特許第6661510号(P6661510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661510
(24)【登録日】2020年2月14日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】ヘッドライトテスタ
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/06 20060101AFI20200227BHJP
   B60Q 1/068 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   G01M11/06
   B60Q1/068 100
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-200823(P2016-200823)
(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公開番号】特開2018-54586(P2018-54586A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年3月1日
(31)【優先権主張番号】特願2016-185374(P2016-185374)
(32)【優先日】2016年9月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【弁理士】
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 信壽
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−17934(JP,A)
【文献】 特開2013−134200(JP,A)
【文献】 特開昭61−126444(JP,A)
【文献】 特開昭56−106132(JP,A)
【文献】 米国特許第4647195(US,A)
【文献】 発明協会公開技報公技番号2009−504116
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/06
B60Q 1/068
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のヘッドライトのカットオフラインのエルボ点を測定可能なヘッドライトテスタであって、該ヘッドライトテスタは、
ヘッドライトに対向配置されヘッドライトに対してY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を複数測定可能な受光部と、
前記受光部により測定される複数の光度列に対して、各光度列の光度の対数の勾配が最大となる測定点を明暗の境界点としてそれぞれ求め、複数の光度列のそれぞれの明暗の境界点を端から繋げた境界点列を求め、境界点列の中でY軸方向への変化の大きい明暗の境界点を変曲点として特定し、変曲点で境界点列を左右に分け、左右の境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求め、左右の回帰直線の交点をエルボ点として出力する計測部と、
を具備することを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドライトテスタにおいて、前記計測部は、回帰直線を求める際に、各明暗の境界点から回帰直線までの距離の二乗和が最小となるように回帰直線を求めることを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のヘッドライトテスタにおいて、前記計測部は、変曲点を特定する際に、3つの明暗の境界点を通る円の曲率を求め、円の曲率が極大となる3つの明暗の境界点の中央の座標を変曲点として特定することを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項4】
請求項3に記載のヘッドライトテスタにおいて、左側通行用の車両のヘッドライトの場合、前記計測部は、変曲点が1つだけ特定されるときは、変曲点が特定される際の曲率の符号に応じて、左上がりカットオフラインとしてエルボ点を出力するか、エラー処理を行うことを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項5】
