特許第6661318号(P6661318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661318
(24)【登録日】2020年2月14日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】合成石英ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20200227BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   C03B8/04 D
   C03B20/00 F
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-189473(P2015-189473)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2016-74584(P2016-74584A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2018年6月11日
(31)【優先権主張番号】14187320.8
(32)【優先日】2014年10月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599089712
【氏名又は名称】ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】イアン ジョージ セイス
(72)【発明者】
【氏名】マルチン トロンマー
【審査官】 山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−336391(JP,A)
【文献】 特開平05−279480(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0133378(US,A1)
【文献】 特表2004−511092(JP,A)
【文献】 特表2013−521208(JP,A)
【文献】 特開平04−270130(JP,A)
【文献】 特開2001−089182(JP,A)
【文献】 特開平09−052723(JP,A)
【文献】 特開2004−203736(JP,A)
【文献】 特開平06−200033(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0116421(US,A1)
【文献】 特開平03−024089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)製造材料の蒸気を形成しながら、少なくとも一つの重合可能なポリアルキルシロキサン化合物を含有する製造材料を蒸発する工程、
(b)プロセス工程(a)によって得られた製造材料の蒸気を反応ゾーンに供給し、そこで前記製造材料は熱分解又は加水分解によってSiO粒子に変換させられる工程、及び
(c)プロセス工程(b)によって得られたSiO粒子を蒸着面に蒸着させる工程、
(d)適用可能な場合には、合成石英ガラスを形成しつつプロセス工程(c)によって得られたSiO粒子を乾燥しかつガラス化する工程、を有し、
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が550ppbまでの塩素含量を有し、そして前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物がクロム(Cr)及び亜鉛(Zn)の金属不純物含量を、それらを合計して、25ppbまで含むことを特徴とする合成石英ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が400ppbまでの塩素含量を含むことを特徴とする請求項1記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が少なくとも40ppbの塩素含量を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が16ppbまでのZn及びCrの金属不純物含量を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が少なくとも2ppbのZn及びCrの金属不純物含量を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が150ppmまでの残留水分量を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が少なくとも3ppmの残留水分量を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が、塩素含量及びZn及びCrの金属不純物含量を前記した範囲に調整するため製造材料として使用される前に純化処理にかけられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項9】
