【文献】
2・6・16 マスキング剤(消臭・脱臭・防臭・除臭),特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般,1999年 1月29日,p.230-250,全文、特に表1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
以下のA乃至E群からなる群より選択される1種又は2種以上の化合物を含有する、乳製品の劣化臭マスキング剤であって、前記化合物各々の前記乳製品全体に対する濃度が0.000025ppb〜10000ppbの範囲内となるように使用される劣化臭マスキング剤;
A群:メンチルアセテート、リナリルアセテート、イソアミルイソバレレート、及びイソアミルブチレート、
B群:ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、及び1,8−シネオール、
C群:マルトールイソブチレート、エチルピルベート、ヘリオトロピン、及びジエチルマロネート、
D群:エチルピルベート、γ−ブチロラクトン、エチルレブリネート、及びベンジルアルコール、並びに
E群:ヘキサナール、γ−ヘキサラクトン、エチルプロピオネート、及びアミルアセテート。
前記A乃至E群からなる群より選択される2種以上の化合物を含有し、且つそのうちの少なくとも2種の化合物は、それぞれ、前記A乃至E群において互いに異なる一群より選択されている、請求項1に記載の乳製品の劣化臭マスキング剤。
前記A乃至E群からなる群より選択される3種以上の化合物を含有し、且つそのうちの少なくとも3種の化合物は、それぞれ、前記A乃至E群において互いに異なる一群より選択されている、請求項1又は2に記載の乳製品の劣化臭マスキング剤。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、語句「含む」又は語句「含有する」は、語句「からなる」、及び語句「のみからなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載の操作、及び工程は、特に記載のない限り、室温で実施され得る。
本明細書中、用語「室温」は、技術常識に従って理解され、例えば、10℃〜35℃の範囲内の温度を意味することができる。
【0012】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明において乳製品とは、乳そのもの、あるいは、乳を一原料として用いて製造される製品のことをいい、このようなものであれば特に限定されない。
乳としては、例えば、生乳、牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、及び加工乳等を挙げることができる。
乳製品としては、例えば、
発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳、全粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳、クリーム、チーズ、及びバター、並びに
これらの1種以上をそれぞれ含有する、飲食品、例えば、飲料(例えば、乳酸菌飲料、乳飲料、コーヒー飲料、清涼飲料等)、菓子(例えば、プリン、ゼリー、ババロア、杏仁豆腐、ビスケット等)、アイスクリーム、及び製パン類等
を挙げることができる。
【0013】
本発明の対象とする、乳製品の劣化臭は、好適には、乳製品の光劣化臭である。
【0014】
後記実施例に記載するように、本発明者らは、本発明に関し、劣化臭(具体的には、光劣化臭)における主要臭気物質を同定した。
簡潔に述べると、本発明者らは、乳製品の劣化臭を構成する主要臭気物質を、
(1)光を照射することにより劣化臭を生成させた乳製品及び光劣化していない乳製品の臭気成分を、ガスクロマトグラフィーオルファクトメータ(以下、GC/Oと略記する)により分析すること、及び
(2)光照射により生成された臭気成分(すなわち、光劣化していない乳製品に比べて、光照射により劣化臭を生成させた乳製品で増加している臭気成分)のうち、劣化臭を構成する主要な物質を特定すること
により、同定した。
【0015】
このような主要臭気物質の好適な具体例は、ジメチルジスルフィド、1−オクテン−3−オン、メチオナール、4,5−エポキシ−trans−2−デセナール、及びtrans−2−ノネナールを包含する。
【0016】
本発明の乳製品の劣化臭マスキング剤(本明細書中、これを、「劣化臭マスキング剤」又は「マスキング剤」ということがある)は、以下のA乃至E群からなる群より選ばれる化合物(本明細書中、これをマスキング剤化合物と称する場合がある。)の1種以上を有効成分とするものである;
A群:メンチルアセテート、リナリルアセテート、イソアミルイソバレレート、及びイソアミルブチレート、
