特許第6661386号(P6661386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社プライムポリマーの特許一覧 ▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661386
(24)【登録日】2020年2月14日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】エチレン系重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20200227BHJP
   C08F 110/02 20060101ALI20200227BHJP
   C08F 210/16 20060101ALI20200227BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   C08F10/02
   C08F110/02
   C08F210/16
   C08L23/04
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-10779(P2016-10779)
(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公開番号】特開2017-128692(P2017-128692A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】辻田 康治
(72)【発明者】
【氏名】三代 裕介
(72)【発明者】
【氏名】志波 英治
(72)【発明者】
【氏名】清澤 邦臣
【審査官】 山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241034(JP,A)
【文献】 特開2006−160987(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/055393(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/055394(WO,A1)
【文献】 特開2003−312625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/60 − 4/70
6/00 − 246/00
301/00
C08L 1/00 − 101/16
C08K 3/00 − 13/08
B29C 45/00 − 45/24
45/46 − 45/63
45/70 − 45/72
45/74 − 45/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3〜10のα−オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0〜1.0mol%であり、以下の要件(1)〜(6)を満たすエチレン系重合体。
(1)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが5〜15g/10minである。
(2)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートに対する190℃における21.6kg荷重でのメルトフローレートの比が40以上である。
(3)密度が940〜965kg/m3である。
(4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が4.5〜7.0である。
(5)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.3dl/g未満である。
(6)200℃、厚み1mmにおけるスパイラルフロー長が20cm以上である。
【請求項2】
JIS K7171に準拠して、23℃で測定した曲げ弾性率FM(MPa)が下記式[1] を満たすことを特徴とする請求項1に記載のエチレン系重合体。
900≦FM≦1100 [1]
【請求項3】
下記要件(I)〜(IV)を満たす高分子量体および下記要件(i)〜(iv)を満たす低分子量体からなる請求項1または2に記載のエチレン系重合体。
(I)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが3〜5g/10minである。
(II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwが70000〜80000である。
(III)密度が950〜960kg/m3である。
(IV)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.3〜1.5である。
(i)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが80〜120g/10minである。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwが25000〜40000である。
(iii)密度が945〜955kg/m3である。
(iv)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.7〜0.9である。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン系重合体を射出成形して得られた容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形可能であり、機械的特性に優れ、耐環境応力破壊性が良好なエチレン系重合体、およびこれから得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム、パイプ、ボトル容器など様々な用途で用いられている高密度ポリエチレンは長い間チーグラー・ナッタ触媒やクロム系触媒を用いて製造されてきた。これらのエチレン系重合体は、さまざまな方法で成形できることが知られている。例えばガソリンタンクや工業薬品缶などの大きな製品は主にブロー成形により、パイプ、電線被覆材、鋼管および鋼線被覆材などは主に押出成形により、パイプ継手や自動車用部品は主に射出成形により製造されている。
【0003】
一方、医薬品、薬品、食品等を収容する容器は、医薬品、薬品、食品等と長時間にわたり接触していても成形体の成分が溶け出すことがなく、また成形体の応力が保持されることが重要である。さらに、この容器においては、医薬品、薬品、食品成分などの他の化学物質との接触により応力が保持される一方、容器の原料であるポリエチレンは、成形時における流動性が十分に確保されるものでなければならない。
【0004】
近年、高密度ポリエチレンを製造するために頻繁に利用されるシングルサイト触媒は、従来のチーグラー触媒やクロム系触媒に比べて分子量分布や組成分布を制御するには有効である。
【0005】
クロム系触媒を用いて得られるエチレン系重合体は、長鎖分岐を有するので分子の広がりが小さく、そのために機械的強度および耐環境応力破壊性(ESCR)などの長期寿命物性が劣る。
【0006】
