特許第6661278号(P6661278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661278
(24)【登録日】2020年2月14日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】血液分析装置および血液分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/49 20060101AFI20200227BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20200227BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20200227BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   G01N33/49 H
   G01N33/53 K
   G01N33/536 D
   G01N15/14 C
   G01N15/14 B
   G01N15/14 P
   G01N15/14 D
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-66845(P2015-66845)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186463(P2016-186463A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕義
(72)【発明者】
【氏名】樋口 望
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/136573(WO,A1)
【文献】 特開2013−092433(JP,A)
【文献】 特開2001−091513(JP,A)
【文献】 特開2012−233889(JP,A)
【文献】 特開平04−151541(JP,A)
【文献】 特開2009−236798(JP,A)
【文献】 特表2009−522556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体に、赤血球を溶血する溶血剤および血球の所定の表面抗原を標識する蛍光標識抗体試薬を混合して第1測定試料を調製する試料調製部と、
前記試料調製部により調製された前記第1測定試料を流すフローセルと、
前記フローセルを流れる前記第1測定試料に光を照射する光源部と、
前記光の照射により前記第1測定試料中の血球から得られる前方散乱光、側方散乱光および第1蛍光をそれぞれ受光する受光部と、
前記第1測定試料に対する測定により得られた前記前方散乱光に基づく第1散乱光情報および前記側方散乱光に基づく第2散乱光情報を用いて前記第1測定試料中のリンパ球を分類して計数し、前記測定により得られた前記側方散乱光に基づく第2散乱光情報および前記第1蛍光に基づく第1蛍光情報を用いて前記第1測定試料中の前記所定の表面抗原を有する血球を分類して計数する処理部と、を備える血液分析装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記前方散乱光に基づく第1散乱光情報および前記側方散乱光に基づく第2散乱光情報を用いて前記第1測定試料中の単球をさらに分類して計数する、請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記前方散乱光に基づく第1散乱光情報および前記側方散乱光に基づく第2散乱光情報を用いて前記第1測定試料中の顆粒球をさらに分類して計数する、請求項1または2に記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記所定の表面抗原を有する血球は、CD4陽性T細胞である、請求項1ないし3の何れか一項に記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記所定の表面抗原を有する血球は、CD8陽性T細胞である、請求項1ないし3の何れか一項に記載の血液分析装置。
【請求項6】
前記所定の表面抗原を有する血球は、CD19陽性B細胞である、請求項1ないし3の何れか一項に記載の血液分析装置。
【請求項7】
情報を表示する表示部を備え、
前記処理部は、計数した前記所定の表面抗原を有する血球の数に基づく情報を前記表示部に表示させる、請求項1ないし6の何れか一項に記載の血液分析装置。
【請求項8】
前記処理部は、計数した前記リンパ球の数に基づく情報を前記表示部に表示させる、請求項7に記載の血液分析装置。
【請求項9】
前記処理部は、計数した前記所定の表面抗原を有する血球の数に基づく情報と、計数した前記リンパ球の数に基づく情報とを含む画面を前記表示部に表示させる、請求項7または8に記載の血液分析装置。
【請求項10】
前記処理部は、前記第1蛍光情報を用いて前記第1測定試料中の好酸球をさらに分類して計数する、請求項1ないし9の何れか一項に記載の血液分析装置。
【請求項11】
前記処理部は、前記前方散乱光に基づく第1散乱光情報および前記側方散乱光に基づく第2散乱光情報を用いて前記第1測定試料中の顆粒球をさらに分類して計数し、前記顆粒球の計数および前記好酸球の計数に基づいて、前記第1測定試料中の好中球を計数する、請求項10に記載の血液分析装置。
【請求項12】
情報を表示する表示部を備え、
前記試料調製部は、前記血液検体に、赤血球を溶血する溶血剤およびマラリア原虫の核酸を染色する染色液を混合して第2測定試料を調製し、
前記受光部は、前記光の照射により前記第2測定試料中の血球から得られる第3散乱光および第2蛍光をそれぞれ受光し、
前記処理部は、前記第3散乱光に基づく第3散乱光情報および前記第2蛍光に基づく第2蛍光情報を用いて前記第2測定試料中のマラリア感染赤血球を分類して計数し、
前記処理部は、前記マラリア感染赤血球の計数結果を前記表示部に表示させる、請求項1ないし11の何れか一項に記載の血液分析装置。
【請求項13】
前記光源部は、400nm以上435nm以下の波長の光を照射する、請求項1ないし12の何れか一項に記載の血液分析装置。
【請求項14】
血液検体に、赤血球を溶血する溶血剤および血球の所定の表面抗原を標識する蛍光標識抗体試薬を混合して第1測定試料を調製し、
調製した前記第1測定試料をフローセルに流し、
