特許第6661410号(P6661410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6661410コーティング剤、コーティング剤の製造方法及びコーティング膜の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661410
(24)【登録日】2020年2月14日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】コーティング剤、コーティング剤の製造方法及びコーティング膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20200227BHJP
   C09D 7/60 20180101ALI20200227BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20200227BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   C09D183/04
   C09D7/60
   C23C26/00 B
   B05D7/24 302Y
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-39184(P2016-39184)
(22)【出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-155123(P2017-155123A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正太郎
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−081319(JP,A)
【文献】 特表2004−521988(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/087073(WO,A1)
【文献】 特開平4−175388(JP,A)
【文献】 特開2015−81318(JP,A)
【文献】 特開昭46−7887(JP,A)
【文献】 特開2015−81319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
B05D 1/00− 7/26
C23C 24/00− 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾されたシリカ粒子と、
フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合物と、
フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合物と、
コーティング膜の硬化を促進する硬化促進剤と、
からなるポリシロキサンを含むコーティング剤。
【請求項2】
シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾されたシリカ粒子を得る工程と、
フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程と、
フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程と、を有し、
前記各工程で得られた成分を反応させて得られたポリシロキサンに硬化促進剤を添加する工程を含むコーティング剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のコーティング剤の有機溶媒を除去し、基材上に膜状に配した後に、ポリシロキサンの脱水縮合反応を行って硬化膜を形成することを特徴とするコーティング膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金上にコーティング膜を形成することができるコーティング剤、コーティング剤の製造方法及びコーティング膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は建築や自動車をはじめ各種の産業用や家庭用電気機器、機械装置など広範な分野で使用されている。しかし、厳しい温度や湿度にさらされると腐食を発生するので、アルマイト加工後電着塗装などを実施し、その表面を保護する必要がある。この表面保護としては、電着塗装の他にシランカップリング剤の加水分解縮合を利用したコーティングが施されることが知られており、そのコーティング膜には用いられる環境に応じた密着性、耐熱性、耐水性、耐食性などに優れたコーティング剤が求められている。
【0003】
例えば、これまでに、側鎖官能基にアミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基をそれぞれ含有するシランカップリング剤によるコーティング膜(特許文献1)、硫黄を含むシランカップリング剤によるコーティング膜(特許文献2)、メチル基、エチル基、フェニル基、アミノ基、エポキシ基などをそれぞれ側鎖に有するシランカップリング剤混合物の共加水分解縮合生成物に平板状のマイカ粒子を添加したコーティング膜(特許文献3)など、数多く提案されている。
