(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッドモード光を粗面で散乱させて光ファイバ外に除去するモードストリッパは、表面の構造欠陥が多くなることからレーザ光を吸収しやすい。そのため、例えば、1kW以上のハイパワーのレーザ光を伝送するような場合、モードストリッパにおいて光ファイバ自身が著しく発熱し、それによって光ファイバの変形や溶融が生じ、延いては光コネクタが損傷を受ける虞がある。
【0005】
本発明の課題は、光ファイバの発熱を低く抑えることができるモードストリッパ構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光ファイバの外周面に多数の粒子状突起が一体に設けられて形成された凹凸面で構成されたモードストリッパ構造であって、前記凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以
下である。
【0007】
本発明は、外周面に多数の粒子状突起が一体に設けられて形成された凹凸面で構成されたモードストリッパ構造を有し、前記凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以
下である光ファイバにレーザ光を伝送するレーザ光の伝送方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モードストリッパ構造を構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以
下であるので、モードストリッパ構造においてクラッドモード光は、凹凸面で表面での光吸収が抑制され、主として屈折により光ファイバ外に除去され、そのため光ファイバの発熱を低く抑えることができる。また除外された光が、再度、光ファイバの表面から入射しても、表面での光吸収が抑制されるので、同様に光ファイバの発熱が抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1及び2は、実施形態1に係るモードストリッパ構造Mを含む光ファイバ心線10を示す。この光ファイバ心線10は、例えばレーザ加工機等に装着されるレーザ光伝送用の光ファイバケーブルに用いられるものである。
【0012】
この光ファイバ心線10は、光ファイバ11とそれを被覆するジャケット12とを有する。光ファイバ心線10の外径は例えば1.3mmである。
【0013】
光ファイバ11は、相対的に高屈折率なコア11aとそれを被覆する相対的に低屈折率のクラッド11bとを有する。光ファイバ11は、例えば、コア11aがノンドープの純粋石英で形成されており、クラッド11bが屈折率を低下させるドーパント(F、B等)がドープされた石英で形成されている。光ファイバ11の外径は例えば500μmである。コア11aの直径は例えば100μmである。コア11aの開口数(NA)は例えば0.20である。なお、光ファイバ11は、複数のコアを有するマルチコア光ファイバであってもよい。また、光ファイバ11は、クラッド11bの外側を更に被覆するサポート層を有していてもよい。
【0014】
ジャケット12は、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等で形成された単一層で構成されていてもよく、また、例えばシリコーン樹脂の内側バッファ層とそれを被覆するナイロン樹脂或いはフッ素樹脂の外側被覆層との2層で構成されていてもよい。
【0015】
光ファイバ心線10の端部は、先端側のファイバ露出部分10aと、そのファイバ露出部分10aの後方側のジャケット12で被覆されたジャケット被覆部分10bとを含む。
【0016】
ファイバ露出部分10aは、ジャケット12が剥がされて光ファイバ11が突出するように露出している。そして、ファイバ露出部分10aの光ファイバ11の外周面13に実施形態1に係るモードストリッパ構造Mが構成されている。実施形態1に係るモードストリッパ構造Mは、ファイバ露出部分10aの光ファイバ11の一定長さ部分に構成されていても、また、全長に渡って構成されていても、どちらでもよい。実施形態1に係るモードストリッパ構造Mの長さは例えば10〜100mmである。
【0017】
実施形態1に係るモードストリッパ構造Mが構成されたファイバ露出部分10aの光ファイバ11の外周面13には、各々、周方向に延びる複数の環状の凹溝14が長さ方向に間隔をおいて設けられている。これらの凹溝14の溝幅は例えば0.02〜1mm、溝深さは例えば0.01〜0.1mm、及び溝間隔は例えば0.05〜5mmである。そして、複数の凹溝14の溝側面部分13a及び溝底面部分13b並びに溝間部分13cを含む光ファイバ11の外周面13には、多数の粒子状突起15が一体に設けられて微細な凹凸面が形成されており、その凹凸面で実施形態1に係るモードストリッパ構造Mが構成されている。
【0018】