請求項3に記載のヘッドライトテスタにおいて、左側通行用の車両のヘッドライトの場合、前記計測部は、変曲点が2つ特定されるときは、2つの変曲点が特定される際の曲率の符号に応じて、Z型カットオフラインとして2つの変曲点で境界点列を3つに分け、右側の変曲点で左右に分けられる境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求め、左右の回帰直線の交点をエルボ点として出力するか、エラー処理を行うことを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載のヘッドライトテスタにおいて、前記受光部は、光センサと、該光センサをヘッドライトに対してX軸方向及びY軸方向に移動制御する位置制御部と、からなることを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載のヘッドライトテスタにおいて、前記受光部は、Y軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を測定可能な1次元光センサと、該1次元光センサをヘッドライトに対してX軸方向に移動制御する位置制御部と、からなることを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載のヘッドライトテスタにおいて、前記受光部は、X軸及びY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を測定可能な2次元光センサからなることを特徴とするヘッドライトテスタ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れかに記載のヘッドライトテスタであって、さらに、前記計測部により出力されるエルボ点を用いて、エルボ点が所定の位置となるようにヘッドライトと受光部との配置位置合わせを行うことを特徴とするヘッドライトテスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドライトテスタに関し、特に、車両のヘッドライトの配光パターンを測定可能なヘッドライトテスタに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のヘッドライトは、走行用前照灯とすれ違い用前照灯がある。そして、すれ違い用前照灯は、自車が走行する路面方向においては障害物等を見やすく照射するために十分な光度を有することが必要である一方、対向車の運転者や先行車の後写鏡の方向ではそれらの運転者に眩惑を与えないように光度を抑える必要がある。そこで、多くの車両のヘッドライトでは、例えば左側通行用のすれ違い用前照灯の配光パターンとして、右側に水平な明暗の境界線を有しつつ、左側に10度から15度程度の左上がりの明暗の境界線を有する左上がりカットオフラインを採用している。また、車両の中には、左上がりの明暗の境界線が途中で折れ曲がって水平になっている所謂Z型カットオフラインを採用しているものも存在する。
【0003】
車両のヘッドライトの配光パターンにおいて、標準的な照射方向としては、上下方向については右側の水平な明暗の境界線が水平線よりも0.57度下を照射するように設定され、左右方向については右側の水平な明暗の境界線と左上がりの明暗の境界線との交点であるエルボ点が、車両の進行方向と一致するように設定することとなっている。
【0004】
ヘッドライトテスタは、このような配光パターンを測定し、道路運送車両の保安基準に適合していることを確認するために用いられるものである(例えば特許文献1−3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−255004号公報
【特許文献1】特開2013−134199号公報
【特許文献1】特開2013−134200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のヘッドライトテスタで配光パターンを測定した場合、目視の配光パターンとの相関性が低く、そもそも測定不能な場合や測定精度が低下する場合があった。このため、目視の配光パターンと一致するヘッドライトテスタの開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、目視の配光パターンと一致するカットオフラインのエルボ点を出力可能なヘッドライトテスタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明によるヘッドライトテスタは、ヘッドライトに対向配置されヘッドライトに対してY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を複数測定可能な受光部と、受光部により測定される複数の光度列に対して、各光度列の光度の対数の勾配が最大となる測定点を明暗の境界点としてそれぞれ求め、複数の光度列のそれぞれの明暗の境界点を端から繋げた境界点列を求め、境界点列の中でY軸方向への変化の大きい明暗の境界点を変曲点として特定し、変曲点で境界点列を左右に分け、左右の境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求め、左右の回帰直線の交点をエルボ点として出力する計測部と、を具備するものである。
