(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ダクタイル鋳鉄管等の各種流体輸送用配管を地中に埋設する工法として、地面を開削して管体を配設する開削工法が一般的である。しかし、開削のために交通を遮断することが困難である場合には、開削した発進坑と到達坑とを結ぶさや管(鞘管)としてヒューム管や鋼管等を推進等により埋設した後、その内部に、ダクタイル鋳鉄管等の新管を挿入する工法が採用される場合がある。また、既に供用されている既設管をさや管として、その内部に口径の小さい新管を挿入して管路を更新する工法が採用される場合もある。既設のさや管内に、相対的に小径の新管を埋設するこれらの工法は、さや管推進工法と称される。
【0003】
さや管推進工法は、
図6に示すように、発進坑Sと到達坑Rとの間に埋設されているさや管P’内に、そのさや管P’よりも相対的に小径の新管Pを、発進坑S側から順次挿入して敷設するものである。発進坑S内には油圧ジャッキJが設置され、油圧ジャッキJは、発進坑Sの内壁Hに反力をとって、前部のロッドで新管Pを到達坑R側へ向かって押圧する。新管Pは、その先端部の挿し口1を、先行の新管Pの後端部の受口2に挿入することによって順次接合され、さや管P’内に押し込まれて行く。
【0004】
新管Pの外周には、キャスタ装置3が取り付けられる。このキャスタ装置3には、新管Pの外周に取り付けられたフレーム5に回転自在の車輪4が設けられており、車輪4の転動により、新管Pがさや管P’内を走行できるようになっている。このため、油圧ジャッキJによる押圧で、新管Pはスムーズに推進される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さや管推進工法においては、発進坑Sから到達坑Rに向けて上り勾配又は平坦(水平)であることが多いが、立地条件によっては、発進坑Sから到達坑Rに向かって下り勾配の区間が介在する場合もある。
【0007】
発進坑Sから到達坑Rに向けて下り勾配になっていると、先行の新管Pが後続の新管Pから離脱して、あるいは、新管Pが後続の新管Pとともに、さや管P’内を滑走してしまう事態が想定される。また、離脱に至らないまでも、先行の新管Pと後続の新管Pとの継手部における管軸方向への重なり代(受口2への挿し口1の入り込み深さ)が少なくなってしまう事態も想定される。
【0008】
この点、上記特許文献1では、このような事態を防止するために、キャスタ装置3の車輪4の一部をソリに代えることにより、下り勾配における推進抵抗を増加させて離脱等を防いでいるが、このようなソリの介在は、逆に上り勾配箇所での油圧ジャッキJによる推進を過度に重くしてしまうという問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、新管にキャスタ装置を取り付けて行うさや管推進工法において、新管の推進抵抗を過度に増大させることなく、先行の新管と後続の新管とが離脱したり、継手部における管体同士の重なり代が少なくなることを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、管の挿し口を先行する管の受口に挿入して継合わせつつさや管内に送り込んで管路を配設するさや管推進工法において、前記管の外周に車輪を備えたキャスタ装置が取り付けられ、前記キャスタ装置は、前記車輪の回転を規制及びその規制を解除できる回転規制手段を備えるさや管推進工法を採用した。
【0011】
ここで、前記回転規制手段は、前記さや管の推進方向への勾配に基づいて、前記車輪の回転の規制及びその規制の解除を行う構成を採用することができる。
【0012】
また、前記回転規制手段は、前記キャスタ装置のフレームに揺動自在の揺動片と、前記車輪又は前記車輪と一体に回転する部材に設けられる被接触部を備え、前記揺動片は前記さや管の推進方向への勾配に基づいてその自重で揺動して、前記被接触部に接離して前記車輪の回転の規制及びその規制の解除を行う構成を採用することができる。