2又はそれ以上のバーナを有するマルチバーナ装置がプロセス工程(a)〜(c)において使用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項10】
合成石英ガラスの製造のために、550ppbより少ない塩素含量及び25ppbまでのCr及びZnの金属不純物含量を有するポリアルキルシロキサン化合物の使用。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法における、550ppbより少ない塩素含量及び25ppbまでのCr及びZnの金属不純物含量を有するポリアルキルシロキサン化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成石英ガラスの製造方法に関する。また、本発明は、塩素含量、金属不純物含量、及び残留水分についての一定の規格、それとともに合成石英ガラスに対するその使用を含むポリアルキルシロキサンに関する。本発明の更なる態様は本発明方法によって得られる合成石英ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合成石英ガラスの製造については、シリコン含有出発材料からCVD法で加水分解又は酸化によってSiO粒子を生成しそしてそれらを移動支持体上に蒸着させることが通例となっている。上記方法は外部蒸着法と内部蒸着法に分けられる。外部蒸着法においては、SiO粒子は回転支持体の外側に蒸着される。適切な外部蒸着法の例は、所謂OBD法(Outside Vapour Phase Deposition)、VAD法(Vapour Phase Axial Deposition)又はPECVD法(Plasma Enhanced Chemical Vapour Deposition)を含む。内部蒸着法の最もよく知られている例はMCVD法(Modified Chemical Vapour Deposition)であり、その方法ではSiO粒子が外側から加熱された管の内壁上に蒸着される。
【0003】
前記支持体表面領域の温度が十分に高い場合には、前記SiO粒子は直接的にガラス化し、これは「直接ガラス化」として知られている。対称的に、所謂「スート法」におけるSiO粒子の蒸着中の温度は低いので、多孔質SiOスート層が得られ、次いでそのスート層は別の処理工程において透明な石英ガラスに焼結される。前記直接ガラス化及びスート法は両方とも緻密、透明、高純度な合成石英ガラスを作り出す。
【0004】
例えば、四塩化珪素(SiCl)は、合成石英ガラス製造用の珪素含有製造材料として従来から知られている。四塩化珪素及び他の類似の塩素含有物質は100℃未満の適当な温度で既に十分な蒸気圧を有しており、通常全ての不純物は液相に残るので高純度のスート体の製造がより容易に行える。
【0005】
上記した塩素含有製造材料の重大な欠点は、合成石英ガラスへの変換が塩酸の製造と連結しており、排ガスの洗浄及び処理に要する高いコストの原因となる。過去においては、多数の所謂塩素フリー有機珪素化合物が、上記理由により、石英ガラス製造の出発原料として使用されてきた。例えば、モノシラン類、アルコキシシラン類、シロキサン類及びシラザン類である。上記した所謂塩素フリー有機珪素化合物の特に興味深い群として、ポリアルキルシロキサン類(短い言い方では“シロキサン類”とも呼ばれる)が、例えば、特許文献1によって知られている。特に、ポリアルキルシロキサン類に含まれるポリシクロシロキサン類は、重量比で特に高い珪素割合を有していることを特徴とし、合成石英ガラスの製造に際してそれらの使用の経済効率に寄与する。オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)は、高純度で市販品が入手できるので、特に広く使用されている。
【0006】
上記したポリアルキルシロキサン化合物は重合可能でありそしてその製造材料において純粋物質として又は通常は液状で他の化合物を含む混合物として通常存在している。それらは燃焼ユニット、例えば、蒸着用バーナに液状で供給される。しかし、一般的には、上記液体製造材料は、蒸発装置によって気相又は液相に変換されそして導管システムを介して消費ユニットに連続ガス流として供給される。
【0007】
これらの所謂塩素フリー出発材料に基づいて、先行技術は多くの合成石英ガラスの製造方法を記述している。例えば、特許文献1〜6の明細書が参照される。