WO93/08221号公報(特許文献1)などに記載された幾何拘束触媒(CGC)を用いて得られるエチレン系重合体は、重合体中にメチル分岐が生成されるため、分子鎖中にメチル分岐を有していた。メチル分岐は結晶中に取り込まれて結晶構造を弱める。それがエチレン系重合体の機械的強度低下の原因になっていた。また、このエチレン系重合体は長鎖分岐も含有すると言われており、分子の広がりが小さく、機械的強度および耐環境応力破壊性(ESCR)などの長期寿命物性が不十分であった。
【0007】
特開平11−292933号公報(特許文献2)には、幾何拘束型シングルサイト触媒(CGC)によって得られた耐環境応力破壊性(ESCR)に優れたポリエチレンが記載されているが、190℃における荷重2.16kgでのメルトフローレイト(MFR)が2.0〜2.5g/10minであり、これに対する190℃における荷重21.6kgでのメルトフローレイト(MFR)の比が15〜33であることから、流動性に問題があると考えられ、射出成形に適するかどうかは不明である。
【0008】
EP1201711A1号公報(特許文献3)には、シリカに担持したエチレン・ビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジルコニウムジクロリドおよびジメチルアルモキサンからなる触媒系の存在下で、スラリー重合により得られたエチレン系重合体が開示されている。このエチレン系重合体のうち単段重合品は、分子量分布(Mw/Mn)が広いため、単段重合品の分子量分布が狭いエチレン系重合体に比較して衝撃強度などが劣ると予想される。また、分子量分布が広いことから活性種が不均一であると推測され、その結果として組成分布が広がり、疲労強度が低下することが懸念される。
【0009】
WO2004/083265(特許文献4)には、極限粘度[η]が1.6〜4.0dl/g、密度が945〜970kg/m3、分子量分布Mw/Mnが5〜70であるエチレン系樹脂が開示され、このエチレン系樹脂は、成形性、機械的強度に優れ、ブロー成形体およびパイプや異形体などの押出成形体への成形性に優れることが記載されている。この樹脂は、エチレン系樹脂を2段階に重合して製造されたものであり、開示されているトータルの[η]の最小値は実施例12における1.92であり、[η]が大きくなるにつれてESCRが大きくなる傾向が見られる。
【0010】
WO2006/019147(特許文献5)には、極限粘度が1.6〜2.8dl/gであり、密度が945〜970kg/m3であり、JIS K7171に準拠して、23℃で測定した曲げ弾性率FM(MPa)とASTM D1693に準拠して測定した50℃における耐環境応力破壊性(ESCR)(hr)とが、
ESCR≧―0.8×FM+1210
という関係になる、成形性に優れた、高い機械的強度を示すエチレン系共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO93/08221号公報
【特許文献2】特開平11−292933号公報
【特許文献3】EP1201711A1号公報
【特許文献4】WO2004/083265号公報
【特許文献5】WO2006/019147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した種々の問題点の解決、すなわち従来のポリオレフィン系樹脂材料よりも良好な流動性を有し、高い衝撃耐性および耐環境応力破壊性を示し、射出成形に好適なエチレン系重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、特定のメタロセン触媒を用いて製造されたエチレン系樹脂が、従来用いられているエチレン系樹脂よりも分子量が小さいにもかかわらず、耐衝撃性が高く、耐環境応力破壊性にも優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明のエチレン系重合体は、炭素数3〜10のα−オレフィンから導かれる構成単位の含有率が0〜1.0mol%であり、以下の要件(1)〜(6)を満たすエチレン系重合体である。
(1)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが5〜15g/10minである。
(2)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートに対する190℃における21.6kg荷重でのメルトフローレートの比が40以上である。
(3)密度が940〜965kg/m3である。
(4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が4.5〜7.0である。
(5)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.3dl/g未満である。
(6)200℃、厚み1mmにおけるスパイラルフロー長が20cm以上である。
【0015】
前記エチレン系重合体は、JIS K7171に準拠して、23℃で測定した曲げ弾性率FM(MPa)が下記式[1]を満たすことが好ましい。
900≦FM≦1100 [1]
前記エチレン系重合体は、下記要件(I)〜(IV)を満たす高分子量体および下記要件(i)〜(iv)を満たす低分子量体からなっていてもよい。
(I)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが3〜5g/10minである。
(II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwが70000〜80000である。
(III)密度が950〜960kg/m3である。
(IV)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.3〜1.5である。
(i)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが80〜120g/10minである。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwが25000〜40000である。
(iii)密度が945〜955kg/m3である。
(iv)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.7〜0.9である。
【0016】
本発明の容器は、前記エチレン系重合体を射出成形して得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリエチレン系樹脂は、良好な流動性を有し、高い衝撃耐性および耐環境応力破壊性を示し、射出成形に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<エチレン系重合体>
本発明のエチレン系重合体は、炭素数3〜10のα−オレフィンから導かれる構成単位の含有率、すなわち該重合体が有する全構成単位に占める炭素数3〜10のα−オレフィンから導かれる構成単位の比率が0〜1.0mol%である。本発明のエチレン系重合体は、例えば、エチレン単独重合体であるか、エチレンと前記α−オレフィンとの共重合体であるか、またはエチレン単独重合体と前記α−オレフィンとの共重合体である。本発明のエチレン系重合体は、例えば、エチレン単独重合体と、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体とを2段に重合して製造することができる。
