特許第6661044号(P6661044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6661044プーリ構造体、滑り軸受、及び、滑り軸受の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661044
(24)【登録日】2020年2月13日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】プーリ構造体、滑り軸受、及び、滑り軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/46 20060101AFI20200227BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20200227BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20200227BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20200227BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   F16H55/46
   F16C17/02 Z
   F16C33/20 A
   B29C45/26
   B29C33/42
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-111677(P2019-111677)
(22)【出願日】2019年6月17日
(65)【公開番号】特開2020-3064(P2020-3064A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2019年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2018-119639(P2018-119639)
(32)【優先日】2018年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】島村 隼人
(72)【発明者】
【氏名】今井 勝也
(72)【発明者】
【氏名】團 良祐
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−17277(JP,A)
【文献】 特開2014−223817(JP,A)
【文献】 特表2017−526881(JP,A)
【文献】 特開平2−159410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/46
B29C 33/42
B29C 45/26
F16C 17/02
F16C 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトから付与されるトルクによって回転軸を中心に回転する筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記回転軸を中心として、前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記回転軸に沿った軸方向の一端側及び他端側のそれぞれにおいて前記外回転体と前記内回転体との間に介在し、前記外回転体と前記内回転体とを相対回転可能に連結する一対の軸受と、を備え、
前記一対の軸受のうち、一方の軸受は滑り軸受であり、他方の軸受は転がり軸受であり、
前記滑り軸受は、熱可塑性樹脂からなり、有端環状に形成され、
前記滑り軸受の周方向の両端部における厚みが、前記滑り軸受の厚みの基準寸法よりも小さい、プーリ構造体。
【請求項2】
前記滑り軸受は、拡径された状態で内周面が前記内回転体と接触していることによって、縮径方向の自己弾性復元力によって前記内回転体に密着しており、
前記滑り軸受の内周面の径が、周方向の全周にわたって一定であり、
前記滑り軸受の周方向の両端部の外周面が、周方向の各端に向かうほど径方向の内側に向かうように延びた面取り部となっている、請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトから付与されるトルクによって、回転軸を中心に回転する筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記回転軸を中心として、前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記回転軸に沿った軸方向の一端側及び他端側のそれぞれにおいて前記外回転体と前記内回転体との間に介在し、前記外回転体と前記内回転体とを相対回転可能に連結する一対の軸受と、を備え、
前記一対の軸受のうち、一方の軸受が滑り軸受であり、他方の軸受が転がり軸受であるプーリ構造体、を構成する前記滑り軸受であって、
熱可塑性樹脂からなり、
有端環状に形成され、
周方向の両端部における厚みが、前記滑り軸受の厚みの基準寸法よりも小さい、滑り軸受。
【請求項4】
拡径された状態で内周面が前記内回転体と接触することによって、縮径方向の自己弾性復元力によって前記内回転体に密着する前記滑り軸受であって、
前記内周面の径が、周方向の全周にわたって一定であり、
周方向の両端部の外周面が、周方向の各端に向かうほど径方向の内側に向かうように延びた面取り部となっている、請求項3に記載の滑り軸受。
【請求項5】
ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトから付与されるトルクによって、回転軸を中心に回転する筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記回転軸を中心として、前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記回転軸に沿った軸方向の一端側及び他端側のそれぞれにおいて前記外回転体と前記内回転体との間に介在し、前記外回転体と前記内回転体とを相対回転可能に連結する一対の軸受と、を備え、
前記一対の軸受のうち、一方の軸受が有端環状の滑り軸受であり、他方の軸受が転がり軸受であるプーリ構造体、を構成する前記滑り軸受の製造方法であって、
有端環状のキャビティを有する金型を用いて、熱可塑性樹脂を射出成形することによって、前記滑り軸受を作製し、
前記キャビティの周方向の両端部における径方向の幅が、前記キャビティの径方向の幅の基準寸法よりも狭い、滑り軸受の製造方法。
【請求項6】
拡径された状態で内周面が前記内回転体と接触することによって、縮径方向の自己弾性復元力によって前記内回転体に密着する前記滑り軸受の製造方法であって、
前記キャビティの径方向の内側の壁面の径が、周方向の全周にわたって一定であり、
