようなシステムは、患者の脳の状態の特定に使用するために、取得される信号の部分的または混合表現によるフィードバックを提供する。いくつかの背景においては、多くの場合に薬理学的な手法を使用して実行される中枢神経系の直接操作が、患者の無意識、健忘、無痛覚、および不動のレベルを制御することによって、そのようなシステムを使用して容易にされる。例えば、睡眠の最中に、EEG、EOG、EMG、および呼吸のデータが、臨床または家庭の環境において監視され、次いで睡眠および呼吸の異常を診断するために視覚的な分析を通じて評価される。
【0006】
内在する神経活動の特定のスペクトル的特徴を調べるために、これに限られるわけではないがスペクトログラム(FFT、ハニング窓)、マルチテーパスペクトログラム、ウェーブレット変換、ガボール変換、およびチャープレット変換などの技術を使用して、取得されたEEGデータの時間−周波数表現を計算することが、行われるようになってきている。これまでに提案された種々の手法は、時間変化するスペクトルの特徴を定性的に表す方法を使用し、いくつかの不連続な時間期間において、測定された神経の律動の特徴を評価している。例えば、時間−周波数の特徴を
追跡するための1つの試みとして、非定常なピークおよび振幅を有する純粋な正弦曲線を使用してスペクトル成分をモデル化することが挙げられる。具体的には、2つ以上の正弦曲線モデルの和が、複数の同時に発展する振動を
追跡するために使用されている。この以前の手法は、人工的または機械的な系によって生み出される純粋な正弦曲線の
追跡には適するかもしれないが、そのような純粋な正弦曲線は、生理学的な系にはほとんど存在しない。
【0007】
例えば、測定されるEEG信号は、時間−周波数ドメインにおいて広帯域のピークを呈することが多く、その全体構造が、内在する神経活動についての重要な情報をもたらす可能性がある。特には、例えば全身麻酔におけるプロポフォールの投与の最中に取得されるEEGデータを表すスペクトルピークの特定の形態が、患者の意識の深さについての情報をもたらすことができる。したがって、時間−周波数構造の正弦曲線モデルを使用する現在の方法は、そのような方法においては広帯域の生理学的振動が単一の周波数へと畳まれることで、ピークの帯域幅および構造に存在する情報内容が無視されるがゆえに、不完全である。したがって、そこに含まれる完全なスペクトル構造および情報が保持されるシステムを考案することが必要である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
スペクトル分析は、生理学的データの時間−周波数構造を分析するための重要なツールである。電気生理学的な記録の臨床的な解釈のための伝統的な手法は、時間ドメインの波形を視覚的に調べ、種々の波形の形態を生理学的、病態生理学的、または臨床的結果に結びつけることである。しかしながら、視覚的な時系列の分析は、きわめて主観的かつ時間のかかるプロセスであり、スペクトル分析は、時間ドメインにおいては観測が難しい有益な情報をもたらすことができる。例えば、睡眠医学において、睡眠検査は、患者のEEG、EMG、EOG、および呼吸データを記録する。最大10時間にわたって続くこれらのデータ記録が、30秒のセグメントへと分解され、各々のセグメントを、時間ドメインにおいて視覚的に解釈しなければならない。この状況は、患者の睡眠の臨床的に意味のある特徴を評価するための重要な情報をもたらしうる長時間にわたる睡眠信号の非定常な特性を効果的に
追跡することを、きわめて困難にする。別の例では、全身麻酔および鎮静剤が、スペクトル分析を使用して時間−周波数ドメインにおいて分析された場合に解釈がはるかに容易であるEEGにおける定型の非定常な振動を引き起こす。これらの振動の時間変化する特性を
追跡できる能力を、例えば薬物の容量または投与の変化あるいは外的刺激に起因する患者の覚醒のレベルの変化を
追跡するために使用できると考えられる。
【0019】
本明細書に提示のシステムおよび方法を、これらに限られるわけではないが睡眠、投薬、全身または局所麻酔、鎮静、昏睡、低体温、などのいくつかの臨床または実験の状況下の被験者から取得される生理学的データに、被験者の生理学的状態の監視および/または制御の目的で、適用することができる。説明されるとおり、本発明は、生理学的信号の動的な時間−周波数構造を定量的に表現し、そこに存在する非定常な信号特性ならびにそのような特性のそれぞれの時間的変化を捕捉するモデルを提供する手法を詳述する。具体的には、取得された生理学的データの時間−周波数表現を、スペクトルピーク構造の形態に特有のパラメータまたは半パラメータ関数であって、時々刻々のピーク周波数、振幅、および帯域幅などのパラメータを含んでいる関数へと、分解することができる。次いで、時間変化するモデルを、パラメータの時間変化を表すように定めることができる。したがって、評価手順を時間−周波数の生理学的データおよびモデルと併せて使用して、パラメータを時間における各点にフィットさせることができる。このやり方で、生理学的信号の複数の同時に生じる非定常成分を、時間−周波数ドメインにおいて
追跡することができる。
【0020】
