【文献】
Chemie Ingenieur Technik, 2013, Vol. 85, No. 1-2, pp. 103-110
【文献】
Cancer Gene Therapy, 2015, Vol. 22, pp. 72-78
【文献】
Cancer Gene Therapy, 2015, Vol. 22, pp. 85-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ナノ構造体が、ナノマトリックスであり、ナノマトリックスが、a)流動性ポリマー鎖のマトリックスと、b)前記流動性ポリマー鎖のマトリックスと結びついた抗CD3及び抗CD28抗体又はその抗原結合ドメインとを含み、ナノマトリックスのサイズが1〜500nmである、請求項3に記載の方法。
前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の遺伝子改変が、レンチウイルス、γ−、α−レトロウイルス、若しくはアデノウイルスを用いて前記細胞を形質導入することにより、又は核酸、タンパク質、部位特異的ヌクレアーゼ、自己複製型RNAウイルス、若しくは組込み能欠損レンチウイルスベクターを用いたエレクトロポレーション若しくはトランスフェクションにより実施される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の遺伝子改変が、レンチウイルスベクターを用いて前記細胞を形質導入することにより実施される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の磁気分離が、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の表面上の細胞表面マーカーに対して特異的な抗原結合分子を用いて実施される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の表面上の細胞表面マーカーに対して特異的な前記抗原結合分子が、マーカーCD2、CD3、CD4、CD8 CD25、CD28、CD27、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD95、CD127、CD137、α/βTCR、γ/δTCR、CCR7、PD−1、及びLag3からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の活性化、遺伝子改変、及び/又は増殖が、振盪条件により実施される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
前記振盪条件が、前記閉鎖型滅菌細胞培養システムの前記培養チャンバーを回転させることにより実施され、及び前記回転が、1〜120秒毎に、0より大きく最大70×gの間の遠心力を用い、1方向又は2方向で定期的に実施される、請求項9に記載の方法。
前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の遺伝子改変が、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)をコードするポリヌクレオチド配列の導入である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
前記遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体が、前記CAR又はTCRを発現し、及び前記CAR又はTCRを発現する前記細胞が、ステップg)が実施される前の追加の磁気分離において、前記CAR又はTCRを発現しない細胞から分離される、請求項14に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
遺伝子改変型T細胞の製造に関する現在の最新技術は、遺伝子改変型T細胞の製造の小さなステップを実施するために多数のデバイスを用いることにある。多くのステップは手動介入を必要とし、過誤のリスクを増大させる。本明細書では、すべてのステップが、単一のデバイス内で実施され、例示的には、単回使用閉鎖型滅菌チューブセット及びプログラム化されたソフトウェアを用いるCliniMACS Prodigy(登録商標)を使用する。驚くべきことに、手動プロセスと比較して、本発明の方法では、製造されたT細胞の形質導入効率はより高く、また遺伝子改変型T細胞による導入遺伝子発現量もより多くなる(
図8)。更に、多数の高度に生存性のT細胞を2週間未満にわたってロバストに生成することができる(
図8及び6)。本明細書に開示する本発明の方法と関連するこれらの長所は、例えばサンプリングのために、細胞をインキュベータから取り出す必要がない(そうでなければ、培養物の大幅な温度低下を引き起こす)ためにプロセス全期間にわたり高度に維持された環境(温度及び気体)に依り、また、チューブセット内での細胞の処理や取り扱いが穏和である一方、手動によるピペッティング操作がないこと、及び/又は強さの制御や標準化が困難であり、また細胞やプロセスにとって有害な剪断力を引き起こすシリンジが使用されないことによる。
【0010】
1つの態様では、本発明は、遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を生成する自動化プロセス(方法)であって、以下のステップ:
a)T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を含む細胞サンプルの提供、
b)遠心分離による細胞サンプルの準備、
c)T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の磁気分離、
d)調節剤を用いた、濃縮したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の活性化、
e)T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の遺伝子改変、
f)遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の培養チャンバー内での増殖、
g)培養したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の洗浄、
を含み、すべてのステップが、閉鎖型滅菌細胞培養システム内で実施されることを特徴とする、方法を提供する。
【0011】
前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を磁気分離するステップは、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の表面上の細胞表面マーカー、例えばマーカーCD2、CD3、CD4、CD8、CD25、CD28、CD27、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD95、CD127、CD137、α/βTCR、γ/δTCR、CCR7、PD−1、又はLag3等に対して特異的な抗原結合分子を用いて実施され得る。
【0012】
前記調節剤は、アゴニスト抗体、サイトカイン、組換え
共刺激分子(
costimulatory molecules)、及び小型の薬物阻害剤からなる群から選択され得る。好ましくは、前記調節剤は、ビーズ又はナノ構造体に結合している抗CD3及び抗CD28抗体又はそのフラグメントである。より好ましくは、調節剤は、ナノマトリックスであり、該ナノマトリックスは、a)流動性ポリマー鎖のマトリックス、及びb)前記流動性ポリマー鎖のマトリックスと結びついた抗CD3及び抗CD28抗体又はそのフラグメントを含み、該ナノマトリックスのサイズは1〜500nmである。抗CD3及び抗CD28抗体又はそのフラグメントは、流動性ポリマー鎖の同一のマトリックス又は異なるマトリックスと結びつけることができる。抗CD3及び抗CD28抗体、又はそのフラグメントが異なる流動性ポリマー鎖のマトリックスに結びつける場合には、T細胞の刺激のためのナノマトリックスを細かく調製することができる。ナノマトリックスは、生分解性であり得る。
【0013】
更に、前記小型のナノマトリックスの滅菌濾過は、例えば国際公開第2014/048920A1号に開示されているように可能であるが、これは、厳格なGMP標準を順守する条件下で、すなわち、閉鎖型滅菌細胞培養システムにおいて、T細胞をin vitroで長期的に増殖させるのに重要な特徴である。
【0014】
前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を遺伝子改変するステップは、形質導入、トランスフェクション、又はエレクトロポレーションにより実施され得る。