【0009】
ここで、計測部は、回帰直線を求める際に、各明暗の境界点から回帰直線までの距離の二乗和が最小となるように回帰直線を求めるものであれば良い。
【0010】
また、計測部は、変曲点を特定する際に、3つの明暗の境界点を通る円の曲率を求め、円の曲率が極大となる3つの明暗の境界点の中央の座標を変曲点として特定するものであれば良い。
【0011】
また、左側通行用の車両のヘッドライトの場合、計測部は、変曲点が1つだけ特定されるときは、変曲点が特定される際の曲率の符号に応じて、左上がりカットオフラインとしてエルボ点を出力するか、エラー処理を行うものであれば良い。
【0012】
また、左側通行用の車両のヘッドライトの場合、計測部は、変曲点が2つ特定されるときは、2つの変曲点が特定される際の曲率の符号に応じて、Z型カットオフラインとして2つの変曲点で境界点列を3つに分け、右側の変曲点で左右に分けられる境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求め、左右の回帰直線の交点をエルボ点として出力するか、エラー処理を行うものであれば良い。
【0013】
また、受光部は、光センサと、該光センサをヘッドライトに対してX軸方向及びY軸方向に移動制御する位置制御部と、からなるものであれば良い。
【0014】
また、受光部は、Y軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を測定可能な1次元光センサと、該1次元光センサをヘッドライトに対してX軸方向に移動制御する位置制御部と、からなるものであれば良い。
【0015】
また、受光部は、X軸及びY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を測定可能な2次元光センサからなるものであっても良い。
【0016】
さらに、計測部により出力されるエルボ点を用いて、エルボ点が所定の位置となるようにヘッドライトと受光部との配置位置合わせを行っても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヘッドライトテスタには、目視の配光パターンと一致するカットオフラインのエルボ点を出力可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明のヘッドライトテスタを説明するための概略構成図である。
図2図2は、本発明のヘッドライトテスタの受光部の撮像面上の測定点の配置を説明するための概略図である。
図3図3は、本発明のヘッドライトテスタの受光部の詳細を説明するための概略図である。
図4図4は、本発明のヘッドライトテスタの受光部により測定される光度列の上下方向の配光分布の模式図である。
図5図5は、本発明のヘッドライトテスタの計測部において曲率を計算する際の明暗の境界点の選択手法を説明するための模式図である。
図6図6は、左側通行用の車両のヘッドライトの配光パターンを説明するための目視による配光パターンの明暗の境界線を示した図である。
図7図7は、本発明のヘッドライトテスタにより実際に測定されたカットオフラインの具体例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。本発明の車両のヘッドライトテスタは、ヘッドライトのカットオフラインのエルボ点を測定可能なものである。なお、カットオフラインとは、すれ違い用前照灯に対して、対向車の運転者や先行車の後写鏡の方向ではそれらの運転者に眩惑を与えないように上方向を照射する光がカットされているが、このカットされている部分と照射している部分の明暗の境界線である。また、ヘッドライトは、車両に取り付けられた状態だけでなく、ヘッドライト単体の場合も含むものである。
【0020】
図1は、本発明のヘッドライトテスタを説明するための概略構成図である。図示の通り、本発明のヘッドライトテスタ1は、受光部10と、計測部20から主に構成されている。ヘッドライトテスタ1は、例えば車両の前方1m程度にヘッドライト5に対向配置されるものである。具体的には、例えば車両のヘッドライト5からの照射光は、集光レンズ2により集光され、10m程度先の配光と相似となる配光を撮像面上に再現させるものとなっていれば良い。
【0021】