【0019】
前記α−オレフィンは、炭素数3〜10であり、好ましくは炭素数4〜10、より好ましくは炭素数6〜10である。α‐オレフィンとして炭素数3のα‐オレフィンを使用する場合には、炭素数6〜10のα‐オレフィンも併せて使用することが好ましい。前記炭素数3〜10のα‐オレフィンとしては、1‐ブテン、1‐ヘキセン、4‐メチル‐1‐ペンテン、1‐オクテン、1‐デセンなどが挙げられる。
【0020】
α−オレフィンから導かれる構成単位の含有率は、エチレン系樹脂全体で、0〜1.0mol%であり、好ましくは0.3〜0.7mol%である。α−オレフィンは、優れた機械的強度を有するエチレン単独重合体を得るという観点から、1−ブテンまたは1−ヘキセンであることが好ましい。
【0021】
本発明のエチレン系重合体は、以下の要件(1)〜(6)を満たす。
(1)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が5〜15g/10minである。
前記メルトフローレートは、JIS K7210に従って測定された値である。本発明のエチレン系重合体の前記メルトフローレートは、好ましくは7〜10である。メルトフローレートが5g/10minより小さい場合は流動性が悪く、射出成形不良を招き、15g/10minより大きい場合は耐環境応力破壊性(ESCR)が低下し、好ましくない。メルトフローレートは分子量の大きさの目安であり、通常は重合時に連鎖移動材である水素の量を調節することによりその値を制御することができる。
【0022】
(2)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)に対する190℃における21.6kg荷重でのメルトフローレート(MFR)の比(MIR)が40以上である。
【0023】
190℃における2.16kg荷重のメルトフローレートおよび190℃における21.6kg荷重でのメルトフローレートはJIS K7210に従って測定された値である。
【0024】
本発明のエチレン系重合体の前記比(MIR)は好ましくは50〜60である。前記比(MIR)が上記範囲にあると、流動性の向上およびゲル状物質の発生抑制という点で好ましい。前記比(MIR)は分子量分布を変動させることにより増減させることができる。
【0025】
(3)密度が940〜965kg/m3である。
前記密度は、ASTM D1505に従って、密度勾配管法(23℃)により測定した値である。本発明のエチレン系重合体の密度は、好ましくは950〜960kg/m3である。密度が940kg/m3より小さいと剛性が低下し、965kg/m3より大きいと耐環境応力破壊性(ESCR)が低下し、好ましくない。
【0026】
密度は主としてエチレン系重合体のα‐オレフィンから導かれる構成単位の含有率に依存しており、α‐オレフィンから導かれる構成単位が少ないほど密度は高く、α‐オレフィンから導かれる構成単位が多いほど密度は低くなる。
【0027】
エチレン系重合体中のα−オレフィンから導かれる構成単位の含有率は、重合系内におけるα‐オレフィンとエチレンとの組成比(α‐オレフィン/エチレン)により決定されることが知られている。このことは、例えば「Walter Kaminsky, Makromol.Chem. 193, p.606(1992)」に記載されている。このため、α-オレフィン/エチレンを増減させることで、上記範囲の密度を有するエチレン系重合体を製造することができる。
【0028】
(4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)、すなわち分子量分布が4.5〜7.0である。
前記重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、ユニバーサル構成してポリエチレン換算により得られた値である。
本発明のエチレン系重合体の前記比(Mw/Mn)は、好ましくは5.0〜6.0である。前記比(Mw/Mn)が7.0より大きいとゲル状物質が増加し、衝撃強度の低下を招き、4.5より小さいと射出成形がし難くなり、好ましくない。前記比(Mw/Mn)が広すぎると流動性が低下し、射出成形性に劣る。また、前記比(Mw/Mn)が7.0より大きいとスパイラルフロー長が低下する傾向がある。
【0029】
(5)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.3dl/g未満である。
本発明のエチレン系重合体の前記極限粘度[η]は、好ましくは1.1〜1.3dl/gである。極限粘度[η]が上記範囲にあると、流動性とESCRとのバランスが良好になる点で好ましい。
【0030】
(6)200℃、厚み1mmにおけるスパイラルフロー長が20cm以上である。
前記スパイラルフロー長は、アルキメデスのスパイラル形状の厚み1mmの金型に樹脂を流し込むことにより測定された値である。本発明のエチレン系重合体の前記スパイラルフロー長が20cm以上であると、流動性が良好であり、成形性が良く、バリの無い成形が可能である。20cm未満であると金型末端まで樹脂が入らなかったり、バリが出る等の不良現象が起こる。
【0031】
前記スパイラルフロー長は、MFR及び分子量分布(Mw/Mn)を調整するという方法により、その値を増減させることができる。
本発明のエチレン系重合体は、JIS K7171に準拠して、23℃で測定した曲げ弾性率FM(MPa)が下記式[1]を満たすことが好ましい。
【0032】
900≦FM≦1100 [1]
この条件を満たすポリエチレン系樹脂は、衝撃耐性と耐環境応力破壊性とのバランスに優れ、本発明の目的をより好適に達成することができる。
【0033】
さらに、本発明のエチレン系重合体は、ASTM D1693に準拠して測定した50℃におけるESCR(hr)が下記式[2]を満たすことがさらに好ましい。
−0.8FM+825 ≦ESCR≦ −0.8FM+1210 [2]
但し、式[2]において0<ESCRである。
【0034】
耐環境応力破壊性(ESCR)の数値は大きいほど本エチレン系重合体から得られる容器の耐久性が向上することは言うまでもないが、耐環境応力破壊性(ESCR)の値が大きくなると分子量が大きくなりすぎる場合があり、そのような場合は流動性が小さくなるので射出成形には不向きとなる。
【0035】
本発明のエチレン系重合体は、高分子量体および低分子量体からなっていてもよい。前記高分子量体は下記要件(I)〜(IV)を満たし、前記低分子量体は下記要件(i)〜(iv)を満たすことが、高い衝撃耐性および高い耐環境応力破壊性を得るうえで好ましい。
(I)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが3〜5g/10minである。
(II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwが70000〜80000である。
(III)密度が950〜960kg/m3である。
(IV)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が1.3〜1.5である。
(i)190℃における2.16kg荷重でのメルトフローレートが80〜120g/10minである。
(ii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量Mwが25000〜40000である。