【0015】
好ましくは、形質導入は、レンチウイルス、γ−、α−レトロウイルス、若しくはアデノウイルスを用いて、又は核酸(DNA、mRNA、miRNA、アンタゴmir、ODN)、タンパク質、部位特異的ヌクレアーゼ(ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、CRISP/R)、自己複製RNAウイルス(例えば、ウマエンセファロパシーウイルス)、若しくは組込み能欠損レンチウイルスベクターによるエレクトロポレーション若しくはトランスフェクションを用いて実施される。
【0016】
より好ましくは、前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の遺伝子改変は、レンチウイルスベクターで前記細胞を形質導入することにより実施され得る。
【0017】
前記遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を増殖させるステップは、細胞培養物増殖用に適した細胞培地、例えばTexMACS GMP培地(Miltenyi Biotec GmbH社)等を前記培養チャンバーに添加することにより実施され得る。
【0018】
T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の前記活性化、遺伝子改変、及び/又は前記増殖は、振盪条件により実施され得る。好ましくは、振盪は、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の増殖中に実施される。好ましくは、培養チャンバー内の振盪(回転)は、培養チャンバー(遠心分離チャンバー)を、1〜120秒毎に、より好ましくは15〜60秒毎に、及び最も好ましくは30秒毎に回転させることにより、0より大きく(>)最大70×g(半径が6cmのチャンバー内で1〜1000rpm)の間の遠心力、及び1方向又は2方向で、より好ましくは、0.2〜17×g(半径が6cmのチャンバー内で50〜500rpm)、1方向又は2方向で、最も好ましくは、6×g(半径が6cmのチャンバー内で300rpm)、2方向で、単発的に又は定期的に行われる。重要なこととして、振盪条件は、T細胞増殖を最良に支援するために、培養中に修正可能である(一般的に、細胞密度が高いほど強い)。
【0019】
前記活性化は、活性化される細胞が0.2e
6個/ml〜4e
6個/mlの間の、好ましくは細胞0.5e
6個/ml〜2e
6個/mlの間の、及び最も好ましくは、細胞1e
6個/mlである細胞密度を用いて実施され得る。或いは、前記活性化は、活性化される細胞が4e
6個/ml〜2e
7個/ml、好ましくは、細胞4e
6個/ml〜1e
7個/mlの間である、高細胞密度を用いて実施され得る。
【0020】
従来の方式では、T細胞密度が低い(すなわち、<1e
6個/mlのT細胞、又は<2e
6個/mlのPBMC細胞)低密度において、T細胞を活性化し、増殖させる。通常は、高いT細胞密度(>3e
6個/mlのT細胞、又は5e
6個/mlのPBMC細胞)では、適切に活性化できない。したがって、本発明のプロセスにおいて、高密度のT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を活性化させ、次に振盪条件下において増殖させた場合(おそらくは、前記細胞の遺伝子改変前又は後において)、相乗的効果を認めることができるのは驚きである。これは、非常に多数の遺伝子改変した細胞を迅速に実現する(
図9を参照)。多数の細胞を例えば上記のような可溶性ナノマトリックスで活性化することと、増殖中の振盪条件との組み合わせのこの予期せぬ相乗的効果に起因して、自動化プロセスは、当技術分野において公知の方法と比較して短時間(すなわち、14〜28日間ではなく、8日間)で、治療で用いられる多数の改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を生成できる。
【0021】
前記遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体は、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、又は任意のアクセサリー分子をその細胞表面上で発現するように、遺伝子改変され得る。
【0022】
最終的に製剤する場合、増殖させ、遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を、遠心分離、及び生成した細胞組成物を患者に注入すること等の後続の用途に適するバッファーを用いた培養培地交換により洗浄する。
【0023】
必要な場合には、遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体は、例えば用いられる閉鎖型滅菌細胞培養システムに組み込まれた磁気分離技術を再度用いて、改変されていないT細胞から分離することができる。
【0024】
別の態様では、本発明は、本発明の方法により得られる遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の実質的に純粋な組成物を提供する(
図10を参照)。
【0025】
更なる態様では、本発明は、本発明の方法により得られる遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の医薬組成物を提供する。
【0026】
例示的に、CliniMACS Prodigy(登録商標)及び関連するチューブセット(Miltenyi Biotec GmbH社、ドイツ)が、閉鎖型細胞サンプル処理システムとして本明細書で用いられ、そのようなシステム上で自動化プロセスを実施した。このシステムは、国際公開第2009/072003号に詳細に開示されている。但し、本発明の方法の使用を、CliniMACS Prodigy(登録商標)システムに限定するつもりはない。
【0027】
CliniMACS Prodigy(登録商標)システムは、細胞製品製造プロセス全体を自動化及び標準化するように設計されている。同システムは、CliniMACS(登録商標)分離技術(Miltenyi Biotec GmbH社、ドイツ)を、広範なセンサー制御式細胞処理能力と組み合わせる。該デバイスの際立った特徴として下記事項が挙げられる:
・細胞の処理及び培養の標準化を可能にする使い捨て型CentriCult(商標)チャンバー
・単独で、又はCliniMACS(登録商標)試薬(Miltenyi Biotec GmbH社)と併用して細胞を濃縮する及び枯渇させる能力
・温度及びCO2気体交換制御による細胞培養物及び細胞増殖能力
・事前に定義された培地及び容積での最終生成物の製剤
・柔軟なプログラミングスイート(FPS)及び細胞処理をカスタマイズ化するためのGAMP5適合プログラミング言語を用いた、デバイスプログラミングの可能性
・様々な用途のオーダーメードチューブセット
【0028】
T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を分離するステップは、1つ又はいくつかの(2つ又はそれ以上)陽性濃縮ステップ、又はその組み合わせ、すなわちT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の分離を含み得る(直接磁気標識)。T細胞は、粒子、例えばCD4及びCD8に対してそれぞれ特異的な磁気ビーズ等に結合している抗原結合分子を用いて、CD4+及び/又はCD8+T細胞について選択され得る。T細胞の部分母集団、例えばナイーブ及びセントラルメモリーT細胞等は、マーカーCD62Lを用いるなどして分離され得る。
【0029】
T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を分離するステップは、T細胞の陰性濃縮(非T細胞の直接標識)、又は前処理物から除去される細胞のサブセットの枯渇も含み得る。例えば、B細胞は、CD19マーカーによりリンパ腫患者物質から除去され得る。阻止細胞、例えば調節性T細胞(CD25 high)、単球(CD14)等も、マーカーCD25及びCD14を用いて、それぞれ除去可能である。
【0030】
T細胞のウイルス形質導入は、形質導入エンハンサー試薬、特にポリカチオン性試薬(正の正味電荷を有するポリブレン、硫酸プロタミン、ポリ−L−リシン、ペプチド)、ポロキサマー、接着分子、例えばフィブロネクチン又は修飾フィブロネクチン(RetroNectin)等、又はタンパク質標的ドメイン、例えば抗体、抗体複合体、磁性粒子等の群から選択される形質導入エンハンサー試薬の使用により増強できる。
