特許第6661905号(P6661905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661905
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】除菌処理方法及び除菌処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/14 20060101AFI20200227BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20200227BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   A61L9/14
   A61L9/01 E
   A61L2/18
【請求項の数】16
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-134699(P2015-134699)
(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公開番号】特開2016-27849(P2016-27849A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2018年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-140795(P2014-140795)
(32)【優先日】2014年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】四本 瑞世
(72)【発明者】
【氏名】末田 香恵
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】相賀 洋
(72)【発明者】
【氏名】沼田 和清
(72)【発明者】
【氏名】三井 成俊
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−169441(JP,A)
【文献】 特開2011−147673(JP,A)
【文献】 特開2009−034361(JP,A)
【文献】 特開平05−176977(JP,A)
【文献】 特公平05−086267(JP,B2)
【文献】 特開昭63−270058(JP,A)
【文献】 特表2013−544630(JP,A)
【文献】 特開2013−226373(JP,A)
【文献】 特開2004−329149(JP,A)
【文献】 特開2009−024418(JP,A)
【文献】 特開平08−071136(JP,A)
【文献】 特開2012−100718(JP,A)
【文献】 特開2012−105710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00− 9/22
A61L 2/00− 2/28
A61L 11/00− 12/14
B05B 1/00− 3/18
B05B 7/00− 9/08
B01L 1/00− 99/00
C12M 1/00− 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除菌対象の室内空間内に離散して複数配置した二流体ノズルから、次亜塩素酸を主成分とする薬液を噴霧することにより、前記室内空間内を除菌する方法であって、
前記室内空間に噴霧の障害物が設置された第2の状況において、前記室内空間に前記障害物がない第1の状況における遊離有効塩素の第1の濃度に対して高い第2の濃度で、前記室内空間の容積に応じた量であって、前記第1の状況における前記薬液の量以下の薬液を用いて、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように噴霧することを特徴とする除菌処理方法。
【請求項2】
前記薬液は、pHが5.0〜6.5の範囲にあり、遊離有効塩素の濃度が90mg/l以上の次亜塩素酸を主成分とする水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の除菌処理方法。
【請求項3】
前記薬液の遊離有効塩素の濃度は100mg/l以下であることを特徴とする請求項2に記載の除菌処理方法。
【請求項4】
前記第2の状況において、前記障害物から壁又は他の障害物までの距離に応じた配置状況に基づいて量を調整した液を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の除菌処理方法。
【請求項5】
前記噴霧後の相対湿度が72%以上になる範囲で前記薬液を噴霧することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の除菌処理方法。
【請求項6】
前記噴霧後の相対湿度が90%以下となる範囲で前記薬液を噴霧することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の除菌処理方法。
【請求項7】
前記噴霧後の相対湿度が88%以下となる範囲で前記薬液を噴霧することを特徴とする請求項に記載の除菌処理方法。
【請求項8】
前記二流体ノズルからの噴霧が旋回流を形成するように、前記二流体ノズルを配置した
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の除菌処理方法。
【請求項9】
噴霧前の前記室内空間の相対湿度が、初期湿度範囲の下限値よりも低い場合には、前記室内空間を加湿する加湿器を用いて、前記薬液の噴霧後における前記室内空間の内壁に結露が発生しない範囲で加湿を行なうことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の除菌処理方法。
【請求項10】
噴霧前の前記室内空間の相対湿度が、初期湿度範囲の上限値よりも高い場合には、前記室内空間を除湿する除湿器を用いて、前記薬液の噴霧後における前記室内空間の内壁に結露が発生しない範囲で除湿を行なうことを特徴とする請求項に記載の除菌処理方法。
【請求項11】
除菌対象の室内空間内に離散して複数配置した二流体ノズルを制御して、前記二流体ノズルから次亜塩素酸を主成分とする薬液を噴霧させて除菌処理を実行する制御部を備えた除菌処理装置であって、
前記二流体ノズルからの噴霧が旋回流を形成するように前記二流体ノズルを配置し、
前記室内空間に噴霧の障害物が設置された第2の状況において、前記室内空間に前記障害物がない第1の状況における遊離有効塩素の第1の濃度に対して高い第2の濃度で、前記室内空間の容積に応じた量であって、前記第1の状況における前記薬液の量以下の薬液を用いて、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように噴霧することを特徴とする除菌処理装置。