前記フローセルを流れる前記第1測定試料に光を照射し、
前記光の照射により前記第1測定試料中の血球から得られる前方散乱光、側方散乱光および第1蛍光をそれぞれ検出し、
前記第1測定試料に対する測定により得られた前記前方散乱光に基づく第1散乱光情報および前記測定により得られた前記側方散乱光に基づく第2散乱光情報を用いて前記第1測定試料中のリンパ球を分類して計数し、
前記側方散乱光に基づく第2散乱光情報および前記第1蛍光に基づく第1蛍光情報を用いて前記第1測定試料中の前記所定の表面抗原を有する血球を分類して計数する、血液分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体の血球を計数する血液分析装置および血液分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液検体中に含まれる細胞表面抗原の状態を分析することは、疾病の診断において有効である。たとえば、HIV(Human Immunodeficiency Virus)に感染した被験者では、病状の進行に伴い血液中のCD4陽性T細胞の数が減少する。血液検体中のCD4陽性T細胞の数に基づいて、HIVに対する感染および病状の進行を診断できる。特許文献1には、白血球を認識する第1蛍光標識抗体、好中球系細胞の成熟段階に応じて変化する抗原を認識する第2蛍光標識抗体、および、幼若顆粒球系細胞の成熟段階に応じて変化する抗原を認識する第3蛍光標識抗体を使用し、散乱光強度と3種類の蛍光によって成熟度の異なる幼若顆粒球を分類し計数する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−91513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、細胞表面抗原の分類および計数にあたり種々の蛍光標識抗体試薬を準備する必要がある。また、測定前に、血液検体に塩化アンモニウムをベースとした溶血剤を混和し、さらに遠心分離によって赤血球の除去や血小板の除去を行うため、測定試料を調製するために煩雑な前処理が必要であった。このため、細胞表面抗原の分類および計数にコストが嵩み、且つ、長時間を要していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様に係る血液分析装置は、血液検体に、赤血球を溶血する溶血剤および血球の所定の表面抗原を標識する蛍光標識抗体試薬を混合して第1測定試料を調製する試料調製部と、試料調製部により調製された第1測定試料を流すフローセルと、フローセルを流れる第1測定試料に光を照射する光源部と、光の照射により第1測定試料中の血球から得られる前方散乱光、側方散乱光および第1蛍光をそれぞれ受光する受光部と、第1測定試料に対する測定により得られた前方散乱光に基づく第1散乱光情報および側方散乱光に基づく第2散乱光情報を用いて第1測定試料中のリンパ球を分類して計数し、上記の測定により得られた側方散乱光に基づく第2散乱光情報および第1蛍光に基づく第1蛍光情報を用いて第1測定試料中の所定の表面抗原を有する血球を分類して計数する処理部と、を備える。
【0006】
本発明の第2の態様に係る血液分析方法は、血液検体に、赤血球を溶血する溶血剤および血球の所定の表面抗原を標識する蛍光標識抗体試薬を混合して第1測定試料を調製し、調製した第1測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる第1測定試料に光を照射し、光の照射により第1測定試料中の血球から得られる前方散乱光、側方散乱光および第1蛍光をそれぞれ検出し、第1測定試料に対する測定により得られた前方散乱光に基づく第1散乱光情報および側方散乱光に基づく第2散乱光情報を用いて第1測定試料中のリンパ球を分類して計数し、上記の測定により得られた側方散乱光に基づく第2散乱光情報および第1蛍光に基づく第1蛍光情報を用いて第1測定試料中の所定の表面抗原を有する血球を分類して計数する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リンパ球の計数とともに、細胞表面抗原の分類および計数を低コスト且つ短時間で行える血液分析装置および血液分析方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態1に係る血液分析装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態1に係る光学検出部の構成を示す模式図である。
図3図3は、実施形態1に係る血液分析装置による処理を示すフローチャートである。
図4図4(a)、(b)は、実施形態1に係る第1測定に基づくスキャッタグラムを示す図であり、図4(c)は、実施形態1に係る第2測定に基づくスキャッタグラムを示す図である。
図5図5は、実施形態1に係る表示部に表示される画面の構成を示す図である。
図6図6は、実施形態1に係るCD4陽性T細胞の比率の精度を検証するためのグラフである。
図7図7(a)〜(d)は、実施形態1の変更例に係る第1測定に基づくスキャッタグラムを示す図である。
図8図8(a)〜(d)は、実施形態1の変更例に係る第1測定に基づくスキャッタグラムを示す図である。
図9図9(a)は、実施形態2に係る血液分析装置の構成の一部を示すブロック図であり、図9(b)は、実施形態2に係る光学検出部の構成の一部を示す模式図である。
図10図10は、実施形態2に係る血液分析装置による処理を示すフローチャートである。
図11図11は、実施形態2に係る表示部に表示される画面の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態1>
図1に示すように、血液分析装置100は、測定部10と情報処理部20を備える。測定部10は、測定制御部11と、記憶部12と、試料調製部13と、光学検出部14と、電気抵抗式検出部15と、信号処理回路16と、を備える。情報処理部20は、処理部21と、記憶部22と、表示部23と、入力部24と、を備える。
【0010】
測定制御部11は、たとえばCPUである。測定制御部11は、測定部10の各部が出力する信号を受信し、測定部10の各部を制御する。測定制御部11は、情報処理部20と通信を行う。記憶部12は、ROM、RAM、ハードディスク等である。測定制御部11は、記憶部12に記憶されたプログラムに基づいて処理を実行する。
【0011】
