(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
基板上に化合物半導体の薄膜を形成する際、気相成長装置が用いられている。一般的に、気相成長装置では、複数の基板上に均一に薄膜を形成する必要があるため、成膜中の基板を自公転させる機構を備えている。ここで、基板の自公転機構とは、基板を載置するサセプタを回転(公転)させるとともに、該サセプタの回転に伴って個々の基板をそれぞれ回転(自転)させる仕組みをいう。
【0003】
自公転機構を備えた気相成長装置では、載置された基板を保持すると同時に、基板の面内を均一に加熱するために均熱板を備えているのが一般的である。均熱板は、基板の熱分布に影響するため、様々な形状及び材質が検討されている。さらに、近年の高い生産性の要求によって基板の大口径化が進んでいるため、これに伴う基板の面内温度の均一性が重要となっている。
【0004】
ところで、特許文献1には、従来の気相成長装置の一例として、均熱板を小型化して生産性を高めた気相成長装置の構成が開示されている。具体的には、特許文献1に開示された均熱板を自転させる気相成長装置では、サセプタ上に設置された均熱板が高温で安定して回転させるために玉軸受け構造となっており、カーボンやセラミックの転動部材を介して均熱板を回転させる構成となっている。また、加熱手段からの熱を効率よく基板に伝えるために、均熱板の裏面を加熱手段が設けられた側に露出させて、輻射を直接受けるような構造となっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された気相成長装置の構成では、転動部材の転がり摩擦によって転動部材の表面、または軸受部の転動部材の軌道面(周溝の当たり面)が摩耗すると、この摩耗面が原料ガスによって腐食してしまうという問題があった。摩耗面の腐食により、形状の変化や粉塵を発生させるため、均熱板の回転不具合や成膜の際に膜中への不純物混入などの不具合が生じてしまうという課題があった。
【0006】
転動部材の表面、または軸受部の転動部材の軌道面の摩耗を少なくするためには、転動部材への荷重を減らすこと、すなわち均熱板の重量を小さくすることが考えられる。特に、材質を変えずに重量を減らすためには、均熱板を薄くすることが挙げられる。しかしながら、サセプタは強度を保つために一定の厚みが必要であることに対して、均熱板だけを薄くしてしまうと、均熱板の裏面の全体がサセプタの裏面に対して凹む形状となってしまう。たとえば、窒化ガリウム(GaN)膜を成長させる際の、加熱温度が1000℃以上の条件では、単に肉厚を薄くした均熱板を用いた場合、サセプタの裏面側に設けられた加熱手段からの輻射が凹み部分(段部)に影を作ってしまうため、その影響によって均熱板上に載置された基板に均等に熱が加わらないという問題があった。特に、基板の外周部の温度が大きく下がってしまうため、基板の面内温度分布の均一性が悪化してしまうという課題があった。
【0007】
そこで、特許文献2には、加熱された基板の面内温度の分布を均一化させるための均熱板(均熱部材)の構成について開示されている。具体的には、特許文献2には、サセプタよりも均熱板を薄くした形状として、円柱状とテーパー状の2種類が開示されている。円柱状の均熱板では、上述したように、加熱手段からの輻射が凹み段部に影を作るため、均熱板の外周部、すなわち基板の外周部の温度が大きく下がってしまうという課題があった。一方、テーパー状の均熱板では、自転機構を構成するための回転歯車や転動部材などとともに配置するには適した形状ではないという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、自転機構の摩耗に対する耐久性を改善するとともに、基板表面の面内温度分布の均一性を担保することが可能な気相成長装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
(1) チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、
前記サセプタの外周部の周方向に複数設けられた円形の開口部と、
前記開口部内にそれぞれ設けられた軸受部と、
前記軸受部に設けられた周溝上に、回転可能に設けられた転動部材と、