以下で、全身麻酔、鎮静、または睡眠などの種々の状況下のEEGデータを、統計的サンプリングパラメータ評価アルゴリズム、スペクトルピーク構造のガウスおよびガンマ形状モデル、ならびにピークの時間的動態の線形ガウスモデルを使用して分析するための特定の実施例が説明される。しかしながら、多数の状況下で取得されるさまざまな種類の生理学的データが、利用可能であり、本発明の技術的範囲に包含されると考えられることを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、生理学的データの例として、これらに限られるわけではないが、脳波記録(「EEG」)、筋電図検査(「EMG」)、皮質脳波記録(「ECoG」)、局所場電位(「LFP」)、心電図記録(「ECG」)、電気眼球図記録(「EOG」)、電気皮膚反応(「GSR」)、酸素飽和度(SA0
2)、眼の微動(「OMT」)、などから得られるデータを挙げることができる。加えて、後述されるとおり、提示される特定のモデルは、種々の生理学的監視の状態または状況の時間−周波数の動態の記述に適用することができるより一般的な統計的枠組みに関する。
【0021】
[スペクトルピークパラメータ状態モデル]
以下で、模擬によるEEGデータならびにプロポフォール麻酔の投与の際に被験者から取得されたEEGデータの動的な時間−周波数ピークの
追跡のための手法の特定の実施例を説明する。これは、一般の動的な時間−周波数の
追跡手法において、具体例として役に立つ。
【0022】
EEG信号データから生成される時間−周波数の観測など、離散時間
【数1】
および周波数
【数2】
に中心を置く固定の幅の周波数ビンにおける時間−周波数の観測を考えると、行列をスペクトルドメインの観測で構成することができ、すなわち
【数3】
【0023】
であり、y
t,fは、時間tにおける周波数ビンf内のパワースペクトルの大きさである。
【0024】
一般に、Yは、EEG、EMG、ECoG、LFP、ECG、EOG、GSR、SA0
2、およびOMTなどの任意の生理学的データのスペクトログラム(FFT、ハニング窓)、マルチテーパスペクトログラム、ウェーブレット変換、ガボール変換、またはチャープレット変換などの任意の時間−周波数表現であってよい。一般的定式化において、要素y
t,fは、スペクトルドメインの観測の大きさおよび位相ならびに例えば対数またはデシベル変換などの変換を表す複素値を含むことができる。データを、例えばEEGモンタージュのように空間にまたがる複数の電極にまたがって情報を組み合わせることによって、時間−周波数表現の計算の前に変換することもできる。Yは、種々の生理学的データのソースの組み合わせからの時間−周波数データy
t,fを含むこともできる。
【0025】
本明細書において説明される方法によれば、Yの評価、すなわち
【数4】
が、複数の同時に生じる非定常なスペクトルピークを表すことができる時間変化するパラメータを有する関数または関数の組から構成される。y
t,fの評価である
【数5】
を計算するために、スペクトル的観測を、
【数6】
のように、スペクトルパワーにおけるN個の不連続な非定常なピークの線形結合としてモデル化することができ、
【0026】
ここで
【数7】
は、n番目のスペクトルピークの大きさであり、
【数8】
は、時間tにおける周波数ビンf内の観測ノイズである。各々のスペクトルピークの特徴が、時間tにおいて、その時間変化する振幅A
t、ピーク周波数F
t、および帯域幅B
tを表すパラメータ
【数9】
の固有の組によって評価される。この特定のモデルが、データの時間−周波数表現の評価を線形混合モデルとして定義することに、注意すべきである。一般に、
【数10】
を、スペクトル分解関数の任意の線形または非線形結合として表すことができる。
【0027】
パラメータの時間的展開を、所与のパラメータxについて
【数11】
のように、ランダムウォークとして定義することができ、
ここで
【数12】
である。
【0028】
状態分散パラメータを、ランダムウォークとして、
【数13】
と定めることもでき、
ここで
【数14】
であり、νは定数である。
【0029】
加えて、観測ノイズを、生理学的EEGデータにおいて広く見られる乗数(power factor)pの1/f
pのノイズ現象を反映する周波数fの関数
【数15】
としてモデル化することができる。観測ノイズの分散も、一定の分散を有するランダムウォークとして
【数16】
と進展し、
ここで式4のように
【数17】
である。したがって、各々のスペクトルピークについてのパラメータベクトルは、
【数18】
である。
【0030】
上述のモデルは、パラメータの時間的な動態を線形であってガウスノイズを有するとして表し、観測を1/f
pのノイズを有するとして表しているが、ガウスまたは非ガウス状態および観測ノイズを有する他の線形または非線形モデルも、使用することができる。さらに、特定のパラメータの間の相互作用ならびにパラメータと他のデータソースまたは薬物の濃度などの外部関連要因との間の関係も、モデル化することができる。加えて、要素y
t,fが複素数である場合に、スペクトル位相構造をモデル化することができる。
【0031】
[観測モデル構成要素]
生理学的データの時間−周波数表現の特徴をスペクトル特徴の組み合わせとして評価するための枠組みに鑑み、これらの特徴の関数形態を定めることができる。特には、EEGデータにおいて一般的に観測されるスペクトル特徴に関して、
【数19】
に鑑み、観測モデル
【数20】
を、スペクトルピークの特徴を振幅exp(A
t)、ピーク周波数F
t、および帯域幅B
tを有するガウス形状の関数として評価するために使用することができる。
【0032】
