(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661034
(24)【登録日】2020年2月13日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の非水電解液およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20200227BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20200227BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20200227BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20200227BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20200227BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-567609(P2018-567609)
(86)(22)【出願日】2016年12月29日
(65)【公表番号】特表2019-519081(P2019-519081A)
(43)【公表日】2019年7月4日
(86)【国際出願番号】CN2016113044
(87)【国際公開番号】WO2018094821
(87)【国際公開日】20180531
【審査請求日】2018年12月25日
(31)【優先権主張番号】201611054013.2
(32)【優先日】2016年11月25日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513222359
【氏名又は名称】シェンズェン カプチェム テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN CAPCHEM TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石 橋
(72)【発明者】
【氏名】胡 時光
(72)【発明者】
【氏名】陳 群
(72)【発明者】
【氏名】王 力
(72)【発明者】
【氏名】何 舟
(72)【発明者】
【氏名】▲ゆん▼ 嬌嬌
【審査官】
近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−098034(JP,A)
【文献】
特開2011−096462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式1または構造式2で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする
負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して炭素原子数2〜5のアルケニル基、炭素原子数2〜5のアルキニル基から選択される。)
(式中、R
3は炭素原子数2〜5のアルケニル基、炭素原子数2〜5のアルキニル基から選択される。)
【請求項2】
前記炭素原子数2〜5のアルケニル基は、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、イソブテニル基、4−ペンテニル基を含み、前記炭素原子数2〜5のアルキニル基は、エチニル基、プロパルギル基、3−ブチニル基、1−メチル−2プロピニル基を含む請求項1に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
【請求項3】
前記構造式1で表される化合物はヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェートまたはヘキサフルオロイソプロピルジ(アリル)ホスフェートであり、前記構造式2で表される化合物はジ(ヘキサフルオロイソプロピル)プロパルギルホスフェートまたはジ(ヘキサフルオロイソプロピル)アリルホスフェートである請求項1に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
【請求項4】
前記非水電解液において、構造式1または構造式2で表される化合物の含有量は非水電解液の全重量に対して0.1%−5%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
【請求項5】
前記電解液はさらに、環状カーボネート、環状スルトンおよび環状硫酸エステルのうちの1種以上を含む請求項1に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
【請求項6】
前記環状カーボネートは、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートおよびフルオロエチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種である請求項5に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
【請求項7】
前記環状スルトンは、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンおよび1,3−プロペンスルトンからなる群より選択される1種以上である請求項5に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
【請求項8】
