(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において、「見付方向」とは、建物に形成された開口部に納められた建具における障子の面方向(すなわち、左右方向)を意味し、「見込方向」とは、上記障子の厚さ方向(すなわち、奥行き方向)を意味する。
【0011】
図1は、第1実施形態のスロープ100が適用される建具1を浴室側から見た斜視図である。本実施形態の建具1は、枠体10と、枠体10の内側で見付方向に移動可能な障子20と、枠体10に取り付けられるスロープ100と、を備える。
【0012】
枠体10は、建物としてのユニットバス(図示省略)に形成される開口部に設けられる。ユニットバスの内側には防水パン及び浴槽(図示省略)等が設けられる浴室空間が形成される。ユニットバスの開口部は、浴室内とユニットバスの外側の脱衣室(浴室外)を接続する出入口となる。
【0013】
本実施形態の枠体10は、上枠11と、下枠12と、左右それぞれに配置される縦枠15と、方立16と、によって矩形の枠組みとして形成される。
【0014】
方立16は、上枠11、下枠12及び左右の縦枠15によって囲まれた枠内を2つの空間に区画している。方立16によって分割された一側の空間にはパネル17が固定される。本実施形態では、パネル17の脱衣室側の面に戸袋(図示省略)が形成されている。枠体10の内側において、方立16を挟んでパネル17の反対側の開口部分はユーザが浴室と脱衣室を行き来する通路となる。
【0015】
障子20は、方立16を挟んでパネル17の反対側の開口部分を閉じる閉鎖位置と、戸袋に納まって開口部分を開く開放位置と、の間をスライド可能に枠体10によって支持される。
【0016】
本実施形態の障子20は、上框(図示省略)と、下框22と、左右それぞれに配置される縦框23と、により矩形に枠組みされた框25と、框25の内側に固定されるガラス26と、を備える。なお、框25の内側に固定される面材は、ガラスに限らず、樹脂製のものやアルミと樹脂の複合面材でも良く、事情に応じて適宜変更できる。また、戸先側の縦框23には、高さ方向の略中央部にプレートハンドル50と、錠の開閉を行うためのサムターン60と、が設けられる。
【0017】
本実施形態の下枠12は、浴室内の防水パン2の床面よりも上方に突出しており、この下枠12にスロープ100が取り付けられる。
【0018】
次に、第1実施形態のスロープ100の全体形状について説明する。
図2は、第1実施形態のスロープ100の表面側を示す斜視図である。
図3は、第1実施形態のスロープ100の裏面側を示す斜視図である。
【0019】
図2に示すように、スロープ100は、カバー本体部110と、左右1組のカバー嵌合部130と、を備える。
【0020】
カバー本体部110は、その全体形状が見付方向に延びる細長の部材となっている。本実施形態のカバー本体部110は、その上面141に長手方向に沿って延びる溝115が複数形成されている。
【0021】
カバー本体部110における見込方向の浴室側には、該カバー本体部110から下側に延び出る延出部142が形成される。延出部142は、カバー本体部110の見込方向の浴室側の略全域に形成されており、スロープ100の先端部となっている。なお、延出部142の構成の詳細については後述する。
【0022】
図3に示すように、カバー本体部110は、その裏側にスロープ側係合部111と、水返し材保持部112と、支持材保持部113と、が形成される。
【0023】
スロープ側係合部111は、下枠12にカバー本体部110を係合するためのものである。本実施形態のスロープ側係合部111は、カバー本体部110の裏側における見込方向の脱衣室側に位置しており、カバー本体部110の長手方向に沿って延びている。
【0024】
水返し材保持部112は、スロープ側係合部111よりも見込方向の浴室側に位置している。水返し材保持部112には、カバー本体部110の長手方向に沿って延びる溝が形成されており、この溝に水返し材151が嵌め込まれる。本実施形態では1つの水返し材151によって長手方向の略全域がカバーされている。なお、水返し材は、長手方向で複数に分割されているものを用いてもよい。
【0025】
