(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繊維基材同士の間に、熱可塑性を有するとともに、少なくとも前記繊維基材の厚み方向への前記マトリクス樹脂の通過を許容するシートを配置し、前記シートを加熱して可塑化させることで、
複数の前記繊維基材を接着する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維基材の積層方法。
配列された繊維束を有し、マトリクス樹脂と共に繊維強化樹脂を構成する素材である複数の繊維基材が、前記繊維束を同一方向に向けて連続して積層された繊維基材群のロールを製造する方法であって、
配列方向に隣り合う前記繊維束の前記配列方向の中央部に比べ、前記繊維束の前記配列方向の端縁部では、前記繊維束を構成する単繊維の密度が小さく、
前記繊維束を用いて前記繊維基材の形態を得るステップと、
前記配列方向に隣り合う前記繊維束と前記繊維束との境界部の位置を合わせた状態で、複数の前記繊維基材を一体化するステップと、
一体化された前記繊維基材を備えた前記繊維基材群を巻き取るステップと、を含む、
ことを特徴とする繊維基材群ロールの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の繊維基材からなる積層体の全体に樹脂が行き渡るように、積層体の各層の繊維基材に樹脂を含浸させる必要がある。樹脂は、繊維基材が有する繊維束と繊維束との境界部を通り抜けて次の層の繊維基材へと含浸される。
しかし、繊維束を同一方向に向けた繊維基材が連続して積層されていると、樹脂の含浸性に劣る。
図9に示すように、繊維基材20の隣り合う繊維束21と繊維束21との境界部21Bに沿って別の繊維基材20の繊維束21が配置されていると、繊維基材20からその下方に配置された繊維基材20への樹脂の流動が妨げられてしまう。そのため、繊維束21を同一方向に向けて連続して積層される繊維基材の数が多い程、積層体に未含浸の箇所が残されるおそれがある。
そこで、本発明は、積層された繊維基材の各々に樹脂を十分に含浸させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、配列された繊維束を有し、樹脂(マトリクス樹脂)と共に繊維強化樹脂を構成する素材である複数の繊維基材を積層する方法であって、配列方向に隣り合う繊維束の配列方向の中央部に比べ、繊維束の配列方向の端縁部では、繊維束を構成する単繊維の密度が小さく、複数の繊維基材が積層されるにあたり、配列方向に隣り合う繊維束と繊維束との境界部の位置を、繊維束を同一方向に向けて連続して積層される繊維基材同士の間で合わせた状態で、複数の繊維基材を一体化することを特徴とする。
また、本発明の繊維基材の積層方法において、積層される複数の繊維基材のそれぞれが繊維束間に有する全ての境界部の位置を繊維基材の相互の間で合わせ、複数の繊維基材を一体化することが好ましい。
さらに、本発明の繊維基材の積層方法において、繊維束は、一方向に揃えて等しいピッチで配列され、繊維束が配列される一方向に沿って延びた境界部を、積層される繊維
基材同士の間で積層方向に位置合わせすることが好ましい。
【0007】
本発明によれば、繊維束を同一方向に向けて繊維基材が連続して積層されていたとしても、それらが繊維束と繊維束との境界部の位置を合わせた状態で一体化されているので、樹脂注入法により繊維基材に樹脂を含浸させる際に、境界部を介して繊維基材間の樹脂の流動が確保されている。そのため、積層された繊維基材の各々に樹脂を十分に含浸させることができる。
本発明においては、繊維束を同一方向に向けて繊維基材が連続して積層される枚数が制約されないので、繊維強化樹脂成形品の設計の自由度が向上する。それによって繊維強化樹脂成形品の特性向上にも寄与することができる。
【0008】
複数の繊維基材を一体化するために、繊維束の表面に散在した熱可塑性樹脂の粒子を加熱して可塑化させることで、複数の繊維基材を接着することができる。
本発明における「熱可塑性樹脂の粒子」には、全体が熱可塑性樹脂から形成された粒子の他、熱可塑性樹脂を主成分としており全体として熱可塑性を有する粒子が包含される。
あるいは、繊維基材同士の間に、少なくとも繊維基材の厚み方向への熱可塑性を有するとともに樹脂の通過を許容するシートを配置し、シートを加熱して可塑化させることで、シートを介して複数の繊維基材を接着することもできる。
