(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Zn:9.0〜11.0wt%、Mg:1.3〜1.8wt%、Cu:2.0〜2.6wt%およびCr:0.02〜0.30wt%、Zr:0.05〜0.20wt%、Ti:0.01〜0.15wt%、B:0.001〜0.05wt%を含み、
残部がAlと不可避的不純物からなり、
Zn含有量(wt%)/Mg含有量(wt%)が5以上であり、
Cu含有量(wt%)とMg含有量(wt%)の合計が3.4〜4.2wt%であり、
全面が繊維状組織であること、
を特徴とするアルミニウム合金製バット用素管。
請求項1に記載のアルミニウム合金製バット用素管に肉厚調整及びスエージング加工を施し、前記アルミニウム合金製バット用素管をバットの形状に塑性加工する第一工程と、
固相線温度から5〜25℃低い温度に保持する溶体化処理を施した後、焼入れ処理を施す第二工程と、
保持温度:100〜140℃、保持時間:10〜48時間の時効処理を施す第三工程と、
陽極酸化皮膜処理、塗装処理又はめっき処理のうちの少なくともいずれかを施す第四工程と、を有し、
打撃部の金属組織において、外層部に厚さが50〜500μmの再結晶組織層、板厚内部に繊維状組織をそれぞれ形成させ、
前記打撃部から切出した引張試験片の引張強度を630MPa以上、0.2%耐力値を605MPa以上、伸びを14%以上とすること、
を特徴とするアルミニウム合金製バットの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年ではより遠くにボールを飛ばすことに関する要求が高くなっていることに加え、耐久性及び外観品質にも優れたアルミニウム合金製バットが求められているところ、上記特許文献1のアルミニウム合金製バットではこれらの要求を十分に満足することができない。
【0008】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、高い反発力と耐久性を兼ね備えつつ外観品質にも優れたアルミニウム合金製バットを得るためのアルミニウム合金製バット用素管を提供することにあり、更に、高い反発力と耐久性を兼ね備えつつ外観品質にも優れたアルミニウム合金製バット及びその効率的な製造方法を提供することにある。ここで、バットの反発力を向上させるには、打撃部の肉厚を薄肉化することも有効であるが、薄肉化しても2%扁平耐力7500N以上(非木製バットのSG基準CPSA 0024)を満たす必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、アルミニウム合金製バット用素管及びアルミニウム合金製バット並びにその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、使用するアルミニウム合金の組成を最適化すると共にアルミニウム合金製バット用素管の金属組織およびバットの金属組織を適当に制御すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
Zn:9.0〜11.0wt%、Mg:1.3〜1.8wt%、Cu:2.0〜2.6wt%およびCr:0.02〜0.30wt%、Zr:0.05〜0.20wt%、Ti:0.01〜0.15wt%、B:0.001〜0.05wt%を含み、
残部がAlと不可避的不純物からなり、
Zn含有量(wt%)/Mg含有量(wt%)が5以上であり、
Cu含有量(wt%)とMg含有量(wt%)の合計が3.4〜4.2wt%であること、
を特徴とするアルミニウム合金製バット用素管を提供する。
【0011】
本発明のアルミニウム合金製バット用素管の組成は、金属バット用アルミニウム合金の組成として従来使用されている7055規格(主な合金元素,Zn:7.6〜8.4wt%、Mg:1.8〜2.3wt%、Cu:2.0〜2.6wt%、Cr: <0.04wt%、Zr:0.08〜0.25wt%)と比較して、Zn及びCuの含有量を増加させ、Mgの含有量を減少させている。
【0012】
より具体的には、Znの含有量を増加させることで、最終調質のアルミニウム合金中の析出密度を高めて強度に寄与させることで、高強度化を達成している。
【0013】
また、Cu及びMgも析出強化によるアルミニウム合金の強化を主目的として添加されているが、それらの添加量を必要以上に高めると、晶出物が大型化し、延性の低下や、陽極酸化皮膜性を低下させるため、Zn含有量(wt%)/Mg含有量(wt%)比を5以上とし、また、Cu含有量(wt%)とMg含有量(wt%)の合計を3.4以上、4.2以下とすることで、高強度と高延性の両立を実現している。
【0014】
また、本発明のアルミニウム合金製バット用素管に用いるアルミニウム合金は、Cr:0.02〜0.30wt%、Zr:0.05〜0.20wt%、Ti:0.01〜0.15wt%、B:0.001〜0.05wt%を含有する。Cr及びZrを微量添加することで、ピン止め効果によって押出加工や引抜加工の途中や加工直後の再結晶化を抑制することができる。また、Ti及びBを微量添加することで、鋳造組織を微細化することができる。