外周側に外歯車を有するとともに、前記転動部材を前記軸受部とで挟み込む外歯車部材と、
前記開口部の中心を中心軸とする回転対称体であり、当該開口部を閉塞するとともに、外周部の少なくとも一部が前記外歯車部材上に載置されて当該外歯車部材と共に回転可能に設けられた均熱部材と、
前記外歯車部材の外歯車に噛合する歯車を有するリング状の固定歯車部材と、
前記サセプタの裏面側に設けられ、当該サセプタと、前記開口部から前記裏面側に露出する前記均熱部材を加熱する加熱手段と、
前記サセプタの表面側の中央に設けられた原料ガス導入ノズルと、を備えた気相成長装置であって、
前記均熱部材は、前記開口部を閉塞するように設けた際に、前記サセプタの回転軸方向において、当該均熱部材の表面の高さが当該サセプタの表面の高さと同じ位置であり、当該均熱部材の裏面の外周部の高さが当該サセプタの裏面の高さと同じ位置であるとともに、
前記均熱部材の裏面には、中心側から前記外周部側の間のいずれかの位置に周方向の全体に亘るように薄肉部が設けられており、
前記薄肉部を断面視した際に、少なくとも前記外周部側の側面が、1段以上の傾斜面または曲面によって構成される、気相成長装置。
【0011】
(2) 前記薄肉部が、均熱部材の裏面の中央部を含み、中央部から外周部側に亘って連続して設けられている、前項(1)に記載の気相成長装置。
【0012】
(3) 前記中央部が平坦面である、前項(2)に記載の気相成長装置。
【0013】
(4) 前記薄肉部の厚さが、前記均熱部材の前記外周部側の厚さの1/2以上である、前項(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【0014】
(5) 前記薄肉部を断面視した際に、前記外周部側の側面を曲面とした場合、前記曲面の曲率半径が、前記薄肉部の前記外周部からの深さ以上である、前項(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【0015】
(6) 前記均熱部材の表面側の中央に、成膜対象である基板を載置するための溝部が設けられており、
前記溝部に前記基板を載置した際に、前記サセプタの回転軸方向において、当該基板の表面の高さが、前記均熱部材の表面の高さ、及び当該サセプタの表面の高さと同じ位置である、前項(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【0016】
(7) 前記均熱部材が、2以上の部材によって構成される、前項(1)乃至(6)のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【0017】
(8) 前記加熱手段が、前記サセプタの中心側から外周側に向かって、複数に分割されている、前項(1)乃至(7)のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【0018】
(9) 前記サセプタの回転軸と同軸上に、当該サセプタの表面を覆うように設けられたサセプタカバーを備える、前項(1)乃至(8)のいずれか一項に記載の気相成長装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の気相成長装置は、回転対称体であって、自転機構を構成する転動部材を軸受部とで挟み込む外歯車部材上に外周部の少なくとも一部が載置される均熱部材が、裏面の外周部の高さがサセプタの裏面の高さと同じ位置であるとともに、この裏面の中心側から外周部側の間のいずれかの位置に周方向の全体に亘るように薄肉部が設けられる構成となっている。これにより、従来の薄肉部が設けられていない均熱部材と比較して軽量であるため、自転機構の摩耗に対する耐久性を改善することができる。
【0020】
また、均熱部材に設けた薄肉部を断面視した際に、少なくとも外周部側の側面が、1段以上の傾斜面または曲面となるように構成されている。このように、薄肉部の外周部側が熱を受ける面積を大きくする形状となっているため、均熱部材の表面に基板を載置した際に、基板表面の面内温度分布の均一性を担保することができる。
【0021】
