(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661572
(24)【登録日】2020年2月14日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】自動車のピラー上部
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
B62D25/04 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-99600(P2017-99600)
(22)【出願日】2017年5月19日
(65)【公開番号】特開2018-192974(P2018-192974A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴森 理生
【審査官】
林 政道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−006836(JP,A)
【文献】
特開2006−182092(JP,A)
【文献】
特開2011−245928(JP,A)
【文献】
実開昭59−050874(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のピラー上部であって、それぞれハット形断面を有する二つの構成部材が、車外側に突出する外側フランジと、車内側に突出する内側フランジと、をそれぞれ有し、この外側フランジどうしが接合されると共に、この内側フランジどうしが接合された長手方向にわたる一対の接合部を介して組み合わされた閉断面の構造部材を備え、
その車外側に突出する前記外側フランジどうしが接合された前記接合部を内部に入り込むように覆う外側被覆部材が配置され、
二つの前記構成部材のそれぞれの底面は、運転者の視線方向に沿って互いに平行に配置されると共に、前記底面間の距離は、前記運転者の両目の間隔より狭くなるように形成され、
二つの前記構成部材のそれぞれの前記外側フランジは、それぞれの前記底面に対して平行に車外側へ突出しており、
二つの前記構成部材のそれぞれの前記内側フランジは、それぞれの前記底面に対して平行に車内側へ突出している、
ピラー上部。
【請求項2】
請求項1のピラー上部であって、
一対の前記接合部は、二つの前記構成部材のそれぞれの前記底面を含む2平面の間に配置されている、
ピラー上部。
【請求項3】
請求項2のピラー上部であって、
一対の前記接合部は、二つの前記構成部材のそれぞれの前記底面に対して垂直な方向に互いにずれている、
ピラー上部。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかのピラー上部であって、
前記構造部材の車内側へ突出する部分を覆う断面U字状のガーニッシュを備え、
前記ガーニッシュの互いに対向する内壁は、二つの前記構成部材のそれぞれの前記底面に沿わせて配置されている、
ピラー上部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のピラーに関するものである。より詳しくは、運転席から見た車外の死角を減らしつつ、強度と剛性を確保できるピラー上部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体が備えるピラーは運転者が車外の通行者を目視するにあたって邪魔になることがある。ピラーなどの車体の陰になって左右いずれの目からも直接見えない車外の領域は死角と呼ばれる(
図5参照)。死角はフロントピラーのみならず、センターピラーやリアピラーによっても生じ、側方や後方にいる歩行者や別の車両を目視で確認したいときにもこれらが障害となり得る。自動車を運転する際の交通安全を確保するにはピラーなどの車体構造に起因する死角を減らすことが重要である。例えば特開2008−006836号公報には、剛性を保ちつつ運転者が見たときの幅を狭くした小型トラックのフロントピラーが記載されている。また特開2016−159786号公報には、運転者の視界を改善するとともに十分な曲げ耐力を有する車両フロントピラーが記載されている。
【0003】
一方、自動車が衝突したり横転したりした際の車室内の生存空間を確保するには、車体フレームを成すピラーの剛性と強度を上げることが必要である。例えば特開2000−351387号公報には、車体前方や側方からの衝撃荷重に対する車体前部側面の剛性を向上させられる自動車の車体構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−006836号公報