前記負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびメチルプロピルカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の非水有機溶媒を含み、好ましくは、非水有機溶媒はエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む組成物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液。
【請求項9】
正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、電解液とを含むリチウムイオン電池であって、前記電解液が、請求項1〜8のいずれか一項に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池の非水電解液であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記正極の活物質は、LiNixCoyMnzL(1−x−y−z)O2のうちの少なくとも1種であり、ただし、LはAl、Sr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、SiまたはFeであり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0<x+y+z≦1である請求項9に記載の負極がグラファイトまたは導電性カーボンブラックであるリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、リチウムイオン電池の電解液の分野に関し、特にリチウムイオン電池の非水電解液およびリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、軽量で、小型であり、動作電圧が高く、エネルギー密度が高く、出力電力が大きく、メモリー効果がなく、サイクル寿命が長いなどの利点を有するため、携帯電話、ノートブックコンピュータなどのデジタル製品に広く応用され、しかも電気自動車や大型のエネルギー蓄積装置に最適な選択肢の1つであると考えられる。現在、スマートフォンやタブレット型コンピュータなどの電子デジタル製品では、電池のエネルギー密度への要求がますます高くなっていることにより、商業用リチウムイオン電池がその要求を満たすことは困難である。
【0003】
リチウムイオン電池は、高温での充放電サイクルまたは高温で保存されるとき、正極材料の表面における電解液の分解がより深刻になり、電解液の酸化分解生成物が正極の表面に絶えず堆積し、それにより正極の表面のインピーダンスが絶えず上昇して電池特性の悪化を引き起こす。特に、正極材料中のニッケル含有量が高いとき、正極材料の表面活性が高くなり、電解液の分解がより深刻になる。また、リチウムイオン電池の充電電圧を上げると、正極材料の金属イオンの溶出がさらに進行し、溶出した金属イオンが電解液の分解を促進するだけでなく、負極不動態被膜をも破壊する。特に長期間の高温保存または高温サイクル中に、正極の金属イオンの溶出がより深刻になり、それにより電池の特性を迅速に悪化させる。
【0004】
正極の金属イオンの溶出および電解液の分解による電池特性の悪化を抑制するために、正極材料の表面は、Al
2O
3、AlF
3、ZnO等のような不活性金属酸化物で被覆されてもよく、電解液に正負電極保護添加剤を加えてもよい。中国特許出願第201310046105.6号および第201410534841.0号は、それぞれアリルホスフェートおよびプロパルギルホスフェート含有電解液を開示し、これら電解液は電池の高温保存および高温サイクルの特性を改善することができる。しかしながら、本出願の発明者らは、多数の実験によって、不飽和リン酸エステルは、電池の高温保存および高温サイクルの特性を著しく改善することができるが、電池の内部抵抗を顕著に増加させ、電池の低温特性およびレート特性、特に低温サイクル特性を低下させ、負極の表面に広い領域のリチウム析出現象が現れること見出した。中国特許出願第201180037584.4号も三重結合不飽和リン酸エステルを含む電解液を開示しており、そこには、フッ素置換不飽和リン酸エステルが記載されているが、本出願の発明者らは、多数の実験によって、該三重結合不飽和リン酸エステルを含む電解液は依然として低温特性が悪く、低温充電時に広い領域のリチウム析出現象が現れ、深刻な安全リスクをもたらすこと見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願の目的は、新規なリチウムイオン電池の非水電解液およびその応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本出願は以下の技術的解決手段を採用する。
本出願の一態様は、下記構造式1または構造式2で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むリチウムイオン電池の非水電解液を開示する。
【0007】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して炭素原子数2〜5のアルケニル基、炭素原子数2〜5のアルキニル基から選択される。)
【0008】
(式中、R
3は炭素原子数2〜5のアルケニル基、炭素原子数2〜5のアルキニル基から選択される。)
【0009】
なお、本出願のリチウムイオン電池の非水電解液において、その要点は、電解液に構造式1または構造式2で表される化合物が添加されていることであり、該化合物には不飽和結合およびヘキサフルオロイソプロピル基が含まれるため、不飽和結合は正極および負極の表面で重合反応を起こして不動態被膜を形成でき、正極および負極の表面における電解液の分解反応を効果的に抑制し、正極材料の構造への破壊を抑制する。しかも、ヘキサフルオロイソプロピル官能基の空間立体障害の関係により、不飽和結合の重合度をある程度抑制することができるとともに、ヘキサフルオロイソプロピル基は膜形成反応に関与することもでき、電池の内部抵抗の上昇が抑制される。リチウムイオン電池の高温特性を向上させるとともに、リチウムイオン電池の低温特性およびレート特性が保証され、優れた総合特性を有するようにする。これに対して、従来の不飽和リン酸エステル、例えば2,2,2−トリフルオロエチルジ(プロパルギル)ホスフェートは、それらの空間構造関係による本発明の構造式1で表される化合物による効果を有しておらず、依然として低温特性が悪くかつリチウムが析出するという問題(比較例2の測定結果など)があるため、本発明の目的を達成できない。