前記キャビティの周方向の両端部において、前記キャビティの径方向における外側の壁面が、前記周方向の各端に向かうほど前記径方向の内側に向かうように延びている、請求項5に記載の滑り軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ構造体、プーリ構造体を構成する滑り軸受、及び、プーリ構造体を構成する滑り軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のプーリ構造体は、外回転体と、内回転体と、一対の軸受とを備えている。外回転体は、ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトから付与されるトルクによって、所定の回転軸を中心に回転する筒状の部材である。内回転体は、外回転体の径方向内側に設けられ、上記回転軸を中心として、外回転体に対して相対回転可能となっている。一対の軸受は、上記回転軸に沿った軸方向の一端側及び他端側のそれぞれにおいて外回転体と内回転体との間に配置され、外回転体と内回転体とを相対回転可能に連結する。また、上記一対の軸受のうち一方の軸受が滑り軸受となっており、他方の軸受が転がり軸受となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−114947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載されているようなプーリ構造体では、滑り軸受として、有端環状に形成された滑り軸受が用いられることがある。ここで、有端環状とは、環状であるが、周方向の両端がつがなっていない略C字状のことである。また、低摩擦摺動性や耐摩耗性の観点から、滑り軸受を、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂等の硬質の熱可塑性樹脂からなるものとすることがある。この場合、例えば、有端環状のキャビティを有する金型を備えた射出成形機を用いて、熱可塑化(加熱溶融)された樹脂組成物をキャビティ内に射出充填した後、樹脂組成物を冷却固化させる射出成形法によって滑り軸受を製造することが考えられる。このような射出成形法で滑り軸受を製造する場合には、1回の射出操作によって、複数の滑り軸受を一度に製造することができる。
【0005】
上述したように、射出成形法によって、有端環状の滑り軸受を製造する場合には、熱可塑化(加熱溶融)された樹脂組成物を、有端環状のキャビティ内へ射出充填される際に、キャビティの周方向両端部(樹脂流れ方向末端部)における充填圧力(内部圧力)が、キャビティ内部の周方向両端部以外の部分における充填圧力(内部圧力)よりも、若干高くなる。そのため、滑り軸受の周方向の両端部は、周方向の両端部以外の部分よりも、成形収縮が若干小さくなる(厳密には、周方向の端に向かうほど、成形収縮が小さくなる)。その結果、キャビティの径方向の幅(滑り軸受の厚みに対応する長さ)が、キャビティの周方向の位置によらず一定であると、作製される滑り軸受の周方向の両端部の厚みが、周方向の両端部以外の部分の厚みよりも若干大きくなる。
【0006】
一方で、特許文献1に記載されているようなプーリ構造体では、滑り軸受は、例えば、若干拡径された状態で、内周面が内回転体に密着した状態となる。この場合、外回転体と内回転体とが相対回転するときには、主に、滑り軸受と外回転体とが摺動し、滑り軸受と外回転体との間には基準寸法が0.1mm程度の隙間(以下「摺動隙間」とする)ができる。そして、プーリ構造体の外回転体にベルトが掛けられると、外回転体のベルトから力が加えられる部分が、滑り軸受に向けて押し付けられる。そのため、外回転体のベルトから力が加えられる部分において、摺動隙間が狭くなってほぼ0となる。このとき、外回転体の回転軸に対して、外回転体のベルトから力が加えられる部分と反対側のベルトから力が加えられていない部分における摺動隙間が広がる(例えば0.2mm程度となる)。
【0007】
この場合において、上述したように、有端環状の滑り軸受の周方向の両端部の径が、周方向の両端部以外の部分の径よりも大きくなっていると、滑り軸受の周方向の両端部が外回転体のベルトから力が加えられる部分と対向する位置に到達する毎に(周期的に)、滑り軸受が、外回転体と内回転体との隙間を広げるように、外回転体に対して径方向の外側に力を加える。これにより、外回転体が振動し、異音が発生する虞がある。
【0008】
本発明の目的は、滑り軸受から加えられる力によって外回転体又は内回転体が振動して異音が発生してしまうことを抑えることが可能なプーリ構造体、プーリ構造体を構成する滑り軸受、及び、プーリ構造体を構成する滑り軸受の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に係るプーリ構造体は、ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトから付与されるトルクによって回転軸を中心に回転する筒状の外回転体と、前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記回転軸を中心として、前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、前記回転軸に沿った軸方向の一端側及び他端側のそれぞれにおいて前記外回転体と前記内回転体との間に介在し、前記外回転体と前記内回転体とを相対回転可能に連結する一対の軸受と、を備え、前記一対の軸受のうち、一方の軸受は滑り軸受であり、他方の軸受は転がり軸受であり、前記滑り軸受は、熱可塑性樹脂からなり、有端環状に形成され、前記滑り軸受の周方向の両端部における厚みが、前記滑り軸受の厚みの基準寸法よりも小さい。すなわち、前記滑り軸受は、前記滑り軸受の厚みの基準寸法より厚みが小さい周方向の両端部を有する。
【0010】
本構成によれば、有端環状に形成された熱可塑性樹脂からなる滑り軸受の周方向の両端部の厚みが、滑り軸受の厚みの基準寸法よりも小さいため、外回転体と内回転体との隙間を広げるように、滑り軸受から外回転体又は内回転体に周期的に力が加えられることによって、外回転体又は内回転体に振動が発生して異音が発生してしまうことを防止することができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係るプーリ構造体は、第1の態様に係るプーリ構造体において、前記滑り軸受は、拡径された状態で内周面が前記内回転体と接触していることによって、縮径方向の自己弾性復元力によって前記内回転体に密着しており、前記滑り軸受の内周面の径が、周方向の全周にわたって一定であり、前記滑り軸受の周方向の両端部の外周面が、周方向の各端に向かうほど径方向の内側に向かうように延びた面取り部となっている。
【0012】
本構成によれば、滑り軸受の周方向の両端部の厚みを、滑り軸受の周方向の両端部以外の部分の厚みよりも小さくしつつも、滑り軸受の内周面と内回転体との密着性を高くすることができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係る滑り軸受は、ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトから付与されるトルクによって、回転軸を中心に回転する筒状の外回転体と、前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記回転軸を中心として、前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、前記回転軸に沿った軸方向の一端側及び他端側のそれぞれにおいて前記外回転体と前記内回転体との間に介在し、前記外回転体と前記内回転体とを相対回転可能に連結する一対の軸受と、を備え、前記一対の軸受のうち、一方の軸受が滑り軸受であり、他方の軸受が転がり軸受であるプーリ構造体、を構成する前記滑り軸受であって、熱可塑性樹脂からなり、有端環状に形成され、周方向の両端部における厚みが、前記滑り軸受の厚みの基準寸法よりも小さい。すなわち、前記滑り軸受は、前記滑り軸受の厚みの基準寸法より厚みが小さい周方向の両端部を有する。