【0015】
更に、本発明のアルミニウム合金製バット用素管は、全面が繊維状組織(ファイバー組織)となっており、肉厚調整加工時の高い成形性を有している。なお、製品であるバットにおいて、ボールを打つ打撃部に加工組織であるファイバー組織を残存させることにより、高強度を実現しているが、表面がファイバー組織の場合は当該ファイバー組織に沿った筋状の模様が現れ、外観を損ねてしまう。これに対し、本発明のアルミニウム合金製バット用素管を用いて製造されるアルミニウム合金製バットは外層部に厚さが50〜500μmの再結晶組織層を有しているため、表面に筋状の模様が形成されることを防止し、高強度と両立することができる。
【0016】
ここで、再結晶組織層の厚さを50μm以上とすることで、ファイバー組織に起因する筋状の模様が表面に出現することを十分に防止することができ、500μm以下とすることで、アルミニウム合金製バットの引張強度及び反発力が低下することを抑制することができることに加え、耐食性を高めることができる。
【0017】
また、本発明は、
上述の本発明のアルミニウム合金製バット用素管からなり、
外周表面に陽極酸化皮膜、塗装層又はめっき層のうちの少なくともいずれかを有し、
打撃部の金属組織において、外層部に厚さが50〜500μmの再結晶組織層、板厚内部に繊維状組織をそれぞれ有し、
前記打撃部の引張強さが630MPa以上、0.2%耐力値が605MPa以上、かつ、伸びが14%以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金製バットも提供する。
【0018】
本発明のアルミニウム合金製バットは、本発明のアルミニウム合金製バット用素管を用いて製造しているため(すなわち、本発明のアルミニウム合金製バット用素管で形成乃至は構成されているため)、本体部は上述のアルミニウム合金製バット用素管と同様の組成を有している。また、当該アルミニウム合金製バットの打撃部の金属組織は、内部にはファイバー組織、外層部には再結晶組織を有していることに加え、適当な時効処理によって十分に析出強化されている。その結果、打撃部から切出した引張試験片の引張強度が630MPa以上、0.2%耐力値が605MPa以上、かつ、伸びが14%以上となっており、高強度と高延性を兼ね備えていることから、高い反発力と耐久性を有するアルミニウム合金製バットとなっている。
【0019】
反発力の向上によりボールの飛距離が長くなるため、アルミニウム合金製バットにおいては反発力を大きくすることが好ましい。ここで、反発力を向上させるためには反発係数を高くする、即ち打撃部の薄肉化が有効である。しかしながら、従来のアルミニウム合金製バットにおいては打撃部の肉厚が薄い場合は2%扁平耐力が7500N未満となることから、一般財団法人製品安全協会が定める非木製バットのSG基準(CPSA0024)を満足することができなかった。これに対し、本発明のアルミニウム合金製バットは、高い耐力に起因して、従来材より薄い肉厚でも2%扁平耐力を満足し、反発力を向上させることができる。
【0020】
また、本発明のアルミニウム合金製バットは打撃部の肉厚を薄くすることができるため、同重量のバットでも、バランス及びMOI(慣性モーメント)の自由度が増加する。すなわち、同重量でも重量をグリップ側に多く配分することで、MOIの低い、振り易いバットを実現することができる。また、同様に先端キャップ側に重量を配分すると、パワーヒッターに好まれるバットとすることができる。ここで、バランス及びMOIはASTM F2398−11の測定方法で評価することができる。なお、本発明のアルミニウム合金製バットにおいては、打撃部の外径が66.7mmの場合は当該打撃部の肉厚を2.91〜3.3mmとし、打撃部の外径が63.5mmの場合は当該打撃部の肉厚を2.80〜3.3mmとし、当該打撃部の2%扁平耐力が7500N以上であること、が好ましい。
【0021】
また、高い耐力に起因して、2%扁平耐力が、従来材より薄い肉厚でもSG基準(CPSA0024)をクリアーできるため、バットの肉厚を薄肉化でき、軽量化できる。その結果、軽量で振り易いアルミニウム合金製バットを実現することができる。さらに薄肉化により、反発係数が高くなり、反発力がアップし、飛距離アップにもつながり好ましいバットになる。
【0022】
また、本発明のアルミニウム合金製バットは外周表面に陽極酸化皮膜、塗装層又はめっき層のうちの少なくともいずれかを有しているが、外層部に厚さが50〜500μmの再結晶組織層を有していることから、表面に筋状の模様等は出現しておらず、極めて良好な外観となっている。
【0023】
更に、本発明は、