試料調製部13には、希釈液111と、溶血剤112と、蛍光標識抗体試薬113と、溶血剤114と、染色液115とをそれぞれ収容する容器が接続されている。希釈液111は、光学検出部14のフローセル211と、電気抵抗式検出部15のフローセルとに測定試料を流すためのシース液としても用いられる。
【0012】
溶血剤112は、赤血球を溶血する。溶血剤112は、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドを0.94mM、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを0.13mM、BO−20SVを0.13g、クエン酸(無水)を5mM、クエン酸3Na2水和物を5mM(pH7.0)、NaClを適量(300mOsm)、および、精製水を1L含む。
【0013】
蛍光標識抗体試薬113は、血球の表面抗原を標識する。蛍光標識抗体試薬113は、後述する光源部221から出射される光により励起されて所定波長の蛍光を発する蛍光色素と、血球の表面抗原と結合する抗体とを有する。蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体が血球の表面抗原と結合することにより、血球の表面抗原が標識される。実施形態1の蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体は、CD4抗原と結合する抗体である。したがって、実施形態1では、CD4陽性T細胞の表面に発現しているCD4抗原が、蛍光標識抗体試薬113により標識される。
【0014】
溶血剤114は、赤血球を溶血する。溶血剤114は、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドを34.1mM、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを1.7mM、EDTA−2Kを1.0g/L、pH5.0のリン酸緩衝液を20mM、NaClを適量、および、精製水を1L含む。染色液115は、核のない赤血球を染色せず、マラリア原虫の核酸を染色する。
【0015】
試料調製部13は、患者から採取された末梢血である血液検体101を受け付ける。試料調製部13は、血液検体101と、希釈液111と、溶血剤112と、蛍光標識抗体試薬113とを混合して、第1測定に用いるための第1測定試料を調製する。第1測定試料の調製において、血液検体101に含まれる赤血球が溶血され、血液検体101に含まれるCD4陽性T細胞の表面抗原が標識される。試料調製部13は、血液検体101と、希釈液111と、溶血剤114と、染色液115とを混合して、第2測定に用いるための第2測定試料を調製する。第2測定試料の調製において、血液検体101に含まれる赤血球の細胞膜が部分的に溶解し、マラリア感染赤血球内のマラリア原虫の核酸が染色液115により染色される。試料調製部13は、血液検体101と希釈液111を混合して、第3測定に用いるための第3測定試料を調製する。
【0016】
第1測定試料の調製において、希釈液111による希釈倍率を変更した上で、溶血剤112に代えて溶血剤114が混合されても良い。この場合も、血液検体101に含まれる赤血球を溶血できる。しかしながら、上記のように溶血剤114を用いる方が第1測定の精度を高めることができるため、第1測定試料の調製においては、溶血剤112ではなく溶血剤114を用いるのが望ましい。
【0017】
第1および第2測定試料は、流路を介して光学検出部14に送られる。第3測定試料は、流路を介して電気抵抗式検出部15に送られる。
【0018】
光学検出部14は、フローサイトメトリー法により、第1測定試料に基づいて第1測定を行い、第2測定試料に基づいて第2測定を行う。光学検出部14は、フローセル211と、光源部221と、受光部231、243、252と、を備える。フローセル211には、第1測定の際に第1測定試料が流され、第2測定の際に第2測定試料が流される。
【0019】
光源部221は、第1測定においてフローセル211を流れる第1測定試料に光を照射し、第2測定においてフローセル211を流れる第2測定試料に光を照射する。光源部221からの光が第1測定試料に照射されると、第1測定試料中の血球から第1散乱光、第2散乱光および第1蛍光が生じる。光源部221からの光が第2測定試料に照射されると、第2測定試料中の血球から第3散乱光、第4散乱光および第2蛍光が生じる。第1測定において、受光部231、243、252は、それぞれ、第1散乱光、第2散乱光および第1蛍光を受光する。第2測定において、受光部231、243、252は、それぞれ、第3散乱光、第4散乱光および第2蛍光を受光する。受光部231、243、252は、それぞれ受光した光に基づく信号を信号処理回路16に出力する。光学検出部14の詳細な構成については、追って図2を参照して説明する。
【0020】
電気抵抗式検出部15は、シースフローDC検出法により、第3測定試料に基づいて第3測定を行う。電気抵抗式検出部15は、電気抵抗式検出部15のフローセルに流れる第3測定試料に電圧を印加し、血球が通過することによる電圧の変化を捉えて血球を検出する。電気抵抗式検出部15は、検出信号を信号処理回路16に出力する。
【0021】
信号処理回路16は、受光部231、243、252から出力された信号に基づいて、血球に対応する波形を抽出し、波形のピーク値、幅、面積等を算出する。信号処理回路16は、第1散乱光、第2散乱光、第3散乱光、第4散乱光、第1蛍光、および第2蛍光に基づく信号から得られた波形のピーク値を、それぞれ、第1散乱光情報、第2散乱光情報、第3散乱光情報、第4散乱光情報、第1蛍光情報、および第2蛍光情報として測定制御部11に出力する。信号処理回路16は、電気抵抗式検出部15から出力された信号に基づいて血球に対応する波形を抽出し、波形のピーク値を血球情報として測定制御部11に出力する。
【0022】
測定制御部11は、第1〜第3測定の際に信号処理回路16から出力された情報を記憶部12に記憶する。第1〜第3測定が終わると、測定制御部11は、記憶部12に記憶した情報を、測定データとして情報処理部20に送信する。
【0023】
処理部21は、たとえばCPUである。処理部21は、情報処理部20の各部が出力する信号を受信し、情報処理部20の各部を制御する。処理部21は、測定部10と通信を行う。記憶部22は、ROM、RAM、ハードディスク等である。処理部21は、記憶部22に記憶されたプログラムに基づいて処理を実行する。