【0004】
しかし、その多くはアルミニウムまたはその合金表面にアルマイト酸化被膜または空気中加熱酸化被膜の形成など金属表面の化学処理工程の実施を前提としたコーティング膜の耐食性などに関する有効性を提案したものであった。特に、温度と湿度の高い厳しい環境下でも十分な強度を発揮できるアルミニウム合金の高耐食性のコーティング剤、コーティング剤の製造方法及びコーティング膜の形成方法については、提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−371381号公報
【特許文献2】特開2013−221210号公報
【特許文献3】特開2009−262402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、温度と湿度の高い厳しい環境下でも十分な強度を発揮できるアルミニウム合金の高耐食性のコーティング剤、コーティング剤の製造方法及びコーティング膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコーティング剤は、シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾されたシリカ粒子と、フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合物と、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合物と、からなるポリシロキサンを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のコーティング剤の製造方法は、シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾されたシリカ粒子を得る工程と、フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程と、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程と、を有し、前記各工程で得られた成分を反応させて得られたポリシロキサンに硬化促進剤を添加する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のコーティング膜は、上記コーティング剤の有機溶媒を除去し、基材上に膜状に配した後に、ポリシロキサンの脱水縮合反応を行って硬化膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング剤、コーティング剤の製造方法及びコーティング膜の形成方法は、アルミニウム合金との密着性が良好で高い耐食性のコーティング膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るコーティング剤、コーティング剤の製造方法及びコーティング膜の形成方法の実施の形態を詳細に説明する。
本実施形態に係るコーティング剤は、シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾したシリカ微粒子、フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合物、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合物、そして、これら3成分を反応させたブロック的ポリシロキサンと硬化促進剤とを含んでいる。
【0012】
即ち、シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾されたシリカ粒子と、フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合物と、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合物と、からなるポリシロキサンを含む。
【0013】
(シリカ粒子)
本実施形態において、表面処理に供するシリカ粒子は、所定のナノサイズの平均粒子径、具体的には1〜50nm、好適には1〜35nm、最も好ましくは5〜25nmの平均粒子径を有するものであり、湿式法により得られたものであればよい。
【0014】
尚、粒径が上記範囲よりも小さいものは製造が困難な上、シランカップリング剤による表面処理も難しく、また、上記範囲よりも大きな粒子は可視光の散乱が大きくなるため、例えば、透明樹脂に配合したときに透明性を低下させてしまう。
【0015】
湿式法には、加水分解法、中和法、イオン交換法、沈殿法など多くの方法が提案、実施されているが、溶媒中に分散した微細な粒子を容易に、しかも比較的粒径の揃った形態で得ることができるという観点から、シラン化合物を加水分解、縮合させるゾルゲル法を用いることが最も好適である。
【0016】
(表面修飾)
本実施形態においては、シランカップリング剤と、前述した微細なシリカ粒子が分散した分散液とを混合することにより、該粒子の表面修飾が行われる。上記混合は、一般に、シリカ粒子が分散した分散液にシランカップリング剤を滴下して行なう方法が推奨される。
【0017】