B群:ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、及び1,8−シネオール、
C群:マルトールイソブチレート、エチルピルベート、ヘリオトロピン、及びジエチルマロネート、
D群:エチルピルベート、γ−ブチロラクトン、エチルレブリネート、及びベンジルアルコール、並びに
E群:ヘキサナール、γ−ヘキサラクトン、エチルプロピオネート、及びアミルアセテート。
【0017】
当該A乃至E群の化合物は、いずれも既知の香気成分である。
本発明においては、当該化合物として、天然物からの抽出物、又はその精製物、或いは化学反応による合成物を制限なく用いることができる。簡便には、本発明において、これらの市販品を好適に使用することができる。
【0018】
A群に記載された化合物である、メンチルアセテート、リナリルアセテート、イソアミルイソバレレート、及びイソアミルブチレートは、それぞれ、乳製品の劣化臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した劣化臭の主要臭気物質の1つである、ジメチルジスルフィドに対するマスキング剤として効果的に機能する。
【0019】
B群に記載された化合物である、ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、及び1,8−シネオールは、それぞれ、乳製品の劣化臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した劣化臭の主要臭気物質の1つである、1−オクテン−3−オンに対するマスキング剤として効果的に機能する。
【0020】
C群に記載された化合物である、マルトールイソブチレート、エチルピルベート、ヘリオトロピン、及びジエチルマロネートは、それぞれ、乳製品の劣化臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した劣化臭の主要臭気物質の1つである、メチオナールに対するマスキング剤として効果的に機能する。
【0021】
D群に記載された化合物である、エチルピルベート、γ−ブチロラクトン、エチルレブリネート、及びベンジルアルコールは、それぞれ、乳製品の劣化臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した劣化臭の主要臭気物質の1つである、4,5−エポキシ−trans−2−デセナールに対するマスキング剤として効果的に機能する。
【0022】
E群に記載された化合物である、ヘキサナール、γ−ヘキサラクトン、エチルプロピオネート、及びアミルアセテートは、それぞれ、乳製品の劣化臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した劣化臭の主要臭気物質である、trans−2−ノネナールに対するマスキング剤として効果的に機能する。
【0023】
本発明の劣化臭マスキング剤は、前記A乃至E群からなる群より選ばれる化合物の1種又は2種以上を含有することを特徴とする。
当該マスキング効果は、前記化合物の1種のみを用いることで得ることができ、前記化合物の2種以上を用いることでより良好な効果を得ることができ、及び前記化合物の3種以上を用いることで更に良好な効果を得ることができる。
本発明においては、当該良好なマスキング効果の点から、
A乃至E群のうちの2群からそれぞれ選択した各1種以上(計2種以上)の化合物を組み合わせて用いることが好ましく、
A乃至E群のうちの3群からそれぞれ選択した各1種以上(計3種以上)の化合物を組み合わせて用いることがより好ましく、
A乃至E群のうちの4群からそれぞれ選択した各1種以上(計4種以上)の化合物を組み合わせて用いることが更により好ましく、
A乃至E群の5群全てからそれぞれ選択した各1種以上(計5種以上)の化合物を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0024】
本発明における劣化臭マスキング化合物の使用量(例えば、本発明の劣化臭マスキング剤の乳製品に対する含有量)は、劣化臭のマスキング効果を奏する量であればよく、具体的には
当該化合物各々の乳製品全体に対する濃度が、
0.0000025ppb〜100000ppbの範囲内となるように使用することが好ましく、
0.000025ppb〜10000ppbの範囲内となるように使用することがより好ましく、及び
0.00025ppb〜1000ppbの範囲内となるように使用することが更に好ましい。
当該使用量が少なすぎると劣化臭のマスキング効果が不十分になることがあり、一方、当該使用量が多すぎると、前記マスキング剤化合物自体が有する香り及び/又は味が乳製品の香り及び/又は味に望まない影響を与えることがある。
【0025】