【0024】
処理部21は、第1散乱光情報と第2散乱光情報を用いて、第1測定試料中の血球を少なくともリンパ球、単球および顆粒球に分類して計数する。処理部21は、第1蛍光情報と第2散乱光情報を用いて、第1測定試料中のCD4陽性T細胞を分類して計数する。処理部21は、第1蛍光情報と第2散乱光情報を用いて、第1測定試料中の好酸球を分類して計数する。顆粒球は、好中球および好酸球からなることにより、処理部21は、顆粒球の分類と好酸球の分類に基づいて、第1測定試料中の好中球を分類して計数する。処理部21は、第3散乱光情報と第2蛍光情報を用いて、第2測定試料中のマラリア感染赤血球を計数する。処理部21は、血球情報を用いて、第3測定試料中の赤血球および血小板を計数する。処理部21による詳細な処理については、追って図3を参照して説明する。
【0025】
表示部23は、情報を表示するディスプレイであり、入力部24は、マウスやキーボードである。処理部21は、測定結果を記憶部22に記憶するとともに表示部23に表示する。処理部21は、入力部24を介してオペレータからの指示を受け付ける。
【0026】
図2に示すように、光学検出部14は、シースフロー系210と、ビームスポット形成系220と、前方散乱光受光系230と、側方散乱光受光系240と、蛍光受光系250と、を備える。光学検出部14の光学系は、図2に示す構成以外にも適宜変更可能である。
【0027】
シースフロー系210は、フローセル211を備える。フローセル211は、透光性を有する材料によって管状に構成されている。第1および第2測定試料は、シース液に包まれた状態で、フローセル211内に流される。第1および第2測定試料に含まれる粒子は、一列に整列した状態でフローセル211内を通る。
【0028】
ビームスポット形成系220は、光源部221から出射された光が、コリメータレンズ222と集光レンズ223を通って、フローセル211内を流れる第1および第2測定試料に照射されるよう構成される。光源部221は、半導体レーザ光源である。光源部221から出射される光は、青色波長帯域のレーザ光である。光源部221から出射される光の波長は、400nm以上435nm以下に設定される。実施形態1では、光源部221から出射される光の波長は、約405nmである。
【0029】
上述したように、第1測定試料に光が照射されると、第1測定試料中の血球から、第1散乱光、第2散乱光および第1蛍光が生じる。第2測定試料に光が照射されると、第2測定試料中の血球から、第3散乱光、第4散乱光および第2蛍光が生じる。実施形態1では、第1および第3散乱光は、前方散乱光であり、第2および第4散乱光は、側方散乱光である。前方散乱光は、粒子の大きさに関する情報を反映し、側方散乱光は、粒子の内部情報を反映し、蛍光は、粒子の染色度合いを反映する。フローセル211に照射された光のうち、粒子に照射されずにフローセル211を透過した光は、ビームストッパ224により遮断される。
【0030】
前方散乱光受光系230は、第1および第3散乱光を受光部231で受光するように構成されている。受光部231は、フォトダイオードである。受光部231は、受光した第1および第3散乱光の強度に応じた電気信号を出力する。側方散乱光受光系240は、第2および第4散乱光を、側方集光レンズ241により集光し、ダイクロイックミラー242で反射させ、受光部243で受光するよう構成されている。受光部243は、フォトダイオードである。受光部243は、受光した第2および第4散乱光の強度に応じた電気信号を出力する。
【0031】
蛍光受光系250は、側方集光レンズ241により集光され、ダイクロイックミラー242を透過した第1および第2蛍光を、分光フィルタ251を通して、受光部252で受光するよう構成されている。第1および第2測定試料から生じる蛍光は、受光部252に受光される。具体的には、好酸球から生じる自家蛍光と、蛍光標識抗体試薬113から生じる蛍光と、染色液115から生じる蛍光とは、何れもダイクロイックミラー242と分光フィルタ251を透過し、受光部252に受光される。受光部252は、アバランシェフォトダイオードである。受光部252は、受光した蛍光の強度に応じた電気信号を出力する。
【0032】
次に、血液分析装置100による処理について図3のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
図3に示すように、測定制御部11は、ステップS101〜S106において、試料調製部13を制御して測定試料の調製を行い、光学検出部14と電気抵抗式検出部15を制御して測定を行う。具体的には、ステップS101において、第1測定試料が調製され、ステップS102において、光学検出部14により第1測定が行われる。ステップS103において、第2測定試料が調製され、ステップS104において、光学検出部14により第2測定が行われる。ステップS105において、第3測定試料が調製され、ステップS106において、電気抵抗式検出部15により第3測定が行われる。第1〜第3測定により得られる第1〜第4散乱光情報および第1、第2蛍光情報は、測定部10の記憶部12に記憶される。
【0034】
ステップS107において、測定制御部11は、第1〜第3測定で取得した情報を、測定データとして情報処理部20に送信する。ステップS201において、処理部21は、測定部10から測定データを受信すると、ステップS202以下の処理を実行する。
【0035】
ステップS202において、処理部21は、3種類の白血球、すなわち、リンパ球、単球および顆粒球の分類および計数を行う。具体的には、処理部21は、第1散乱光情報および第2散乱光情報に基づいて、図4(a)に示すスキャッタグラム310を作成し、スキャッタグラム310に領域311〜313を設定する。スキャッタグラム310において、縦軸は第1散乱光情報を示し、横軸は第2散乱光情報を示す。領域311〜313は、それぞれ、リンパ球、単球および顆粒球を含むとされる領域である。
【0036】
続いて、処理部21は、領域311〜313に含まれる粒子を、それぞれ、リンパ球、単球および顆粒球に分類する。処理部21は、領域311〜313に含まれる粒子を計数することにより、リンパ球、単球および顆粒球の数を取得する。処理部21は、リンパ球、単球および顆粒球の数を合計することにより、白血球の数を取得する。
【0037】