しかしながら、ガウス形状の関数は、常にはピーク構造の適切なモデルではないかもしれない。周波数は、本質的に、ゼロにおいて拘束されるため、低いピーク周波数を有するスペクトルピークの構造は、きわめて非対称になる可能性がある。具体的には、これは、睡眠および全身麻酔において観測されるEEGの徐波/デルタ波の律動において明らかである。したがって、ピーク構造のモデルの別の例を、
【数21】
と定義することができ、ここで
【数22】
、
【数23】
、および
【数24】
である。このやり方で、振幅exp(A
t)、ピーク周波数F
t、帯域幅B
t、ならびに形状および縮尺パラメータκおよびφを有するガンマ分布の形状にもとづくスペクトル特徴の特徴を評価することができる。
【0033】
一般に、対数正規、ゴンペルツ(Gompertz)、カイ二乗、逆カイ二乗、指数、逆ガンマ、逆ガウス、ベータ、などの他の連続的な分布にもとづくものなど、スペクトル構造の種々のパラメータモデルを使用することができる。さらに、例えばスプラインおよびベジェ曲線を含むように、半パラメータ関数を使用することもできる。
【0034】
[尤度および適合度]
関数または関数の組によって定められるN個の同時または同時に生じるスペクトル特徴に鑑み、パラメータベクトルおよび観測ノイズベクトルを、以下のように各々の時間tについて構成することができる。
【数25】
【0035】
所与の
【数26】
について、時々刻々の尤度に対する比率であるモデルに鑑みた観測データの時間tにおける確率
【数27】
を、以下のように計算することができる。
【数28】
【0036】
上述のスペクトルピークの例において、パラメータベクトルは、
【数29】
であってよい。
【0037】
要素y
t,fはデータの時間−周波数表現の大きさだけを表すため、尤度の虚数成分は消え、
【数30】
であり、したがって尤度は
【数31】
となる。
【0038】
時間−周波数分解関数の任意の動的なモデル、式10の全体的な尤度の表現、およびデータに鑑み、データに鑑みたモデルの総尤度
【数32】
を、時間にわたって尤度の積を求め、あるいは時間にわたって対数尤度の和を求めることによって、計算することができる。
【数33】
【0039】
次いで、総尤度を、適合度を評価し、モデル比較を実行するために使用することができる。具体的には、この手法において、ピークの数、ピークの時間的な動態、異なるピークの構造の間の関係、ピーク構造と外部関連要因との間の関係、時間/空間にわたってのピーク構造の違い、群/病状/実験条件にわたってのピーク構造の違い、など、内在の生理学的な時間−周波数構造の動的な特徴に関する仮説を比較するために、種々の選択または生成されたモデルについての相対の適合度の指標を使用することができる。
【0040】
したがって、いくつかの態様において、本明細書に提示のモデル化の枠組みを、生理学的な系の動的な特性に関する種々の理論の定量的な評価に利用することができるため、データ分析のための強力なツールとしてさらに実施することができる。
【0041】
[パラメータ評価]
生理学的データ、モデルの枠組み、および適合度を評価するための基準に鑑みて、モデルパラメータについての評価を提供することが可能である。1つの特定の実施形態では、後述されるように、ブートストラップ粒子フィルタと呼ばれる統計的サンプリング法を、パラメータを推定するために適用することができる。しかしながら、他の逐次的重点サンプリング(「SIS」)法、カルマンフィルタ、変分ベイズ推定、および期待値最大化(「EM」)アルゴリズムなど、別の評価手順も採用することができる。さらに、明示的なモデルごとの評価も計算することができる。具体的には、そのような評価手順の目的は、時間−周波数表現の各々の時間期間における各々のモデルパラメータの分布の評価を生成することにある。そのような分布に鑑み、データに存在する個々または複数のスペクトルピークに関する統計量を計算することができ、スペクトル構造の変化を
追跡することができ、臨床または疾病の状態に関係したこの分布の関数を計算することができ、これらの量のすべてについて統計的不確実性を計算することができる。
【0042】
本明細書に提示の典型的なスペクトルピークモデルを参照すると、上述のように、式11のパラメータベクトルおよび式12の尤度を、事後分布
【数34】
を近似する分布を有するP個のパラメータベクトルまたは粒子の組を生成するベイズ逐次的充重点サンプリング法であるブートストラップ粒子フィルタを構成するために使用することができる。いくつかの態様において、初期粒子値を、例えばユーザによって提供される情報を使用して、あらかじめ定められた提案密度から引き出すことができる。特には、実験条件のもとでの生理学的データの処理において、データの時間−周波数構造が周知である可能性があるため、スペクトルピークのあらかじめ知られた特性に関する情報を提案密度の選択を知らせるために使用することができる。これは、ピークの数、ピーク周波数、振幅、および帯域幅など、内在の生理学の特定の知識に鑑み、該当の各々のパラメータについての履歴の賢明な選択を可能にする。例えば、プロポフォール麻酔の際のEEGの場合に、おおむね2つのピークが意識の消失の際に時間−周波数ドメインにおいて生じ、したがってN=2である。これらの振動の各々のピーク周波数、振幅、および帯域幅のパラメータはすでに説明済みであるため、この知識を反映する提案密度を、各々のピークについて使用することができる。
【0043】
したがって、時間0における各々のスペクトルピークパラメータxについて、提案密度を、