【0014】
本構成によれば、有端環状に形成された熱可塑性樹脂からなる滑り軸受の周方向の両端部の厚みが、滑り軸受の厚みの基準寸法よりも小さいため、外回転体と内回転体との隙間を広げるように、滑り軸受から外回転体又は内回転体に周期的に力が加えられることによって、外回転体又は内回転体に振動が発生して異音が発生してしまうことを防止することができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る滑り軸受は、第3の態様に係る滑り軸受において、拡径された状態で内周面が前記内回転体と接触することによって、縮径方向の自己弾性復元力によって前記内回転体に密着する前記滑り軸受であって、前記内周面の径が、周方向の全周にわたって一定であり、周方向の両端部の外周面が、周方向の各端に向かうほど径方向の内側に向かうように延びた面取り部となっている。
【0016】
本構成によれば、滑り軸受の周方向の両端部の厚みを、滑り軸受の周方向の両端部以外の部分の厚みよりも小さくしつつも、滑り軸受の内周面と内回転体との密着性を高くすることができる。
【0017】
本発明の第5の態様に係る滑り軸受の製造方法は、ベルトが巻き掛けられ、前記ベルトから付与されるトルクによって、回転軸を中心に回転する筒状の外回転体と、前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記回転軸を中心として、前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、前記回転軸に沿った軸方向の一端側及び他端側のそれぞれにおいて前記外回転体と前記内回転体との間に介在し、前記外回転体と前記内回転体とを相対回転可能に連結する一対の軸受と、を備え、前記一対の軸受のうち、一方の軸受が有端環状の滑り軸受であり、他方の軸受が転がり軸受であるプーリ構造体、を構成する前記滑り軸受の製造方法であって、有端環状のキャビティを有する金型を用いて、熱可塑性樹脂を射出成形することによって、前記滑り軸受を作製し、前記キャビティの周方向の両端部における径方向の幅が、前記キャビティの径方向の幅の基準寸法よりも狭い。すなわち、前記キャビティは、前記キャビティの径方向の幅の基準寸法より幅が小さい周方向の両端部を有する。
【0018】
本構成によれば、熱可塑性樹脂からなり、有端環状に形成され、周方向の両端部における厚みが、滑り軸受の厚みの基準寸法よりも小さい滑り軸受を製造することができる。
【0019】
本発明の第6の態様に係る滑り軸受の製造方法は、第5の態様に係る滑り軸受の製造方法において、前記キャビティの径方向の内側の壁面の径が、周方向の全周にわたって一定であり、前記キャビティの周方向の両端部において、前記キャビティの径方向における外側の壁面が、前記周方向の各端に向かうほど前記径方向の内側に向かうように延びている。
【0020】
本構成によれば、内周面が周方向の全周にわたって径が一定であり、周方向の両端部の外周面が、周方向の各端に向かうほど径方向の内側に向かうように延びた面取り部となっている滑り軸受を製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外回転体と内回転体との隙間を広げるように、滑り軸受から外回転体又は内回転体に周期的に力が加えられることによって、外回転体又は内回転体に振動が発生して異音が発生してしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係るプーリ構造体を示す、プーリ構造体の回転軸を通り且つ当該回転軸と平行な方向に沿った断面図である。
図2図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
図3図3は、図2のIII部拡大図である。
図4図4は、滑り軸受を製造するための射出成形金型の2つのキャビティの中心を通る平面での断面図である。
図5図5(a)は、図4のVA−VA線断面図であり、図5(b)は図5(a)のVB部の拡大図である。
図6図6(a)は射出成形金型に合成樹脂材料を充填した状態を示す図であり、図6(b)はピンゲートを滑り軸受から切り離した状態を示す図である。
図7図7はキャビティから滑り軸受を抜き出した状態を示す図である。
図8図8(a)は実施例に係る滑り軸受の周方向の端部の軸方向と直交する断面図であり、図8(b)は比較例に係る滑り軸受の周方向の端部の軸方向と直交する断面図であり、図8(c)は参考例に係る滑り軸受の周方向の端部の軸方向と直交する断面図である。
図9図9はアイドル試験機の概略構成図である。
図10図10(a)は変形例1の図3相当の図であり、図10(b)は変形例2の図3相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<プーリ構造体の構造>
図1に示す、本発明の実施形態に係るプーリ構造体1は、例えば、自動車の補機駆動システムにおいて、オルタネータの駆動軸Sに取り付けられる。補機駆動システムは、エンジンのクランク軸に取り付けられた駆動プーリと、オルタネータ等の補機を駆動する従動プーリ及びプーリ構造体1と、これらプーリ及びプーリ構造体1に巻回されたベルトBとを含む。クランク軸の回転がベルトBを介して従動プーリ及びプーリ構造体1に伝達されることで、オルタネータ等の補機が駆動される。クランク軸の回転速度がエンジンの燃焼に応じて変動するのに伴い、ベルトBの走行速度も変動する。
【0024】
図1図2に示すように、プーリ構造体1は、外回転体2と、内回転体3と、ねじりコイルばね4(以下、単に「ばね4」という)と、エンドキャップ5と、滑り軸受6及び転がり軸受7からなる一対の軸受6、7とを含む。
【0025】
外回転体2及び内回転体3は、共に略円筒状であり、同一の回転軸A(プーリ構造体1の回転軸であり、以下、単に「回転軸A」という)を有する。回転軸Aは、図1の左右方向(軸方向)に沿って延在する。また、以下では、図1の右側を軸方向の一端側、図1の左側を軸方向の他端側という。
【0026】
外回転体2の外周面に、ベルトBが巻回される。
【0027】
内回転体3は、外回転体2の内側に設けられ、外回転体2に対して相対回転可能である。内回転体3は、オルタネータの駆動軸Sが嵌合される筒本体3aと、筒本体3aの他端の外側に配置された外筒部3bと、筒本体3aの他端と外筒部3bの他端とを連結する円環板部3cとを有する。駆動軸Sは、筒本体3aの内周面のネジ溝に螺合される。
【0028】