尚、表面修飾に際して用いるシランカップリング剤の量は、この微細なシリカ粒子をシランカップリング剤により均一に被覆するための理論使用量(g)を上限とし、下記式によって求めることができる。
【0018】
[カップリング剤の理論使用量]=A・B/C
式中、Aは、表面修飾すべきシリカ粒子の重量(g)であり、
Bは、上記シリカ粒子の比表面積(m2/g)であり、
Cは、カップリング剤の最小被覆面積(m2/g)である。
【0019】
また、上記のカップリング剤の最小被覆面積C(m2/g)は下記式によって求められる。
最小被覆面積C
=(6.02×1023×13×10-20)/(シランカップリング剤の分子量)
(表面修飾シリカ粒子)
本実施形態の表面修飾シリカ粒子は、前述したシリカ粒子と同様、極めて微細なナノオーダーの粒径を有しており、電子顕微鏡で測定して平均粒子径が1〜50nm、好ましくは1〜35nmの範囲、最も好ましくは5〜25nmの範囲にあり、凝集しておらず、前述したシランカップリング剤によって個々の粒子が被覆されている。
【0020】
また、本実施形態の表面修飾シリカ粒子は疎水性を示し、しかもナノオーダーの微細な粒径を有しており、凝集していないことから、重量比が1:1のトルエンとn−ヘキサンの混合溶媒に該粒子を2質量%含む分散液では、その可視光透過率が80%以上、特に85%以上、最も好ましくは90%以上となっており、該分散液は高い透明性を有している。
【0021】
即ち、本実施形態の表面修飾シリカ粒子分散体中のシリカ粒子は、その疎水性のために、もはや水には分散しないが、イソプロパノールなどの低分子量のアルコールに良く分散し透明な状態を維持する一方、n−ヘキサンのような疎水性の著しく高い飽和炭化水素類に対しては、完全に相溶できず、その分散液が白濁する場合がある。粒度分布計のデータなどから、表面修飾シリカ粒子の疎水性の度合いが不十分な場合に起こる上記白濁の原因は、粒子同士が凝集し、粒径が大きくなったためであるが、本実施形態では、上記のように疎水性有機溶媒であるトルエンとn−ヘキサンとの1:1(重量比)混合溶媒中で高い可視光透過率を示していることから、該シリカ粒子は疎水性を示すと同時に粒子同士の凝集が効果的に抑制され、所謂単分散の状態で存在しているものと言える。
【0022】
(シランカップリング剤の加水分解縮合物)
本実施形態のコーティング剤の成分であるフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合物とフェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合物はともに、それぞれのシランカップリング剤を有機溶媒に溶解し、水および酸触媒を加えて加水分解縮合反応を行うことにより得られる。
【0023】
上記有機溶媒としては、上記原料シランカップリング剤、水およびその加水分解縮合体を溶解することができるものを用いることが好ましい。上記有機溶媒として、アルコール、ケトン等が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプルピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン等が好ましく用いられ得る。また、上記有機溶媒でない有機溶媒を併用して、溶解性を制御することができる。上記有機溶媒でない有機溶媒としては、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン等が挙げられる。なお、上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gH2O以上、より好ましくは20g/100gH2O以上、さらに好ましくは100g/100gH2O以上である。
【0024】
上記有機溶媒の量は、原料シランカップリング剤の質量に対して、0.5〜5倍の量であることが好ましい。
上記原料シランカップリング剤の加水分解縮合反応に用いられる水の量は、原料シランカップリング剤が有する総メトキシシリル基のモル量の半分〜同量とすることが好ましい。
【0025】
上記原料シランカップリング剤の加水分解縮合反応には、酸触媒が用いられる。酸触媒は、触媒作用が適度であるので、生成したポリヒドロキシシロキサンの縮合が適切な度合いで進行するためである。酸触媒としては、メトキシシリル基の加水分解反応に対して触媒作用を有するプロトン酸類やルイス酸類であれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、プロトン酸として、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や酢酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が、ルイス酸として、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物等が挙げられる。
【0026】
上記酸触媒の使用量としては、原料シランカップリング剤が有するアルコキシシリル基の加水分解反応に対して触媒作用を発現する量以上であればよい。具体的には、上記原料シランカップリング剤の質量に対して、0.1ppm〜10%であることが好ましい。より好ましい上限値は5%である。
【0027】
