(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定する方法であって、前記音生成システムは、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルを備え、前記オーディオ再生チャネルのそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を備え、
− 前記オーディオ再生チャネルのそれぞれについて、前記聴取環境内のM≧1個の空間位置のそれぞれにおいて、前記空間位置において計測された音に基づいて音響伝達関数を推定するステップ(S1)と、
− 前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルに、それぞれ適用される位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を決定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネル間のスピーカ間差動位相(IDP:Inter-loudspeaker Differential Phase)を低減するステップ(S2)と、
を備え、
位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を決定する前記ステップ(S2)は、
− 周波数間隔f1≦f≦f2において、前記オーディオ再生チャネル間のp個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)を、前記M個の空間位置における前記音響伝達関数からの情報に基づいて決定するステップと、
− 統合されたIDP関数φ/(f)を、前記p個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)に基づいて前記p個のIDP関数の平均である平均IDP関数を計算することにより決定するステップと、
− 前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を、前記統合されたIDP関数に基づいて、前記統合されたIDP関数φ/(f)を2つの位相調節関数ψ1(f)、ψ2(f)としても参照される位相応答曲線であって、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))がそれぞれ対応する位相応答ψ1(f)、ψ2(f)を有し、ψ1(f)−ψ2(f)=−φ/(f)を満たす2つの位相応答曲線、に分割して、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))の位相応答を決定することにより計算するステップと、
を備える方法。
関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するシステム(100、200)であって、前記音生成システムは、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルを備え、前記オーディオ再生チャネルのそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を備え、
前記オーディオ再生チャネルのそれぞれについて、前記聴取環境におけるM≧1の空間位置のそれぞれにおいて、前記空間位置において計測された音に基づいて音響伝達関数を推定し、
前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルに、それぞれ適用される位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を決定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネル間のIDPを低減し、
周波数間隔f1≦f≦f2において、前記オーディオ再生チャネル間のp個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)を、前記M個の空間位置における前記音響伝達関数からの情報に基づいて決定し、
統合されたIDP関数φ/(f)を、前記p個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)に基づいて前記p個のIDP関数の平均である平均IDP関数を計算することにより決定し、
前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を、前記統合されたIDP関数に基づいて、前記統合されたIDP関数φ/(f)を2つの位相調節関数ψ1(f)、ψ2(f)としても参照される位相応答曲線であって、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))がそれぞれ対応する位相応答ψ1(f)、ψ2(f)を有し、ψ1(f)−ψ2(f)=−φ/(f)を満たす2つの位相応答曲線、に分割して、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))の位相応答を決定することにより計算する、
システム(100、200)。
少なくとも2つのオーディオ再生チャネルの位相調節を実行する方法であって、前記オーディオ再生チャネルのそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を有し、デジタルフィルタ(F1(f)、F2(f))を、前記オーディオ再生チャネルの前記入力信号にそれぞれ適用するステップを備え、前記聴取環境内のp個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネル間のIDPを低減させ、前記デジタルフィルタは、請求項1に記載の方法により決定される、方法。
少なくとも2つのオーディオ再生チャネルの位相調節を実行するオーディオフィルタシステムであって、前記オーディオ再生チャネルのそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカを有し、
デジタルフィルタ(F1(f)、F2(f))を、前記オーディオ再生チャネルの前記入力信号にそれぞれ適用し、前記聴取環境内のp個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネル間のIDPを低減し、前記デジタルフィルタは、請求項1に記載の方法で決定される、オーディオフィルタシステム。
コンピュータ(100)によって実行される場合、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するコンピュータプログラム(125、135)であって、前記音生成システムは、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルを備え、前記オーディオ再生チャネルのそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を有し、
前記コンピュータ(100)によって実行されると、前記コンピュータを、
− 前記オーディオ再生チャネルのそれぞれに対し、前記聴取環境内のM≧1個の空間位置のそれぞれにおける音響伝達関数を、前記空間位置において計測された音に基づいて推定し、
− 前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルにそれぞれ適用される位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を決定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネル間のIDPを低減し、
前記位相調節フィルタは、
− 周波数間隔f1≦f≦f2において、前記オーディオ再生チャネル間のp個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)を、前記M個の空間位置における前記音響伝達関数からの情報に基づいて決定し、
− 統合されたIDP関数φ/(f)を、前記p個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)に基づいて前記p個のIDP関数の平均である平均IDP関数を計算することにより決定し、
− 前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を、前記統合されたIDP関数に基づいて、前記統合されたIDP関数φ/(f)を2つの位相調節関数ψ1(f)、ψ2(f)としても参照される位相応答曲線であって、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))がそれぞれ対応する位相応答ψ1(f)、ψ2(f)を有し、ψ1(f)−ψ2(f)=−φ/(f)を満たす2つの位相応答曲線、に分割して、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))の位相応答を決定することにより計算する、