ばね4は、外回転体2と内回転体3との間に配置されている。具体的には、ばね4は、外回転体2の内周面及び内回転体3の外筒部3bの内周面と、内回転体3の筒本体3aの外周面と、内回転体3の円環板部3cとによって画定された、転がり軸受7よりも他端側にある空間Uに収容されている。ばね4は、断面が正方形状の線材(例えば、ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠)等)で構成されており、左巻き(ばね4の他端から一端に向かって反時計回り)である。
【0029】
空間Uには、グリース等の潤滑剤が封入されている。潤滑剤は、プーリ構造体1の組み付け時に、ペースト状の塊の状態で、空間Uに投入される。投入量は、例えば0.2g程度である。プーリ構造体1を動作させると、空間Uの温度上昇やせん断発熱(摩擦熱)によって、潤滑剤の粘度が下がり、潤滑剤が空間U全体に拡散する。
【0030】
エンドキャップ5は、外回転体2及び内回転体3の他端に配置されている。
【0031】
一対の軸受6、7は、一端側及び他端側のそれぞれにおいて、外回転体2及び内回転体3の間に介在している。具体的には、外回転体2の他端側の内周面と内回転体3の外筒部3bの外周面との間の隙間(以下「筒状隙間」という)に、滑り軸受6が介在している。外回転体2の一端側の内周面と内回転体3の筒本体3aの一端側の外周面との間に、転がり軸受7が介在している。一対の軸受6、7によって、外回転体2及び内回転体3が相対回転可能に連結されている。外回転体2及び内回転体3は、他端から一端に向かう方向から見て時計回り(図2の矢印方向。以下、「正方向」という)に回転する。
【0032】
滑り軸受6は、有端環状の部材であり、滑り軸受6の周方向の両端部の間に隙間が存在している。滑り軸受6は、ロックウェルRスケール(JIS K7202−2:2001に準拠)が80〜130である硬質の熱可塑性樹脂で形成されている。具体的には、滑り軸受6は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン類、液晶ポリマー、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド類、シンジオ型ポリスチレン、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、スチレン系樹脂(ABS樹脂、ポリスチレン等)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン系樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、スチレン系ブロックコポリマー樹脂などによって形成されている。ただし、低摩擦摺動性や耐摩耗性等の観点から、滑り軸受6は、これらの材料のうち、ポリアセタール樹脂及びポリアミド樹脂で形成されたものとすることがより好ましい。また、滑り軸受6のロックウェルRスケールによる硬さは、85〜125程度がより好ましい。
【0033】
また、滑り軸受6は、1種の樹脂組成物によって形成された1層のものであってもよいし、2種以上の樹脂組成物によって形成される2層以上のものでもよい。ただし、製造コストの観点から、滑り軸受6は1種の樹脂組成物によって形成された1層のものとすることがより好ましい。
【0034】
滑り軸受6は、若干拡径された状態で内回転体3の外筒部3bの外周面に装着されており、滑り軸受6の内周面6aは、自己弾性復元力によって外筒部3bの外周面に密着している。また、滑り軸受6の内周面6aは、その全周にわたって径がほぼ一定であり、内周面6aの全周が外筒部3bの外周面に密着している。外筒部3bの外周面における滑り軸受6の両側には、滑り軸受6の抜けを防止する突起が設けられている。滑り軸受6は、当該突起の間で、微小に軸方向に移動可能である。
【0035】
滑り軸受6の外周面6bと外回転体2の内周面との間には、例えば0.1mm程度の隙間R(摺動隙間)が存在する。隙間Rに空間Uに封入された潤滑剤が入り込むことで、滑り軸受6の摩擦面(滑り軸受6における外回転体2との接触面)の摩耗が抑制される。なお、潤滑剤がこの隙間から他端側に漏れ出すことはほとんどない。
【0036】
また、滑り軸受6の外周面6bは、滑り軸受6の周方向の両端部において、各端に向かうほど径が小さくなるように延びた面取り部6b1となっている。これにより、滑り軸受6の外周面6bの周方向の両端部の径は、滑り軸受6の外周面6bの周方向の両端部以外の部分の径よりも小さくなっている。そして、このことと、上記のように滑り軸受6の内周面6aの径が全周にわたってほぼ一定であることとから、滑り軸受6は、周方向の両端部における厚み(径方向の幅)が、周方向の両端部以外の部分における厚み(径方向の幅)よりも小さくなっている。すなわち、滑り軸受6の周方向の両端部における厚みが、滑り軸受6の厚みの基準寸法より小さい。言い換えると、滑り軸受6は、略一定の厚みを有する主部と、それより厚みの薄い両端部を有する。また、滑り軸受6は、局所的に厚い部分を有さない。なお、滑り軸受6の厚みの基準寸法とは、滑り軸受6の厚みの設計基準寸法のことを指し、例えば後述の実施例の場合、2mmである。
【0037】
転がり軸受7は、接触シール式の密閉形玉軸受であって、外回転体2の内周面に固定された外輪7aと、内回転体3の筒本体3aの外周面に固定された内輪7bと、外輪7aと内輪7bとの間に転動自在に配置された複数の玉(転動体)7cと、複数の玉7cの軸方向両側に配置された環状の接触シール部材7dとを有する。転がり軸受7の内部にグリース等の潤滑剤(例えば、空間Uに封入された潤滑剤と同じ潤滑剤)が封入されることで、転がり軸受7の摩擦面(玉7cにおける外輪7a及び/又は内輪7bとの接触面)の摩耗が抑制される。
【0038】
外回転体2の内径は、他端から一端に向かって2段階で小さくなっている。最も小さい内径部分における外回転体2の内周面を圧接面2a、2番目に小さい内径部分における外回転体2の内周面を環状面2bという。圧接面2aにおける外回転体2の内径は、内回転体3の外筒部3bの内径よりも小さい。環状面2bにおける外回転体2の内径は、内回転体3の外筒部3bの内径と同じか、それよりも大きい。
【0039】
内回転体3の筒本体3aは、他端側において外径が大きくなっている。この部分における内回転体3の筒本体3aの外周面を接触面3axという。
【0040】
ばね4は、一端側で外回転体2に接触する一端側領域4aと、他端側で内回転体3に接触する他端側領域4bと、一端側領域4a及び他端側領域4bの間において外回転体2及び内回転体3のいずれにも接触しない中領域4cとを有する。一端側領域4a及び他端側領域4bは、それぞれ、ばね4の一端及び他端から半周以上(回転軸回りに180°以上)に亘った領域をいう。また、他端側領域4bのうち、ばね4の他端から回転軸回りに90°離れた位置付近を第2領域4b2、第2領域4b2よりも他端側の部分を第1領域4b1、残りの部分を第3領域4b3という(図2参照)。
【0041】
ばね4は、外力を受けていない状態において、全長に亘って径が一定であり、このときのばね4の外径は、環状面2bにおける外回転体2の内径よりも小さく、圧接面2aにおける外回転体2の内径よりも大きい。ばね4は、一端側領域4aが縮径された状態で、空間Uに収容されている。