【0013】
また、管の挿し口を先行する管の受口に挿入して継合わせつつさや管内に送り込んで管路を配設するさや管推進工法に用いられ、前記管の外周に取り付けられるフレームと、前記フレームに回転自在に取り付けられる車輪と、前記車輪の回転を規制及びその規制を解除できる回転規制手段を備えるさや管推進工法用キャスタ装置を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、前記管の外周に取り付けられるキャスタ装置が、車輪の回転を規制及びその規制を解除できる回転規制手段を備えたので、新管の推進抵抗を過度に増大させることなく、先行の新管と後続の新管とが離脱したり、先行及び後続の新管が滑落したり、あるいは、継手部における管体同士の重なり代が少なくなることを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態は、鋼管、コンクリート管などの地中に埋設されたさや管P’内に、推進工法によってダクタイル鋳鉄管等の管Pを配設するものである。以下、さや管P’内に配設する管Pを、新管Pと称する。
【0017】
新管Pは、
図5に示すように、順次、クレーン等によって吊り下げられながら、発進坑S内に下ろされる。まず、最初の新管Pが、その前端にある挿し口1を到達坑R(到達坑Rは
図5には図示せず)側へ向けた状態で、さや管P’内に挿入される。次なる新管Pは、その挿し口1が、先行する新管Pの後端にある受口2に挿入されて継合わされる。そして、さらに次なる新管Pがさや管P’内に送り込まれ、その挿し口1が最後尾の新管Pの受口2に挿入されて継ぎ合わされる。
【0018】
発進坑S内には油圧ジャッキJが設置され、油圧ジャッキJは、発進坑Sの内壁Hに反力をとって、前部のロッドで新管Pを到達坑R側へ向かって押圧する。この押圧により、継手部によって接続された複数本の新管P群が、さや管P’内へ押し込まれて行く。
【0019】
新管Pの外周には、キャスタ装置13が取り付けられる。このキャスタ装置13には、新管Pの外周を囲むフレーム15に回転自在の車輪14が設けられており、車輪14の転動により、新管Pがさや管P’内を走行できるようになっている。このため、油圧ジャッキJによる押圧で、新管Pはスムーズに推進される。
【0020】
フレーム15は、複数の円弧状の部材で構成されており、各円弧状の部材の円弧方向端部に設けたフランジ部16同士が、ボルト・ナットからなる締結部材17によって締め付けられて、新管Pの外周に動かないように固定されている。車輪14の車軸19は、対向するフランジ部16同士を結んで固定されている。この実施形態では、車軸19が締結部材17の役割の一部を兼ねているが、車軸19と締結部材17とは別々に設けても良い。
【0021】
なお、新管P同士の継手部の形態は、管路の用途や仕様に応じて適宜選択される。例えば、挿し口1の先端に突起、受口2の内面にロックリングがそれぞれ設けられて、ゴム輪等を介在した状態で挿し口1を受口2に挿し込んだ後、押し輪によってゴム輪を挿し口1と受口2との間の間隙に押し込んでシールした構造を採用することができる。
【0022】
キャスタ装置13には、車輪14の回転を規制及びその規制を解除できる回転規制手段10が備えられている。
【0023】
回転規制手段10は、さや管P’の推進方向への勾配に基づいて、車輪14の回転の規制及びその規制の解除を行う機能を有する。
【0024】
回転規制手段10の構成は、キャスタ装置13のフレーム15に設けた揺動軸18と、その揺動軸18の軸周りに揺動自在の揺動片11と、車輪14と一体に回転する部材に設けられる被接触部12を備える。この実施形態の被接触部12は、車軸19の軸周りに車輪14とともに一体に回転する歯車で構成されている。なお、歯車は、歯を回転軸に平行に切った平歯車としているが、これを、円錐面上に歯を刻んだかさ歯車等、他の形態の歯車としてもよい。これらの歯車は、車輪14を構成する部材に形成してもよい。