ことにより決定する、
ように動作させる命令を備える、コンピュータプログラム。
関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定する装置(200)であって、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルを備え、前記オーディオ再生チャネルのそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を有し、
− それぞれの前記オーディオ再生チャネルに対し、前記聴取環境内のM≧1個の空間位置のそれぞれにおける音響伝達関数を、前記空間位置において計測された音に基づいて推定する、推定モジュール(210)と、
− 前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルにそれぞれ適用される位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を決定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネル間のIDPを低減させる、決定モジュール(220)であって、
前記位相調節フィルタを、
− 周波数間隔f1≦f≦f2において、前記オーディオ再生チャネル間のp個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)を、前記M個の空間位置における前記音響伝達関数からの情報に基づいて決定し、
− 統合されたIDP関数φ/(f)を、前記p個のIDP関数φ1(f)、φ2(f)、・・・、φp(f)に基づいて前記p個のIDP関数の平均である平均IDP関数を計算することにより決定し、
− 前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))を、前記統合されたIDP関数に基づいて、前記統合されたIDP関数φ/(f)を2つの位相調節関数ψ1(f)、ψ2(f)としても参照される位相応答曲線であって、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))がそれぞれ対応する位相応答ψ1(f)、ψ2(f)を有し、ψ1(f)−ψ2(f)=−φ/(f)を満たす2つの位相応答曲線、に分割して、前記位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))の位相応答を決定することにより計算する、
ことにより決定する、決定モジュール(220)と、
を備える装置。
少なくとも2つのオーディオ再生チャネルを有する音生成システムを備えるオーディオシステムであって、前記オーディオ再生チャネルのそれぞれは、入力信号と、少なくとも1つのスピーカと、を有し、
前記オーディオ再生チャネルにそれぞれ適用される位相調節フィルタ(F1(f)、F2(f))をさらに備え、
前記位相調節フィルタは、請求項1に記載の方法を用いて決定される、オーディオシステム。
【背景技術】
【0002】
ステレオ再生とニアサイドバイアス問題
【0003】
多重チャネル録音、特に2チャネルステレオでの録音は、1対のスピーカで再生した場合に、正確に認識されるようにサミングローカライゼーション(Principle of Summing Localization)の原則[1]に大きく依存する。サミングローカライゼーションの原則が意図通りに機能するために、リスナは、
図1に示すように、2つの同一のスピーカの間に位置し、両方のスピーカに対して等しい距離dとなる必要がある。
【0004】
このような対照的なスピーカ及びリスナの配置は、ステレオ録音がスピーカで再生された場合(すなわち、録音の左右のチャンネルが左右のスピーカで再生される場合)に、リスナに、ステレオパノラマ又は音像を体験することを可能にする。ステレオ信号の様々な成分は、スピーカ間のどこかに位置する音源として知覚される。特に、左右のチャネルが等しいモノラル信号は、リスナのまっすぐ真ん中の点から来ると認識される。これは、所謂ファントムセンター効果というものである。
【0005】
図1のようにリスナがスピーカの間の中心軸に沿って位置しておらず、スピーカのうち1つにより近くにいると、ステレオパノラマは間違っているように認識される。例えば、左スピーカまでのリスナの距離d
1が右スピーカまでの距離d
2よりも短いと、左スピーカからの音は、右スピーカからの音よりも短い遅延でリスナに到着する。左スピーカと右スピーカとの間の時間差により、
図2にみるように、近くされる音の方向は左スピーカに大きく偏ることになる。特に、ステレオ信号のモノラル成分は、このようなシナリオでは、リスナのまっすぐ正面から来るとはもはや認識されず、ほとんど左スピーカから来ると認識される。リスナに最も近いスピーカへのステレオパノラマのこの崩壊は、ニアサイドバイアスとして参照されることが多い。ニアサイドバイアスの最も一般的でよく知られている例は、リスナが中心軸の左又は右に位置する自動車におけるステレオ録音を聴くときに生じる。自動車の例の概略図が
図3にしめされおり、リスナ1は、左スピーカの近くに座り、リスナ2は右スピーカの近くに座っている。
図3の例に示されるように、リスナ1がリスナの直前に来るように再生されることを意図した音は、リスナ1が左側から、リスナ2が右側から来るように感じられる。
【0006】
オーディオシステムの2つのチャネル間の空間的な位置において感じられる遅延差は、一般にスピーカ間差動位相(IDP:Inter-loudspeaker Differential Phase)と呼ばれる−180度と+180度との間の値を取る[5]位相差関数により周波数領域で記述することができ、その一例は、
図5に示される。IDPは、周波数依存の時間遅延に対処できるという意味において、チャネル間の時間差よりも一般的な記述を可能とする。
【0007】
オーディオチャネルC
1、C
2間のIDPは、空間の1点からの情報を用いること、空間の1対の点からの情報を用いること、のどちらかにより決定することが可能である。前者の場合、IDPは、チャネルC
1の音響伝達関数を同じ点におけるチャネルC
2の音響伝達関数と比較することにより取得される。後者の場合、IDPは、1点におけるチャネルC
1の伝達関数をもう1点におけるチャネルC
2の伝達関数と比較することにより取得される。したがって、2つのチャネルC
1、C
2間のIDPが定義されるリスナの位置は、空間内の1つの単一点又は1対の点のいずれかに関連づけることができる。
【0008】
理論的に構築された理想的な自動車の例においては、
図4に示すように、2つのスピーカと聴取環境が完全に対称であり、2リスナが中心軸の両側に対称に位置し、左のリスナは、左スピーカに距離|d
1―d
2|だけ右スピーカよりも近く、右のリスナは、逆の関係にあると仮定する。2人のリスナに感じられるスピーカのチャネル間の遅延差は、
図5に示すように、2つのIDP関数の周波数領域において記述することが可能となる。
図5に示す特定の例では、スピーカ及びリスナの位置は、|d
1―d
2|=35.6cmである。
図5に見られるように、この場合のIDP関数は、リスナが中心軸のどちら側に位置するかに依存し、周波数とともに直線的に増加又は減少することが分かる(黒い線は、左のリスナの位置における位相差であり、灰色の線は、右のリスナの位置におけるIDPである)。
図5の例のようなIDP関数は、ある周波数で360度の不連続なジャンプを含んでいるように見えても、連続的であると考えられることに留意されたい。これは、位相角の表現方法が曖昧であるためであり、+190度の角度は、−170度の角度と等しくなり、360度の角度は、0度の角度と等しくなり、その他も同じである。したがって、ある周波数で360度の不連続なジャンプにより減少しても、例えば、直線的に増加するIDP又は位相曲線を記述することは理にかなっている。
【0009】
図5において、周波数軸は、双方のリスナが±90度の間隔内のIDP又は±90度よりも大きいIDPのいずれかを感じる連続な周波数帯に分割できることがさらに見て取れる。特に、IDPが双方のリスナの位置においてゼロである周波数(0Hz、966Hz、1932Hz、その他)が存在する。これは、距離差|d
1−d
2|が音響波長の整数倍に対応するので、双方のスピーカから放射される、その周波数のモノラル信号が、双方のリスナの位置で最大の強め合う干渉を生じさせる。同様に、距離差|d
1−d
2|が奇数の半分の波長に対応する周波数(483Hz、1449Hz、2415Hz、その他)が存在し、この場合、モノ信号は、双方のリスナの位置で最大の打ち消し合う干渉を生じさせる。
【0010】