【請求項12】
室内空間の相対湿度を測定する湿度センサと、前記室内空間を加湿する加湿器と、次亜塩素酸を主成分とする薬液を室内空間に噴霧する二流体ノズルと、前記二流体ノズルから前記薬液を噴霧させて除菌処理を実行する制御部とを備えた除菌処理装置であって、
前記室内空間の容積に応じた量の前記薬液を用いるとともに、
前記制御部は、
前記室内空間の相対湿度を取得し、前記相対湿度が初期最低湿度より低い場合には、相対湿度が初期最低湿度以上になるように前記加湿器を動作させ、
前記加湿器の動作を停止させた後、前記二流体ノズルから、前記室内空間に噴霧の障害物が設置された第2の状況において、前記室内空間に前記障害物がない第1の状況における遊離有効塩素の第1の濃度に対して高い第2の濃度で、前記室内空間の容積に応じた量であって、前記第1の状況における前記薬液の量以下の薬液を用いて、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように前記薬液を噴霧することを特徴とする除菌処理装置。
【請求項13】
前記初期最低湿度は、前記薬液の噴霧後における前記室内空間の内壁に結露が発生しない範囲であることを特徴とする請求項12に記載の除菌処理装置。
【請求項14】
前記除菌処理装置は、前記室内空間を除湿する除湿器を備え、
前記室内空間の相対湿度を取得し、前記相対湿度が初期最高湿度より高い場合には、相対湿度が初期最高湿度より低くなるように前記除湿器を動作させ、
前記除湿器の動作を停止させた後、前記二流体ノズルから、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように噴霧することを特徴とする請求項12又は13に記載の除菌処理装置。
【請求項15】
前記制御部は、
前記室内空間を撮影した室内画像を取得し、前記室内画像において、障害物の有無を特定し、
前記障害物の有無に基づいて前記薬液の量を決定することを特徴とする請求項1114の何れか1項に記載の除菌処理装置。
【請求項16】
前記薬液は、pHが5.0〜6.5の範囲にあり、かつ遊離有効塩素の濃度が90mg/l以上の次亜塩素酸を主成分とする水溶液であることを特徴とする請求項1115の何れか1項に記載の除菌処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設の内部表面や内部空間に存在する有害微生物を殺菌するための除菌処理方法及び除菌処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザやノロウィルス性の食中毒の発生が問題となっている。このため、食品工場等の製造施設や医療・福祉施設における除菌技術が求められている。そこで、殺菌効果がある次亜塩素酸水溶液等の薬品を噴霧することにより、施設内の除菌を行なうことが検討されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1においては、超音波発生装置を用いた超音波噴霧器を用いて、次亜塩素酸殺菌水を噴霧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−316517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超音波噴霧器を用いた場合、部屋全体に薬剤を均一に噴霧することは、難しいことがある。例えば、超音波噴霧器の設置付近が結露し易い。このため、大きな部屋では、部屋の隅まで薬剤が到達せず、除菌が困難であった。
【0005】
一方で、部屋の隅まで薬剤が到達するように、多くの薬剤を噴霧すると、不必要な薬剤を噴霧することになる。この場合には、過多な薬剤が部屋の構造に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、効率的かつ的確に除菌を行なうための除菌処理方法及び除菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する除菌処理方法は、除菌対象の室内空間内に離散して複数配置した二流体ノズルから、薬液を噴霧することにより、前記室内空間内を除菌する方法であって、前記室内空間の容積に応じた量の前記薬液を用いて、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように噴霧することを要旨とする。この構成によれば、室内空間全体に薬剤をより均一に拡散させて、より確実に除菌を行なうことができる。ここで、相対湿度とは、ある気温で大気が含むことのできる水蒸気の最大量(飽和水蒸気量)を100とし、実際の水蒸気量の測定値を比率(パーセント)で表した湿度をいう。
【0008】
上記除菌処理方法において、前記薬液は、pHが5.0〜6.5の範囲にあり、遊離有効塩素の濃度が90mg/l以上の次亜塩素酸を主成分とする水溶液であることが好ましい。この構成によれば、より確実に除菌を行なうことができる。
上記除菌処理方法において、前記薬液の遊離有効塩素の濃度は100mg/l以下であることが好ましい。この構成によれば、薬液の濃度を高くしなくても、十分に除菌を行なうことができる。
【0009】
上記除菌処理方法において、前記室内空間に噴霧の障害物がない第1の状況における前記遊離有効塩素の第1の濃度に対して、障害物が設置された第2の状況における前記遊離有効塩素の第2の濃度を高くすることが好ましい。この構成によれば、室内空間に椅子や棚等を配置した場合においても、室内空間や壁・天井・床の表面、設備表面等を十分に除菌することができる。
【0010】
上記除菌処理方法において、前記第2の濃度を用いる場合には、前記第1の濃度を用いる場合の薬液の量より少ない量を用いることが好ましい。この構成によれば、使用する薬液の量を少なくして効率よく除菌することができる。
【0011】
上記除菌処理方法において、前記第2の状況において、前記障害物から壁又は他の障害物からの距離に応じた配置状況に基づいて、前記第1の状況における前記薬液の量よりも少ない前記薬液の量を用いることが好ましい。この構成によれば、配置状況に応じた薬液の量を用いるので、障害物の陰を考慮して除菌することができる。
【0012】
上記除菌処理方法において、前記噴霧後の相対湿度が72%以上になる範囲で前記薬液を噴霧することが好ましい。この構成によれば、より確実に除菌を行なうことができる。
上記除菌処理方法において、前記噴霧後の相対湿度が90%以下となる範囲で前記薬液を噴霧することが好ましい。この構成によれば、室内空間を構成する部材の表面の濡れを低減して、薬液を噴霧することができるので、壁・天井・床等の室内空間を構成する部材や、室内空間に配置された設備等の部材の腐食を抑えることができる。