本発明のアルミニウム合金製バット用素管に肉厚調整及びスエージング加工を施し、前記 アルミニウム合金製バット用素管をバットの形状に塑性加工する第一工程と、固相線温度から5〜25℃低い温度に保持する溶体化処理を施した後、焼入れ処理を施す第二工程と、保持温度:100〜140℃、保持時間:10〜48時間の時効処理を施す第三工程と、陽極酸化皮膜処理、塗装処理又はめっき処理のうちの少なくともいずれかを施す第四工程と、を有すること、
を特徴とするアルミニウム合金製バットの製造方法、も提供する。
【0024】
本発明のアルミニウム合金製バットの製造方法においては、必要に応じて、前記第三工程の後に、保持温度:140〜180℃、保持時間:1〜12時間の時効処理を施すこと、が好ましい。
【0025】
バットの形状に塑性加工した本発明のアルミニウム合金製バット用素管に対して適当な時効処理を施すことで、当該アルミニウム合金製バット用素管の組織的特徴を維持しつつ、打撃部から切出した引張試験片の引張強度が630MPa以上、0.2%耐力値が605MPa以上、かつ、伸びが14%以上となるアルミニウム合金製バットを効率的に得ることができる。これらの機械的特性によって、打撃部の外径が66.7mmの場合、当該打撃部の肉厚を2.91mmまで薄肉化した場合であっても、耐久性や耐割れ性に優れ、SG規格である2%扁平耐力:7500N以上の要件を満たすことができる。また、打撃部の外径が63.5mmの場合、当該打撃部の肉厚を2.80mmまで薄肉化した場合であっても、耐久性や耐割れ性に優れ、SG規格である2%扁平耐力:7500N以上の要件を満たすことができる。
【0026】
また、バットの形状に塑性加工した素管の外層部は再結晶組織となっていることから、陽極酸化皮膜処理、塗装処理又はめっき処理(第四工程)によって良好な外観を有する平滑な表面を得ることができる。
【0027】
当該溶体化処理を施すことで、アルミニウム合金を鋳造した際に晶出した強度の向上に寄与しない粗大な化合物(Zn―Mg系、Mg−Si系、Al−Cu系等の化合物)がAl母相中に固溶される。固溶されたZn、Mg、Cu等の元素は焼入れ処理によってAl母相中に過飽和に固溶された状態で維持され、その後の時効処理によって微細な析出物を形成するため、より一層の強度向上を達成することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高い反発力と耐久性を兼ね備えつつ外観品質にも優れたアルミニウム合金製バットを得るためのアルミニウム合金製バット用素管を提供することができ、更に、高い反発力と耐久性を兼ね備えつつ外観品質にも優れたアルミニウム合金製バット及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明のアルミニウム合金製バット用素管及びバット並びにその製造方法についての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0031】
1.アルミニウム合金製バット用素管
(1)組成
本発明のアルミニウム合金製バット用素管に用いるアルミニウム合金は、
Zn:9.0〜11.0wt%、Mg:1.3〜1.8wt%、Cu:2.0〜2.6wt%およびCr:0.02〜0.30wt%、Zr:0.05〜0.20wt%、Ti:0.01〜0.15wt%、B:0.001〜0.05wt%を含み、
残部がAlと不可避的不純物からなり、
Zn含有量(wt%)/Mg含有量(wt%)が5以上であり、
Cu含有量(wt%)とMg含有量(wt%)の合計が3.4〜4.2wt%であり、
本発明のアルミニウム合金製バット用素管は全面ファイバー組織を有する。
以下、各成分元素についてそれぞれ説明する。
【0032】
Zn:9.0〜11.0wt%(好ましくは9.2〜10.5wt%)
Znは時効処理を行うと、Zn−Mg系、Al−Zn―Mg−Cu系化合物として析出し、アルミニウム合金の機械的強度が向上する。含有量を9.0wt%以上とすることで当該析出強化を十分に発現させることができ、11.0wt%以下とすることで化合物の粗大化に起因する延性の低下を抑制することができる。
【0033】
Mg:1.3〜1.8wt%(好ましくは、1.3〜1.6wt%未満)
Mgは固溶強化により強度を向上させる効果を有すると共に、時効処理を施すとAl−Zn−Mg系化合物として析出し、機械的強度を向上させる。含有量を1.3wt%以上とすることで固溶強化及び析出強化を十分に発現させることができ、1.8wt%以下とすることでZn−Mg系化合物の粗大化に起因する延性の低下を抑制することができる。また、Zn含有量(wt%)/Mg含有量(wt%)を5以上とすることで強度と延性が両立でき、耐食性も高められる。
【0034】
Cu:2.0〜2.6wt%(好ましくは、2.0〜2.5wt%)
Cuは固溶強化により強度を向上させる効果を有すると共に、時効処理を施すとAl−Cu系化合物として析出し、機械的強度を向上させる。含有量を2.0wt%以上とすることで固溶強化及び析出強化を十分に発現させることができ、2.6wt%以下とし、更にCu含有量(wt%)とMg含有量(wt%)の合計を3.4以上、4.2以下とすることでAl−Cu系化合物の粗大化に起因する延性の低下や陽極酸化皮膜性の低下を抑制することができる。