【0031】
形質導入エンハンサーは、溶液状態で提供する、培養チャンバー上にコーティングする、又は培養チャンバー内の懸濁物/溶液中に存在する担体物質上にコーティングすることができる。
【0032】
遠心分離チャンバー及び培養チャンバーは同一であってもよい。遠心分離チャンバー及び培養チャンバーは、様々な条件で利用可能である:例えば、分離又は形質導入の場合、高速回転スピード(すなわち、高g力)が適用可能であるが、一方、例えば、培養ステップは、低速回転で、又は停止状態でさえも実施され得る。本発明の別の変形形態では、チャンバーは、回転方向を揺動的に変更し、その結果、チャンバーの振盪及び懸濁物内の細胞の維持を実現する。
【0033】
したがって、本発明のプロセスでは、T細胞の活性化、遺伝子の改変、及び/又は培養ステップは、遠心分離又は培養チャンバーの安定した条件又は振盪する条件の下で実施可能である。
【0034】
図1は、代表的なT細胞自動濃縮から得られた結果を示す。総細胞数8e
9個の白血球アフェレーシスが、無菌溶接により、CliniMACS Prodigy(登録商標)に取り付けられたチューブセットに接続されている。細胞を洗浄し、CD4及びCD8 CliniMACS試薬で標識する。標識されたT細胞を、磁性濃縮により残りの細胞から特異的に単離する。濃縮前及び後の細胞を、CD3、CD14、及びCD20に対する蛍光色素結合型抗体で標識し、フローサイトメトリー法により分析する。上段のドットプロットは、濃縮前の細胞の組成を示し、下段のドットプロットは、濃縮後のT細胞の純度(94.7%)を表す。
【0035】
図2は、自動化されたT細胞活性化を示す。0日目、1e
8個の濃縮されたT細胞を、CliniMACS Prodigy(登録商標)デバイス上のチューブセットのチャンバー内に自動的にサンプル採取する。同日、初期の活性化マーカーであるCD25及びCD69のアップレギュレーションを引き起こす、MACS GMP TransAct CD3/CD28キット(Miltenyi Biotec GmbH社)の活性化試薬と共にT細胞をインキュベートする。図は、活性化前(上段)、及び活性化試薬添加後24時間(下段)の生存T細胞についてふるい分けた代表的フローサイトメトリー分析の結果を表し、CD25及びCD69の強いアップレギュレーションを示す。
【0036】
図3は、遺伝子改変型T細胞の自動製造を可能にするソフトウェアアーキテクチャーの略図を示す:遺伝子操作されたT細胞の自動製造を実施するためには、すなわち複雑な生物学的プロセスを自動化可能にするためには、パラメーター、例えば細胞数、流速、容積、温度、CO
2濃度(%)、培養物の動き、インキュベーション時間、培地交換等を受け取る能力を有するソフトウェアを作成することが重要である。開発目的の場合、プログラムは柔軟でなければならないが、臨床用途の場合、インプットパラメーターの数は減少させる必要があり、またプロセス変更は控えなければならない。したがって、本発明者らはプログラムを記述するが、その中では培養パラメーター、行為が実施されなければならない日時が、いわゆるアクティビティーマトリックス内で最初に設定される。アクティビティーマトリックスは、バックグラウンドで稼働するプログラムに対してガイダンスを提供する。バックグラウンドプログラムは、培養物の基本的な機能を制御する培養ループ(セントラルボックス)として機能し、この培養ループにおいて、「サテライトプログラム、例えば「形質導入」、「試薬洗浄」、「フィード」等が、規定された時刻において起動可能である。サテライトプログラムが完了したら、セントラル培養ループが再開する。培養ループ及びサテライトプログラムパラメーターは、製造プロセス開始時に、アクティビティーマトリックスに規定される(インプット部分は図示せず)。本明細書に開示するようなプロセスの自動化された手順を実施するために、プログラムの作成は重要であるものの、かかるプログラムを実施するには、本発明上のインプットがなくても当業者により実施可能である。しかし、パラメーターインプット及びプログラムの開発(例えば、振盪モード、時間、及び頻度等)は、ロバストで機能的な自動化プロセス(高度に変動性のインプット物質、例えば医療適用が異なる患者から得られた細胞等について、信頼性及び再現性のある結果を生成する能力を有するプロセスを意味する)を得るために、特別に実施されなければならない。
【0037】
図4は、培養物の振盪が、遺伝子操作されたT細胞の製造中に及ぼす影響を示す。CliniMACS Prodigy(登録商標)上で、CD62L陽性細胞の自動濃縮を行った後、1e
8個の濃縮後のT細胞をチャンバーに導入し、MACS GMP TransAct CD3/CD28キット(Miltenyi Biotec GmbH社)で活性化し、CD20を標的とするキメラ抗原受容体をコードするレンチウイルスベクターで遺伝子改変した。最初の4〜5日間は、定常状態の培養条件下で実施した。培養物を、次に3つの異なるタイプの単発式振盪モードで処理した。A)タイプ1、30秒毎、100rpm、1方向で2秒間、B)5日目〜9日目はタイプ1。9日目にタイプ2を起動する(30秒毎、300rpm、1方向で2秒間)、又はC)5日目〜9日目はタイプ1。9日目にタイプ3を起動する(30秒毎、300rpm、2方向で2秒間)。X軸は、培養日数を表す。左側のy軸は、T細胞の増殖(四角)、細胞密度(円、1ml当たり1e
6個の細胞)、及び総細胞数(三角、×細胞1e
8個)を示す。右側のy軸は、表示のタイプの振盪スピードを示す。C)で認められるように、振盪条件のパラメーターを変化させることにより、細胞生成量も増加する。
【0038】
図5は、細胞培養物の密度と、培養物に適用した振盪タイプの効果との間の関連性を示す。
図4に記載の条件と類似した条件で実施したいくつかの実験から得られた結果より、よりロバストな振盪タイプ(例えば、タイプ3)は、細胞2e
6個/mlより高い、好ましくは細胞4e
6個/mlより高い密度の培養物に適用すると、より良好な結果をもたらすことが観察可能である。X軸は、培養物を250mlに設定し、いずれのケースも、培養を開始し、最初のT細胞活性化を行った後、8日間経過した後の日数を表す。y軸はT細胞密度を表す(細胞1e
6個/ml)。
【0039】
図6は、自動製造稼働における工程内モニタリングを示す。T細胞が最適な条件で培養されるのを保証するためには、製造稼働中に培養物をサンプリングできるようにして、重要なパラメーターをモニタリングすることが重要である。本明細書に記載の自動化プロセスは、ユーザーが、培養培地のサンプルを、時期を問わず、専用のサンプリングパウチ内に採取できるようにする。パラメーター、例えば細胞密度、グルコース、pH等は、次に遠隔的に測定可能である。図は、GMP TexMACS培地(Miltenyi Biotec GmbH社)を用いて、CliniMACS Prodigy(登録商標)内で実施された代表的な稼働の工程内モニタリング値を表す。X軸は、日数表示の時間を表す。左側y軸は、グルコースの値(三角、g/ml)、pH値(白抜きのひし形)を示す。右側Y軸は、生存率(塗りつぶしたひし形、%)、及び実験の振盪スピード(点線、rpm)を表す。
【0040】
図7は、手動条件と自動化条件の形質導入効率を示す。
図4に記載の条件と類似した条件では、1e
8個の濃縮したT細胞を、MACS GMP TransAct CD3/CD28キットで刺激し、1日目に、抗CD20キメラ抗原受容体をコードするレンチウイルスベクターを、形質導入ユニット1e
8個用いて形質導入した。自動製造プロセスと並行して、手動製造稼働を実施した。形質導入の7日後に、サンプルをフローサイトメトリー法により分析して、A)形質導入されたT細胞の頻度、及びB)CAR発現の平均蛍光強度を求めた。以上のように、導入遺伝子を発現する細胞の割合(%)、並びに導入遺伝子発現レベルは、自動製造プロセス中に形質導入されたT細胞の方がより高い。
【0041】
図8は、T細胞自動製造のロバスト性を示す。すべての線は、異なるドナーについて実施した、独立した自動製造稼働を表す。実験は、
図4の記載に従い実施する。X軸は、日数による時間を表し、またY軸は、異なる日に求めた絶対的な細胞数である。以上のように、自動製造プロセスは、非常にロバストであり、また個々の稼働について非常に類似した結果をもたらす。
【0042】
図9は、0日目に振盪条件を用いる自動製造を示す。CD4/CD8陽性細胞を、アフェレーシスから単離し、CliniMACS Prodigy(登録商標)プラットフォームにおいて、異なる設定で培養した。細胞4e