【0013】
上記除菌処理方法において、前記噴霧後の相対湿度が88%以下となる範囲で前記薬液を噴霧することが好ましい。この構成によれば、室内空間を構成する部材の表面の濡れを低減して、より確実に除菌を行なうことができる。
【0014】
上記除菌処理方法において、前記二流体ノズルからの噴霧が旋回流を形成するように、前記二流体ノズルを配置することが好ましい。この構成によれば、室内空間全体に薬剤をより均一に拡散させて、より確実に除菌を行なうことができる。
【0015】
上記除菌処理方法において、噴霧前の前記室内空間の相対湿度が、初期湿度範囲の下限値よりも低い場合には、前記室内空間を加湿する加湿器を用いて、前記薬液の噴霧後における前記室内空間の内壁に結露が発生しない範囲で加湿を行なうことが好ましい。この構成によれば、室内空間が乾燥している場合であっても、確実に除菌を行なうことができる。また、室内空間の内壁が結露しないように加湿を行なうので、室内空間の濡れを低減することができる。
【0016】
上記除菌処理方法において、噴霧前の前記室内空間の相対湿度が、初期湿度範囲の上限値よりも高い場合には、前記室内空間を除湿する除湿器を用いて、前記薬液の噴霧後における前記室内空間の内壁に結露が発生しない範囲で除湿を行なうことが好ましい。この構成によれば、初期湿度が高いときには、室内空間を除湿してから除菌を行なうので、室内空間の濡れを低減することができる。
【0017】
上記課題を解決する除菌処理装置は、除菌対象の室内空間内に離散して複数配置した二流体ノズルを制御して、前記二流体ノズルから薬液を噴霧させて除菌処理を実行する制御部を備えた除菌処理装置であって、前記二流体ノズルからの噴霧が旋回流を形成するように前記二流体ノズルを配置し、前記室内空間の容積に応じた量の前記薬液を用いて、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように噴霧することを要旨とする。この構成によれば、室内空間全体に薬剤をより均一に拡散させて、より確実に除菌を行なうことができる。
【0018】
上記課題を解決する除菌処理装置は、室内空間の相対湿度を測定する湿度センサと、前記室内空間を加湿する加湿器と、薬液を室内空間に噴霧する二流体ノズルと、前記二流体ノズルから薬液を噴霧させて除菌処理を実行する制御部とを備えた除菌処理装置であって、前記室内空間の容積に応じた量の前記薬液を用いるとともに、前記制御部は、前記室内空間の相対湿度を取得し、前記相対湿度が初期最低湿度より低い場合には、相対湿度が初期最低湿度以上になるように前記加湿器を動作させ、前記加湿器の動作を停止させた後、前記二流体ノズルから、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように前記薬液を噴霧することを要旨とする。この構成によれば、室内空間全体に薬剤をより均一に拡散させて、より確実に除菌を行なうことができる。
【0019】
上記除菌処理装置において、前記初期最低湿度は、前記薬液の噴霧後における前記室内空間の内壁に結露が発生しない範囲であることが好ましい。この構成によれば、室内空間の内壁に結露が発生しない範囲で初期湿度を設定するので、除菌後の室内を濡れ難くすることができる。
上記除菌処理装置において、前記除菌処理装置は、前記室内空間を除湿する除湿器を備え、前記室内空間の相対湿度を取得し、前記相対湿度が初期最高湿度より高い場合には、相対湿度が初期最高湿度より低くなるように前記除湿器を動作させ、前記除湿器の動作を停止させた後、前記二流体ノズルから、噴霧後の前記室内空間の相対湿度が70%以上になるように噴霧することが好ましい。この構成によれば、初期湿度が高いときには、室内空間を除湿してから除菌を行なうので、室内空間の濡れを低減することができる。
【0020】
上記除菌処理装置において、前記室内空間を撮影した室内画像を取得し、前記室内画像において、障害物の有無を特定し、前記障害物の有無に基づいて前記薬液の量を決定することが好ましい。この構成によれば、障害物の有無に応じた薬液の量で、効率的に除菌することができる。
【0021】
上記除菌処理装置において、前記薬液は、pHが5.0〜6.5の範囲にあり、かつ遊離有効塩素の濃度が90mg/l以上の次亜塩素酸を主成分とする水溶液であることが好ましい。この構成によれば、室内空間全体に薬剤をより均一に拡散させて、より確実に除菌を行なうことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、効率的かつ的確に除菌を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1の実施形態における除菌処理方法を説明する説明図であり、(a)は除菌処理方法を適用する除菌対象室の斜視図、(b)は除菌処理方法の処理手順を説明する流れ図。
図2】除菌効果を示す説明図であり、(a)は噴霧条件と除菌効果とを示した表、(b)は条件(1)における噴霧後の相対湿度と菌の残存率との関係を示し、(c)は条件(2)における噴霧後の相対湿度と菌の残存率との関係を示す。
図3】除菌効果を示す説明図であり、(a)は噴霧条件と除菌効果とを示した表、(b)は条件(2)〜(10)におけるFAC濃度(遊離有効塩素濃度)と菌の残存率との関係を示す。
図4】完全に菌が死滅するときの噴霧条件と除菌対象室との大きさとの関係を示した表。
図5】実験室の平面図であって、トルネード散布方式を示す。
図6】第2の実施形態における除菌対象室の内部構成を説明する説明図。
図7】第2の実施形態における除菌効果を示す表。
図8】第2の実施形態における除菌効果を示す表。
図9】第3の実施形態における初期温度及び初期相対温度に対応する除菌率及び濡れとの関係を示した表。
図10】その他の散布方式で二流体ノズルを配置した実験室の平面図であり、(a)は角四つ散布方式、(b)は並行千鳥散布方式を示す。
図11】散布方式に応じた噴霧前後の相対湿度及びバラツキを示した表。
図12】散布方式に応じた箇所毎の噴霧後の相対湿度のバラツキを示した説明図。
図13】変更例において、障害物の検知を説明する説明図であって、(a)は障害物がない場合の室内、(b)は障害物がある場合の室内を示す。
図14】変更例において濃度・薬液量決定処理の処理手順を説明する流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施形態>
以下、図1図5を用いて、除菌処理方法及び除菌処理装置を具体化した第1の実施形態を説明する。
図1(a)には、本実施形態における除菌処理方法を適用する除菌対象室10の構成を示す。この除菌対象室10として、本実施形態では、病院の待合室等を想定する。