【数35】
に従って引き出すことができ、
【0044】
ここで各々のパラメータは、実験的に知られた境界の間に一様に分配されてよい。例えば、被験者が両目を閉じるとき、EEG振動が、通常は脳の後頭部において観測され、8〜12Hzの間の範囲に入るピーク周波数を呈する。したがって、この特定の「アルファ」振動のピーク周波数の履歴は、8〜12Hzの間で一様でありうる。
【0045】
いくつかの態様においては、ガウス中心分布、あるいは2項データについてのベータ分布または分散にもとづく履歴についての逆カイ二乗などの特殊な分布など、生理学的に知られたパラメータ値の非一様な分布を使用することも可能である。対照的に、生理学的先例が使用できない場合には、広い一様な密度を利用することができる。パラメータベクトル全体についての多次元の提案密度は、
【数36】
と呼ばれる。
【0046】
本発明によれば、反復ブートストラップ粒子フィルタ法を、粒子の組Pに鑑みて以下のように実行することができ、ここで
【数37】
は、時間tにおけるi番目の粒子であり、
【数38】
、すなわち時間tにおけるすべてのモデルパラメータのベクトルについての値を含む。具体的には、上述の典型的なEEGモデルについてのブートストラップ粒子フィルタ法は、以下のとおりの工程を含むことができる。
1)t=0において
【数39】
のように、提案密度を使用して粒子を初期化する。
2)各々の時間
【数40】
について、すべての粒子
【数41】
に関して:
a)式3および4を適用することによって1ステップ予測密度にもとづく各々の粒子の新たな値
【数42】
をサンプリングする。各々のパラメータが正定値であることを保証するために、絶対値を取ることができる。
b)
【数43】
のように重みw
iを計算し、
【数44】
のように正規化される。
c)重みの組に従って粒子の集合
【数45】
を再サンプリングする。
d)パラメータ評価
【数46】
を、
【数47】
の成分ごとの中央値として定めることができる。有意性αの信頼限界を、
【数48】
の成分ごとのα/2および1−α/2パーセンタイルを使用して計算することができる。
【0047】
次いで、評価によるフィルタ処理後の時間−周波数表現を、パラメータ評価
【数49】
ならびにスペクトル分解関数およびそれらを組み合わせてデータの時間−周波数表現を評価するやり方を説明している式2、7、および8を使用して、再現することができる。
【0048】
ここで図面を特に参照すると、
図1Aおよび1Bは、睡眠などの生理学的プロセスの最中あるいは全身麻酔または鎮静などの薬理学的に引き起こされる状態下の被験者の生理学的監視を提供するために使用することができる典型的な監視システムおよびセンサを示している。
【0049】
例えば、
図1Aは、生理学的監視システム10の実施形態を示している。生理学的監視システム10において、医療の患者12が、各々がケーブル15あるいは他の通信リンクまたは媒体を介して生理学的モニタ17へと信号を送信するセンサアセンブリ13などの1つ以上の入力を使用して監視される。いくつかの態様において、入力(図示せず)を、ユーザからの指示を受け取るように構成することができる。生理学的モニタ17は、プロセッサ19を備えており、さらに随意により表示装置11を備える。センサアセンブリ13は、例えば電気EEGセンサ、EMGセンサ、GSRセンサ、深部電極、などの生理学的検出素子を備える。センサアセンブリ13は、患者12の生理学的パラメータを測定することによってそれぞれの信号を生成することができる。次に、信号は、1つ以上のプロセッサ19によって処理される。次いで、1つ以上のプロセッサ19は、処理後の信号を、表示装置11が設けられる場合には表示装置11へと通信する。一実施形態において、表示装置11は、生理学的モニタ17に組み込まれる。別の実施形態において、表示装置11は、生理学的モニタ17から切り離されている。監視システム10は、一構成においては、可搬の監視システムである。別の事例において、監視システム10は、表示装置を持たないポッド(pod)であり、生理学的パラメータデータを表示装置へと提供するように構成される。
【0050】
分かりやすくするために、
図1Aに示されるセンサアセンブリ13を示すために、ブロックが1つだけ使用されている。図示のセンサアセンブリ13が、1つ以上のセンサを表すように意図されており、患者12から信号を受け取るように構成されていることを、理解すべきである。例えば、センサアセンブリ13は、EEG、EMG、ECoG、LFP、ECG、EOG、GSR、およびSA0
2センサ、ならびに呼吸センサおよび他の生理学的記録に使用される他のセンサを備えることができる。センサの数および種類の種々の組み合わせが、上述のように、生理学的監視システム10における使用に適する。
【0051】
図1Aに示したシステムのいくつかの実施形態において、センサからの信号の受信および処理に使用されるすべてのハードウェアは、同じハウジング内に収容される。他の実施形態においては、信号の受信および処理に使用されるハードウェアの一部が、別のハウジング内に収容される。さらに、特定の実施形態の生理学的モニタ17は、センサアセンブリ13によって送信される信号の受信および処理に使用されるハードウェア、ソフトウェア、あるいはハードウェアおよびソフトウェアの両方を、1つのハウジングまたは複数のハウジングに備える。
【0052】