その他、任意の接着剤を用いたり、繊維による縫合等の適宜な方法により複数の繊維基材を一体化することができる。
【0009】
本発明は、配列された繊維束を有し、樹脂と共に繊維強化樹脂を構成する素材である複数の繊維基材が、繊維束を同一方向に向けて連続して積層された繊維基材群のロールを製造する方法であって、
配列方向に隣り合う繊維束の配列方向の中央部に比べ、繊維束の配列方向の端縁部では、繊維束を構成する単繊維の密度が小さく、繊維束を用いて繊維基材の形態を得るステップと、配列方向に隣り合う繊維束と繊維束との境界部の位置を合わせた状態で、複数の繊維基材を一体化するステップと、一体化された繊維基材を備えた繊維基材群を巻き取るステップと、を含むことを特徴とする。
複数の繊維基材を一体化するステップでは、繊維束と繊維束との境界部の位置を合わせた状態で、配列方向に隣り合う繊維束と繊維束との間を通した繊維により複数の繊維基材を縫合することが好ましい。
本明細書において「縫合」は、配列方向に隣り合う繊維束と繊維束との間を介して繊維を繊維束群に織り込むことを含むものとする。
【0010】
繊維基材を形成した後に別途、複数の同一方向の繊維基材を積層して、別の繊維により繊維基材織物として縫合し、繊維基材織物のロールを製作しておけば,部品製造時に同一方向に積層した繊維基材同士を一体化しなくても良いので、より容易に部品が製造できる。
【0011】
本発明の繊維強化樹脂成形方法は、上述の繊維基材の積層方法により積層された繊維基材
からなる繊維基材群と、繊維基材群の繊維基材における繊維束の同一の第1配列方向とは異なる方向である同一の第2配列方向に配列された繊維束を有する繊維基材である別繊維基材を含む複数の繊維基材
とから積層体をなすステップと、積層体が配置されたキャビティ内を減圧してキャビティ内にマトリクス樹脂を注入することにより、積層体をなす繊維基材の各々に樹脂を含浸させるステップと、を備え
、マトリクス樹脂を含侵させるステップでは、繊維基材群の繊維基材における境界部と、別繊維基材における繊維束間の境界部とが重なる箇所をマトリクス樹脂の通路の一部に含んで、積層体をなす繊維基材の各々にマトリクス樹脂を含侵させることを特徴とする。
【0012】
本発明の繊維強化樹脂成形方法においては、樹脂に含浸させるステップを行うにあたり、積層体上に、樹脂の流動抵抗が繊維基材よりも小さい樹脂拡散媒体を配置することが好ましい。
そうすると、キャビティ内に注入された樹脂の多くを樹脂拡散媒体に取り込み、そこから積層体の下方に向けて、繊維束の境界部を介して樹脂を各層へと順次移動させるように、樹脂の流動を制御できる。それによって積層体の全体に樹脂を効率良く含浸させることができる。
【0013】
本発明の繊維基材群は、配列された繊維束を有し、樹脂と共に繊維強化樹脂を構成する素材である複数の繊維基材を備え
た繊維基材群であって、配列方向に隣り合う繊維束の配列方向の中央部に比べ、繊維束の配列方向の端縁部では、繊維束を構成する単繊維の密度が小さく、複数の繊維基材は、繊維束を同一方向に向けて連続して積層され、配列方向に隣り合う繊維束と繊維束との境界部の位置を合わせた状態で一体化されていることを特徴とする。
【0014】
複数の繊維基材を一体化するために、熱可塑性樹脂により複数の繊維基材を互いに接着したり、配列方向に隣り合う繊維束と繊維束との間を通した繊維により複数の繊維基材を縫合
したりすることができる。
【0015】
本発明の繊維強化樹脂成形品は、上述の繊維基材群が複数積層されたものに樹脂が含浸されている。
【0016】
本発明の航空機は、上述の繊維強化樹脂成形品としての構造部材を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、積層された繊維基材の各々に樹脂を十分に含浸させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
本実施形態に係る繊維強化樹脂成形品は、VaRTMにより繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂から成形されている。かかる繊維強化樹脂成形品は、例えば、航空機の構造部材として用いることができる。