ステップS202では、説明の便宜上、スキャッタグラム310が作成され、スキャッタグラム310に領域311〜313が設定されている。しかしながら、スキャッタグラム310と領域311〜313が必ずしも作成される必要はなく、領域311〜313に含まれる粒子がデータ処理により分類および計数されても良い。
【0038】
後述する処理においても同様である。すなわち、ステップS203においても、スキャッタグラム320と領域321、322が必ずしも作成される必要はなく、領域321、322に含まれる粒子がデータ処理により分類および計数されても良い。ステップS206においても、スキャッタグラム330と領域331〜333が必ずしも作成される必要はなく、領域331〜333の粒子がデータ処理により分類および計数されても良い。後述する実施形態2のステップS211においても、図7(b)に示すスキャッタグラム320と領域321、322が必ずしも作成される必要はなく、領域321、322に含まれる粒子がデータ処理により分類および計数されても良い。
【0039】
ステップS202において、第1散乱光情報と、第2散乱光情報と、蛍光情報とを3軸とするスキャッタグラムが作成されても良い。こうすると、ステップS202で設定するリンパ球、単球および顆粒球を含むとされる領域と、後述するステップS203で設定する好酸球およびCD4陽性T細胞を含むとされる領域とを、1つのスキャッタグラムに対して設定できる。
【0040】
ステップS203において、処理部21は、好酸球およびCD4陽性T細胞の分類および計数を行う。具体的には、処理部21は、第2散乱光情報および第1蛍光情報に基づいて、図4(b)に示すスキャッタグラム320を作成し、スキャッタグラム320に領域321、322を設定する。スキャッタグラム320において、縦軸は第2散乱光情報を示し、横軸は第1蛍光情報を示す。領域321、322は、それぞれ、好酸球およびCD4陽性T細胞を含むとされる領域である。
【0041】
ここで、好酸球は自家蛍光を発する。したがって、好酸球に対応する粒子は、スキャッタグラム320において、他の粒子よりも蛍光が大きい位置に分布する。CD4陽性T細胞の表面抗原は、第1測定試料の調製において、蛍光標識抗体試薬113により標識されている。したがって、CD4陽性T細胞も、スキャッタグラム320において、他の粒子よりも蛍光が大きい位置に分布する。好酸球とCD4陽性T細胞とでは、粒子の内部情報を反映する値、すなわち第2散乱光情報の値が異なっている。よって、スキャッタグラム320に、好酸球に対応する領域321と、CD4陽性T細胞に対応する領域322とを設定できる。スキャッタグラム320の縦軸は第2散乱光情報とされたが、粒子の大きさに関する情報、すなわち第1散乱光情報であっても良い。
【0042】
続いて、処理部21は、領域321、322に含まれる粒子を、それぞれ、好酸球およびCD4陽性T細胞に分類する。処理部21は、領域321、322に含まれる粒子を計数することにより、好酸球およびCD4陽性T細胞の数を取得する。
【0043】
上述したように、リンパ球、単球および顆粒球の分類および計数と、好酸球およびCD4陽性T細胞の分類および計数とを、1回の測定で行うことができる。すなわち、これら血球の分類および計数を、第1測定試料をフローセル211に1回流す間に得られた光学情報に基づいて行うことができる。したがって、分類および計数を迅速に行うことができる。
【0044】
上述したように、試料調製部13により血液検体101から1測定試料が調製され、調製された第1測定試料が光学検出部14により測定される。したがって、CD4陽性T細胞の分類および計数を行うために、複雑な前処理を行う必要がないため、CD4陽性T細胞の分類および計数を低コスト且つ短時間で行える。オペレータによる前処理が必要ないため、CD4陽性T細胞の分類および計数の結果のばらつきを抑制できる。
【0045】
CD4陽性T細胞の数を取得するために、白血球の数を求めるための装置と、CD4陽性T細胞の比率を求めるための装置とを別々に用意する必要がない。すなわち、白血球の数を求めるための装置で得られた白血球の数に、CD4陽性T細胞の比率を求めるための装置で得られたCD4陽性T細胞の比率を掛けて、CD4陽性T細胞の数を取得する必要がない。血液分析装置100によれば、1つの装置だけでCD4陽性T細胞の数を取得できる。
【0046】
HIVの感染者では、CD4陽性T細胞の数が減少することが知られている。したがって、取得したCD4陽性T細胞の数を、HIVに対する感染および病状の診断に役立てることができる。図4(b)の領域322に基づいてCD4陽性T細胞を正確に分類できるため、精度の高いCD4陽性T細胞の数を取得できる。したがって、CD4陽性T細胞の数を診断に役立てる場合に、診断の精度を高めることができる。その他、CD4陽性T細胞の数が増減する疾病においても、取得したCD4陽性T細胞の数を診断に役立てることができる。
【0047】
ステップS204において、処理部21は、好中球の分類および計数を行う。具体的には、処理部21は、ステップS202で取得した顆粒球の分類から、ステップS203で取得した好酸球の分類を引くことにより、好中球を分類する。すなわち、処理部21は、ステップS202で顆粒球と見なされたスキャッタグラム310上の粒子から、ステップS203で好酸球と見なされた粒子を除くことにより、スキャッタグラム310上において好中球を含むとされる領域を設定する。処理部21は、スキャッタグラム310において、好中球を含むとされる領域に含まれる粒子を計数することにより、好中球の数を取得する。好中球の数は、顆粒球の数から好酸球の数を引くことにより取得しても良い。
【0048】
HIVの感染者では、好中球の数が減少することが知られている。したがって、CD4陽性T細胞の数に加えて、取得した好中球の数を用いることにより、HIVに対する感染および病状の診断をより詳細に行える。その他、好中球の数が増減する疾病においても、取得した好中球の数を診断に役立てることができる。
【0049】
ステップS205において、処理部21は、各白血球の比率、すなわち、リンパ球、単球、好中球、好酸球およびCD4陽性T細胞の比率を算出する。具体的には、処理部21は、ステップS202〜S204で取得したリンパ球、単球、好中球および好酸球の数を、ステップS202で取得した白血球の数で割ることにより、それぞれ、リンパ球、単球、好中球および好酸球の比率を算出する。処理部21は、ステップS203で取得したCD4陽性T細胞の数を、当該ステップS205で取得したリンパ球の数で割ることにより、CD4陽性T細胞の比率を算出する。
