(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記充電電源は、前記第1昇圧コンバータのオン時間を、PID(Proportional-Integral-Differential)あるいはPI(Proportional-Integral)制御によらない数値演算により求めることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のレーザ駆動装置。
【背景技術】
【0002】
産業用の加工ツールとして、レーザ加工装置が広く普及している。
図1は、レーザ加工装置1rのブロック図である。レーザ加工装置1rは、CO
2レーザなどのレーザ光源2と、レーザ光源2に交流電力を供給し、励振させるレーザ駆動装置4rを備える。レーザ駆動装置4rは、直流電源6および高周波電源8を備える。直流電源6は、PID(Proportional-Integral-Differential)制御やPI制御などを用いたフィードバック制御によってその出力である直流電圧V
DCを目標値に安定化させる。高周波電源8は、直流電圧V
DCを受け、それを交番電圧に変換して、負荷であるレーザ光源2に供給する。
【0003】
ドリル用のレーザ加工装置100rにおいて、レーザ光源2は不連続運転する。すなわち、比較的短い数マイクロ〜10マイクロ秒程度の発光期間と、それと同程度、あるいは短い、あるいは長い休止期間とが交互に繰り返される。レーザ光源2の出力エネルギーを安定化するためには、直流電圧V
DCが所定の許容変動範囲に収まっていなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図2は、
図1のレーザ加工装置1rの動作波形図である。本明細書において参照する波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0006】
レーザ光源2の点灯、消灯に応じて、高周波電源8は動作期間と休止期間を繰り返す。高周波電源8が休止期間から動作期間に移行するときに、直流電源6においてフィードバックの応答遅れが生じ、直流電圧V
DCが低下し、許容変動範囲から逸脱するおそれがある。高周波電源8の動作期間から休止期間に移行したときに、フィードバック遅れにより直流電圧V
DCが上昇し、許容変動範囲から逸脱するおそれがある。
【0007】
また異なる加工に切りかえる際に、直流電圧V
DCの目標値を切りかえる場合がある。ここでも直流電源6の応答速度が遅いと、直流電圧V
DCが次の目標値に到達するまでの遷移時間が長くなる。遷移時間の間は、レーザ光源2を発光させることができないため、稼働率の低下の要因となる。
【0008】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、出力エネルギーを安定化可能なレーザ駆動装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様はレーザ駆動装置に関する。レーザ駆動装置は、バンクコンデンサと、入力がバンクコンデンサと接続され、レーザ光源に交番電圧を間欠的に供給する高周波電源と、高周波電源の休止期間にバンクコンデンサを目標電圧に充電する充電回路と、を備える。
【0010】
この態様では、バンクコンデンサが高周波電源に電力を供給する電源として振る舞う。充電電源によるバンクコンデンサの充電期間中、高周波電源は停止しており、したがって充電電源は実質的に無負荷の状態となる。したがって負荷変動中に電圧を安定化する必要がある従来の直流電源に比べて、短時間で安定的に、バンクコンデンサの電圧を目標電圧に充電することができ、出力エネルギーを安定化できる。
【0011】
充電電源は、第1昇圧コンバータを含んでもよい。
【0012】
第1昇圧コンバータは、不連続モードで動作してもよい。この場合、1回のスイッチングによりバンクコンデンサに供給される電荷量を、オン時間とリアクトルのインダクタンス、コンバータの入力電圧に応じて正確に制御することが可能となり、バンクコンデンサの電圧を正確に制御可能となる。
【0013】
充電電源は、リアクトルのインダクタンスが第1昇圧コンバータより小さい第2昇圧コンバータをさらに含んでもよい。これにより、第1昇圧コンバータによって、バンクコンデンサを粗い精度で急速に充電し、第2昇圧コンバータによってバンクコンデンサを高い精度で正確に充電でき、バンクコンデンサの電圧を一層、目標電圧に近づけることが可能となる。