双方のリスナの位置におけるIDPが±90度の間に制限されている周波数では、システムは、主に同相であると言われ、双方のIDPが±90度の範囲外にある周波数では、システムは、主に逆相であると言われる。
【0011】
上述した連続した同相及び逆相の周波数帯域の存在は、ニアサイドバイアス問題と併せてリスニング感知を著しく低下させる再生音に望ましくないスペクトル歪み(所謂、コムフィルタリング)を加える。
【0012】
ニアサイドバイアスに対する可能な改善
【0013】
中心軸から外れたところに位置する単一のリスナの場合、リスナに最も近いスピーカの信号経路に遅延が与えられれば、ニアサイドバイス問題を大きく修正することが可能であり、そうすると、リスナがスピーカ間の中心軸上に位置している場合のように、正しい信号が等しい遅延でリスナに到着する。
【0014】
しかしながら、2人以上のリスナが存在し、それらのリスナが別々の空間位置に位置すると、1つのチャネルに遅延を追加しても、全てのリスナに対するニアサイドバイアス問題を解決することはできない。例えば、(
図4のように)1人のリスナが左スピーカの近くにいて、もう1人のリスナが右スピーカの近くに位置すると、左チャネルの遅延は左のリスナのニアサイドバイアス問題を解決するが、右のリスナは、右側に対するさらに悪い感知をするであろう。
【0015】
ニアサイドバイアス問題に対する以前に提案された解決策は、前節で説明したように、遅延差を周波数領域でしばしばスピーカ間差動位相(IDP)関数と呼ばれる位相差関数、として見ることに基づいている。この考えは、システムが逆相となっている1又は複数の周波数帯域において、チャネルに180度の位相差を加え、それにより、IDPを180度変化させる位相シフトフィルタを用いる[2,3,4,5]。チャネルに180度の位相を加えることは、多くの異なる方法、例えば、左チャネルにおいて位相を180度シフトさせ、右チャネルは処理をしないままにするフィルタを適用することにより、果たされることが可能である。あるいは、[2]の例に提案されているように、1つのチャネルに+90度、他のチャネルに−90度を加えることができる。このようなフィルタの位相応答は
図6に示されており、黒線は、左チャネルフィルタの望ましい位相応答であり、灰色の線は、右チャネルフィルタの望ましい位相応答である。
図4のような対照的な状況においては、このようなフィルタをシステムに適用することから得られたIDP関数は、
図7に示されており、黒線は、左リスナ位置におけるIDPであり、灰色の線は、右リスナ位置におけるIDPである。
図5と
図7を比較すると、システムは、連続した周波数帯域内において主に同相と逆相との間で交互に変化することから、全ての周波数に対して主に同相に変化することを観測することができる。処理されたシステムは、今やどこにおいても同相であるので、コムフィルタリング効果が緩和され、左右のスピーカからのモノラルの音が双方のリスナ位置でコヒーレントに加算される。ある手法又はもう1つの手法が上述した方法を用いてニアサイドバイアス問題を取り扱う、いくつかの出版物及び特許が存在し、すなわち、2つのオーディオチャネルが主に同相であるか、主に逆相であるかによって、双方のリスナ位置で分類される周波数帯域を識別することにより実現される。そして、チャネルが主に逆相である周波数帯域において、チャネルに180度の位相差を加える位相調節が実行される[2,3,4]。
【0016】
このように、リスナが中心軸から対照的に配置され、IDPがチャネル間の遅延差にのみ依存すると仮定される
図4の理想化されたニアサイドバイアス問題を解決するために、先行技術の方法を適用すれば十分である。すなわち、チャネル間で180度の追加の位相差を実現することは、システムが主に逆相である周波数帯域において、位相シフトフィルタを1又は双方のチャネルに適用することによる。
【0017】
しかしながら、ほぼ全ての現実的な場合において、リスナは、中心軸に対して非対称に位置し、様々な位置におけるIDPは、スピーカとリスナの距離だけに依存するのではなく、周波数のより複雑な関数である。
【0018】
従来技術の制限
【0019】
以下の制限がニアサイドバイアス問題の従来技術における解決策において確認されている。
【0020】
先行技術は、スピーカ位置の空間的な配置、及び、スピーカと部屋の特徴に関して理想的な対称性の仮定に頼っている。実際の状況において、理想的な対称性の仮定は根拠のあるものではなく、多かれ少なかれリスナの非対称な位置に起因し、スピーカと部屋の環境における非対称性に起因する。したがって、先行技術により作成された位相シフトフィルタは、意図された効果を正しく達成することができないであろう。
図9は、現実の自動車内の左と右のスピーカ間のIDP、左前シート(黒線)及び右前シート(灰色線)、を示す。
図9において、IDPが1つのシートでは、±90度間隔の外側にあり、もう1つのシートでは±90度間隔の内側にある周波数が存在することを観察することができる。これらの周波数では、システム全体としては、主に逆相、又は、主に同相に分類されることは無い。
【0021】
先行技術の方法は、リスナの位置におけるIDPがリスナの位置から2つのスピーカまでの物理的な距離にのみ依存するという仮定に基づいている。しかしながら、多くの場合、スピーカの物理的な寸法は、リスナの位置からの距離を決定する明確な方法が存在しないほど十分に大きいので、スピーカからリスナの位置への音響伝達遅延は、必ずしも直線的に増加する位相の応答に対応するものではない。したがって、IDPは、周波数とともに直線的に増加又は減少するのではなく、さらに複雑な関数となる。空間的に分離されているいくつかのスピーカ要素が、同じオーディオチャネルに接続されていることもあり、IDPはさらに複雑となる。再び、
図9は、実際の音響環境におけるIDPの複雑さの例を示す。
【0022】
従来技術は、2人よりも多いリスナが存在する場合、状況に対する解決策を提供していない。例えば、
図4の例と比較して、もう1つのリスナ位置が追加され、3人目のリスナは、他の2人のリスナによって共有されない左右のスピーカまでの距離、d
3及びd
4の対を有する、
図8のような状況が考えられる。IDP関数は、
図10のように振る舞い、第3のリスナ位置のIDP関数が破線で示されている。第3のリスナ位置は、2つのリスナ位置が同相の特徴を有するのとは逆に、主に逆相の特徴を有することが
図10に見ることができる。したがって、全てのリスナのIDPを低減する位相シフトフィルタを構築する方法は不明である。
【0023】
従来技術は、空間的なロバスト性を考慮に入れていない。チャネル間のIDPの減少が、少数の固定されたリスナの位置ではなく、空間内における拡張領域に対して有効であるように、より慎重な方法で位相を調節することが望ましいことが、時々ある。空間的なロバスト性を考慮すると、最大性能は低下する可能性があるが、より大きな空間領域において許容可能な性能を達成することが可能である。
【0024】
柔軟性があり、現実世界の状況によく適合したニアサイドバイアス問題に対する解決策を見出すためには、1つ以上の従来技術の限界を克服することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
1つの目的は、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するための改良された方法を提供するである。
【0026】
もう1つの目的は、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するためのシステムを提供するである。
【0027】
また1つの目的は、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルに対して位相調節を実行する方法を提供することである。
【0028】
さらにもう1つの目的は、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルに対して位相調節を実行するためのオーディオフィルタシステムを提供することである。
【0029】
また1つの目的は、コンピュータによって実行されると、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するためのコンピュータプログラムを提供することである。
【0030】
さらにもう1つの目的は、そのようなコンピュータプログラムを記憶したコンピュータ可読媒体を含むコンピュータ製品を提供することである。
【0031】
さらなるもう1つの目的は、関連する音生成システム用の位相調節フィルタを決定するための装置を提供することである。
【0032】
また1つの目的は、1つの位相調節フィルタ、又は、1対の位相調節フィルタを提供することである。
【0033】
さらにもう1つの目的は、音生成システム及び関連する位相調節フィルタを含むオーディオシステムを提供することである。
