(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6は、従来の電動機駆動装置30の構成を示す図である。
【0006】
図6に示す電動機駆動装置30は、インバータ1と、出力電圧検出回路31と、電流検出器32と、電流検出回路33と、減算器34と、電流制御演算器35と、加算器36と、PWM(Pulse Width Modulation)回路37と、電圧誤差演算器38と、デッドタイム補償量記憶部39と、デッドタイム補償量演算部40とを備える。
【0007】
インバータ1は、直流電源および複数のスイッチング素子を備え、複数のスイッチング素子のスイッチングにより直流電源から出力された直流電圧(直流電源電圧)を交流電圧(三相交流電圧)に変換して電動機2に出力する電圧型インバータである。より詳細には、インバータ1は、2つのスイッチング素子が直列に接続された直列体がU相、V相、W相毎に設けられ、各直列体が直流電源に並列に接続されている。各直列体を構成するスイッチング素子のオン、オフ比を制御(PWM制御)することで、所望の電圧、周波数の交流電圧を出力する。なお、詳細は後述するが、各相を構成する2つのスイッチング素子を共にオフにする期間があり、その期間がデッドタイムと称される。
【0008】
出力電圧検出回路31は、インバータ1から電動機2への出力電圧の電圧値を検出し、検出結果(出力電圧検出値)を電圧誤差演算器38に出力する。電流検出器32および電流検出回路33は、インバータ1から電動機2に流れる電流(出力電流)の電流値を検出し、検出結果(出力電流検出値)を減算器34、デッドタイム補償量記憶部39およびデッドタイム補償量演算部40に出力する。
【0009】
インバータ1の出力電流を指示する電流指令値i
*が減算器34およびデッドタイム補償量演算部40に入力される。減算器34は、電流指令値i
*と電流検出回路33による出力電流検出値との誤差(電流誤差)を算出し、算出した電流誤差を電流制御演算器35に出力する。電流制御演算器35は、減算器34から出力された電流誤差に応じて、インバータ1の出力電圧を指示する電圧指令を生成し、加算器36に出力する。
【0010】
加算器36は、電流制御演算器35から出力された電圧指令と、後述するデッドタイム補償量演算部40から出力された、デッドタイムによる電圧誤差を補償するためのデッドタイム補償量とを加算して補正電圧指令を生成し、PWM回路37および電圧誤差演算器38に出力する。
【0011】
PWM回路37は、加算器36から出力された補正電圧指令に応じて、インバータ1のスイッチング素子のオン、オフを制御する。電圧誤差演算器38は、加算器36から出力された補正電圧指令と、出力電圧検出回路31による出力電圧検出値との誤差(電圧誤差)を算出し、算出した電圧誤差をデッドタイム補償量記憶部39に出力する。
【0012】
デッドタイム補償量記憶部39は、インバータ1の出力電流に応じたデッドタイム補償量のデータを記憶しており、電流検出回路33の出力電流検出値と電圧誤差演算器38から出力された電圧誤差とに基づき、そのデータを補正する。デッドタイム補償量演算器40は、電流指令値i
*または電流検出回路33による出力電流検出値に応じて、デッドタイム補償量記憶部39に記憶されているデータに基づきデッドタイム補償量を算出し、算出したデッドタイム補償量を加算器36に出力する。
【0013】
図7は、インバータ1のU相電圧を出力するための回路構成を示す図である。
図7に示すように、スイッチング素子S11,S14が直列に接続され、スイッチング素子S11,S14の直列体が直流電源(不図示)に接続される。スイッチング素子S11,S14の接続点の電圧E
uがU相電圧(U相出力電圧)として電動機2に出力される。スイッチング素子S11,S14はそれぞれ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)により構成され、各IGBTには還流ダイオードが逆並列接続されている。なお、IGBTは構造上、ドレインとソースとの間に微小なコンデンサで表される出力容量C
oesを有している。
【0014】
U相を構成する上側のスイッチング素子S11と下側のスイッチング素子S14とが同時にオンになると、直流電源は短絡状態となり、過電流が流れて回路が破損するおそれがある。この現象を防止するために、スイッチング素子S11,S14のオン、オフを切り替えるタイミングで、スイッチング素子S11,S14を共にオフにする期間が設けられる。この期間が一般的にデッドタイム(デッドタイム期間)と称される。
【0015】
デッドタイム期間におけるインバータ1の出力電圧は、出力電流の極性や大きさによって変化するため、電圧指令とインバータ1の出力電圧とにも電圧誤差が生じる。以下では、インバータ1から電動機2に電流が流れる向きを正の方向として、デッドタイムにより電圧誤差が生じる理由について説明する。
【0016】
図8は、インバータ1から出力される出力電圧(U相電圧)について説明するための図である。
【0017】
図8において、信号Suは、U相の補正電圧指令値を三角波比較して得られたPWM信号であり、あるタイミングで論理レベルがLowからHighに遷移し(立上り)、その遷移から時間t
0が経過した後、論理レベルがHighからLowに遷移する(立下がる)。信号Supは、スイッチング素子S11のゲート信号であり、信号Suの立上りからデットタイムt
dだけ遅延して立上り、信号Suの立下りと同じタイミングで立下がる。信号Sunは、スイッチング素子S14のゲート信号であり、信号Suの立上りと同じタイミングで立下り、信号Suの立下りからデッドタイムt
dだけ遅延して立上がる。
【0018】
なお、スイッチング素子S11,S14はそれぞれ、信号Sup,Sunの立上りから時間t
ONだけ遅延してオンとなり、信号Sup,Sunの立下りから時間t
OFFだけ遅延してオフとなる。したがって、これらの遅延分だけ、U相出力電圧E
uは、信号Sup,Sunの論理レベルの遷移から遅延して変化する。
【0019】
スイッチング素子S11がオン、スイッチング素子S14がオフのとき、スイッチング素子S11の出力容量C
oes1は放電され、スイッチング素子S14の出力容量C