【0014】
第1昇圧コンバータによるバンクコンデンサの充電動作の後に、第2昇圧コンバータによるバンクコンデンサの充電動作に移行してもよい。
【0015】
第1昇圧コンバータは、ダイオード整流型であり、第2昇圧コンバータは、同期整流型であってもよい。第2昇圧コンバータは、充電および放電が可能となり、バンクコンデンサの電圧のより精密な調節が可能となる。
【0016】
充電電源は、第1昇圧コンバータのオン時間を、数値演算により求めてもよい。充電開始前のバンクコンデンサの電圧と、その目標電圧の差分から、バンクコンデンサに供給すべき電荷量が計算でき、さらにはオン時間を計算することができる。これによりPI制御やPID制御が不要となり、応答遅れが小さくなる。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のある態様によれば、出力エネルギーを安定化できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
図3は、実施の形態に係るレーザ加工装置1のブロック図である。レーザ加工装置1は、レーザ光源2およびレーザ駆動装置100を備える。レーザ光源2は、たとえばCO
2レーザである。レーザ駆動装置100は、レーザ光源2に交流電力を供給し、励振させる。
【0022】
レーザ駆動装置100は、充電電源102、バンクコンデンサ104、高周波電源106を備える。高周波電源106は、その入力108がバンクコンデンサ104と接続され、その出力がレーザ光源2に接続されている。高周波電源106は、バンクコンデンサ104に生ずる直流電圧V
DCを受け、レーザ光源2に交番電圧(駆動電圧)V
DRVを間欠的に供給する。すなわち、レーザ光源2の発光期間において高周波電源106はスイッチング動作し、レーザ光源2の消灯期間において高周波電源106のスイッチングは停止する。高周波電源106がスイッチングする期間を動作期間、スイッチングが停止する期間を休止期間という。高周波電源106の構成は特に限定されず、公知技術を用いればよい。
【0023】
バンクコンデンサ104は、それ単体で高周波電源106に電力を供給する蓄電デバイスのような直流電源と把握することができる。充電電源102は、高周波電源106の休止期間中にバンクコンデンサ104を目標電圧V
REFに充電する。高周波電源106の動作期間中は、バンクコンデンサ104への充電が停止するため、バンクコンデンサ104の電圧V
DCは、高周波電源106による放電により低下する。したがってバンクコンデンサ104の容量は、高周波電源106による放電の過程においても、直流電圧V
DCが許容範囲を下回らないように設計される。
【0024】
以上がレーザ加工装置1の構成である。続いてその動作を説明する。
図4は、
図3のレーザ加工装置1の動作波形図である。高周波電源106は、5kHz程度の繰り返し周波数、デューティ比5%程度で間欠動作する。高周波電源106の動作期間中において、バンクコンデンサ104が高周波電源106に電力を供給する電源として振る舞う。この間、充電電源102は停止しており、放電によってバンクコンデンサ104の直流電圧V
DCは低下する。ただし、バンクコンデンサ104の容量は十分に大きいため、直流電圧V
DCは許容電圧範囲を下回らない。
【0025】
高周波電源106の動作が停止し、休止期間に入ると、充電電源102によるバンクコンデンサ104の充電が開始し、バンクコンデンサ104が目標電圧V
REFに充電される。レーザ加工装置1はこの動作を繰り返す。
【0026】
以上がレーザ加工装置1の動作である。続いてその利点を説明する。
図1のレーザ加工装置1rでは、直流電源6は常時動作しており、したがってその負荷は動作中に大きく変動しており、これが出力電圧V
DCの変動の要因となっていた。これに対して
図3のレーザ加工装置1では、充電電源102によるバンクコンデンサ104の充電期間中、高周波電源106は停止しており、充電電源102は実質的に無負荷の状態となる。つまり負荷変動が生じない静的な状態で、バンクコンデンサ104を充電することとなる。したがって負荷変動中に電圧を安定化する必要がある
図1の直流電源6に比べて、短時間で安定的に、バンクコンデンサ104の電圧V