(iii)密度が945〜955kg/m3である。
(iv)135℃においてデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.7〜0.9である。
【0036】
低分子量体の分子量が低すぎたり、密度が高すぎたりすると耐環境応力破壊性(ESCR)が低下することがある。
高分子量体の分子量が高すぎると、成型性が悪化したり、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が前記要件(4)の範囲外となったりすることがある。また、高分子量体の分子量が高すぎると、曲げ弾性率FMに対して耐環境応力破壊性(ESCR)が大きくなり、前記式[2]を満たしにくくなる。
高分子量体の密度が高すぎると、成型性の悪化や耐環境応力破壊性(ESCR)の低下につながることがある。そのため、低密度の低分子量体と低密度の高分子量体との組合せが好ましい。
【0037】
高分子量体および低分子量体からなるエチレン系重合体は、高分子量のエチレン系重合体と低分子量のエチレン系重合体とをブレンドすることにより得ることができる。
【0038】
<製造方法>
上記エチレン系重合体は、メタロセン系オレフィン重合触媒を用いて製造することができる。このメタロセン系オレフィン重合触媒としては、例えば
(A)シクロペンタジエニル基およびフルオレニル基が、周期表第14族原子を含む共有結合架橋によって結合されている遷移金属化合物(以下説明では「架橋メタロセン化合物」と呼ぶ場合がある)と、
(B)(B−1) 有機金属化合物、
(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物、および
(B−3) 遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物
から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下の説明では(B)成分を「共触媒」と呼ぶ場合がある。)と、必要に応じて用いられる。
(C)微粒子状担体
とから形成されるオレフィン重合触媒を挙げることができる。前記エチレン系重合体は、このオレフィン重合触媒を用いて、例えば、エチレンを単独重合させるか、またはエチレンと前記α-オレフィンとを共重合させることによって好適に製造することができる。
【0039】
以下、各成分(A)、(B)および(C)について詳説する。
(A)遷移金属化合物
遷移金属化合物(A)は、例えば、下記一般式[I]で表される化合物である。
【0040】
【化1】
上記一般式[I]において、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19およびR20は、それぞれ水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有炭化水素基、またはケイ素含有炭化水素基であり、それぞれ同一でも異なっていてもよく、R7〜R18のうち相互に隣り合う基は互いに結合して環を形成してもよく、Yは炭素原子またはケイ素原子であり、Mは周期表第4族から選ばれた金属であり、Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一または異なる組合せで選ばれ、jは1〜4の整数である。
【0041】
上記一般式[I]で表される遷移金属化合物(A)の中で、R7〜R10が水素原子であり、Yが炭素原子であり、Mがジルコニウム原子であり、jが2である化合物が特に好適である。
【0042】
また、上記一般式[I]で表される遷移金属化合物(A)の中で、共有結合架橋部の架橋原子Yは、相互に同一でも異なっていてもよいアリール(aryl)基を有すること、すなわち、R19およびR20が相互に同一でも異なっていてもよいアリール基であることが好ましい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基および、これらの芳香族水素(sp2型水素)の一つ以上が置換基で置換されて形成された基を例示することができる。前記置換基としては、総炭素数1から20の炭化水素基(f1)が挙げられる。総炭素数1から20の炭化水素基(f1)は、炭素原子および水素原子のみから構成されるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等以外に、これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部がハロゲン原子、酸素含有基、窒素含有基、ケイ素含有基で置換されたヘテロ原子含有炭化水素基も含む。このような基(f1)としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、アリル(allyl)基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デカニル基などの直鎖状炭化水素基; イソプロピル基、tert−ブチル基、アミル基、3−メチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1−メチル−1−プロピルブチル基、1,1−プロピルブチル基、1,1−ジメチル−2−メチルプロピル基、1−メチル−1−イソプロピル−2−メチルプロピル基などの分岐状炭化水素基; シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの環状飽和炭化水素基; フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの環状不飽和炭化水素基およびこれらの核アルキル置換体; ベンジル基、クミル基などのアリール基の置換した飽和炭化水素基; メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、N−メチルアミノ基、トリフルオロメチル基、トリブロモメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基などのヘテロ原子含有炭化水素基を挙げることができる。
【0043】
一般式[I]における共有結合架橋部の架橋原子Yに結合した、相互に同一でも異なっていてもよいアリール基として、具体的にはフェニル基、トリル基、tert−ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ビフェニル基、シクロヘキシルフェニル基、(トリフルオロメチル)フェニル基、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基を例示することができる。
【0044】
後述する実施例で使用した遷移金属化合物(A)は、具体的には下記式[II]で表される化合物あるが、本発明はこの遷移金属化合物に何ら限定されるものではない。
【0045】
【化2】
なお、上記式 [II]で表わされる遷移金属化合物は、270MHz 1H−NMR(日本電子 GSH−270)およびFD−質量分析(日本電子SX−102A)などを用いて同定することができる。
【0046】
(B)共触媒
〔(B−1) 有機金属化合物〕
(B−1)有機金属化合物としては、周期表第1、2族および第12、13族の元素を含む有機金属化合物が挙げられ、具体的には下記式で表される有機アルミニウム化合物を挙げることができる。