受光部10は、ヘッドライト5に対向配置される。受光部10は、光度を測定可能な光センサからなるものであり、例えば集光レンズ2を含むものである。より具体的には、受光部10は、集光レンズ2により集光される撮像面上に光センサが配置されるものである。そして、受光部10は、ヘッドライト5に対してY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を複数測定可能なものである。図2を用いて、受光部10の測定点についてより詳細に説明する。図2は、本発明のヘッドライトテスタの受光部の撮像面上の測定点の配置を説明するための概略図である。図示の通り、受光部10は、Y軸に平行なある直線に沿う等間隔の測定点列((x,y),(x,y),(x,y),,,(x,y))の光度列(In1,In2,In3,,,Inm)を、Y軸に平行な複数の直線に対してそれぞれ測定可能なものである。ここで、光度は、照度等、光度に比例するものであれば良い。
【0022】
受光部10は、例えば1つの光センサをX軸方向及びY軸方向に移動させるものや、1次元光センサをY軸方向に配置しX軸方向に移動させるものや、2次元光センサを撮像面に合うように配置するもの等がある。受光部10については、既存の又は今後開発されるべきあらゆるものが適用可能である。
【0023】
具体的に、図3を用いて受光部の詳細を説明する。図3は、本発明のヘッドライトテスタの受光部の詳細を説明するための概略図である。
【0024】
図3(a)は、受光部10に1つの光センサ11aと位置制御部12とを用いる例である。図示の通り、この例では、1つの光センサ11aを用いている。この光センサ11aは、例えばフォトダイオード等の光電変換素子であり、1つの測定点に対する光度のみを測定可能なものである。そして、位置制御部12は、光センサ11aをヘッドライトに対してX軸方向及びY軸方向に移動制御する。即ち、光センサ11aを位置制御部12により格子状に移動させながら光度を測定する。これにより、受光部10は、光センサ11aをY軸方向に移動させながらY軸に平行なある直線に沿う等間隔の測定点列((x,y),(x,y),(x,y),,,(x,y))の光度列(In1,In2,In3,,,Inm)を測定可能となる。そして、これをX軸方向に移動しながら行うことで、撮像面のすべての測定点の光度列を測定可能となる。
【0025】
図3(b)は、受光部10に1次元光センサ11bと位置制御部12とを用いる例である。1次元光センサ11bは、例えばフォトダイオードを一列に並べた1次元イメージセンサであり、Y軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を測定可能なものである。そして、位置制御部12は、1次元光センサ11bをヘッドライトに対してX軸方向に移動制御する。即ち、Y軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を1度で測定しつつ、1次元光センサ11bを位置制御部12によりX軸方向に移動させながら光度を測定する。これにより、受光部10は、Y軸に平行なある直線に沿う等間隔の測定点列((x,y),(x,y),(x,y),,,(x,y))の光度列(In1,In2,In3,,,Inm)を測定可能となる。そして、1次元光センサ11bをX軸方向に移動しながらこのような測定を行うことで、撮像面のすべての測定点の光度列を測定可能となる。
【0026】
図3(c)は、受光部10に2次元光センサ11cを用いる例である。2次元光センサ11cは、例えばフォトダイオードを格子状に配置した2次元イメージセンサであり、X軸及びY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を測定可能なものである。また、デジタルビデオカメラ等を用いて撮影することにより輝度分布を測定しても良い。このような例では位置制御部は必要なく、X軸及びY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列を1度で測定することが可能である。これにより、受光部10は、Y軸に平行な複数の直線に沿う等間隔の測定点列((x,y),(x,y),(x,y),,,(x,y))の光度列(In1,In2,In3,,,Inm)を測定可能となる。これにより、撮像面のすべての測定点の光度列を測定可能となる。
【0027】