上記原料シランカップリング剤の加水分解縮合反応の温度は、室温〜約150℃の範囲で行うことが好ましい。室温で加水分解反応を先に進めた後に加温して縮合反応を進めたり、最初から加熱して加水分解反応と縮合反応とを同時に進めたりすることが可能である。また、必要に応じて反応を進みにくくするため、加水分解および縮合反応で生じたアルコールや水を系外に除去することも可能である。
【0028】
(硬化促進剤)
本実施形態のもう一つの成分である硬化促進剤は、コーティング膜の硬化を促進するために用いられる。シラノール基間及びシラノール基とアルコキシシリル基間の縮合反応促進が期待される化合物としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド及びビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイドなどが挙げられる。
【0029】
(コーティング剤)
本実施形態のコーティング剤は、フェニルトリメトキシシランで表面修飾したシリカ粒子に、フェニルトリメトキシシランにより得られたシロキサンオリゴマーを反応させ、さらに、その反応物にフェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランにより得られたシロキサンオリゴマーを反応させて得られたブロック的ポリシロキサンに硬化促進剤を添加したものである。その硬化促進剤の含有量は、上記ポリシロキサンの固形分に対して、0.1以上10%以下であることが好ましい。0.1%未満であると、硬化が不十分となり、期待されるコーティング膜の物性が得られないおそれがある。また、10%を超えてもそれに見合うだけのさらなる効果が期待できない。
【0030】
本実施形態のコーティング剤中におけるポリシロキサンの固形分は、1質量%以上であることが好ましい。1質量%未満では、得られるコーティング膜の厚みが不十分となる場合がある。
【0031】
(コーティング剤の製造方法)
本実施形態のコーティング剤の製造方法は、シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾したシリカ微粒子を得る工程、フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程、そして、各工程で得られた成分を反応させ重合物を得、その得られたポリシロキサンに硬化促進剤を添加する工程を含んでいる。詳細については、すでに説明した内容がそれぞれ適用される。
【0032】
即ち、シリカ粒子表面をフェニルトリメトキシシランで修飾されたシリカ粒子を得る工程と、フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程と、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランとの共加水分解縮合反応によりそのシロキサンオリゴマーを得る工程と、を有し、前記各工程で得られた成分を反応させて得られたポリシロキサンに硬化促進剤を添加する工程を含む。
【0033】
この製造方法によって得られたコーティング剤は、シラノール基及びメトキシシリル基が残存しているので、アルミニウム合金表面との優れた密着性および硬化性を有し、さらに、ポリシロキサン側鎖のフェニル基に起因する耐透水性が期待できる。
【0034】
(コーティング膜)
コーティング膜の形成は、室温で30分放置して溶媒を除去したコーティング剤をアルミニウム合金上に乾燥膜厚0.5〜5μmになるように塗装を行い、250℃で6時間加熱することでポリシロキサンの脱水縮合反応を行い、硬化膜を形成する。
【0035】
即ち、上記コーティング剤の有機溶媒を除去し、基材上に膜状に配した後に、ポリシロキサンの脱水縮合反応を行って硬化膜を形成する。
塗装には、スピンコーター、スリットコーター、スプレー、ディップコーター、バーコーター等が使用される。
【0036】
これにより、アルミニウム合金との密着性が良好で耐食性のコーティング膜を得ることができる。これは、シリカ微粒子を含有させて密度と機械的強度を高めたフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合成分と、ともに耐透水性の高いジフェニルジメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとの共加水分解縮合成分をブロック的に配したコーティング剤の構造によるものであると考えられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。尚、以下の例において、各種の測定は以下の方法により行った。
【0038】
(粒径の測定)
平均粒子径は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡の撮影像を用いて100個以上の粒子のデータを解析することにより求めた。
【0039】
(可視光透過率)
表面処理したシリカ系粒子を、質量比1:1のトルエンとn−ヘキサンの混合溶媒にSiO2としての濃度が2質量%になるように分散した。該分散液を光路長1cmの石英セルに入れて分光光度計にセットし、波長593nmの透過率を測定して、可視光透過率とした。なお、光路長1cmの空の石英セルを参照セルとして用いた。