一般式 RamAl(ORbnpq
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数が1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは0<m≦3、nは0≦n<3、pは0≦p<3、qは0≦q<3の整数であり、かつm+n+p+q=3である。)
後述する実施例において用いたアルミニウム化合物はトリイソブチルアルミニウムである。
【0047】
〔(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物〕
本発明で必要に応じて用いられる(B−2)有機アルミニウムオキシ化合物は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2−78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。
【0048】
後述する実施例において使用した有機アルミニウムオキシ化合物(B−2)は市販されている日本アルキルアルミ株式会社製のMAO(メチルアルモキサン)/トルエン溶液である。
【0049】
〔(B−3) 遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物〕
本発明で用いられる、遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物(B−3)(以下、「イオン化イオン性化合物」という。)としては、特開平1−501950号公報、特開平1−502036号公報、特開平3−179005号公報、特開平3−179006号公報、特開平3−207703号公報、特開平3−207704号公報、US5321106号公報などに記載されたルイス酸、イオン性化合物、ボラン化合物およびカルボラン化合物などを挙げることができる。さらに、ヘテロポリ化合物およびイソポリ化合物も挙げることができる。このようなイオン化イオン性化合物は、1種単独でまたは2種以上組み合せて用いられる。
【0050】
なお、後述する実施例では(B)成分として、上記(B−1)および(B−2)を用いている。
【0051】
(C)微粒子状担体
本発明で必要に応じて用いられる(C)微粒子状担体は、無機または有機の化合物であって、顆粒状ないしは微粒子状の固体である。このうち無機化合物としては、多孔質酸化物、無機ハロゲン化物、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物が好ましい。このような多孔質酸化物は、種類および製法によりその性状は異なるが、本発明に好ましく用いられる担体は、粒径が1〜300μm、好ましくは3〜200μmであって、比表面積が50〜1000m2/g、好ましくは100〜800m2/gの範囲にあり、細孔容積が0.3〜3.0cm3/gの範囲にある。このような担体は、必要に応じて80〜1000℃、好ましくは100〜800℃で焼成して使用される。
【0052】
本発明に係るオレフィン重合用触媒は、前記した遷移金属化合物(A)と、(B−1) 有機金属化合物、(B−2) 有機アルミニウムオキシ化合物、および(B−3) イオン化イオン性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)と、必要に応じて用いられる微粒子状担体(C)と共に、必要に応じて後述するような特定の有機化合物成分(D)を含むこともできる。
【0053】
(D)有機化合物成分
本発明において、(D)有機化合物成分は、必要に応じて、重合性能および生成ポリマーの物性を向上させる目的で使用される。このような有機化合物としては、アルコール類、フェノール性化合物、カルボン酸、リン化合物およびスルホン酸塩等が挙げられる。
【0054】
本発明に係るエチレン系重合体は、上記のようなオレフィン重合用触媒を用いて、既述のようにエチレンを単独重合させるか、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとを共重合させるか、あるいは前記単独重合と前記共重合を任意の順番で連続的に実施する等の方法により得られる。
【0055】
重合の際には、各成分の使用法、添加順序は任意に選ばれるが、以下のような方法、(P1)〜(P10)が例示される。
(P1) 成分(A)と成分(B)とを任意の順序で重合器に添加する方法。
(P2) 成分(A)と成分(B)とを予め接触させた触媒を重合器に添加する方法。
(P3) 成分(A)と成分(B)とを予め接触させた触媒成分、および成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。この場合各々の成分(B)は、同一でも異なっていてもよい。
(P4) 成分(A)を微粒子状担体(C)に担持した触媒成分、および成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。
(P5) 成分(A)と成分(B)とを微粒子状担体(C)に担持した触媒成分を、重合器に添加する方法。
(P6) 成分(A)と成分(B)とを微粒子状担体(C)に担持した触媒成分、および成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。この場合各々の成分(B)は、同一でも異なっていてもよい。
(P7) 成分(B)を微粒子状担体(C)に担持した触媒成分、および成分(A)を任意の順序で重合器に添加する方法。
(P8) 成分(B)を微粒子状担体(C)に担持した触媒成分、成分(A)、および成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。この場合各々の成分(B)は、同一でも異なっていてもよい。
(P9) 成分(A)と成分(B)とを微粒子状担体(C)に担持した触媒成分と、成分(B)とを予め接触させた触媒成分を、重合器に添加する方法。この場合各々の成分(B)は、同一でも異なっていてもよい。
(P10) 成分(A)と成分(B)とを微粒子状担体(C)に担持した触媒成分と、成分(B)とを予め接触させた触媒成分、および成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。この場合各々の成分(B)は、同一でも異なっていてもよい。
【0056】
上記の(P1)〜(P10)の各方法においては、各触媒成分の少なくとも二つ以上は予め接触されていてもよい。
上記の微粒子状担体(C)に、成分(A)および成分(B)が担持された固体触媒成分を利用する方法、すなわち(P5)、(P6)、(P9)及び(P10)においてはオレフィンが予備重合されていてもよい。オレフィンが予備重合された固体触媒成分は、通常固体触媒成分1g当たり、ポリオレフィンが0.1〜1000g、好ましくは0.3〜500g、特に好ましくは1〜200gの割合で予備重合されている。予備重合に供されるオレフィンとしてはエチレンまたは前記した炭素数3〜10のα−オレフィンを例示でき、これらの中ではエチレンが好適に用いられる。本発明においては、通常、微粒子状担体(C)を用いる方法によってエチレン系重合体が調製され、好ましくは成分(A)と成分(B)とを微粒子状担体(C)に担持した触媒成分にエチレンが予備重合された触媒成分と、成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法が採用される。