【0025】
また、この実施形態の揺動片11は棒状の部材であり、さや管P’の推進方向への勾配に基づいて、すなわち、キャスタ装置13を取り付けた新管Pの水平方向に対する仰角又は俯角(勾配)に応じて、その自重で揺動軸18の軸周りに揺動する。
【0026】
例えば、
図3及び
図4(a)は、新管Pの管軸が水平な状態となっている場合を示している。揺動片11が揺動軸18の軸心の真下方向に向いて位置し、車輪14側の被接触部12に接触していない状態である。すなわち、この状態で、車輪14は、
図4(a)に示すように、揺動片11の接触歯11aは、被接触部12を構成する歯車の歯12aに噛み合っておらず、両者は互いに離脱した状態にあるので、車輪14の回転は規制されていない(規制解除状態)。
【0027】
つぎに、新管Pがさや管P’内を前進し、そのさや管P’の下り勾配区間に至ったとする。あるいは、
図5に示すように、さや管P’が、発進坑Sに下り勾配で取り付けられている場合を想定する。
【0028】
この場合、新管Pはさや管P’の勾配に合わせて下り勾配となるので、新管Pの管軸方向に平行な方向は、発進坑Sから到達坑Rに向いて、水平方向Lに対して俯角αを成す状態となる。この状態で、車輪14は、
図4(b)に示すように、揺動片11の接触歯11aが、被接触部12を構成する歯車の歯12aに噛み合って(係止して)、車輪14の回転を規制している(規制状態)。
【0029】
この規制状態では、車輪14は車軸19周りに回転しないので、下り勾配のさや管P’内での推進においても、先行の新管Pが後続の新管Pから離脱して、さや管P’内を滑走してしまう事態が防止される。また、先行の新管Pと後続の新管Pとの継手部における受口2への挿し口1の入り込み深さが少なくなってしまう事態も防止される。
【0030】
逆に、新管Pがさや管P’内を前進し、そのさや管P’の上り勾配区間に至ったとする。あるいは、さや管P’が、発進坑Sに上り勾配で取り付けられている場合を想定する。
【0031】
この場合、新管Pはさや管P’の勾配に合わせて上り勾配となるので、新管Pの管軸方向に平行な方向は、発進坑Sから到達坑Rに向いて、水平方向Lに対して仰角βを成す状態となる。この状態で、車輪14は、
図4(c)に示すように、揺動片11の接触歯11aが、被接触部12を構成する歯車の歯12aから離脱し、車輪14の回転を規制しない状態となる(規制解除状態)。
【0032】
この規制解除状態では、車輪14は車軸19周りに自由に回転するので、新管Pの推進抵抗を過度に増大させることがない。
【0033】
この実施形態では、新管Pの管軸方向が水平状態、及び、発進坑S側から到達坑R側へ向けて上り勾配である場合には、回転規制手段10を規制解除状態としている。また、新管Pの管軸方向が発進坑S側から到達坑R側へ向けて下り勾配である場合には、その勾配が所定値(第一の所定値とする)以上となった場合に、規制解除状態から規制状態に移行できるように設定している。また、その勾配が第一の所定値を下回った場合に、規制状態から規制解除状態に移行できるように設定している。すなわち、上り勾配と水平状態では常に規制解除状態とし、下り勾配では、その勾配が第一の所定値を下回る緩やかな場合には規制解除状態に、その勾配が第一の所定値以上の急な下り勾配である場合には、規制状態と設定している。
【0034】
この下り勾配に設定される第一の所定値は、さや管P’や新管Pの用途や仕様、素材等に基づいて、適宜設定することができる。以下の各所定値についても同様である。
【0035】
また、別の形態として、規制解除状態と規制状態とを相互に切り替える所定値を、例えば、水平状態に設定(第二の所定値)することにより、上り勾配では常に規制解除状態、下り勾配及び水平状態では常に規制状態と設定することもできる。なお、この場合、勾配が第二の所定値に一致する場合、すなわち、新管Pの管軸方向が水平な場合は、これを規制状態に設定してもよいし、規制解除状態に設定してもよい。
【0036】