【0035】
Cr:0.02〜0.30wt%
Crは化合物のピン止め効果により再結晶組織化を抑制する効果を有し、加工組織であるファイバー組織を安定化することができる。含有量を0.02wt%以上とすることで当該効果を十分に発現することができ、0.30wt%以下とすることで化合物の粗大化に伴う延性の低下を抑制することができる。
【0036】
Zr:0.05〜0.20wt%
Zrは化合物のピン止め効果により再結晶組織化を抑制する効果を有し、加工組織であるファイバー組織を安定化することができる。含有量を0.05wt%以上とすることで当該効果を十分に発現することができ、0.20wt%以下とすることで化合物の粗大化に伴う延性の低下を抑制することができる。
【0037】
Ti:0.01〜0.15wt%
Tiの添加により鋳造組織を微細化することができる。当該微細化効果はTiの含有量を0.01wt%以上とすることで十分に発現させることができ、0.15wt%以下とすることで粗大化合物の形成に起因する延性の低下を抑制することができる。なお、鋳造組織の微細化効果を得るためには、鋳造直前にTiを合金溶湯中に添加することが好ましい。
【0038】
B:0.001〜0.05wt%
Bの添加により鋳造組織を微細化することができる。当該微細化効果はBの含有量を0.001wt%以上とすることで十分に発現させることができ、0.05wt%以下とすることで粗大化合物の形成に起因する延性の低下を抑制することができる。なお、鋳造組織の微細化効果を得るためには、鋳造直前にBを合金溶湯中に添加することが好ましい。
【0039】
Zn及びMgの含有量割合(Zn含有量(wt%)/Mg含有量(wt%)≧5)
Zn及びMgは、析出強化によるアルミニウム合金の強化を主目的として添加されている。十分な析出強化を得るためには、時効処理の前に、溶体化処理を行って、鋳造の際に晶出あるいは析出した強度の向上に寄与しない化合物を、Al母相中に固溶させることが行われる。Mgの含有量が多くなると溶体化処理を行っても化合物が十分に固溶せず、その結果、時効処理の際に強度の向上に寄与する化合物の析出量が少なくなり、機械的特性の向上が小さくなる。そこで、本発明のアルミニウム合金製バット用素管に用いるアルミニウム合金ではMg含有量を規制する。
【0040】
更に、Cuを含有することで、析出強化により強度が高まる。一方で、必要以上に添加すると、晶出物が粗大化し、延性が低下する。高強度化を得て、伸びの低下を抑制するために、Cu含有量(wt%)とMg含有量(wt%)の合計が3.4〜4.2wt%とすることで、高強度と高延性の両立を実現しており、より具体的には、適当な時効処理後に引張強度630MPa以上、0.2%耐力605MPa以上かつ伸び14%以上の引張特性を実現することができる。
【0041】
その他の成分元素
本発明の効果を損なわない限りにおいて、その他の元素を含有することが許容される。具体的には、0.2wt%以下のSiや0.2wt%以下のFe及び0.4wt%以下のMnを含有することができ、その他の元素は0.05wt%以下に制限することが好ましい。また、前記した元素以外の不可避的不純物については、本発明で用いるアルミニウム合金の特性に影響を与えない範囲で含有することは許容される。具体的には、これらの不可避的不純物の合計が0.05wt%以下であれば許容される。
【0042】
(2)組織
図1に本発明のアルミニウム合金製バット用素管の断面模式図を示す。アルミニウム合金製バット用素管1は、全面ファイバー組織となっている。素管の外層部に再結晶組織があるとバットの製造工程において、再結晶組織化が起こりやすくなり、バットの打撃部の再結晶組織の厚さを500μm以下に抑制するのが難しくなる。
【0043】
アルミニウム合金製バット用素管1の製造には、アルミニウム合金製の押出管または引抜管を用いる。O調質で肉厚調整加工を実施するが、加工性を高めるために、管材の偏肉率を10%以下とすることが好ましい。また、引抜管を用いる場合、冷間加工度が30%より大きいと溶体化処理の際に再結晶組織層が過剰に厚くなりやすく、肉厚調整時の成形性も高まるので、冷間加工度を30%以下に規制することが好ましい。
【0044】
2.アルミニウム合金製バット
本発明のアルミニウム合金製バットは、本発明のアルミニウム合金製バット用素管を用いて製造される。
【0045】
図2に本発明のアルミニウム合金製バットの概略構成を示す断面図を示す。アルミニウム合金製バット2は、野球、ソフトボール、クリケット等の球技において打者がボールを打つ(打球する)ために用いられるものであり、バット本体部4と、ヘッドキャップ6と、グリップエンド8と、グリップテープ10とを備えている。なお、以下の説明において、「基端」は、アルミニウム合金製バット2の長さ方向での基端又は一端、「先端」は、金属バットの長さ方向での先端又は他端を意味する。