【0057】
また、重合を円滑に進行させる目的で、帯電防止剤やアンチファウリング剤などを併用したり、担体上に担持しても良い。
重合は溶解重合、懸濁重合などの液相重合法および気相重合法のいずれにおいても実施できるが、生産性の視点から懸濁重合および気相重合法が好んで採用される。
【0058】
液相重合法において用いられる不活性炭化水素媒体としては、具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素またはこれらの混合物などを挙げることができる。オレフィン自体を溶媒として用いることもできる。後述する実施例においては不活性炭化水素媒体としてヘキサンを用いる懸濁重合法が用いられた。
【0059】
上記のようなオレフィン重合用触媒を用いて、重合または共重合を行うに際して、成分(A)は、反応容積1リットル当り、通常10-12〜10-2mol、好ましくは10-10〜10-3mol用いられる。
【0060】
必要に応じて用いられる成分(B−1)は、成分(B−1)と、成分(A)中の遷移金属原子(M)とのモル比[(B−1)/M]が、通常0.01〜100,000、好ましくは0.05〜50,000となるような量で用いられる。
【0061】
必要に応じて用いられる成分(B−2)は、成分(B−2)中のアルミニウム原子(Al)と、成分(A)中の遷移金属原子(M)とのモル比[Al/M]が、通常10〜500,000、好ましくは20〜100,000となるような量で用いられる。
【0062】
必要に応じて用いられる成分(B−3)は、成分(B−3)と、成分(A)中の遷移金属原子(M)とのモル比[(B−3)/M]が、通常1〜100、好ましくは2〜80となるような量で用いられる。
【0063】
必要に応じて用いられる成分(D)は、成分(B)が成分(B−1)の場合には、モル比[(D)/(B−1)]が通常0.01〜10、好ましくは0.1〜5となるような量で、成分(B)が成分(B−2)の場合には、モル比[(D)/(B−2)]が通常0.001〜2、好ましくは0.005〜1となるような量で、成分(B)が成分(B−3)の場合には、モル比[(D)/(B−3)]が通常0.01〜10、好ましくは0.1〜5となるような量で用いられる。
【0064】
重合温度は、通常−50〜250℃、好ましくは0〜200℃、特に好ましくは60〜170℃の範囲である。重合圧力は、通常常圧〜100kg/cm2、好ましくは常圧〜50kg/cm2の範囲である。重合反応は、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。重合は、通常気相、または重合粒子が溶媒中に析出しているスラリー相で行う。また、スラリー重合または気相重合の場合、重合温度は好ましくは60〜90℃、より好ましくは65〜85℃である。この温度範囲で重合することで、より組成分布が狭いエチレン系重合体が得られる。
【0065】
本発明のエチレン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)における溶出曲線が単峰性であってもよいし多峰性であってもよい。しかし、前記要件(1)〜(6)の数値をチューニングさせることが容易であるという観点から多峰性のエチレン系重合体が好ましく、二峰性のエチレン系重合体がより好ましい。エチレン系重合体が二峰性であることは、当該エチレン系重合体が高分子量体と低分子量体とからなることを意味する。
【0066】
二峰性エチレン系重合体は、異なる重合器で二種以上の重合体を別個に製造したのち、これら複数の重合体を、前記要件(1)〜(6)が充足されるようにブレンドして調製してもよいし、反応条件の異なる二段以上の直列配置型の重合器を用いて連続的に重合体を調製してもよい。個々のブレンド操作が不要であるという視点、大量生産適合性にマッチしているという視点から、通常は後者の連続調製法が好適に採用される。本発明に係るエチレン系重合体を二段階で調製する場合、例えば、一段目の重合器で、極限粘度が0.6〜1.8dl/g、好ましくは0.7〜1.5dl/gのエチレン単独重合体を、全体量の50〜75重量%、好ましくは55〜70重量%製造し、二段目の重合器で極限粘度が5.5〜15dl/g、好ましくは6.5〜13dl/gのエチレン共重合体を、全体量の25〜50重量%、好ましくは30〜45重量%製造する。なお、エチレン単独重合体とエチレン共重合体を製造する順番は逆でもよいが、前記要件(1)〜(6)を充足されやすいという点でエチレン単独重合体を先に製造する方法が好適に採用される。
【0067】
微粒子状担体(C)を用いる好ましい調製方法においては、得られる重合体は、通常直径数十〜数千μm程度の粒子状である。重合器が二つ以上からなる連続式で重合した場合には、良溶媒に溶解後に貧溶媒に析出させる、あるいは特定の混練機で十分に溶融混練するなどの操作が必要となる場合がある。
【0068】
得られるエチレン系重合体の分子量は、重合系に水素を存在させるか、または重合温度を変化させることによって調節することができる。さらに、使用する成分(B)の種類を換えることにより調節することもできる。
【0069】
重合反応により得られた重合体粒子は、通常以下の方法によりペレット化される。
(1)エチレン系重合体粒子および所望により添加される他の成分を、押出機、ニーダー等を用いて機械的にブレンドして、所定の大きさにカットする方法。
(2)エチレン系重合体粒子および所望により添加される他の成分を適当な良溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の炭化水素溶媒)に溶解し、次いで溶媒を除去、しかる後に押出機、ニーダー等を用いて機械的にブレンドして、所定の大きさにカットする方法。
【0070】
本発明のエチレン系重合体は流動性に優れる。このことは、主としてスパイラルフロー長が20cm以上であることにより評価できる。また、本発明のエチレン系重合体は、高い耐環境応力破壊性を有し、衝撃耐性と耐環境応力破壊性とのバランスが良好である。本発明のエチレン系重合体は、曲げ弾性率と耐環境応力破壊性とのバランスも良好である。
【0071】
<成形体>
本発明のエチレン系重合体は、ブロー成形体、インフレーション成形体、キャスト成形体、押出ラミ成形体、押出成形体、発泡成形体、射出成形体などに成形することができる。さらに繊維、モノフィラメント、不織布などに使用することができる。これらの成形体には、エチレン系重合体からなる部分と、他の樹脂からなる部分とを含む成形体(積層体等)が含まれる。なお、該エチレン系重合体は成形過程で架橋されたものを用いてもよい。
【0072】
本発明のエチレン系重合体は、流動性に優れることから成形性に優れ、特に射出成形に好適に用いることができる。また、本発明のエチレン系重合体は、高い衝撃耐性および耐環境応力破壊性を有することから、小型の中空成形体の製造に好適に用いられる。つまり、本発明のエチレン系重合体は、射出成形による容器などの小型の中空成形体の製造に好適に利用できる。本発明のエチレン系重合体については、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加剤の添加は必ずしも必要とせず、添加剤フリーで射出成形等の成形に供することができる。