図1Bに示されるとおり、センサアセンブリにおける各々のセンサ13は、ケーブル25を備えることができる。ケーブル25は、電気シールド内に3つの導体を備えることができる。1つの導体26が、生理学的モニタ17へと電力を供給でき、1つの導体28が、生理学的モニタ17へとグランド信号を供給でき、1つの導体28が、センサ13からの信号を生理学的モニタ17へと伝送することができる。複数のセンサにおいては、1つ以上のさらなるケーブル25を設けることができる。
【0053】
いくつかの実施形態において、グランド信号は接地であるが、他の実施形態においては、グランド信号が、患者基準、患者基準信号、帰還、または患者帰還と称されることもある患者グランドである。いくつかの実施形態においては、ケーブル25が、電気シールド層内に2つの導体を有し、シールド層がグランド導体として機能する。ケーブル25の電気インターフェイス23が、ケーブルを生理学的モニタ17のコネクタ20内の電気インターフェイス21へと電気的に接続することを可能にできる。別の実施形態においては、センサ13と生理学的モニタ17とが、無線で通信する。
【0054】
図2を参照すると、本発明による工程の実行に使用するための典型的なシステム200が示されている。システム200は、入力部202と、プリプロセッサ204と、スペクトルピーク
追跡エンジン206と、生理学的状態分析部208と、出力部210とを備えることができる。システム200のモジュールの一部またはすべてを、
図1に関して上述したとおりの生理学的患者モニタによって実現することができる。
【0055】
入力部202を、患者の年齢、身長、体重、性別、などの特定の被験者のプロフィルに関するユーザからの指示、ならびにタイミング、用量、速度、などの薬物投与情報を受け付けるように構成することができる。いくつかの態様において、指示は、システム200によって監視されている被験者の生理学的状態または状況に関する情報をさらに含むことができる。例えば、そのような生理学的状態として、全身麻酔または鎮静などの薬理学的に引き起こされる状態下にあり、あるいは眠っており、もしくは医療処置を受けている被験者を挙げることができる。さらに、指示は、指定または特定された生理学的状態または状況にもとづいて選択されるモデルパラメータの初期の履歴など、被験者から取得された生理学的データを表現することができる特定のスペクトル分解関数および時間モデルの選択に向けられた情報を含むことができる。
【0056】
プリプロセッサ204を、システム200の動作のためのいくつかの処理工程を実行するように設計することができる。特には、プリプロセッサ204を、入力部202を介して得られる生理学的データを受け取り、データを時系列に集めるように構成することができる。さらに、プリプロセッサ204は、信号の除去またはフィルタ処理の技術によってデータにつきまとう干渉信号および/または望ましくない信号を除去するための工程を実行することが可能であってよい。いくつかの態様においては、プリプロセッサ204を、取得された生理学的データからの生の信号または処理された信号を時間−周波数表現へと集めるように構成してもよい。例えば、プリプロセッサ204は、例えばマルチテーパ法を使用して取得されたEEGデータを処理して集め、スペクトログラムまたはデータ内のスペクトル成分の時間の関数としての他の表現を生成することができる。いくつかの態様においては、プリプロセッサ204を、ユーザからの指示を受け取り、指示に従って前処理工程を実行するように構成してもよい。
【0057】
プリプロセッサ204に加えて、システム200は、プリプロセッサ202と通信し、プリプロセッサ202から前処理済みのデータを受け取り、スペクトルピークなどの取得された生理学的データに関する非定常なスペクトル特徴の特定および
追跡に必要な工程を実行するように設計された
追跡エンジン206をさらに備える。一般に、
追跡エンジン206は、集められたスペクトログラムに存在する特定のスペクトル構造の時間評価をもたらすことができる。例えば、スペクトログラムは、一般に、実質的に共存的または時間的に同時に生じる複数のスペクトルピークを含み、したがって
追跡エンジン206は、ピーク周波数、帯域幅、および振幅などの目標のパラメータ値の時々刻々の時間発展を含むスペクトルピークの特徴の評価を提供することができる。このやり方で、種々のスペクトル特徴の時間プロフィルを判断することができ、次いで生理学的状態分析部208によって、他に判断された指標と併せて、被験者の生理学的状態を特定するために使用することができる。例えば、睡眠の状態、あるいは麻酔性を有する薬物の投与のもとでの患者の意識または鎮静の状態、ならびに判断された状態(複数可)に関する確かさの指標を、生理学的状態分析部208によって判断することができる。次いで、判断された状態(複数可)に関する情報を、任意の他の所望の情報とともに、任意の形状または形態で出力部210へと渡すことができる。いくつかの態様において、出力部210は、間欠的またはリアルタイムのいずれかにてグラフィック、スペクトログラム、または他の表現を使用して表されてよいピークパラメータなどの生理学的データに関する非定常な特徴の時間変化についての情報または指標を提示するように構成された表示装置を備えることができる。
【0058】
図3に目を向けると、生理学的データにおける非定常なスペクトル構造を