【0025】
除菌対象室10は、4つの壁W1と床F1と図示しない天井とから構成された略直方体形状をしている。一つの壁W1の上部には、湿度調整器(加湿器及び除湿器)として機能する空調機ACが取り付けられている。この空調機ACは、除菌対象室10の暖房、冷房、加湿及び除湿を行なう。空調機ACは、除菌対象室10の現在の温度及び湿度をそれぞれ検出する温度センサ及び湿度センサと、冷房、暖房、加湿及び除湿を行なう空調機能部を有している。
【0026】
各壁W1には、液体と気体とを混合させて、微細な霧にして噴射する二流体ノズルN1が配置される。各二流体ノズルN1は、隣接する壁W1に近い位置(コーナー部付近)にそれぞれ設けられている。本実施形態では、二流体ノズルN1からの噴霧が旋回流を形成する配置で、各二流体ノズルN1が設けられている。具体的には、各二流体ノズルN1は、隣接する二つの壁W1のうち、一方の壁W1に近い位置のみに取り付けられている。そして、各二流体ノズルN1は、近い位置の壁W1の延在方向に、この壁W1に沿って噴霧する方向に向けられている。更に、隣接する壁W1の二流体ノズルN1は、他端に配置される。これにより、各二流体ノズルN1は、隣接する二流体ノズルN1に向けて同じ周回方向で薬液を噴霧し、この薬液は旋回流を形成する。
【0027】
各二流体ノズルN1は、空気の取入部と、液タンクに収容された液体の取入部を有しており、空気と液体とを混合して、霧状の液体を噴霧口から噴霧する。本実施形態では、二流体ノズルとして、二流体サイフォン式噴霧ノズルを用いている。具体的には、スプレーイングシステムスジャパン株式会社製の商品名クイックフォッガーを用いる。二流体ノズルN1には、圧縮空気が供給される。この圧縮空気の空気圧により、二流体ノズルN1の時間当たりの噴霧液量を制御することができる。
【0028】
二流体ノズルN1が接続された液タンクには、除菌のための薬液が収容されている。この薬液として、pHが5.0〜6.5の範囲にある次亜塩素酸水溶液を用いる。なお、一般に、次亜塩素酸水溶液が、このpHの範囲外となった場合には、殺菌効果が得られないことが判明している。本実施形態では、遊離有効塩素(FAC)の濃度が90〜100mg/lになるように、食品添加物に認可されている次亜塩素酸ナトリウム水溶液と塩酸とを、蒸留水で希釈混合した薬液を用いる。
【0029】
また、本実施形態では、二流体ノズルN1からの噴霧を制御するコントローラ20が設けられている。このコントローラ20は、除菌処理装置として機能し、制御部、入力部及び出力部を有している。制御部は、CPU、RAM及びROM等のメモリ等を備え、後述する除菌制御処理を実行する。制御部は、空調機ACを制御して、除菌対象室10に対して加湿及び除湿を行なう。制御部は、除菌処理を行なう前に加湿や除湿を行なうか否かを判定するために用いる初期湿度範囲を、メモリに記憶している。本実施形態では、例えば、初期湿度範囲の下限値(初期最低湿度)として相対湿度50%、上限値(初期最高湿度)として相対湿度60%を記憶している。更に、制御部は、除菌対象室10に散布する薬液量を算出する算出式を記憶している。この算出式は、除菌対象室10の容積に基づいて算出される。本実施形態では、容積当たりの薬剤必要量として0.9mgが記憶されている。
【0030】
入力部は、除菌制御処理の開始指示や、部屋の大きさ(除菌対象室10が直方体形状の場合には横、奥行、幅等)に関するデータを取得し、制御部に供給する。出力部は、表示ディスプレイ等を備え、入力する項目の内容、現在の気温や相対湿度等を表示する。
【0031】
次に、図1(b)を用いて、制御部が実行する除菌制御処理について説明する。
まず、コントローラ20は、使用する薬液の濃度・部屋の容積から噴霧する薬液量を算出する処理を実行する(ステップS1−1)。具体的には、コントローラ20の入力部において、使用する薬液のFAC濃度の値と、除菌対象室10の寸法(縦、横及び高さ)とを入力する。この場合、コントローラ20の制御部は、入力部を介して、FAC濃度の値と、除菌対象室10の寸法に関するデータを取得し、メモリに記録する。次に、制御部は、除菌対象室10の寸法を用いて、この部屋の容積を算出する。そして、制御部は、取得した薬液のFAC濃度と部屋の容積とから、散布する薬液量を算出する。
【0032】
次に、コントローラ20は、薬液噴霧前の相対湿度の調整処理を実行する(ステップS1−2)。具体的には、コントローラ20の制御部は、空調機ACを稼働して、空調機ACの湿度センサから、除菌対象室10の現在の湿度を取得する。
【0033】
ここで、現在の相対湿度が初期湿度範囲(本実施形態では50%〜60%)に入るように、制御部は空調機ACを動作させる。具体的には、初期湿度範囲の下限値(50%)よりも低い場合には、制御部は、空調機ACを稼働させて、初期湿度範囲内になるように加湿を行なう。一方、現在の相対湿度が初期湿度範囲の上限値(60%)よりも高い場合には、制御部は、空調機ACを稼働させて、初期湿度範囲内になるように除湿を行なう。
また、現在の相対湿度が、初期湿度範囲内である場合には、この処理をスキップする。
【0034】
次に、コントローラ20は、相対湿度が所定値となるように薬液の噴霧処理を実行する(ステップS1−3)。具体的には、コントローラ20の制御部は、各二流体ノズルN1を制御して、ステップS1−1において算出した薬液量の薬液を噴霧する。ここでは、噴霧後(噴霧直後から所定時間(除菌終了時まで))の相対湿度が目的湿度範囲(ここでは、72%〜88%)となる量を噴霧する。噴霧直後から除菌終了時までの相対湿度をほぼ一定に維持できるような除菌対象室10であれば、相対湿度が目的湿度範囲となった場合に噴霧を終了する。一方、相対湿度を一定に維持できないような除菌対象室10においては、除菌終了時までの相対湿度が目的湿度範囲内になるように追加噴霧を行なう。
【0035】
このような本願発明の除菌処理及び除菌処理装置は、以下の知見に基づいてなされたものである。
<実験方法>
まず、図5の平面図を用いて、この除菌効果を評価するために用いた実験室50について説明する。この実験室50は、4つの壁W2と、床F2と、図示しない天井によって囲まれている。実験室50には、ドアD1と窓Wnと空調機ACとが設けられている。
【0036】
更に、各壁W2には、コーナー付近において、4つの二流体ノズルNtがそれぞれ配置されている。具体的には、各二流体ノズルNtは、一方の壁W2に取り付けられ、この壁W2とコーナーをなす壁W2の延在方向と同じ方向に噴霧するように配置されている(以下、この配置をトルネード散布方式と呼ぶ)。これにより、二流体ノズルNtから噴霧された薬液は、旋回流を形成する。
【0037】