【0034】
1つのさらなる目的は、少なくとも1つの位相調節フィルタによって生成されるデジタルオーディオ信号を提供することである。
【0035】
これら及び他の目的は、提案された技術の実施形態により満たされる。
【課題を解決するための手段】
【0036】
1つの実施形態によれば、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定する方法であって、前記音生成システムは、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備え、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2は、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を備え、
前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれについて、前記聴取環境内のM≧1個の空間位置のそれぞれにおいて、前記空間位置において計測された音に基づいて音響伝達関数を推定するステップと、
前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2に、それぞれ適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を推定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2間のスピーカ間差動位相(IDP:Inter-loudspeaker Differential Phase)を低減するステップと、
を備える方法、が提供される。
【0037】
第2の実施形態によれば、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するシステムであって、前記音生成システムは、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備え、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2は、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を備え、
前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれについて、前記聴取環境におけるM≧1の空間位置のそれぞれにおいて、前記空間位置に置いて計測された音に基づいて音響伝達関数を推定し、
前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2に、それぞれ適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を決定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減する、
システム、が提供される。
【0038】
第3の実施形態によれば、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2の位相調節を実行する方法であって、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を有し、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2の前記入力信号に、それぞれ適用されるデジタルフィルタF
1(f)、F
2(f)を備え、前記聴取環境内のp個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減させ、前記IDPは、前記M個の空間位置において、音響伝達関数に基づいて決定され、前記デジタルフィルタは、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2の位相調節であって、前記IDPを弱める位相調節を実行する、方法、が提供される。
【0039】
第4の実施形態によれば、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2の位相調節を実行するオーディオフィルタシステムであって、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2はそれぞれ、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカを有し、デジタルフィルタF
1(f)、F
2(f)を、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2の前記入力信号にそれぞれ適用し、前記聴取環境内のp個のリスナにおける位置前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減し、前記IDPは、前記M個の空間位置における音響伝達関数に基づいて決定され、前記デジタルフィルタは、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2の位相調節であって、前記IDPを弱める位相調節を実行する、オーディオフィルタシステム、が提供される。
【0040】
第5の実施形態によれば、コンピュータによって実行される場合、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するコンピュータプログラムであって、前記音生成システムは、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備え、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2は、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を有し、
前記コンピュータによって実行されると、前記コンピュータを、
前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれに対し、前記聴取環境内のM≧1個の空間位置のそれぞれにおける音響伝達関数を、前記空間位置において計測された音に基づいて推定し、
前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2に、それぞれ適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を決定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減する、
ように動作させる命令を備える、コンピュータプログラム、が提供される。
【0041】
第6の実施形態によれば、本明細書に記載のコンピュータプログラムを格納しているコンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品、が提供される。
【0042】
第7の実施形態によれば、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定する装置であって、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備え、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれは、入力信号と、聴取環境内に位置する少なくとも1つのスピーカと、を有し、
それぞれの前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2に対し、前記聴取環境内のM≧1個の空間位置のそれぞれにおける音響伝達関数を、前記空間位置において計測された音に基づいて推定する、推定モジュールと、
前記音響伝達関数に基づいて、前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2にそれぞれ適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を決定し、p個のリスナ位置における前記オーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減させる、決定モジュールと、
を備える装置、が提供される。
【0043】
第8の実施形態によれば、本明細書に記載の方法を用いて決定された、位相調節フィルタ、が提供される。
【0044】
第9の実施形態によれば、音生成システムと、当該システムの1対のチャネルC
1、C
2のそれぞれに適用される関連する位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)と、を備え、位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)が本明細書に記載の方法を用いて決定される、オーディオシステム、が提供される。