さらに、加熱手段によって加熱される均熱部材の裏面側に薄肉部が設けられているため、昇温速度を効率化し、生産性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した一実施形態である気相成長装置について、これに用いる均熱部材とあわせて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0024】
<気相成長装置>
先ず、本発明を適用した一実施形態である気相成長装置の構成の一例について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である気相成長装置の構成を示す斜視図である。また、
図2は、本実施形態の気相成長装置の一部を拡大した断面図である。さらに、
図3は、本実施形態の気相成長装置を構成する均熱板(均熱部材)の周辺を拡大した断面図である。
【0025】
図1〜
図3に示すように、本実施形態の気相成長装置31は、チャンバー1内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタ2と、サセプタ2の外周部の周方向に複数設けられた円形の開口部2Aと、開口部2A内の内周側底部にそれぞれフランジ状に設けられた軸受部2aと、軸受部2aのフランジ状部分の平坦面上に設けられた周溝2b上に、回転可能に設けられた転動部材4と、外周側に外歯車5aを有するとともに、転動部材4を軸受部2Aとで挟み込む外歯車部材5と、開口部2Aを閉塞するとともに、外歯車部材5と共に回転可能に設けられた均熱板(均熱部材)7と、外歯車部材5の外歯車5aに噛合する歯車8aを有するリング状の固定歯車部材8と、サセプタ2の裏面側に設けられ、当該サセプタ2の裏面と、開口部2Aから上記裏面側に露出する均熱板7の裏面とを加熱する分割抵抗体(加熱手段)9と、サセプタ2の表面側の中央に設けられた原料ガス導入ノズル33と、を備えて、概略構成されている。
【0026】
より具体的には、
図1に示すように、本実施形態の気相成長装置31は、中央に原料ガス導入ノズル33を配設した偏平円筒状のチャンバー本体1b内に、円盤状のカーボンからなり、外周部分に同心円上となるように等間隔で設けられた複数の開口部2Aを有するサセプタ2と、サセプタ2の開口部2Aにそれぞれ配置された複数の均熱板(均熱部材)7と、配置されている。また、それらの上方には、チャンバー内に一様な天井を区画形成する円盤状の天井板41が対向配置されている。
【0027】
図3に示すように、均熱板7の上面(表面側)には、成膜対象となる基板6を載置するための基板保持部(溝部)7aが設けられている。
【0028】
また、
図2に示すように、前述した基板保持部7aに基板6を載置した際に、サセプタ2の回転軸方向において、基板6の表面(上面)の高さが、均熱板7の表面(上面)の高さ、及びサセプタ2の上面の高さと同じ高さとなり、一様の面を形成する。そして、その一様の面に対向するように、天井板41を配置することにより、その一様の面と天井板に挟まれた空間が原料ガス流路10となって、サセプタ2の中心側の原料ガス導入ノズル33から基板6に平行に原料ガスをサセプタ2の全周方向に供給し、サセプタ2の外周側の排気口45から排出される。
【0029】
チャンバー1は、
図2に示すように、サセプタ2が格納されるチャンバー本体1bと、このチャンバー本体1bの周壁上部にOリング42を介して気密に装着されるチャンバー蓋1aとに分割可能に設けられている。
【0030】
また、
図1及び
図2に示すように、チャンバー本体1bの内部には、サセプタ2を回転させるため機能が設けられている。サセプタ2を回転させる機能としては、従来から諸々開示されているが、本実施形態ではサセプタ2の外周側に動力機構が設けられ、筒状のサセプタ回転用フレーム46が、サセプタ2の外周に勘合している。これにより、サセプタ回転用フレーム46に設けられたサセプタ回転用の動力(図示略)から得られた回転力で回転用フレーム46が回転し、これに勘合するサセプタ2が回転する。
【0031】
サセプタ2を回転させる機能としては、他にも例えば、上記特許文献1に開示されるような中心軸を基準とした、サセプタの中心側より回転力を得て回転させる方法としてもよい。
【0032】
サセプタ2を回転させることにより、基板6を保持した均熱板7がサセプタ2の中心に対して公転するとともに、均熱板7に設けられた自転機構により均熱板7自身が自転する。具体的には、