oes2には直流電源電圧相当の電圧が充電される。この状態でスイッチング素子S11をオフにすると、スイッチング素子S11,S14が共にオフとなりデッドタイム状態となる。
【0020】
このとき、U相電流i
uが正の方向であれば、出力容量C
oes2に充電された電圧が放電され、U相出力電圧E
uは0Vとなる。U相電流i
uが正の方向に十分に大きければ(i
u>>0)、出力容量C
oes2の放電は瞬時に行われる。U相電流i
uが小さければ(i
u>0,i
u≒0)、放電量も少ないため、U相電流i
uが0に近づくにつれて、デッドタイム期間のU相出力電圧E
uは直流電源電圧に近づく。U相電流が負の方向であれば、出力容量C
oes2は充電されたままとなり、U相出力電圧E
uは直流電源電圧相当となる。
【0021】
一方、スイッチング素子S11がオフ、スイッチング素子S14がオンのとき、出力容量C
oes2は放電され、出力容量C
oes1には直流電源電圧相当の電圧が充電される。この状態でスイッチング素子S14をオフにすると、スイッチング素子S11,S14が共にオフとなりデッドタイム状態となる。
【0022】
このとき、U相電流i
uが正の方向であれば、出力容量C
oes1は充電されたままとなり、U相出力電圧E
uは0Vとなる。U相電流i
uが負の方向であれば、出力容量C
oes1に充電された電圧が放電され、出力容量C
oes2に電圧が充電されるため、U相出力電圧E
uは直流電源電圧相当となる。U相電流iuが負の方向に十分に大きければ(i
u<<0)、出力容量C
oes1の放電は瞬時に行われる。U相電流i
uが小さければ(i
u<0,i
u≒0)、充電量も小さいため、U相電流が0に近づくにつれ、デッドタイム期間のU相出力電圧E
uも0Vに近づく。
【0023】
つまり、デッドタイム期間においては、U相電流i
uが正の方向の場合、U相出力電圧E
uの平均は0Vであるが、U相電流i
uが0に近づくにつれて、U相出力電圧E
uの平均は直流電源電圧の半分に近づき、U相電流i
uが負の方向になると、U相出力電圧E
uの平均は直流電源電圧となる。このように、デッドタイム期間の出力電圧は出力電流によって変化するため、電圧指令に対して電圧誤差が発生する。
【0024】
電動機駆動装置30においては、出力電圧検出回路31によりインバータ1の出力電圧を検出し、補正電圧指令値と出力電圧検出値との差分(電圧誤差)を算出し、出力電流に対応するデッドタイム補償量として、デッドタイム補償量記憶部39に記憶される。
【0025】
図9は、デッドタイム補償量記憶部39が記憶する出力電流とデッドタイム補償量との関係の一例を示す図である。
図9に示すように、デッドタイム補償量記憶部39は、ある相の電流i
x(
x=u,v,w)を横軸で、電流i
xに対応するデッドタイム補償量E
d(i
x)を縦軸で表した初期の値を、出力電流検出値と電圧誤差とに応じて補正しながら記憶する。そして、電流指令値i
*または出力電流検出値に応じて、デッドタイム補償量記憶部39に記憶されているデータに基づきデッドタイム補償量を算出することで、出力電流に応じた電圧誤差を補償することができる。
【0026】
出力電流とデッドタイム補償量との関係は、スイッチング素子のばらつきによって異なり、スイッチング素子の発熱によっても変化する。このようなデッドタイム補償量のばらつきや変化に対しても、出力電流とデッドタイム補償量との関係を補正することで、インバータ1の出力電流を高精度に制御することができる。
【0027】
電動機駆動装置30においては、出力電圧の検出に出力電圧検出回路を用いている。上述したように、インバータの電流制御や過電流保護のために電流センサが設けられるのは一般的であるが、電圧検出回路は設けられないことが多い。また、インバータの出力電圧は、制御系の回路の電源電圧と比べて高く、制御系の回路に出力電圧を取り込むには、絶縁距離を確保しなければならず、電圧検出回路は小型化しにくい。そのため、電圧検出回路を設けることは、装置の大型化や部品点数の増加といったコスト増を招いてしまう。
【0028】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、コスト増を抑制しつつ、高精度な電動機の駆動制御を行うことができる電動機駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決するため、本発明に係る電動機駆動装置は、電動機の駆動を制御する電動機駆動装置であって、複数のスイッチング素子を備え、前記複数のスイッチング素子のスイッチングにより直流電圧を交流電圧に変換して、前記電動機に出力する電力変換器と、前記電力変換器の出力電流と前記電動機の特性式とに基づき、前記電力変換器の出力電圧を推定する電圧推定器と、前記電力変換器の出力電圧を指示する電圧指令と前記電圧推定器により推定された前記電力変換器の出力電圧との電圧誤差を算出する誤差演算器と、前記電力変換器の出力電流と前記電圧誤差を補償するためのデッドタイム補償量との関係を記憶し、前記誤差演算器により演算された電圧誤差に基づき、前記電力変換器の出力電流と前記デッドタイム補償量との関係を補正するとともに、前記関係に基づき、前記電力変換器の出力電流に対応するデッドタイム補償量を出力するデッドタイム補償器と、前記電圧指令を前記デッドタイム補償器から出力されたデッドタイム補償量で補正した補正電圧指令を出力する指令補償器と、前記指令補償器から出力された補正電圧指令に基づき前記複数のスイッチング素子のスイッチングを制御する制御信号を生成する生成器と、を備え
、前記デッドタイム補償器は、複数の積分器と、前記電力変換器の出力電流に応じて前記複数の積分器のうち、いずれかの積分器を選択し、前記誤差演算器により算出された電圧誤差を前記選択した積分器に入力するセレクタと、を備え、前記積分器は、前記セレクタにより選択された場合には、前記誤差演算器から出力された電圧誤差を積算した積算値を前記デッドタイム補償量として出力し、前記セレクタにより選択されていない場合には、積算値を保持する。
【0031】
また、上記課題を解決するため、