【0045】
第10の実施形態によれば、本明細書に記載の方法を用いて決定された少なくとも1つの位相調節フィルタによって生成された、オーディオ信号、が提供される。
【0046】
提案された技術は、以下の有利な点の少なくとも1つを提供する:
2つのオーディオ再生チャネルのIDPが2つのスピーカ間の中心軸に対して非対称である場合に、改善されたステレオイメージを提供する。
いくつかのリスナ位置における2つのオーディオ再生チャネル間のIDPがリスナ位置と2つのスピーカ間の距離の単純な関数よりも複雑な振る舞いを有する場合、改善されたステレオイメージを提供する。
2よりも多いリスナ位置がある場合に、多数リスナに対して改善されたステレオイメージを提供する。
たとえリスナが頭を許容範囲内で動かしたとしても、ステレオイメージの改善が有効であるように、よりすぐれた空間ロバストネスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、リスナがスピーカから等距離にある中心軸に位置する、ステレオ再生システムを示す。
【
図2】
図2は、リスナが中心軸から左スピーカから距離d1、右スピーカから距離d2離れているステレオ再生システムを示す。リスナは左に対するニアサイドバイアスを感じるであろう。
【
図3】
図3は、2人のリスナが中心軸の両側に位置する自動車のステレオ再生システムの概略図である。左のリスナは、左に対するニアサイドバイアスを感じ、右のリスナは、右に対するニアサイドバイアスを感じるであろう。
【
図4】
図4は、2つのリスナ位置を有するステレオ再生システムを示し、リスナ位置は、中心軸から離れ、理想的な対称性を有し、最も近いスピーカからの距離d1及び反対側のスピーカからの距離d2に位置する。左のリスナは、左に対するニアサイドバイアスを感じ、右のリスナは、右に対するニアサイドバイアスを感じるであろう。
【
図5】
図5は、
図4の左及び右のリスナの位置で感じる左右のスピーカ間のスピーカ間差動位相(IDP)を示す。黒い線は、左のリスナの位置におけるIDPであり、灰色の線は、右のリスナの位置におけるIDPである。
【
図6】
図6は、連続する周波数帯域において、合計位相差が0°又は180°の2つの位相シフトフィルタの位相応答を示す。黒い線は、第1フィルタの位相応答であり、灰色の線は、第2フィルタの位相応答である。
【
図7】
図7は、
図6のフィルタを、
図4及び
図5で記載したシステムの左右のチャネルに適用した結果生じるIDP関数を示す。黒い線は、左におけるIDPであり、灰色の線は、右におけるIDPである。
【
図8】
図8は、
図4に似ているが3つのリスナ位置を有するステレオ再生システムを示す。
【
図9】
図9は、自動車の左前シート及び右前シートにおいて測定されるIDP関数を示す。黒い線は、左前シートにおけるIDPであり、灰色の線は、右前シートにおけるIDPである。
【
図10】
図10は、
図8の3つのリスナ位置において感じられる左及び右スピーカ間のIDPを示す。黒い線は、第1リスナ位置におけるIDPであり、灰色の線は、第2リスナ位置におけるIDPであり、破線は、第3リスナ位置におけるIDPである。
【
図11】
図11は、
図4の状況に対応する周波数f=840HzにおけるIDP φ
1(f)、φ
2(f)を示す。φ
1(f)及びφ
2(f)の対称性のため、統合されたIDP φ/(ファイ バー)は、0°と等しい。
【
図12】
図12は、
図4の状況に対応する周波数f=380HzにおけるIDP φ
1(f)、φ
2(f)を示す。この周波数においては、IDPは、主に双方のリスナ位置において逆相である。φ
1(f)、φ
2(f)の対称性のため、統合されたIDP φ/は、180°と等しい。
【
図13】
図13は、
図8の状況に対応する周波数f=1810HzにおけるIDP φ
1(f)、φ
2(f)、φ
3(f)を示す。この周波数においては、IDPは、主に、3つ全てのリスナ位置において同相であるが、φ
1(f)、φ
2(f)及び実軸に対するφ
3(f)の非対称性に起因し、統合されたIDP φ/は、0°と等しくない。
【
図14】
図14は、
図9の周波数f=650Hzにおける測定されたIDP φ
1(f)、φ
2(f)を示す。この周波数においては、IDPは、主に、双方のリスナ位置において逆相であるが、実軸に対するφ
1(f)及びφ
2(f)の非対称性に起因し、統合されたIDP φ/は、180°と等しくない。
【
図15】
図15は、
図9の周波数f=470Hzにおける測定されたIDP φ
1(f)、φ
2(f)を示す。この周波数においては、IDPは、主に、双方のリスナ位置において同相であるが、実軸に対するφ
1(f)及びφ
2(f)の非対称性に起因し、統合されたIDP φ/は、0°と等しくない。
【
図16】
図16は、関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定する方法の一例を示す概略フロー図である。
【
図17】
図17は、本発明の一実施形態に係るコンピュータ実装の一例を示す概略フロー図である。
【
図18】
図18は、関連する音生成システム用の位相調節フィルタを決定するための装置の一例を示す概略フロー図である。
【
図19】
図19は、位相シフトフィルF
1(f)、F
2(f)を配置することができるシグナルチェーン内の代替 位置のいくつかの例を含む、オーディオ再生システムの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
提案する技術は、様々な非限定的な例としての実施形態を参照することにより、より詳細に記載される。
【0049】
図16は、オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれが入力信号及びリスニング環境に配置された少なくとも1つのスピーカを有する、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備える、関連する音生成システムの位相調節フィルタを決定する方法の一例を示す概略フロー図である。
【0050】
本方法は、
S1:オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれについて、空間位置における音響測定に基づいて、リスニング環境におけるM≧1個の空間位置のそれぞれにおける音響伝達関数を推定するステップと、
S2:音響伝達関数に基づいて、オーディオ再生チャネルC
1、C
2にそれぞれ適用される位相調節フィルタF
1、F
2を決定し、p個のリスナ位置におけるオーディオ再生チャネルC
1、C
2間のスピーカ間差動位相(IDP)を低減するステップと、
を備える。
【0051】
一例の手法によれば、位相調節フィルタを決定するステップは、
・オーディオ再生チャネル間のp個のIDP関数φ
1(f)、φ
2(f)、...、φ
p(f)を、周波数インターバルf
1≦f≦f
2において、M個の空間位置における音響伝達関数からの情報に基づいて決定するステップと、
・p個のIDP関数φ
1(f)、φ
2(f)、...、φ
p(f)に基づいて、統合されたIDP関数φ/(f)(ファイ バー)を決定するステップと、
・統合されたIDP関数に基づいて、位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を計算するステップと、
を備える。
【0052】
特定の例においては、統合されたIDP関数に基づいて位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を計算するステップは、
・統合されたIDP関数φ/(f)に基づいて、位相調節関数ψ
1(f)、ψ
2(f)を決定するステップと、
・位相調節関数ψ
1(f)、ψ
2(f)に基づいて、位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を計算するステップと、
を備える。
【0053】
一例として、統合されたIDP関数は、IDP関数の平均である。
【0054】
別の形態によれば、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2の位相調節を実行するための方法であって、オーディオ再生チャネルC
1、C
2は、入力信号及び聴取環境内に少なくとも1つのスピーカを有し、この方法は、オーディオ再生チャネルC
1、C
2それぞれに対してデジタルフィルタF
1(f)、F
2(f)を入力信号に適用するステップを備え、聴取環境内のp個のリスナの位置においてオーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減し、このIDPは、M個の空間位置内の音響伝達関数に基づいて決定され、デジタルフィルタは、当該IDP弱めるように、オーディオ再生チャネルC