追跡するための本発明によるプロセス300が示されている。いくつかの態様において、プロセス300は、本発明に従ってシステムを使用してもたらされるユーザからの指示を受け取ることができるプロセスブロック302において始まることができる。上述のように、指示は、ガウスまたはガンマ関数ならびに他の関数などのパラメータまたは半パラメータ関数を含むための特定のスペクトル分解関数、および生理学的状態または状況にもとづく時間動態モデルの選択に関係することができる。加えて、プロセスブロック302において、指示は、スペクトル分解関数および時間動態モデルを表すパラメータ値に関する初期の履歴の選択も含むことができる。あるいは、上述のように、ユーザによって選択される生理学的状態または状況、ならびに被験者の特徴が、特定のあらかじめプログラムされた関数、モデル、履歴、および他の動作パラメータの使用を引き出してもよい。他の態様においては、あらかじめ設定された構成を、最小限のユーザ入力において利用することができる。
【0059】
プロセスブロック304において、所望の量の生理学的データがもたらされることができる。特定の態様においては、生理学的データの時系列がもたらされ、さらには/あるいは例えば上述のとおりのシステムを使用して被験者から取得される。具体的には、生理学的データを、睡眠、投薬、全身または局所麻酔、鎮静、昏睡、低体温、などの種々の臨床または実験の状況において取得することができる。プロセスブロック304においてもたらされる生理学的データの例として、これらに限られるわけではないが、独立または実質的に同時の様相のいずれかで生成されるEEG、EMG、ECoG、LFP、ECG、EOG、GSR、SA0
2、OMT、または他の生理学的記録の任意の組み合わせを挙げることができる。
【0060】
次いで、プロセスブロック304において、時系列データを、生理学的信号を時間−周波数表現へと集めるために使用することができる。例えば、EEGデータを、マルチテーパまたは他の手法を使用してスペクトログラム表現へと集めることができるが、他の表現も可能であってよい。その後に、プロセスブロック308において、スペクトル分解関数の動的モデルを、スペクトルパラメータの同時評価を計算する評価手順を使用して適用することができる。例えば、目標のスペクトルピークを表すスペクトルパラメータ、スペクトル分解関数を、ピーク周波数、ピーク帯域幅、およびピーク振幅の特徴を表すパラメータ表現を使用して定められるガウスおよび/またはガンマ形状の関数を使用して生成することができる。
【0061】
本明細書に提示のモデル化の枠組みは、ピークの数、各々のピークのスペクトル構造、および各々のピークの時間的動態の特徴を表すため、この評価手順は、実質的に同時発生の様相で、データにおけるピークまたは他のスペクトル特徴の特定ならびにそれらの時間経過の
追跡に役立つ。このやり方で、プロセスブロック310において、スペクトルピークなどの生理学的データに関する1つ以上のスペクトル特徴を表すスペクトルパラメータの時間経過を
追跡することができる。上述のように、ガウスランダムウォークモデルを、スペクトルパラメータの時間的動態を表すために使用することができるが、他の線形および非線形モデルも、他のノイズ分布とともに、使用することが可能である。いくつかの態様において、プロセスブロック304〜310に関する工程を、所望に応じ、あるいは終了条件の達成にもとづいて、繰り返すことができる。
【0062】
プロセスブロック312において、任意の形状または形態のレポートを生成することができる。例えば、グラフィカルな図解を、1つ以上のスペクトル特徴に関するパラメータの時間展開を示す表示装置によって提供することができる。そのようなレポートを、新たな生理学的データが利用可能になるときに実質的にリアルタイムで生成および/または更新することができ、あるいは提供されたすべての生理学的データが本発明に従って処理された後に生成することができる。いくつかの態様において、
追跡されるパラメータを、スペクトログラム表現または他の表現を使用して再現され、フィルタ処理され、あるいはノイズが除去されたデータを生成するために利用することができる。他の態様においては、
追跡されたパラメータに関する情報、ならびに他の生理学的(例えば、心拍数、行動反応速度、睡眠段階、など)または薬理学的(薬物注入速度、薬物効果部位濃度、など)な関連要因を、表示することができ、さらには/あるいは被験者の特定の生理学的状態に関するフィードバックをもたらすために使用することができる。さらに別の態様においては、そのような情報を、例えば投薬システムなどの自動または半自動制御システムへと向けられる連続的または間欠的な制御信号により、あるいは臨床医へともたらされる指示によって、被験者の状態を制御するために使用することができる。
【0063】
次に
図4を参照すると、本発明の一態様によるシステム410が示されている。システム410は、EEG電極アレイとして
図4に示されている生理学的監視装置などの患者監視装置412を含む。しかしながら、患者監視装置412は、EMG、ECoG、LFP、ECG、EOG、GSR、SA0
2、OMT、ならびに他の生理学的または行動データを監視するために機構を含むこともできると考えられる。
【0064】
患者監視装置412は、監視システム416と通信するようにケーブル414を介して接続される。また、ケーブル414および同様の接続を、構成要素間の無線接続によって置き換えることができる。図示のとおり、監視システム416を、専用の分析システム418へとさらに接続することができる。また、監視システム416および分析システム418を、統合することも可能である。