電動機の駆動を制御する電動機駆動装置であって、複数のスイッチング素子を備え、前記複数のスイッチング素子のスイッチングにより直流電圧を交流電圧に変換して、前記電動機に出力する電力変換器と、前記電力変換器の出力電流と前記電動機の特性式とに基づき、前記電力変換器の出力電圧を推定する電圧推定器と、前記電力変換器の出力電圧を指示する電圧指令と前記電圧推定器により推定された前記電力変換器の出力電圧との電圧誤差を算出する誤差演算器と、前記電力変換器の出力電流と前記電圧誤差を補償するためのデッドタイム補償量との関係を記憶し、前記誤差演算器により演算された電圧誤差に基づき、前記電力変換器の出力電流と前記デッドタイム補償量との関係を補正するとともに、前記関係に基づき、前記電力変換器の出力電流に対応するデッドタイム補償量を出力するデッドタイム補償器と、前記電圧指令を前記デッドタイム補償器から出力されたデッドタイム補償量で補正した補正電圧指令を出力する指令補償器と、前記指令補償器から出力された補正電圧指令に基づき前記複数のスイッチング素子のスイッチングを制御する制御信号を生成する生成器と、を備え、前記誤差演算器は、前記電圧誤差として、前記補正電圧指令と前記電圧推定器により推定された前記電力変換器の出力電圧との誤差を算出し、前記デッドタイム補償器は、複数の低域通過フィルタと、前記電力変換器の出力電流に応じて前記複数の低域通過フィルタのうち、いずれかの低域通過フィルタを選択し、前記誤差演算器により算出された電圧誤差を前記選択した低域通過フィルタに入力するセレクタと、を備え、前記低域通過フィルタは、前記セレクタにより選択された場合には、前記誤差演算器から出力された電圧誤差に対してフィルタ処理を行い、前記デッドタイム補償量として出力し、前記セレクタにより選択されていない場合には、前回の出力を保持す
る。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る電動機駆動装置によれば、コスト増を抑制しつつ、高精度な電動機の駆動制御を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電動機駆動装置10の構成の一例を示す図である。
【0036】
図1に示す電動機駆動装置10は、インバータ1(電力変換器)と、加算部11と、PWM生成器12(生成器)と、電流検出器13と、3相2相変換器14,16と、オブザーバ15(電圧推定器)と、第1の減算部17と、第2の減算部18(誤差演算器)と、ab軸デッドタイム補償器19(デッドタイム補償器)と、2相3相変換器21とを備える。
【0037】
インバータ1は、直流電圧を交流電圧に変換して、電動機2に供給する電圧型インバータであり、直流電源E1と、コンデンサC1と、スイッチング素子S11〜S16とを備える。
【0038】
スイッチング素子S11〜S16はそれぞれ、例えば、IGBTにより構成され、各IGBTには還流ダイオードが逆並列接続されている。スイッチング素子S11,S14は直列に接続され、スイッチング素子S12,S15は直列に接続され、スイッチング素子S13,S16は直列に接続されている。スイッチング素子S11,S14の直列体と、スイッチング素子S12,S15の直列体と、スイッチング素子S13,S16の直列体と、直流電源E1の出力を平滑化するコンデンサC1とが、直流電源E1に並列に接続されている。
【0039】
スイッチング素子S11,S14の接続点の電圧、スイッチング素子S12,S15の接続点の電圧、および、スイッチング素子S13,S16の接続点の電圧がそれぞれ、U相出力電圧、V相出力電圧、W相出力電圧として、電動機2に出力される。各直列体を構成するスイッチング素子のオン、オフ比を制御(PWM制御)することで、所望の大きさ,周波数の三相交流電圧を電動機2に供給することができる。
【0040】
加算部11は、3相のインバータ1の出力電圧を指示する電圧指令(U相電圧指令v
u、V相電圧指令v
v、W相電圧指令v
w)が入力され、入力された電圧指令と後述する2相3相変換器21から出力された3相のデッドタイム補償量(U相デッドタイム補償量E
du、V相デッドタイム補償量E
dv、W相デッドタイム補償量E
dw)とを加算して、3相の補正電圧指令(U相補正電圧指令v
uc、V相補正電圧指令v
vc、W相電圧指令v
wc)を生成する。
【0041】
具体的には、加算部11は、加算器11u,11v,11wを備える。加算器11uは、U相電圧指令v
uとU相デッドタイム補償量E
duとを加算して、U相補正電圧指令v
ucを生成する。加算器11vは、V相電圧指令v
vとV相デッドタイム補償量E
dvとを加算して、V相補正電圧指令v
vcを生成する。加算器11wは、W相電圧指令v
wとW相デッドタイム補償量E
dwとを加算して、W相補正電圧指令v
wcを生成する。
【0042】
なお、電圧指令(U相電圧指令v
u、V相電圧指令v
v、W相電圧指令v
w)は、例えば、インバータ1の出力電流が電流指令に追従するように電流フィードバック制御によって演算されたものであり、インバータ1の出力電圧範囲を超えないように直流電源E1の電圧(直流電源電圧)V
dcで制限されている。直流電源電圧V
dcは、
図1においては不図示の電圧検出回路や設定パラメータによって取得する。
【0043】
加算部11は、生成した補正電圧指令(U相補正電圧指令v
uc、V相補正電圧指令v
vc、W相電圧指令v
wc)を、PWM生成器12および3相2相変換器16に出力する。
【0044】
PWM生成器12は、3相の補正電圧指令をそれぞれ三角波比較することでインバータ1のスイッチング素子S11〜S16のスイッチングを制御するPWM信号(制御信号)を生成する。
【0045】
電流検出器13は、インバータ1の出力電流(インバータ1から電動機2に流れる3相の電流(U相電流i
u,V相電流i
v,W相電流i
w))を検出し、検出結果を3相2相変換器14およびab軸デッドタイム補償器19に出力する。
【0046】
3相2相変換器14は、電流検出器13により検出されたインバータ1の出力電流(U相電流i
u,V相電流i
v,W相電流i
w)を2相座標系のa軸一次電流i
1aおよびb軸一次電流i
1bに変換する。具体的には、3相2相変換器14は、以下の式(1)において、U相の値in
uをU相電流i
uとし、V相の値in