繊維強化樹脂成形品を形成する繊維強化樹脂を構成する素材として、
図1に示す繊維基材20の積層体10が用いられる。
積層体10は、複数のシート状の繊維基材20が厚み方向に積層されたものである。成形する繊維強化樹脂成形品の厚みに応じた数の繊維基材20が積層されている。
【0020】
積層体10を用いて繊維強化樹脂成形を行う際は、
図1に示すように、成形品の形状に対応する成形型11とバッグフィルム12との間の密閉されたキャビティ14内に、積層体10を配置する(積層体配置ステップ)。そして、真空引きによってキャビティ14内を減圧させることで、樹脂の供給源からキャビティ14内へと樹脂を注入して積層体10の繊維基材20に含浸させる(樹脂含浸ステップ)。
繊維基材20に含浸される樹脂(マトリクス樹脂)としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を好ましく用いることができる。
繊維基材20に樹脂が含浸されたならば、ヒーターマットやオーブン等の加熱装置によりマトリクス樹脂を加熱して硬化させることで繊維強化樹脂を成形する。
樹脂を含浸および硬化させる過程を通じてキャビティ14内の減圧を継続することにより、キャビティ14内と大気との圧力差により繊維基材20および樹脂を加圧して緻密化させることができる。
【0021】
積層体10上には、キャビティ14内に注入された樹脂を拡散させる樹脂拡散媒体15を配置することが好ましい。樹脂拡散媒体15は、樹脂の流動抵抗が繊維基材20よりも小さいため樹脂の通路として機能する。例えば、メッシュ状の部材を樹脂拡散媒体15として用いることができる。
キャビティ14内に注入された樹脂は、樹脂拡散媒体15を通り積層体10の表面に沿って流通し、さらに積層体10の各層へと順次含浸される。
【0022】
積層体10を構成する繊維基材20は、
図2(a)に示すように、繊維束21が並行するように配列された一方向繊維基材である。繊維基材20に含まれる繊維束21は、単一の方向に延びている。
繊維基材20は、
図3に示すように、複数の繊維束21からなる繊維束群210と、繊維束群210の繊維束21を配列した状態にまとめる補助繊維22,23とを有している。繊維束群210および補助繊維22,23は、一体の織物に形成されている。
【0023】
繊維束21は、多数の強化繊維が同一方向に引き揃えられたものである。強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の適宜な繊維を用いることができる。
繊維束21は、加圧により平坦に形成されている。繊維束21の幅は、例えば、数mm〜20mm程度であり、繊維束21の厚みは、例えば、0.05mm〜数mmである。繊維束21の厚みが繊維基材20の厚みにほぼ相当する。繊維束21を構成する単繊維がバラけないように、単繊維の表面に例えばエポキシ系の樹脂からなるサイジング剤が塗布されていることが好ましい。
【0024】
繊維束21は、等しいピッチで配列されている。本実施形態では、配列方向に隣り合う繊維束21と繊維束21との境界部21Bに隙間Sp1が存在しているが、境界部21Bに必ずしも隙間Sp1が存在している必要はない。
境界部21Bは、マトリクス樹脂が流れる経路として機能し、
図3に示すように、隣り合う繊維束21,21間の隙間Sp1と、繊維束21,21の各々の幅方向の端縁部21Cとを含んでいる。繊維束21の端縁部21Cは、繊維束21の幅方向の中央部に比べて単繊維の密度が小さいので、マトリクス樹脂が端縁部21Cを通過することができる。
【0025】
補助繊維である縦繊維22は、
図3に示すように、境界部21Bの位置で繊維束21の長さ方向に沿って延びている。
一方、補助繊維である複数の横繊維23は、繊維束21の幅方向(配列方向)に沿って配置されている。繊維基材20を平面視すると、縦繊維22および横繊維23は格子状をなしている。
横繊維23は、境界部21Bの位置で縦繊維22をくぐり抜けながら繊維基材20の片面で繊維束群210を横断するように配置されている。例えば、繊維基材20の第1面20Aに位置する横繊維23は、境界部21Bの位置で縦繊維22をくぐり抜けながら第1面20Aに沿って延出している。また、繊維基材20の第2面20Bに位置する横繊維23は、境界部21Bの位置で縦繊維22をくぐり抜けながら第2面20Bに沿って延出している。