【特許文献2】特開2000−351387号公報
【特許文献3】特開2016−159786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
死角を減らすために単に運転者の位置から見たピラーの幅を狭くするとピラーの断面積も小さくなってしまい、ピラーの剛性が落ちてしまう。また、高強度材料を利用したり発泡材を充填したりしてピラーの強度や剛性を高めると費用が増大してしまう。本発明が解決しようとする課題のひとつは、運転席から見た車外の死角を減らしつつ、ピラーの強度と剛性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のひとつの態様は、自動車のピラー上部であって、複数の構成部材が長手方向にわたる接合部を介して組み合わされた閉断面の構造部材を備え、その車外側にこの構造部材の接合部を覆う外側被覆部材が配置されている。
【0007】
ひとつの実施例として、複数の構成部材がそれぞれ車外側に突出する外側フランジを有し、この外側フランジどうしが接合されて前記の接合部が構成されており、この各構成部材の外側フランジが外側被覆部材の内部に入り込んでいる。
【0008】
ひとつの実施例として、複数の構成部材が二部材であり、外側フランジに対して構造部材の対角側にあって車内側に突出する内側フランジをそれぞれ有し、この内側フランジどうしも接合されている。
【0009】
ひとつの実施例として、ピラー上部の長手方向を含む鉛直面に対して、外側フランジの成す面と内側フランジの成す面がそれぞれ25〜40度の角度を成している。
【0010】
ひとつの実施例として、各構成部材の外側フランジと内側フランジの成す面が実質平行になっている。
【0011】
ひとつの実施例として、各構成部材の外側フランジと内側フランジの成す面が互いにずれている。
【0012】
ひとつの実施例として、二つの構成部材がそれぞれハット形断面を有する。
【発明の効果】
【0013】
運転席の方向から見てピラー上部の構造部材のフランジが左右に突き出している構造と比べると、ピラー上部の断面積を減らすことなく幅を狭くでき、車外の視認性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一般的な自動車の右側のフロントピラーを車内から見た図である。
【
図2】本発明のひとつの実施例としてのフロントピラーの、
図1のB−B線での断面図である。
【
図3】従来のフロントピラーの、
図1のB−B線での断面図である。
【
図4】運転者から車外を見たときの死角を説明するめの、
図2の実施例のフロントピラーの
図1のA−A線での断面図である。
【
図5】運転者から車外を見たときの死角を説明するための、
図3の従来のフロントピラーの
図1のA−A線での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための各種実施例について図面を参照しながら説明する。本発明は概して、自動車の車体フレームを構成しルーフを支えるピラーを対象とするものである。様々な実施例においてピラーはフロントドアの前側にあるフロントピラー(Aピラー)であることが好ましいが、センターピラー(Bピラー)、リアピラー(Cピラー)であってもよい。
【0016】
図1は、ひとつの実施例として右ハンドル自動車の右側のフロントピラー10を示している。フロントピラー10は、大まかに言って、ウィンドシールド50(フロントガラス)とフロントドアガラス(
図2参照)の間にあるピラー上部12と、そこから下方に連続するピラー下部14とに分かれる。ピラー下部14はほぼ鉛直方向に延びるが、ピラー上部12の延びる方向はウィンドシールド50の傾斜角度に合わせて鉛直方向に対して車種によって様々な角度を成す。本願では、説明の便宜上、ピラー上部12を横切る水平な方向をX軸、ピラー上部12の長手方向を含む鉛直面内にあって長手方向に直交する方向をZ軸と定義する。X軸はほぼ自動車の幅方向であると考えることもできる。また、ピラー上部12に直交する平面(
図2と
図3に示す断面を含む平面)はXZ平面となる。
【0017】
図2に示すように、ピラー上部12は、中心に閉断面の筒状の金属製構造部材20を備える。構造部材20は、所定の厚さを有する長手の構成部材22、24がいくつか接合されて構成される。いずれの構成部材22、24もフロントピラー10において従来のヒンジリインフォース部材(例えば