vをV相電流i
vとし、W相の値in
wをW相電流i
wとして、a軸の値out
aとしてa軸一次電流i
1aを算出し、b軸の値out
bとしてb軸一次電流i
1bを算出する。
【0048】
3相2相変換器14は、算出した一次電流(a軸一次電流i
1a、b軸一次電流i
1b)をオブザーバ15に出力する。
【0049】
オブザーバ15は、3相2相変換器14から出力された一次電流(a軸一次電流i
1a、b軸一次電流i
1b)と、電動機2の特性式とに基づき、インバータ1の出力電圧(2相の一次電圧(a軸一次電圧v
1a、b軸一次電圧v
1b))を推定する。ここで、オブザーバ15は、電動機2が誘導機であるとし、誘導機の電圧方程式に基づき、電動機2の特性式を構築する。以下の式(2)は、誘導機の電圧方程式の一例である。式(2)において、i
2aはa軸二次電流であり、i
2bはb軸二次電流であり、R
1は一次自己抵抗であり、R
2は二次自己抵抗であり、L
1は一次自己インダクタンスであり、L
2は二次自己インダクタンスであり、Mは相互インダクタンスであり、ω
mは回転子回転角度であり、pは微分演算子である。
【0051】
インバータ1の出力電流から出力電圧を演算するための数式は、座標系やモデル化の厳密度によって異なり、式(2)に限られるものではない。例えば、電動機2の動作範囲が低速で、インバータ1の出力周波数十分低周波数(例えば、1Hz以下)であれば、式(2)の干渉項は省略することができ、以下の式(3)のような、一次抵抗R
1および一次自己インダクタンスL
1を用いた単純な式で表現することができる。
【0053】
オブザーバ15は、算出した一次電圧(a軸一次電圧v
1a、b軸一次電圧v
1b)を第2の減算部18に出力する。
【0054】
3相2相変換器16は、加算部11から出力された3相の補正電圧指令(U相補正電圧指令v
uc、V相補正電圧指令v
vc、W相補正電圧指令v
wc)を、2相座標系の補正電圧指令(a軸補正電圧指令v
ac、b軸補正電圧指令v
bc)に変換する。具体的には、3相2相変換器16は、上述した式(1)に基づき、U相の値in
uをU相補正電圧指令v
ucとし、V相の値in
vをV相補正電圧指令v
vcとし、W相の値in
wをW相補正電圧指令v
wcとして、a軸の値out
aとしてa軸補正電圧指令v
acを算出し、b軸の値out
bとしてb軸補正電圧指令v
bcを算出する。
【0055】
3相2相変換器16は、算出した補正電圧指令(a軸補正電圧指令v
ac、b軸補正電圧指令v
bc)を第1の減算部17に出力する。
【0056】
第1の減算部17は、3相2相変換器16から出力された補正電圧指令(a軸補正電圧指令v
ac、b軸補正電圧指令v
bc)から、ab軸デッドタイム補償器19から出力されたデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)を減算して、2相の電圧指令(a軸電圧指令v
a’、b軸電圧指令v
b’)を生成する。
【0057】
具体的には、第1の減算部17は、減算器17a,17bを備える。減算器17aは、a軸補正電圧指令v
acからa軸デッドタイム補償量E
daを減算して、a軸電圧指令v
a’を生成する。減算器17bは、b軸補正電圧指令v
bcからb軸デッドタイム補償量E
dbを減算して、b軸電圧指令v
b’を生成する。
【0058】
第1の減算部17は、生成した電圧指令(a軸電圧指令v
a’、b軸電圧指令v
b’)を、第2の減算部18に出力する。
【0059】
第2の減算部18は、第1の減算部17から出力された電圧指令(a軸電圧指令v
a’、b軸電圧指令v
b’)から、オブザーバ15から出力された一次電圧(a軸一次電圧v
1a、b軸一次電圧v
1b)を減算して、a軸エラー値Δv
a、b軸エラー値Δv
bを生成する。
【0060】
具体的には、第2の減算部18は、減算器18a,18bを備える。減算器18aは、a軸電圧指令v
a’からa軸一次電圧v
1aを減算して、a軸エラー値Δv
aを生成する。減算器18bは、b軸電圧指令v
b’からb軸一次電圧v
1bを減算して、b軸エラー値Δv
bを生成する。
【0061】
第2の減算部18は、生成したa軸エラー値Δv
a、b軸エラー値Δv
bを、ab軸デッドタイム補償器19に出力する。
【0062】
ab軸デッドタイム補償器19は、インバータ1の出力電流とデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)との関係を記憶しており、第2の減算部18から出力されたa軸エラー値Δv
aおよびb軸エラー値Δv
bに基づき、記憶しているインバータ1の出力電流とデッドタイム補償量との関係を補正する。また、ab軸デッドタイム補償器19は、電流検出器13からインバータ1の出力電流(U相電流i
u,V相電流i
v,W相電流i
w)の検出結果が出力されると、記憶している出力電流とデッドタイム補償量との関係に基づき、検出された出力電流に対応するデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)を求め、2相3相変換器21および第1の減算部17に出力する。
【0063】
2相3相変換器21は、ab軸デッドタイム補償器19から出力された2相のデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)を、3相のデッドタイム補償量(U相デッドタイム補償量E
du、V相デッドタイム補償量E
dv、W相デッドタイム補償量E
dw)に変換する。具体的には、3相2相変換器21は、以下の式(4)に基づき、a軸の値in
aをa軸デッドタイム補償量E
daとし、b軸の値in
bをb軸デッドタイム補償量E
dbとして、U相の値out
uとしてU相デッドタイム補償量E
duを算出し、V相の値out
vとしてV相デッドタイム補償量E
dvを算出し、W相の値out
wとしてW相デッドタイム補償量E
dwを算出する。
【0065】
上述したように、3相の補正電圧指令(U相補正電圧指令v
uc、V相補正電圧指令v
vc、W相電圧指令v
wc)は、3相の電圧指令(U相電圧指令v
u、V相電圧指令v
v、W相電圧指令v