【実施例】
【0073】
各種物性の測定方法
(MFR測定方法)
MFRは、JIS K7210に準拠し、荷重2.16kg及び21.6kgで測定した。
(密度測定方法)
密度は、ASTM D1505に準拠し、密度勾配管法(23℃)で測定した。
(極限粘度[η])
極限粘度[η]は、135℃においてデカリン溶媒中で測定した。
(分子量分布(Mw/Mn)の測定)
分子量分布(Mw/Mn)は、東ソー社製HLC−8321GPC/HTを用いて下記の条件で測定した。
【0074】
〔測定条件〕
試験機器:高温GPC
GPCカラム:TOSOH GMHHR−H(S)HT(2本)
溶媒:TCB
温度:145℃
流速:1.0ml/min
分子量換算:Universal Calibration法
検出器:RI
注入濃度:5mg/10ml
注入量:300μl
(耐環境応力破壊性(ESCR)測定)
耐環境応力破壊性(ESCR)は、ASTM D1693に準拠して測定した。
【0075】
評価条件(ベントストリップ法)の概略を以下に示した。
サンプル形状:プレス成形 C法
スペシメン:38×13mm、厚さ2mm(HDPE)
ノッチ長さ:19mm、ノッチ深さ:0.35mm
試験温度:50℃ 、恒温水槽は温度を50.0±0.5℃に制御できるものを使用した。
【0076】
サンプルの保持:内寸11.75mm、長さ165mmのスペシメンホルダーに専用の折り曲げ冶具を用いてサンプルをセットした。
界面活性剤:ノニルフェニルポリオキシエチレンエタノール(商品名:AntaroxCO−630)を水で希釈して10%濃度で使用した。
(スパイラルフロー長)
スパイラルフロー長は、下記条件にて、射出成形機から金型にエチレン系重合体を射出し、その流動長を測定することにより求めた。
【0077】
射出成形機:FANUC社製射出成形機S−2000i100B
金型:アルキメデスのスパイラル形状の厚み1mmの金型
成形温度:200℃
金型温度:45℃
射出速度:37mm/sec
射出時間:5sec
冷却時間:14sec
(引張弾性率の測定)
JISK7161、JISK7162に準拠して引張弾性率を測定した。
(曲げ弾性率FMの測定)
JIS K7171に準拠して曲げ弾性率FMを測定した。
【0078】
[合成例1]固体状担体(X‐1)の調製
180℃で6時間乾燥したシリカ粒子(平均粒径:6.5μm、比表面積:594m2/g、細孔容積:1.59mL/g)9.0kgを146.3Lのトルエンで懸濁状にした後、この懸濁液に、Al原子換算濃度が3.01mol/Lであるメチルアルミノキサンのトルエン溶液37.3Lを30分かけて滴下した。次いで1.0時間かけて100℃まで昇温し、その温度で4時間反応させた。その後60℃まで降温し、上澄み液をデカンテーション法によって除去した。得られた固体状担体成分をトルエンで3回洗浄した後、トルエンで再懸濁化して固体状担体(X‐1)を得た(全容積199L)。
[合成例2]架橋メタロセン化合物の担持による固体触媒成分(Y‐1)の調製
充分に窒素置換した反応容器中に、トルエンに懸濁させた合成例1にて合成した固体状担体(X‐1)をアルミニウム原子換算で18.01mol入れ、その懸濁液を撹拌しながら、室温下(20〜25℃)で、下記式[II]で表わされる架橋メタロセン化合物の31.06mmol/Lトルエン溶液を2L(架橋メタロセン化合物61.12mmol)加え、1時間反応させ、固体触媒成分(Y‐1)を得た。
【0079】
【化3】
【0080】
[実施例1]
<エチレン重合>
内容積340Lの攪拌機付き第1重合槽に、ヘキサンを51L/h、固体触媒成分(Y‐1)をジルコニウム原子に換算して0.027mmol/h、エチレンを7.8kg/h、水素を81.5NL/h、トリイソブチルアルミニウムを11.2mmol/h、アデカプルロニックL−71(ADEKA株式会社製、以下「L−71」という)を0.46g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度80℃、反応圧0.75MPaG、平均滞留時間2.7hrという条件で重合を行った。
【0081】
第1重合槽から連続的に抜出された重合内容物は、内圧0.30MPaG、60℃に保たれたフラッシュドラムにおいて未反応エチレンおよび水素の除去を行った。
内容積200Lの攪拌機付き第2重合槽に前記重合内容物を供給し、さらにヘキサンを26L/h、エチレンを4.2kg/h、水素を26.8NL/h、トリイソブチルアルミニウムを7.2mmol/h、1−ヘキセンを432g/h、L−71を0.24g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度75℃、反応圧0.26MPaG、平均滞留時間1.6hrという条件で重合を行った。
【0082】
第2重合槽から抜き出した重合内容物にメタノールを2L/hで供給して重合用触媒を失活させた。該重合内容物中のヘキサン及び未反応モノマーを溶媒分離装置で除去した後、該重合内容物を乾燥してエチレン系重合体X1を得た。
【0083】
第1重合槽で得られた重合体は、密度が973kg/m3、21.6kg荷重におけるMFRが500g/10min、[η]が0.60g/dlであった。第1重合槽で重合される成分が65重量%、第2重合槽で重合される成分が35重量%になるよう運転条件を調整した。エチレン系重合体X1は、密度が955kg/m3、21.6kg荷重におけるMFRが9.0g/10minであった。
前記物性の測定方法によって測定されたエチレン系重合体X1の物性を表1に示した。
【0084】
[比較例1]
内容積340Lの攪拌機付き第1重合槽に、ヘキサンを51L/h、固体触媒成分(Y‐1)をジルコニウム原子に換算して0.027mmol/h、エチレンを7.8kg/h、水素を89.3NL/h、トリイソブチルアルミニウムを11.2mmol/h、L−71を0.46g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度80℃、反応圧0.75MPaG、平均滞留時間2.7hrという条件で重合を行った。
【0085】
第1重合槽から連続的に抜出された重合内容物は、内圧0.30MPaG、60℃に保たれたフラッシュドラムにおいて未反応エチレンおよび水素の除去を行った。
内容積200Lの攪拌機付き第2重合槽に前記重合内容物を供給し、さらにヘキサンを26L/h、エチレンを4.2kg/h、水素を13.1NL/L、トリイソブチルアルミニウムを7.2mmol/h、1−ヘキセンを350g/h、L−71を0.24g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度75℃、反応圧0.26MPaG、平均滞留時間1.6hrという条件で重合を行った。
【0086】
第2重合槽から抜き出した重合内容物にメタノールを2L/hで供給して重合用触媒を失活させた。該重合内容物中のヘキサン及び未反応モノマーを溶媒分離装置で除去した後、該重合内容物を乾燥してエチレン系重合体Y1を得た。
【0087】
第1重合槽で得られた重合体は、密度が973kg/m3、21.6kg荷重におけるMFRが350g/10min、[η]が0.63g/dlであった。第1重合槽で重合される成分が65重量%、第2重合槽で重合される成分が35重量%になるよう運転条件を調整した。エチレン系重合体Y1は、密度が956kg/m3、2.16kg荷重におけるMFRが3.8g/10minであった。