DCを目標電圧V
REFに充電することができ、ひいては出力エネルギーを安定化できる。
【0027】
本発明は、
図3のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0028】
図5は、
図2の充電電源102の構成例を示すブロック図である。充電電源102は、整流平滑化回路110、第1昇圧コンバータ112、第2昇圧コンバータ114を備える。整流平滑化回路110は、商用交流電圧V
ACを受け、それを整流、平滑化し、直流電圧V
INを生成する。たとえば商用交流電圧V
ACは、3相220Vであり、直流電圧V
INは300Vである。
【0029】
バンクコンデンサ104の電圧V
DCの目標電圧V
REFは、たとえば500Vである。第1昇圧コンバータ112は、直流電圧V
INを受け、バンクコンデンサ104に充電電流I
CHG1を供給する。第1昇圧コンバータ112は、バンクコンデンサ104を急速に充電する。第1昇圧コンバータ112は、リアクトルL1、スイッチングトランジスタM1、整流ダイオードD1を備えるダイオード整流型である。この第1昇圧コンバータ112が生成する充電電流I
CHG1は、バンクコンデンサ104を充電する方向にのみ流れる。
【0030】
第2昇圧コンバータ114は、バンクコンデンサ104を、第1昇圧コンバータ112よりも高い精度で正確に充電するために設けられる。第2昇圧コンバータ114は、リアクトルL2、スイッチングトランジスタM2、同期整流トランジスタM3を備える同期整流型である。この第2昇圧コンバータ114が生成する充電電流I
CHG2は、バンクコンデンサ104を充電する方向のみでなく、それを放電する方向にも流れることが可能である。電圧V
DCが目標値V
REFを超えた場合には、第2昇圧コンバータ114により、電圧
VDCを下げる方向に微調節可能となる。
【0031】
第1昇圧コンバータ112と第2昇圧コンバータ114の併用によって、第1昇圧コンバータ112によりバンクコンデンサ104の電圧V
DCを短時間で目標電圧V
REFに近づけ、第2昇圧コンバータ114により高い精度で、電圧V
DCを目標電圧V
REFにさらに近づけ、安定化することができる。
【0032】
ここで第1昇圧コンバータ112は、バンクコンデンサ104を急速充電する必要があり、1回のスイッチング動作で、なるべく多くの電流I
CHG1をバンクコンデンサ104に供給することが求められる。したがってリアクトルL1のインダクタンスは、大きい値が選択される。
【0033】
充電電荷量は、充電電流の時間積分量である。したがって一定の電荷量を充電する場合、電流ピーク値が高いほど、充電パルス時間幅は短くなる。言い換えると、インダクタンスが小さいほど、充電速度が速い。第2昇圧コンバータ114は数回のスイッチング動作で、バンクコンデンサ104の電荷を素早く微調節することが求められる。したがってリアクトルL2のインダクタンスは、リアクトルL1のそれよりも小さい値が好ましい。
【0034】
図6は、第1昇圧コンバータ112の動作波形図である。好ましくは第1昇圧コンバータ112は、不連続モード(Discontinuous Mode)で動作するように制御される。スイッチングトランジスタM1のオン時間T
ON1において、リアクトル電流I
L1は、式(1)にしたがい、傾きV
IN/L1で時間tと共に増加する。
I
L1=V
IN/L1×t …(1)
【0035】
スイッチングトランジスタM1のオン時間をT
ON1とするとき、リアクトル電流I
L1のピーク値I
PEAKは、式(2)となる。
I
PEAK=V
IN/L1×T
ON1 …(2)
【0036】
スイッチングトランジスタM1がオフすると、リアクトル電流I
L1は、式(3)にしたがい、傾き(V
DC+Vf−V
IN)/L1で時間tとともに減少する。Vfは整流ダイオードD1の順方向電圧である。通常のDC/DCコンバータであれば、V
DCは一定とみなせるが、
図5の充電電源102では、スイッチングトランジスタM1のオフ時間の間に、電圧V
DCが増加していくため、傾きは一定ではない。ただしここでは説明の容易化のため、電圧V
DCは一定であるものと仮定する。
I
L1=I
PEAK−(V
DC+Vf−V
IN)/L1×t …(3)
Vfを無視すれば、式(4)を得る。
I
L1=I
PEAK−(V