【0010】
したがって、構造式1または構造式2で表される化合物の使用量を調整することにより、電解液および該電解液を用いた電池の高低温特性および総合特性を調整することができる。一般的に、本出願の電解液においては、構造式1または構造式2で表される化合物の使用量は従来の添加剤の使用量に従えばよいが、本出願において、構造式1または構造式2で表される化合物の含有量はリチウムイオン電池の非水電解液の全質量の0.1%〜5%が推奨される。ここで、構造式1または構造式2で表される化合物の使用量が0.1%未満である場合、非水電解液電池の高温保存特性の向上効果が低下し、5%を超えると、正極および負極の表面に形成された不動態被膜はかなり厚くなり電池の内部抵抗を増加させる可能性があり、電池の低温特性との好適な両立に不利である。
【0011】
なお、本出願の要点は、リチウムイオン電池の非水電解液に構造式1または構造式2で表される化合物が添加されていることであるが、非水有機溶媒やリチウム塩などの他の成分については、従来の非水電解液を参照することができ、さらに、非水電解液には、対応する機能を増やすように他の添加剤を添加してもよく、ここでは具体的に限定されない。しかし、本出願の好ましい実施形態においては、より良好な効果を達成するために、リチウムイオン電池の非水電解液に一般的に含まれる非水有機溶媒、リチウム塩およびその他の添加剤は、特に限定されるが、後続の実施形態で詳細に説明する。
【0012】
好ましくは、炭素原子数2〜5のアルケニル基は、特に限定されるものでないが、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、イソブテニル基、4−ペンテニル基を含み、前記炭素原子数2〜5のアルキニル基は、特に限定されるものでないが、エチニル基、プロパルギル基、3−ブチニル基、1−メチル−2プロピニル基を含む。
【0013】
好ましくは、構造式1で表される化合物は、ヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェートまたはヘキサフルオロイソプロピルジ(アリル)ホスフェートであり、前記構造式2で表される化合物はジ(ヘキサフルオロイソプロピル)プロパルギルホスフェートまたはジ(ヘキサフルオロイソプロピル)アリルホスフェートである。
【0014】
好ましくは、リチウムイオン電池の非水電解液は、さらに環状カーボネート、環状スルトン、環状硫酸エステルのうちの1種以上を含む。
【0015】
好ましくは、前記環状カーボネートは、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートおよびフルオロエチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0016】
好ましくは、前記環状スルトンは、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンおよび1,3−プロペンスルトンからなる群より選択される1種以上である。
【0017】
なお、ビニレンカーボネート(略語VC)、ビニルエチレンカーボネート(略語VEC)、フルオロエチレンカーボネート(略語FEC)、または1,3−プロパンスルトン(略語PS)、1,4−ブタンスルトン(略語BS)は全てよく見られる添加剤であり、本出願のリチウムイオン電池の非水電解液においても、これらの添加剤を添加して対応する機能を得ることはもちろん可能であるが、当然のことながら、これらを添加せず、構造式1で表される化合物のみを添加してもよく、本出願の正極および負極の表面に不動態被膜を形成し、正極および負極の表面における電解液の分解を抑制し、正極材料の構造への破壊を抑制する効果も達成できる。
【0018】
好ましくは、リチウムイオン電池の非水電解液のうちの非水有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびメチルプロピルカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0019】
より好ましくは、非水有機溶媒はエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む組成物である。
【0020】
本出願の他の態様は、本出願のリチウムイオン電池の非水電解液のリチウムイオン電池またはエネルギー蓄積コンデンサにおける応用を開示する。
【0021】
本出願の更なる他の態様は、正極と、負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、電解液とを含むリチウムイオン電池を開示し、ここでは、電解液は、本出願のリチウムイオン電池の非水電解液である。
【0022】
本出願のリチウムイオン電池の要点は、本出願のリチウムイオン電池の非水電解液を採用することであり、これにより、正極および負極の表面に不動態被膜を形成して、正極および負極の表面における電解液の分解反応を効果的に抑制し、正極材料の構造が破壊されることを抑制するとともに、電池の内部抵抗を増加させず、電池の高温特性および低温特性ならびにレート特性を保証することが理解できる。正極、負極、セパレータ等のようなリチウムイオン電池の他の構成要素については、従来のリチウムイオン電池を参照することができる。本出願の好ましい実施形態では、正極の活物質は特に限定されている。