【0008】
先行技術の方法は純化した出発材料の使用を推奨しているが、それらの方法はその製造が上記蒸発装置及び蒸気誘導導管システムにおける沈殿物又はゲルの形成に結びつくという欠点を部分的に有している。
【0009】
出発材料中の塩素含量、金属不純物及び残留水分は合成石英ガラスの製造においてゲルの形成を防ぐために重要であることは先行技術の全般的な検討から明らかである。しかしながら、検討した文献のいずれもがゲルの形成に関して個々の不純物間の機能的関係が存在する可能性についての言及はしていない。さらに、ゲル形成に実際上関係する金属不純物は特定されていない。
【0010】
ポリアルキルシロキサンに起因する合成石英ガラスの製造中におけるゲル形成の問題は、特に大きな技術的規模のプロセス、特に1tを超える生産物量のプロセスにおいては、明らかであり、そして蒸気誘導パイプライン、マスフローレギュレーター、チョーク、及びこれらに対応する被覆されたバルブがゲル及び残留物によって部分的に閉塞される事態が発生する。これにより全ての蒸気誘導システムの制御及び流動挙動が悪い影響を受けて制御不能な状態となる。従って、ゲル形成の増大によりポリアルキルシロキサン蒸気の流れの制御が困難となり、このことは上記方法の再現性(例えば、スート体密度分布のバッチ変動)及び特にマルチバーナ装置において最終生産物の物性(例えば、スート体の軸方向/半径方向均質性の均一性)に負のインパクトを与える。さらに、上記方法に使用された設備のクリーニングの必要性、設備を取り換える必要がある可能性、及びクリーニング中の対応するダウンタイムに起因して、高いコストが発生する。材料のロスによる増加するコストもまた考慮する必要がある。
【0011】
スート体蒸着方法、例えば、マルチバーナ装置によるスート体蒸着方法においては、マルチ消費ユニットに対しては製造材料を同時に供給する必要があるが、この場合追加的な問題が存在することは明らかである。不均一な蒸着及び層の形成を防ぐために、各蒸着バーナが量的及び質的の両面で同一のスート構造特性を有することが特に重要である。例えば、ゲル形成によって形成される蒸着に起因するガス供給のバラツキは避ける必要がある。
【0012】
上記に検討した複数の文献及びこれらの文献に記載された方法はこれらの問題を完全には解決できないし、そして合成石英ガラスの製造方法をさらに改良する必要性は継続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】DE3016010A1
【特許文献2】EP0760373A
【特許文献3】WO99/15468A
【特許文献4】WO99/54259A
【特許文献5】WO2013/092553A
【特許文献6】EP0529189A
【特許文献7】GB2459943A
【特許文献8】DE10359951A
【特許文献9】EP1503957A
【特許文献10】WO2004/049398A
【特許文献11】EP0975690A
【特許文献12】EP0105328A
【特許文献13】DE102013209673
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記先行技術に基づいて、本発明の目的は、副産物の形成、特に合成石英ガラスの製造用蒸気誘導設備において沈殿物の形成を本質的に防止するようにした合成石英ガラスの製造方法を提供することにある。
【0015】
さらに、本発明の目的の一つは、スート体蒸着方法においてマルチバーナ装置に製造材料が同時に供給され、かつ複数のバーナに亘ってマスフローの均一分布が確保されるようにした合成石英ガラスの製造方法を提供することにある。
【0016】
そして、最後に、本発明の目的のもう一つは、スート密度分布のバッチのバラツキを防止し、本質的に均一で、軸方向及び/又は半径方向に均質なスート体を製造する合成石英ガラスの製造方法を提供することにある。特に、マルチバーナ装置を含む方法において、本発明は均一な又は特定の態様で調整される軸方向及び/又は半径方向における密度分布の製造を可能とする。従って、本発明の目的は、マルチバーナ装置におけるエンドキャップ間の領域において軸方向の相対的密度変動を、本発明の手段によって石英ガラスの密度の各々に関して、3%未満、好ましくは2%未満とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的は下記のプロセス工程を有する合成石英ガラスの製造方法によって達成される。
(a)製造材料の蒸気を形成しながら、少なくとも一つの重合可能なポリアルキルシロキサン化合物を含有する製造材料を蒸発する工程、
(b)プロセス工程(a)によって得られた製造材料の蒸気を反応ゾーンに供給し、そこで前記製造材料は熱分解又は加水分解によってSiO粒子に変換させられる工程、及び