1、C
2に対して位相調節を実行する、方法が提供される。
【0055】
例として、このデジタルフィルタは、IDPが±90度よりも小さい場合においても、位相調節を実行する。
【0056】
特定の例では、IDPは、周波数間隔f
1≦f≦f
2におけるオーディオ再生チャネル間のいくつかのIDPの統合されたIDPであり、それぞれは、M個の空間位置において音響伝達関数からの情報に基づいて決定される。
【0057】
例えば、統合されたIDPは、IDPの平均であってもよい。
【0058】
以下では、提案された技術は、非限定的な例を参照して記載される。
【0059】
本発明の1つの目的は、少なくとも2つのチャネルC
1、C
2を有する音再生システムを介して再生されるステレオオーディオ信号の近くされる音像を改善することであり、これらのチャネルは、1チャネルあたりの1つの入力信号と、1チャネルあたりの少なくとも1つのスピーカを備える。この改善は、チャネルC
1、C
2間のスピーカ間差動位相(IDP)が少なくとも1つのリスナ位置で非ゼロである1以上のリスナ位置に関して達成される。この目的は、M≧1個の位置における伝達関数の計測値を用いて推定されるように、チャネルC
1、C
2の周波数に依存する位相調節を実行し、それにより、チャネル間の全体的なIDPを低減することにより達成される。
【0060】
本発明の文脈では、リスナ位置は、M≧1個の計測点の合計から選択された1つの単一点、又は、空間内の1対の点のいずれかと関連する。
【0061】
本発明の非限定的な一例によれば、p個のリスナ位置のそれぞれにおけるIDPは、1対の計測されたi番目(i=1,2,・・・,p)のリスナ位置におけるチャネルC
1、C
2を表す音響伝達関数H
1i(f)、H
2i(f)から、例えば、φ
i(f)=∠H
1i(f)−∠H
2i(f)のように、H
1i(f)、H
2i(f)間の位相差φ
i(f)を計算することにより得られる。このようにして得られたφ
i(f)の値は、複素平面内の単位円上の点z
i(f)として表され、位相角φ
i(f)は、実軸からの点z
i(f)の角度に対応する。
図11は、周波数f=840HzのIDP φ
1、φ
2を
図4及び
図5の理想的な対称的な状況に基づいて計算したこの手順の一例を示す。
図5のIDPの対称性により、
図11では、IDP φ
1、φ
2が、単位円上の点z
1、z
2(黒い十字で示される)として表される場合、実軸に対して対称的に位置していることが見て取れる。
図13は、周波数f=1810におけるIDP φ
1、φ
2、φ
3が、
図8及び
図10の3リスナの状況に基づいて計算されている場合と同じ手順を示す。
図14及び
図15は、それぞれ上記の単位円表示を使用し、f=650Hz及びf=470Hzにおける
図9の計測されたIDPを、それぞれ示している。
【0062】
もう1つの例によれば、統合されたIDP関数φ/(f)は、個々のIDP関数φ
1(f)、φ
2(f)、・・・、φ
p(f)を用いることによって、平均IDPを計算することにより、得られる。IDP φ
1(f)、φ
2(f)、・・・、φ
p(f)が度(degree)、すなわち、−180°≦φ
i(f)≦180°、で表されるとすれば、それらの複素単位円表示z
1(f)、z
2(f)、・・・、z
p(f)は、
【数1】
として得られ、平均IDPは、単位円上に投影された、z
1(f)、z
2(f)、・・・、z
p(f)の複素平均である。この平均演算は、例として、
【数2】
として書くことができる。
【0063】
図11から
図15において、黒い円で表される統合されたIDP関数φ/の値は、上記の平均方法を用いて計算された。統合されたIDP関数φ/が、理想的な2リスナの場合である
図11及び
図12から、上記のように計算されると、φ
1及びφ
2が±90°内(主に、同相)であればいつでも0°の値をとり、φ
1及びφ
2が±90°外(主に、逆相)であればいつでも180°の値を取る。結果として、上記のように計算された統合されたIDP関数φ/(f)が理想化された対称的な2リスナの場合にφ/(f)を弱める位相シフトフィルタを設計するための基礎として使用されると、それら位相シフトフィルタは、IDPが主に同相である周波数においては何もしないように働き、IDPが主に逆相である周波数においては、180°の位相差を加えるように働く。
【0064】
現実の音響環境における現実の音響システムのためには、しかしながら、2チャネル間のIDPは、ほとんどの周波数において
図14及び
図15のように動作する可能性が最も高い。すなわち、IDP値φ
1、φ
2は、実軸に対して対称ではなく、全てのリスナ位置において、システムが主に同相である、又は、逆相であるという保証はない。したがって、0°又は180°の位相差をチャネルに加算するといった単純なルールは、効果的ではない。
【0065】
本発明の一例によれば、上記により計算された統合されたIDP関数φ/(f)は、フィルタF
1(f)、F
2(f)によりチャネルに適用されるべき位相差を定義することに用いられる。このようなフィルタ設計戦略は、
図15の場合のように、IDP関数が±90°以内(主に同相であるが、φ/(f)の値が非ゼロ)であっても、位相シフトフィルタがIDPを補正するように働くことを意味する。
【0066】
さらにもう1つの例では、フィルタF
1(f)、F
2(f)の位相応答は、統合されたIDP φ/(f)を2つの位相応答曲線ψ
1(f)、ψ
2(f)に分割することにより決定される。そうすると、目的は、位相応答ψ
1(f)、ψ
2(f)を有するチャネルC
1、C
2のためのフィルタ、すなわち、∠F
1(f)=ψ
1(f)及び∠F
2(f)=ψ
2(f)であるフィルタを取得することであり、ψ
1(f)及びψ
2(f)は、ψ
1(f)−ψ
2(f)=−φ/(f)を満たすものである。Φ/(f)の分割は、例えば、ψ
1(f)=−φ/(f)かつψ
2(f)=0、又は、ψ
1(f)=0かつψ
2(f)=Φ/(f)を選択することにより達成することが可能である。もう1つの選択肢は、ψ1(f)及びψ2(f)双方が周波数の単調減少関数であるように分割を選択することであり、フィルタF
1(f)、F
2(f)双方の群遅延関数が、非負であるように働く場合である。
【0067】
さらにもう1つの例によれば、フィルタF
1(f)、F
2(f)は、音再生システムのシグナルチェーン内に実装される。シグナルチェーン内のフィルタの位置は、システムのどの部分が1対のチャネルC
1、C
2を表すと考えられるかに依存する。例えば、チャネルの対C
1及びC
2は、システムの2つの入力に関連づけられてもよく、又は、2つの特定のスピーカに関連づけられてもよく、したがって、システムの出力に配置されてもよい。あるいは、チャネルC
1、C
2は、信号処理及び混合ユニット内のシグナルサブチェーンと考えることも可能であり、この場合、フィルタF
1(f)、F
2(f)は、そのユニット内に統合された処理ステップとして見ることもできる。
図19は、位相シフトフィルタF
1(f)、F
2(f)を配置することができるシグナルチェーン内の位置のいくつかの例を含む、音再生システムの概略図を示す。
【0068】
本明細書で説明される方法及び装置は、様々な方法で実施され、結合され、再配置されうることが理解されるであろう。
【0069】
例えば、実施形態は、ハードウェア、適切な処理回路内で実行するためのソフトウェア、又は、これらの組み合わせで実装されてもよい。
【0070】
本明細書に記載のステップ、関数、手順、モジュール、及び/又は、ブロックは、汎用の電子回路及び特定用途向けの回路の双方を含む、ディスクリート回路又は集積回路技術といったいかなる従来技術を使用してハードウェアで実装されてもよい。
【0071】
あるいは、又は、補足として、本明細書に記載のステップ、関数、手順、モジュール、及び/又は、ブロックの少なくとも1つは、1以上のプロセッサ又は処理ユニットといった適切な処理回路による実行のためのコンピュータプログラムといったソフトウェアで実装されてもよい。
【0072】
処理回路の例には、非限定に、1以上のマイクロプロセッサ、1以上のデジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)、1以上の中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、ビデオアクセラレーションハードウェア、及び/又は、1以上のフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)又は1以上のプログラマブルロジックコントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)といった、あらゆる適切なプログラマブルロジック回路を含む。
【0073】
