(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各図における寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化とのため適宣変更されており、実際の寸法関係を表していない。
【0018】
透明電極付き基板は、ディスプレイまたはタッチパネル等のデバイスに広く用いられる。透明電極付き基板21は、
図3に示すように、少なくとも、透明基板12と、透明電極(透明電極層)13とを含む。透明電極層13上に引出電極14が設けられたものも、透明電極付き基板に含まれる。
【0019】
透明基板12は、透明電極付き基板21の土台(基礎)となる材料であり、少なくとも可視光領域で無色透明であればよい。透明基板としては、ガラス等の板状のものや、透明フィルム等が用いられる。透明基板12として透明フィルムが用いられる場合、その厚みは特に限定されないが、0.01mm以上0.4mm以下が好ましい。厚みがこの範囲内であれば、透明フィルム基板12、およびそれを用いた透明電極付き基板21が十分な耐久性と適度な柔軟性を有する。また、透明フィルム基板12の厚みが上記範囲内あれば、ロール・トゥ・ロール方式により透明電極13等を製膜できるため、透明電極付き基板21の生産性を向上できる。
【0020】
透明フィルム基板の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフテレート(PBT)、およびポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;シクロオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリイミド樹脂;およびセルロース系樹脂等が挙げられる。中でもポリエチレンテレフタレートまたはシクロオレフィン系樹脂は、安価で透明性に優れるため、透明基板12として好ましく用いられる。
【0021】
透明基板12と透明電極層13との間には、
図4に示されるように、種々の機能層15(例えば、光学調整層、反射防止層、ぎらつき防止層、易接着層、応力緩衝層、ハードコート層、易滑層、帯電防止層、結晶化促進層、結晶化速度調整層、耐久性向上層、または、その他の機能層)が設けられていてもよい。機能層15は、透明基板12および透明電極層13とは異なる材料からなる層(異層)であることが好ましい。
【0022】
機能層の材料としては、アクリル系有機物、ウレタン系有機物、シリコーン系化合物、シラン化合物、イミド化合物等のポリマー材料;カーボン材料;マグネシウム、カルシウム、チタン、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、シリコン、スズ等の金属材料、およびこれらの酸化物、窒化物、フッ化物等が用いられる。これらを適宜組み合わせたものも、機能層の材料となり得る。
【0023】
光学調整層としては、透明基板12や透明電極層13と屈折率の異なる有機材料層や無機材料層が設けられる。例えば、酸化シリコン(SiO
2またはSiO
x)等の低屈折率層や、Nb
2O
5等の高屈折率層を単層でまたは積層して用いることができる。透明基板12上に、透明基板と屈折率の異なる有機無機複合材料層を、ハードコート層としての機能を兼ね備えた光学調整として設けてもよい。易接着層としては、例えば有機無機複合材料層が用いられる。応力緩衝層としては、例えば無機材料層が用いられる。
【0024】
1つの機能層(単層)は、単一の機能を有することもあれば、複数の機能を有することもある。例えば、透明基板12と透明電極層13との間に、光学調整層として透明誘電体層が設けられている場合、その透明誘電体層に、透明基板12と透明電極層13との密着性を向上させる機能を持たせることもできる。すなわち、透明誘電体層が、光学調整層および密着性向上層として機能する。このような機能を有する材料としては、例えば、SiO
x(x=1.8〜2.0)が挙げられる。
【0025】
機能層は、単層でもよく多層でもよい。機能層が複数層からなる場合、各機能層が単一または複数の機能を発揮したり、ある機能層と別の機能層とが相まって、単一または複数の機能を発揮することもある。