図3のヒンジリインフォース部材128)とは異なる役割を果たすが、場合によってはヒンジリインフォースと呼ぶこともできる。構造部材20の外側にはその長手にわたる接合部を覆う外側被覆部材30が配置される。ピラーの剛性と強度は主として中心の構造部材20が担うため、外側被覆部材30は構造部材20よりも薄くすることもできる。ピラー上部12は外側被覆部材30を介してピラー下部14やルーフサイド部(図示しない)と接続される。
【0018】
図2に示すように、好ましくは構造部材20は二枚の構成部材22、24で構成される。好ましくは、二枚の構成部材22、24はそれぞれフランジのある溝形断面あるいはハット形断面を有するものとする。このような構成とすることで簡単に閉断面構造を形成できる。しかし、図示しない別の実施例として、構造部材20は三枚以上の構成部材で構成することもできる。二枚の構成部材22、24にはそれぞれ車外に向かって突出する外側フランジ22a、24aがあり、この外側フランジ22a、24aどうしが溶接されて上記の接合部が構成される。外側被覆部材30は溝形断面やハット形断面など内部30aを有する形状とし、外側被覆部材30の内部30aにこの各構成部材22、24の接合された外側フランジ22a、24aが入り込むようにする。外側被覆部材30はその両縁で構成部材22、24の外側の壁面22d、24dに固定することができる。好ましくは二枚の構成部材22、24にはそれぞれ車内に向かって突出する内側フランジ22b、24bがあり、この内側フランジ22b、24bどうしも溶接される。したがって、内側フランジ22b、24bは外側フランジ22a、24aに対し構造部材20の対角側に配置される。このような構成とすることで内側フランジ22b、24bも外部視認の邪魔とならず、ピラー上部12の曲げ剛性向上にも寄与する。また、内側フランジ22b、24bと外側フランジ22a、24aは突出幅を調節することにより自由に必要な剛性や強度を得ることもできる。
【0019】
図3は、特開2016−159786号公報に開示されているような、従来のピラー上部の断面を示している。この従来の構成では、ピラー上部を成す外側部材130と内側部材126とヒンジリインフォース部材128それぞれのフランジがウィンドシールド150とフロントドアガラス152に向かって、すなわち運転席の方向から見て左右に向かって突き出していた。従来の構成と比べると、
図2に示すような本発明の実施例の構成は構造部材20のフランジがピラー上部12の断面積を減らすことなく幅を狭くでき、車外の視認性が良い。さらに発明者は実施例の構成と従来の構成それぞれのピラー上部について強度解析を行った。実施例については
図2の二枚の構成部材22、24からなる構造部材20、従来の構成については主に強度を担う
図3の内側部材126とヒンジリインフォース部材128からなる閉断面構造120を解析の対象とし、各部材の断面形状は
図2と
図3に示したもの実際に使用した。また、閉断面の面積は強度と相関があるため、実施例と従来とで面積を等しくして条件を平等にした。解析結果によれば、実施例のピラー上部12の断面形状を採用することによりピラー上部の特にZ軸周りの曲げ剛性が従来よりも4倍程度に向上できることがわかった。ピラー上部12のZ軸周りの曲げ剛性は例えば自動車が横転したときの乗員の生存空間の確保にとって重要である。なお、
図1の矢印M
ZはZ軸周りの曲げ、矢印M
XはX軸周りの曲げを表している。
【0020】
図2に示すように、フランジの成す面は、ピラー上部12の長さ方向を含む鉛直面に対して25〜40度の角度を成すようにするのがよい。言い換えれば、
図2に示すXZ平面でのピラー上部12の断面においてフランジ面の方向がZ軸に対して25〜40度の角度を成すようにする。発明者は
図2に示した断面形状のままフランジ面の角度を様々に変えてピラー上部12の強度解析をさらに行った。ここでも
図2の二枚の構成部材22、24のみを解析の対象とした。解析結果によれば、フランジ面を上記の25〜40度の角度範囲に設定することでX軸周りとZ軸周りについての曲げ剛性のバランスも良く、いずれかが低くなりすぎることがないことがわかった。また、運転席と同じ側のフロントピラー10(例えば右ハンドル車であれば右側のフロントピラー)についてこのような角度範囲とすれば、特に運転席の方向から見たピラー上部12の幅を十分に狭くして死角を減らすことができる。自動車が右ハンドル車であるか左ハンドル車であるかに関わらず、フランジの角度は左右のフロントピラーで同じにしても良いし、変えても良い。上記の好ましい角度範囲は、フロントピラー10と同様に傾斜していることの多いリアピラーにも適用できる。また、外側フランジ22a、24aと内側フランジ22b、24bがそれぞれ成す面は実質平行にするとよい。これによりフランジ形成時のプレス成形性を向上させることができる。