図3に示すように、サセプタ2の内側に設けられた固定歯車部材8と、均熱板7の外周部の裏面側に配置される自転機構の外歯車部材5とがかみ合って、均熱板7は回転動力を得て、自転機構の転動部材4により摩擦抵抗が小さくなっていて自転する仕組みになっている。
【0033】
図1及び
図2に示すように、サセプタ2および均熱板7の下方には、基板6を加熱するための分割抵抗体(加熱手段)9がリング状に分割されて配設されている。この分割抵抗体9によって、均熱板7が裏面側(底面側)から加熱され、加熱された均熱板7を熱源として基板6が加熱される。
【0034】
なお、本実施形態の気相成長装置31では、重力方向に対してサセプタ2の上面側に基板6の成長面を配置している構成を一例として説明するが、基板6をサセプタ2の下面側に設置する気相成長装置、すなわち上下が反転した構成であっても、同じ課題を解決する手段となりえる。
【0035】
<均熱板>
図4及び
図5に示すように、均熱板7は、サセプタ2の外周部分に設けられた貫通穴である開口部2Aを閉塞するように設けられている。具体的には、
図5に示すように、均熱板7は、外歯車部材7を介して、開口部2Aに配設される。また、均熱板7は、開口部2A内に設けた際に、この開口部2Aの中心を中心軸とする円盤状の回転対称体である。
【0036】
均熱板7の上面(表面側)には、
図4及び
図5に示すように、基板6を載置するための基板保持部(溝部)7aが設けられている。具体的には、この基板保持部7aは、均熱板7の上面の中央部分を基板6の厚さ分だけ掘り下げられた凹み部である。
【0037】
均熱板7の上部側の外周部には、フランジ部7Aが設けられている。また、フランジ部7Aの底面の一部には、下向きの係止段部7bが設けられている。これにより、均熱板7を外歯車部材5上に載置した際に、外歯車部材5の内周側に上向きに設けられた係止段部5bに係止段部7bが係止されて、均熱板7と外歯車部材5とが共に回転することが可能となる。
【0038】
均熱板7は、基板6に分割抵抗体(加熱手段)9からの熱を間接的に伝えることができるものであれば、材質は特に限定されない。具体的には、例えば、シリコンカーバイド、グラファイト、シリコンカーバイドでコーティングしたグラファイト、石英、窒化アルミニウム、窒化ボロン等が挙げられる。
【0039】
図3〜4に示すように、均熱板7の厚みdは、サセプタ2の表面から裏面の厚さDsと同じとなるように設けられている。これにより、
図3に示すように、均熱板7が開口部2Aを閉塞するように設けた際に、サセプタ2の回転軸方向において、均熱板7の表面(上面)の高さがサセプタの表面(上面)の高さと同じ位置となり、均熱板7の裏面(底面)の外周部7cの高さがサセプタ2の裏面(底面)の高さと同じ位置となる。
【0040】
均熱板7の裏面(底面)には、中心側(回転対称体の回転中心側)から外周部側の間のいずれかの位置に、周方向の全体に亘るように薄肉部7Bが設けられている。この薄肉部7Bは、サセプタ2の回転軸方向における、均熱板7の表面(上面)からの厚みが均熱板7の厚みdよりも薄くなるように掘り下げられた凹み部である。したがって、薄肉部7Bが設けられた均熱板7は、この掘り下げられた部分に相当する質量分だけ、薄肉部7Bが設けられていない均熱板よりも軽量化される。
【0041】
本実施形態における薄肉部7Bは、
図4に示すように、均熱板7の裏面の中央部7dから外周部7c側に亘って連続するように設けられている。具体的には、薄肉部7Bの形状は、中央部7dが平坦面となっている。また、薄肉部7Bの外周部7c側の側面7eは、断面視した際(均熱板7の中心軸に沿って断面)に、中央部7dとの境界がR(アール)形状となる曲面によって構成されている。このように、薄肉部7Bの外周部7c側の側面7eが熱を受ける面積を大きくする形状となっているため、均熱板7の表面に基板6を載置して加熱した際に、基板表面の面内温度分布の均一性を担保することができる。
【0042】
均熱板7の裏面の中央部の厚み(すなわち、薄肉部7Bを構成する平坦面である中央部7dの厚み)は、外周部7c側の厚み未満(すなわち、d未満)、半分以上(1/2d以上)であることが好ましい。また、薄肉部7Bを構成するアール形状である側面7eの曲率半径は、均熱板7の中央部7dの掘り下げられた厚み(深さ)以上であることが好ましい。