【0026】
機能層の製膜方法は、特に限定されない。製膜方法は、例えば、スパッタまたはエアロゾルデポジション等のドライプロセスを用いてもよいし、有機物をバインダーとして無機粒子を分散させたり、ゾルゲル法により無機膜を形成したりする等のウエットプロセスを用いてもよい。
【0027】
透明基板12の透明電極層非形成面や、透明電極層13の表面に機能層を設けてもよい。透明基板12の表面に、機能層15または透明電極層13との付着性を向上させるための処理が行われてもよい。付着性を高める処理としては、透明基板12の表面に電気的極性を持たせる処理が挙げられ、具体例として、コロナ放電およびプラズマ処理が挙げられる。
【0028】
次に、透明電極13について説明する。透明電極13は、透明基板12の一方の面または両面に製膜される。透明電極は、膜状とも層状ともいえるので、「透明電極層」と称することもある。透明電極層13は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0029】
透明電極13の材料は、透明性と導電性とを両立可能なものであれば、特に限定されない。例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、および酸化錫等の金属酸化物を主成分とするものが、透明電極13の材料として挙げられる。品質の安定性の観点から、酸化インジウム錫(ITO)等の酸化インジウムを主成分とする金属酸化物が、透明電極13の材料として好適に用いられる。
【0030】
透明電極層13の製膜表面(透明基板12と反対側の表面)の平均最高曲率Sscが小さい場合に、透明電極層13上に設けられる引出電極14との密着性が高くなる傾向がある。平均最高曲率Sscは、観察面内に存在する各凸部の最高点(頂点)の曲率の算術平均であり、下記式により算出される。
【0032】
上式において、nは観察面内の突起の個数、Zは突起(凸部)の高さを表す。XおよびYは観察面のX座標およびY座標であり、(X,Y)は、観察面における突起の位置を表す。(X
i,Y
i)はi番目の突起の座標を表す。
【0033】
図1は、透明電極付き基板21における透明電極層13の表面のSscが小さい場合(例えば、5.4×10
−4nm
−1以下の場合)の概念図である。
図2は、透明電極層113の表面のSscが大きい場合(5.4×10
−4nm
−1を超えている場合)の概念図である。これらの図は、後述の表面処理(易接着加工)が実施された面CTの理解を容易にするための図である。Sscが大きいほど各凸部の頂点が鋭く、Sscが小さいほど各凸部の頂点が丸みを帯びていることを表す。
【0034】
Sscは凸部の先端(頂点)だけを抽出したパラメータであるため、算術平均高さSa等のように、面全体の粗さを示すパラメータとは本質的に異なる。そのため、Saが同等でもSscが異なる値をとることがあり得る。ちなみに、
図1の透明電極層13と
図2の透明電極層113とでは、凸部の高さが同等で頂点の鋭さだけが異なるため、両者のSaは同等であるが、Sscは異なる。
【0035】
透明電極層13の表面のSscは5.4×10
−4nm
−1以下が好ましく、5.0×10
−4nm
−1以下がより好ましく、4.5×10
−4nm
−1以下がさらに好ましく、3.0×10
−4nm
−1以下が特に好ましい。Sscの下限は特に限定されないが、2.5×10
−4nm
−1以上が好ましい。Sscは、2.5×10
−4nm
−1以上5.4×10
−4nm
−1以下が好ましく、2.5×10
−4nm
−1以上5.0×10
−4nm
−1以下がより好ましく、2.5×10
−4nm
−1以上4.5×10
−4nm
−1以下がさらに好ましく、2.5×10
−4nm
−1以上3.0×10
−4nm
−1以下が特に好ましい。
【0036】
図2に示されるように、透明電極層113の表面の凸部の頂点が鋭い場合、透明電極と引出電極との界面において、凸部の頂点を中心とした応力集中が起こりやすくなる。局所的に集中した応力は界面破壊の原動力となり、その結果、透明電極と引出電極との密着性が悪くなると考えられる。逆に、