(c)プロセス工程(b)によって得られたSiO粒子を蒸着面に蒸着させる工程、
(d)適用可能な場合には、合成石英ガラスを形成しつつ前記SiO粒子を乾燥しかつガラス化する工程。
【0018】
本発明方法は前記プロセスの処理中に、
(1.)前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が550ppbまでの塩素含量を有し、そして
(2.)同時に、前記少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物がクロム(Cr)及び亜鉛(Zn)からなる金属不純物含量を、それらを合計して、25ppbまで含む、
ことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、ポリアルキルシロキサン化合物に基づく合成石英ガラスの製造中のゲル形成を防ぐために、特定の塩素含量及びCr及びZnの金属不純物含量の両方を同時に遵守することが重要であることが明らかとなった。
【0020】
従って、上記したように塩素及び金属不純物、即ちCr及びZnの規格が適切である場合には、合成石英ガラスの製造装置における重大なゲル形成は存在せず、そして製造中の連続操業が長期間、特に数ヶ月の期間に亘り維持可能となる。
【0021】
本発明方法は「直接ガラス化」による合成石英ガラスの製造に適している。前記SiO粒子が蒸着表面に蒸着する間中の温度は十分に高いので、この方法はSiO粒子の直接ガラス化と関連付けられている。従って、前記「直接ガラス化」は選択的なプロセス工程(d)をなしで済ませる。さらにまた、本発明方法は所謂「スート法」による石英ガラスの製造にも適している。この方法ではプロセス工程(c)におけるSiO粒子の蒸着中の温度は低いので、多孔質SiOスート層が得られる。このスート層は乾燥されそして別のプロセス工程(d)において合成石英ガラスにガラス化される。
【0022】
基本的には、合成石英ガラスの製造に適した全てのポリアルキルシロキサン化合物は本発明方法において使用可能である。本発明の範囲において、ポリアルキルシロキサンという用語は直鎖状(分岐構造も含む)及び環状分子構造を含む。
【0023】
下記一般式を有するポリアルキルシロキサン類は環状の代表的な分子に特に適している。
Si(R)2p

上記式において、pは2以上の整数であり、残基「R」はアルキル基、即ち、最も単純な場合はメチル基である。
【0024】
ポリアルキルシロキサン類は重量フラクションあたりで特に高いフラクションを有しているのが特徴で、これは合成石英ガラスの製造における使用にあたって経済効率に寄与する。
【0025】
ここでいうポリアルキルシロキサン化合物は、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8)、及びそれらの直鎖状同族体からなる群から好ましくは選択される。D3,D4,D6,D7,及びD8という用語はゼネラル・エレクトリック・インコーポレイテッドによって導入された用語に由来するもので、そこでは「D」は[(CHSi]−O−基を示す。
【0026】
上記したポリアルキルシロキサン化合物の混合物は本発明の範囲において同様に使用可能である。
【0027】
高純度で大量生産可能であるために、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)が現在は好ましく使われている。従って、本発明の範囲においてはポリアルキルシロキサン化合物がオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)であるのが特に好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の好ましい実施態様を以下に記載する。
【0029】
塩素含量
本発明の範囲において、塩素含量は全ての塩素含有無機化合物及び塩素含量有機化合物の合計から生じる塩素の量であると理解される。
【0030】
上述したように、少なくとも一つのポリアルキルシロキサンが550ppbまでの塩素含量を有している。
【0031】
また上述したように、大量入手可能なOMCTSはいまだ塩素含有成分の痕跡を含んでいる。その理由は、OMCTSの製造における出発材料としてジメチルジクロロシランのような塩素含有シラン類を使用するのが通例となっているからである。環化プロセス及び通常の純化処理及び/又は蒸留処理の後でさえも、残留塩素含量の痕跡が大量入手可能なOMCTS及び上記に検討した先行技術において使用されているOMCTSの両方において検出される。この点に関して、先行技術に記載された「ハロゲンフリー」及び/又は「塩素フリー」の製品の特徴は、ハロゲン及び/又は塩素の含量がその時点に存在した検出限界未満であり、及び/又はハロゲン含量(及び/又は塩素含量)の測定は上記した先行技術においては精々ppmのレベルで行われていたことを理解することが必要である。