【0043】
なお、均熱板の裏面外周部7cとなる部分の、サセプタ2の回転軸と垂直方向の幅tは、耐久性が担保される厚みであれば、特に限定されるものではないが、できるだけ薄い方が好ましい。具体的には、例えば、5mm程度とすることができる。
【0044】
<自転機構>
図3及び
図5に示すように、軸受部2aは、開口部2A内の内周側の底部に、フランジ状に設けられている。また、軸受部2aのフランジ状部分の平坦面上には、周方向に一周するように周溝2bが設けられている。そして、周溝2b上には、複数の転動部材4が周溝2bを一周するように設けられている。
【0045】
外歯車部材5は、外周部の上面側にリング状の外歯車5aを有している。また、外歯車部材5の内周面には、均熱板7に設けられた下向きの係止段部7bに対応した、上向きの係止段部5bが設けられている。
【0046】
図6は、本実施形態の気相成長装置31を構成するサセプタ2と、自転機構の構成を説明するための平面図である。
また、
図6(b)には、転動部材4の軸受部2aへの組み付けの様子が示されている。さらに、
図6(c)には、外歯車部材5および固定歯車部材8のサセプタ2への組み付けの様子が示されている。
【0047】
なお、自転機構である外歯車部材5は、上述した特許文献1に開示されているような、均熱板の外周側に一体に形成されるものであってもよい。また、固定歯車8は、サセプタが中心軸回転の場合には、特許文献1に開示されているように、サセプタの外周側に設けられていてもよい。
【0048】
<加熱手段>
図7は、本実施形態を構成するサセプタ2の開口部2Aと、加熱手段である分割抵抗体9との関係を説明するための平面図である。
図1及び
図7に示すように、分割抵抗体(加熱手段)9は、チャンバー本体1b内において、サセプタ2の裏面側に配置されており、サセプタ2の裏面側からサセプタ2と共に均熱板7を加熱するように設けられている。
【0049】
分割抵抗体9は、円周方向にリング状に分割された電気的抵抗体(9a〜9f)から構成されている。これらの電気的抵抗体9a〜9fは、基板6の面内の温度分布を均一にできるように、それぞれに流れる電流を個別に制御できるようになっており、開口部2A内を部分的に個別に加熱できるようになっている。なお、本実施形態では抵抗体の分割数を6分割とした構成を一例として説明しているが、基板の大きさに合わせた均熱板の径などによって、分割数も適宜変更してもよい。
【0050】
分割抵抗体9は、サセプタ2および均熱板7を介して基板6を加熱することになるため、基板温度を1000℃以上にするためには、抵抗体の温度としては1400℃以上が要求される。さらに、原料ガスに対する耐食性も考慮して、このような抵抗体の材質は熱分解窒化ホウ素(PBN)や炭化珪素(SiC)をグラファイトに積層コーティングしたものが用いられる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の気相成長装置31によれば、回転対称体であって、自転機構を構成する転動部材4を軸受部2aとで挟み込む外歯車部材5上に外周部の少なくとも一部が載置される均熱板7が、裏面の外周部7cの高さがサセプタ2の裏面の高さと同じ位置であるとともに、この裏面の中心側から外周部7c側にわたって薄肉部7Bが設けられる構成となっている。これにより、従来の薄肉部が設けられていない均熱板と比較して軽量であるため、自転機構を構成する転動部材4等の摩耗に対する耐久性を改善することができる。
【0052】
また、薄肉部7Bの外周部7c側の側面7eは、断面視した際に、中央部7dとの境界がR(アール)形状となる曲面によって構成されている。このように、薄肉部7Bの外周部7c側が熱を受ける面積を大きくする形状となっているため、均熱板7の表面に基板6を載置した際に、基板6の表面の面内温度分布の均一性を担保することができる。
【0053】