縦繊維22および横繊維23により、繊維束群210の繊維束21が分離することなく一体にまとめられている。
縦繊維22および横繊維23として、ガラス繊維や炭素繊維等からなる繊維束を用いることができ、その束は、繊維強化樹脂成形品の強度を受け持つ繊維束21よりも細い。後述する補助繊維27,28,29についても同様である。
縦繊維22および横繊維23は、繊維束21の位置がずれるのを防いでいる。
【0026】
繊維基材20は、繊維束21の長さ方向に強度を有する。繊維基材20により、成形品に必要な複数の方向の強度が得られるように、繊維束21の方向に基づいて繊維基材20を配向している。
【0027】
図2(a)は、積層体10の繊維基材20の配向の一例を示している。
積層体10は、複数の繊維基材20(201〜208)を備えている。繊維基材201〜208は、積層体10の厚み方向にこの順に積層されている。繊維基材201〜208を特に区別しない場合には、単に繊維基材20と称する。
繊維基材201〜203は、いずれも繊維束21を第1方向D1に向けて配置されている。これらを繊維基材群G1と称する。
繊維基材204は、繊維束21を第2方向D2に向けて配置されている。
繊維基材205〜207は、いずれも繊維束21を第3方向D3に向けて配置されている。これらを繊維基材群G2と称する。
繊維基材208は、繊維束21を第4方向D4に向けて配置されている。
第4方向D4を基準(0°)とすると、第4方向D4に対して第3方向D3、第2方向D2、および第1方向D1がなす角度をそれぞれ、45°、90°、−45°に定めることができる。
【0028】
上記のように、積層体10は、繊維束21を同一方向に向けて連続して積層された繊維基材20からなる繊維基材群G1および繊維基材群G2を備えている。
繊維束21を同一方向に向けて繊維基材20が連続して積層されている場合に、
図9に示すように、繊維束21,21間の境界部21Bに沿って次の層の繊維基材20の繊維束21が配置されているとする。そうすると層間の樹脂の通路が繊維束21の長さ方向の全体に亘り塞がれてしまう。
一方、
図2(a)に示す繊維基材203および繊維基材204のように繊維束21を異なる方向に向けて積層されている場合は、
図2(b)に繊維基材203,204を抜き出して示すように、繊維基材203における繊維束21,21間の境界部21Bと、繊維基材204における繊維束21,21間の境界部21Bとが交差する箇所X(白色の箇所)に、層間の樹脂の通路が残される。
【0029】
本実施形態では、繊維束21を同一方向に向けて連続して積層される繊維基材20同士の間で、繊維束21,21間の境界部21Bの位置を合わせることにより、層間方向にも樹脂を流通させている。
図4(a)に示すように、配列方向に隣り合う繊維束21,21間の境界部21Bの位置が、繊維束21を同一方向に向けて連続して積層される繊維基材201〜繊維基材203の間で合致している。
繊維束21は等ピッチで配列されているので、繊維基材201が有するすべての繊維束21の隣り合うもの同士の境界部21Bのいずれも、繊維基材202における境界部21Bと位置が合致している。
上記に加えて、繊維基材202と繊維基材203との間でも、境界部21Bの位置が合致している。
したがって、繊維基材201における境界部21Bと、繊維基材202における境界部21Bと、繊維基材203における境界部21Bとにより、繊維基材群G1の積層方向(厚み方向)に連通した樹脂経路25が形成されている。
【0030】
繊維基材群G2の繊維基材205〜207(
図2(a))の相互の間においても、図示は省略するが、繊維基材群G1と同様に、境界部21Bの位置が合致しており、それによって繊維基材群G2の積層方向に連通した樹脂経路25が形成されている。
【0031】
図4(a)に示すように境界部21Bの位置が合致した状態で、繊維基材群G1の繊維基材201〜203は一体化されている。繊維基材201〜203が一体化されていることで、取り扱いが容易であるだけでなく、繊維基材201〜203の相互の間で境界部21Bの位置がずれることを防ぐことができる。
繊維基材201〜203は、繊維束21の少なくとも一面に散在した熱可塑性パウダー24を加熱により可塑化することで互いに接着されている。熱可塑性パウダー24の可塑化による接着後も、積層された繊維基材間に樹脂の通過を許容する間隙Sp2が残されている。