【0040】
製造例1 フェニルトリメトキシシランで表面修飾したシリカ微粒子
ゾルゲル法により製造されたシリカ粒子として、シリカ分散液(SiO2濃度30質量%、平均粒径12nm、粒子密度2.0g/cm3、最大含水量3質量%、イソプロパノール溶媒)を用いた。そのシリカ粒子分散液40g(SiO2として12g)をトリアルコキシシリル系のシランカップリング剤、フェニルトリメトキシシランにより均一に被覆するための理論使用量は、0.0383 molと計算される。
【0041】
上記シリカ分散液40gにイソプロパノール80gとトルエン40gを添加し、撹拌下、フェニルトリメトキシシラン7.59g(0.0383mol)を滴下し、24時間以上加熱還流させた。その後、エバポレーターで溶媒を除去、濃縮し、トルエン分散液40gを得た(SiO2として30質量%)。
【0042】
次に、得られたトルエン分散液、トルエン、n−ヘキサンを用いてトルエンとn−ヘキサンの質量比が1:1、且つ、SiO2濃度が2%になるようにして、3つの溶液を混合し、表面修飾シリカ微粒子分散液を準備した。
【0043】
上記分散液の可視光透過率を測定したところ、96%であった。また、透過型電子顕微鏡で分散液中の粒子を観察したところ、粗粒は観察されず、粒子形状は球状で、平均粒径は12nm、粒径の変動係数は10%であった。特に、平均粒径に関し、表面修飾前のシリカ微粒子と同等であった。
【0044】
製造例2 フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体
フェニルトリメトキシシラン59.5gをイソプロピルアルコール20gとトルエン40gの混合液に溶解した。ここに、メトキシシリル基のモル数と同じモル数となる水16.2gと酸触媒として塩酸0.1gとを添加して、40℃で1時間攪拌し、さらに75℃で1時間攪拌を行った後、濃縮、真空乾燥してフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体を得た。これを50質量%のトルエン溶液とした。
【0045】
製造例3 フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランの共加水分解縮合体
フェニルトリメトキシシラン69.4gとジフェニルジメトキシシラン36.7gをイソプロピルアルコール33gとトルエン67gの混合液に溶解した。ここに、メトキシシリル基のモル数と同じモル数となる水24.3gと酸触媒として塩酸0.15gとを添加して、40℃で1時間攪拌し、さらに75℃で1時間攪拌を行った後、濃縮、真空乾燥してフェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランの共加水分解縮合体を得た。これを25質量%のトルエン溶液とした。
【0046】
実施例1 コーティング剤(A)
フェニルトリメトキシシランで表面修飾したシリカ微粒子のトルエン分散液3.33 g(SiO2として1.00 g)、フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体の50質量%トルエン溶液16.00g、テトラヒドロフラン32g、0.075規定塩酸1.00gを順に添加し、65℃で2時間加熱、反応させた。その後、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランの共加水分解縮合体の25質量%のトルエン溶液48.00g、テトラヒドロフラン25g、0.075規定塩酸1.00gを順に添加し、さらに、65℃で2時間加熱反応させた。減圧濃縮後、真空乾燥して高粘度のポリシロキサン(20.79g)を得た。
得られたポリシロキサン1.00gをトルエン19.00gに溶解し、ジブチルスズジラウレート0.04g添加してコーティング剤(A)を得た。
【0047】
実施例2 コーティング剤(B)
実施例1において、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランの共加水分解縮合体の25質量%のトルエン溶液48.00gを24.00gに変更すること以外は同様にして、コーティング剤(B)を得た。
【0048】
実施例3 コーティング剤(C)
実施例1において、フェニルトリメトキシシランで表面修飾したシリカ微粒子のトルエン分散液3.33g(SiO2として1.00g)を6.67gに変更すること以外は同様にして、コーティング剤(C)を得た。
【0049】
比較例1 比較用コーティング剤(D)
製造例1で得られたフェニルトリメトキシシランで表面修飾したシリカ微粒子のトルエン分散液3.33g(SiO2として1.00g)、製造例2で得られたフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体の50質量%トルエン溶液16.00g、テトラヒドロフラン32g、0.075規定塩酸1.00gを順に添加し、65℃で2時間加熱し反応させた。この反応液を減圧濃縮後、真空乾燥して粘度の高いポリシロキサン(8.88g)を得た。得られたポリシロキサン1.00gをトルエン19.00gに溶解し、ジブチルスズジラウレート0.04g添加してコーティング剤(D)を得た。