さらに、分割抵抗体9によって加熱される均熱板7の裏面側に薄肉部7Bが設けられているため、この薄肉部が設けられていない均熱板と比較して、昇温速度を効率化し、生産性を高めることができる。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した実施形態の気相成長装置31では、薄肉部7Bが、均熱板7の裏面の中央部7dから外周部7c側に亘って連続するように設けられており、中央部7dが平坦面、かつ外周部7c側の側面7eが断面視した際に、中央部7dとの境界がR(アール)形状となる曲面によって構成された構成を一例として説明したが、これに限定されるものではない。具体的には、例えば、薄肉部7Bの中央部7dが、平坦面でなくてもよい。また、外周部7c側の側面7eが断面視した際に、中央部7dとの境界が1段以上の傾斜面によって構成されていてもよい。
【0055】
また、薄肉部7Bは、均熱板7の裏面において、中心側から外周部側の間のいずれかの位置に周方向の全体に亘るように設けられていればよく、中央部7dが薄肉部7Bに含まれない構成、例えば、環状(ドーナツ状、リング状)の溝であってもよい。
【0056】
また、本実施形態の気相成長装置31では、
図4に示すように、均熱板7が単一の部材で構成されており、均熱板7の上面の中央部分を基板6の厚さ分だけ掘り下げることにより、基板6を載置するための基板保持部7aが設けられた構成について説明したが、これに限定されるものではない。
【0057】
具体的には、例えば、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、均熱板が2以上の部材によって構成されていてもよい。また、基板保持部7aは、
図8(a)に示すように、別体のプレートリング7Cを均熱板7の上面の外周側に配置することによって形成される凹み部分としてもよい。また、
図8(b)に示すように、均熱板7の表面(上面)の全体を覆う形状であって、均熱効果を有する別体の基板トレイ7Dに形成された凹み部分としてもよい。
【0058】
なお、
図8(a)に示すように、均熱板7がプレートリング7Cを有する構成である場合、プレートリング7Cの基板表面側の表面位置から均熱板7の裏面までの厚みdpが、サセプタ2の厚さDsと同じであればよい。また、
図8(b)に示すように、均熱板7が基板トレイ7Dを有する構成である場合、基板トレイ7Dの基板表面側の表面位置から均熱板7の裏面までの厚みdtが、サセプタ2の厚さDsと同じであればよい。
【0059】
また、均熱板が2以上の部材によって構成される場合、均熱板の裏面(底面)の外周部上に、熱のばらつきを補正あるいは補填するために、別体の傾斜(アール形状を設けた)リングを配置し、これによって形成される凹み部分を薄肉部としてもよい。
【0060】
また、本実施形態の気相成長装置31では、
図3に示すように、サセプタ2が単一の部材である構成を一例として説明したが、これに限定されるものではない。具体的には、例えば、
図9に示すように、サセプタ2の表面に、石英やグラファイト製のサセプタカバー11を設ける構成としてもよい。サセプタ2の表面にサセプタカバー11を設けることにより、サセプタ2の表面に生成物が付着しないようにすることができる。
【0061】
なお、
図9に示すように、サセプタ2の表面にサセプタカバー11を有する構成である場合、サセプタ2とサセプタカバー11との合計の厚みDs+cが、均熱板7の厚みdと同じであればよい。
【0062】
また、サセプタカバー11以外にも、原料ガス導入ノズル33から均熱板7までの間に設置される、本実施形態における固定歯車部材8や、原料ガスの温度上昇を抑えるためにサセプタ2の表面を石英などの赤外線透過率の高い部材でカバーするような構成の場合においても、厚みにおいては、それぞれ同様に考えられる。
【0063】
以下、本発明の効果を、具体例を用いて詳細に説明する。
<検証試験1>
8インチ基板に対応した均熱板を有する気相成長装置において、
図10(a)〜(c)及び
図13(b)に示すような4種類の均熱板を用いて、基板の面内温度の均一性を確認した。なお、肉厚において、それぞれ基板保持部の深さは微小であるため、無視した。
【0064】
(実施例1)
図10(a)に示すように、均熱板7の裏面に薄肉部7B(平坦面、アール形状:曲率半径A)を設けた。なお、外周部の肉厚は2Aであり、中央部の肉厚はAであった。
【0065】
(実施例2)
図13(b)に示すように、均熱板7の裏面に薄肉部7B(平坦面、アール形状:曲率半径2A)を設けた。なお、外周部の肉厚は2Aであり、中央部の肉厚はAであった。
【0066】
(比較例1)