【0042】
ばね4は、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(即ち、プーリ構造体1が停止した状態)において、軸方向に圧縮されている。このとき、ばね4の一端側領域4aの外周面はばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって圧接面2aに押し付けられ、ばね4の他端側領域4bは若干拡径された状態で接触面3axと接触している。つまり、ばね4の他端側領域4bの内周面は、ばね4の縮径方向の自己弾性復元力によって、接触面3axに押し付けられている。
【0043】
図2に示すように、内回転体3の他端部分には、ばね4の他端面4bxと対向する当接面3dが形成されている。また、外筒部3bの内周面には、外筒部3bの径方向内側に突出して他端側領域4bの外周面と対向する突起3eが設けられている。突起3eは、第2領域4b2と対向している。
【0044】
ばね4の他端側領域4bの内周面が接触面3axと接触している状態において、ばね4の他端側領域4bの外周面と内回転体3の外筒部3bの内周面との間には、隙間が形成されている。また、外回転体2の環状面2bとばね4の外周面との間には、隙間が形成されている。本実施形態では、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、図2に示すように、ねじりコイルばね4の外周面と突起3eとは、互いに離隔しており、両者の間に隙間が形成されているが、互いに接してもよい。
【0045】
<プーリ構造体の動作>
ここで、プーリ構造体1の動作について説明する。
【0046】
先ず、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも大きくなった場合(即ち、外回転体2が加速する場合)について説明する。
【0047】
この場合、外回転体2は、内回転体3に対して正方向(図2の矢印方向)に相対回転する。外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の一端側領域4aが、圧接面2aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が拡径方向にねじれる。ばね4の一端側領域4aの圧接面2aに対する圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増大する。第2領域4b2は、ねじり応力を最も受け易く、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなると、接触面3axから離れる。このとき、第1領域4b1及び第3領域4b3は、接触面3axに圧接している。第2領域4b2が接触面3axから離れると略同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第2領域4b2の外周面が突起3eに当接する。第2領域4b2の外周面が突起3eに当接することで、他端側領域4bの拡径方向の変形が規制され、ねじり応力がばね4における他端側領域4b以外の部分に分散され、特にばね4の一端側領域4aに作用するねじり応力が増加する。これにより、ばね4の各部に作用するねじり応力の差が低減され、ばね4全体で歪エネルギーを吸収できるため、ばね4の局部的な疲労破壊を防止できる。
【0048】
また、第3領域4b3の接触面3axに対する圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど低下する。第2領域4b2が突起3eに当接すると同時に、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度がさらに大きくなったときに、第3領域4b3の接触面3axに対する圧接力が略ゼロとなる。このときのばね4の拡径方向のねじり角度をθ1(例えば、θ1=3°)とする。ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1を超えると、第3領域4b3は、拡径方向に変形することで、接触面3axから離れていく。しかし、第3領域4b3と第2領域4b2との境界付近において、ばね4が湾曲(屈曲)することはなく、他端側領域4bは円弧状に維持される。つまり、他端側領域4bは、突起3eに対して摺動し易い形状に維持されている。そのため、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなって他端側領域4bに作用するねじり応力が増加すると、他端側領域4bは、第2領域4b2の突起3eに対する圧接力及び第1領域4b1の接触面3axに対する圧接力に抗して、突起3e及び接触面3axに対して外回転体2の周方向に摺動する。そして、他端面4bxが当接面3dを押圧することにより、外回転体2と内回転体3との間で確実にトルクを伝達できる。
【0049】
なお、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1以上且つθ2(例えば、θ2=45°)未満の場合、第3領域4b3は、接触面3axから離隔し且つ内回転体3の外筒部3bの内周面に接触しておらず、第2領域4b2は、突起3eに圧接されている。そのため、この場合、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ1未満の場合に比べて、ばね4の有効巻数が大きく、ばね定数が小さい。また、ばね4の拡径方向のねじり角度がθ2になると、ばね4の中領域4cの外周面が環状面2bに当接すること、又は、ばね4の拡径方向のねじり角度が限界に達することにより、ばね4のそれ以上の拡径方向の変形が規制され、外回転体2及び内回転体3が一体的に回転する。これにより、ばねの拡径方向の変形による破損を防止できる。
【0050】
次に、外回転体2の回転速度が内回転体3の回転速度よりも小さくなった場合(即ち、外回転体2が減速する場合)について説明する。
【0051】
この場合、外回転体2は、内回転体3に対して逆方向(図2の矢印方向と逆の方向)に相対回転する。外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の一端側領域4aが、圧接面2aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が縮径方向にねじれる。ばね4の縮径方向のねじり角度がθ3(例えば、θ3=10°)未満の場合、一端側領域4aの圧接面2aに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干低下するものの、一端側領域4aは圧接面2aに圧接している。また、他端側領域4bの接触面3axに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干増大する。ばね4の縮径方向のねじり角度がθ3以上の場合、一端側領域4aの圧接面2aに対する圧接力は略ゼロとなり、一端側領域4aは圧接面2aに対して外回転体2の周方向に摺動する。したがって、外回転体2と内回転体3との間でトルクは伝達されない。
【0052】