【0021】
ピラー上部12に含まれる構造部材20の各構成部材22、24と外側被覆部材30は、通常、鋼鈑から適切なプレス成形を施すことによって製造できる。構造部材20を成す複数の構成部材22、24のフランジどうしは当業者が適切と考える溶接方法であればいかなる方法で接合してもよい。しかし、好ましくはプラズマ溶接、レーザー溶接によってフランジの縁を連続的に溶接するのがよい。これによりスポット溶接の場合に必要となる広い面積をフランジに確保する必要がないため、剛性向上だけでなく軽量化も可能となる。構造部材20に対する外側被覆部材30の溶接は、閉断面の構造部材20の外側から施すことのできる方法であればいかなる溶接方法を用いてもよい。しかし、好ましくはプラズマ溶接、レーザー溶接、アーク溶接などによって溶接するのがよい。
【0022】
図4と
図5は、実施例と従来の構成それぞれのピラー上部12、112を、運転者の視線を含む水平な平面(
図1のA−A線)で切った断面で示している。実施例において、ピラー上部12の幅は、車種ごとに自由に変えることができる。
図4に示すように、具体的には、ピラーから外側に遠ざかるにつれて死角Sが減るようにするためには、運転席の方向から見たときのピラー上部12の幅を少なくとも人間の両目Eの間隔(おおよそ一定と考えられる)より狭くする必要がある。実際にはさらに、運転者から一定の距離にある車外の一点(歩行者や別の車両の各部)が少なくとも一方の目Eで見えるようにピラー上部12の幅を設定するのがよい。一方、
図5に示すように、従来の構造では必要な強度を得るためにピラー上部112の幅が広くなり、遠ざかるにつれて死角Sが増大しがちであった。
【0023】
図2に示すように、ピラー上部12には構造部材20の内側に内装材としてガーニッシュ40をそれぞれ取り付けることができる。通常、ガーニッシュ40は不透明であるため、なるべくハット形断面の構成部材22、24の底面22c、24cに沿わせて、さらなる死角を生じないようにするとよい。ひとつの実施例として、ガーニッシュ40は
図2に示すような幅の狭いU字断面を有するものとしてもよい。また、ピラー上部12には構造部材20の前側の構成部材22に沿ってウィンドシールド50が固定される。ピラー上部12には外側被覆部材30のさらに外側に外装材として樹脂製カバー42を取り付けることができる。ウィンドシールド50の側縁はこの樹脂製カバー42によって覆われる。ピラー上部12には構造部材20の後側の構成部材24に沿って雨水の侵入を防ぐためのウェザーストリップ44が取り付けられ、フロントドアを閉じるとフロントドアガラス152あるいはサッシュがこのウェザーストリップ44によって密閉状態でピラー上部12に当接する。ガーニッシュ40の内部に形成される空間には、エアバッグ60を収容したり、ワイヤーハーネス70を配策したりすることもできる。この場合、内側フランジ22b、24bを外側フランジ22a、24aに対して側方(例えば
図2に示すように前側の構成部材22寄り)にずらすことで、ピラー上部12の幅を増すことなくガーニッシュ40内にエアバッグ60の収容空間を十分に確保することも可能である。また、一方または両方の構成部材の内側フランジ22b、24bを接合に必要な幅以上に延長することにより、この延長部にエアバッグ60やワイヤーハーネス70を固定できるようにしてもよい。
図2に示した実施例では前側の構成部材22の内側フランジ22bを後側の構成部材24の内側フランジ24bより先まで延長している。なお、
図2と
図3でウェザーストリップ44、144、エアバッグ60、160、ワイヤーハーネス70、170を示す鎖線は大まかな位置のみを説明するものであり、実際の形状を表現していない。
【0024】
なお、ピラー上部12には、上述の構造部材20の他に、必要に応じて剛性や強度を増強するための補強部材を長手の全体あるいは一部に含めることもできる。
【0025】
以上、本発明の様々な実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、当業者は発明の趣旨から逸脱しない範囲において各種の改変、置換、改良を施すことができる。
【符号の説明】
【0026】
10 フロントピラー
12 ピラー上部
14 ピラー下部
20 構造部材
22、24 構成部材
22a、24a 外側フランジ
22b、24b 内側フランジ
30 外側被覆部材