【0050】
ステップS206において、処理部21は、マラリア感染赤血球および白血球の分類および計数を行う。具体的には、処理部21は、第3散乱光情報および第2蛍光情報に基づいて、図4(c)に示すスキャッタグラム330を作成し、スキャッタグラム330に領域331〜333を設定する。スキャッタグラム330において、縦軸は第3散乱光情報を示し、横軸は第2蛍光情報を示す。領域331〜333は、それぞれ、マラリア感染赤血球、白血球およびゴーストを含むとされる領域である。領域333のゴーストは、マラリアに感染していない赤血球を含む。続いて、処理部21は、領域331、332に含まれる粒子を、それぞれ、マラリア感染赤血球および白血球に分類する。処理部21は、領域331、332に含まれる粒子を計数することにより、マラリア感染赤血球および白血球の数を取得する。
【0051】
マラリア感染赤血球の数を取得できるため、被検者がマラリアに罹患しているか否かの判断、および、治療中の被検者においてマラリアが完治したか否かの判断を行うことができる。後述するマラリア感染赤血球の比率を用いても、これらの判断を行うことができる。CD4陽性T細胞およびマラリア感染赤血球の数により、HIV、結核、マラリアといった所謂三大感染症のうち2つの疾病、すなわちHIVとマラリアについての診断を行うことができる。また、マラリア感染赤血球の測定を、白血球の測定を行う検出部、すなわち光学検出部14により行うことができるため、血液分析装置100の構成を簡素にできる。
【0052】
ステップS207において、処理部21は、各白血球の数、すなわち、リンパ球、単球、好中球、好酸球およびCD4陽性T細胞の数を取得する。具体的には、処理部21は、ステップS206で取得した白血球の数に、ステップS205で取得したリンパ球、単球、好中球および好酸球の比率を掛けることにより、それぞれ、リンパ球、単球、好中球および好酸球の数を算出する。処理部21は、当該ステップS207で取得したリンパ球の数に、ステップS205で取得したCD4陽性T細胞の比率を掛けることにより、CD4陽性T細胞の数を算出する。ステップS207で取得された血球の数は、後述する画面400の表示に用いられる。
【0053】
ステップS207では、ステップS206で取得された白血球の数にステップS205で取得された比率を掛けることにより、各白血球の数が取得された。しかしながら、これに限らず、他の測定試料を用いて行った他の測定により白血球の数を取得し、他の測定により取得した白血球の数を用いて、ステップS207において各白血球の数を取得するようにしても良い。
【0054】
他の測定は、たとえば、有核赤血球および白血球を分類および計数するための測定であっても良い。この場合、試料調製部13は、血液検体101と、他の溶血剤と、他の染色液とを混合することにより他の測定試料を調製する。他の測定試料の調製において、赤血球は溶血され、有核赤血球および白血球の核酸や細胞小器官が染色される。他の測定試料は、第1および第2測定試料と同様、フローセル211に流される。光を照射して他の測定試料中の血球から生じる前方散乱光と蛍光に基づいてスキャッタグラムが作成される。作成されたスキャッタグラムに領域が設定されることにより、有核赤血球および白血球の分類および計数が行われる。
【0055】
ステップS208において、処理部21は、第3測定によって取得された血球情報に基づいて、赤血球および血小板の数を計数し、ヘマトクリット値の算出を行う。
【0056】
ステップS209において、処理部21は、マラリア感染赤血球の比率を算出する。具体的には、処理部21は、まず、ステップS206で取得したマラリア感染赤血球の数と、ステップS208で取得した赤血球の数とを、同じ容量に応じた値に合わせる。たとえば、これら2つの数が、血液検体101の1μL中に含まれる個数に換算される。そして、処理部21は、単位調整後のマラリア感染赤血球の数を、単位調整後の赤血球の数で割ることにより、比率を算出する。
【0057】
ステップS210において、処理部21は、処理部21の処理によって取得された血球の数等を含む画面400を表示部23に表示する。こうして、血液分析装置100の処理が終了する。
【0058】
図5に示すように、画面400は、リスト401、402と、図4(a)〜(c)に示すスキャッタグラム310〜330とを備える。
【0059】
リスト401、402において、単位が“10^2/uL”または“10^4/uL”となっているデータは、所定量の血液検体101に含まれる血球の数を示している。リスト401は、上から順に、ステップS206で取得された白血球の数と、ステップS208で取得された赤血球の数、ヘマトクリット値および血小板の数と、ステップS206で取得されたマラリア感染赤血球の数と、ステップS209で取得されたマラリア感染赤血球の比率と、を表示する。リスト402は、上から順に、ステップS207で取得された好中球、リンパ球、単球、好酸球およびCD4陽性T細胞の数と、ステップS205で取得された好中球、リンパ球、単球、好酸球およびCD4陽性T細胞の比率と、を表示する。
【0060】
リスト401に表示される白血球の数は、ステップS202で取得される白血球の数であっても良く、リスト402に表示されるリンパ球、単球、好中球、好酸球およびCD4陽性T細胞の数は、ステップS202〜S204で取得される各血球の数であっても良い。ただし、ステップS206で取得される白血球の数およびステップS207で取得される各血球の数の方が、ステップS202〜S204で取得される数よりも精度の高いものとなり得る。したがって、リスト401に表示される白血球の数は、上記のようにステップS206で取得される白血球の数であるのが望ましく、リスト402に表示される血球の数は、上記のようにステップS207で取得される血球の数であるのが望ましい。
【0061】
表示部23に、リンパ球、単球、好中球、好酸球、CD4陽性T細胞およびマラリア感染赤血球の数および比率が表示されるため、オペレータは、これらの数値を視覚的に把握できる。これらの数値は1つの画面400に表示されるため、オペレータは、表示された数値の比較を円滑に行うことができる。
【0062】
次に、実際に取得されたCD4陽性T細胞の比率の精度を検証する。
【0063】