w)と3相のデッドタイム補償量(U相デッドタイム補償量E
du、V相デッドタイム補償量E
dv、W相デッドタイム補償量E
dw)とを加算して生成される。この3相の補正電圧指令を2相座標系に変換することで、2相の補正電圧指令(a軸補正電圧指令v
ac,b軸補正電圧指令v
bc)が生成される。
【0066】
したがって、第1の減算部17から出力される2相の電圧指令(a軸電圧指令v
a’、b軸電圧指令v
b’)は、3相の電圧指令(U相電圧指令v
u、V相電圧指令v
v、W相電圧指令v
w)を2相座標系に変換したものに相当する。また、第2の減算部18から出力されるa軸エラー値Δv
aおよびb軸エラー値Δv
bは、電圧指令と、インバータ1の出力電流から推定したインバータ1の出力電圧との誤差(電圧誤差)に相当する。この電圧誤差に基づき、インバータ1の出力電流とデッドタイム補償量との関係を補正し、この関係に基づき、デッドタイム補償量を決定することで、より高精度な電動機2の駆動制御を行うことができる。また、インバータ1の出力電流から出力電圧を推定するため、出力電圧を検出する電圧検出回路を設ける必要が無くなり、装置の大型化や部品点数の増加に伴うコスト増を抑制することができる。
【0067】
なお、
図1においては、3相の補正電圧指令を2相の補正電圧指令に変換し、その2相の補正電圧指令から2相のデッドタイム補償量を減算することで、2相の電圧指令(a軸電圧指令v
a’、b軸電圧指令v
b’)を生成しているが、これに限られるものではなく、3相の電圧指令を直接、2相の電圧指令(a軸電圧指令v
a’、b軸電圧指令v
b’)に変換してもよい。
【0068】
次に、ab軸デッドタイム補償器19の構成について説明する。
【0069】
図2は、ab軸デッドタイム補償器19の構成の一例を示すブロック図である。
【0070】
図2に示すab軸デッドタイム補償器19は、乗算器191a,191bと、積分器群192a,192bと、切替器193〜196と、セレクタ197とを備える。
【0071】
乗算器191aは、a軸エラー値Δv
aが入力され、入力されたa軸エラー値Δv
aにゲインKを乗算して出力する。乗算器191bは、b軸エラー値Δv
bが入力され、入力されたb軸エラー値Δv
bにゲインKを乗算して出力する。
【0072】
積分器群192a、192bはそれぞれ、入力された値を積算し、積算値を出力する複数の積分器からなる。
【0073】
切替器193は、セレクタ197の制御に従い、乗算器191aと、積分器群192aを構成する複数の積分器のうち、いずれかの積分器とを接続する。切替器193を介して乗算器191aと接続された積分器には、a軸エラー値Δv
aにゲインKを乗算した値が入力され、積分器は、乗算器191aから出力された値を積算し、積算値を保持する。
【0074】
切替器194は、セレクタ197の制御に従い、積分器群192aを構成する複数の積分器のうち、いずれかの積分器と、ab軸デッドタイム補償器19のa軸デッドタイム補償量E
daの出力端とを接続する。切替器194を介してa軸デッドタイム補償量E
daの出力端と接続された積分器は、保持している積算値をa軸デッドタイム補償量E
daとして出力する。
【0075】
切替器195は、セレクタ197の制御に従い、乗算器191bと、積分器群192bを構成する複数の積分器のうち、いずれかの積分器とを接続する。切替器195を介して乗算器191bと接続された積分器には、b軸エラー値Δv
bにゲインKを乗算した値が入力され、積分器は、乗算器191bから出力された値を積算し、積算値を保持する。
【0076】
切替器196は、セレクタ197の制御に従い、積分器群192bを構成する複数の積分器のうち、いずれかの積分器と、ab軸デッドタイム補償器19のb軸デッドタイム補償量E
dbの出力端とを接続する。切替器196を介してb軸デッドタイム補償量E
dbの出力端と接続された積分器は、保持している積算値をb軸デッドタイム補償量E
dbとして出力する。
【0077】
セレクタ197は、インバータ1の出力電流(U相電流i
u,V相電流i
v,W相電流i
w)の検出結果が入力され、入力された検出結果に基づき、積分器群192aを構成する複数の積分器のうち、いずれかの積分器を選択する。そして、セレクタ197は、選択した積分器と乗算器191aとが接続されるように切替器193を制御し、選択した積分器とa軸デッドタイム補償量E
daの出力端とが接続されるように切替器194を制御する。また、セレクタ197は、インバータ1の出力電流の検出結果に基づき、積分器群192bを構成する複数の積分器のうち、いずれかの積分器を選択する。そして、セレクタ197は、選択した積分器と乗算器191bとが接続されるように切替器195を制御し、選択した積分器とb軸デッドタイム補償量E
dbの出力端とが接続されるように切替器196を制御する。
【0078】
このように、セレクタ197は、インバータ1の出力電流の値に応じて、積分器群192a,192bそれぞれを構成する複数の積分器のうち、いずれかの積分器を選択する。各積分器は、セレクタ197により選択されると、対応する出力電流での電圧誤差を積算して、デッドタイム補償量として保持し、出力する。すなわち、各積分器は、出力電流の各値に対応するデッドタイム補償量を記憶し、セレクタ197により選択されると、記憶しているデッドタイム補償量を出力し、セレクタ197により選択されていない場合には、これまでの積算値を保持し続ける。
【0079】
つまり、複数の積分器がそれぞれ、出力電流に応じたデッドタイム補償量を記憶するメモリとして機能する。したがって、ab軸デッドタイム補償器19は、複数の積分器を用いて、出力電流とデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)との関係(デッドタイムテーブル)を記憶している。なお、積分器群192a,192bを構成する積分器に記憶させるデッドタイム補償量の初期値としては、事前のオートチューニングによる測定値や理論値を与える。
【0080】