実験室50では、4つの壁W2、床F2、天井、床F2と天井との間の空間において設定した複数の測定点において測定を行なう。例えば、図5の床F2において黒丸で示す位置の測定点で、噴霧条件を変更して、除菌効果の測定を行なった。
【0038】
この除菌効果の評価では、バイオロジカルインジケータ(以下、効果確認指標)を用いる。本実施形態では、一定期間培養した表皮ブドウ球菌を集め、生理食塩水で懸濁させた菌液を椀型ステンレス板に5μl塗布し、クリーンベンチ内で乾燥させて、効果確認指標を作成する。効果確認指標を各測定位置に設置した後で薬剤を噴霧した。そして、一定時間経過後に、各効果確認指標を回収した。回収した各効果確認指標を滅菌生理食塩水に投入し、滅菌綿棒を用いて残存する菌体を液体に移し、SCDプレート培地に塗布後、32℃のインキュベータで2日間培養し、菌数(コロニー数)を測定した。
【0039】
<噴霧後の相対湿度>
図2は、噴霧後の相対湿度と、除菌効果との関係を示している。
図2(a)は、条件(1)及び条件(2)の噴霧条件における除菌結果を示した表である。ここでは、菌の残存率が1/100以下の場合(99%以上殺菌した場合)には、除菌効果があったと判定する。
【0040】
図2(b)は、条件(1)を用いて、噴霧後の相対湿度に対する実験室50の各測定点における菌の残存率を示したグラフである。
図2(c)は、条件(2)を用いて、噴霧後の相対湿度に対する実験室50の各測定点における菌の残存率を示したグラフである。
【0041】
図2(b)に示すように、条件(1)の場合には、相対湿度72%を下回ると、除菌効果が低くなることがわかる。また、図2(c)に示すように、条件(2)では、噴霧後の相対湿度は70%から88%となっており、どの測定点においても除菌効果が得られている。更に、本実験では、同じ測定点において水分試験紙の反応実験を行なった。この結果、噴霧後の相対湿度が90%以上になると、効果確認指標の表面が濡れることが判明した。
【0042】
<噴霧する薬液中のFAC濃度>
図3には、噴霧する薬液の濃度を変更した場合の除菌結果を示している。
図3(a)は、条件(2)〜(10)の噴霧条件と除菌結果との関係を示した表である。
【0043】
図3(b)は、図3(a)の除菌結果に基づいて、FAC濃度と菌の残存率(各条件における平均値)との関係を示したグラフである。
FAC濃度を82mg/lとして噴霧した場合、他と同量以上の約69mgのFAC量を噴霧しても、除菌効果は得られなかった。また、FAC濃度が約90mg/lの場合には、pHの値を変更した場合においても、除菌効果が得られた。従って、除菌効果を得るためには、FAC濃度が90mg/l以上の薬剤を用いる必要がある。
【0044】
<除菌対象室の大きさと必要な薬剤量>
図4には、除菌効果が得られた場合の噴霧条件と、そのときの実験室の表面積や容積と、必要な薬剤量との関係を示している。
【0045】
FAC濃度や薬液のpHの値を変化させても、体積52.1mの部屋において必要な1mあたり必要なFAC量はほぼ同じであり、0.9mgであった。これにより、除菌効果を得るために必要な薬剤量を、除菌対象室の容積で規定できることが判明した。大きい除菌対象室10を除菌する場合には、容積が増えるため、必要となる薬剤必要量(FAC量)を増加する必要がある。
【0046】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、コントローラ20は、制御部及び入力部を有している。コントローラ20の制御部は、相対湿度が所定値となるように薬液の噴霧処理(ステップS1−3)を実行する。この場合、コントローラ20の制御部は、各二流体ノズルN1を制御して、噴霧後の相対湿度が72%〜88%となるように、遊離有効塩素(FAC)の濃度を90〜100mg/lとした薬液を噴霧する。これにより、除菌対象室10全体を、効率的かつ的確に除菌を行なうことができる。
【0047】
(2)本実施形態では、コントローラ20の制御部は、使用する薬液の濃度・部屋の容積から噴霧する薬液量を算出する処理を実行する(ステップS1−1)。この場合、コントローラ20の制御部は、除菌対象室10の部屋の容積に基づいて薬液量を算出する。これにより、除菌対象室10が大きい場合であっても、効率的かつ的確に除菌することができる。
【0048】
(3)本実施形態では、除菌対象室10の除菌前の相対湿度が初期湿度範囲の下限値より低い場合には、コントローラ20の制御部は、空調機ACを制御して、除菌対象室10の相対湿度を初期湿度範囲の下限値以上になるように、除菌対象室10を加湿した。これにより、除菌対象室10の湿度が低い場合であっても、必要以上の薬液の噴霧を抑制でき、効率的かつ的確に除菌することができる。
【0049】
(4)本実施形態では、除菌対象室10の除菌前の相対湿度が初期湿度範囲の上限値よりも高い場合には、制御部は、空調機ACを制御して、除菌対象室10の相対湿度を初期湿度範囲の上限値以下になるように、除菌対象室10を除湿した。これにより、除菌対象室10の湿度が高い場合であっても、適切量の薬液を噴霧し、効率的かつ的確に除菌することができる。
【0050】
(5)本実施形態では、各二流体ノズルN1は、隣接する二つの壁W1のうち、一方の壁W1に近い位置のみに取り付けられている。そして、各二流体ノズルN1は、近い位置の壁W1の延在方向に、この壁W1に沿って噴霧する方向に向けられている。更に、隣接する壁W1の二流体ノズルN1は、他端に配置される。これにより、二流体ノズルN1から噴霧される薬液は旋回流を形成するので、除菌対象室10全体に、薬剤をより均一に散布することができる。
【0051】
<第2の実施形態>
次に、図6図8を用いて、除菌処理方法及び除菌処理装置を具体化した第2の実施形態を説明する。本実施形態は、第1の実施形態の除菌対象室10内に、椅子や棚等の障害物を配置した場合を想定する。この場合、障害物がない場合の薬液のFAC濃度の1.2倍の薬液を用いる。以下の実施形態においては、上記実施形態と同様の部分については、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0052】
図6に示すように、本実施形態の除菌対象室10は、上記実施形態と同様に、4つの壁W3と床F3と天井C3とから構成された略直方体形状をしている。本実施形態では、除菌対象室10内に、背もたれなしの長椅子、背もたれ付の長椅子、棚R1が配置されている。また、棚R1には、コンテナCt1,Ct2が収容されている。
【0053】
この除菌対象室10には、上記実施形態と同様に、空調機とコントローラとが設けられている。また、本実施形態においては、除菌対象室10の天井の中央に噴霧装置Spが吊り下げられている。この噴霧装置Spは、90度毎に設けられ四方に噴霧を行なう複数の二流体ノズルN2を備えている。この二流体ノズルN2の噴霧は、コントローラによって制御される。