本発明のヘッドライトテスタは、このようにして測定された複数の光度列を用いて、計測部20によりカットオフラインのエルボ点を出力する。以下、計測部20の詳細について説明する。まず、各光度列に対して明暗の境界点を求める。ここで、明暗の境界点とは、光度の明暗の境の点である。本発明のヘッドライトテスタの計測部では、明暗の境界点は、各光度列の光度の対数の勾配が最大となる測定点を明暗の境界点として求められる。そして、複数の光度列のそれぞれの明暗の境界点を端から繋げた境界点列を求め、境界点列の中でY軸方向への変化の大きい明暗の境界点を変曲点として特定する。変曲点は、目視による配光パターンのエルボ点と一致するものである。本発明のヘッドライトテスタでは、変曲点で境界点列を左右に分け、左右の境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求め、左右の回帰直線の交点をエルボ点として出力する。
【0028】
本発明のヘッドライトテスタの計測部について、図4を用いてより具体的に説明する。図4は、本発明のヘッドライトテスタの受光部により測定される光度列の上下方向の配光分布の模式図である。図4(a)がY軸に平行な直線に沿う等間隔の測定点列の光度列であり、図4(b)が図4(a)の光度の対数であり、図4(c)が図4(b)の光度の対数の勾配をそれぞれ表している。より具体的には、Y軸に平行なある直線に沿うある測定点yの光度がI、ある測定点yの光度がIとすると、光度の対数の勾配G(光度比)は以下の数式で表すことが可能である。
【数1】
【0029】
ここで、log関数は単調増加関数であることと、光度の対数の勾配を計算する2点の間隔(y−y)が一定であることから、2点の光度の比率(I/I)が最大となる位置を探すのと同じ結果となる。このようにして各光度列に対して勾配Gが最大となる位置を求め、明暗の境界点とする。より具体的には、2点の間隔(y−y)は、集光レンズにもよるが例えば0.44度とし、これをY軸に平行な直線上で上から下に向かって例えば0.019度ずつ移動して光度の対数の勾配を計算する。そして、最大になる2点の座標が求められたら、その中間点を明暗の境界点とすれば良い。なお、2点における光度の対数の勾配(光度比)が最大となるものが複数存在した場合には、その中間点を明暗の境界点としても良い。また、光度の勾配計算の際の移動量が小さい場合には、簡易的に上側の測定点を明暗の境界点として用いるようにしても良い。
【0030】
次に、このようにして求められた複数の光度列のそれぞれの明暗の境界点を端から繋げた境界点列を求める。そして、境界点列の中で、Y軸方向への変化の大きい明暗の境界点を変曲点として特定する。例えば、単純にすべての明暗の境界点を端から端まで順に比較していき、変化が大きくなった明暗の境界点を変曲点として特定しても良い。
【0031】
また、本発明のヘッドライトテスタでは、以下のようにより効率良く変曲点を求めることが可能である。即ち、計測部20は、変曲点を特定する際に、連続する3つの明暗の境界点を通る円の曲率をまず求める。図5を用いてより具体的に説明する。図5は、本発明のヘッドライトテスタの計測部において曲率を計算する際の明暗の境界点の選択手法を説明するための模式図である。例えば連続する3点の明暗の境界点(x,y)、(x,y)、(x,y)を通る曲率(曲率半径の逆数)Cは、例えば以下の数式で表すことが可能である。なお、明暗の境界点のX軸方向の間隔が小さい場合(測定点が多い場合)、1つ又はそれ以上の間隔を置いて間引いて明暗の境界点を通る円の曲率を求めても良い。
【数2】
【0032】
本発明のヘッドライトテスタでは、上式のように、曲率は絶対値とせず、符号を保持している。この式では、曲率の符号が正の値の場合には下向きに凸となり、負の値の場合には上向きに凸となるため、曲率の向きも表現可能となる。また、明暗の境界点の3点が1本の直線上に並んだ場合、半径は無限大となって計算できないが、曲率であれば0となるので、計算上、3点が1つの直線状に並んだか否かの判断をする必要がない。したがって、プログラムの作成効率が良い。
【0033】
本発明のヘッドライトテスタでは、このようにして連続する3つの明暗の境界点を通る円の曲率を求め、円の曲率が極大となる3つの明暗の境界点の中央の座標を求め、これを変曲点として特定する。
【0034】
次に、変曲点で境界点列を左右に分け、左右の境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求める。さらに、左右の回帰直線の交点をエルボ点として出力すれば良い。ここで、回帰直線を求める際に、各明暗の境界点から回帰直線までの距離の二乗和が最小となるように回帰直線を決定しても良い。これにより得られた回帰直線は、目視による配光パターンの明暗の境界線と一致することになる。
【0035】