支持材保持部113は、水返し材保持部112よりも見込方向の浴室側に位置している。支持材保持部113には、カバー本体部110の長手方向に沿って延びる溝が形成されており、この溝に支持材152が嵌め込まれる。本実施形態では2つの支持材152によって長手方向の略全域がカバーされている。なお、支持材152は、第1実施形態のように複数に分割されているものでもよいし、1つの部材で長手方向の略全域をカバーするようにしてもよい。
【0026】
カバー嵌合部130は、カバー本体部110とは別体として構成されており、カバー本体部110の両端部にそれぞれ連結されている。カバー嵌合部130の裏側には下枠12と嵌合するための嵌合構造が形成される。
【0027】
次に、下枠12に取り付けられた状態のスロープ100について説明する。
図4は、第1実施形態の下枠12に取り付けられたスロープ100の断面図である。
図5は、第1実施形態のスロープ100を取り外した状態の下枠12を示す斜視図である。
図6は、戸先側のスロープ固定部材18及びその近傍を示す拡大斜視図である。
図7は、第1実施形態のスロープ100を下枠12に取り付ける様子を示す断面斜視図である。
【0028】
下枠12の詳細な構成について説明する。
図4に示すように、下枠12は、下枠本体121と、ガイド部122と、スロープ設置片123と、を備える。
【0029】
下枠本体121は、その長手方向が見付方向を向く長尺の部材であり、枠体10の下縁となる部分である。下枠本体121は、その内側が中空に形成される。
【0030】
ガイド部122は、下枠本体121の上部に設けられる。ガイド部122には下枠12の長手方向に沿って延びる溝状の凹部125が形成される。
【0031】
ガイド部122の見込方向の脱衣室側であって、凹部125の内側には障子ガイド部材126を嵌合するガイド嵌合部127が形成される。
【0032】
障子ガイド部材126は、凹部125の内側でガイド嵌合部127に嵌合される。障子ガイド部材126と凹部125の内壁によってガイド溝128が形成される。
図4に示すように、本実施形態の障子20は、その下端部にガイド溝128に挿入されるガイド片129が設けられており、このガイド片129がガイド溝128に挿入される。
【0033】
ガイド部122の見込方向の浴室側には下枠側係合部120が形成される。下枠側係合部120は、スロープ100のスロープ側係合部111に係合する部材であり、開口部分における戸先側の縦枠15と方立16の間で下枠12の長手方向に沿って延びている。
【0034】
本実施形態の下枠側係合部120は、ガイド部122における浴室側を向く面から浴室側に突出した後上方に屈曲するL字状に形成される。一方、スロープ側係合部111は、カバー本体部110の脱衣室側の端部が下側に折れ曲る部分117と、カバー本体部110の裏側から突出するT字状の部分118と、を有し、下枠側係合部120を挟み込む形状となっている。
【0035】
図5に示すように、スロープ設置片123は、下枠本体121から見込方向の浴室側に延出しており、戸先側の縦枠15と方立16の間をカバーするように下枠12の長手方向に沿って形成される。本実施形態のスロープ設置片123は、その上面124が浴室側に近づくにつれて防水パン2の上面に近づくように緩やかに傾斜している。
【0036】
下枠12のガイド部122における浴室側の面には排出口116が複数形成されている。排出口116は、下枠12の内側に侵入した水を浴室側に排出するための孔である。また、スロープ設置片123の上面124には、左右1組のスロープ固定部材18が設けられる。
図6に示すように、スロープ固定部材18は、戸先側のカバー嵌合部130を嵌合固定するための部材である。
【0037】
図7に示すように、スロープ100の両側に位置するカバー嵌合部130を左右のスロープ固定部材18の位置にそれぞれ合わせ、スロープ100の見込方向の浴室側の端部を持ち上げた状態でスロープ側係合部111と下枠側係合部120を係合させる。次に、スロープ側係合部111と下枠側係合部120の係合を維持しつつ、スロープ100の浴室側の端部を下ろす(
図7の矢印の方向)。これにより、スロープ100が下枠12に固定される。カバー嵌合部130がスロープ固定部材18に嵌合しているので、見付方向においてもスロープ100は適切な位置で保持される。
【0038】