本発明においては、A乃至E群の各一群の化合物の合計質量(又は合計濃度)が、それぞれのマスキングの好適な対象(すなわち、マスキング剤として効果的に機能する対象)である臭気物質の質量(又は濃度)と同程度(例えば、1:10〜10:1の範囲内の比、1:9〜9:1の範囲内の比、1:8〜8:1の範囲内の比、1:7〜7:1の範囲内の比、1:6〜6:1の範囲内の比、1:5〜5:1の範囲内の比、1:4〜4:1の範囲内の比、1:3〜3:1の範囲内の比、1:2〜2:1の範囲内の比、2:3〜3:2の範囲内の比、又は3:4〜4:3の範囲内の比)であることが好ましい。
驚くべきことに、マスキング剤化合物が少ない場合のみならず、多すぎる場合にも、対象の臭気物質に対するマスキング効果が弱まることがある。
【0026】
本発明の劣化臭マスキング剤は、当該マスキング剤化合物以外の化合物を含有してもよい。
本発明の劣化臭マスキング剤の形態、及び当該他の化合物の種類及び量は、適宜、本発明の劣化臭マスキング剤の使用態様等に応じて、設定することができる。
本発明の劣化臭マスキング剤は、例えば、
前記マスキング剤化合物のみからなる液剤の形態であってもよく、或いは
水、アルコール、グリセリン、及びプロピレングリコール等の、単独の、又は混合の溶剤に、1種以上のマスキング剤化合物が適当な濃度で溶解している希釈液剤であってもよい。
本発明の劣化臭マスキング剤は、また、例えば、1種以上のマスキング剤化合物の溶液にデキストリン等の賦形剤を添加し、及び噴霧乾燥等の手段により粉末化して調製した粉体製剤であってもよい。
【0027】
本発明の劣化臭マスキング剤は、香料製剤の形態であってもよい。当該香料製剤は、例えば、1種以上のマスキング剤化合物が、香料成分(当該マスキング剤化合物以外の香料成分)を含有する香料組成物に添加されているものであることができる。当該香料製剤は、従来の香料製剤と同様の方法、及び条件で乳製品に使用できる。
このような他の香料成分としては、例えば、「特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第II部 食品香料(日本国特許庁、平成12年1月14日発行)」の第7頁〜第87頁に記載された天然香料、及び合成香料等を挙げることができる。
本発明の劣化臭マスキング剤は、その利用上の利便性からは、好ましくは希釈液剤、粉体製剤、又は香料製剤であり、及びより好ましくは香料製剤である。
【0028】
本発明の劣化臭マスキング剤、又はこれを含有する製剤を乳製品に添加又は適用する時期及びその方法は特に限定されず、乳製品製造時の任意の段階でこれを添加又は適用すればよい。
例えば、乳製品の原材料に、本発明の劣化臭マスキング剤、又はこれを含有する製剤を予め添加又は適用した後、この原材料を乳製品に添加又は適用することによって本発明の劣化臭マスキング剤を乳製品に添加又は適用してもよい。
【0029】
なお、本発明の劣化臭マスキング剤は、通常の乳製品に用いられる各種食品素材を含有する乳製品に対しても使用することができる。
当該食品素材としては、例えば、糖質、甘味料、増粘剤、乳化剤、ビタミン類、果汁、及びフレーバー等を挙げることができる。
当該食品素材としては、具体的には、例えば、
ショ糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、キシロース、及び麦芽糖等の糖質;
ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、パラチニット、及び還元水飴等の糖アルコール;
アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムカリウム、及びステビア等の高甘味度甘味料;
寒天、ゼラチン、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、及びジェランガム等の増粘剤;
ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;
ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、及びビタミンE等のビタミン類;
ストロベリー果汁、ブルーベリー果汁、グレープ果汁、及び白ぶどう果汁等の果汁;
ストロベリーフレーバー、ブルーベリーフレーバー、グレープフレーバー、及びマスカットフレーバー等のフレーバー
等を挙げることができる。
【0030】
(1)本発明の、乳製品の製造方法、(2)本発明の、乳製品の劣化臭をマスキングする方法、(3)本発明の、乳製品の製造方法、及び(4)本発明の乳製品は、前記した本発明の、乳製品の劣化臭マスキング剤等についての説明等から理解される。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を以下の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
