特許第6661292号(P6661292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三省製薬株式会社の特許一覧

特許6661292脂質用過酸化抑制剤及び頭皮毛髪用化粧料
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661292
(24)【登録日】2020年2月14日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】脂質用過酸化抑制剤及び頭皮毛髪用化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20200227BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20200227BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20200227BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20200227BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   A61K8/49
   A61K31/52
   A61Q5/00
   A61P39/06
   A61P17/00
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-142259(P2015-142259)
(22)【出願日】2015年7月16日
(65)【公開番号】特開2017-25002(P2017-25002A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年5月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176110
【氏名又は名称】三省製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 和宏
(72)【発明者】
【氏名】作村 健彦
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−322545(JP,A)
【文献】 特開2005−200357(JP,A)
【文献】 特開2013−159592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99,31/52
A61Q 5/00−5/12
A61P 17/00,39/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−ベンジルアミノプリンを有効成分とすることを特徴とする頭皮及び/又は毛髪由来の脂質用過酸化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6−ベンジルアミノプリンを有効成分とする脂質用過酸化抑制剤に関する。また、本発明は、かかる脂質用過酸化抑制剤を使用してなる頭皮毛髪用化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮脂は、体外からの様々な刺激物質の皮膚への侵入を防ぐとともに、頭皮においては適度の油分を毛髪に供給する作用を示す。しかし、このように有意な作用を示す皮脂は、容易に酸化され、過酸化脂質が生成する。この過酸化反応は、頭皮においてはフケ、かゆみ、臭気の原因となる。この皮脂に起因するトラブルを解消するために、シャンプーで洗浄すること等が行われているが、皮脂は洗浄を行って除去してもすぐに回復するため、頭皮や毛髪はすぐにべたつきを感じ、フケ、かゆみ、臭気を生じてしまう。
【0003】
生体内脂質の過酸化反応は、一般にフリーラジカル連鎖反応メカニズムで進行し、最初の生成物としてヒドロペルオキシドを与え、これはさらに分解や酵素的修飾を受け、 エポキシド、アルコール、ケトン、アルデヒドなどの酸化二次生成物を与えるとされている。そして、ヒトのひたい、頭皮皮表脂質およびフケ脂質よりスクアレンモノヒドロペルオキシドが検出されている(非特許文献1)。
【0004】
このような過酸化脂質生成を抑制する抗酸化剤としては、従来からトコフェロール(ビタミンE)が知られているが、処方系が制限されたり、不安定である等の問題があり、より有効な成分が望まれていた。
そこで、こうした問題を解決する技術として、例えば、アスタキサンチンなどのキサントフィル類(特許文献1)、ユーカリエキスを含む組成物(特許文献2)、1,2−アルカンジオールを含む組成物(特許文献3)を有効成分とする化粧料等が開発されている。
【0005】
一方、皮膚の老化防止効果及び頭皮に外用することによる細胞の賦活化を目的とした外用剤としては、6−ベンジルアミノプリン(6−ベンジルアデニン)及びその誘導体が知られている(例えば、特許文献4)。しかしながら、6−ベンジルアミノプリンを頭皮に用いることによって、頭皮の脂質酸化を改善・抑制することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−273874号公報
【特許文献2】特開2005−206537号公報