図1に示されるように、透明電極層13の表面の凸部の頂点が鋭くない(頂点が鈍っており丸みを帯びている)場合、透明電極と引出電極との界面における応力集中が生じ難く、透明電極と引出電極との密着性が高まると考えられる。
【0037】
透明電極層13は、例えば、スパッタ法により製膜される。スパッタ法により透明電極層13を製膜する場合、放電電力と製膜速度とが比例関係にある放電電力領域(比例範囲)内の電力で製膜を行い(透明電極製膜工程)、その後に、比例範囲よりも低電力で、放電電力と製膜速度とが比例関係にない電力領域(逸脱範囲)での処理(表面処理工程)を行うことにより、Sscの小さい透明電極層が得られる。
【0038】
一般的なスパッタ製膜では、
図6の破線Gに示されるように、製膜速度yは放電電力xに比例し、y=kx(kは定数)の関係が成り立っている。一方、放電電力が極端に小さい範囲Qでは、プラズマエッチング速度が、製膜速度に対して無視できない大きさであるため、実線Pに示すように、製膜速度は放電電力に比例しない。言い換えれば、製膜速度yが放電電力xと比例関係になく、y<kxとなる電力範囲Q(逸脱範囲)でスパッタを実施すると、エッチングの効果が大きい。このエッチング効果を利用することにより、透明電極層13の平均最高曲率Sscを小さくして、引出電極14との密着性を向上できる。すなわち、比例範囲の電力で透明電極層をスパッタ製膜後に、逸脱範囲の電力でのスパッタ処理を行うことにより、透明電極層が表面処理され、引出電極との密着性に優れる透明電極層13を形成できる。
【0039】
所定の放電電力において、放電電力と製膜速度とが比例関係にあるか否か、すなわち比例範囲と逸脱範囲のいずれかであるかは、所定の放電電力の−10%の放電電力で製膜を行った際の製膜速度から判定できる。
図5を用いて、製膜速度と放電電力とが比例関係にあるか否の判断方法について説明する。
【0040】
図5に示すように、放電電力を横軸(x軸)、製膜速度を縦軸(y軸)とするグラフ平面において、透明電極の製膜あるいは表面処理を行う際のスパッタ放電電力x
Aと製膜速度の値を点Mとしてプロットし、点Mと原点Oとを通る直線G
1を引く。この直線は、y=kxで表され、点Mの座標は(x
A,kx
A)で表される。製膜速度yは、透明電極サンプルの厚みから、単位時間あたりの膜厚の増加量として算出される。
【0041】
次に、G
1よりもよりも製膜速度が15%小さいことを示す仮想線G
2を引く。G
2はy=0.85kxで表される。点Mよりも10%小さい放電電力0.9x
Aで製膜を行った際の製膜速度をグラフ平面にプロットした点が、L1やL2のように、直線G
2よりも上にある場合に、所定の放電電力x
Aでは、放電電力xと製膜速度yとが比例関係にある(x
Aが比例範囲内である)と判断する。プロットした点がL3のように直線G2よりも下にある場合、あるいは直線G2上にある場合は、放電電力xと製膜速度yとが比例関係にないと判断する。
【0042】
放電電力と製膜速度との間に比例関係が成立していない逸脱範囲Qでは、製膜速度yが、比例範囲にある場合の0.85倍以下であるから、y≦0.85kxの関係が成立している。したがって、比例範囲内の第一放電電力x
1でスパッタ製膜を行った後、逸脱範囲の第二放電電力x
2で表面処理を行う場合、第一放電電力x
1での製膜速度をy
1、第二放電電力x
2での製膜速度をy
2とすると、(y
2/x
2)≦0.85(y
1/x
1)の関係が成立する。すなわち、第一放電電力における放電電力と製膜速度の比k
1=y
1/x
1と、第二放電電力における放電電力と製膜速度の比k
2=y
2/x
2との間に、k
2/k
1≦0.85の関係が成立する放電電力x
2で表面処理を行うことにより、平均最高曲率Sscが小さく、引出電極との密着性に優れる透明電極層が得られる。
【0043】
比例範囲内の第一放電電力x
1でのスパッタ製膜条件は、一般的な製膜条件であれば特に限定されない。一般には、アルゴン等の不活性ガスと酸素等の酸化性ガスをチャンバー内に導入しながら、放電を行うことにより、導電性酸化物がスパッタ製膜され、透明電極層が形成される。