ここで、目視による明暗の境界線が鮮明な場合には、各明暗の境界点が回帰直線の近傍に集中し、不鮮明な場合には各明暗の境界点が回帰直線から離れて分散すると考えられる。したがって、最小となった残差(距離)の二乗和は、明暗の境界点列の質(明暗の境界線の明瞭度)を表す指標となる。但し、このパラメータは回帰直線を計算する明暗の境界点の数が多くなるほど大きくなる。そこで、好ましくは、各明暗の境界点から回帰直線までの距離を残差とし、残差(距離)の二乗和が最小となるように回帰直線を決定すると共に、最小となった残差の二乗和を明暗の境界点の数で割って平均を求め、さらにその平方根を求めたものを明暗の境界線の明瞭度を示す指標(以下、RMS値という。)とすれば良い。
【0036】
より具体的には、残差の二乗和を最小とする回帰直線を決定するにあたっては、簡略化するために以下のように計算する。即ち、まず以下の数式を用いて最小二乗法により回帰係数a及びy切片bを求める。
【数3】
【0037】
次に、以下の数式を用いて回帰係数a=tan(θ)が0になるように回転する座標変換行列R及びその逆行列Rinvを求める。
【数4】
【0038】
そして、明暗の境界点列に回転行列Rを掛け算して座標変換を行う。この状態で最小二乗法により回帰係数a'及びy切片b'を求めると、回帰係数a'は略0となる。したがって、残差|y−(a'x+b')|は回帰直線までの距離とみなすことができる。このとき、RMS値は以下の数式で表せる。
【数5】
【0039】
さらに、回帰直線y=a'x+b'に逆行列Rinvを掛けることにより、元の座標系における回帰直線に変換する。
【0040】
このようにして、左右の境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求めれば良い。この際、変曲点付近や境界点列の左右端で明暗の境界点が回帰直線から大きくずれる場合を想定し、これを回避するようにしても良い。即ち、各境界点列からその両端の明暗の境界点のいくつかを除外した場合の回帰直線も求め、回帰直線の中でRMS値が最小となる回帰直線を明暗の境界線とすることとしても良い。
【0041】
そして、このようにして求められた左右の回帰直線の交点をエルボ点として出力する。
【0042】
以下、図6に車両のヘッドライトの配光パターンをいくつか例示し、それに対して本発明のヘッドライトテスタによるカットオフラインのエルボ点の出力及びエラー処理について具体的に説明する。図6は、左側通行用の車両のヘッドライトの配光パターンを説明するための目視による配光パターンの明暗の境界線を示した図であり、図6(a)が左上がりカットオフラインの配光パターンであり、図6(b)がZ型カットオフラインの配光パターンである。
【0043】
まず、図6(a)の左上がりカットオフラインの配光パターンに対して本発明のヘッドライトテスタによりカットオフラインのエルボ点を出力する流れについて説明する。なお、受光部により測定される複数の光度列を用いて明暗の境界点を求める手法については上述した通りの手法で行えば良い。図示のような左側通行用の車両のヘッドライトに対して、本発明のヘッドライトテスタの計測部は、変曲点を特定する際に、3つの明暗の境界点を通る円の曲率を求め、円の曲率が極大となる3つの明暗の境界点の中央の座標を変曲点として特定する。この際、図示例の左上がりカットオフラインの配光パターンでは、変曲点が1つだけ特定されることになる。さらに、変曲点が特定される際の曲率の符号が正か負かを判断し、例えば数2を用いて曲率を計算した場合には、正の場合には左上がりカットオフラインであると判断し、エルボ点を出力すれば良い。一方、変曲点が特定される際の曲率の符号が負の場合には、エラー処理を行う。即ち、道路運送車両の保安基準に適合していない配光パターンと認定すれば良い。
【0044】
次に、図6(b)のZ型カットオフラインの配光パターンに対して本発明のヘッドライトテスタによりカットオフラインのエルボ点を出力する流れについて説明する。なお、受光部により測定される複数の光度列を用いて明暗の境界点を求める手法については上述した通りの手法で行えば良い。図示のような左側通行用の車両のヘッドライトに対して、本発明のヘッドライトテスタの計測部は、変曲点を特定する際に、3つの明暗の境界点を通る円の曲率を求め、円の曲率が極大となる3つの明暗の境界点の中央の座標を変曲点として特定する。この際、図示例のZ型カットオフラインの配光パターンでは、変曲点が2つ特定されることになる。さらに、変曲点が特定される際の曲率の符号の現れる位置を判断する。例えば数2を用いて曲率を計算した場合、左側の変曲点における曲率の符号が負、右側の変曲点における曲率の符号が正の場合には、Z型カットオフラインと判断し、2つの変曲点で境界点列を3つに分ける。Z型カットオフラインの場合、エルボ点は2つの変曲点のうちの右側の変曲点に対応する位置となるため、右側の変曲点で左右に分けられた境界点列に対してそれぞれ回帰直線を求めれば良い。回帰直線を求める手法については、上述した通りの手法で行えば良い。そして、右側の変曲点で左右に分けられた境界点列に対してそれぞれ求められた回帰直線の交点をエルボ点として出力すれば良い。一方、例えば数2を用いて曲率を計算した際に、左側の変曲点における曲率の符号が負、右側の変曲点における曲率の符号が正以外の場合にはエラー処理を行う。即ち、車両の保安基準に適合していない配光パターンと認定すれば良い。