【0046】
バット本体部4は、先端側の打撃部12と、基端側のグリップ部14と、打撃部12及びグリップ部14間を連結する遷移部16とが一体に連結されて構成されている。打撃部12は、ボールを打つ部分としてバット本体部4の先端部に設けられている。打撃部12は、アルミニウム合金製バット2の長さ方向に伸びる円筒状に形成され、外径が基端側へ向けて減少するように形成されている。
【0047】
本実施例では、打撃部12の最大径となる外径Dが66.7〜63.5mmに設定されている。打撃部12の内径dは、全体としてほぼ一定である。また、打撃部12の長さL1は、20〜30cmに設定されている。なお、打撃部12の外径D、内径d、肉厚T、長さL1は、アルミニウム合金製バット2に要求される特性等に応じて適宜変更することが可能である。
【0048】
打撃部12の内周面には、先端側においてヘッドキャップ6を取り付けるための溝部が周回状に設けられており、当該溝部に対する基端側には、拡径部が設けられている。また、打撃部12の外周面には、アルミニウムの陽極酸化被膜又は塗装等による外側意匠面18が形成されている。
【0049】
グリップ部14は、打者が把持する部分としてバット本体部4の基端部に設けられている。グリップ部14は、打撃部12よりも外径が小さい円筒状に形成され、アルミニウム合金製バット2の長さ方向に伸びている。なお、グリップ部14の内径も、打撃部12よりも小さく形成されている。本実施例のグリップ部14の内外径は、全体としてほぼ一定となっている。ただし、グリップ部14の内外径は、一定である必要はなく、例えば要求される特性に応じて、いわゆるフレア型等のようにグリップ部14の長さ方向の中間部で外径を相対的に小さくすること等が可能である。
【0050】
グリップ部14の内周には、基端部において、グリップエンド8を固定するための雌ねじ部が形成されている。グリップ部14の外周面には、先端側から中間部まで打撃部12から連続する外側意匠面18が形成されている。
【0051】
遷移部16は、打撃部12とグリップ部14との間を滑らかに遷移させる部分であり、全体として先端側の打撃部12から基端側のグリップ部14へ向けて内外径が漸次縮径するテーパ形状になっている。本実施例の遷移部16は、打撃部12とグリップ部14と各間において、外周面が曲面状にエッジなく遷移している。この遷移部16の外周面にも、打撃部12から延びる外側意匠面18が形成されている。
【0052】
遷移部16の内周面は、グリップ部14との間において鈍角のエッジ部を有するように連続し、打撃部12との間において後述する拡径部によってエッジなく遷移している。かかる構成のバット本体部4に、ヘッドキャップ6、グリップエンド8、グリップテープ10が取り付けられてアルミニウム合金製バット2が構成される。
【0053】
ヘッドキャップ6は、樹脂等で形成され、バット本体部4の打撃部12の先端開口を閉止する。ヘッドキャップ6は、円柱状の一端部が打撃部12の先端開口から挿入されて、その外縁の突起部が打撃部12の溝部に係合している。また、ヘッドキャップ6の他端部は、打撃部12の先端面に突き当てられ、打撃部12の先端からドーム型に膨出するようになっている。なお、ヘッドキャップ6の形状等は、アルミニウム合金製バット2の特性に応じて変更することが可能である。
【0054】
グリップエンド8は、バット本体部4と同様、アルミ合金等の金属で形成され、バット本体部4のグリップ部14の基端開口を閉止する。グリップエンド8は、雄ねじ部からなる一端部がグリップ部14の内周の雌ねじ部に螺合されて、円板状の他端部がグリップ部14の基端面に突き当てられている。これにより、グリップエンド8は、グリップ部14の基端に締結固定されている。他端部の外縁は、グリップ部14に対して径方向に突出している。なお、他端部の形状等は、アルミニウム合金製バット2の特性に応じて適宜変更することが可能である。
【0055】
グリップテープ10は、樹脂等からなり、打球時のすべり止め等のために設けられる。グリップテープ10は、グリップ部14の外周面の先端部から基端部にかけて巻き付けられ、外側意匠面18の一部を含めてグリップ部14を被覆している。
【0056】
図3に本発明のアルミニウム合金製バットの断面模式図を示す。なお、ここでは表面に陽極酸化皮膜を形成させた実施形態について説明する。アルミニウム合金製バット2はバット形状に塑性加工後、T6処理した後に、表面に陽極酸化皮膜等を形成させ、ヘッドキャップ6及びグリップ部14等を取り付けたものである。
【0057】
アルミニウム合金製バット2の打撃部12の組織は、板厚中心部20が押出加工組織であるファイバー組織となっており、当該ファイバー組織によって高強度が得られている。
【0058】