【0050】
比較例2 比較用コーティング剤(E)
製造例2で得られたフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体の50質量%のトルエン溶液2.00gにトルエン18.00gを加え、さらに、ジブチルスズジラウレート0.04g添加して比較用コーティング剤(E)を得た。
【0051】
比較例3 比較用コーティング剤(F)
製造例3で得られたフェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランの共加水分解縮合体の25質量%のトルエン溶液4.00gにトルエン6.00gと酢酸ブチル10.00gを加え、さらに、ジブチルスズジラウレート0.04g添加して比較用コーティング剤を得た。
【0052】
以上のコーティング剤(A)〜(F)を使用し、アルミニウム表面コーティング膜試料を作製し、評価試験を行った。試験項目、試験方法、及び評価基準を次に示す。また、試験結果を表1と表2に示す。
【0053】
アルミニウム片コーティング膜試験片の作製:サンディング、トルエン脱脂した厚さ5mmのアルミニウム板材(6063系(JIS))の片面に実施例1、2、3及び比較例1、2、3で得られたコーティング剤(A)〜(F)をおよそ1μmになるよう塗布、室温下1時間放置後、80℃で15分前乾燥し、250℃で6時間加熱することにより硬化し、試験片(A)〜(F)を作製した。
【0054】
耐水性:試験片を電導度が1.0μs/cmのイオン交換水(90℃)に48時間浸漬し、アルミニウム表面に腐食が発生せず、コーティング膜の剥離が生じない場合を良好とし、腐食または剥離が発生する場合を不良とする。
【0055】
耐塩水性:試験片を5%塩水(60℃)に240時間浸漬し、アルミニウム表面に腐食が発生せず、コーティング膜の剥離が生じない場合を良好とし、腐食または剥離が発生する場合を不良とする。
【0056】
耐水性塗料性:試験片を水性塗料(60℃)に240時間浸漬し、アルミニウム表面に腐食が発生せず、コーティング膜の剥離が生じない場合を良好とし、腐食または剥離が発生する場合を不良とする。
【0057】
耐油性塗料性:試験片を油性塗料(60℃)に240時間浸漬し、アルミニウム表面に腐食が発生せず、コーティング膜の剥離が生じない場合を良好とし、腐食または剥離が発生する場合を不良とする。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
本発明の実施例1、2、3のコーティング剤A〜C、すなわち、フェニルトリメトキシシランで表面修飾したシリカ微粒子と、フェニルトリメトキシシランからなるシロキサンオリゴマーを重合反応させた後、得られた重合物と、さらに、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランからなるシロキサンオリゴマーを重合反応させて得られるブロック的ポリシロキサンに硬化促進剤を添加したコーティング剤を用いたアルミニウム板表面コーティング膜試験片では、耐水性、耐塩水性、耐水性塗料性、耐油性塗料性試験ともに膜の剥離及びアルミニウム基材の腐食は全く生じなかった。
【0061】
これに対して、比較用コーティング剤D〜Fを用いたアルミニウム板表面コーティング膜試験片に、耐水性、耐塩水性、および、耐水性塗料性試験で部分的に剥離が生じ、それに伴いアルミニウム板表面に腐食の発生が観察された。しかしながら、耐油性塗料性試験では腐食や剥離も発生せず良好であった。
【0062】
これは、フェニルトリメトキシシランで表面修飾したシリカ微粒子とフェニルトリメトキシシランからなるシロキサンオリゴマーを重合反応させたポリシロキサン組成物のコーティング膜(比較例1)は、アルミニウム板表面との接着性は十分であるのだが、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランからなるシロキサンオリゴマーを重合させていないので、その耐透水性が不十分で、コーティング膜の表面から水が浸透しているためと考えられる。また、フェニルトリメトキシシランからなるシロキサンオリゴマーを重合反応させたシロキサン組成物のコーティング膜(比較例2)の場合も同様である。一方、フェニルトリメトキシシランとジフェニルジメトキシシランからなるシロキサン組成物のコーティング膜(比較例3)は、耐透水性は十分であるものの側鎖のジフェニル基の立体障害に起因したアルミニウム板表面との接着性不足が発生し、剥離が生じたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のコーティング剤の硬化膜は、温度と湿度の厳しい環境試験(耐熱水性、耐塩水性)で良好な性能を発揮する。また、水性および油性塗料に対しても耐腐食性を発揮する。すなわち、高温と高湿環境による腐食のために使用分野に大きな制限があったアルミニウム合金に、特に大きな設備を用いず、また、煩雑な操作も必要とせず、本発明のコーティング剤を使用して製造したアルミニウム合金コーティング膜複合体は、従来のアルミニウム合金の軽量という特性のみを活かした建築や自動車等の分野だけでなく、水がその表面に接触する環境下でも好適に用いることができ、その使用分野を大幅に拡大できると期待される。