また、提案された技術が実装される任意の従来のデバイス又はユニットの一般的な処理能力を再利用することが可能であることも理解されるべきである。例えば、既存のソフトウェアのリプログラミング、又は、新しいソフトウェアコンポーネントの追加などにより、既存のソフトウェアを再利用することも可能である。
【0074】
提案された技術の一実施形態によれば、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備える関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するシステムであって、オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれは、1つの入力信号と、聴取環境内に位置された少なくとも1つのスピーカと、を有し、
このシステムは、それぞれのオーディオ再生チャネルC
1、C
2に対して、M≧1個の空間位置のそれぞれにおいて、音響伝達関数を当該空間位置において計測された音に基づいて推定するように構成され、
このシステムは、当該音響伝達関数に基づいて、オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれに適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を決定し、p個のリスナ位置においてオーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減させるように構成される。
【0075】
例として、システムは、統合されたIDP関数φ/(f)を決定するために、p個のIDP関数φ
1(f)、φ
2(f)、・・・、φ
p(f)を決定し、統合されたIDP関数に基づいて、位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を計算するように構成される。
【0076】
特定の例において、システムは、位相調節関数ψ
1(f)、ψ
2(f)を、統合されたIDP関数φ/(f)に基づいて決定し、位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を、位相調節関数ψ
1(f)、ψ
2(f)に基づいて計算するように構成される。
【0077】
もう1つの例では、システムは、プロセッサと、メモリと、を備え、メモリは、プロセッサにより実行可能な命令を備え、プロセッサは、本明細書で記載する位相調節フィルタを決定するように動作する。
【0078】
図17は、一実施形態に係るコンピュータ実装100の一例を示す概略図である。この特定の例では、本明細書に記載したステップ、関数、手順、モジュール及び/又はブロックの少なくともいくつかは、コンピュータプログラム125、135に実装され、これらは、1以上のプロセッサ110を含む処理回路による実行のためにメモリ120にロードされる。プロセッサ110及びメモリ120は、相互に接続され、通常のソフトウェア実行を可能とする。オプションの入出力デバイス140もまた、入力パラメータ及び又は結果として生じる出力パラメータといった関連データの入力及び/又は出力を可能とするために、プロセッサ110及び/又はメモリ120と相互接続されてもよい。
【0079】
「プロセッサ」という用語は、特定の処理、決定又は計算タスクを実行するためにプログラムコード又はコンピュータプログラム命令を実行することができるあらゆるシステム又はデバイスとして一般的な意味で解釈されるべきである。
【0080】
1以上のプロセッサ110を含む処理回路は、したがって、コンピュータプログラム125を実行する場合において、本明細書に記載されるような明確に定義された処理タスクを実行するように構成される。
【0081】
処理回路は、上述のステップ、関数、手順及び/又はブロックを実行するためだけに専用である必要は無く、他のタスクを実行してもよい。
【0082】
もう1つの形態によれば、本明細書に記載された位相調節フィルタを備える対応するオーディオフィルタシステムもまた、提供される。
【0083】
特定の例において、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2の位相調節を実行するためのオーディオフィルタシステムが提案され、このオーディオ再生チャネルC
1、C
2は、入力信号と、聴取環境に位置する少なくとも1つのスピーカを有し、このシステムは、オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれについて入力信号にデジタルフィルタF
1(f)、F
2(f)を適用するように構成され、聴取環境内のp個のリスナ位置におけるオーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減させ、このIDPは、M個の空間位置における音響伝達関数に基づいて決定されており、デジタルフィルタは、IDPを弱め、オーディオ再生チャネルC
1、C
2の位相調節を実行するように構成されている。
【0084】
典型的には、別個のコンピュータシステム上において、複数の計算ステップが位相調節フィルタのフィルタパラメータを生成するため実行される。計算されたフィルタパラメータは、その後、通常、実際のフィルタリングを実行する、例えば、デジタル信号処理システム又はカスタマイズされた処理回路によって実現されるデジタルフィルタに、ダウンロード又は実装される。
【0085】
本発明は、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、又は、それらのあらゆる組み合わせで実施することができるが、本発明により提案されるフィルタ設計方式は、好ましくは、プログラムモジュール、関数、又は、その等価物の形態でソフトウェアに実装される。実際には、本発明の関連するステップ、関数及び動作は、コンピュータシステムにより実行されると、位相調節フィルタの決定に関連する計算を達成するコンピュータプログラムにマッピングされる。PCベースのシステムに場合、オーディオフィルタの設計に用いられるコンピュータプログラムは、通常、DVD、CD、USB、フラッシュドライブ、又は、類似する構造物といった配布可能とするためのコンピュータ可読媒体に、ユーザ/オペレータが後に実行するために彼/彼女のコンピュータにロードできるように、エンコードされる。ソフトウェアはまた、インターネットを介してリモートサーバからダウンロードされてもよい。
【0086】
本発明によるフィルタ設計アルゴリズムを実装するフィルタ設計プログラムは、あるいは、他の関連するプログラムモジュールとともに、周辺メモリに格納され、プロセッサによる実行のためにシステムメモリにロードされてもよい。音測定及び/又はモデル表示、及び、他の任意の構成といった関連する入力データが与えられると、フィルタ設計プログラムは、位相調節フィルタのフィルタパラメータを決定し、又は、計算する。
【0087】
決定されたフィルタパラメータは、その後、通常、I/Oインタフェースを介してシステムメモリからデジタルフィルタ又はフィルタシステムへと転送される。
【0088】
フィルタシステムに直接、計算されたフィルタパラメータを転送する代わりに、周辺のメモリカード又はメモリディスクに、後にフィルタシステムに配布するために、格納されてもよく、フィルタシステムは、フィルタ設計システムからリモートであっても、又は、リモートでなくてもよい。計算されたフィルタパラメータは、例えば、インターネットを介して離れた場所からダウンロードされてもよい。
【0089】
考慮しているオーディオ機器により生成された音の計測を可能とするために、いかなる従来のマイクロホンユニット又は類似するオーディオレコーディング機器をコンピュータシステムに接続してもよい。計測はまた、位相調節フィルタ及びオーディオ機器との組み合わせシステムの性能を推定するために用いられてもよい。オペレータが結果として得られる設計に納得できなければ、設計パラメータの修正されたセットに基づいたフィルタの新しい最適化を開始してもよい。
【0090】
さらに、フィルタ設計システムは、典型的に、フィルタ設計についてユーザインタラクションを許すようなユーザインタフェースを有する。いくつかの異なるユーザインタラクションのシナリオが可能である。例えば、オペレータは、フィルタのフィルタパラメータの計算において設計パラメータの特定のカスタマイズされたセットを使用したいと決定してもよい。フィルタ設計者は、その後、ユーザインタフェースを介して関連する設計パラメータを定義する。
【0091】
あるいは、フィルタ設計は、ユーザの参加がなく、又は、限定的なユーザの参加のみにおいて、多かれ少なかれ自律的に実行される。
【0092】
特定の例において、フィルタの決定及びフィルタの実際の実装は、双方とも、同一のコンピュータシステムで実行されてもよい。これは、一般的に、フィルタ設計プログラム及びフィルタプログラムが同じDSP又はマイクロプロセッサシステム上で実装され、実行されることを意味する。