外層部には50〜500μmの再結晶組織層22を有することで、本発明のアルミニウム合金製バットでは、陽極酸化皮膜後の表面模様を抑制すると共に皮膜性を高めている。なお、内層表層部にも類似の再結晶組織層22’が形成されるが、ヘッド部において、板厚内部のファイバー組織の厚さは肉厚の75%以上とすることで引張強度が630MPa以上、0.2%耐力値が605MPa以上、かつ、伸びが14%以上の引張特性を得ることができる。
【0059】
アルミニウム合金製バット2は外周表面に陽極酸化皮膜等からなる外側意匠面18を有しているが、厚さが50〜500μmの再結晶組織層22を有していることから、表面に筋状の模様等は出現しておらず、極めて良好な外観となっている。
【0060】
3.アルミニウム合金製バットの製造方法
本発明のアルミニウム合金製バットの製造方法に関する工程図を
図4に示す。本発明のアルミニウム合金製バットの製造方法は、アルミニウム合金製バット用素管1に肉厚調整及びスエージング加工を施し、アルミニウム合金製バット用素管1をバットの形状に塑性加工する第一工程(S01)と、固相線温度から5〜25℃低い温度に保持する溶体化処理を施した後、焼入れ処理を施す第二工程(S02)と、保持温度:100〜140℃、保持時間:6〜48時間の時効処理を施す第三工程(S03)、必要に応じて更に保持温度:140〜180℃、保持時間:1〜12時間の時効処理を施す工程(S03’)と、陽極酸化皮膜処理、塗装処理又はめっき処理のうちの少なくともいずれかを施す第四工程(S04)と、を有している。以下、各工程について説明する。
【0061】
(1)鋳造
アルミニウム合金製バット用素管1を得るために、上記組成を有するアルミニウム合金の溶湯を用意した後、従来公知の脱ガス処理及び濾過処理(セラミックスフォームフィルターやポーラスチューブフィルターによるフィルターを用いた濾過方法等)を行う。なお、脱ガス処理の効果は、ランズレー法及びLECO法等の公知の水素定量方法により測定することができ、濾過処理による介在物除去の効果は、例えば破断面観察法等により測定することができる。
【0062】
その後、必要に応じて鋳型手前で組織微細化を目的としたロッドハードナー(Al−Ti−B合金)を添加し、DC連続鋳造法等によって円柱状の鋳塊(以下、「ビレット」と称する)を得る。ここで、DC連続鋳造法とは内壁面を水冷した急冷鋳造型に樋で導いた溶湯を注ぎ、当該溶湯を急冷鋳型の内壁面で急冷凝固させると共に、凝固直後のビレットを下方又は側方へ順次引き出し、更に当該ビレットに冷却水を噴射して急冷するという鋳造法であり、生産性に優れたアルミニウム合金の鋳造法として公知のものである。
【0063】
ここで、アルミニウム合金製バット用素管1はZnを多く含むために鋳造の際に熱間割れを起こしやすいことから、溶湯に低周波振動や超音波振動を印加しながら鋳造することが好ましい。鋳造したビレットに従来公知の条件で均質化処理を行うことで、塑性加工前のビレットを得ることができる。
【0064】
(2)押出加工
(1)で得られたビレットを350〜450℃に加熱して押出加工を施すことで、押出材(素管)を得ることができる。加熱温度を350℃以上とすることで加工歪の回復を促進することができ、再結晶組織層の生成を防ぐことができる。また、加熱温度を450℃以下とすることで、表面性状の悪化を抑制することができる。
【0065】
ここで、ダイスから出てきた直後の押出材(素管)を強制冷却することで再結晶組織化抑制が期待できるので、空気、窒素を用いて冷却速度1℃/s以上で冷却することが好ましい。
【0066】
また、押出比が大きいと加工ひずみが大きくなり、溶体化処理の際に、再結晶組織化が進行しやすくなる。製品であるバットにおいて再結晶組織層22が500μmよりも厚くなることを防止するためには、押出比を100以下とすることが好ましい。
【0067】
なお、得られた押出材(素管)の寸法精度を高めるために冷間引き抜き加工を施してもよい。但し、引き抜き加工度が高いと溶体化処理を施した際に再結晶組織が粗大化しやすくなるため、冷間加工度は30%以下とすることが好ましい。
【0068】
(3)塑性加工(第一工程:S01)
第一工程(S01)は、(1)及び(2)で得られたアルミニウム合金製バット用素管1に肉厚調整及びスエージング加工を施し、アルミニウム合金製バット用素管1をバットの形状に塑性加工する工程である。
【0069】
本発明の効果を損なわない限りにおいてバットの形状及び肉厚等は特に限定されず、従来公知の種々の形状及び肉厚とすることができるが、打撃部の外径が66.7mmの場合は当該打撃部の肉厚を2.91〜3.3mmとし、打撃部の外径が63.5mmの場合、当該打撃部の肉厚を2.80〜3.3mmとすることが好ましい。
【0070】
(4)溶体化処理及び焼入れ(第二工程:S02)
本発明のアルミニウム合金製バットの製造方法においては、第一工程(S01)で塑性加工したアルミニウム合金製バット用素管1に対して、固相線温度から5〜25℃低い温度に保持する溶体化処理を施した後、焼入れ処理を施す第二工程(S02)を有している。