実施形態1に係るモードストリッパ構造Mは、凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下、又は、25nm以上である。このような実施形態1に係るモードストリッパ構造Mによれば、モードストリッパ構造Mを構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下、又は、25nm以上であるので、モードストリッパ構造Mにおいてクラッドモード光は、凹凸面で表面での光吸収が抑制され、主として屈折により光ファイバ11外に除去され、そのため光ファイバ11の発熱を低く抑えることができる。また除外された光が、再度、光ファイバの表面から入射しても、表面での光吸収が抑制されるので、同様に光ファイバの発熱が抑えられる。そして、その結果、光ファイバ11の変形や溶融を回避することができる。
【0019】
凹凸面の算術平均粗さ(Ra)は、0よりも大きく、また、25nm以上の場合においては、光ファイバ11の発熱を抑制する観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは500nm以上であり、また、好ましくは10000nm以下である。この算術平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡を用いて測定される。
【0020】
凹凸面の粒子状突起15の密度は、0以上であり、光ファイバ11の発熱を抑制する観点から、好ましくは2×10
6個/mm
2以下、より好ましくは1×10
6個/mm
2以下、更に好ましくは7×10
5個/mm
2以下である。この粒子状突起15の密度は、原子間力顕微鏡により観察される表面画像において所定の面積範囲に含まれる粒子状突起15の数を計測し、それを1mm
2の面積当たりに換算することにより求められる。
【0021】
以上の構成の実施形態1に係るモードストリッパ構造Mは、ファイバ露出部分10aの光ファイバ11の外周面13にレーザ加工により凹溝14を形成し、その際に発生するヒュームの雰囲気に配置することにより、光ファイバ11の複数の凹溝14の溝側面部分13a及び溝底面部分13b並びに溝間部分13cを含む外周面13に、光ファイバ11の最外層のクラッド11b(或いはサポート層)とほぼ同一材料の粒子が融着乃至付着し、その結果、多数の粒子状突起15が一体に設けられて形成された凹凸面が構成されることによって得ることができる。そして、このとき、レーザ光のパワーや走査速度の調整、或いは、ヒュームの濃度調整操作により、凹凸面の算術平均粗さ(Ra)及び粒子状突起15の密度を制御することができる。なお、この場合、光ファイバ11における溝間部分13cにおける外径は、粒子状突起15の形成によりその他の部分の外径よりも僅かに大きい。
【0022】
図3は、光ファイバ心線10に光コネクタ20を取り付けた光コネクタ構造Cを示す。この光コネクタ構造Cは、例えばレーザ加工機等に装着されるレーザ光伝送用の光ファイバケーブルの入射端部及び/又は出射端部に構成されるものである。
【0023】
光コネクタ20は、筒状部材により構成されたコネクタ本体21を有する。コネクタ本体21の内部には、中間部に長さ方向に延びるように形成された内径の大きいファイバ収容空間21aが設けられ、且つその後方に連続して形成された内径の小さい心線嵌入部21bが設けられている。また、コネクタ本体21の内部のファイバ収容空間21aの先端側には、ファイバ収容空間21aに連続するように形成されたブロック収容空間21cが設けられている。ファイバ収容空間21aの先端部には環状の封止部材22が内嵌めされており、その封止部材22の開口には円筒状のファイバ保持部材23が内嵌めされている。コネクタ本体21におけるファイバ収容空間21aを形成する内壁は、損傷し易いジャケット部に除去されたクラッドモード光が容易に届かないように粗面や溝形状に形成されていてもよい。ブロック収容空間21cには石英ブロック24が収容されている。
【0024】
この光コネクタ構造Cでは、光ファイバ心線10の端部が光コネクタ20の後方から挿通され、そして、ファイバ露出部分10aの先端部がファイバ保持部材23に内嵌めされて保持され、また、ファイバ露出部分10aの実施形態1に係るモードストリッパ構造Mが構成された部分がファイバ収容空間21aを長さ方向に延び、更に、ジャケット被覆部分10bが心線嵌入部21bに内嵌めされて保持されている。ファイバ保持部材23から露出したファイバ露出部分10aの先端はブロック収容空間21cに収容された石英ブロック24に融着接続されている。ジャケット被覆部分10bのジャケット12の端面はファイバ収容空間21aに露出している。
【0025】
以上の構成の光コネクタ構造Cにおいて、光源からのレーザ光の出力を開始すると、入射端部側では、石英ブロック24を介して入射した光は、主には光ファイバ11のコア11aに入射して伝搬する。しかしながら、入射端部側の光コネクタ20内においては、光源からのレーザ光のうち軸ずれ等のために光ファイバ11の開口数(NA)を越えた光やコア11aに入射されない漏れ光がクラッド11bにクラッドモード光として入射することがあり、また、出射端部側の光コネクタ20内においては、同様に、レーザ光照射対象からの反射光がクラッド11bにクラッドモード光として入射することがある。そして、これらのクラッドモード光は、クラッド11bと空気との界面で反射を繰り返してクラッド11bを伝搬するが、モードストリッパ構造Mにおいて、それを構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下、又は、25nm以上であるので、凹凸面で表面での光吸収が抑制され、主として光の屈折により光ファイバ11外に除去される。また除外された光が、ファイバ収容空間21aで反射して、再度、光ファイバの表面から入射しても表面での光吸収が抑制される。そのため光ファイバ11の発熱を低く抑えることができ、光ファイバ11の変形や溶融、或いは、光コネクタ20の損傷を回避することができる。