【0032】
本発明によれば、本発明の製造プロセスにおいて蒸発量の関数としての蒸気誘導システムにおける圧力上昇は、特にそれぞれの出発材料の残留塩素含量が上記した条件に対応する一定の規格に合致する場合にのみ許容可能な大きさとなる。
【0033】
好ましくは、本発明の範囲において使用される少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物はさらに400ppbまで、好ましくは250ppbまで、さらに好ましくは180ppbまで、またさらに好ましくは120ppbまでの塩素含量を含む。
【0034】
180ppbまでの塩素含量を含み、システムの圧力増大に関して本発明方法における十分に干渉フリーな挙動示す特別な出発材料においては、連続操業が数ヶ月維持可能である。
【0035】
製造エンジニアリングの理由に基づいて、本発明方法においては、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物は、少なくとも40ppb、特に少なくとも50ppb、さらに特に少なくとも60ppbの塩素含量を含むことが許容される。
【0036】
従って、本発明方法において使用されるポリアルキルシロキサン化合物は一般的に40〜550ppb、特に40〜400ppb、さらに特に45〜320ppb、さらに特に50〜250ppb、さらに特に20〜180ppb、さらに特に60〜120ppbの塩素含量を有している。
【0037】
ポリアルキルシロキサン化合物の塩素含量は本発明の範囲においては中性子放射化分析によって測定される。厳密な分析条件については、例示的な実施形態における更なる説明が参照される。
【0038】
製造材料として使用されたポリアルキルシロキサン化合物における塩素含量を知るためには、本発明方法で使用される前にポリアルキルシロキサン化合物は好ましくは純化処理にかけられる。上記純化処理はポリアルキルシロキサン化合物の純化についての通常の方法のいずれによっても行うことができ、それによって上記純化処理は本発明によって付与されるポリアルキルシロキサン化合物の規格が得られるまで必要である限り繰り返される。適用可能な場合には繰り返し適用される代表的な純化工程は、
―ポリアルキルシロキサン化合物を吸着物質、例えば活性炭及び/又はモレキュラーシーブに接触させる工程、そして次の多段蒸留工程;
―前記ポリアルキルシロキサン化合物から不純物を抽出する工程;及び
―前記ポリアルキルシロキサン化合物のHPLC純化工程;
を含む。
【0039】
ポリアルキルシロキサン化合物の純化処理の相当する手法は、例えば、特許文献2、7、8、9、10,11及び12に記載されている。
【0040】
クロム含量及び亜鉛含量
さらに、出発材料はCr及びZnからなる金属不純物含量を合計して25ppbまで含有する。
【0041】
本発明によれば、金属不純物であるCr及びZnの存在はポリアルキルシロキサン類を用いる合成石英ガラスの製造におけるゲル形成に対して重大であり、特に出発材料の塩素含量が上記した範囲内である場合には重大である。おそらく、金属不純物であるCr及びZnは特に残留物におけるゲル形成を促進するので、出発材料中に存在するそれらの含量に関して他の金属不純物よりもより広範な限定が行われる。
【0042】
これに関連して、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物は20ppbまで、さらに好ましくは12ppbまで、さらに好ましくは8ppbまで、さらに好ましくは3ppbまでのCr及びZn含量を有するのが好適である。
【0043】
製造エンジニアリングの理由に基づいて、本発明方法においては、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物は、一般的には少なくとも1ppb、特に少なくとも2ppbのCr及びZn含量を含むことが許容される。
【0044】
従って、本発明方法において使用されるポリアルキルシロキサン化合物は一般的に1〜25ppb、特に1〜20ppb、さらに特に2〜12ppb、さらに特に2〜8ppbのCr及びZn含量を有している。
【0045】
製造材料として使用されたポリアルキルシロキサン化合物における塩素含量を知るためには、本発明方法で使用される前にポリアルキルシロキサン化合物は好ましくは純化処理にかけられる。この純化処理は、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物の塩素含量の調整のために上記した方法と同様の態様で好ましくは行われる。