以下の例において、量、及び濃度を示す数値は、特に限定が無い限り、質量に基づくことができる。
以下、「(R)」の付記は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の商標であることを意味する。
【0032】
試験例A(主要臭気物質の同定)
以下に示す手順に従って、乳製品の光劣化臭における主要臭気物質を同定した。
【0033】
(乳製品の調製)
79kgの水に、15kgの果糖ぶどう糖液糖、及び0.5kgのSM−1200(*1)を加え、80℃にて10分間攪拌し溶解した。この溶解液を室温まで冷却した後、4.3kgの脱脂粉乳を加えて溶解し、更に0.54kgのクエン酸(無水)を0.7kgの水に溶解した液を加えた。この混合液を80℃に昇温し、ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ社製)を用いて14.7MPaで均質化し、及び93℃達温にてホットパック充填して乳飲料を調製した。
*1:大豆多糖類を有効成分とする安定剤/三栄源エフ・エフ・アイ社製
【0034】
(光劣化処理)
前記調製した乳飲料を、蛍光灯(10000lux)照射下、10℃にて10日間保管することにより光劣化処理した乳飲料を調製した。これと並行して、別途、遮光下5℃にて10日間冷蔵保管することにより光劣化していない乳飲料を調製した。
【0035】
(光劣化臭の主要臭気物質の同定)
前記光劣化処理を施した乳飲料及び光劣化処理なしの乳飲料を、GC/Oにより分析し、光劣化処理有無による臭気物質の差から、光劣化臭における主要臭気物質として、ジメチルジスルフィド、1−オクテン−3−オン、メチオナール、4,5−エポキシ−trans−2−デセナール、及びtrans−2−ノネナールの5種の物質を同定した。
なお、GC/Oの測定条件を以下に示す。
・GC/O装置:6890N(Agilent Technologies社製)/CharmAnalysis(TM)(Datu社製)
・カラム:DB−WAX/長さ15m、内径0.32mm(Agilent Technologies社製)
・カラム温度条件:40〜220℃、6℃/分昇温
・キャリアガス:ヘリウム
【0036】
(光劣化臭の主要臭気物質の検証)
主要臭気物質として同定したジメチルジスルフィド、1−オクテン−3−オン、メチオナール、4,5−エポキシ−trans−2−デセナール、及び、trans−2−ノネナールを、光劣化処理していない乳飲料に対して、1ppb、0.25ppb、1ppb、1ppb、及び1ppbの量で添加して、擬似的な光劣化乳飲料を調製した。この擬似光劣化乳飲料について、光劣化処理した乳飲料を比較対象として、パネル10名による官能評価を以下の基準により実施した。パネル10名の評価点の平均は4.2であり、5種の主要臭気物質により乳製品の光劣化臭が良好に再現されていることを確認した。
<官能評価基準>
光劣化処理した乳飲料と同等の臭気である:5点
光劣化処理した乳飲料に類似する臭気である:4点
光劣化処理した乳飲料に類似する臭気と異質の臭気が混在する:3点
光劣化処理した乳飲料とは異質の臭気である:2点
光劣化処理した乳飲料とは全く異質の臭気である:1点
【0037】
試験例1
(A群の化合物のジメチルスルフィドに対するマスキング効果)
ジメチルジスルフィドを95%エタノール中に1質量%濃度となるように希釈し、この希釈液をジメチルスルフィドの濃度が1ppbとなるように精製水に添加した。このようにして調製したジメチルジスルフィド含有水溶液に、A群の化合物(メンチルアセテート、リナリルアセテート、イソアミルイソバレレート、又はイソアミルブチレート)を表1に記載の濃度となるようにそれぞれ添加して、ジメチルジスルフィドに対するマスキング効果を官能評価により確認した。
官能評価は、前記のジメチルスルフィドを1ppb含有する精製水の評価を「ジメチルジスルフィド臭を強く感じる:4点」とし、また精製水の評価を「ジメチルジスルフィド臭を全く感じない:0点」として、以下の評価基準を設定し、習熟したパネル10名により、評価点をつけることにより行った。評価点の平均を表1に示した。
<評価基準>
ジメチルジスルフィド臭を強く感じる:4点
ジメチルジスルフィド臭を感じる:3点
ジメチルジスルフィド臭を少し感じる:2点
ジメチルジスルフィド臭を殆ど感じない:1点
ジメチルジスルフィド臭を全く感じない:0点
【0038】
【表1】
【0039】
また、ジメチルスルフィドに対するA群化合物の濃度とマスキング効果との関係について検討した。