8個のより高い密度を有する濃縮後のT細胞を、0日目に総容積100ml(A)又は200ml(B)に播種し、タイプ3の振盪条件下で培養を速やかに実施した。100ml中の細胞を2日目に希釈し、培地交換を4日目に開始して、培養終了まで毎日実施した。6日目に、200ml(B)で開始した培養を停止し、100ml(A)で開始した培養は、8日目に終了した。驚くべきことに、結果は、培養開始時の活性化中に定常状態が存在しなくても、T細胞を活性化及び増殖させることが可能であることを示している。かかる動的条件では、極めて急速に、多数のT細胞を生成することが可能である(すなわち、
図9Aの8日目では、T細胞は2.8e
9個であり、これに対して
図4Cの8日目では、総細胞は1.8e
9個である)。
【0043】
図10は、自動製造中の細胞培養の組成物を示す。健康なドナーから得たバフィーコートを、CliniMACS Prodigy(登録商標)に据付けられたチューブセットTS520(Miltenyi Biotec GmbH社)と結合させ、CliniMACS CD62L試薬を用いて、ナイーブ及びセントラルメモリーT細胞サブセットを濃縮した。1e
8個のCD62L濃縮細胞を培養チャンバー内に配置、活性化し、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするレンチウイルスベクターで1日目に形質導入し、本発明に記載する方法を用いて増殖させた。図は、表示した細胞サブセットの頻度を表す(バーの最下部から最上部に向かって:T細胞、B細胞、単球、NK細胞、NK T細胞、及び果粒球)。以上のように、11日間の培養後、最終的な採集サンプルにおいて、細胞生成物は、95%を超えるT細胞から構成されている。
【0044】
実施形態
本発明の1つの実施形態では、例えば、対象とするT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を含む患者サンプルを閉鎖型滅菌培養システム、例えばCliniMACS Prodigy(登録商標)等のチャンバーに導入する。サンプルを遠心分離し、好ましくは、光学濃度式相検出法を用いて過剰の赤血球を除去し、細胞の凝集を避けるために、例えばCliniMACSバッファー(Miltenyi Biotec GmbH社)を用いて細胞サンプルを洗浄し、CliniMACS CD4及びCD8試薬(Miltenyi Biotec GmbH社)等の磁気細胞分離試薬で磁気的に標識する。標識後、細胞を洗浄し、一体型磁気細胞選択カラムにより磁気的に濃縮し、次に細胞培養チャンバーに戻す。
【0045】
細胞培養チャンバー内で、T細胞は、T細胞の増殖を誘発する能力を有する試薬、例えばアゴニスト抗体(例えば抗CD3及び抗CD28)、サイトカイン(例えばIL−lb、IL−2、IL−4、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−12、IL−15、IL−17、IL−21、IL−22、IL−23、IL−35、TGF−b、IFNα、IFNγ、TNFα)組換えタンパク質、
共刺激分子、レクチン、イオノフォア、合成分子、抗原提示細胞(APC)、人工APC、又はフィーダー等のうちの1つ又はその組み合わせを用いて、安定した条件又は振盪培養条件において活性化できる。これらの活性化試薬は、溶液で提供する、培養チャンバー上にコーティングする、又は培養チャンバー内の懸濁物/溶液中に存在する担体物質上、若しくは大型の粒子上にコーティングすることができる。
【0046】
T細胞は、安定した条件又は振盪培養条件において培養可能である。培養期間の後、ウイルスベクターを培養チャンバーに添加し、細胞を形質導入させる。更なる細胞培養期間の後、細胞を再度形質導入でき、又はよく洗浄し、採集(製剤)することができる。遺伝子改変型T細胞生成物のin vivo変換前に、細胞を洗浄し、濃縮し、in vivo輸液に関する臨床的要求事項に適合するバッファーに再懸濁することができる。上記のすべてのステップは、自動的に実施される。
【0047】
本発明の1つの実施形態では、抗体が結合した磁気ビーズをT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の表面上に存在する細胞表面マーカーに結合させ、標識された細胞を磁気分離により濃縮すること(陽性濃縮)によって、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を標識する。
【0048】
本発明の別の実施形態では、抗体が結合した磁気ビーズをT細胞又は定義された細胞サブセットの表面上に存在しない細胞表面マーカーに結合させ、標識された細胞を磁気分離により枯渇させること(陰性濃縮)によって、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を濃縮する。
【0049】
本発明の更なる実施形態では、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の第1の濃縮に加えて、遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の磁気標識と培養前後の磁気分離による第2の濃縮ステップにおいて、本方法により得られた最終到達後の細胞組成物内において、より高い頻度の遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体が得られるように、遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を濃縮する。例えば、遺伝子改変した細胞がCAR又はTCRを発現するT細胞である場合には、次に第2の分離ステップは、遺伝子改変したT細胞の細胞表面上で、組換え発現したCAR又はTCRに対して特異的な磁性粒子に結合した抗原結合分子を用いて実施され得る。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を含む細胞サンプル、例えば患者由来の全血が提供される。前記サンプルは、閉鎖型滅菌細胞培養システムと接続しており、例えば、サンプルは、チューブセットを介してCliniMACS Prodigy(登録商標)デバイスと接続している。細胞サンプルは、デバイスの遠心分離チャンバー内で、遠心分離により準備され、その結果、赤血球及び血小板が、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を含むその他の細胞から分離される。T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の磁気分離は、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体のマーカー、例えばCD2、CD3、CD4、CD8 CD25、CD28、CD27、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD95、CD127、CD137、α/βTCR、γ/δTCR、CCR7、PD−1、又はLag3等に対して特異的な、磁性粒子に結合している抗体を用いて実施される。標識された細胞を、デバイスの分離カラムを備えたマグネットユニットに通過させることにより、前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の濃縮を引き起こす。分離したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を、デバイスの培養チャンバー(遠心分離チャンバーと同一であり得る)に移した後に、前記細胞は、細胞0.5e
6個/ml〜2e
6個/mlの所定の密度に設定されるが、この細胞は、調節剤、例えば流動性ポリマー鎖から構成されており、抗CD3及び抗CD28抗体又はそのフラグメントが同ポリマー鎖と結びついた、サイズが1〜500nmのナノマトリックスを用いて活性化される。前記T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の活性化後、前記細胞は、デバイスの培養チャンバー内で遺伝子改変され、例えば前記細胞は、CARをコードするポリヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクターを用いて形質導入される。T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の遺伝子改変後、前記細胞を振盪条件下での培養により増殖させる。振盪は、細胞が懸濁状態になるのを可能にする条件下で(及び本明細書に開示するように)、培養チャンバー(この場合、培養チャンバーは、遠心分離チャンバーと同一である)の単発的又は定期的な遠心分離により実施され得る。最終的に、培養した細胞を遠心分離により洗浄し、これにより培養培地は、後続の用途、例えば生成した細胞組成物を患者に輸液することに適するバッファーと交換可能となる。