【0023】
好ましくは、正極の活物質は、LiNi
xCo
yMn
zL
(1−x−y−z)O
2のうちの少なくとも1種である。ただし、LはAl、Sr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、SiまたはFeであり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0<x+y+z≦1である。例えば、本発明において、正極活物質は、下記の一般式を有するコバルト酸リチウムであってもよい。
LiCo
aL
(1−a)O
2、0<a≦1
上記の技術的解決手段の採用により、本出願の有益な効果は以下のとおりである。
【0024】
本出願のリチウムイオン電池の非水電解液において、構造式1または構造式2で表される化合物が添加されており、該化合物には不飽和結合およびヘキサフルオロイソプロピル基が含まれるため、不飽和結合は正極および負極の表面で重合反応を起こして不動態被膜を形成し、正極および負極の表面における電解液の分解および正極材料の構造への破壊を抑制する。しかも、ヘキサフルオロイソプロピル官能基の空間立体障害の関係により、不飽和結合の重合度をある程度抑制することができるとともに、ヘキサフルオロイソプロピルは膜形成反応に関与することもでき、電池の内部抵抗の上昇が抑制され、リチウムイオン電池の高温特性を向上させるとともに、リチウムイオン電池の低温特性およびレート特性が保証される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本出願の要点は、電解液に関する一連の研究において、構造式1の化合物は、電池の高温保存および高温サイクルの特性を改善できるだけでなく、電池の内部抵抗を増加させず、同時に電池の低温特性およびレート特性、特に低温サイクル特性が保証され、負極の表面における広い領域のリチウム析出現象が避けられることである。
【0026】
なお、背景技術で言及した中国特許出願第201310046105.6号、第201410534841.0号は、実際に本出願人によって提出されているものである。本出願人は、リチウムイオン電池の非水電解液に関する一連の研究を行い、201310046105.6および201410534841.0を含む複数の添加剤の特許出願を提出している。本出願人により提案されたアリルホスフェートおよびプロパルギルホスフェートを含有する電解液は、電池の高温特性を改善することに良い効果を有するが、電池の低温特性に影響を与えることがさらなる研究で分かる。中国特許出願第201180037584.4号も三重結合不飽和リン酸エステルを含む電解液を開示し、その中にフッ素置換不飽和リン酸エステルが記載されている。しかしながら、本出願の発明者らは、多数の実験によって、該三重結合不飽和リン酸エステルを含む電解液は依然として低温特性が悪く、低温充電時に広い領域のリチウム析出現象が現れ、深刻な安全リスクをもたらすこと見出した。それで、本出願人は、後続の研究および実験において、構造式1の化合物を電解液に添加することにより、電池が高温特性を有するだけでなく、その低温特性にも影響を及ぼさないことを見出した。そこで、本出願を提出した。
【0027】
以下、具体的な実施例および図面によって、本出願をさらに詳細に説明する。以下の実施例は、本出願をさらに説明することのみを意図しており、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
<実施例>
【0028】
本実施例では、表1に示す成分および配合比に従って電解液を調製した。ここで、複数の本出願のリチウムイオン電池用非水電解液、および複数の比較例が設計されており、詳細は表1のとおりである。
【0029】
本実施例の非水有機溶媒は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む組成物を採用し、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウムを採用した。理解できることとして、本実施例で使用した非水有機溶媒およびリチウム塩は、具体的な実施形態に過ぎず、たとえばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびメチルプロピルカーボネートのような当業界で一般的に使用されている他の非水有機溶媒、例えばLiBF
4、LiBOB、LiDFOB、LiPO
2F
2、LiSbF
6、LiAsF
6、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiC(SO
2CF
3)
3およびLiN(SO
2F)
2のような当業界で一般的に使用される他のリチウム塩は同様に本実施例に適用することができ、ここでは特に限定されない。
【0030】
本実施例の電解液の調製方法は以下のとおりである。エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートを体積比 EC:EMC:DEC=3:3:4で混合した後、濃度が1.0mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウムを加え、表1に従って添加剤を加えた。表1におけるパーセントは重量パーセントであり、すなわち、電解液の全重量に対する添加剤のパーセントである。
【0032】
表1において、比較例3はいかなる添加剤も添加しなかった。
【0033】
本実施例のリチウムイオン電池では、正極活物質はLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を採用し、負極はグラファイトおよび導電性カーボンブラックを採用し、セパレータはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンの3層セパレータを採用した。具体的には、以下のとおりである。