【0045】
このように、3つの明暗の境界点を通る円の曲率を求め、円の曲率が最大となる3つの明暗の境界点の中央の座標を変曲点として特定していき、まず特定される変曲点が1つか2つかに応じて左上がりカットオフラインなのかZ型カットオフラインなのかを判別し、その上で、変曲点が特定される際の曲率の符号を判断してエルボ点を出力するかエラー処理を行うかを選択すれば良い。
【0046】
図7に、本発明のヘッドライトテスタにより実際に測定されたカットオフラインの具体例を示す。図7(a)が左上がりカットオフラインを、図7(b)がZ型カットオフラインを、図7(c)−図7(f)がエラー処理された各例をそれぞれ表している。これらの図に置いて、丸印は計測部により求められた明暗の境界点21点を示している。また、直線は計測部により求められた回帰直線である。
【0047】
図7(a)に示される例は、右側の明暗の境界点は略水平な直線上に存在しており、左側は左上がりの直線上に存在しており、明確に左上がりカットオフラインと判断された例である。
【0048】
図7(b)に示される例は、変曲点が2つ特定された例であり、左右の明暗の境界点は略水平な直線上に存在しており、中央は左上がりの直線上に存在しており、明確にZ型カットオフラインと判断された例である。
【0049】
図7(c)に示される例は、右側の明暗の境界点は右4度以上を除いて略水平な直線上に存在しており、左側も左上がりの直線上に存在しているように見えるが、その中間では傾きが徐々に変化して明確な変曲点が見られず、エラー処理が行われた例である。
【0050】
図7(d)に示される例は、すべての明暗の境界点は略水平な直線上に存在しており、変曲点及びエルボ点が特定できないため、エラー処理が行われた例である。
【0051】
図7(e)に示される例は、右側の明暗の境界点は略水平な直線上に存在しており、左側も4.5度以上を除いて左上がりの直線上に存在するように見えるが、回帰直線からのばらつきが大きいためRMS値が所定のしきい値を超えたため、エラー処理が行われた例である。
【0052】
図7(f)に示される例は、明暗の境界点がかなり上方で検出されており、すれ違い用前照灯ではなく走行用前照灯で測定されたものと判断してエラー処理が行われた例である。このように、本発明のヘッドライトテスタの計測部では、明暗の境界点の上下方向角度の範囲をエラー処理条件に加えることも可能である。
【0053】
さらに、本発明のヘッドライトテスタは、正確なエルボ点を測定することが可能なので、このエルボ点の位置を基準にヘッドライト5の照射方向を決定することも可能である。例えば、認証試験等において、まず車両を受光部10に対向配置するが、この際、通常は目視により照射方向を合わせていた。本発明のヘッドライトテスタでは、測定されたエルボ点を用いて、エルボ点が所定の位置となるようにヘッドライトと受光部の配置位置合わせを行うことが可能である。具体的には、測定されたエルボ点が受光部10の左右方向中心、即ち、左右0度となるように位置合わせすれば良い。また、受光部10の上下方向については、エルボ点が水平線よりも0.57度下になるように位置合わせすれば良い。位置合わせについては、位置制御部12を用いて光センサをヘッドライト5に対してX軸方向及びY軸方向に移動制御して、エルボ点の位置が所定の位置となるように位置合わせされれば良い。また、例えば車両やヘッドライト単体を回転台等に設置し、ヘッドライト5側の照射方向を受光部10に対して移動制御してエルボ点の位置が所定の位置となるように位置合わせしても良い。このように、本発明のヘッドライトテスタでは、測定されたエルボ点を用いてフィードバック制御によりヘッドライトの照射方向の位置合わせを行うことも可能である。
【0054】
なお、本発明のヘッドライトテスタは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
1 ヘッドライトテスタ
2 集光レンズ
5 ヘッドライト
10 受光部
11a 光センサ
11b 1次元光センサ
11c 2次元光センサ
12 位置制御部
20 計測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7