【0051】
本発明の1つの実施形態では、より高純度の形質導入済みT細胞、例えば細胞表面上でCAR又はTCR等の導入遺伝子を発現するT細胞は、遺伝子改変型T細胞を特異的に濃縮する追加の細胞選択ステップにより、製造プロセスの終了時に得られるが、これは、導入遺伝子によりコードされる表面分子を標的とする抗体でコーティングされた磁性粒子を用いて実施するのが好ましい。濃縮のステップは、デバイスの磁気分離ユニットを再度用いて自動的に実施し、また最終的な製剤の前に行うのが好ましい。
【0052】
好ましくは、この第2の濃縮後、及び患者に適用する前、又は下流で使用する前に、選択された細胞の表面から完全に除去可能である選択剤が用いられる。
【0053】
本発明の別の実施形態では、懸濁条件下でT細胞を活性化させることにより、細胞密度がより高い自動製造プロセスを開始することが可能である。十分な数の標的T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体が出発材料から取得可能である場合、培養を開始する際に細胞が活性化するように細胞が懸濁状態となるのを可能にする条件の下では、T細胞4e
6〜1e
7個という細胞密度が高い状態であっても、振盪条件下に直接置いて、例えば培養チャンバー(この場合、培養チャンバーは、遠心分離チャンバーと同一である)の単発的又は定期的な遠心分離を用いて、自動製造プロセスを開始することができる。T細胞は、レンチウイルスベクターを用いて更に改変可能、及び懸濁状態で増殖可能である。本発明の本実施形態では、好ましくは、高密度の細胞培養が懸濁状態を保つように、本明細書に開示するようなプロセスの活性化、遺伝子改変、及び増殖の各ステップを実施する間、振盪条件が維持される。かかる代替法の長所は、より短期間(一般的に10〜14日間に対して1週間)に、多数の細胞を取得できることである。
【0054】
本発明の1つの実施形態では、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の遺伝子改変ステップは、レンチウイルスベクターを用いて実施され得る。VSVG偽型を有するレンチウイルスベクターは、自動製造法において効率的な形質導入を可能にする。しかし、同法は、任意の種類のレンチウイルスベクター(例えば、はしかウイルス(ML−LV)、テネガザル白血病ウイルス(GALV)、ネコ内因性レトロウイルス(RD114)、ヒヒ内因性レトロウイルス(BaEV)由来の偽型化エンベロープを有する)を用いる場合に、完全に適合する。その他のウイルスベクター、例えばγ又はαレトロウイルスベクターが利用可能である。形質導入エンハンサー試薬が、必要な場合には、本発明に記載する自動製造法を用いて添加可能である。
【0055】
定義
別途規定しない限り、本明細書で用いる技術的用語及び科学的用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。
【0056】
用語「閉鎖型細胞サンプル処理システム」及び「閉鎖型滅菌(細胞培養)システム」は、区別なく利用可能である。
【0057】
用語「閉鎖型細胞サンプル処理システム」は、本明細書で用いる場合、培養プロセス、例えば形質導入等による新規物質の導入を実施している間、及び細胞培養ステップ、例えば増殖、分化、活性化、及び/又は細胞の分離を実施している間、細胞培養汚染のリスクを低減するあらゆる閉鎖型システムを意味する。かかるシステムは、GMP又はGMP類似条件下(「滅菌状態」)での稼働を可能にし、臨床適用可能な細胞組成物をもたらす。本明細書では、例示的にCliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH社、ドイツ)が、閉鎖型細胞サンプル処理システムとして用いられる。このシステムは、国際公開第2009/072003号に開示されている。但し、本発明の方法の使用をCliniMACS Prodigy(登録商標)に限定するつもりはない。
【0058】
本発明のプロセスは、シリンダー、ポンプ、バルブ、磁気細胞分離カラム、及びチューブセットが接続されているベースプレート及びカバープレートを含む遠心分離チャンバーを備える閉鎖型滅菌システム(閉鎖型細胞サンプル処理システム)内で実施され得る。T細胞、T細胞部分母集団、及び/又はT細胞前駆体を含む血液サンプル又はその他の試料源は、無菌ドッキング又は無菌溶接によりチューブセットに及びチューブセットから移動可能である。適するシステムは、国際公開第2009/072003号に開示されている。
【0059】
閉鎖型細胞サンプル処理システムは、複数のチューブセット(TS)を含む場合があり、細胞は無菌ドッキング又は無菌溶接によりTSの間を移動する。
【0060】
1つのチューブセット内で生成した、1つのモジュールの生成物(細胞)を、滅菌手段によって別のチューブセットに移すことにより、プロセスの異なるモジュールが、機能的に閉鎖した異なるTS内で実施され得る。例えば、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体は、第1のチューブセット(TS)、Miltenyi Biotec GmbH社製TS100内で磁気的に濃縮可能であり、また濃縮したT細胞を含有する陽性分画は、TS100から溶接切断され、第2のチューブセット、Miltenyi Biotec GmbH社製TS730に、更に活性化、改変、培養、及び洗浄するために溶接接合される。
【0061】
用語「自動化法」又は「自動化プロセス」は、本明細書で用いる場合、デバイス及び/又はコンピューター、及びコンピューターソフトウェアの使用を通じて自動化されるあらゆるプロセスを意味する。自動化された方法(プロセス)は、ヒトの介入及びヒトの時間をそれほど多くは必要としない。いくつかの事例では、本方法の少なくとも1つのステップが、ヒトの支援又は介入が一切用いられずに実施される場合に、本発明の方法は自動化される。好ましくは、本明細書に開示する方法のすべてのステップが、新しい試薬をシステムに接続する以外、ヒトの支援又は介入なくして実施される場合に、本発明の方法は自動化される。好ましくは、自動化プロセスは、閉鎖型細胞サンプル処理システム、例えば本明細書に開示するCliniMACS Prodigy(登録商標)の上で実施される。
【0062】
閉鎖型細胞サンプル処理システムは、a)少なくとも1つのサンプルチャンバーを有する回転式容器(又は遠心分離チャンバー)に結合しているインプットポート及びアウトプットポートを備えるサンプル処理ユニットであって、チャンバー内に堆積したサンプルに遠心力を負荷し、堆積したサンプルの少なくとも第1の成分と第2の成分とを分離するために、第1の処理ステップをサンプルに提供するように、又は容器を回転させるように構成されたサンプル処理ユニット;及びb)サンプル処理ユニットのアウトプットポートに結合しているサンプル分離ユニットであって、分離カラムホルダー、ポンプ、並びにホルダー内に配置された流路及び分離カラムを通じて流体流を少なくとも部分的に制御するように構成された複数のバルブを含み、該分離カラムが、カラムを通じて流通するサンプルの標識成分と非標識成分とを分離するように構成されている、サンプル分離ユニットを含み得る。
【0063】
前記回転式容器は、温度制御式細胞インキュベーション及び培養チャンバー(CentriCultユニット=CCU)としても利用可能である。このチャンバーは、付属の気体混合ユニットにより提供される定義された気体混合物で充気され得る(例えば、加圧した空気/N2/CO2又はN2/CO2/O2の使用)。
【0064】
すべての薬剤が、プロセス開始前に閉鎖システムと接続され得る。この薬剤は、閉鎖システム内での細胞の洗浄、移転、懸濁化、培養、採集、又は免疫磁気細胞選別で用いられる、すべてのバッファー、溶液、培養培地、及びサプリメント、MicroBeadsを含む。或いは、かかる薬剤は、プロセス中の時期を問わず、滅菌手段により溶接される、又は接続される。
【0065】
T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を含む細胞サンプルは、閉鎖システムと滅菌手段により接続可能な移送用バッグ又はその他の適するコンテナーに提供され得る。
【0066】
用語「T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を含む細胞サンプルの提供」とは、細胞サンプル、好ましくは血液学的起源のヒト細胞サンプルの準備を意味する。通常、細胞サンプルは、ドナー又は患者から得られた血液学的細胞より構成され得る。かかる血液産物は、全血、バフィーコート、白血球アフェレーシス、PBMCの形態、又は血液産物の任意の臨床的サンプリング物であり得る。血液産物は、新鮮な又は凍結された起源に由来し得る。