【0034】
正極の作製方法:96.8:2.0:1.2の質量比で正極物質LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、導電性カーボンブラックおよびバインダーであるポリフッ化ビニリデンを混合し、N−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極スラリーを得て、正極スラリーをアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥させ、圧延し、真空乾燥させ、超音波溶接機でアルミニウム製リード線を溶接して厚さ120〜150μmの正極板を得た。
【0035】
負極の作製方法:96:1:1.2:1.8の質量比で、グラファイト、導電性カーボンブラック、バインダーであるスチレンブタジエンゴムおよびカルボキシメチルセルロースを混合し、脱イオン水に分散させて負極スラリーを得て、負極スラリーを銅箔の両面に塗布し、乾燥させ、圧延し、真空乾燥させ、超音波溶接機でニッケル製リード線を溶接して厚さ120〜150μmの負極板を得た。
【0036】
セパレータの作製方法:ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンの3層セパレータを採用し、厚さは20μmである。
【0037】
電池の組み立て方法:正極板と負極板との間に厚さ20μmの3層セパレータを配置した後、正極板、負極板およびセパレータからなるサンドイッチ構造体を巻き取った巻回体を平らにし、アルミニウム箔製包装袋に入れ、75℃で48h真空乾燥させて注液するセルを得て、上記の調製した電解液をセルに注入し、真空包装した後に、24h静置した。
【0038】
次に以下のステップで初回充電の通常の化成を行う。0.05Cの定電流で180min充電し、0.1Vの定電流で3.95Vまで充電し、二次真空封止を経て、45℃で48h放置し、続いてさらに0.2Cの定電流で4.35Vまで充電し、カットオフ電流は0.01Cとし、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。
【0039】
本実施例では、各電解液電池の45℃ 1Cでの300サイクルの容量維持率、−20℃ 0.2Cでの放電効率、および60℃で28日間保存した後の容量維持率、容量回復率、厚み膨張率をそれぞれ測定した。そして、電池のリチウム析出を観察した。具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0040】
(1)45℃ 1Cでの300サイクルの容量維持率としては、実際に電池の高温サイクル特性についての測定であり、具体的な測定方法は以下のとおりである。45℃で、化成後の電池を1Cの定電流、定電圧で4.35Vまで充電し、カットオフ電流は0.01Cとし、続いて1Cの定電流で3.0Vまで放電した。このように300サイクルの充放電後、300サイクル後の容量維持率を算出し、その高温サイクル特性を評価する。45℃ 1Cでの300サイクルの容量維持率を計算するための式は次のとおりである。
300サイクル目の容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100%
【0041】
(2)−20℃ 0.2Cでの放電効率としては、電池の低温放電特性についての測定であり、具体的な測定方法は以下を含む。25℃で、化成後の電池を0.2Cの定電流、定電圧で4.35Vに充電し、カットオフ電流は0.01Cとし、続いて0.2Cの定電流で3.0Vまで放電して放電容量を記録した。その後、0.2Cの定電流、定電圧で4.35Vに充電し、カットオフ電流は0.01Cとし、続いて−20℃の環境下に電池を12h放置した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電し、放電容量を記録した。−20℃ 0.2Cでの放電効率を計算するための式は以下のとおりである。
−20℃の低温放電効率(%)=0.2C放電容量(−20℃)/0.2C放電容量(25℃)
【0042】
(3)60℃で28日間保存した後の容量維持率、容量回復率、および厚さ膨張率の測定方法は以下のとおりである。化成後の電池を常温で1Cの定電流、定電圧で4.35Vまで充電し、カットオフ電流は0.01Cとし、続いて1Cの定電流で3.0Vまで放電し、電池の初期放電容量を計測した後、1Cの定電流、定電圧で4.35Vまで充電し、カットオフ電流は0.01Cとし、電池の初期厚みを計測し、続いて電池を60℃で28日間保存し、電池の厚みを計測し、1Cの定電流で3.0Vまで放電し、電池の維持容量を計測し、1Cの定電流、定電圧で4.35Vまで充電し、カットオフ電流は0.01Cとし、続いて1Cの定電流で3.0Vまで放電し、回復容量を計測した。容量維持率、容量回復率および厚み膨張率を計算するための式は以下のとおりである。
電池容量維持率(%)=維持容量/初期容量×100%
電池容量回復率(%)=回復容量/初期容量×100%
電池厚み膨張率(%)=(28日後の厚み−初期厚み) /初期厚み×100%。
【0043】
(4)リチウム析出状態を観察する方法は以下のとおりである。化成後の電池を0℃にて0.3Cで充電した後に、負極のリチウム析出レベルを計測し、かつ5点方式で評価し、その点数が低いほどリチウム析出がより深刻であることを意味する。具体的には、点数5はリチウム析出がないことを意味し、4はリチウム析出が軽度であることを意味し、3は一般的なリチウム析出を意味し、2はより深刻なリチウム析出を意味し、1は重度のリチウム析出を意味する。
各測定結果を表2に示す。
【0045】