【0093】
また、実際の再生場所への音信号の配布とは別に、フィルタリングを行ってもよいということを理解されたい。位相調節フィルタにより生成された処理された信号は、必ずしも音生成システムに直ちに配布され及び直接的に接続されている必要はなく、音生成システムに配布するために分離した媒体に記憶されてもよい。デジタルオーディオ信号は、そうすると、例えば、特定のオーディオ機器及び聴取環境に合わせて調節されて録音された音楽を表すことができる。これは、インターネットサーバに格納された処理されたオーディオファイルであってもよく、インターネットを介して遠隔地にファイルをダウンロード又はストリーミングすることを可能とする。
【0094】
提案された技術の一形態によれば、したがって、本明細書に記載された方法を用いて決定された位相調節フィルタ、又は、1対の位相調節フィルタがある。
【0095】
また、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を有する音生成システムを備えたオーディオシステムが提供され、オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれは、入力信号及び少なくとも1つのスピーカを有する。オーディオシステムは、オーディオ再生チャネルC
1、C
2にそれぞれ適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)をさらに備え、位相調節フィルタは、本明細書に記載の方法を用いて決定される。
【0096】
提案された技術のもう1つの形態によれば、本明細書に記載された方法を用いて決定された位相調節フィルタによって生成され及び/又は処理されたデジタルオーディを信号が提供される。
【0097】
特定の実施形態では、コンピュータにより実行された場合に、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備える関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するためのコンピュータプログラムが提供され、オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれは、入力信号と、聴取環境における少なくとも1つのスピーカと、を有し、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行された場合に、コンピュータに、
オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれに対して、聴取環境におけるM≧1個の空間位置のそれぞれにおいて音響伝達関数を、空間位置における計測された音に基づいて推定し、
音響伝達関数に基づいて、オーディオ再生チャネルC
1、C
2にそれぞれ適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を決定し、p個のリスナ位置におけるオーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減する、
ことをさせる命令を備える。
【0098】
提案された技術はまた、コンピュータプログラムを備えるキャリアを提供し、キャリアは、電子信号、光信号、電磁気信号、磁気信号、電気信号、無線信号、マイクロ波信号、又は、コンピュータ可読記憶媒体のうち1つである。
【0099】
例として、ソフトウェア又はコンピュータプログラム125、135は、コンピュータプログラム製品として実現されてもよく、通常、コンピュータ可読媒体120、130、特に、不揮発性の媒体上に保持され、格納される。コンピュータ可読媒体は、1以上の取り外し可能な、又は、取り外し可能ではないメモリデバイスを備え、非限定的には、メモリデバイスは、読み取り専用メモリ(ROM:Read Only Memory)、ランダムアクセスメモリ(RAM:Random Access Memory)、コンパクトディスク(CD:Compact Disc)、デジタル多用途性ディスク(DVD:Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disc Drive)記憶装置、フラッシュメモリ、磁気テープ、又は、あらゆる他の従来のメモリ装置を含むものである。コンピュータプログラムは、したがって、その処理回路による実行のため、コンピュータ又は同等の処理装置の動作メモリにロードされてもよい。
【0100】
本明細書に提示されるフロー図は、1以上のプロセッサにより実行される場合、コンピュータフロー図又はダイアグラムとみなしてもよい。対応する装置は、機能モジュールのグループとして定義されてもよく、それぞれのステップは、機能モジュールに対応するプロセッサにより実行される。この場合、機能モジュールは、プロセッサ上で起動するコンピュータプログラムとして実装される。
【0101】
メモリに常駐するコンピュータプログラムは、したがって、プロセッサにより実行された場合に、本明細書に記載されるステップ及び/又はタスクの少なくとも一部を実行するように構成された適切な機能モジュールとして編成されてもよい。
【0102】
図18は、少なくとも2つのオーディオ再生チャネルC
1、C
2を備える関連する音生成システムのための位相調節フィルタを決定するための装置200の例を示す概念図であり、オーディオ再生チャネルC
1、C
2は、入力信号と、聴取環境に位置する少なくとも1つのスピーカと、を有する。
【0103】
装置200は、推定するための推定モジュール210を備え、オーディオ再生チャネルC
1、C
2のそれぞれに対し、聴取環境内のM≧1個の空間位置のそれぞれにおける音響伝達関数を、それぞれの空間位置で計測された音に基づいて推定する。装置はまた、決定モジュール220を備え、音響伝達関数に基づいて、オーディオ再生チャネルC
1、C
2にそれぞれ適用される位相調節フィルタF
1(f)、F
2(f)を決定し、p個のリスナ位置におけるオーディオ再生チャネルC
1、C
2間のIDPを低減する。
【0104】
あるいは、主にハードウェアモジュールによって、又は、関連するモジュール間の適切な相互適切を有するハードウェアによって、
図18のモジュールを実現することが可能である。特定の例は、1以上の適切に構成されたデジタルシグナルプロセッサ及び他の既知の電子回路、例えば、特定機能を実行するために相互接続されたディスクリート論理ゲート、及び/又は、前述した特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)を含む。使用可能なハードウェアの他の例は、入出力(I/O)回路、及び/又は、信号を受信及び/又は送信するための回路を含む。ソフトウェア対ハードウェアの程度は、純粋に実装の選択である。
【0105】
上述した実施形態は、一例として与えられたにすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正、組み合わせ、及び、変更を実施することを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分的な解決策は、技術的に可能な場合、他の構成で組み合わせることができる。
【0106】
参考文献
[1] J. Blauert. Spatial hearing: The psychophysics of human sound localization. MIT Press, Cambridge, MA, 2nd edition, 1996.
[2] B. A. Cook and M. J. Smithers. Stereophonic sound imaging. US Patent Application 2009/0304213 A1, December 2009.
[3] B. Crockett, M. J. Smithers, and E. Benjamin. Next generation automotive research and technologies. Presented at AES 120th Convention, Paris. Preprint 6649. Audio Engineering Society, May 2006.
[4] H. Kihara. Binaural correlation coefficient correcting apparatus. US Patent 4,817,162, March 1989.
[5] M. J. Smithers. Improved stereo imaging in automobiles. Presented at AES 123rd Convention, New York. Preprint 7223. Audio Engineering Society, October 2007.