熱可塑性パウダー24の材料としては、例えば、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、PES(ポリエーテルサルホン樹脂)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
繊維基材群G2の繊維基材205〜207も、同様に、熱可塑性パウダー24の可塑化により互いに接着されることで一体化されている。
【0032】
図1に示すようにキャビティ14内に積層体10を配置し、真空引きにより樹脂をキャビティ14内に注入すると、繊維基材20に比べて多くの樹脂が樹脂拡散媒体15に優先的に導入される。そして、樹脂拡散媒体15から積層体10の各層へと、以下で説明するように樹脂が含浸される。
図4(b)に、積層体10の内部における樹脂の流れの一例を矢印で示す。積層体10の全体に樹脂を含浸させるためには、積層体10の層間で樹脂を流し、最下層の繊維基材208にまで樹脂を到達させることが重要である。
樹脂拡散媒体15に導入された樹脂が最上層の繊維基材201(
図4(a))に供給されると、繊維基材201から繊維基材202へと樹脂経路25を通じて樹脂が到達する。
同様に、繊維基材202の次の層である繊維基材203へも樹脂経路25を通じて樹脂が到達する。
そして、繊維束21を異なる方向に向けて積層された繊維基材203,204(
図2(b))の間は、繊維基材203における境界部21Bと繊維基材204における境界部21Bとが交差する箇所Xを通じて樹脂が流れる。同じく繊維束21を異なる方向に向けて積層された繊維基材204,205の間についても同様である。
繊維基材205に到達した樹脂は、繊維束21を同一方向に向けて積層されている繊維基材群G2の繊維基材205〜207により形成される樹脂経路25を通じて繊維基材205から繊維基材206へと、そして繊維基材206から繊維基材207へと到達する。
さらに、繊維基材207とは繊維束21を異なる方向に向けて積層された繊維基材208にも、繊維基材207における境界部21Bと繊維基材208における境界部21Bとの交差箇所Xを通じて樹脂が到達する。
【0033】
上記のように積層体10の層間で樹脂が流通することと並行して、積層された繊維基材20の間の間隙Sp2(
図4(a))を樹脂が通り繊維基材20の面内方向(繊維束21の長さ方向および配列方向)に流通する。このとき、境界部21Bの位置で面内方向に沿っている縦繊維22と、繊維束21の配列方向に沿っている横繊維23と、繊維基材20間のスペーサーとして機能する熱可塑性パウダー24が、それぞれ樹脂の面内方向の流通を促進する。
以上で説明した層間と、各層の面内方向への樹脂の流通により、積層体10の全体に樹脂が行き渡る。積層体10に含まれた樹脂は、真空に保持されたキャビティ14内と大気との圧力差による加圧に伴い、繊維束21の内部にも含浸する。
【0034】
本実施形態では、繊維束21を同一方向に揃えるように配向された繊維基材20が、繊維基材群G1・G2毎に、繊維束21,21間の境界部21Bの位置を合わせて一体化されていることにより、繊維基材群G1・G2毎に層間の樹脂の流通が確保されている。そのため、繊維基材群G1、繊維基材204、繊維基材群G2、および繊維基材208を備えた積層体10の各層に樹脂が十分に含浸される。
つまり、樹脂が含浸されていない未含浸の領域が積層体10に残されないので、繊維強化樹脂成形品の歩留まりが向上する。
【0035】
本実施形態の積層体10が備える繊維基材201〜208の配向および積層数は、一例に過ぎず、本実施形態よりも多くの数だけ、繊維束21を同一方向に向けた繊維基材20が連続して積層されていたとしてもそれらの繊維基材20が繊維束21,21間の境界部21Bの位置を合わせて一体化されている限り、繊維基材20の各々に樹脂を十分に含浸させることができる。
【0036】
本実施形態によれば、繊維束21を同一方向に向けて繊維基材20が連続して積層される枚数が制約されないので、繊維強化樹脂成形品の設計の自由度が向上する。それによって繊維強化樹脂成形品の力学的特性向上にも寄与することができる。
【0037】
〔第1実施形態の変形例〕