【0044】
透明電極層が複数層からなる場合や、複数のスパッタターゲットを用いて透明電極層が形成される場合、厳密には、それぞれの層(あるいはそれぞれのスパッタターゲット)について、放電電力xと製膜速度yの比kを求める必要がある。例えば、第一ターゲット、第二ターゲットおよび第三ターゲットのそれぞれに電力を印加して透明電極層を膜厚方向に3分割して製膜する場合は、第一ターゲットへの放電電力x
11および製膜速度y
11、第二ターゲットへの放電電力x
12および製膜速度y
12、ならびに第三ターゲットへの放電電力x
13および製膜速度y
13のそれぞれから、放電電力と製膜速度の比k
11,k
12およびk
13が求められる。ただし、これらのターゲットへの放電電力x
11、x
12およびx
13はいずれも比例範囲内にあるから、k
11,k
12およびk
13は、いずれも略等しい。そのため、比例範囲の放電電力での最表面の製膜(第三ターゲットへの放電による製膜)における放電電力と製膜速度の比k
13を、比例範囲のパワー密度でのスパッタ製膜における放電電力と製膜速度の比k
1とみなしてよい。
【0045】
比例範囲内の放電電力でスパッタ製膜された透明電極層は、製膜表面のSscが大きく、一般にその値は、5.5×10
−4nm
−1以上である。この製膜表面に、透明電極製膜時の放電電力x
1よりも小さな第二放電電力x
2で表面処理(易接着加工)を行うことにより、Sscを小さくできる。前述のように、放電電力と製膜速度が比例範囲にない逸脱範囲の放電電力x
2でスパッタを行うと、プラズマエッチングの影響が大きくなるために、表面形状が変化してSscが小さくなる。
【0046】
逸脱範囲では、放電電力が小さくなるほど、スパッタ時のプラズマエッチングの影響が大きいため、放電電力x
2とパワー密度の比y
2の比k
2=y
2/x
2が小さくなる傾向がある。スパッタ製膜速度よりもプラズマエッチング速度が大きくなると、表面処理によって膜厚が減少し、製膜速度y
2がマイナスの値をとるため、k
2もマイナスの値をとる。
【0047】
比例範囲にある第一放電電力での透明電極層のスパッタ製膜時の放電電力x
1と製膜速度y
1との比k
1に比べて、逸脱範囲にある第二放電電力での透明電極層の表面処理時の放電電力x
2と製膜速度y
2との比k
2が小さいほど、表面処理後の透明電極層13のSscが小さくなる傾向がある。前述のように、k
1とk
2の比k
2/k
1は、0.85以下であることが好ましい。k
2/k
1は、0.8以下がより好ましく、0.75以下がさらに好ましい。一方、k
2が過度に小さい場合は、表面処理時のプラズマエッチングが過剰となり、透明電極層へのダメージが大きくなる傾向がある。そのため、k
2/k
1は、−2以上が好ましく、−1.5以上がより好ましく、−1以上がさらに好ましい。
【0048】
低放電電力でのスパッタによる表面処理の効果を高める観点から、表面処理前の透明電極層の表面の平均最高曲率Ssc
0と表面処理後の透明電極層の表面の平均最高曲率Ssc
1との差Ssc
0−Ssc
1、すなわち表面処理によるSscの減少量は、5×10
−5nm
−1以上が好ましく、8×10
−5nm
−1以上がより好ましく、1×10
−4nm
−1以上がさらに好ましい。上記の様に、表面処理時の放電電力を小さくして、k
2/k
1を小さくすることにより、Ssc
0−Ssc
1が大きくなる傾向がある。また、表面処理の時間を長くすれば、Ssc
0−Ssc
1が大きくなる傾向がある。一方、表面処理によるSscの変化が過度に大きいと、透明電極層へのダメージが大きくなる傾向がある。そのため、Ssc
0−Ssc
1は、3×10
−4nm
−1以下が好ましく、2.5×10
−4nm
−1以下がより好ましい。
【0049】
透明電極13へのダメージを抑えるために、表面処理時の放電電圧は小さいことが好ましい。表面処理時の放電電圧は、400V以下が好ましく、350V以下がより好ましい。
【0050】