【特許文献3】特開2003−081801号公報
【特許文献4】特開平10−72321号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】河野善行ら、ヒト表皮における脂質過酸化反応 J.Soc.Cosmet.Chem.Japan.Vol.27,No.1,33−40(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、フケ、かゆみ、臭気の原因となる頭皮及び/又は毛髪由来の脂質の過酸化を安定かつ有効に抑制する脂質用過酸化抑制剤を提供するものである。また、本発明は、かかる脂質用過酸化抑制剤を使用してなる頭皮毛髪用化粧料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1>6−ベンジルアミノプリンを有効成分とする頭皮及び/又は毛髪由来の脂質用過酸化抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の6−ベンジルアミノプリンを有効成分とする脂質用過酸化抑制剤によれば、頭皮及び/又は毛髪由来の脂質の過酸化を安定かつ有効に抑制する脂質用過酸化抑制剤を提供することができる。また、かかる脂質用過酸化抑制剤を使用することによりフケ、かゆみ又は臭気防止用の頭皮毛髪用化粧料を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0013】
本発明は、6−ベンジルアミノプリンを有効成分とする脂質用過酸化抑制剤に関するものである。ここで脂質とは、生物から単離される水に溶けない物質を総称したものであり、一般には、長鎖脂肪酸あるいは炭化水素鎖を持つ生物体内に存在あるいは生物由来の分子と定義される。
本発明の過酸化抑制剤は、これらの脂質の中でも特に頭皮や毛髪由来の脂質に好適に用いられるものである。なお、毛髪由来の脂質(皮脂)は、皮脂腺から分泌された脂質が毛髪に付着したものを指す。
【0014】
本発明の脂質用過酸化抑制剤は、6−ベンジルアミノプリンを有効成分とすることを特徴とする。6-ベンジルアミノプリン(分子量225.26)は、結晶性の白色粉末であり、別名6−ベンジルアデニンとも呼ばれ、育毛用の有効成分として公知であるところ、脂質の過酸化抑制用の有効成分としては未知である。出願人らは6−ベンジルアミノプリンの頭皮・毛髪適用素材として他の機能性を仔細に検討した結果、頭皮や毛髪由来の脂質の過酸化抑制剤の有効成分として適したものであることを見出した。
すなわち、6−ベンジルアミノプリンには優れた脂質の過酸化抑制作用が認められ、これを頭皮や毛髪に適用することでフケ、かゆみ、臭気を防止できるという新たな知見を見出して本発明を完成したものである。
【0015】
6−ベンジルアミノプリンの脂質の過酸化抑制効果はその至適配合量が存在するところ、製剤形態は特に制限するものではないが、その効果を効率的に発揮させるためには透明系の可溶化型の製剤形態が好ましい。実用的には特に水またはエタノールに対する相溶性が重要であるが、6−ベンジルアミノプリンは両者に溶解しづらい素材であることから適宜条件設定が必要である。
【0016】
本発明においては、6−ベンジルアミノプリンが脂質の過酸化抑止効果を発揮できる十分な量として0.0001〜2.0重量%、薬効薬理面(薬剤利用率)と製剤処方上の安定性の点で好ましくは0.0005〜1.0重量%、より好ましくは0.0025〜0.5重量%、最適には0.005〜0.5重量%を使用し、これらの使用量に対して最適な比率の水・エタノール混合溶媒で溶液調製することができる。
【0017】
水とエタノールの混合溶媒は、上記6−ベンジルアミノプリンの有効濃度に対し、たとえば、水及びエタノール溶媒比率(重量比)が65:35〜10:90で構成することができる。
【0018】
本発明の脂質用過酸化抑制剤は、医薬品、医薬部外品および化粧品のカテゴリーとして許容しうる形態を含むものであり、その剤型としては、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制約されない。例えば、水・エタノール系の溶液製剤、液状かどうかを問わずに本発明の原液を利用したゲル、エッセンス等の可溶化製剤およびエアゾール等の噴射剤混合製剤である。シャンプーやリンス等の洗い流す製剤であっても良い。
【0019】
また、製剤設計時の配合基剤については、毛髪施用上許容し得る任意の液状及び固形状の原料を幅広く使用できる。その際、必要に応じて防腐剤、香料、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤/散乱剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤など種々の添加剤を加えることもできる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
「脂質過酸化抑制試験」
(a)試験方法
100mmol/Lリノール酸エタノール溶液1.0mL、0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)6.0mL、エタノール1.0mL、水1.0mL、試料液1.0mLを混合し、試験液とした。試験液を40℃でインキュベートし、3日後、4日後、5日後にロダン鉄法により過酸化物価を測定し、抗酸化作用を評価した。