オートチューニングによる測定方法としては、電動機2に任意の直流電流を流し、電動機2の一次抵抗と電流との積で表される電圧降下と、スイッチング素子や還流ダイオードによる電圧降下とを電圧指令から減算して電圧誤差を演算し、その電圧誤差からデッドタイム補償量を求める方法がある。この方法により、直流電流の大きさを変えながら逐次、デッドタイム補償量を求めることで、デッドタイムテーブルの初期値を得ることができる。
【0081】
次に、セレクタ197による積分器の切り替え動作について説明する。
【0082】
図3は、デッドタームテーブルの一例を示す図である。
【0083】
図3において、横軸は、積分器群192a,192bそれぞれを構成する積分器の番号(積分器番号n)を示す。
図3においては、積分器群192a,192bはそれぞれ、600個の積分器S
n(nは0から599までの整数)で構成されているものとする。また、縦軸は、オートチューニングによる測定時に電動機2に流す電流(U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
w)と、オートチューニングにより得られたデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)とを示す。
【0084】
なお、
図3において、点線で示される電流は、
図9に示す電流i
max,−i
maxのような、デッドタイム補償量が飽和するのに十分な電流を流していることを意味し、その大きさは重要ではない。したがって、各相の出力電流の大小関係によって、6つの領域A〜Fに分けることができる。
【0085】
以下では、U相電流i
uが正に最も大きく、W相電流i
wが最も小さい領域を領域Aとし、V相電流i
vが正に最も大きく、W相電流i
wが最も小さい領域を領域Bとし、V相電流i
vが正に最も大きく、U相電流i
uが最も小さい領域を領域Cとし、W相電流i
wが正に最も大きく、U相電流i
uが最も小さい領域を領域Dとし、W相電流i
wが正に最も大きく、V相電流i
vが最も小さい領域を領域Eとし、U相電流i
uが正に最も大きく、V相電流i
vが最も小さい領域を領域Fとする。
【0086】
積分器群192a,192bそれぞれが600個の積分器で構成されている場合、各領域には以下のように積分器が割り当てられる。
【0087】
領域Aには、積分器S
0から積分器S
99が割り当てられる。積分器S
0〜S
99はそれぞれ、−i
maxからi
max−i
max/50までi
max/50刻みの各V相電流i
vに対応し、各V相電流i
vに対応するデッドタイム補償量を記憶する。
【0088】
領域Bには、積分器S
100から積分器S
199が割り当てられる。積分器S
100〜S
199はそれぞれ、i
maxから−i
max+i
max/50までi
max/50刻みの各U相電流i
uに対応し、各U相電流i
uに対応するデッドタイム補償量を記憶する。
【0089】
領域Cには、積分器S
200から積分器S
299が割り当てられる。積分器S
200〜S
299はそれぞれ、−i
maxからi
max−i
max/50までi
max/50刻みの各W相電流i
wに対応し、各W相電流i
wに対応するデッドタイム補償量を記憶する。
【0090】
領域Dには、積分器S
300から積分器S
399が割り当てられる。積分器S
300〜S
399はそれぞれ、i
maxから−i
max+i
max/50までi
max/50刻みの各V相電流i
vに対応し、各V相電流i
vに対応するデッドタイム補償量を記憶する。
【0091】
領域Eには、積分器S
400から積分器S
499が割り当てられる。積分器S
400〜S
499はそれぞれ、−i
maxからi
max−i
max/50までi
max/50刻みの各U相電流i
uに対応し、各U相電流i
uに対応するデッドタイム補償量を記憶する。
【0092】
領域Fには、積分器S
500から積分器S
599が割り当てられる。積分器S
500〜S
599はそれぞれ、i
maxから−i
max+i
max/50までi
max/50刻みの各W相電流i
wに対応し、各W相電流i
wに対応するデッドタイム補償量を記憶する。
【0093】
セレクタ197は、領域A〜Fの中から、U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
wの大小関係に一致する領域を選択する。そして、選択した領域において、U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
wのうち、絶対値が最も小さい電流の電流値に対応する積分器を選択する。なお、セレクタ197は、U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
wのうち、絶対値が最も小さい電流がi
max以上なら、絶対値が最も小さい電流の電流値をi
maxとして積分器を選択し、また、絶対値が最も小さい電流が−i
max以下なら、絶対値が最も小さい電流の電流値を−i
maxとして積分器を選択する。
【0094】
上述したように、各積分器が誤差電圧を積算していくため、デッドタイムテーブルに従い出力されるデッドタイム補償量が修正され、誤差電圧が減少していく。つまり、ab軸デッドタイム補償器19は、デッドタイム補償量の自動集積機能を備えていることになり、この機能により、電圧指令(U相電圧指令v
u、V相電圧指令v
v、W相電圧指令v
w)と、電動機2に印加される電圧との誤差が減少していく。これにより、電圧指令(U相電圧指令v
u、V相電圧指令v
v、W相電圧指令v
w)と、電動機2に流れる電流(U相電流i
u,V相電流i
v,W相電流i
w)とにより電動機2の速度を演算する速度センサレス制御において、速度推定誤差が向上するため、速度リップルの低下を図ることができる。
【0095】