DC−V
IN)/L1×t …(4)
【0037】
図6のリアクトル電流I
L1のうち、ハッチングを付した部分が、整流ダイオードD1に流れ、充電電流I
CHG1としてバンクコンデンサ104に供給される。電流不連続モードで動作させることにより、1回のスイッチングによりバンクコンデンサ104に供給される電荷量を、オン時間T
ONとリアクトルL1のインダクタンス、コンバータの入力電圧V
INに応じて正確に制御することが可能となり、バンクコンデンサ104の電圧V
DCを正確に制御可能となる。
【0038】
続いてコンバータの制御方法について説明する。
【0039】
充電電源102の第1昇圧コンバータ112を、従来と同様にPID制御器やPI制御器を用いて制御すると、演算コストが多くなり、また遅延の要因となる。そこで本実施の形態では、第1昇圧コンバータ112のオン時間T
ON1を、PID制御器等によらない数値演算により求めることとしている。また第1昇圧コンバータ112は1回だけスイッチングするものとする。
【0040】
バンクコンデンサ104に供給すべき電荷量ΔQは、充電開始前のバンクコンデンサ104の電圧V
INITと、その目標電圧V
REFの差分から、式(5)にしたがって計算できる。C
BANKは、バンクコンデンサ104の容量である。
ΔQ=C
BANK×(V
REF−V
INIT) …(5)
【0041】
したがって、
図6の充電電流I
CHG1の積分値がΔQと等しくなるように、スイッチングトランジスタM1のオン時間T
ON1を計算すればよい。
ΔQ=∫I
CHG1dt=I
PEAK×T
D1/2=C
BANK×(V
REF−V
INIT)
…(6)
【0042】
具体的には、以下のようにオン時間T
ON1を計算してもよい。整流ダイオードD1に電流I
D1(すなわち充電電流I
CHG1)が流れる時間T
D1は、式(4)から計算でき、式(7)で表される。
T
D1=I
PEAK×L1/(V
DC−V
IN) …(7)
【0043】
式(7)を式(6)に代入すると、式(8)を得る。
I
PEAK×I
PEAK×L1/(V
DC−V
IN)/2=C
BANK×(V
REF−V
INIT)
…(8)
【0044】
式(8)に式(2)を代入し、T
ON1について解くと、式(9)を得る。
T
ON1=√{2×L1×C
BANK×(V
REF−V
INIT)×(V
DC−V
IN)/V
IN2}
…(9)
【0045】
これによりPI制御やPID制御が不要となり、応答遅れが小さくなる。なお、具体的な演算式はこれには限定されない。
【0046】
図7は、
図5の充電電源102の動作波形図である。高周波電源106の休止期間に入ると、はじめに第1昇圧コンバータ112によるバンクコンデンサ104の急速充電動作が行われる。続いて、第2昇圧コンバータ114のトランジスタM2,M3のスイッチングが開始し、バンクコンデンサ104の電圧V
DCがさらに目標電圧V
REFに近づけられる。
【0047】
第2昇圧コンバータ114についても、第1昇圧コンバータ112と同様に、PID制御器等によらない演算処理によって、スイッチングトランジスタM2および同期整流トランジスタM3のオン時間を決定してもよい。
【0048】
以上、本発明について、いくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0049】
図5の第1昇圧コンバータ112による充電により、電圧V
DCを目標値に十分近づけることが可能な場合、第2昇圧コンバータ114を省略してもよい。また上の説明では、第1昇圧コンバータ112を1回のみスイッチングさせることとしたが、2回あるいは3回程度、スイッチングさせてもよい。スイッチング回数は、バンクコンデンサ104の容量値と、リアクトルL1のインダクタンスに応じて規定すればよい。
【0050】
また充電電源102の第1昇圧コンバータ112や第2昇圧コンバータ114を、PID制御器によって制御してもよい。第1昇圧コンバータ112や第2昇圧コンバータ114の設計に際しては、負荷変動を考慮する必要がないため、フィードバックループを無負荷状態において安定となるように設計すればよい。したがって、
図1の直流電源6よりも応答性を高めることができる。
【0051】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。