【0067】
用語「遠心分離による細胞サンプルの準備」とは、本明細書で用いる場合、遠心分離により提供される細胞サンプルのその他の成分(例えば、非細胞成分)から細胞を分離することを意味する。遠心ステップは、次の態様:グラジエント分離、赤血球の低減、血小板除去、及び細胞洗浄のうちの1つ、それ以上、又はすべてを含み得る。
【0068】
用語「洗浄」とは、細胞が維持される培地又はバッファーの交換を意味する。上清の交換は、部分的であり得(例えば、培地が50%除去され、新鮮な培地が50%添加される)、これは、多くの場合、希釈又はフィーディングを目的として適用されるが、或いは全体的であり得る。いくつかの洗浄ステップが、細胞が維持されるオリジナルの培地について、より徹底した交換を実現するために、組み合わせ可能である。洗浄ステップは、多くの場合、遠心力及び上清の除去により、細胞をペレット化するステップと関係する。本発明の方法では、細胞はチャンバーの回転、例えば300×gによりペレット化され、また上清はチャンバーの回転中に除去される。培地は、回転中に、又は定常状態において添加される。
【0069】
用語「振盪条件」とは、本明細書で用いる場合、細胞培養物の細胞を懸濁状態に保つことを可能にするあらゆる手段を意味する。振盪は、閉鎖型滅菌細胞培養システムの培養チャンバーを回転させること(又は単発的な遠心分離)により実施され得、前記回転は、本明細書に開示するように定期的に実施される。振盪は、例えば起泡装置、推進装置、又は用いられる閉鎖型滅菌細胞培養システムに組み込まれた、細胞の沈降を防止する液体の流れ(例えば、チャンネル)を用いても、実施され得る。
【0070】
用語「マーカー」とは、本明細書で用いる場合、所定の細胞型により特異的に発現される細胞抗原を意味する。好ましくは、マーカーは細胞表面マーカーであり、その場合、生存細胞の濃縮、単離、及び/又は検出が実施可能となる。マーカーは、陽性選択マーカー、例えば、CD4、CD8、及び/又はCD62Lであり得る、或いは陰性選択マーカー(例えば、CD14、CD16、CD19、CD25、CD56を発現する細胞の枯渇)であり得る。
【0071】
用語「発現」とは、本明細書で用いる場合、細胞内のプロモーターにより駆動される特定のヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳として定義される。
【0072】
用語「粒子」とは、本明細書で用いる場合、固相表面、例えばコロイド状粒子、ミクロスフェア、ナノ粒子、又はビーズを意味する。かかる粒子の生成法は、当技術分野において周知されている。粒子は、磁性粒子であり得る。粒子は、溶液若しくは懸濁状態であり得る、又は粒子は、本発明で使用する前は凍結乾燥状態であり得る。凍結乾燥された粒子は、次に本発明に関係する処理対象サンプルと接触する前に好都合なバッファーに再溶解される。
【0073】
用語「ナノ構造体」とは、本明細書で用いる場合、用語「粒子」の範疇に収まらないが、調節剤、例えば抗CD3抗体、及び/又は抗CD28抗体、若しくはそのフラグメントに結合するとT細胞のポリクロナール刺激を可能にする、ナノサイズの構造物を意味する。
【0074】
国際公開第2014/048920A1号で開示される、又はMACS GMP TransAct CD3/CD28キット(Miltenyi Biotec GmbH社、注文番号170−076−140)で提供されるようなナノマトリックスは、特別なナノ構造体である。
【0075】
用語「ナノマトリックス」とは、本明細書で用いる場合、
a)流動性ポリマー鎖のマトリックス;及び
b)前記流動性ポリマー鎖のマトリックスと結びついた、T細胞に活性化シグナルを提供し、これによりT細胞を活性化させ、増殖するように誘発する1つ又は複数の刺激剤;
を含むナノマトリックスを意味し、該ナノマトリックスは、1〜500nm、好ましくは10〜200nmのサイズである。刺激剤は、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体又はそのフラグメントであり得る。
【0076】
これらのポリマーは、流動性(運動性)、好ましくは高度に流動性(運動性)の鎖から構成され、したがってマトリックスは、抗体等の刺激剤を結びつけるポイントとしての固体表面が存在しないことにより特徴づけられ、剛直性の硬い表面を規則的に有するような、現在用いられているビーズ又はミクロスフェアとは極めて対照的である。
【0077】
マトリックスは、ポリマー性、好ましくは生分解性又は生体適合性の、細胞に対して無毒性の不活性な材料から構成される。好ましくは、マトリックスは、親水性ポリマー鎖から構成され、鎖の水和に起因して、水溶液中で最大の流動性を獲得する。流動性マトリックスは、薬剤がこれと結びついている、いないに関わらず、ナノマトリックスの唯一の成分又は少なくとも主要な成分である。
【0078】
流動性マトリックスは、コラーゲン、精製されたタンパク質、精製されたペプチド、多糖類、グリコサミノグリカン、又は細胞外マトリックス組成物からなり得る。多糖類として、例えばセルロースエーテル、スターチ、アラビアゴム、アガロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、ペクチン、キサンタン、グアーガム、又はアルギン酸塩を挙げることができる。その他のポリマーとして、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリクォータニウムポリマー、ポリホスファゼン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ブロックコポリマー、又はポリウレタンを挙げることができる。好ましくは、流動性マトリックスは、デキストランのポリマーである。
【0079】
Expamers(Stage Cell Therapeutics社、ドイツ)は、ナノ構造体の別の事例である。この場合、可溶性StrepTactinタンパク質オリゴマーが、T細胞をポリクロナール刺激するために、活性化一次リガンド、例えば抗CD3及びCD28 Fabフラグメントにより機能化されている。StreptTactin骨格は、低アフィニティーFabフラグメントの会合によるリバーシブルでモジュラー的な機能化を可能にする。
【0080】
用語「抗原結合分子」とは、本明細書で用いる場合、細胞の望ましい標的分子、すなわち抗原に対して選好的に結合する又は特異的なあるあらゆる分子を意味する。用語「抗原結合分子」には、例えば抗体又は抗体フラグメントが該当する。用語「抗体」とは、本明細書で用いる場合、ポリクロナール又はモノクロナール抗体を意味し、当業者にとって周知の方法により生成可能である。抗体は、任意の種、例えばマウス、ラット、ヒツジ、ヒトからなり得る。治療目的では、非ヒト抗原結合フラグメントが用いられる場合には、これらは、当技術分野において公知の任意の方法によりヒト化することができる。抗体は、改変型抗体(例えば、オリゴマー、還元型、酸化型、及び標識抗体)であってもよい。
【0081】
用語「抗体」は、天然の分子並びに抗体フラグメント、例えばFab、Fab’、F(ab’)2、Fv、及び一本鎖抗体の両方を含む。更に、用語「抗原結合分子」には、細胞の望ましい標的分子に優先的に結合する抗体又は抗体フラグメント以外の任意の分子が含まれる。適する分子としてオリゴヌクレオチドが非限定的に挙げられ、所望の標的分子、炭水化物、レクチン、又は任意のその他の抗原結合タンパク質に結合するアプタマーとして知られている(例えば、受容体−リガンド相互作用)。抗体と粒子又はナノ構造体との間の結合(カップリング)は、共有結合であっても、また非共有結合であってもよい。共有結合は、例えばポリスチレンビーズ上のカルボキシル基への結合、又は修飾ビーズ上のNH2若しくはSH2基への結合であり得る。非共有結合は、例えばビオチン−アビジン、又は抗蛍光物質抗体と結合した蛍光物質結合型粒子による。
【0082】
抗原結合分子、例えば抗体又はそのフラグメントに関して「特異的に結合する」又は「に対して特異的な」という用語は、サンプル中の特異的抗原、例えばCD4を認識し、これと結合するが、前記サンプル中のその他の抗原を実質的に認識しない、又はこれと結合しない抗原結合分子(抗体又はそのフラグメントの場合、抗原結合ドメイン)を意味する。1つの種に由来する抗原と特異的に結合する抗体又はそのフラグメントの抗原結合ドメインは、別の種に由来するそのような抗原とも、やはり結合する可能性がある。この種交差的反応性は、本明細書で用いる場合、「に対して特異的な」の定義と矛盾しない。抗原、例えばCD4抗原と特異的に結合する抗体又はそのフラグメントの抗原結合ドメインは、前記抗原の異なる変異体(対立遺伝子変異体、スプライスバリアント、アイソフォーム等)とも、やはり実質的に結合する可能性がある。この交差反応性は、抗原、例えばCD4に対して特異的なそのような抗原結合ドメインの定義と矛盾しない。