このように本実施形態によれば、電動機駆動装置10は、複数のスイッチング素子S11〜S16を備え、複数のスイッチング素子S11〜S16のスイッチングにより直流電圧を交流電圧に変換して、電動機2を出力するインバータ1(電力変換器)と、インバータ1の出力電流と電動機2の特性式とに基づき、インバータ1の出力電圧を推定するオブザーバ15(電圧推定器)と、インバータ1の出力電圧を指示する電圧指令とオブザーバ15により推定されたインバータ1の出力電圧との電圧誤差を算出する第2の減算部18(誤差演算器)と、インバータ1の出力電流と電圧誤差を補償するためのデッドタイム補償量との関係を記憶し、演算された電圧誤差に基づき、インバータ1の出力電流とデッドタイム補償量との関係を補正するとともに、記憶している関係に基づき、インバータ1の出力電流に対応するデッドタイム補償量を出力するab軸デッドタイム補償器19(デッドタイム補償器)と、電圧指令をデッドタイム補償量で補正した補正電圧指令を出力する加算部11(指令補償器)と、補正電圧指令に基づき複数のスイッチング素子S11〜S16のスイッチングを制御する制御信号を生成するPWM生成器(生成器)と、を備える。
【0096】
インバータ1の出力電流と電動機2の特性式とからインバータ1の出力電圧を推定し、その推定した出力電圧と電圧指令との誤差(電圧誤差)に基づき、出力電流とデッドタイム補償量との関係を補正し、この関係に基づき、デッドタイム補償量を決定することで、より高精度な電動機2の駆動制御を行うことができる。また、インバータ1の出力電流から出力電圧を推定するため、出力電圧を検出する電圧検出回路を設ける必要が無くなり、装置の大型化や部品点数の増加に伴うコスト増を抑制することができる。
【0097】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る電動機駆動装置10Aの構成の一例を示す図である。
図4において、
図1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0098】
本実施形態に係る電動機駆動装置10Aは、第1の実施形態に係る電動機駆動装置10と比較して、第1の減算部17を削除した点と、第2の減算部18を第2の減算部18Aに変更した点と、ab軸デッドタイム補償器19をab軸デッドタイム補償器19Aに変更した点とが異なる。
【0099】
3相2相変換器16は、3相の補正電圧指令を2相座標系に変換した補正電圧指令(a軸補正電圧指令v
ac、b軸補正電圧指令v
bc)を第2の減算部18Aに出力する。第2の減算部18Aは、3相2相変換器16から出力された補正電圧指令(a軸補正電圧指令v
ac、b軸補正電圧指令v
bc)から、オブザーバ15から出力された一次電圧(a軸一次電圧v
1a、b軸一次電圧v
1b)を減算して、a軸電圧誤差値Δv
a’およびb軸電圧誤差値Δv
b’を生成する。
【0100】
具体的には、第2の減算部18Aは、減算器18a,18bを備える。減算器18aは、a軸補正電圧指令v
acからa軸一次電圧v
1aを減算して、a軸電圧誤差値Δv
a’を生成する。減算器18bは、b軸電圧指令v
bcからb軸一次電圧v
1bを減算して、b軸電圧誤差値Δv
b’を生成する。
【0101】
第2の減算部18Aは、生成したa軸電圧誤差値Δv
a’およびb軸電圧誤差値Δv
b’を、ab軸デッドタイム補償器19Aに出力する。第1の実施形態においては、第2の減算部18は、電圧指令と推定したインバータ1の出力電圧との電圧誤差、すなわち、ab軸デッドタイム補償器19に記憶されているデッドタイム補償量とインバータ1で生じるデッドタイムによる電圧誤差との誤差を出力していた。一方、本実施形態においては、第2の減算部18Aは、インバータ1で生じるデッドタイムによる電圧誤差を出力する。
【0102】
ab軸デッドタイム補償器19Aは、インバータ1の出力電流とデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)との関係を記憶し、第2の減算部18Aから出力されたa軸電圧誤差値Δv
a’およびb軸電圧誤差値Δv
b’に基づき、記憶しているインバータ1の出力電流とデッドタイム補償量との関係を補正する。また、ab軸デッドタイム補償器19Aは、インバータ1の出力電流とデッドタイム補償量との関係に基づき、インバータ1の出力電流(U相電流i
u,V相電流i
v,W相電流i
w)に対応するデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)を求め、2相3相変換器21に出力する。
【0103】
図5は、ab軸デッドタイム補償器19Aの構成の一例を示す図である。
図5において、
図2と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0104】
図5に示すab軸デッドタイム補償器19Aは、
図2に示すab軸デッドタイム補償器19と比較して、乗算器191a,191bを削除した点と、積分器群192a,192bをフィルタ群198a,198bに変更した点と、セレクタ197をセレクタ197Aに変更した点とが異なる。
【0105】
フィルタ群198aは、複数の低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)からなる。フィルタ群198aを構成する複数の低域通過フィルタのうち、いずれかの低域通過フィルタが、切替器193により第2の減算部18Aと接続され、a軸電圧誤差値Δv
a’が入力されるとともに、切替器194によりa軸デッドタイム補償量E
daの出力端と接続される。a軸電圧誤差値Δv
a’が入力された低域通過フィルタは、a軸電圧誤差値Δv
a’に対するフィルタ処理を行い、a軸デッドタイム補償量E
daとして出力する。また、その他の低域通過フィルタは、前回の出力を保持する。
【0106】
フィルタ群198bは、複数の低域通過フィルタからなる。フィルタ群198bを構成する複数の低域通過フィルタのうち、いずれかの低域通過フィルタが、切替器195により第2の減算部18Aと接続され、b軸電圧誤差値Δv
b’が入力されるとともに、切替器196によりb軸デッドタイム補償量E
dbの出力端と接続される。b軸電圧誤差値Δv
b’が入力された低域通過フィルタは、b軸電圧誤差値Δv
b’に対するフィルタ処理を行い、b軸デッドタイム補償量E
dbとして出力する。また、その他の低域通過フィルタは、前回の出力を保持する。
【0107】
セレクタ197Aは、インバータ1の出力電流(U相電流i
u,V相電流i
v,W相電流i