表2の結果に基いて、実施例1〜4および比較例1〜3を比較すると、ヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェート、ジ(ヘキサフルオロイソプロピル)プロパルギルホスフェート、ヘキサフルオロイソプロピルジ(アリル)ホスフェートおよびジ(ヘキサフルオロイソプロピル)アリルホスフェートは添加剤として、良好な高温特性および低温特性を有する一方で、比較例1および2は良好な高温特性を有するが、低温特性が明らかに悪くかつリチウム析出現象が存在することが分かる。比較例3はいかなる添加剤も添加しておらず、その高温特性が悪く、45℃ 1Cでの300サイクルの容量維持率は55.6%に過ぎず、かつ、その60℃で28日間保存した後の容量維持率、容量回復率も低く、それぞれ38%および42.6%のみであり、膨張が明らかであり、厚み膨張率が35%と高い。
【0046】
さらなる深い研究で示すように、ヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェート、ジ(ヘキサフルオロイソプロピル)プロパルギルホスフェート、ヘキサフルオロイソプロピルジ(アリル)ホスフェートおよびジ(ヘキサフルオロイソプロピル)アリルホスフェートが添加剤として高温特性および低温特性を改善できるのは、これらの化合物が不飽和結合およびヘキサフルオロイソプロピル基を含むことが肝要であり、不飽和結合が正極および負極の表面で重合反応を起こして不動態被膜を形成し、正極および負極の表面における電解液の分解反応を効果的に抑制し、正極材料の構造への破壊を抑制する。また、ヘキサフルオロイソプロピル官能基の空間立体障害の関係で、不飽和結合の重合度をある程度抑制することができると同時に、ヘキサフルオロイソプロピル基は成膜反応に関与することもでき、電池の内部抵抗の上昇が抑制される。したがって、本実施例の試験例1〜4の4つの化合物に加えて、本出願の要件を満たす他の構造式1の化合物も同様の作用および効果を有することを理解できる。
【0047】
実施例6〜11および実施例5、12を比較すると、ヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェートの含有量は、リチウムイオン電池の非水電解液の全質量の0.1〜5%であることが最も好ましく、0.1%未満の場合、非水電解液電池の高温保存特性の向上効果が低下し、5%を超えると、正極および負極の表面に形成される不動態被膜がかなり厚くなり電池の内部抵抗を増加させる可能性があり、電池特性の向上に不利になることが分かる。
【0048】
実施例13〜17および比較例4〜8を比較すると、ヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェートは、他の通常使用される添加剤と組み合わせて使用されると高温特性をさらに改善し、VECを添加した実施例15以外に、他の添加剤の添加は低温特性にあまり影響しないことが分かる。60℃で28日間保存した後の容量維持率および容量回復率は、他の添加剤を添加した後にわずかに増加し、厚み膨張率には顕著な影響はない。これは、他の添加剤のみを用いた比較例4〜8と比較して、ヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェートと同時に使用されると、低温特性は大きく変化しなかったが、高温特性は著しく向上し、かつ60℃で28日間保存した後に、容量維持率および容量回復率が著しく改善され、厚さ膨張率も顕著に減少した。
【0049】
また、リチウム析出レベルを観察した結果から、本出願の実施例のリチウム析出現象は少なく、リチウムはほぼ析出せず、電池の安全特性が確保されることが分かる。
【0050】
本発明により提供されるリチウムイオン電池の非水電解液は、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2電池の高温保存および高温サイクルの特性を改善できる他に、LiCoO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2電池の高温特性に対しても明らかな改善効果を有する。その電池正極活物質および電解液添加剤の組成を表3に示す。
【0052】
表3に示される物質および含有量に基づいて前記方法でリチウムイオン電池を作製し、かつ前記方法で測定を行い、得られた各測定結果を表4に示す。
【0054】
表4の測定結果によると、ヘキサフルオロイソプロピルジ(プロパルギル)ホスフェート含有電解液は、LiCoO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2電池での高温サイクル、高温保存、低温放電特性およびリチウム析出レベルがいずれも2,2,2−トリフルオロエチルジ(プロパルギル)ホスフェートより優れている。
【0055】
同時に、電池の充電電圧は電池の特性に大きな影響を与えるので、充電電圧を上げると、電池の特性、特に高温保存および高温サイクルの特性を低下させる。
【0056】
表5に示される物質および含有量に基づいて前記方法でリチウムイオン電池を作製し、かつ前記方法で表5に示される充電電圧の条件で測定を行い、得られた各測定結果を表6に示す。
【0059】
表6の測定結果から明らかなように、本発明により提供される電解液を用いて作製されたリチウムイオン電池は、高い充電電圧の条件で、依然として良好な特性、特に高温保存および高温サイクルの特性を有する。本発明によって提供される電解液の利点は、高電圧(例えば、4.3V)のリチウムイオン電池における使用にさらに有利である。
【0060】
上記の内容は、発明を実施するための形態による本出願のさらなる詳細な説明であり、本出願の具体的な実施は、これらの説明に限定されると見なされるべきではない。当業者にとって明らかであるが、本出願の精神から逸脱することなく、いくつかの簡単な変更または置換を行うこともでき、これらは本出願の保護範囲内にあるとみなされるべきである。