【0054】
本実施形態のコントローラは、上記実施形態と同様に、制御部、入力部及び出力部を有している。制御部は、除菌制御処理を実行するとともに、空調機の制御による加湿及び除湿を行なう。このために、制御部は、初期湿度範囲と、室内に障害物がない場合に散布する薬液量を算出する算出式とを記憶している。
【0055】
更に、制御部は、室内に障害物がない場合及び室内に障害物がある場合のFAC濃度に関するデータを保持している。本実施形態では、室内に障害物がある場合のFAC濃度として、障害物がない場合のFAC濃度の1.2倍の濃度(109mg/l〜120mg/l)を用いる。
【0056】
更に、本実施形態の制御部は、室内に設置された障害物の配置状況を示す配置状況評価テーブルを記憶している。この配置状況評価テーブルには、例えば、「椅子同士が接触」や「棚が壁に近接」等の配置状況が含まれる。更に、制御部は、配置状況評価テーブルの配置状況に応じて、使用する薬液の量を調整するための薬液補正式を保持している。この薬液補正式は、配置状況(障害物同士の接触領域や、障害物と壁との近接範囲)と、部屋の容積とに基づいて、除菌に用いる薬液量を算出する関数である。この薬液量としては、障害物がない場合の薬液量の1.0〜0.8の値が記憶されている。この薬液補正式は、障害物同士の接触や、障害物と壁との接触部分が小さい程、薬液量を少なくなるように補正されており、接触部分が全くない場合には0.8倍が特定される。
【0057】
そして、除菌を行なう場合、コントローラに障害物の有無を入力する。ここで、障害物がある場合には、更に、配置状況を入力する。この場合、コントローラの制御部は、配置状況に応じて、配置状況評価テーブル、薬液補正式を用いて、薬液量を算出する。ここでは、コントローラの制御部は、上述したように、障害物が配置されていない場合のFAC濃度の1.2倍の濃度であって、算出した薬液量を用いて、除菌処理を行なう。
【0058】
<実験結果>
図7には、除菌対象室10において障害物がない場合と、障害物がある場合との除菌効果の評価を示している。図7における条件(21)は、除菌対象室10に障害物がない場合の除菌効果を示している。この場合、上記第1の実施形態と同様に、天井、壁、床、空間における測定点で測定を行なった。また、「障害物あり」の場合には、背もたれのない長椅子、背もたれ付の長椅子、コンテナCt1,Ct2を収納した棚R1を配置した場合の除菌効果を示している。
【0059】
条件(22)は、障害物がない場合の条件(21)とほぼ同じ条件で散布した場合である。この場合、除菌率が35%以下と著しく低下し、一部の測定点においてわずかに水滴が付着した。そこで、除菌率の回復を目的として、薬液量を増加させた条件を設定した。具体的には、条件(21)の噴霧液量を約1.1倍の580mlにした条件(23)において、除菌率を約70%にすることができた。しかしながら、この場合、濡れが生じた測定点は増加した。
【0060】
一方、条件(21)のFACの濃度を1.2倍にした条件(24)の場合、除菌率は100%となった。この場合、噴霧液量(薬液の量)は条件(21)と同じであり、水分試験紙において、濡れはごく一部の測定点においてわずかに生じる程度であった。そこで、更に濡れを減らすことを目的として、噴霧液量を減らして試験を行なった。具体的には、条件(21)のFACの薬液の約0.8倍の411mlにした条件(25)では、高い除菌率を維持できるとともに、全測定点において濡れが生じなかった。
【0061】
図8は、障害物がある除菌対象室10における棚R1周辺の測定点における残存菌数を示している。この場合、図7の条件(23)を用いた。棚R1を壁W3に対して隙間を設けずに配置した場合(所謂「壁べた付き」の場合)、棚R1に収納したコンテナCt1,Ct2の前面中央における残存菌数が多く、除菌ができていなかった。一方、棚R1を壁W3から5cm離して配置した場合には、下から1段目の棚に収納したコンテナCt1の上部中央以外の測定点においては除菌が十分に行なわれており、障害物の裏面や陰になる領域まで除菌できていた。従って、薬剤の回り込みを促進するために、障害物や壁の間に一定量の隙間が有効であることが判明した。
【0062】
本実施形態によれば、上記(1)〜(4)に記載の効果と同様な効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(6)本実施形態では、障害物を配置した除菌対象室10に対して除菌を行なう場合には、障害物がない場合の1.2倍の濃度の薬液を用いる。これにより、除菌対象室10に障害物を配置した場合であっても、十分に除菌を行なうことができる。
【0063】
(7)本実施形態では、障害物の接近状況の取得処理及び選択された配置状況(障害物の近接状況)に基づいて噴霧する薬液量を算出する。これにより、除菌対象室10内の配置状況に応じて薬液量を減らすことができる。
【0064】
<第3の実施形態>
次に、図9を用いて、除菌処理方法及び除菌処理装置を具体化した第3の実施形態を説明する。第1の実施形態において、相対湿度の初期湿度範囲として、下限値(50%)、上限値(60%)を用いた。しかし、冬場(例えば設定温度を20℃〜22℃とする場合)は、初期湿度範囲は50%〜60%とすると、結露が生じることがある。そこで、本実施形態では、除菌対象室10の壁に結露が発生しない湿度となるように、初期湿度範囲の下限値(初期最低湿度)を設定する。このため、本実施形態では、第2実施形態の除菌対象室10に、温度、湿度の計測器(例えば、温湿度ロガー)を設置する。この温湿度ロガーは、除菌対象室10の壁表面の温度及び湿度を測定し、測定データを制御部に供給する。更に、本実施形態の制御部は、湿り空気線図のデータと、噴霧上昇湿度とを記憶している。ここで、噴霧上昇湿度とは、薬液を噴霧することにより、効率的に除菌を行なうために上昇させる湿度(例えば35%RH)である。
【0065】
具体的には、薬液噴霧前の相対湿度の調整処理(ステップS1−2)において、コントローラの制御部は、空調機の湿度センサ及び温度センサから、除菌対象室10の現在の湿度及び温度を取得する。
また、コントローラの制御部は、温湿度ロガーにおいて測定された壁表面の温度及び湿度を取得する。
【0066】
次に、コントローラの制御部は、湿り空気線図データを用いて、壁表面の温度と湿度に対応する絶対湿度を特定する。そして、コントローラの制御部は、この絶対湿度に対応する現在の気温の相対湿度を特定し、この相対湿度から噴霧上昇湿度を減算して、初期最高湿度を特定する。更に、コントローラの制御部は、この初期最高湿度から予め定めた誤差範囲分、低い湿度を初期最低湿度として特定する。