w)の検出結果が入力され、入力された検出結果に基づき、フィルタ群198aを構成する複数の低域通過フィルタのうち、いずれかの低域通過フィルタを選択する。そして、セレクタ197Aは、選択した低域通過フィルタと第2の減算部18Aとが接続されるように切替器193を制御し、選択した低域通過フィルタとa軸デッドタイム補償量E
daの出力端とが接続されるように切替器194を制御する。また、セレクタ197Aは、インバータ1の出力電流の検出結果に基づき、フィルタ群198bを構成する複数の低域通過フィルタのうち、いずれかの低域通過フィルタを選択する。そして、セレクタ197Aは、選択した低域通過フィルタと第2の減算部18Aとが接続されるように切替器195を制御し、選択した低域通過フィルタとb軸デッドタイム補償量E
dbの出力端とが接続されるように切替器196を制御する。
【0108】
このように、セレクタ197Aは、インバータ1の出力電流の値に応じて、フィルタ群198a,198bを構成する複数の低域通過フィルタのうち、いずれかの低域通過フィルタを選択する。各低域通過フィルタは、セレクタ197Aにより選択されると、対応する出力電流における電圧誤差(a軸電圧誤差値Δv
a’、b軸電圧誤差値Δv
b’)に対するフィルタ処理を行って、デッドタイム補償量として出力するとともに、その値を保持する。すなわち、各低域通過フィルタは、出力電流の各値に対応するデッドタイム補償量を記憶し、セレクタ197Aにより選択されると、デッドタイム補償量を出力し、セレクタ197により選択されていない場合には、出力したデッドタイム補償量を保持し続ける。
【0109】
つまり、複数の低域通過フィルタがそれぞれ、出力電流に応じたデッドタイム補償量を記憶するメモリとして機能する。したがって、ab軸デッドタイム補償器19Aは、複数の低域通過フィルタを用いて、出力電流とデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)との関係(デッドタイムテーブル)を記憶している。なお、フィルタ群198a,198bを構成する低域通過フィルタに記憶させるデッドタイム補償量の初期値としては、第1の実施形態と同様に、事前のオートチューニングによる測定値や理論値を与える。
【0110】
次に、セレクタ197Aによる低域通過フィルタの切り替え動作について説明する。
【0111】
ab軸デッドタイム補償器19Aには、第1の実施形態と同様に、
図3を参照して説明したようなデッドタイムテーブルが記憶されている。ただし、第1の実施形態においては、積分器群192a,192bそれぞれを構成する積分器の番号とデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)とが対応つけて記憶されていたが、本実施形態においては、フィルタ群198a,198bを構成する低域通過フィルタの番号とデッドタイム補償量(a軸デッドタイム補償量E
da、b軸デッドタイム補償量E
db)とが対応つけて記憶されている。
【0112】
そして、第1の実施形態と同様に、各相の出力電流(U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
w)の大小関係によって、6つの領域A〜Fに分けられ、各領域にフィルタ群198a,198bを構成する低域通過フィルタが割り当てられる。そして、各領域において、出力電流の各値に低域通過フィルタが割り当てられ、各低域通過フィルタは割り当てられた出力電流におけるデッドタイム補償量を記憶する。
【0113】
セレクタ197Aは、領域A〜Fの中から、U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
wの大小関係に一致する領域を選択し、選択した領域において、U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
wのうち、絶対値が最も小さい電流の電流値に対応する低域通過フィルタを選択する。なお、セレクタ197Aは、U相電流i
u、V相電流i
v、W相電流i
wのうち、絶対値が最も小さい電流がi
max以上なら、絶対値が最も小さい電流の電流値をi
maxとして低域通過フィルタを選択し、また、絶対値が最も小さい電流が−i
max以下なら、絶対値が最も小さい電流の電流値を−i
maxとして低域通過フィルタを選択する。
【0114】
このように本実施形態に係る電動機駆動装置10Aにおいては、第2の減算部18Aは、電圧誤差として、補正電圧指令とオブザーバ15により推定されたインバータ1の出力電圧との誤差を算出し、デッドタイム補償器19Aは、複数の低域通過フィルタと、インバータ1の出力電流に応じて複数の低域通過フィルタのうち、いずれかの低域通過フィルタいずれかを選択し、第2の減算部18Aにより算出された電圧誤差を選択した低域通過フィルタに入力するセレクタ197Aとを備える。低域通過フィルタは、セレクタ197Aにより選択された場合には、第2の減算部18Aから出力された電圧誤差に対してフィルタ処理を行った値を、デッドタイム補償量として出力し、セレクタ197Aにより選択されていない場合には、前回の出力を保持する。
【0115】
こうすることによっても、より高精度な電動機2の駆動制御を行うことができる。また、インバータ1の出力電流から出力電圧を推定するため、出力電圧を検出する電圧検出回路を設ける必要が無くなり、装置の大型化や部品点数の増加に伴うコスト増を抑制することができる。
【0116】
なお、上述した第1および第2の実施形態においては、電動機2が誘導機である場合を例として説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、同期機を駆動する場合にも適用することが可能である。また、座標変換を適宜行うことで、abデッドタイム補償器19,19Aに保存するデッドタイム補償量の形態も任意に変更することができる。
【0117】
本発明を図面および実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各ブロックなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数のブロックを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。