【0065】
監視システム416を、EEGまたは他の生理学的な電極アレイによって取得される生の信号を受信し、それら生の信号を波形として集め、場合によっては表示するように構成することができる。したがって、分析システム418は、監視システム416から生理学的または他の波形を受け取り、説明されるように、それらの波形を処理し、レポートを印刷によるレポートとして生成することができ、あるいは好ましくは情報のリアルタイム表示として生成することができる。しかしながら、監視システム416および分析システム418の機能を、共通のシステムへと組み合わせることも可能であると考えられる。一態様において、監視システム416および分析システム418を、睡眠などの生理学的な状態下あるいは全身麻酔または鎮静の最中などの麻酔化合物の投与などの薬理学的に制御された状態における現在および将来の脳の状態を判断するように構成することができる。
【0066】
別の態様において、監視システム416および分析システム418を、1セットの動的およびスペクトル分解モデルのうちのどれがデータに最もよく適合するかを判断するための統計的検定を実行することによって患者の生物学的または神経生理学的状態の特徴を表すように構成することができる。例えば、睡眠の最中に、正常および病的な睡眠に関するあらかじめ定められたモデルを、同時にデータへと適用することができる。データに鑑みたそれらのモデルの相対の尤度が、睡眠の病気の診断の手段として役に立つことができる。別の例においては、全身麻酔または鎮静の投与に適用される場合、患者特有の動態の自動的な特定が、投薬の精度または患者の将来の神経状態の予測を大きく改善することができる。
【0067】
システム410は、投薬システム420をさらに含むことができる。投薬システム420を、システム410が時間変化するモデルパラメータから導出され、あるいは時間変化するモデルパラメータを取り入れている制御信号にもとづくことができる閉ループ監視および制御システムを形成するように、分析システム418および監視システム416に組み合わせることができる。本発明によるそのような閉ループ監視および制御システムは、幅広い範囲の動作が可能であるが、ユーザが入力または指示をもたらすことを可能にし、閉ループ監視および制御システムを設定することを可能にし、閉ループ監視および制御システムからのフィードバックを受信することを可能にし、必要であれば閉ループ監視および制御システムを設定変更および/またはオーバーライドすることを可能にするユーザインターフェイス422を備える。
【0068】
一般に、本発明による監視および/または制御システムは、生理学的データの動的な時間−周波数構造に相関した任意の薬理学的および非薬理学的な作用物を届けるための閉ループ制御システムを生み出すことができる。制御されうる生理学的状態として、睡眠、全身麻酔、鎮静、医療行為から生じた昏睡、低体温、などが挙げられる。本発明の一態様においては、全身麻酔、鎮静、または昏睡が、生理学的データから評価された時間変化するスペクトル分解関数パラメータから導出される制御信号にもとづいて投薬システムを使用して制御される。麻酔性を有する薬物の例として、これらに限られるわけではないが、プロポフォール、エトミデート、バルビツール酸塩、チオペンタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、メトヘキシタール、ベンゾジアゼピン、ミダゾラム、ジアゼパム、ロラゼパム、デクスメデトミジン、ケタミン、セボフルラン、イソフルレン、デスフルラン、レミフェンタニル(Remifenanil)、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、などが挙げられる。
【0069】
いくつかの構成において、投薬システム420は、患者を全身麻酔または鎮静などの麻酔化合物によって影響された意識低下の状態とする目的で麻酔化合物の投与を制御できるだけでなく、患者の意識の状態を高め、あるいは下げるためのシステムおよび方法を実現および反映することもできる。
【0070】
本発明の一態様においては、薬理学的に引き起こされる睡眠を、上述のように生理学的データから評価された時間変化するスペクトル分解関数パラメータから導出される制御信号にもとづいて投薬システム420を使用して制御することができる。睡眠の補助または調節に使用される特性を有している薬物の例として、これらに限られるわけではないが、ゾルピデム、エスゾピクロン、ラメルテオン、ザレプロン、ドキセピン、ベンゾジアゼピン、抗ヒスタミン(antihistimines)、などが挙げられる。
【0071】
本発明の別の態様においては、精神疾患、神経認知の疾患、または神経障害を治療するために投与される薬物を、生理学的データから評価された時間変化するスペクトル分解関数パラメータから導出される制御信号にもとづいて投薬システム420を使用して制御することができる。
【0072】
本発明の別の態様においては、心拍、血圧、呼吸、または血中酸素などの生理学的変数を調節するために投与される薬物を、時間変化するスペクトル分解関数パラメータから導出される制御信号にもとづいて投薬システム420を使用して制御することができる。
【0073】