このように、ばね4は、内回転体3が外回転体2に対して正方向に相対回転するとき外回転体2及び内回転体3のそれぞれと係合して外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する一方、内回転体3が外回転体2に対して逆方向に相対回転するとき外回転体2及び内回転体3の少なくとも一方(本実施形態では、圧接面2a)に対して摺動(本実施形態では、外回転体2の周方向に摺動)して外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達しない。また、プーリ構造体1は、ばね4の拡径又は縮径により外回転体2及び内回転体3の間でトルクを伝達又は遮断するように構成されている。
【0053】
<滑り軸受の製造方法>
次に、プーリ構造体1を構成する滑り軸受6の製造方法について説明する。滑り軸受6は、図4図5に示すような射出成形機(不図示)及び金型(射出成形金型)50を用いて射出成形法によって製造する。金型50は、4つの滑り軸受6を一度に製造することが可能なものである。金型50は、3枚の直方体形状の型板51〜53と、支持部材54と、突出し板55と、複数の突出しピン56、スペーサ57とを備えている。
【0054】
型板51の上端部には、4つの滑り軸受6に対応する4つのキャビティ51aが形成されている。4つのキャビティ51aは、互いに直交する第1方向(図5(a)の左右方向)、及び、第2方向(図5(a)の上下方向)に2つずつ並んでいる。キャビティ51aは、有端環状に形成されている。また、キャビティ51aの径方向の内側の内壁面51a1が全周にわたって径がほぼ一定である。また、キャビティ51aの径方向の外側の内壁面51a2は、周方向の両端部において、周方向の各端に向かうほど径が徐々に小さくなっている。これにより、キャビティ51aは、周方向の両端部以外の部分において、径方向の幅(滑り軸受6の厚みに対応する長さ)がほぼ一定である。さらに、キャビティ51aは、周方向の両端部における径方向の幅(滑り軸受6の厚みに対応する長さ)が、周方向の両端部以外の部分の径方向の幅(滑り軸受6の厚みに対応する長さ)よりも小さくなっている。すなわち、キャビティ51aは、周方向の両端部における径方向の幅が、キャビティ51aの径方向の幅の基準寸法よりも小さい。
【0055】
また、型板51には、各キャビティ51aと上下に重なる部分に、それぞれ、上下方向に延びた複数の挿通孔51bが形成されている。挿通孔51bは、上端がキャビティ51aに開口しており、下端が型板51の下面に開口している。各挿通孔51bには、下方から突出しピン56が挿通されている。
【0056】
型板52は、型板51の上面に配置されている。型板52には、4つのピンゲート52aと、ランナー52bとが形成されている。ピンゲート52aは、型板52の下端部に形成されており、下側(型板53側)に向かうほど径が小さくなる先細り形状となっている。4つのピンゲート52aは、4つのキャビティ51aに対応しており、その下端部が、対応するキャビティ51aの周方向の片方の端部と接続されている。
【0057】
ランナー52bは、型板52の上面の中央部から第1方向の両側に延び、第1方向の両端部において、それぞれ、第2方向の両側に延びている。さらに、ランナー52bは、第2方向に延びた部分の各先端部から下方に延び、ピンゲート52aの上端部と接続されている。
【0058】
型板53は、型板52の上面に配置されている。型板53にはスプルー53aが形成されている。スプルー53aは、型板53の中央部に形成され、型板53を上下方向に貫通し、その下端においてランナー52bの第1方向に延びた部分の中央部と接続されている。また、型板53のスプルー53aが形成された部分の上面には凹部53bが形成されている。凹部53bは、後述するように熱可塑性樹脂を充填する際にノズル59を配置するための部分である。
【0059】
支持部材54は、型板51の下方に配置されている。支持部材54と型板51との間にはスペーサ57が介在しており、これにより、支持部材54と型板51との間に空間Kが形成されている。突出し板55は、空間K内に収容されており、支持部材54により支持されている。突出し板55には複数の突出しピン56が固定されている。また、支持部材54の突出し板55の中央部と上下に重なる部分には、貫通孔54aが形成されている。
【0060】
そして、金型(射出成形金型)50を用いて滑り軸受6を作製するためには、まず、図6(a)に示すように、図示しない可塑化シリンダに接続されたノズル59を、凹部53b上に配置し、可塑化シリンダによって熱可塑化(加熱溶融)された熱可塑性樹脂を、ノズル59からスプルー53aに流し込むことによって、スプルー53a、ランナー52b、ピンゲート52a、キャビティ51aに熱可塑性樹脂を充填する。その後、充填した熱可塑性樹脂を冷却固化させる。
【0061】
続いて、図6(b)に示すように、型板52、53を上方に移動させて型板51から離す。このとき、型板52がピンゲート52aを有するものであるため、ピンゲート52a内の熱可塑性樹脂が、キャビティ51a内の熱可塑性樹脂(滑り軸受6)から切り離される。そして、この後、図7に示すように、貫通孔54aを通るロッドT(射出成形機に備わるエジェクタ機構)で突出し板55を押し上げることによって、複数の突出しピン56を押し上げて、滑り軸受6をキャビティ51aから抜き出す。その後、滑り軸受6を、成形収縮しなくなるまで(例えば室温となるまで)冷却させる。
【0062】
<効果>
ここで、上述したように、樹脂組成物を有端環状のキャビティ51a内に射出充填したときには、キャビティ51aの周方向両端部(樹脂流れ方向末端部)における充填圧力(内部圧力)が、キャビティ51aの周方向両端部以外の部分における充填圧力(内部圧力)よりも、若干高くなる。そのため、作製される滑り軸受6の周方向の両端部は、周方向の両端部以外の部分よりも、成形収縮が若干小さくなる。厳密には、周方向の端に向かうほど、成形収縮が小さくなる。そのため、本実施形態と異なり、キャビティの径方向の幅(滑り軸受の厚みに対応する長さ)が、キャビティの周方向の位置によらず一定(キャビティの径方向内側及び外側の壁面の径が一定)であると、作製される滑り軸受の周方向の両端部は、周方向の両端部以外の部分よりも、若干厚みが大きくなる。
【0063】
一方で、プーリ構造体1の外回転体2にベルトBが掛けられると、外回転体2のベルトBから力が加えられる部分が、滑り軸受6に向けて押し付けられる。そのため、外回転体2のベルトBから力が加えられる部分において、摺動隙間が狭くなってほぼ0となる。このとき、回転軸Aに対して、外回転体2のベルトBから力が加えられる部分と反対側のベルトBから力が加えられていない部分における摺動隙間が広がる(例えば0.2mm程度となる)。
【0064】
この場合において、本実施形態と異なり、滑り軸受の周方向の両端部の厚みが、周方向の両端部以外の部分の厚みよりも大きくなっていると、滑り軸受の周方向の両端部(厚みの大きい部分)が、外回転体のベルトから力が加えられる部分と対向する位置に到達する毎に(周期的に)、滑り軸受が、外回転体と内回転体との隙間を広げるように、外回転体に対して径方向の外側に力を加える。これにより、外回転体が振動し、異音が発生する虞がある。