ジメチルジスルフィド濃度が1ppbである前記精製水に、メンチルアセテートを表2に記載の濃度となるように添加して、メンチルアセテートの量とジメチルジスルフィドに対するマスキング効果の関係を、前記と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
【0040】
【表2】
【0041】
試験例2
(B群の化合物の1−オクテン−3−オンに対するマスキング効果)
試験例1において、A群の化合物をB群の化合物(ネロール、アセトアルデヒド、メチルサリシレート、又は1,8−シネオール)に、ジメチルジスルフィドを1−オクテン−3−オンに、また試験液中の1−オクテン−3−オンの濃度を0.25ppbに変更した以外は、試験例1と同様の方法により、B群の化合物の1−オクテン−3−オンに対するマスキング効果、及び、ネロールの添加量に対するマスキング効果を評価した。評価結果を表3及び表4に示した。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
試験例3
(C群の化合物のメチオナールに対するマスキング効果)
試験例1において、A群の化合物をC群の化合物(マルトールイソブチレート、エチルピルベート、ヘリオトロピン、又はジエチルマロネート)に、またジメチルジスルフィドをメチオナールに変更した以外は、試験例1と同様の方法により、C群の化合物のメチオナールに対するマスキング効果、及びマルトールイソブチレートの添加量に対するマスキング効果を評価した。評価結果を表5及び表6に示した。
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
試験例4
(D群の化合物の4,5−エポキシ−trans−2−デセナールに対するマスキング効果)
試験例1において、A群の化合物をD群の化合物(エチルレブリネート、エチルピルベート、γ−ブチロラクトン、又はベンジルアルコール)に、またジメチルジスルフィドを4,5−エポキシ−trans−2−デセナールに変更した以外は、試験例1と同様の方法により、D群の化合物の4,5−エポキシ−trans−2−デセナールに対するマスキング効果、及びエチルレブリネートの添加量に対するマスキング効果を評価した。評価結果を表7及び表8に示した。
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
試験例5
(E群の化合物のtrans−2−ノネナールに対するマスキング効果)
試験例1において、A群の化合物をE群の化合物(ヘキサナール、γ−ヘキサラクトン、エチルプロピオネート、又はアミルアセテート)に、またジメチルジスルフィドをtrans−2−ノネナールに変更した以外は、試験例1と同様の方法により、E群の化合物のtrans−2−ノネナールに対するマスキング効果、及びヘキサナールの添加量に対するマスキング効果を評価した。評価結果を表9及び表10に示した。
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
表1〜表10の結果から、A乃至E群のマスキング剤化合物はそれぞれ、ジメチルジスルフィド、1−オクテン−3−オン、メチオナール、4,5−エポキシ−trans−2−デセナール、及びtrans−2−ノネナールに対して効果的なマスキング剤であり、また、各群中の4種の化合物のマスキング効果は各々同等レベルあることがわかった。更に、A乃至E群の化合物のマスキング効果は、マスキング剤化合物の量が臭気物質の量と同程度となる場合において高い傾向があることがわかった。驚くべきことに、マスキング剤化合物が少ない場合のみならず、多すぎる場合にも、対象の臭気物質に対するマスキング効果が弱まる傾向がみられた。
【0054】
試験例6
(乳飲料に主要臭気物質を添加した擬似光劣化乳飲料に対する劣化臭マスキング剤のマスキング効果)
前記した「(光劣化臭の主要臭気物質の検証)」において調製した擬似光劣化乳飲料に対して、表11に記載したマスキング剤化合物を当該表中記載の量で添加し、それらのマスキング効果を官能評価により確認した。
官能評価は、前記の擬似光劣化乳飲料の評価を「異臭を強く感じる:4点」とし、また光劣化臭物質を添加していない乳飲料(すなわち光劣化処理していない乳飲料)の評価を「異臭を全く感じない:0点」として、以下の評価基準を設定し、習熟したパネル10名による評価を行った。官能評価点の平均を表11に示した。
<評価基準>
異臭を強く感じる:4点
異臭を感じる:3点
異臭を少し感じる:2点
異臭を殆ど感じない:1点
異臭を全く感じない:0点
【0055】
【表11】
【0056】