繊維基材群G1・G2毎に繊維基材20を一体化させるため、熱可塑性パウダー24に代えて、
図5に示す熱可塑性の不織布26や、目の粗い織物を用いることができる。
不織布26は、繊維束21を同一方向に向けて連続して積層された繊維基材20同士の間に配置されている。
不織布26は、絡み合った繊維がシート状に成形されたものであり、繊維間の隙間により積層方向および面内方向への樹脂の通過を許容する。不織布26は、繊維束21よりもマトリクス樹脂の流動抵抗が小さい。
不織布26の材料としては、例えば、熱可塑性パウダー24の材料として例示した熱可塑性樹脂を用いることができる。
不織布26を加熱により可塑化することで、不織布26を介して繊維基材20同士を接着することができる。不織布26は、可塑化による接着後においても、マトリクス樹脂の流動抵抗が小さい状態を維持している。
不織布26に代えて、積層方向への樹脂の通過を許容するとともに熱可塑性を有する適宜なシート状の部材を用いることができる。その部材は貫通穴を有する形状に形成されていてもよいし、メッシュ状に形成されていてもよい。
【0038】
〔第2実施形態〕
次に、
図6を参照し、本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付している。
第2実施形態では、繊維束21を同一方向に向けて連続して積層される繊維基材20を一体化させるために、補助繊維27を用いる。
【0039】
図6(a)に示すように、繊維基材群G1をなす繊維基材201〜203は、隣り合う繊維束21,21間を通される補助繊維27により繊維束の配列方向に沿って縫合されている。
補助繊維27は、繊維基材群G1の一面側に位置する繊維基材201と、繊維基材群G1の他面側に位置する繊維基材203との間で厚み方向に交互に渡される補助繊維27Aおよび補助繊維27Bからなる。
補助繊維27A,27Bにより、境界部21Bの位置が合うように繊維基材201〜203が位置決めされるとともに一体化される。
繊維基材群G2をなす繊維基材205〜207についても、同様に補助繊維27A,27Bにより一体化される。
補助繊維27A,27Bは、配列される繊維束21の位置がずれるのを防いでいる。その一方で、繊維基材20の成形型11への追従を規制しないように、補助繊維27A,27Bの長さは余裕を持って定められている。
成形型11への追従により繊維束21が多少ずれて、
図8に示すように繊維束21間の境界部21Bの位置が繊維基材20間でシフトしたとしても、後述するように層間の樹脂の流動が確保されている。
【0040】
補助繊維27A,27Bは、
図3に示す縦繊維22および横繊維23を兼ねていてもよい。つまり、縦繊維22および横繊維23に代えて、補助繊維27A,27Bにより繊維束21をまとめ、それによって繊維基材20の形態を得ることができる。
【0041】
繊維基材201〜203を一体化するために、
図6(b)に示すように、補助繊維28および補助繊維29による縫合形態を採用することもできる。
補助繊維28は、
図3に示す縦繊維22と同様に、隣り合う繊維束21と繊維束21との間で、繊維束21の長さ方向に沿って配置されている。つまり、縦繊維22を補助繊維28として用いることができる。
【0042】
補助繊維29は、
図3に示す横繊維23とほぼ同様に、縦繊維22をくぐり抜けながら繊維束21を配列方向に横断している。補助繊維29は、繊維基材群G1の一面側に位置する繊維基材201に沿って配置される補助繊維29Aと、繊維基材群G1の他面側に位置する繊維基材203に沿って配置される補助繊維29Bとからなり、補助繊維29Aと補助繊維29Bとは補助繊維28を介して結合している。
【0043】
図6(a)に示す補助繊維27A,27Bにより、または
図6(b)に示す補助繊維28および補助繊維29A,29Bにより、縫合されて一体化されることで、繊維束21を同一方向に向けて連続して積層される繊維基材20間における樹脂の流通が確保される。そのため、積層体10の全体に亘り樹脂を十分に含浸させることができる。
【0044】
補助繊維27A,27B等による縫合は、繊維基材群G1(または繊維基材群G2。以下同様)のロールを製造する過程で行うことが好ましい。かかる繊維基材群ロールを製造する製造設備は、繊維束21を同一方向に引き揃える装置と、同じ繊維基材20を構成する繊維束21同士をまとめるととともに、積層される繊維基材20同士を縫合する装置と、縫合により得られた繊維基材群を巻き取る回転体とを備えている。