【0065】
これに対して、本実施形態では、キャビティ51aの周方向の両端部以外の部分における径方向の幅がほぼ一定である。また、キャビティ51aの周方向の両端部における径方向の幅が、キャビティ51aの周方向の両端部以外の部分における径方向の幅よりも短くなっている。これにより、上述したように、滑り軸受6の製造時に、滑り軸受6の周方向の両端部が、周方向の両端部以外の部分よりも、成形収縮が若干小さくなっても、作製される滑り軸受6が、周方向の両端部における厚みが、周方向の両端部以外の部分における厚みよりも小さいものとなる。したがって、滑り軸受6の周方向の両端部が外回転体2のベルトBから力が加えられる部分と対向する位置に到達しても、滑り軸受6が、外回転体2と内回転体3との隙間を広げるように、外回転体2を径方向の外側に力を加えるということがない。これにより、外回転体が振動して、異音が発生してしまうことを防止することができる。
【0066】
また、本実施形態では、滑り軸受6の内周面6aの径を周方向の全周にわたって一定とし、滑り軸受6の外周面6bの周方向の両端部に、周方向の各端に向かうほど径方向の内側に向かうように延びた面取り部6b1を形成している。これにより、滑り軸受6を、周方向の両端部における厚みが、周方向の両端部以外の部分における厚みよりも小さくなるようにしつつも、滑り軸受6の内周面6aの内回転体3に対する密着性を高くすることができる。
【0067】
なお、滑り軸受6において、当該面取り部6b1が形成されない場合に、周方向の両端部以外の部分の厚みよりも厚みの大きい部分を有する周方向の両端部の長さ範囲(周方向の端面からの周方向に沿った長さ範囲)、ならびに、周方向の両端部の厚みを周方向の両端部以外の部分の厚みよりも小さくするために形成される面取り部6b1の長さ範囲(周方向の端面からの周方向に沿った長さ範囲)は、滑り軸受の材質(熱可塑性樹脂の種類)や断面寸法(周方向の両端部以外の部分における厚みや内径)、ならびに製造条件(射出成形条件等)、等により変化すると考えられる。よって、これらの長さ範囲は、上述の滑り軸受の材質や断面寸法、ならびに製造条件等によって適宜設定される。面取り部6b1の長さは、例えば滑り軸受6の厚み(基準寸法)と同程度の長さであってもよく、例えば滑り軸受6の周方向の両端面から2mm未満の範囲に形成されていてもよい。
【実施例】
【0068】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0069】
実施例、比較例及び参考例は、本実施形態のプーリ構造体1に対応するプーリ構造体を、互いに異なる形状の滑り軸受を用いて形成したものである。実施例、比較例及び参考例では、それぞれ、図8(a)〜(c)に示すような滑り軸受6A〜6Cを用いてプーリ構造体を形成している。
【0070】
表1は、実施例、比較例及び参考例における滑り軸受6A〜6Cの各部分の厚みを示している。表1のX=0、1、2は、それぞれ、滑り軸受の周方向の端面から0mm、1mm、2mmの位置を指しており、表1ではこれら3つの位置における滑り軸受の厚みと、滑り軸受の周方向の両端部(周方向の両端面から2mm未満の範囲に位置する部分)における厚みの最大値とを示している。実施例、比較例及び参考例では、いずれも、滑り軸受の厚みの基準寸法は、2.00mmである。図8(a)〜(c)のそれぞれに示す一点鎖線は、当該基準寸法に係るそれぞれの滑り軸受の輪郭線を表している。
【表1】
【0071】
実施例に係る滑り軸受6Aは、本実施形態の滑り軸受6に対応するものである。すなわち、滑り軸受6Aは、図8(a)に示すように、周方向の両端部の外周面6bに面取り部6b1が形成されており、当該面取り部61bは、周方向の両端面から2mmの範囲に形成されている。このため、滑り軸受6Aの、周方向の両端部(周方向の両端面から2mm未満の範囲に位置する部分)における厚みが、周方向の両端部以外の部分における厚みよりも小さく(周方向において各端に向かうほど厚みが徐々に小さく)なっている。
【0072】
比較例の滑り軸受6Bは、図8(b)に示すように、周方向の両端部における厚みが、周方向の両端部以外の部分における厚みよりも大きくなっている。
【0073】
参考例に係る滑り軸受6Cは、図8(c)に示すように、厚みが周方向の全周にわたってほぼ一定である。なお、表2において、滑り軸受6Cの厚みにばらつきがある(1.98〜2.01となっている)のは、後述するように研磨加工を行ったときの誤差である。
【0074】
また、実施例、比較例及び参考例に係る滑り軸受6A〜6Cの、周方向の両端部以外の厚みは、2.00mmであった。また、滑り軸受6A〜6Cの、周方向の両端部以外の部分における内径は、55mmであった。また、滑り軸受6A〜6Cの軸方向の長さは6mmであった。また、実施例、比較例及び参考例では、ベルトが掛けられる前の状態の筒状隙間が2.1mmであり、摺動隙間が0.1mmであった。
【0075】
また、実施例、比較例及び参考例では、滑り軸受を、ロックウェルRスケールが114のポリアセタール樹脂(商品名「ベスタールG」(三ツ星ベルト社製))からなるものとした。また、実施例、比較例及び参考例では、図5(a)のような4つのキャビティを有する同じ金型(射出成形金型)を用いて滑り軸受の作製を行った。ただし、これらの滑り軸受の作製に用いた金型では、図5(a)に示す金型とは異なり、型板のキャビティの径方向の幅が周方向の両端部を含む部分が入れ駒となっているものを用いた。比較例及び参考例では、入れ駒を、キャビティの周方向の両端部の幅が、キャビティの両端部以外の部分と同じ一定のものとした。また、参考例では、入れ駒を比較例と同じものとして滑り軸受を作製し、その後、研磨加工を施すことによって、周方向の全周にわたって厚みがほぼ一定となるようにした。また、実施例では、入れ駒を、面取り部の形状に対応するものとして、滑り軸受の作製を行った。
【0076】
また、滑り軸受の周方向の端部の形状以外の条件を同じとするために、実施例、比較例及び参考例では、上記4つのキャビティのうち同じキャビティによって形成された滑り軸受を用いてプーリ構造体を形成した。
【0077】
なお、実施例、比較例及び参考例では、上述したような射出成形法によって、各部分の厚みが表1に記載されている厚みとなる滑り軸受が再現性良く作製されることを確認したうえで、表1に記載の厚みを有する滑り軸受6A〜6Cを用いてプーリ構造体を形成した。
【0078】
また、射出成形時の樹脂の温度は、可塑化シリンダ後部(ノズルと反対側の部分)において170℃程度、可塑化シリンダ前部(ノズル側の部分)において200℃程度、ノズル部において210℃程度であった。また、金型の温度は70℃程度であった。また、樹脂の射出圧力は80MPa程度であり、樹脂の射出速度は30mm/秒程度であった。また、成形収縮率は約2%であった。
【0079】