第二放電電力での表面処理は、透明電極の透明性および導電性を維持したまま表面形状を制御することが好ましい。表面処理では、プラズマエッチングと並行してターゲットからのスパッタ製膜も進行しているため、表面処理後の透明電極層の表面は、表面処理時のターゲットの組成にも依存する。透明電極層の透明性および導電性を維持するためには、スパッタ製膜時と同様の組成を有するターゲットを用いて表面処理を行うことが好ましい。例えば、ITOターゲットを用いてスパッタ製膜を行う場合、表面処理時のターゲットとしてもITOターゲットを用いることが好ましい。表面処理に使用するスパッタターゲットは、透明電極層の製膜に使用したスパッタターゲットと同組成であることが好ましい。例えば、ITOターゲットを用いる場合、製膜時のターゲットと表面処理時のターゲットのスズ含有量の差が±1%の範囲内であることが好ましい。バッチ式でスパッタが行われる場合は、透明電極層の製膜と表面処理に同一のターゲットを用いることにより、スパッタ製膜時と表面処理時のターゲットとが同様の組成を有するようにしてもよい。
【0051】
低放電電力でのスパッタの際にプラズマエッチングを生じやすくするために、表面処理時の雰囲気ガスは酸素量が多いことが好ましい。表面処理時のチャンバー内の酸素分圧は、製膜時のチャンバー内の酸素分圧よりも大きいことが好ましい。一方、酸素分圧が大きすぎると透明電極層へのダメージが大きくなる場合がある。そのため、表面処理時の酸素分圧は、5×10
−4Pa以上5×10
−2Pa以下が好ましく、1×10
−3Pa以上1×10
−2Pa以下がより好ましい。
【0052】
本発明の透明電極付き基板は、ディスプレイ用の透明電極、およびタッチパネルの位置検出用電極等として用いることができる。これらのデバイスに透明電極付き基板が用いられる場合、表面処理後の透明電極層13上に引出電極14が形成される(引出電極形成工程)。引出電極14は、透明電極13とICコントローラ等を電気的に接続するための引出配線である。引出電極14は透明性を有している必要はなく、導電性が重視されるため、その材料として金属が用いられる。金属の引出電極の形成には、例えば、導電性ペーストが用いられる。また、スパッタ法等のドライプロセスにより金属を層状に形成した後、エッチングにより金属層をパターニングすることにより、引出電極を形成してもよい。
【0053】
透明電極付き基板21において、表面処理後の透明電極層13は、一般にはアモルファス膜である。酸素含有雰囲気下で透明電極層を加熱することにより、透明電極層13は結晶化する。透明電極層の結晶化は、引出電極14の形成前後のいずれに行ってもよい。透明電極層13が結晶化されると、導電性および透明性が向上する傾向がある。また、透明電極層の結晶化により、透明電極13と引出電極14との密着性が向上する傾向がある。
【0054】
上記のように、本発明によれば、透明電極層を製膜後に低放電電力で表面処理を行うことにより、平均最高曲率Sscが小さく、引出電極との密着性に優れる透明電極層を備える透明電極付き基板が得られる。透明電極層を結晶化することにより、導電性と透明性が高められる。また、透明電極層を結晶化した場合でも、透明電極層と引出電極との密着性が高い。そのため、透明電極の導電性および透明性と、引出配線との高い密着性とを両立した透明電極付き基板を提供できる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0056】
実施例における、膜厚、表面粗さ(SscおよびSa)、ならびに引出電極との密着性評価(剥離率)の測定方法は、以下の通りである。
【0057】
[膜厚測定]
透明電極層の膜厚は、RIGAKU製の走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus III+を用い、検量線法にて測定した。
【0058】
[表面粗さ測定]
透明電極層の表面粗さは、SIIナノテクノロジー製の走査型プローブ顕微鏡システムNanoNaviReal(スキャナ型番:FS20N)により測定した。詳説すると、カンチレバーSI-DF40(SIIナノテクノロジー製、ばね定数:42N/m)を用い、DMFモードにて1μm×1μmの範囲を、256×256の解像度で測定した。測定で得られた画像の傾き補正を行った後、粗さ解析プログラムSPIPにて解析を行い、平均最高曲率Sscおよび算術平均高さSaを算出した。