【0026】
(実施形態2)
図4及び5は、実施形態2に係るモードストリッパ構造Mを含む光ファイバ心線10を示す。なお、実施形態1と同一名称の部分は、実施形態1と同一符号で示す。
【0027】
この実施形態2では、ファイバ露出部分10aの光ファイバ11が先細ったテーパ形状に形成されている。そして、光ファイバ11のテーパ形状の外周面13には、多数の粒子状突起15が一体に設けられて微細な凹凸面が形成されており、その凹凸面で実施形態2に係るモードストリッパ構造Mが構成されている。この実施形態2に係るモードストリッパ構造Mは、凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下、又は、25nm以上である。
【0028】
以上の構成の実施形態2に係るモードストリッパ構造Mは、ファイバ露出部分10aの光ファイバ11の外周部をレーザ加工により研削してテーパ形状に形成し、その際に発生するヒュームの雰囲気に配置することにより、光ファイバ11のテーパ形状の外周面13に、クラッド11b(或いはサポート層)とほぼ同一材料の粒子が融着乃至付着し、その結果、多数の粒子状突起15が一体に設けられて形成された凹凸面が構成されることによって得ることができる。そして、このとき、レーザ光のパワーや走査速度の調整、或いは、ヒュームの濃度調整操作により、凹凸面の算術平均粗さ(Ra)及び粒子状突起15の密度を制御することができる。
【0029】
その他の構成及び作用効果は実施形態1と同一である。
【0030】
(その他の実施形態)
実施形態1では、光ファイバ11の外周面13に、各々、周方向に延びる複数の環状の凹溝14が長さ方向に間隔をおいて設けられた構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、
図6に示すように、凹溝14が長さ方向に螺旋状に延びるように設けられた構成であってもよい。
【実施例】
【0031】
(光ファイバ心線)
実施例1及び2並びに比較例の光ファイバ心線を作製した。それぞれの構成を表1にも示す。
【0032】
<実施例1>
レーザ光のパワー及び走査速度の調整、並びにヒュームの濃度調整操作により、モードストリッパ構造を構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)を0.44nm、且つ粒子状突起の密度を1.00×10
0個/mm
2にした実施形態1と同様の構成の光ファイバ心線を作製し、それを実施例1とした。なお、凹凸面の表面の算術平均粗さ(Ra)、並びに粒子状突起の密度及び外径は、上記の通り、原子間力顕微鏡を用いて求めた。
【0033】
<実施例2>
モードストリッパ構造を構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)を31.4nm、且つ粒子状突起の密度を6.40×10
5個/mm
2にしたことを除いて実施例1と同様にして光ファイバ心線を作製し、それを実施例2とした。
【0034】
<比較例>
モードストリッパ構造を構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)を3.12nm、且つ粒子状突起の密度を2.24×10
7個/mm
2にしたことを除いて実施例1と同様にして光ファイバ心線を作製し、それを比較例とした。
【0035】
【表1】
【0036】
(試験評価方法)
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれについて、一方端から75Wのレーザ光(λ=1060nm)を光ファイバのクラッドに入射し、モードストリッパ構造の表面の温度上昇を測定した。
【0037】
(試験評価結果)
図7は、凹凸面の算術平均粗さ(Ra)とモードストリッパ構造の表面の温度上昇及び粒子状突起の密度との関係を示す。なお、結果は表1にも示す。
【0038】
これらの結果によれば、実施例1及び2では、モードストリッパ構造の表面の温度上昇が30℃台と小さいのに対し、比較例では、モードストリッパ構造の表面の温度上昇が275℃と非常に大きいことが分かる。これは、モードストリッパ構造を構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下、又は、25nm以上である実施例1及び2では、モードストリッパ構造においてクラッドモード光は、凹凸面で表面での光吸収が抑制され、主として屈折により光ファイバ外に除去されるのに対し、モードストリッパ構造を構成する凹凸面の算術平均粗さ(Ra)が3.12nmである比較例では、モードストリッパ構造においてクラッドモード光は、主として凹凸面で光吸収が生じる散乱により光ファイバ外に除去されるためであると考えられる。