【0083】
強力な選別技術として、磁気細胞選別法が挙げられる。磁気的に細胞を分離する方法が、例えばシアトルのInvitrogen社、Stem cell Technologies社、Cellpro社、又はボストンのAdvanced Magnetics社から市販されている。例えば、モノクロナール抗体は、Dynal M450のような磁性ポリスチレン粒子、又は類似した磁性粒子に直接結合可能であり、例えば細胞分離で用いられる。Dynabeads技術はカラムに基づくものではなく、代わりに、このような細胞と結びついた磁気ビーズは、サンプルチューブ内で液相動力学を享受し、細胞は、チューブを磁性ラック上に配置することにより単離される。しかし、好ましい実施形態では、T細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を細胞サンプルから濃縮、選別、及び/又は検出する場合、モノクロナール抗体が、例えば多糖類(磁気活性化細胞選別法(MACS(登録商標))技術(Miltenyi Biotec社、Bergisch Gladbach、ドイツ))により、有機コーティング物を有するコロイド状の超常磁性微粒子と組み合わせて用いられる。この粒子(ナノビーズ又はMicroBeads)は、モノクロナール抗体に直接結合可能、又は抗免疫グロブリン、アビジン、若しくは抗ハプテン特異的MicroBeadsと併用可能である。MACS(登録商標)技術は、特定の表面抗原を標的とする抗体でコーティングされた磁性ナノ粒子と共に、細胞をインキュベートすることにより、細胞分離を可能にする。これにより、この抗原を発現する細胞と磁性ナノ粒子との結びつきが生じる。その後に、細胞溶液は強磁場内に配置されたカラムに移される。このステップでは、細胞(抗原を発現する)はナノ粒子と結びついてカラム上に留まる一方、その他の細胞(抗原を発現しない)は通過する。この方法により、細胞は、特定の抗原(複数可)に関して陽性又は陰性分離可能である。陽性選択の場合、対象とする抗原(複数可)を発現する細胞は、磁性カラムと結びついているが、この細胞は、カラムを磁場から除去した後、別の容器に洗い出される。陰性選択の場合、用いられる抗体は、対象外の細胞上に存在することが知られている表面抗原(複数可)を標的とする。細胞/磁性ナノ粒子溶液をカラムに適用した後、このような抗原を発現する細胞はカラムに結合し、通過画分は対象とする細胞を含有するので収集される。このような細胞は、ナノ粒子に結合している抗体によって標識されないので、「手つかず」のままである。手順は、直接磁気標識法又は間接磁気標識法を用いて実施可能である。直接標識法では、特異的抗体が磁性粒子に直接結合している。間接標識法は、直接磁気標識法が不可能である又は望ましくない場合、好都合な代替法である。任意の細胞表面マーカーを標的とする一次抗体、特異的モノクロナール、又はポリクロナール抗体、一次抗体の併用は、この標識戦略に利用可能である。一次抗体は、非結合型、ビオチン化型、又は蛍光体結合型であり得る。磁気標識は、次に抗免疫グロブリンMicroBeads、抗ビオチンMicroBeads、又は抗蛍光体MicroBeadsで実現される。上記プロセスは、閉鎖型細胞サンプル処理システム、例えばCliniMACS(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH社、ドイツ)又はCliniMACS Prodigy(登録商標)(Miltenyi Biotec GmbH社、ドイツ)等においても実施可能である。
【0084】
用語「遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の実質的に純粋な細胞組成物」とは、本明細書で用いる場合、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を、本発明の方法により得られる細胞組成物内に含む細胞組成物を意味する。細胞生成物の形質導入頻度は、遺伝子改変を実施するのに用いられるベクターの種類、並びに導入遺伝子の性質に依存する。導入遺伝子の少なくとも一部分を標的とする追加の選択ステップを含めることにより、より高頻度の遺伝子改変型T細胞が取得可能である。
【0085】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」とは、工学的に作出された受容体を意味し、細胞、例えばT細胞上に抗原特異性を植え付ける。本発明のCARは、抗原標的領域としても知られている抗原結合ドメイン、細胞外スペーサードメイン又はヒンジ領域、膜貫通ドメイン、及び少なくとも1つの細胞内シグナリングドメイン、又は少なくとも1つの
共刺激ドメイン並びに少なくとも1つの細胞内シグナリングドメインを含む。
【0086】
用語「遺伝子改変した細胞」とは、外来の遺伝子又は核酸配列を含有する及び/又は発現する細胞を意味し、外来の遺伝子又は核酸配列は、次に細胞の遺伝子型若しくは表現型、又はその子孫を改変する。特に、該用語は、ペプチド又はタンパク質、例えば天然の状態では、そのような細胞において発現されないCARを安定的に、又は一時的に発現させるために、細胞は、当技術分野において周知の組換え方法により操作可能であるという事実を意味する。細胞の遺伝子改変には、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、非組込み型レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクター、トランスポゾン、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、又はCRISPR/Casを含むデザイナーヌクレアーゼを用いたトランスフェクション、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、形質導入が含まれ得るが、但しこれらに限定されない。
【0087】
本明細書に開示の方法により得られる遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体は、後続するステップ、例えば当業者にとって公知の研究、診断、薬理学的又は臨床的用途で利用可能である。
【0088】
遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体は、療法、例えば細胞療法、又は疾患の予防における医薬組成物としても利用可能である。医薬組成物は、動物又はヒト、好ましくはヒト患者に移植され得る。医薬組成物は、哺乳動物、特にヒトを対象として、疾患の治療及び/又は予防に利用可能であり、薬学的に有効な量の医薬組成物を哺乳動物に投与するステップを含むと考えられる。本開示の医薬組成物は、治療(又は予防)の対象となる疾患に適する方法で投与され得る。適する用量は臨床試験により決定され得るが、投与量及び投与頻度は、患者の状態、及び患者の疾患の種類や重症度等の要因により決定される。
【0089】
用語「治療上有効な量」とは、患者に治療ベネフィットをもたらす量を意味する。
【0090】
本発明の方法により得られる遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体の組成物は、単独で、或いは賦形剤及び/又はその他の成分、例えばサイトカイン又は細胞集団と組み合わせた医薬組成物として投与され得る。要するに、本発明の医薬組成物は、1つ又は複数の薬学的又は生理学的に許容される担体、賦形剤、又は添加剤と組み合わせて、本明細書に記載するような、本発明の遺伝子改変したT細胞、T細胞サブセット、及び/又はT細胞前駆体を含み得る。かかる組成物は、バッファー、例えば中性の緩衝化生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水等;炭水化物、例えばグルコース、マンノース、スクロース、又はデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチド、又はアミノ酸、例えばグリシン;酸化防止剤;キレート剤、例えばEDTA又はグルタチオン;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);及び防腐剤を含み得る。
【実施例】
【0091】