【0059】
なお、詳細な測定条件は以下の通りである。
走査周波数:1Hz
Iゲイン :0.2
Pゲイン :0.05
Aゲイン :0
【0060】
[引出配線密着性評価(剥離率測定)]
透明電極層を積層させている透明フィルム基板に対して、140℃90分のアニールが行われ、かかる透明電極層上に、引出配線を模した電極パターン(引出電極)を形成し、密着性を評価した。
【0061】
銀ペーストをスクリーン印刷にて、太さ1mm、厚み7μm、ライン間隔1mmのパターンに印刷した後、140℃60分の焼成を行い、銀ペーストを硬化させ、引出電極を形成した。このサンプルを、温度60℃湿度90%の環境に240時間保管し、取り出し後に下記の剥離試験を行った。
【0062】
100マスのクロスカットを行った後、サンプルの画像をスキャナで取り込み、テープ剥離試験を行った。剥離試験を行った後のサンプルの画像を再びスキャナで取り込み、剥離試験後の電極面積を剥離試験前の電極面積で割って、剥離している面積の割合(剥離率)を算出した。電極面積の計算にはカットラインで囲まれた部分だけを用い、100マスの外周より外の部分は使用しなかった。
【0063】
[実施例1]
透明基板として、厚さ50μm、ガラス転移温度80℃のPETフィルムの両面に、屈折率調整機能を有するハードコート層が形成された透明フィルム基板を使用した。
【0064】
ロール・トゥ・ロール方式のスパッタ製膜装置に透明フィルム基板を投入し、5つのチャンバーのカソードのそれぞれに、酸化スズ含有量7.0質量%のITOターゲットをセットした。その後、製膜装置内で透明フィルム基板を搬送させながら、チャンバーの水分圧が1×10
−4Paとなるまで真空排気を行った。真空状態を維持したままチャンバー内の温度を90℃にして加熱し、脱ガスを行った。
【0065】
その後、4つのチャンバーを製膜用チャンバーとして、透明フィルム基板上に、ITO透明電極層を製膜した。第一チャンバーでは、結晶化速度調整層としてのITO層を製膜し、第二から第四のチャンバーでは主電極層としてのITO層を製膜した。
【0066】
結晶化速度調整層の製膜は、アルゴン:酸素を100:15の比率でチャンバー内に導入しながら、基板温度0℃、チャンバー内圧力0.4Paの条件下で、DC電源を用いて6.8kWの放電電力で10秒間、スパッタ製膜を行った。結晶化調整層の膜厚は2.4nmであった。結晶化速度調整層の製膜速度は、0.24nm/秒であり、製膜速度/放電電力で表される製膜速度定数kは、0.035nm/kW秒であった。
【0067】
結晶化速度調整層上への主電極層の製膜は、アルゴン:酸素を100:5の比率でチャンバー内に導入しながら、基板温度0℃、チャンバー内圧力0.4Paの条件下で、DC電源を用いて18.5kWの放電電力で、各チャンバーでの製膜時間10秒、合計30秒のスパッタ製膜を行い、主電極層を形成した。主電極層の膜厚は19.7nmであった。主電極層の製膜速度は、0.66nm/秒であり、製膜速度/放電電力で表される製膜速度定数kは、0.035nm/kW秒であった。
【0068】
上記の様に、結晶化速度調整層の製膜速度および主電極層の製膜速度定数k
1は、いずれも0.035nm/kW秒であった。放電電力が6.8kWから18.5kWの範囲では、放電電力と製膜速度との間に比例関係が成立していた。
【0069】
透明電極層を製膜後、第五チャンバーにて表面処理を行った。アルゴン:酸素を100:15の比率でチャンバー内に導入しながら、基板温度0℃、チャンバー内圧力0.4Paの条件下で、DC電源を用いて0.5kWの放電電力で10秒間処理を行った。表面処理後の透明電極層の膜厚は、処理前よりも0.16nm減少していた。この表面処理における製膜速度は、−0.016nm/秒であり、表面処理により膜厚が減少していた。製膜速度/放電電力で表される製膜速度定数k
2は、‐0.032nm/kW秒であった。透明電極製膜時の製膜速度定数k
1と表面処理時の製膜速度定数k
2の比k
2/k