【0067】
次に、制御部は、取得した現在の湿度が、特定した初期最低湿度よりも低いか否かを判定する。現在の湿度が初期最低湿度(初期湿度範囲の下限値)より低いと判定した場合、制御部は、空調機を稼働させて、初期最低湿度以上となるように加湿を行なう。なお、本実施形態の制御部は、上記実施形態と同様に、現在の相対湿度が初期最高湿度よりも高い場合には、初期湿度範囲内になるように除湿を行ない、現在の相対湿度が、初期湿度範囲(初期最低湿度から初期最高湿度)内である場合には、この処理をスキップする。
【0068】
<実験結果>
図9には、障害物がある除菌対象室10において、初期相対温度を変更した場合の除菌効果の評価を示している。条件(26)(20℃/35%RH)の場合、条件(25)(25℃/53%RH)においては、同様の薬液条件での噴霧試験にもかかわらず、除菌率は74%まで低下した。
【0069】
条件(26)における除菌率の低下は、薬剤噴霧前の初期の相対湿度が53%RHから35%RHまで低下したことにより、同じ噴霧液量では薬剤噴霧後の相対湿度が十分に上がらなかったためと考えられる。
【0070】
条件(25)に相当する初期湿度となるように、初期温湿度が20℃/56%RHの環境を調整した条件(27)では、条件(26)と同一の薬液条件下であっても除菌率は100%となった。ただし、条件(27)においては、低い初期温度と高い初期湿度の影響によって除菌対象室10の内壁の表面(施設表面)が濡れやすい状態になっている。この結果、全測定点における水滴の付着が確認された測定点数は増加し、水滴の付着量も増加した。
【0071】
次に、初期湿度を条件(26)と条件(27)との中間である条件(28)に設定した試験を行なった。この条件(28)は、初期温湿度が20℃/45%RHである。この場合、水滴の付着が確認された測定点数は2カ所に減少し、またそれらの測定点における水滴の付着量の減少を実現できるとともに、除菌率は条件(27)と同等であり、高い値(96%)を維持することができた。
【0072】
本実施形態によれば、上記(1)〜(4)、(6)、(7)に記載の効果と同様な効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(8)本実施形態では、薬液噴霧前の相対湿度の調整処理(ステップS1−2)において、制御部は、湿り空気線図データを用いて、壁表面の温度及び湿度に対応する絶対湿度を特定し、この絶対湿度に対応する現在の気温の相対湿度から初期最低湿度を特定する。制御部は、現在の湿度が初期最低湿度よりも低い場合には、この相対湿度以上となるように加湿を行なう。これにより、除菌後の室内を濡れ難くしながら、効率的に除菌を行なうことができる。従って、施設表面の濡れるリスクが高まる冬季の低温下であっても、腐食に繋がる施設表面の濡れを防ぎつつ除菌を行なうことができる。
【0073】
また、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記第1の実施形態において、コントローラ20の制御部は、メモリに、相対湿度の初期湿度範囲として、下限値(50%)、上限値(60%)を記憶している。また、第3の実施形態において、結露が発生しない湿度となるように初期湿度範囲を設定した。初期湿度範囲の上限値及び下限値は、これらに限定されず、他の一定値であってもよいし、噴霧する薬液の噴霧量に基づいて算出される値であってもよい。例えば、冬場の温度設定の場合(例えば設定温度を20℃〜22℃とする場合)には、初期湿度範囲を45%RH〜50%RHとすることが好ましい。この範囲であれば、実験データより、冬場であっても結露が生じない範囲に設定することができる。更に、除菌対象室10の設定温度又は時期に対応して初期湿度範囲を変更してよい。具体的には、設定温度又は時期と、初期湿度範囲(初期最高湿度と初期最低湿度)とを関連付けて記憶しておく。除菌処理を開始する場合には、除菌対象室10の設定温度又は時期(現在年月日)を特定し、これに関連付けられた初期湿度範囲を特定する。これにより、結露が発生しない範囲で初期加湿を行なうことができる。
【0074】
・上記各実施形態において、コントローラ20の制御部は、薬液の噴霧を終了させる目的湿度範囲として72%〜88%を用いたが、目的湿度範囲は、これに限らず、70%〜90%の範囲であればよい。また、噴霧する薬剤として、pHが5.0〜6.5の範囲にあり、遊離有効塩素の濃度が90mg/l以上の次亜塩素酸を主成分とする水溶液を用いたが、除菌作用を有する薬剤であれば、例えば、金属イオン系や酸素系薬剤、オゾン水等であってもよい。
【0075】
また、上記第3の実施形態においては、除菌対象室10の壁表面の温度及び湿度から初期湿度範囲の下限値を設定した。初期湿度範囲の下限値を設定する温度や湿度は、除菌対象室10の壁表面において測定された温度や湿度に限らず、建物の外気温や建物の構造から算出される除菌対象室10内の温度や湿度を用いるようにしてもよい。
【0076】
・上記第1の実施形態において、除菌対象室10に、二流体ノズルN1をトルネード散布方式に配置して、二流体ノズルN1から噴霧した。また、上記第2の実施形態において、除菌対象室10の天井の中央に配置した噴霧装置Spの複数の二流体ノズルN2から四方に向けて噴霧した。二流体ノズルN1,N2の配置は、これに限定されず、図10に示すような他の散布方式であってもよい。
【0077】
図10(a)には、実験室50の4つのコーナー部に二流体ノズルNcを配置した角四つ散布方式の説明図である。この散布方式では、各二流体ノズルNcの噴霧方向が、実験室50の中心に向かうように取り付けられている。
【0078】
図10(b)には、向かい合う1対の壁W2に、互い違いに、二流体ノズルNpを配置した並行千鳥散布方式の説明図である。この散布方式は、各二流体ノズルNpの噴霧方向が、対面する壁に向かうように取り付けられている。
【0079】
図11は、散布方式を変更して、実験室50全体における、噴霧前後の相対湿度及びそのバラツキを示した表である。この表においては、比較例として、1台の超音波噴霧器を用いた場合と、トルネード散布方式と同じ配置で4台の超音波噴霧器を用いた場合とを示している。
【0080】
これによると、二流体ノズルを実験室50に4つ配置した場合、いずれの散布方式においても、測定点における噴霧後の相対湿度のバラツキは、超音波噴霧器を用いる場合よりも少ないことがわかる。
【0081】