図4に示すように、スロープ100が下枠12に取り付けられた状態では、カバー本体部110(スロープ100)の上面141は、脱衣室側から浴室側に近づくにつれて防水パン2に近づくように傾斜する。そして、カバー本体部110(スロープ100)の裏面とスロープ設置片123に挟まれる内側空間90が形成されている。
【0039】
スロープ100の裏側には、上述の通り、水返し材151及び支持材152が設けられており、支持材152及び水返し材151のそれぞれがスロープ設置片123の上面124に接触する。
【0040】
支持材152は、スロープ設置片123の上面124に接触することでスロープ100を支持する。本実施形態の支持材152は、硬質の樹脂やゴム等により形成される。
【0041】
水返し材151は、水返し材保持部112からスロープ設置片123の上面124に近づくにつれて見込方向の浴室側に近づくように傾斜しており、その先端部分がスロープ設置片123の上面124に接触している。本実施形態の水返し材151は、樹脂やゴム等の止水性のある弾性部材により構成される。この水返し材151により、カバー本体部110の内側に侵入した水が浴室側から脱衣室側に向かう動きが阻止される。
【0042】
本実施形態では、水返し材151がスロープ設置片123の上面124に浴室側に傾いた状態で接触しているので、スロープ100の浴室側から入り込んだ水から受ける力により水返し材151がスロープ設置片123の上面124側に押されるかたちとなり、止水力が向上する。一方、下枠側係合部120とスロープ側係合部111の係合部分よりスロープ100の内側に侵入した水に対して水返し材151は浴室側に傾いている分だけ上方に動き易くなっている。即ち、本実施形態の水返し材151により、浴室側から脱衣室側には水が移動し難く、脱衣室側から浴室側には水が移動し易くなっている。
【0043】
次に、本実施形態のスロープ100の延出部142について説明する。
図8は下枠12とスロープ100の延出部142近傍の拡大断面図である。延出部142は、スロープ100が下枠12に取り付けられた状態において、カバー本体部110の浴室側の端部から下側に湾曲した後、垂直に下がる形状(垂直壁)になっている。そして、延出部142は、その先端面が下枠12のスロープ設置片123の端面160よりも浴室側であって防水パン2よりも上側に位置する。そして、延出部142における見込方向の脱衣室側の内側面の一部が、スロープ設置片123の端面160に対向する位置関係になっている。
【0044】
延出部142の内側面とスロープ設置片123の端面160の間に、内側空間90の水を排出するための隙間dが形成される。本実施形態では、隙間dが0.5mm〜1.5mmの範囲になるように設定される。この隙間dは、下枠12の長手方向に沿って形成されており、スロープ100の内側空間90の水を排出する排出口として機能する。
【0045】
例えば、下枠側係合部120とスロープ側係合部111の係合部分の隙間やスロープ100と枠体10の隙間等からスロープ100の内側空間90に水が侵入すると、傾斜するスロープ設置片123の上面124によって見込方向の浴室側に水が誘導される。水返し材151及び支持材152と上面124の隙間を通ってスロープ設置片123の端面160まで達した水は、延出部142によって隙間dに導かれる(
図8の白抜きの矢印参照)。本実施形態では、隙間dの幅が狭く設定されており、延出部142の近傍まで達した水は毛細管現象によって隙間dに引き込まれる。上下方向で内側空間90に連通する隙間dに引き込まれた水は重力により防水パン2側に落下し(
図8の隙間dの下側の矢印参照)、内側空間90の外側に排出される。
【0046】
以上説明した第1実施形態の建具1によれば、以下のような効果を奏する。
即ち、本実施形態の建具1は、ユニットバスの浴室と脱衣室(浴室外)を連通する開口部に固定される下枠12及び下枠12に設けられるスロープ100を備える。スロープ100は、下枠12に固定され、下枠12の上面との間で内側空間90を形成するカバー本体部110と、カバー本体部110から下側に延出し、下枠12の浴室内側の端部であるスロープ設置片123とともに隙間dを形成する延出部142と、を有し、隙間dは、内側空間90と浴室を上下に連通する。
【0047】