この検証では、異なる被検者から採取された15の血液検体に基づいて、実施形態1によって取得したCD4陽性T細胞の比率と、比較例によって取得したCD4陽性T細胞の比率とを比較した。比較例では、血液検体に対して前処理を行い、前処理後の血液検体を、汎用フローサイトメータを用いて測定した。
【0064】
図6の縦軸は、実施形態1により取得されたCD4陽性T細胞の比率を示す。図6の横軸は、比較例により取得されたCD4陽性T細胞の比率である。図6のグラフには、実施形態1による比率と、比較例による比率とをパラメータとして、15の血液検体に対応する点がプロットされている。図6のグラフには、15の血液検体に対応する点の近似直線が示されている。図6には、横軸をxとし縦軸をyとした場合の近似直線の式、および、実施形態1による比率と比較例による比率との相関係数rの値が示されている。近似直線の傾きと相関係数の値は、何れも1に近づくほど、実施形態1による比率と比較例による比率との相関性が高くなる。
【0065】
図6に示すように、実施形態1による比率と比較例による比率との相関性は高い。したがって、実施形態1によるCD4陽性T細胞の比率は、比較例と同程度の精度を有すると言える。
【0066】
<実施形態1の変更例>
実施形態1では、蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体は、CD4抗原と結合する抗体であったが、これに限らず、他の抗原と結合する抗体であっても良い。たとえば、蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体は、CD3抗原、CD8抗原、CD14抗原、CD19抗原、CD45抗原などに結合する抗体でも良い。
【0067】
蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体が、CD8抗原に結合する抗体である場合、CD8陽性T細胞の表面に発現しているCD8抗原が、蛍光標識抗体試薬113により標識される。この場合に調製された第1測定試料に基づいて第1測定が行われると、図7(a)、(b)に示すスキャッタグラム310、320が作成される。この場合も、領域311〜313、321が設定可能であるため、実施形態1と同様の白血球の分類を行うことができる。図7(b)において、領域322は、CD8陽性T細胞を含むとされる領域である。したがって、CD8陽性T細胞の分類および計数が可能となる。
【0068】
一般に、HIVの病状の進行にともなって、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の数の比が変化する。したがって、取得したCD8陽性T細胞の数を、HIVに対する感染および病状の診断に役立てることができる。また、図7(b)の領域322に基づいてCD8陽性T細胞を正確に分類できるため、精度の高いCD8陽性T細胞の数を取得できる。したがって、CD8陽性T細胞の数を診断に役立てる場合に、診断の精度を高めることができる。CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の数の比を、1回の測定で取得する場合については、追って実施形態2で説明する。
【0069】
蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体が、CD19抗原に結合する抗体である場合、CD19陽性B細胞の表面に発現しているCD19抗原が、蛍光標識抗体試薬113により標識される。この場合も、実施形態1と同様、スキャッタグラム310、320の領域311〜313、321に基づいて、白血球の分類を行うことができる。また、スキャッタグラム320において、CD19陽性B細胞を含む領域322を設定できるため、CD19陽性B細胞の分類および計数が可能となる。
【0070】
CD19陽性B細胞は抗体を産生する細胞であり、CD19陽性B細胞が多いほど免疫グロブリンが多く出ている状態であるため、CD19陽性B細胞の数は臨床的に意義が高いと言える。したがって、取得したCD19陽性B細胞の数を病状の診断に役立てることができる。
【0071】
この他、蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体が、それぞれ、CD3抗原、CD14抗原、CD45抗原に結合する抗体である場合も、図7(c)、(d)、図8(a)〜(d)に示すように、血球の分類および計数が可能となる。
【0072】
蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体が、CD3抗原に結合する抗体である場合、CD3陽性T細胞の表面に発現しているCD3抗原が、蛍光標識抗体試薬113により標識される。この場合に調製された第1測定試料に基づいて第1測定が行われると、図7(c)、(d)に示すスキャッタグラム310、320が作成される。この場合も、領域311〜313、321が設定可能であるため、実施形態1と同様の白血球の分類を行うことができる。図7(d)において、領域322は、CD3陽性T細胞を含むとされる領域である。したがって、CD3陽性T細胞の分類および計数が可能となる。
【0073】
蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体が、CD14抗原に結合する抗体である場合、単球の表面に発現しているCD14抗原が、蛍光標識抗体試薬113により標識される。この場合に調製された第1測定試料に基づいて第1測定が行われると、図8(a)、(b)に示すスキャッタグラム310、320が作成される。この場合も、領域311〜313、321が設定可能であるため、実施形態1と同様の白血球の分類を行うことができる。図8(b)において、領域322は、単球を含むとされる領域である。したがって、スキャッタグラム320を用いても、単球の分類および計数が可能となる。
【0074】
蛍光標識抗体試薬113に含まれる抗体が、CD45抗原に結合する抗体である場合、白血球の表面に発現しているCD45抗原が、蛍光標識抗体試薬113により標識される。CD45抗原は、白血球に共通の表面抗原である。この場合に調製された第1測定試料に基づいて第1測定が行われると、図8(c)、(d)に示すスキャッタグラム310、320が作成される。この場合、好酸球からは、自家蛍光と蛍光標識抗体試薬113による蛍光とが生じるため、実施形態1よりも、領域321の位置が第1蛍光の大きい方向に移動する。この場合も、領域311〜313、321が設定可能であるため、実施形態1と同様の白血球の分類を行うことができる。また、図8(d)において、白血球を含むとされる領域322は、白血球全体に対応するように設定可能である。したがって、スキャッタグラム320を用いても、白血球全体の分類および計数が可能となる。