図10(b)に示すように、均熱板7の裏面に薄肉部を設けなかった。なお、外周部及び中央部の肉厚は、いずれも2Aであった。
【0067】
(比較例2)
図10(c)に示すように、均熱板7の裏面に薄肉部7B(平坦面のみ)を設けた。なお、外周部及び中央部の肉厚は、いずれもAであった。
【0068】
加熱手段となる分割抵抗体は、
図7と同様に、6分割とした。また、これらの投入電力比は、従来型の均熱板の標準比率を用いた。下記表1は、従来型の投入電力の標準比率である。
【0070】
なお、温度の測定は、サセプタが公転する際に、基板中心位置が通過する位置で連続的に測定した。温度測定には、ファイバー式放射温度計を用いた。また、基板の面内温度分布の評価は、基板保持部における最低温度と最高温度の温度差Δ(デルタ)が小さい方が良いとした。
【0071】
図11は、均熱板の形状と基板保持部の面内温度分布との関係を示す図である。また、下記表2に、均熱板形状における基板保持部の最低温度と最高温度との温度差Δを示す。
【0073】
図11に示すように、比較例1と実施例1を比較すると、実施例1は、基板の外周側にあたる部分の温度は低く、内周側にあたる部分の温度は高くなるが、中央部はわずかに温度が低くなり温度差Δは6℃程度であった。一方、比較例1は温度差Δが8℃程度になり、実施例1の面内温度分布がより良い結果となった。さらに、比較例2をみると、温度差Δは15℃もあり、特に基板の外周側にあたる部分の温度低下が顕著であった。これは上述したとおり、加熱手段からの輻射が凹み段部に影を作るため、その影響から均熱板の裏面外周部に十分に熱が加わらなかったためであると推察される。
【0074】
また、実施例1の基板保持部の中心位置の温度がその周囲温度よりも低下していることから、中心部の厚みをこれ以上薄くすると、中心位置の温度がより低下することが考えられ、面内温度分布が悪くなる懸念があった。このため、均熱板の中心部の厚みは外周部の厚みの半分以上であることが望ましいことが確認された。
【0075】
図12は、従来の昇温ステップを用いた際の、実施例1と比較例1との昇温速度の比較である。
図12に示すように、参照場所の温度が1000℃に加熱されるまでは3ステップを、1000℃を維持するために1ステップを、それらを合わせた計4ステップを用いて温度制御した。それぞれのステップには、それぞれに目標の投入電力比を設定し、参照温度が設定値に近づくように投入電力制御を行って昇温した。昇温ステップ1をみると、実施例1は温度が上がりやすく、比較例1が600℃に到達するのにおよそ5分であったものが、実施例1では3分ほどで到達した。
【0076】
このことは、裏面を抉った(掘り下げた)、すなわち、薄肉部を設けた均熱板は熱容量が従来よりも小さくなっているため、従来の均熱板に対応した投入電力設定は余剰であることを示している。したがって、投入電力を従来通りとすれば、より昇温速度を速くでき、昇温速度を従来通りとすれば、投入電力を少なくする省力化が可能であることがわかった。
【0077】
<検証試験2>
図13に示すように、実施例1と実施例2とは、断面視した際に、均熱板の平坦面である中央部と外周側の側面部との境界となるアール形状の曲率半径が違っており、実施例2の方が大きな曲率半径となっている。このため、
図11及び表2に示すように、面内温度分布の評価では、共に温度差Δが6℃程度となり、差異がみられなかった。
【0078】
ところで、本発明の課題から、均熱板の重さを軽くするためには、このアール形状の曲率半径を小さくする方が、抉り取られる体積が大きくなるので、より軽くなることが期待される。しかしながら、アール形状が抉り深さより小さくなると、より比較例2の形状に近くなっていくので、面内温度分布が悪くなることが明らかである。よって、アール形状の曲率半径は、抉り深さと同等程度、もしくはそれ以上とすることが好ましいことがわかった。
【0079】
本発明の均熱板は、従来の薄肉部が設けられていない均熱板との重量比で50〜60%となり、軽量化が達成できた。これにより、転動部材ならびに周溝の摩耗に対する耐久性が向上することが期待される。また、薄肉部の外周部側の形状をアール形状とすることにより、基板の温度分布の面内均一性を向上させることができ、さらに昇温速度の効率化が可能であることがわかった。