表11の結果から、A群(メンチルアセテート)、B群(ネロール又はアセトアルデヒド)、C群(マルトールイソブチレート)、D群(エチルレブリネート)、及びE群(ヘキサナール)からなる群より選ばれた1種の化合物は、光劣化状態を再現した擬似光劣化乳飲料において、光劣化臭を効果的にマスキングできること、ひいては劣化臭を効果的にマスキングできることがわかった(試験例6−1乃至6−6)。また、2種の化合物をA乃至E群の異なる群から選択した試験例6−7乃至6−13は、前記1種のみの化合物を添加した場合に比べ、より優れた光劣化臭マスキング効果を示すこと、ひいては劣化臭を効果的にマスキングできることがわかった。更に、3種の化合物をA乃至E群の異なる群から各々選択した試験例6−14乃至6−16、また、5種の化合物をA乃至E群から1種ずつ選択した試験例6−17においては、さらに優れた光劣化臭マスキング効果が発揮されること、ひいてはさらに優れた劣化臭マスキング効果が発揮されることがわかった。
【0057】
実施例1
(乳飲料における劣化臭マスキング剤のマスキング効果)
前記
【0058】
の(乳製品の調製)において調製した乳飲料に対して、表12に記載したマスキング剤化合物を当該表中記載の量で添加した後、これを容量220mlの透明ペットボトルに全量充填して密栓した。このようにして調製したマスキング剤添加乳飲料を、マスキング剤化合物を添加していない乳飲料と共に、蛍光灯(10000lux)照射下、10℃にて10日間保管した。これと並行して、別途、マスキング剤化合物を添加していない乳飲料を、遮光下5℃にて10日間冷蔵保管することにより光劣化していない乳飲料を調製した。
マスキング剤を添加していない乳飲料において、蛍光灯照射したものを「異臭を強く感じる:4点」とし、遮光保管したものを「異臭を全く感じない:0点」として、以下の評価基準を設定し、マスキング剤を添加した乳飲料の劣化臭マスキング効果について官能評価を実施した。官能評価は、習熟したパネル10名により行い、評価点の平均を表12に示した。
<評価基準>
異臭を強く感じる:4点
異臭を感じる:3点
異臭を少し感じる:2点
異臭を殆ど感じない:1点
異臭を全く感じない:0点
【0059】
【表12】
【0060】
表12の結果から、メンチルアセテート(A群)、ネロール(B群)、及びマルトールイソブチレート(C群)は、それぞれ単独で、乳飲料において光照射により生成した光劣化臭を効果的にマスキングできること、ひいては劣化臭を効果的にマスキングできることがわかった。更に、メンチルアセテート、ネロール、及びマルトールイソブチレートの3種を添加した場合は、より優れたマスキング効果を発揮することがわかった。
【0061】
実施例2
(アイスクリームにおける劣化臭マスキング剤のマスキング効果)
表13の処方にしたがって、アイスクリームを次の手順により調製した。水、クリーム、加糖練乳、水飴をプロペラ型攪拌羽根にて攪拌しながら、脱脂粉乳、砂糖、サンベスト(R)NN−305、ホモゲン(R)DM−Sの粉体混合物を添加し昇温開始した。液温が80℃に到達後バターを添加し、80℃にて10分間攪拌した。その後、調製した溶液を、ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ社製)にて14.7MPaの条件で処理した。処理後の液を5℃以下でエージングし、フリージング(OR:25%)後に氷管に充填し、ブライン槽にて硬化後、透明のジッパー式ポリエチレン袋(2.4cm×1.7cm)に約100g入れた。なお、マスキング剤は、前記の5℃以下のエージング時に表14に記載の化合物を当該表中記載の量で添加した。
このようにして調製したマスキング剤を添加したアイスクリームを、マスキング剤化合物を添加していないアイスクリームと共に、蛍光灯(6000lux)照射下、−20℃にて3日間保管した。これと並行して、別途、マスキング剤化合物を添加していないアイスクリームを、遮光下−20℃にて冷凍保管した。
マスキング剤を添加していないアイスクリームにおいて、蛍光灯照射したものを「異臭を強く感じる:4点」とし、遮光保管したものを「異臭を全く感じない:0点」として、以下の評価基準を設定し、マスキング剤を添加したアイスクリームの劣化臭マスキング効果について官能評価を実施した。官能評価は、習熟したパネル10名により行い、評価点の平均を表14に示した。
<評価基準>
異臭を強く感じる:4点
異臭を感じる:3点
異臭を少し感じる:2点
異臭を殆ど感じない:1点
異臭を全く感じない:0点
【0062】
【表13】
*1:増粘多糖類を有効成分とする安定剤/三栄源エフ・エフ・アイ社製
*2:グリセリン脂肪酸エステルを有効成分とする乳化剤/三栄源エフ・エフ・アイ社製
【0063】
【表14】
【0064】
表14の結果から、ネロール(B群)、エチルレブリネート(D群)、及びヘキサナール(E群)は、それぞれ単独で、アイスクリームにおいて光照射により生成した光劣化臭を効果的にマスキングできること、ひいては劣化臭を効果的にマスキングできることがわかった。更に、ネロール、エチルレブリネート、及びヘキサナールの3種を添加した場合は、より優れたマスキング効果を発揮することがわかった。