【0071】
溶体化処理を施すことで、アルミニウム合金を鋳造した際に晶出した強度の向上に寄与しない粗大な化合物(Zn―Mg系、Al−Zn−Mg―Cu系、Mg−Si系、Al−Cu系等の化合物)がAl母相中に固溶される。固溶されたZn、Mg、Cu等の元素は焼入れ処理によってAl母相中に過飽和に固溶された状態で維持され、その後の時効処理によって微細な析出物を形成するため、より一層の強度向上を達成することができる。
【0072】
ここで、溶体化処理温度を固相線温度から25℃低い温度以上とすることで、上記化合物を十分に固溶させることができる。また、溶体化処理温度を固相線温度から5℃低い温度以下とすることで、局部溶融(バーニング)に起因する機械的強度の低下を抑制することができることに加え、再結晶組織の粗大化を抑制することができる。
【0073】
なお、溶体化処理及び焼入れは押出加工後に行ってもよいが、バット形状への成形加工が困難になることから、成形加工後に行うことが好ましい。
【0074】
(5)時効処理(第三工程:S03)
第三工程(S03)は、バット形状に塑性加工したアルミニウム合金製バットに1段目の時効処理を施す工程である。保持温度:100〜140℃、保持時間:6〜48時間の条件で1段目の時効処理を施すことで、高強度を得ることができる。また、更に2段目の時効処理により、機械的特性が調整可能であり、強度または延性の向上を最大限に発現させることができる。
【0075】
(6)時効処理(S03’)
時効処理(S03’)は、1段目の時効処理温度よりも高い温度域にて2段目の時効処理を施す工程である。具体的には、保持温度:140〜180℃、保持時間:1〜12時間の条件で時効処理を施す。
【0076】
強化相である化合物の析出分布は前駆構造のGPゾーンの影響を大きく受ける。本発明のアルミニウム合金製バットではGPゾーンを成長させることで、析出物を微細高密度に分散させることができる。1段目の時効処理で高強度を得て、2段目の時効処理で析出組織をさらに制御し、強度または延性に寄与させる。
【0077】
保持温度を140℃以上として析出物を十分に成長させることで、良好な強度、延性及び耐食性を得ることができる。また、180℃以下とすることで、析出相の過剰な成長を抑制し、強度低下を抑制することができる。
【0078】
上記の1段または2段階時効により、アルミニウム合金製バット2の打撃部から切出した引張試験片において、引張強度が630MPa以上、0.2%耐力値が605MPa以上、かつ、伸びが14%以上の引張特性を得ることができる。加えて、アルミニウム合金製バット2の打撃部の2%扁平耐力を7500N以上とすることができる。
【0079】
(7)陽極酸化皮膜処理等(第四工程:S04)
アルミニウム合金製バット2に対して陽極酸化皮膜処理、塗装処理又はめっき処理のうちの少なくともいずれかを施す工程である。例えば、アルミニウム合金製バット2の表面に陽極酸化皮膜等からなる外側意匠面18を形成させることで、耐食性及び外観品質等を高めることができる。
【0080】
本発明の効果を損なわない限りにおいて陽極酸化皮膜処理等の方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができる。ここで、陽極酸化皮膜処理等を施す表面は再結晶組織となっていることから、良好な外観を有する平滑な陽極酸化皮膜等を得ることができる。
【0081】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0082】
≪実施例≫
表1に記載の組成(wt%)を有するアルミニウム合金(実施例1〜実施例8)の溶湯に対して脱ガス処理及び濾過処理を行った後、DC連続鋳造によってビレットを得た。次に、当該ビレットを380℃に加熱して押出加工を施すことで、アルミニウム合金製バット用素管(外径75mm 肉厚3.3mm)を得た、ここで、ダイスから出てきたアルミニウム合金製バット用素管の冷却速度は1℃/sであり、押出比は68である。
【0083】
【表1】
【0084】
次に、得られたアルミニウム合金製バット用素管に対して肉厚調整及びスエージング加工を施し、アルミニウム合金製バット用素管を打撃部の肉厚が3mmであるバット形状に塑性加工した(第一工程:S01)。
【0085】
その後、保持温度:460℃±10℃、保持時間:保持温度に到達後30分以上の条件で溶体化処理を施し、水冷で焼入れを行った(第二工程:S02)。必要に応じて当該処理による歪を冷間加工にて矯正した後、表1に示す条件(A〜E)で時効処理(第三工程:S03及びS03’)を施した。ここで、時効処理A〜Eの条件はそれぞれ以下の通りである。
A:120℃ 24時間+155℃ 2時間
B:120℃ 24時間+165℃ 2時間
C:120℃ 24時間+175℃ 2時間
D:120℃ 12時間+155℃ 2時間
E:120℃ 12時間
【0086】