そして、実施例、比較例及び参考例の供試体(プーリ構造体)を用いて図9に示すようなアイドル試験機80を形成し、このアイドル試験機80を作動させて異音の発生の有無の評価を行った。アイドル試験機80は、オルタネータ81と、オルタネータ81の駆動軸Sに取り付けられた供試体(プーリ構造体)1xと、クランクプーリ83と、クランクプーリ83と供試体1xとに巻回されたVリブドベルト84と、クランクプーリ83と同軸に固定されたタイミングプーリ85と、モータ86と、モータ86の駆動軸に連結されたタイミングプーリ87と、タイミングプーリ85,87に巻回されたタイミングベルト88とを含む。また、オルタネータ81、供試体1x、クランクプーリ83及びVリブドベルト84を含む空間を、恒温槽82とし、雰囲気温度を一定に保った。
【0080】
また、上記評価を行ったときには、アイドル試験機80における、クランクプーリ83の回転数が約700rpmであり、オルタネータ81(補機)及び試供体1xの回転数が約1500rpmであった。また、これらの回転数の変動率は10%程度であった。また、オルタネータ81(補機)及び試供体1xの表面温度を約130℃とした(恒温槽82を実車のアイドルリング状態と同じ130℃に保った)。また、実施例、比較例及び参考例では、アイドル試験機80を、約20分間の慣らし運転の後、約3分間運転させて測定を行った。また、このときのベルト張力は300N/本程度であった。
【0081】
実施例、比較例及び参考例について、それぞれ、外回転体の径方向の振動幅、オルタネータ81の振動加速度、及び、異音の発生の有無の評価を行った。表2はその結果を示している。
【表2】
【0082】
外回転体の径方向の振動幅は、滑り軸受の周方向の両端部が、外回転体のベルトの巻き掛け部分と対向する位置にあるときと、この位置から回転軸を中心に180°回転した位置にあるときとの、外回転体の径方向の位置のずれ量のことである。表2で示しているのは、アイドル試験機を作動させない状態で、変位計(ダイヤルゲージ)を用いて測定を行った測定結果である。
【0083】
オルタネータ81の振動加速度については、加速度ピックアップを、オルタネータの外面(径方向内向き)に固定し、測定を行った。このようにしたのは、外回転体が径方向に振動したときには、外回転体の振動がオルタネータ軸を介してプーリ構造体に接続されたオルタネータに伝播することで、オルタネータ本体部を覆うハウジングが共振し、このハウジングがスピーカ代わりとなって異音が発生すると考えられるからである。
【0084】
異音の発生の有無の評価では、聴覚障害のない5名の評価者によって、参考例の場合に発生している音を基準として、それ以外の異音を聞き取ることができたか否かを判定した。具体的には、アイドル試験機を上述したように作動させたときに、オルタネータから後方(プーリ構造体と反対側)に2m離れた位置で、評価者の聴覚によって異音を聞き取ることができたか否かを判定した。
【0085】
そして、5名全員が異音を聞き取れなかった場合に、評価を○とした。また、5名中2名以下(過半数未満)の評価者によって異音が聞き取られた場合には、評価を△とした。また、5名中3名以上(過半数以上)の評価者によって異音が聞き取られた場合には、評価を×とした。なお、この評価では、参考例を基準としているため、参考例については評価結果を示していない。また、表2からわかるように、評価が△となる例はなかった。
【0086】
そして、表2の結果から、実施例のように、滑り軸受において、周方向の両端部以外の部分の厚みがほぼ一定であり、周方向の両端部の厚みが周方向の両端部以外の部分の厚みよりも小さくなるようにすれば、比較例のように、滑り軸受において、周方向の両端部が周方向の両端部以外の部分よりも厚みの大きい部分を有する場合と比較して、外回転体(オルタネータ)の振動加速度が小さく、外回転体の振動による異音が発生しにくいことがわかった。
【0087】
また、比較例では、実施例及び参考例よりも、外回転体の径方向の振動幅が大きくなっている。このことから、外回転体の径方向の振動幅が大きくなると、上記異音が発生しやすくなることを確認できた。また、比較例では、実施例及び参考例よりもオルタネータの振動加速度が高くなっている。このことから、上記のとおり、オルタネータの共振によって異音が発生しやすくなることが確認できた。
【0088】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲記載の限りにおいて様々な変更が可能である。
【0089】
滑り軸受は、内周面の径が全周にわたって一定であり、周方向の両端部における外周面に面取り部が形成されたものであることには限られない。変形例1では、図10(a)に示すように、滑り軸受106の内周面106aの周方向の両端部が、各端に向かうほど径が大きくなった面取り部106a1となっている。また、滑り軸受106の外周面106bの径がほぼ一定となっている。
【0090】
変形例2では、図10(b)に示すように、滑り軸受116の内周面116aの周方向の両端部が、各端に向かうほど径が大きくなった面取り部116a1となっている。また、滑り軸受116の外周面116bの周方向の両端部が、各端に向かうほど径が大きくなった面取り部116b1となっている。
【0091】
変形例1、2の場合でも、滑り軸受は、周方向の両端部以外の部分における厚みがほぼ一定であり、周方向の両端部における厚みが、周方向の両端部以外の部分における厚みよりも小さくなっている。
【0092】
また、滑り軸受は拡径された状態で内回転体に密着していることには限られない。滑り軸受は、縮径された状態で外回転体に密着していてもよい。また、この場合には、上述の変形例1のように、滑り軸受を、内周面の周方向の両端部が、各端に向かうほど径が大きくなった面取り部となっており、外周面の径がほぼ一定のものとすれば、滑り軸受と外回転体との密着性を高くすることができる。ただし、この場合でも、上述の実施形態と同様に滑り軸受の周方向の両端部の外周面に面取り部が形成されていてもよい。また、変形例2と同様に、滑り軸受の周方向の両端部の外周面及び内周面の両方に面取り部が形成されていてもよい。
【0093】
また、滑り軸受の周方向の両端部の間に隙間があることにも限られない。滑り軸受の軸方向の両端部が互いに接触しており、滑り軸受の周方向の両端部の間の隙間がほとんどなくてもよい。
【0094】
また、プーリ構造体において、ねじりコイルばねを含むコイルスプリング式のクラッチとは別の構成のクラッチによって、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達又は遮断するように構成されていてもよい。さらには、プーリ構造体は、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達又は遮断するクラッチが設けられていないものであってもよい。すなわち、プーリ構造体において、外回転体と内回転体との間で常にトルクが伝達されるようになっていてもよいし、外回転体と内回転体との間で常にトルクが遮断されるようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 プーリ構造体
2 外回転体
3 内回転体
6a 内周面
6b 外周面
6b1 面取り部
6 滑り軸受
7 転がり軸受
50 射出成形機
51 型板
51a キャビティ
B ベルト
図1
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