【0046】
塩素含量並びにCr及びZn含量の好ましい実施態様
本発明方法におけるゲル形成を低減させるために、特に第1の実施態様においては出発材料の塩素含量が400ppbまで及びCr及びZnの金属不純物含量が20ppbまでであることが好適である。
【0047】
本発明方法におけるゲル形成割合は、塩素含量が250ppbまで及びCr及びZn含量が12ppbまでである場合にはさらに第2の実施態様において低減させることができる。
【0048】
本発明方法におけるゲル形成割合は、塩素含量が180ppbまで及びCr及びZn含量が8ppbまでである場合にはさらに第3の実施態様において低減させることができる。
【0049】
本発明方法におけるゲル形成割合は、塩素含量が120ppbまで及びCr及びZn含量が3ppbまでである場合にはさらに第3の実施態様において低減させることができる。
【0050】
上記した第1〜第4の実施態様の範囲において、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が、少なくとも2ppb、好ましくは少なくとも3ppb、さらに好ましくは少なくとも4ppb、さらに好ましくは5ppbのCr及びZn含量を有することが同様に可能である。
【0051】
上記した第1〜第4の実施態様の範囲において、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が、少なくとも40ppb、好ましくは少なくとも50ppb、さらに好ましくは少なくとも100ppbの塩素含量を有し、そして少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物が、少なくとも3ppb、好ましくは少なくとも5ppbのCr及びZn含量を有することが同様に可能である。
【0052】
残留水分量
さらに、残留水分量もまた本発明によるポリアルキルシロキサン化合物に基づいて合成石英ガラスを合成する間のゲル形成の防止にとって重要であることが明らかとなり、その残留水分量は好ましくは150ppmまでである。
【0053】
本発明方法における出発材料の残留水分量が塩素含量並びにCr及びZnの金属不純物含量についての上記した条件よりも重要性が低いことは明らかであるが、それが上記システムにおけるゲル形成に関して影響を有するものであり、従って、上記に特定した範囲内に調整されるのが好ましい。
【0054】
水の沸点はポリアルキルシロキサン化合物の沸点よりも非常に低いので、ポリアルキルシロキサン化合物の蒸発は水の同時に起こる蒸発と関連しさらに水の蒸気相への変化とも関連している。水分(水)の存在及び上記した不純物との相互作用及び130℃を超える高い蒸発温度に起因して、開環反応が開始されて蒸発中、特に酸効果又はアルカリ効果(ルイス塩基/酸)を有する不純物の存在において、ゲル形成の増大を招来する。
【0055】
出発材料における残留水分量の存在に起因して、クロロシラン類のような塩素含有不純物の共存はこれらの物質の加水分解を導き、それによって遊離の塩酸が形成される。次に、その遊離の塩酸は、環式のポリアルキルシロキサン類が使用される場合には開環反応を導くものである。
【0056】
特に、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物は、130ppmまで、より好ましくは110ppmまで、より好ましくは90ppmまで、より好ましくは70ppmまで、より好ましくは50ppmまで、より好ましくは30ppmまでの残留水分量を有する。
【0057】
本発明の範囲において、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物は、一般的に少なくとも3ppm、特に少なくとも4ppm、特に少なくとも5ppmを有することが許容可能である。
【0058】
ポリアルキルシロキサン類は通常は熱的に安定であり、そして、例えば、環状OMCTSは140〜210℃の温度で水の痕跡の存在においてかつ酸や塩基のような触媒の存在下で開環反応が起こることは期待できない。従って、例えば、ゲル形成生成物は水の痕跡(例えば、180ppm)を含有するOMCTSを24時間アンプル内において加熱した後でも検出可能ではない。しかしながら、同様の実験を行いかつ不純物(例えば、塩化鉄)の存在下で各々のポリアルキルシロキサンを加熱することにより、金属表面又はその金属表面に形成された酸化物層による触媒作用を受けたゲル形成が検出可能である。
【0059】
従って、出発材料中に存在する残留水分は、特に金属不純物がさらに存在する場合には、ゲル形成に関して本質的な役割を果たす。この点に関して、ゲル形成割合は残留水分量の増大とともに増大する。