【0045】
繊維基材群ロールを製造するステップを
図7に示すように、まず、繊維束21を同一方向に引き揃えて配列させることで繊維基材20の基本形態を得る(ステップS1)。繊維基材群G1として積層される繊維基材201〜203の数の分だけの繊維束群210(
図3)が用意されることとなる。
次に、補助繊維27A,27Bをそれぞれ通した針を繊維束21の配列方向に運針し、繊維基材201〜203の各々における繊維束21,21間に補助繊維27A,27Bを通して繊維基材201〜203を縫合する(ステップS2)。
針を通す繊維束21,21間の位置を特定するために公知の画像処理を用いることで繊維束21,21間に正確に針を通すことができるし、先端が丸い(例えば球状)針を用いると、針の先端が繊維束21を押しのけて繊維束21,21間に入るので、繊維束21のピッチが少々乱れていたとしても、繊維束21,21間に補助繊維27を問題なく通すことができる。
【0046】
そして、縫合された繊維基材201〜203を巻き取ることで(ステップS3)、繊維束21を同一方向に向け、かつ境界部21Bの位置を合わせた状態で積層された繊維基材20からなる繊維基材群のロールを得ることができる。
【0047】
補助繊維28および補助繊維29A,29Bを用いる場合は、補助繊維28を繊維束21,21間に沿って繰り出すとともに、補助繊維29A,29Bをそれぞれ通した針を繊維束21の配列方向に運針することで、繊維基材群のロールを得ることができる。
【0048】
繊維基材群をなす繊維基材20を一体化するために熱可塑性パウダー24を用いる場合であっても、繊維基材群のロールを得ることができる。
つまり、積層される繊維基材20の数の分だけ用意される繊維束群210の間で境界部21Bの位置を合わせ、繊維束21の表面に付着した熱可塑性パウダー24を加熱により可塑化することで、繊維基材20同士が接着された状態で巻き取られた繊維基材群ロールを得ることができる。
熱可塑性の不織布26を用いる場合も、積層方向に並行する繊維束群210の間で境界部21Bの位置を合わせ、繊維束群210間に介在させた不織布26を加熱により可塑化することで、繊維基材20同士が接着された状態で巻き取られた繊維基材群ロールを得ることができる。
【0049】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【0050】
図8には、積層される繊維基材201〜203のそれぞれの境界部B1,B2,B3を示している。これらの境界部B1,B2,B3は、各々、配列方向に隣り合う繊維束21,21の幅方向の端縁部21Cを含んで構成されている。
図8に示すように、繊維基材201の境界部B1の位置に対して、繊維基材202の境界部B2の位置は繊維束21の配列方向にシフトしている。
また、繊維基材202の境界部B2の位置に対して、繊維基材203の境界部B3の位置は繊維束21の配列方向にシフトしている。
繊維基材201,202間で見ると、それらの積層方向に投影した際の境界部B1の投影範囲に境界部B2の一部が含まれている。そのため、繊維基材201,202間で樹脂が流動する。また、繊維基材202,203間で見ると、それらの積層方向に投影した際の境界部B2の投影範囲に境界部B3の一部が含まれているため、やはり繊維基材202,203間で樹脂が流動する。
上記の如く、繊維基材群の層間で樹脂が順次流動する限り、隣り合う繊維束と繊維束との境界部の位置が、積層される繊維基材間でシフトしている場合も許容される。
【0051】
本発明は、キャビティ14内を減圧させることで樹脂をキャビティ14内に注入する樹脂注入法に用いられる繊維基材に関して広く適用することができる。例えば、積層体10の全体を収容する成形型の外部から圧力を加えて成形する場合であっても、成形型の内部(キャビティ)を減圧させて樹脂を注入する限り、本発明を適用可能である。
【0052】
本発明は、繊維基材に含浸させるマトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることも許容する。
本発明に係る繊維強化樹脂成形品は、航空機が備える部材の他、例えば、風車の翼等にも用いることができる。