また、図12は、散布方式を変更して、実験室50の箇所毎における、噴霧後に変化した相対湿度のバラツキを示した図である。具体的には、除菌が特に必要な4つの各壁(それぞれを壁W21,壁W22,壁W23,壁W24とする)と、内部空間S2(壁、床、天井以外)とにおける標準偏差(バラツキ)をそれぞれ示している。この標準偏差は、二流体ノズルを、トルネード散布方式、角四つ散布方式、並行千鳥散布方式のそれぞれで配置し、図11と同じ散布条件で実験した結果から算出した。また、図12においては、トルネード散布方式による結果は菱形(ラインTL)で示し、角四つ散布方式による結果は四角形(ラインCL)で示し、並行千鳥散布方式による結果は三角形(ラインPL)で示している。
【0082】
これによると、トルネード散布方式による噴霧の場合は、角四つ散布方式及び並行千鳥散布方式の場合よりも、噴霧後における相対湿度の各箇所におけるバラツキが小さいことがわかる。従って、旋回流を与えたトルネード散布方式が、他の散布方式よりも、少ない薬剤量で全体に噴霧できると考えられる。
【0083】
・上記実施形態のトルネード散布方式において、二流体ノズルN1は、除菌対象室10を構成する壁W1の延在方向(水平方向)に噴霧するように配置した。トルネード散布方式においては、噴霧された薬液が旋回流となれば、この配置に限定されず、例えば、同じ壁に複数の二流体ノズルN1を設けてもよい。この場合には、例えば、除菌対象の室内空間の形状と、二流体ノズルからの噴霧の到達距離に基づいて、二流体ノズルの配置数を決定する。
【0084】
また、角四つに配置した二流体ノズルN1の噴霧方向を、周回方向に同じ角度にずらせた方向を向けて配置してもよい。
更に、二流体ノズルN1の噴霧方向は水平方向に限定されず、例えば、垂直方向角度を変更してもよい。この場合には、例えば、除菌対象の室内空間の高さと、二流体ノズルの配置位置に基づいて、二流体ノズルの垂直方向角度を決定する。
【0085】
・上記第1の実施形態においては、湿度調整器(加湿器及び除湿器)として空調機ACを用いた。湿度調整器は空調機ACに限定されるものではない。例えば、別体の加湿器と除湿機とを用いてもよい。また、薬液を散布する二流体ノズルを用いて水を噴霧することで加湿してもよい。二流体ノズルを用いる場合には、空調機ACよりも容易に短時間でより均一に加湿することができる。また、空調機ACとともに、二流体ノズルを用いて加湿してもよい。また、除菌対象室10の湿度が初期最高湿度よりも高い場合には、除菌を行なわないようにし、除菌対象室10の湿度が初期最高湿度以下の場合にのみ、除菌を行なうようにしてもよい。
【0086】
・上記第2の実施形態においては、コントローラの制御部は、室内に物が配置されているか否か及び障害物の配置状況を、入力部を介して取得した。障害物の有無や配置状況を、制御部が自動で取得してもよい。具体的には、除菌対象室10には、噴霧装置Spに近傍に、室内を撮影するカメラが設けられている。更に、コントローラは、上記実施形態と同様に、制御部、入力部及び出力部を有している。制御部は、図13(a)に示すように、障害物がない内部空間の画像を記憶している。制御部は、カメラを制御して、室内を撮影する。図13(b)に示すように、室内に障害物OBが存在している場合、制御部は、記憶している室内画像(図13(a))と比較して、障害物OBを検知する。
【0087】
制御部は、後述する濃度・薬液量決定処理を実行する。この濃度・薬液量決定処理において、制御部は、障害物がない内部空間の画像と、噴霧前に撮影した画像を比較し、画像の相違点の位置及び範囲から、除菌対象室10内に障害物OBの有無や大きさを特定する。そして、障害物OBに応じた陰領域の面積を算出する算出ロジックを記憶している。更に、制御部は、陰領域の面積に応じて使用する薬液の量を調整する薬液補正式を記憶している。
【0088】
ここで、図14を用いて、制御部が実行する除菌制御処理の濃度・薬液量決定処理について説明する。この濃度・薬液量決定処理は、コントローラが除菌制御処理の開始指示を取得した場合に実行される。
【0089】
まず、コントローラの制御部は、カメラにおいて室内の撮影処理を実行する(ステップS2−1)。具体的には、制御部は、カメラを制御して、記憶している室内画像の撮影位置と同じ位置から除菌対象室10を撮影する。
【0090】
次に、コントローラの制御部は、元の室内画像との比較処理を実行する(ステップS2−2)。具体的には、制御部は、記憶している元の室内画像と比較して、画像に相違があるか否かを判定する。
【0091】
ここで、画像に相違がなく、障害物を検知しない場合(ステップS2−3において「NO」の場合)、コントローラの制御部は、第1の状況の濃度・薬液量に決定する処理を実行する(ステップS2−4)。具体的には、制御部は、入力部を介して、FACの濃度及び部屋の大きさを取得し、上記第1の実施形態と同様に、算出式を用いて、使用する薬液量を算出する。
【0092】
一方、比較した画像に所定量以上の相違があり、障害物を検知した場合(ステップS2−3において「YES」の場合)、コントローラの制御部は、陰領域の面積の予測処理を実行する(ステップS2−5)。具体的には、制御部は、比較した画像における相違点の位置及び範囲から障害物OBの大きさを特定し、記憶している算出ロジックを用いて、障害物OBの大きさから陰領域の面積を算出する。
【0093】
次に、コントローラの制御部は、陰面積に応じた薬液量の決定処理を実行する(ステップS2−6)。具体的には、制御部は、算出した陰領域の面積に応じた薬液の量を、薬液補正式を用いて特定する。この場合、コントローラの制御部は、使用する薬液(109mg/l〜120mg/l)の濃度を指示する画面を表示する処理を実行してもよい。
【0094】
そして、薬液量を決定した場合(ステップS2−4又はS2−6)、コントローラの制御部は、上記各実施形態のS1−3,S1−4と同様に、薬液噴霧前の相対湿度の調整処理(ステップS2−7)及び薬液の噴霧処理(ステップS2−8)を実行する。従って、コントローラの制御部が、障害物の有無や配置状況を判定して、配置状況に応じた薬液量を決定し、効率的に除菌することができる。
【0095】
・上記第2の実施形態においては、障害物がある除菌対象室10を除菌する場合、障害物がない場合のFAC濃度の1.2倍の濃度の薬液を用いた。障害物がある除菌対象室10を除菌する場合に用いる薬液の濃度は、これに限定されず、障害物がない場合よりも高い濃度の薬液を用いればよく、1.2倍以上の濃度薬液を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0096】
AC…空調機、D1…ドア、F1,F2…床、N1,N2,Nc,Nt,Np…二流体ノズル、OB…障害物、W1,W2,W3,W21,W22,W23,W24…壁、Wn…窓、10…除菌対象室、20…コントローラ、50…実験室。
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