【0060】
製造材料として使用されるポリアルキルシロキサン化合物内の残留水分量を達成するためには、そのポリアルキルシロキサン化合物は本発明方法において使用される前に純化処理を受けるのが好ましい。この純化処理は少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物の塩素含量を調整するために前記したのと同様の態様で行われる。
【0061】
他の金属不純物含量
さらに、前記出発材料は好ましくは合計で500ppbまでのCr及びZnの金属不純物含量を有している。
【0062】
Cr及びZn以外の金属不純物は一般的にLi、Na、K、Mg、Ca、Fe、Cu、Cr、Mn、Ti、Al、Ni、Mo、W、V、Co、Zn、Pb、Ba、Sr、及びAgからなる群から選択される。
【0063】
金属不純物は元素の酸化物状態又はイオン状態で存在している。
【0064】
さらに、本発明によれば、出発材料中に存在するCr及びZn以外の金属不純物もまたゲル形成に影響を与える。それらの金属不純物は前記出発材料の蒸発処理の間により高濃度になるまで蓄積せしめられる。理論によって限定されると考えることなしに、それらの金属不純物は重合によってゲル形成を促進し、次いでシステム圧力の増大を招く。Cr及びZn以外の金属不純物含量は、好ましくは濃度の増大につながるゲル形成を促進する蓄積が進行しないように所定の限定が加えられる。
【0065】
本発明のこの関連においては、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物は400ppbまで、好ましくは300ppbまで、さらに好ましくは200ppbまで、さらに好ましくは、100ppbまでのCr及びZn以外の金属不純物含量を有している。
【0066】
さらに、本発明によれば、上記金属不純物の絶対的なフリーの状態の出発材料を使用する必要はないということが明らかになった。少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物中に存在する可能性がありかつプロセスエンジニアリングに関して許容可能なCr及びZn以外の金属不純物の最小量は、なくとも15ppb、好ましくは少なくとも20ppb、より好ましくは25ppb、より好ましくは30ppb、より好ましくは35ppb、より好ましくは40ppbである。
【0067】
本発明の範囲において、特にLi、Na、K、Mg、Ca、Cu、Cr、Mn、Ti、Al、Ni、Mo、W、V、Co、Zn、Pb、Ba、Sr、及びAgからなる群から選択される金属不純物は合成石英ガラスの製造方法におけるゲル形成を促進することが判明した。
【0068】
製造材料として用いられるポリアルキルシロキサン化合物における金属不純物含量を達成するために、上記ポリアルキルシロキサン化合物は、本発明方法において使用される前に、純化処理をうけるのが好ましい。この純化処理は、少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物の塩素含量の調整のために上記した方法と同様の態様で好ましくは行われる。
【0069】
少なくとも一つのポリアルキルシロキサン化合物における塩素含量及びCr及びZn含量の適切な調整は、合成石英ガラスの製造装置においてシステム圧力の増大がなく変動のないプロセス条件を実現することができる。
【0070】
さらに、本発明方法を用いることによって、得られるスート体の密度が、エンドキャップ間の領域において軸方向の相対的密度変動を、3%未満、好ましくは2%未満とすることが可能となる。製造上の原因によって、スート体はある種の層構造を有しており、それによってそれらの層は密度又は化学的組成の部分的変化の領域を示している。スート体は石英ガラスの密度と比較すると25〜32%の密度を通常有している。この点に関して、スート体は密度の相対的変動を示し、このことはこのスート体のガラス化処理中において石英ガラス体に反映され、そこでは水酸基濃度又は塩素濃度の半径方向、方位方向及び軸方向変動を招来し、そしてそのことは次にそのスート体から製造される石英ガラスシリンダーや石英ガラス繊維の好ましくない性能を招いてしまう。このような密度変動は本発明方法の使用によって上記した閾値に限定される。
【0071】
本発明方法は外部又は内部蒸着プロセスによる合成石英ガラスの製造に適している。
【0072】
本発明による合成石英ガラスの製造方法が外部蒸着プロセスとして行われる場合には、このプロセスは好ましくはOVDプロセス(outside vapour phase deposition)、VADプロセス(vapour phase axial deposition)、又はPECVDプロセス(modified chemical vapour deposition)である。