1は、−0.89であった。
【0070】
得られた透明電極付き基板を熱風乾燥オーブンにて、140℃で90分アニールしたところ、アニール後の透明電極層のシート抵抗は132Ω/□であり、水との接触角は60.1°であった。アニール後の透明電極層の表面のSscは3.1×10
−4nm
−1、Saは0.38nmであった。引出配線密着性評価を行ったところ、剥離率は3.4%であった。
【0071】
[実施例2〜4および比較例1]
表面処理時の放電電力を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明電極付き基板を作製し、評価を行った。
【0072】
[比較例2]
結晶化速度調整層と透明導電層とを製膜した後、表面処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして透明電極付き基板を作製した。得られた透明電極付き基板について、実施例1と同様の評価を行った。
【0073】
[比較例3]
6つのチャンバーのカソードのそれぞれに、酸化スズ含有量7.0質量%のITOターゲットをセットし、実施例1と同様の条件により第一チャンバーで結晶化速度調整層を製膜した。その後、第二チャンバーから第六チャンバーの5つのチャンバーにおいて、放電電力を11.1kWに変更したこと以外は実施例1の主電極層の製膜と同一の条件で計50秒のスパッタ製膜を行い、膜厚19.7nmの主電極層を形成した。その後、表面処理は行わなかった。得られた透明電極付き基板について、実施例1と同様の評価を行った。
【0074】
[比較例4]
3つのチャンバーのカソードのそれぞれに、酸化スズ含有量7.0質量%のITOターゲットをセットした。結晶化速度調整層を製膜せずに、3つのチャンバーの全てにおいて、実施例1の主電極層の製膜条件と同一の条件でスパッタ製膜を行った。透明フィルム基板の搬送速度を実施例1よりも小さくすることにより、製膜時間を長くして、膜厚23.0nmの透明電極層を形成した。その後、表面処理は行わなかった。得られた透明電極付き基板について、実施例1と同様の評価を行った。
【0075】
上記各実施例および比較例における透明電極層の製膜および表面処理条件、ならびに評価結果を表1に示す。また、実施例1〜3および比較例2の透明電極表面の走査型プローブ顕微鏡による観察像(観察範囲1μm×1μm)を
図7に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
透明電極層を製膜後に表面処理を行わなかった比較例2の透明電極層は、Sscが5.5×10
−4nm
−1であったのに対して、k
2/k
1が0.85以下となる放電電力でスパッタによる表面処理を行った実施例1〜4では、Sscが減少しており、これに伴って引出電極の剥離率が小さくなっていた。一方、k
2/k
1=0.86の条件でスパッタによる表面処理を行った比較例1では、比較例2と同等のSscであり、剥離率の顕著な低減はみられなかった。透明電極層の製膜条件を変更した比較例3および比較例4では、比較例2よりもSscが大きくなっていた。
【0078】
実施例1〜4では、表面処理時の放電電力が小さいほど、k
2/k
1が小さくなり、これに伴って表面処理後のSscが小さくなり、剥離率が小さくなる(密着性が向上する)傾向がみられた。一方、算術平均高さSaと剥離率との間には明確な相関がみられなかった。また、水接触角と剥離率との間にも明確な相関がみられなかったことから、密着性の向上は、表面の化学的あるいは電気的な特性の変化との相関は小さいと考えられる。これらの結果から、低放電電力のスパッタによる透明電極層の表面処理により、透明電極層表面の凸部の頂点付近の形状が変化することにより、引出配線との密着性が向上すると考えられる。
【0079】
透明電極層(結晶化速度調整層および主電極層)の製膜条件が同一である実施例1〜4および比較例1では、アニール後のシート抵抗に明確な差はみられなかった。以上の結果から、透明電極層を製膜後に、低放電電力のスパッタ処理を行うことにより、透明電極層の導電性を保持しながら、引出配線との密着性に優れる透明電極付き基板が得られることが分かる。