前記物性の測定方法によって測定されたエチレン系重合体Y1の物性を表1に示した。
【0088】
[合成例3]固体状担体(X‐2)の調製
250℃で10時間乾燥したシリカ粒子(平均粒径:13.4μm、比表面積:781m2/g、細孔容積:1.31mL/g)5.0kgを112.4Lのトルエンで懸濁状にした後、この懸濁液に、Al原子換算濃度が0.74mol/Lであるメチルアルミノキサンのトルエン溶液25.5リットルを30分かけて滴下した。次いで100℃まで昇温し、その温度で2時間反応させた。その後60℃まで降温し、上澄み液をデカンテーション法によって除去した。得られた固体触媒成分をトルエンで3回洗浄した後、トルエンで再懸濁化して固体状担体(X‐2)を得た(全容積65L)。
【0089】
[合成例4]メタロセン化合物の担持による固体触媒成分(Y‐2)の調製
充分に窒素置換した反応容器中に、トルエンに懸濁させた合成例3にて合成した固体状担体(X‐2)をアルミニウム原子換算で11.6mol入れ、その懸濁液を撹拌しながら、室温下(20〜25℃)で、下記式[III]で表わされるビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリドの35.4mmol/Lトルエン溶液を2L(前記化合物70.8mmol)加えたのち、60分撹拌した。撹拌停止後、上澄み液をデカンテーションで取り除き、n−ヘキサン60Lを用いて洗浄を2回行い、得られた担持触媒をn−ヘキサンに再懸濁し、30リットルの触媒懸濁液として、固体触媒成分(Y‐2)を得た。
【0090】
【化4】
【0091】
[合成例5]固体触媒成分(Y−2)への予備重合による固体触媒成分(Z−1)の調製
攪拌機つき反応器に、窒素雰囲気下で上記固体触媒成分(Y−2)を投入した後、水素化ジイソブチルアルミニウム1.5molを加え、撹拌しながら、固体触媒成分(Y−2)1g当たり4時間で3gのポリエチレンを生成できる量のエチレンを供給し、予備重合を行った。重合温度を40℃に保った。重合終了後、撹拌を停止して、上澄み液をデカンテーションで取り除き、n−ヘキサン45リットルを用いて洗浄を4回行い、得られた担持触媒をn−ヘキサン27リットルにて触媒懸濁液として、固体触媒成分(Z−1)を得た。
【0092】
[比較例2]
内容積340Lの攪拌機付き第1重合槽に、ヘキサンを38L/h、固体触媒成分(Z−1)をジルコニウム原子に換算して0.30mmol/h、エチレンを13.6kg/h、水素を10.5NL/h、トリイソブチルアルミニウムを8.1mmol/h、L−71を0.46g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度75℃、反応圧0.29(MPaG)、平均滞留時間2.7hrという条件で重合を行った。
【0093】
第1重合槽から連続的に抜出された重合内容物は、内圧0.30MPaG、60℃に保たれたフラッシュドラムにおいて未反応エチレンおよび水素の除去を行った。
内容積200Lの攪拌機付き第2重合槽へ前記重合内容物を供給し、さらにヘキサンを26L/h、エチレンを9.0kg/h、水素を8.7NL/h、トリイソブチルアルミニウムを6.2mmol/h、L−71を0.24g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度75℃、反応圧0.45(MPaG)、平均滞留時間1.6hrという条件で重合を行った。
【0094】
第2重合槽から抜き出した重合内容物にメタノールを2L/で供給して重合用触媒を失活させた。前記重合内容物中のヘキサン及び未反応モノマーを溶媒分離装置で除去した後、前記重合内容物を乾燥してエチレン系重合体Y2を得た。
【0095】
第1重合槽で得られた重合体は、密度が957kg/m3、21.6kg荷重におけるMFRが27.0g/10minであった。第1重合槽で重合される成分が60重量%、第2重合槽で重合される成分が40重量%になるよう運転条件を調整した。エチレン系重合体Y2は、密度が957kg/m3、2.16kg荷重におけるMFRが27.6g/10minであった。
前記物性の測定方法によって測定されたエチレン系重合体Y2の物性を表1に示した。
【0096】
[比較例3]
内容積340Lの攪拌機付き第1重合槽に、ヘキサンを38L/h、固体触媒成分(Z−1)をジルコニウム原子に換算して0.30mmol/h、エチレンを13.6kg/h、水素を22.6NL/h、1−ブテンを250g/h、トリイソブチルアルミニウムを8.1mmol/h、L−71を0.46g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度75℃、反応圧0.29(MPaG)、平均滞留時間2.7hrという条件で重合を行った。
【0097】
第1重合槽から連続的に抜出された重合内容物は、内圧0.30MPaG、60℃に保たれたフラッシュドラムにおいて未反応エチレンおよび水素の除去を行った。
その後、内容積200Lの攪拌機付き第2重合槽へ前記重合内容物を供給し、さらにヘキサンを26L/h、エチレンを9.0kg/h、水素を22.7NL/h、1-ブテンを250g/h、トリイソブチルアルミニウムを6.2mmol/h、L−71を0.24g/hで連続的に供給し、かつ重合槽内の液レベルが一定になるように重合内容物を連続的に抜出しながら、重合温度75℃、反応圧0.45(MPaG)、平均滞留時間1.6hrという条件で重合を行った。
【0098】
第2重合槽から抜き出した重合内容物にメタノールを2L/hで供給して重合用触媒を失活させた。前記重合内容物中のヘキサン及び未反応モノマーを溶媒分離装置で除去した後、前記重合内容物を乾燥してエチレン系重合体Y3を得た。
【0099】
第1重合槽で得られた重合体は、密度が954kg/m3、[η]が0.77dl/g、21.6kg荷重におけるMFRが95.4g/10minであった。第1重合槽で重合される成分が60重量%、第2重合槽で重合される成分が40重量%になるよう運転条件を調整した。エチレン系重合体Y3は、密度が955kg/m3、[η]が0.74dl/g、2.16kg荷重におけるMFRが117g/10minであった。
前記物性の測定方法によって測定されたエチレン系重合体Y3の物性を表1に示した。
【0100】
[実施例2]
高分子量体であるエチレン系重合体Y1と低分子量体であるエチレン系重合体Y3とを、エチレン系重合体Y1 7に対しエチレン系重合体Y3 3の割合でブレンドしてエチレン系重合体X2を得た。
【0101】
前記物性の測定方法によって測定されたエチレン系重合体X2の物性を表1に示した。
【0102】
【表1】
比較例1のエチレン系重合体は、対応力環境破壊性(ESCR)が良好だが、流動性を示すスパイラルフロー長が小さいので射出成型に向かない。また他のエチレン系重合体よりも極限粘度が大きいことが明らかである。
【0103】
比較例2および3のエチレン系重合体は、スパイラルフロー長が良好で分子量も小さいが、対応力環境破壊性(ESCR)が1hrしかないので、本発明の容器の用途には向かない。
【0104】
実施例1および2のエチレン系重合体は、分子量とスパイラルフロー長とのバランスが良く、ESCRも良好であるので、本発明の容器に好適に用いられ得る。