【0073】
本発明による合成石英ガラスの製造方法が内部蒸着プロセスとして行われる場合には、このプロセスは好ましくはMCVDプロセス(modified chemical vapour deposition)である。
【0074】
さらに、本発明はポリアルキルシロキサン化合物に関するもので、当該化合物は上記した本発明方法において使用されかつ好ましくは500ppbまでの塩素含量及び25ppbまでのCr及びZnの金属不純物含量を含有する。
【0075】
さらに、本発明は400ppbまでの塩素含量及び16ppbまでのCr及びZnの金属不純物含量を含有するポリアルキルシロキサン化合物含んでいる。
【0076】
さらに、本発明は250ppbまでの塩素含量及び8ppbまでのCr及びZnの金属不純物含量を含有するポリアルキルシロキサン化合物含んでいる。
【0077】
さらに、本発明は180ppbまでの塩素含量及び3ppbまでのCr及びZnの金属不純物含量を含有するポリアルキルシロキサン化合物含んでいる。
【0078】
本発明はまた特に上記した方法に従う合成石英ガラスの製造方法に示された規格を有する上記したポリアルキルシロキサン化合物の使用に関する。
【実施例】
【0079】
本発明を以下に示す実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0080】
1.合成石英ガラスの製造についての実験的手順
特許文献13に記載された蒸発装置はOMCTSを蒸発するために使用されそして蒸気誘導管システムにおけるシステム圧力の増加を測定した。測定された上記システム圧力の増加は、蒸発した物質量の増加とともに生じる蒸発装置及び蒸気誘導管システムにおける圧力の変動に起因する。上記蒸気誘導システムの温度は実験中180℃の一定温度に維持されている。理想的には、その温度は160〜190℃に維持される必要がある。蒸気誘導システムの温度はあらゆる箇所で露点より下の温度に低下しないことが重要である。出発材料は不活性キャリアガスとともに蒸発室に注入される。窒素がキャリアガスとして使用される。
【0081】
2.残留水分の測定
ポリアルキルシロキサン化合物の残留水分はカールフッシャー滴定法によって測定され、その方法では量的又は電量的手法が使用可能である。測定はSI Analyticsの TitroLine(登録商標)kF及び/又はTitroLine(登録商標)kF traceを用いて標準的手順に従って行われる。
【0082】
3.金属含量の測定
ポリアルキルシロキサン化合物中の金属不純物はICP−HS分析によって測定された。これはフッ化水素酸(HF)中のポリアルキルシロキサンの圧力消化、フッ化水素酸(HF)及びHSiFの蒸発、蒸留水による充填、そしてICP−MS(装置:Agilent 7500ce)による水溶液についての測定を含む。測定は標準に従いかつ水溶液で行われた。
【0083】
4.塩素含量の測定
塩素含量はザ・ヘルムホルツ・センター・ベルリン(the Helmholtz Centre Berlin)において中性子放射化分析によって測定された。
【0084】
5.結果
次の結果は出発材料中の塩素含量並びに亜鉛及びクロム含量の関数として得られた:
++:システム圧力の増加なし(>7d以内)
+:合成石英ガラスの製造方法に与えないシステム圧力の非常に僅かな増加(7d以内)
〇:システム圧力の僅かな増加でプロセスエンジニアリングに関していまだ許容可能(2d以内)
-:システム圧力の大きな増加でプロセスエンジニアリングに関してもはや許容不能(1d以内)
--:非常に大きく増加するシステム圧力でプロセスエンジニアリングに関して許容不能(6時間以内)
【0085】
【表1】
【0086】
上記実施例は、合成石英ガラスの製造装置においてゲル形成を防止するためには、出発材料中の塩素の上限値が550ppb及びクロム及び亜鉛の上限値が25ppbであることを同時に守ることが必要であることを示している(実施例11と実施例8及び13との比較)。実施例8及び13においては塩素含量又はクロム及び亜鉛含量のいずれかが本発明の範囲外であり、一方実施例11においては塩素含量又はクロム及び亜鉛含量の両方が本発明の範囲内である。
【0087】
実施例8は、クロム及び亜鉛の不純物含量が本発明の閾値を超える場合には、上記装置におけるゲル形成は塩素含量が本発明の範囲内であるにもかかわらず防止できないことを示しており、一方実施例13は、塩素不純物含量が本発明の閾値よりも高い場合には、上記装置におけるゲル形成はクロム及び亜鉛の不純物含量が本発明の規格に合致しているにもかかわらず防止できないことを示している。