試料液は、本発明の試料を最終濃度が0.0025〜0.01重量%になるように添加した。同様に、比較例として、α−トコフェロールを8μmol/Lとなるように添加した。また、水を添加したものをコントロールとした。
[ロダン鉄法]:
試験液0.1mLに75%エタノール4.7mL、30%ロダンアンモシウム0.1mL、0.02mmol/L塩化第一鉄の3.5%塩酸溶液0.1mLを加え、3分後に500nmにおける吸光度を測定し、過酸化物価の値とした。
【0022】
(b)試験結果
試験結果を、表1に示した。表から明らかなように、コントロールでは日数経過とともにリノール酸の分解によって過酸化物価が上昇したが、6−ベンジルアミノプリンを添加した場合では過酸化物価の上昇が抑えられ、抗酸化作用が認められた。
【0023】
【表1】
【0024】
「フケ、かゆみ、臭気防止効果試験」
(a)試験方法
頭皮のフケ、かゆみ、臭気に悩みを持つ男性10名を対象とした。5名ずつの2群に分け、6−ベンジルアミノプリンを0.0025重量%及び0.5重量%含む50%エタノール溶液、並びに対照として6−ベンジルアミノプリンを含まない溶媒のみを用い、ハーフヘッドによる評価を行った。試料は、1日2回適量(1回当たり2mL)を塗布させた。試料塗布開始から2週間後および1ヵ月後に、フケはマイクロスコープにより観察し、かゆみ及び臭気は、それぞれ官能評価及び脱脂綿による拭き取りにて、各被験者による自己評価を行い、下記スコアで表した。

(フケ)
3:非常に多くのフケがある
2:ややフケがある
1:わずかにフケがある
0:フケはない
(かゆみ)
3:強いかゆみがある
2:かゆみがある
1:わずかにかゆみがある
0:かゆみはない
(臭気)
3:強い不快臭
2:不快臭
1:やや臭う
0:臭いはあるが弱い
【0025】
(b)試験結果
試験結果を、表2および表3に示した。表から明らかなように、6−ベンジルアミノプリンは、0.0025重量%から0.5重量%の濃度範囲で、フケ、かゆみ、臭気を抑える効果を示した。このように、本願発明は、フケ、かゆみ、臭気をそれぞれ防止することができるばかりでなく、これらを同時に防止することもできる。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
以下に、本発明の処方例を示す。処方例中、「適量」とは、処方全体が100重量%になる値を意味する。
【0029】
<処方例1> ヘアトニック
(重量%)
6−ベンジルアミノプリン 0.5
ポリエチレングリコール400 2.0
エタノール 60.0
精製水 適量
成分を均一に撹拌してヘアトニックを製造した。
【0030】
<処方例2> ヘアクリーム
(重量%)
A成分:
6−ベンジルアミノプリン 1.0
流動パラフィン 10.0
スクワラン 7.0
ホホバ油 3.0
固形パラフィン 3.0
ポリオキシエチレンセチルエーテル 2.0
ソルビタンセスキオレエート 1.0
B成分:
グリセリン 3.0
パラオキシ安息香酸エチル 0.1
水酸化カリウム 0.15
精製水 適量
A成分を加熱溶解する。別に加熱溶解したB成分を徐々に加え、均一に撹拌、乳化後、冷却してヘアクリームを製造した。
【0031】
<処方例3> エアゾール
(重量%)
A成分:
6−ベンジルアミノプリン 0.5
プロピレングリコール 2.0
エタノール 48.0
精製水 適量
B成分:
液化石油ガス(噴射剤) 20.0
A成分を均一に混合溶解してエアゾール容器に入れ、常法によりBを容器に加圧充填してエアゾールを製造した。
【0032】
<処方例4> ヘアシャンプー
(重量%)
A成分:
6−ベンジルアミノプリン 0.05
N−ヤシ油脂脂肪酸−L−グルタミン酸トリエタノールアミン 40.0
ヤシ油脂脂肪酸ジエタノールアミド 3.0
ポリオキシエチレンジオレイン酸メチルグルコシド 2.0
B成分:
パラオキシ安息香酸エチル 0.3
エデト酸二ナトリウム 0.1
精製水 適量
A成分を均一に撹拌溶解し、別に均一に加温溶解したB成分を徐々に加え、均一に撹拌してヘアシャンプーを製造した。
【0033】
<処方例5> ヘアトリートメント
(重量%)
A成分:
6−ベンジルアミノプリン 0.01
アボガド油 5.0
スクワラン 5.0
流動パラフィン 10.0
ステアリン酸 3.0
グリセリンモノステアレート 3.0
ラノリンアルコール 5.0
B成分:
1,3-ブチレングリコール 5.0
トリエタノールアミン 1.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.2
精製水 適 量
A成分を加熱溶解する。別に加熱溶解したB成分を徐々に加え、均一に撹拌、乳化後、冷却してヘアトリートメントを製造した。
【0034】
これら処方例1乃至5はいずれも、試験例で確認されたと同様、本発明の目的を達成する効果を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、6−ベンジルアミノプリンを有効成分とする脂質用過酸化抑制剤に関するものであり、これを頭皮に適用することでフケ、かゆみ、臭気の防止に有用である。