本発明の別の態様においては、苦痛または痛覚を制御するために投与される薬物が、生理学的データから評価された時間変化するスペクトル分解関数パラメータから導出される制御信号にもとづいて投薬システム420を使用して制御される。苦痛または痛覚の制御に使用される特性を有する薬剤の典型的な分類として、これらに限られるわけではないが、オピオイド、クロニジンなどの交感神経遮断薬、およびケタミンなどのNMDA受容体拮抗薬が挙げられる。例として、
図5Aに示されるチャープ状(chirp−like)のスペクトル、ガウス帯域幅構造、および1/fの観測ノイズを有する模擬によるデータ502を生成した。この模擬を、
【数50】
のように、
【0074】
2Hzでサンプリングされた10分間にわたってパラメータ化した。パラメータm
F、m
B、m
Aを、−1.2528、2.2、および1.9661にそれぞれ設定し、b
F、b
B、b
Aを、ln(35)、−20、およびln(0.7)にそれぞれ設定した。これらのパラメータ値を式5と共に使用し、ノイズを式5および
【数51】
を使用して各々の周波数へと加えた。
【0075】
概念の立証として、模擬によるデータ502に本発明によるブートストラップ粒子フィルタ法を適用し、すべてのパラメータについて10,000の粒子および広い一様な履歴を使用した。フィルタの出力は、
図5Bに図式的に示されるピーク周波数506、ピーク振幅508、およびピーク帯域幅510の時間変化する評価を生み出した。フィルタは、ピークパラメータを良好に評価し、真値(破線で示されている)は、ピーク周波数、振幅、および帯域幅についてそれぞれ時間の99.92%、99.58%、および97.58%において90%の信頼境界の範囲内である。結果として、
図5Aに示される再現されたスペクトログラム504は、元のスペクトログラムにおけるチャープにきわめて似ている。帯域幅については、チャープの広い帯域幅/小さい振幅の部分において信号対雑音比が小さいため、評価が初期は不確実である。チャープの振幅が増し、帯域幅が狭くなるにつれて、帯域幅の信頼境界は次第にきつくなる。
【0076】
別の例として、高密度(64チャネル)EEGデータセットを、薬物プロポフォールのもとでの全身麻酔の投与の際に収集した。この実験においては、プロポフォールの濃度を0mcg/mlのベースラインから5mcg/mlのピークレベルへとゆっくりと上昇させ、その後に濃度を再び0mcg/mlへと徐々に戻すコンピュータ制御輸液ポンプを使用して、被験者を意識のない状態および意識のある状態にした。この例においては、おおむね2時間の実験の最中に1名の被験者から得られたEEGデータを利用し、単一のラプラス参照前部チャネル(single Laplacian−referenced frontal channel)を調べた。
【0077】
本発明によるブートストラップ粒子フィルタ法を、
図6Aに示される実験EEGデータ602へと適用した。特に、プロポフォールデータは、本明細書に記載のとおり、全身麻酔の投与の最中に変化する2つの主要な振動の態様、すなわち移動するピークおよび低速振動を有するため、分析に特に適している。移動するピークは、軽い麻酔において15〜25Hzにおける広帯域かつ小さい振幅のスペクトルピークとして現れ、その後にプロポフォールの濃度が高くなるにつれて8〜12Hzにおけるより狭帯域かつ大きな振幅のスペクトルピークへと移行する律動である。低速振動は、きわめてゆがんだピーク構造と、プロポフォールの投与の最中に大きく増加する振幅とを有する1.5Hz未満に中心を持つ律動である。この情報を、ピークの各々についての履歴を生成するために使用した。
【0078】
粒子フィルタの実例は、移動するピークおよび低速振動のそれぞれについて使用されるガウスおよびガンマ分布によって両方のピークを同時に評価するために10000の粒子を使用した。履歴を、生理学的な系の知識にもとづいて選択した。具体的には、移動するピークについて、ピーク周波数および帯域幅の履歴は、それぞれ5〜35Hzの間および0〜30Hzの間の一様ランダムであった。低速振動について、ピーク周波数および帯域幅の履歴は、それぞれ0〜5Hzの間および0〜3Hzの間の一様ランダムであった。振幅の履歴は、0からデータパワーのロングの最大値まで一様であった。
【0079】
上述の模擬の例と同様に、
図6Bに示した3つのすべてのピークパラメータについての粒子フィルタの評価は、振幅が最小であって、帯域幅が広かったときに、実験の開始および終了において最大の不確かさを有した。全体として、ピーク周波数の評価は、両方の律動についてデータピークの傾向をたどった。低速振動モデルのガンマ構造が、再現されたスペクトログラム604におけるきわめてゆがんだスペクトルピークの妥当な再現を可能にした。
【0080】
上述のように、本発明は、生理学的データの定量的な分析のための強力なツールを提供する。評価によるピークパラメータと生理学的な相関物との間の関係の研究が、生理学的活動を支配している動的なプロセスの特徴把握への洞察を提供することができる。
【0081】
上述の構成のうちの1つ以上の構成からの特徴を選択し、明示的には上述されていないかもしれない特徴の部分的組み合わせからなる別の構成を生み出すことが可能である。さらに、上述の構成のうちの1つ以上の構成からの特徴を選択して組み合わせ、明示的には上述されていないかもしれない特徴の組み合わせからなる別の構成を生み出すことが可能である。そのような組み合わせおよび部分的組み合わせに適した特徴は、本出願を全体として検討することで、当業者にとって容易に明らかであると考えられる。本明細書および添付の特許請求の範囲に記載の主題は、技術におけるすべての適切な変更を包含するように意図される。