【0075】
<実施形態2>
図9(a)に示すように、実施形態2では、実施形態1と比較して、試料調製部13に蛍光標識抗体試薬116を収容する容器が接続されている。蛍光標識抗体試薬116は、蛍光標識抗体試薬113と同様、血球の表面抗原を標識する。蛍光標識抗体試薬116は、光源部221から出射される光により励起されて、蛍光標識抗体試薬113とは異なる波長の蛍光を発する蛍光色素と、血球の表面抗原と結合する抗体とを有する。実施形態2の蛍光標識抗体試薬116に含まれる抗体は、CD8抗原と結合する抗体である。したがって、実施形態2では、CD8陽性T細胞の表面に発現しているCD8抗原が、蛍光標識抗体試薬116により標識される。
【0076】
蛍光標識抗体試薬116に含まれる抗体は、CD4抗原およびCD8抗原以外の抗原と結合する抗体であっても良い。
【0077】
実施形態2では、第1測定試料の調製において、さらに蛍光標識抗体試薬116が混合される。すなわち、試料調製部13は、血液検体101と、希釈液111と、溶血剤112と、蛍光標識抗体試薬113、116とを混合して、第1測定試料を調製する。これにより、血液検体101に含まれるCD4陽性T細胞の表面抗原に加えて、さらに血液検体101に含まれるCD8陽性T細胞の表面抗原も標識される。
【0078】
図9(b)に示すように、実施形態2では、実施形態1と比較して、光学検出部14の蛍光受光系250が、ダイクロイックミラー253と、分光フィルタ254と、受光部255と、を備える。ダイクロイックミラー242を透過した第1蛍光のうち、好酸球の自家蛍光と蛍光標識抗体試薬113による蛍光は、ダイクロイックミラー253を透過して、実施形態1と同様、受光部252により受光される。ダイクロイックミラー242を透過した第1蛍光のうち、蛍光標識抗体試薬116による蛍光は、ダイクロイックミラー253により反射され、分光フィルタ254を透過して、受光部255により受光される。受光部255は、アバランシェフォトダイオードである。
【0079】
図10に示すように、実施形態2の血液分析装置100による処理では、実施形態1と比較して、ステップS204の後段に、ステップS211が追加されている。以下、実施形態1と異なる処理についてのみ説明する。
【0080】
ステップS101において、上述したように、血液検体101と、希釈液111と、溶血剤112と、蛍光標識抗体試薬113、116とが混合され、第1測定試料が調製される。ステップS102において、光学検出部14により第1測定が行われる。このとき、受光部255は、受光した蛍光に基づく信号を信号処理回路16に出力し、信号処理回路16は、受光部255の信号から得られた波形のピーク値を、第3蛍光情報として測定制御部11に出力する。
【0081】
ステップS211において、処理部21は、CD8陽性T細胞の分類および計数を行う。具体的には、処理部21は、第2散乱光情報および第3蛍光情報に基づいて、図7(b)に示すスキャッタグラム320と同様のスキャッタグラム320を作成し、スキャッタグラム320に領域321、322を設定する。このスキャッタグラム320において、縦軸は第2散乱光情報を示し、横軸は第3蛍光情報を示す。領域321、322は、それぞれ、好酸球およびCD8陽性T細胞を含むとされる領域である。処理部21は、領域322に含まれる粒子をCD8陽性T細胞に分類し、領域322に含まれる粒子を計数することにより、CD8陽性T細胞の数を取得する。
【0082】
ステップS205において、処理部21は、上述した各血球の比率に加えて、CD8陽性T細胞の比率を算出する。具体的には、ステップS211で取得したCD8陽性T細胞の数を、当該ステップS205で取得したリンパ球の数で割ることにより、CD8陽性T細胞の比率を算出する。また、ステップS205において、処理部21は、ステップS203で取得したCD4陽性T細胞の数を、ステップS211で取得したCD8陽性T細胞の数で割ることにより、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の数の比を算出する。
【0083】
実施形態2によれば、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の数の比を、第1測定試料に対する測定を1回行うだけで算出できる。上述したように、HIVの病状の進行にともなって、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の数の比が変化する。したがって、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の数の比を円滑に取得しつつ、取得した比を、HIVに対する感染および病状の進行を診断する際に役立てることができる。
【0084】
ステップS207において、処理部21は、上述した各血球の数に加えて、CD8陽性T細胞の数を算出する。具体的には、処理部21は、当該ステップS207で取得したリンパ球の数に、ステップS205で取得したCD8陽性T細胞の比率を掛けることにより、CD8陽性T細胞の数を取得する。
【0085】
図11に示すように、実施形態2の画面400は、実施形態1と比較して、さらにCD8陽性T細胞の分類および計数に用いたスキャッタグラム320を備える。実施形態2のリスト402は、実施形態1と比較して、さらにCD8陽性T細胞の数と、CD8陽性T細胞の比率と、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の数の比と、を表示する。図11の画面400により、オペレータは、CD8陽性T細胞に関する各値を視覚的に把握できる。
【符号の説明】
【0086】
13 … 試料調製部
21 … 処理部
23 … 表示部
100 … 血液分析装置
112 … 溶血剤
113、116 … 蛍光標識抗体試薬
211 … フローセル
221 … 光源部
231、243、252、255 … 受光部
400 … 画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11