実施例1:いくつかの閉鎖滅菌型チューブセットを用いた、遺伝子改変型T細胞の自動製造
ドナーから取得した白血球アフェレーシスバッグ(100〜200ml)を、CliniMACS Prodigy(登録商標)デバイスに据付けられたチューブセットTS 100(Miltenyi Biotec GmbH社)に、無菌溶接により接続する。CliniMACSバッファー並びにCliniMACS CD4及びCD8試薬(Miltenyi Biotec GmbH社)も同一のチューブセットに接続する。濃縮プログラムを立ち上げる。チューブセットはバッファーで自動的にプライミングされ、次に白血球アフェレーシス生成物をチューブセットのチャンバーに移し、そこでは、血清及び血小板を除去するために、CliniMACSバッファーを用いて3回洗浄する。過剰の赤血球を除去するために、赤血球の低減も実施する。CD4及びCD8陽性細胞を磁気標識するために、CliniMACS CD4及びCD8試薬を、チャンバー内の細胞に移す。室温で30分間インキュベーション後、磁気標識された細胞を、磁場中に配置されたカラムに自動的に移動させる。標識された細胞をトラップし、標識されていない細胞を、非標的細胞分画バッグ内に溶離する。標識された細胞を含むカラムを数回リンスし、その後、標識された細胞を、標的細胞分画バッグ内に溶離する。チューブセットに組み込まれたサンプルパウチは、1〜2mlのサンプルの取得を可能にするが、同サンプルは、細胞数及び細胞純度についてフローサイトメトリー法により遠隔的に分析される(
図12)。濃縮後の細胞の一部を(無菌溶接接続により)、CliniMACS Prodigy(登録商標)デバイスに新規に据付けられた別のチューブセット(TS730)に移す。チューブセットは、IL−2が補充されたMACS GMP TexMACS培地、MACS GMP TransAct CD3/CD28キット(すべてMiltenyi Biotec GmbH社)及び1e
8個の濃縮後のT細胞とも接続している。活性化プログラムを開始する。濃縮後の細胞を洗浄し、培地内で再懸濁し、培養物を5%のCO2ガスを供給しながら37℃にセットする。培養物が平衡に達したら、活性化試薬を培養物に自動添加する。24時間後、サンプルを活性化マーカーCD25及びCD69のアップレギュレーションについて分析する(
図2)。ウイルスベクターを含有するバッグを、例えばテルモ社製無菌ウェルダーを用いて、チューブセットに無菌溶接し、ユーザーは、ウイルスベクターが接続され、ウイルスベクターが活性化したT細胞を含有するチャンバーに移動したことを確認するように求めるソフトウェア内のプロンプトを認識する。5日間の培養後、T細胞を5リットルバッグ内に移し、T細胞増殖を可能にする別のデバイスであるWave Bioreactor(商標)(Life Technologies社)に移す。細胞を更に7日間、懸濁状態で培養する。増殖した細胞のバッグを、CliniMACS Prodigy(登録商標)上の新しいチューブセットに再度接続する。CliniMACS Prodigy(登録商標)は、5Lから100mlまでの細胞の自動濃縮、及びヒト輸液に適する溶液内での細胞の再緩衝化を可能にする。
【0092】
実施例2:単一の閉鎖滅菌型チューブセットを用いた、遺伝子改変型T細胞の自動製造
ドナーから取得した100〜200mlのバフィーコートバッグを、CliniMACS Prodigy(登録商標)デバイスに据付けられたチューブセットTS520(Miltenyi Biotec GmBH社)に無菌溶接により接続する。CliniMACSバッファー並びにCliniMACS CD62L試薬、MACS GMP CD3/CD28キット、及び10ng/mlのIL−7とIL−15を含有するMACS GMP TexMACS培地も、TS520と接続する(すべてMiltenyi Biotec GmbH社)。次に、アクティビティーマトリックスに、アクティビティー(例えば、形質導入、フィード、洗浄、最終的製剤)、及びそれらの自動製造稼働パラメーター(例えば、日、容積、温度)を入力する。プログラム済みのソフトウェアを、次に立ち上げる(
図3)。実施例1と同様に、白血球アフェレーシスを洗浄する。4〜8℃で標識を行う(CD62Lは、室温で細胞の表面から放出されるので、CD62L陽性細胞を濃縮する上で、この温度は重要である)。標識された細胞を濃縮し、チューブセットの一部であるリアプリケーションバッグ内に溶離させる。プログラムは、サンプルを採取するように求める(チューブセットに含まれるサンプリングパウチを用いて)。細胞密度を求めたら、この情報並びにチャンバーに戻されるべき細胞の必要数(例えば、1e
8個)が、プログラムに表示される。濃縮後の細胞、1e
8個を含有する濃縮後の細胞の必要とされる容積が、次に培養チャンバーに自動的に移動する。活性化試薬が、次に培養物に添加される。1日目に、10mlのレンチウイルスベクターを含有するバッグを、チューブセットと接続する(これは、ウイルスベクターの半減期が短いことから、すぐに実施される)。ウイルスベクター、この場合CD20 CAR(4−IBB及びCD3zetaシグナリングドメインを含む)をコードするレンチウイルスベクターを、次に活性化T細胞上に移す。T細胞は、37℃の培養物及び5%のCO2に富んだ雰囲気中に、更に2日間留まる。5日目に、使用済み培養培地は、自動的に洗い流され、新鮮な培地と置き換わる。チャンバーの単発的な低速振盪法を用いて、T細胞を軽く再懸濁するために、培養物を、今度はタイプ1振盪法(低振盪法)にセットする。新鮮な培地で細胞をフィードするために、培養培地の半分を1日おきに交換する。9日目に、振盪スピードをタイプ3振盪法(より激しい再懸濁法)まで高める。11〜13日では、製造プロセスは、最終段階に達し、細胞をヒト輸液に適する溶液(すなわち、最終製剤用のバッファー)で数回洗浄し、更に臨床的に取り扱うために、バッグ内に採集する(
図4及び6)。直接輸液用又は凍結保存用のいずれか。製造された遺伝子改変型T細胞を、その細胞組成物(
図10)、その形質導入された細胞の割合(%)及び形質導入された細胞毎の導入遺伝子発現レベル(それぞれ
図7A及びB)について分析した。
【0093】
実施例3:振盪条件下で活性化させた高密度培養物から開始する遺伝子改変型T細胞の自動製造
100〜200mlの白血球アフェレーシスから開始し、実施例2と同様に、CliniMACS Prodigy(登録商標)に据付けられたチューブセットTS520を用いて、CD4及びCD8T細胞を濃縮する。但し、この実施例では、4e
6個/mlという高密度の濃縮T細胞が、閉鎖滅菌型チューブセットのチャンバーに移される。0日目に濃縮後のT細胞を100mlに播種した(
図9A)、MACS GMP TransAct CD3/CD28キット及びMACS GMP TexMACS培地中の200IU IL−2を用いて、タイプ3振盪条件下で速やかに活性化を実施した。100ml中の細胞を2日目に希釈し、培地交換を4日目に開始して培養終了まで、毎日実施した。培養は、8日目で終了した。驚くべきことに、結果は、培養開始時の活性化中に定常状態が存在しなくてもT細胞を活性化させ、増殖させることが可能であることを示している。かかる動的な条件では、多数のT細胞を非常に急速に生成させることが可能である(すなわち
図8Aの、8日目における2.8e
9個のT細胞と、
図4Cの8日目における1.8e
9個の総細胞)。
【0094】
実施例4:凍結した白血球アフェレーシスから開始した遺伝子改変型T細胞の自動製造
ドナーから取得した白血球アフェレーシスの100ml凍結バッグを解凍し、3L MACS GMP細胞分化用バッグ(Miltenyi Biotec GmbH社の製品)に移し、MACS GMP TexMACS培地で2Lに希釈した。解凍した細胞を、5%のCO2中、37℃で48時間休ませ、次に、自動細胞濃縮を行うために、細胞のバッグをCliniMACS Prodigy(登録商標)上に据付けられた閉鎖滅菌型チューブセットに接続した。次に、実施例2に記載されているプロセスと類似した製造プロセスを実施した(CD62L濃縮後のT細胞を用いて)。12日目に、遺伝子改変型T細胞を、100mlのCliniMACSバッファー中で最終的に製剤し、採集バッグに移した。バッグ全体を、CliniMACS(登録商標)Prodigy上に据付けられた閉鎖滅菌型チューブセットTS100に、無菌溶接により接続した。この場合、非改変型T細胞からの遺伝子改変型T細胞の単離可能とするために、遺伝子改変型T細胞を抗IgG1ミクロビーズで標識した。希釈した休眠解凍細胞から遺伝子改変型T細胞の製造及び単離までのすべてのステップを、いくつかの異なるチューブセット及びいくつかの異なる種類のプログラムを用いて、自動化された方法で実施した。