次に、皮膜厚さ15μmの条件で陽極酸化皮膜処理(第四工程:S04)を施し、ヘッド部及びグリップ部と取付けて、本発明のアルミニウム合金製バットを得た。
【0087】
≪比較例≫
表1に記載の組成(wt%)を有するアルミニウム合金(比較例1〜比較例4)について、実施例の場合と同様にしてアルミニウム合金製バットを得た。なお、比較例3については押出加工ではなく、45%引抜加工を用いた。
【0088】
[評価]
(1)引張試験
得られたアルミニウム合金製バットの打撃部より、バット長手方向の引張試験片(JISZ2201の14B試験片)を採取し、JISZ2241の引張試験法に従って引張特性を評価した。得られた結果を表2に示す。なお、試験繰り返し数は3本とし、平均値を計算した。
【0089】
(2)扁平試験(非木製バットのSG基準(CPSA 0024))
実施例1〜5、8および比較例1、2、4で得られたアルミニウム合金製バットの打撃部から長さ50mmの試験片を採取し、当該試験片の残留変形量が「アルミニウム合金製バットの最大外径×0.02」となる荷重(2%扁平荷重)と最大荷重(破断に至るまでの最大荷重)を測定した。いずれの実施例および比較例においても、変形量が直径の20%に達した時点での破断は認められなかった。なお、2%扁平耐力値は実測荷重値÷(実測肉厚/3mm)とした。得られた結果を表2に示す。引張強度が630MPa以上、0.2%耐力値が605MPa以上、かつ、伸びが14%以上の引張特性、及び2%扁平耐力が7500N以上を全て満足する場合は○、一つでも満足しない場合は×とし、評価結果を表2に示した。ここで、SG基準における硬式野球・一般用の規格値によると、2%扁平耐力が7500N以上であり、かつ、アルミニウム合金製バットの最大外径×0.2以上の変形加えても、破壊しないこと、および10000Nの荷重で試験片が破壊しないことが要求されている。
【0090】
【表2】
【0091】
本発明の実施例1〜実施例8の評価は全て○となり、優れた引張特性、2%扁平耐力及び最大荷重を有していることが分かる。これに対し、比較例1及び比較例2は伸びが14%に満たず、最大荷重が実施例よりも低いために耐久性(耐割れ性等)が実施例より劣る。比較例3は0.2%耐力値が605MPaに達しておらず、2%扁平耐力も7500Nに達していない。比較例1はMg含有量が本発明の規定範囲を超えていることから、Zn含有量とMg含有量の比及びCu含有量とMg含有量の合計が本発明の規定範囲外となっている。また、比較例2はMg含有量とCu含有量が本発明の規定範囲を超えており、Zn含有量とMg含有量の比が本発明の規定範囲外となっている。更に、比較例3は各成分の含有量は本発明の規定範囲内であるが、バット成形までの冷間加工度が高く、組織が再結晶組織化してファイバー組織の残存率が規定値に達していない(後述)。比較例4は、Zn含有量が少ないため、0.2%耐力が低くなっている。
【0092】
打撃部の外径を66.7mm又は63.5mmとし、打撃部の肉厚をそれぞれ2.94〜2.98mm又は2.82〜2.90mmとしたこと以外は実施例5と同様にして、本発明のアルミニウム合金製バットを得た。これらのアルミニウム合金製バットの2%扁平耐力と打撃部肉厚の関係を
図5に示す。
【0093】
2%扁平耐力は打撃部肉厚の増加に伴って大きくなっており、本発明の実施例5の合金においては、打撃部の外径が66.7mmの場合は打撃部肉厚を2.91mm以上とすることで2%扁平耐力を7500N以上とすることができ、打撃部の外径が63.5mmの場合は打撃部肉厚を2.80mm以上とすることで2%扁平耐力を7500N以上とすることができる。
【0094】
(3)組織観察
得られたアルミニウム合金製バットの打撃部より組織観察用の試料を採取し、LT−L面を研磨した後、バーカー試液中にて15V,2分間の条件で陽極酸化処理し、光学顕微鏡で偏光フィルターを使用して結晶組織を観察した。外層部の再結晶組織層の厚さ及びファイバー組織の残存率を測定し、得られた結果を表3に示した。
【0095】
【表3】
【0096】
本発明の実施例1〜実施例8では外層部の再結晶組織層の厚さが50〜500μmの範囲となっており、ファイバー組織の割合が75%以上となっている。これに対し、比較例3では全面ファイバー組織となっている。
【0097】
(4)反発係数試験
実施例8と比較例3と同じ組成及び製造方法で、打撃部の肉厚の異なるバットを製造し、2%扁平耐力試験を行ったところ、実施例8相当のバット(打撃部肉厚2.95mm)と比較例3相当のバット(打撃部肉厚3.00mm)の2%扁平耐力が、共に約7650Nであった。そこでASTM F2219−11の試験方法に基づき反発係数を測定したところ、実施例8相当バットの反発係数が0.581となり、比較例3相当バットの0.564より0.017高い値となった。一般に、反発係数が0.01変わると飛距離が1m増加するといわれていることから、0.017の反発係数の増加は1.7mの飛距離の増加に相当する。