さらに別な形態として、新管Pの管軸方向が発進坑S側から到達坑R側へ向けて上り勾配である場合に、その勾配が所定値(第三の所定値)以上となった場合に、規制状態から規制解除状態に移行できるように設定してもよい。すなわち、下り勾配と水平状態では常に規制状態とし、上り勾配では、その勾配が第三の所定値を下回る緩やかな場合には規制状態に、その勾配が第三の所定値以上の急な上り勾配である場合には、規制解除状態に設定することもできる。
【0037】
さや管P’をヒューム管とし、新管Pをダクタイル鋳鉄管とした場合に、ヒューム管の素材と鉄との動摩擦係数は、μs=0.37以上であることが確認できたので、車輪14を完全にロックした規制状態に設定すれば、tan
−10.37=20.3°、安全率を1.5として、13.5°の下り勾配まで新管P同士の滑落防止が可能である。
【0038】
また、車輪14の転がり摩擦係数μcは、通常は0.05以上であるが、安全のため、μc=0.04とすれば、すなわち、tan
−10.04=2.3°以上の下り勾配で、車輪14の回転を規制状態に移行できるようにすると安全である。この場合、設定すべき所定値として下り勾配における第一の所定値を採用し、その第一の所定値を、水平方向Lに対する俯角α=2.3°と設定することになる。
【0039】
このように、各所定値は、さや管P’と新管Pとの摩擦係数、キャスタ装置13の車輪14の転がり摩擦係数等に基づいて、適正な数値を決定できる。
【0040】
この実施形態では、回転規制手段10を、揺動片11の接触歯11aと、被接触部12を構成する歯車の歯12aとが相互に噛み合うことで車輪14の回転規制を、また、両者が離脱することにより回転規制を解除する構成としたが、回転規制手段10の構成としては別の形態も考えられる。
【0041】
例えば、被接触部12を構成する歯車に代えて、車輪14と一体に回転する補助輪を設け、その補助輪に向かって揺動片11が揺動して、補助輪の外面と接触及び離反する構成としてもよい。さや管P’の勾配、すなわち、新管Pの勾配に基づいて、その自重により揺動片11が揺動して補助輪に接触すれば、その接触部の摩擦により車輪14の回転が規制される(規制状態)。この規制状態は、必ずしも車輪14の回転を完全にロックするものである必要はなく、車輪14の回転に抵抗を与えるものであってよい。このとき、揺動片11と補助輪との接触部は、摩擦係数の大きい素材であることが好ましい。例えば、揺動片11と補助輪との接触部のうち、揺動片11側又は補助輪側、あるいは、その両方に、摩擦を増やすための凹凸を設けても良い。また、揺動片11を車輪14に直接接触させて、車輪14の外面を被接触部12としてもよい。
【0042】
また、回転規制手段10は、新管Pが位置する箇所のさや管P’の推進方向への勾配に基づいて、車輪14の回転の規制及びその規制の解除を行うものであればよく、この実施形態のように、自重で揺動する揺動片11を用いた構成以外の別の形態も考えられる。
【0043】
例えば、新管Pが位置する箇所のさや管P’の推進方向への勾配を、各新管Pに設けたセンサ等によって検知し、その検知した信号に基づいて、勾配が所定の領域にある場合に、揺動片11を揺動軸18周りに所定量揺動させて被接触部12に接触又は係止させ、勾配が所定の領域を離脱した際に、被接触部12への接触又は係止を解除する構成としてもよい。その他、有線又は無線による遠隔操作により、アクチュエータ等の駆動源を動作させることにより、揺動片11、あるいはその他部材を車輪14、あるいはその車輪14と一体に回転する部材に接触又は係止させて、車輪14の回転を規制及びその規制を解除できる構成としてもよい。
【0044】
この発明を適用できるさや管P’の形態は、上記の実施形態には限定されず、例えば、発進坑Sから到達坑Rに向かう途中までが下り勾配区間、その後、水平区間、上り勾配区間となって到達坑Rに至る構成、あるいは、発進坑Sから途中までが下り勾配区間、その後は、到達坑Rに至るまで水平区間である構成などにおいても、この発明を適用できる。