これにより、スロープ100の内側空間90に侵入した水は、下枠12の浴室内側のスロープ設置片123の端部に達すると、延出部142を伝って下側を向く隙間dに導かれ、防水パン2側に排出される。延出部142の位置により隙間の大きさを調整できるので、毛細管現象が生ずる幅の隙間dに設計することができ、スロープ100と下枠12(スロープ設置片123)によって形成される内側空間90から水を排出する力として吸引力と重力の両方を作用させることができる。
【0048】
延出部142は、鉛直下方に延び、スロープ設置片123の端部と見込方向で対面する垂直部分を有し、垂直部分とスロープ設置片123の端部との間に隙間dが形成される。これにより、隙間dに達した水が重力により外側に出易くなり、排水機能がより一層向上する。
【0049】
また、本実施形態では、カバー本体部110は、下枠12に係合するスロープ側係合部111を有する。そして、カバー本体部110は、スロープ側係合部111と下枠12の係合部分から隙間dまでが連通するように内側空間90を形成する。
【0050】
これにより、スロープ側係合部111と下枠側係合部120の係合部分からカバー本体部110の内側に侵入した水をカバー本体部110の内側空間に留まらせることなく、隙間dから排出することができる。本実施形態の水返し材151は脱衣室側から浴室側への水が移動し易くなる構造なので、水返し材151によって水の排出ができない事態も回避されており、スロープ100の防水機能を維持しつつ、スロープ100内側に侵入した水を効率的に排出できる構造が実現されている。
【0051】
次に、第2実施形態のスロープ200について説明する。
図9は、第2実施形態の下枠に取り付けられたスロープ200の断面図である。なお、以下の説明において第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略することがある。
【0052】
第2実施形態のスロープ200は、カバー本体部210の浴室側の形状が第1実施形態の形状と異なっている。
図9に示すように、カバー本体部210は、スロープ設置片123と隙間dを形成する延出部242が形成される。この延出部242は、第1実施形態の延出部142と同様に垂直壁となっている。
【0053】
第2実施形態のスロープ200は、延出部242よりも浴室側に延びる延長部250を更に有する。延長部250の裏側には第2水返し材252を保持する第2水返し材保持部251が形成される。延長部250の下方は、防水パン2となっており、内側空間90の外側となっている。
【0054】
以上説明した第2実施形態の構成においても、延出部242とスロープ設置片123によって形成される隙間dにより、カバー本体部210とスロープ設置片123の間の内側空間90に侵入した水を防水パン2側に排出することができる。上述の通り、延長部250の下方は、内側空間90の外側であり、第2実施形態の構成においても、スロープ200と下枠12によって形成される内側空間90に水が留まる事態を効果的に防止できるのである。
【0055】
以上、本発明の好ましい各実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0056】
上記実施形態では、延出部142は見付方向で途切れることなく形成されているが、見付方向で間隔をあけて延出部が複数形成される構成とすることもできる。また、一部の延出部が浴室の床面(防水パン)に接触し、別の部分が床面に接触しないように構成することもできる。このように、延出部の構成は事情に応じて適宜変更することができる。
【0057】
上記実施形態では、延出部142とスロープ設置片123の隙間dが0.5mm〜1.5mmの範囲に設定されているが、この範囲に限定されず、事情に応じてその長さを変更することができる。また、上記実施形態では、隙間dが鉛直方向に形成されているがこの構成に限定されない。例えば、隙間の形成される方向が垂直成分を含むように、隙間dを斜めに形成することもできる。このように、隙間dの形状も事情に応じて適宜変更することができる。
【0058】
上記実施形態では、下枠12のスロープ設置片123の上面124が傾斜するように構成されているが、水平となっている場合にも本発明を適用することができる。
【0059】
上記実施形態では、引戸式の障子20を備える建具1を例に説明したがこの構成に限定されない。3枚引戸や開き戸式の障子を備えるもの等、種々の建具に本発明を用いることができる。