特許第6661914号(P6661914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6661914ポリアミド樹脂組成物、成形品および成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661914
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物、成形品および成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20200227BHJP
   C08K 5/1575 20060101ALI20200227BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20200227BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20200227BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   C08L77/06
   C08K5/1575
   C08K5/20
   C08K5/098
   C08J5/00CFG
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-148802(P2015-148802)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-25267(P2017-25267A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小林 政之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 要
(72)【発明者】
【氏名】小田 尚史
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−125617(JP,A)
【文献】 特表2015−507654(JP,A)
【文献】 特開2014−113801(JP,A)
【文献】 特開2010−280754(JP,A)
【文献】 特開2011−037498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C08J 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来するポリアミド樹脂100重量部に対し、
下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表される化合物から選択される核剤を0.01〜2.0重量部、ならびに、
ステアリン酸カルシウムを0.08〜2.0重量部を含む、ポリアミド樹脂組成物;
一般式(1)
【化1】
一般式(1)中、nは0〜2の整数であり、1、R2、R4およびR5は、水素原子であり、R3およびR6は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20のアルキル基である
一般式(2)
【化2】
一般式(2)中、7はそれぞれ独立に、環状構造を含む炭素原子数4以上の炭化水素基であり、R8は水素原子である
【請求項2】
前記核剤と前記ステアリン酸カルシウムの重量比率(ステアリン酸カルシウム/核剤)が3.0以上である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、アジピン酸およびセバシン酸の少なくとも一方に由来する、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を厚さ60μmのフィルムに成形し、90℃の水に30分浸漬した後の、フィルム表面の算術平均粗さRaが70nm以下、二乗平均平方根粗さRqが100nm以下となるポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項7】
前記成形品の90℃の水に30分浸漬した後の、成形品表面の算術平均粗さRaが70nm以下、二乗平均平方根粗さRqが100nm以下である、請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、成形品および成形品の製造方法に関する。特に、成形品としたときにヘイズが低いポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂に核剤を配合することが行われている。
例えば、特許文献1には、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とアジピン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分とを溶融重合して得たポリアミドを更に固相重合することにより得られた固相重合ポリアミド100重量部に対し、炭素数8から30の脂肪酸と炭素数2から10のジアミンもしくはジオールから得られるジアミド化合物またはジエステル化合物から選ばれる1種以上を0.005〜1.0重量部添加してなるポリアミド樹脂組成物が開示されている。さらに、特許文献1には、かかる樹脂組成物を用いることにより、高湿度雰囲気下で保存した際、水や沸騰水と接触した際、あるいはガラス転移温度以上に加熱した際に白化が増大しにくくなることが記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、ポリプロピレンを主成分とする層(X)、接着性熱可塑性樹脂からなる接着層(Y)、及びポリアミド樹脂組成物(P)からなるガスバリア層(Z)が内層から外層へこの順に積層された3層以上の層構成を有する多層容器であって、 前記ポリアミド樹脂組成物(P)が、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位とα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸単位80〜97モル%及び芳香族ジカルボン酸単位20〜3モル%を含むジカルボン酸単位とからなるポリアミド樹脂(A)80乃至99.9質量%と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)20乃至0.1質量%とを含むことを特徴とする多層容器が開示されている。かかる特許文献2の実施例5では、ポリアミド樹脂に、ステアリン酸カルシウムを配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−248176号公報
【特許文献2】特開2011−37199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者が検討したところ、特許文献1および2に記載のポリアミド樹脂組成物の成形品は、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズが高くなってしまうことが分かった。
本発明はかかる課題を解決することを目的としたものであって、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズが低い成形品が得られるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。また、かかるポリアミド樹脂組成物を用いた成形品および成形品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本願発明者が検討を行った結果、所定の核剤に加え、所定の脂肪族金属塩を配合することにより、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後の白化を抑制し、ヘイズを小さくできることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>〜<9>により、上記課題は解決された。
<1>ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来するポリアミド樹脂100重量部に対し、
下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(2)で表される化合物から選択される核剤を0.01〜2.0重量部、ならびに、
ステアリン酸またはモンタン酸の、ナトリウム塩、カルシウム塩、またはマグネシウム塩から選択される脂肪族金属塩を0.08〜2.0重量部を含む、ポリアミド樹脂組成物;
一般式(1)
【化1】
一般式(1)中、nは0〜2の整数であり、R1〜R5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数が1〜20のアルキル基、炭素原子数が2〜20のアルケニル基、炭素原子数が2〜20のアルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン原子または炭素原子数が6〜20のアリール基であり、R6は、炭素原子数が1〜20のアルキル基である;
一般式(2)
【化2】
一般式(2)中、R7は、それぞれ独立に、炭素原子数4以上の炭化水素基であり、R8は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数が1〜20のアルキル基、炭素原子数が2〜20のアルケニル基、炭素原子数が2〜20のアルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン原子または炭素原子数が6〜20のアリール基である。
<2>前記核剤と前記脂肪族金属塩の重量比率(脂肪族金属塩/核剤)が3.0以上である、<1>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<3>前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<4>前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、アジピン酸およびセバシン酸の少なくとも一方に由来する、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<5>前記核剤が、一般式(1)で表される化合物であって、R1、R2、R4およびR5は、水素原子であり、R3およびR6は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20のアルキル基である化合物、ならびに、一般式(2)で表される化合物であって、R7はそれぞれ独立に、環状構造を含む炭素原子数4以上の炭化水素基であり、R8は水素原子である化合物から選択される、<1>〜<4>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<6>前記脂肪族金属塩が、ステアリン酸カルシウムを含む、<1>〜<5>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<7><1>〜<6>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を厚さ60μmのフィルムに成形し、90℃の水に30分浸漬した後の、フィルム表面の算術平均粗さRaが70nm以下、二乗平均平方根粗さRqが100nm以下となるポリアミド樹脂組成物。
<8><1>〜<7>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
<9>前記成形品の90℃の水に30分浸漬した後の、成形品表面の算術平均粗さRaが70nm以下、二乗平均平方根粗さRqが100nm以下である、<8>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズが低い成形品が得られるポリアミド樹脂組成物を提供可能になった。また、かかるポリアミド樹脂組成物を用いた成形品および成形品の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来するポリアミド樹脂(以下、「特定ポリアミド樹脂」ということがある)100重量部に対し、一般式(1)で表される化合物および一般式(2)で表される化合物から選択される核剤(以下、「特定核剤」ということがある)を0.01重量部〜2.0重量部、ならびに、ステアリン酸またはモンタン酸の、ナトリウム塩、カルシウム塩、またはマグネシウム塩から選択される脂肪族金属塩(以下、「特定脂肪族金属塩」ということがある)を0.08〜2.0重量部を含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、成形品のボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズを低く維持することができる。このメカニズムは、特定核剤と特定脂肪族金属塩の配合により、結晶核のサイズを小さくできたことに起因すると推測される。従来から、特定核剤を配合すること、または、特定脂肪族金属塩を配合することは知られていた。しかしながら、特定核剤と特定脂肪族金属塩を併用すること、またかかる併用によって、ヘイズを低くできることは知られていなかった。特に、成形品のボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズを顕著に低くできる点で本発明は極めて意義があるものである。
さらに、本発明の成形品は、特定核剤と特定脂肪族金属塩を併用することによって、表面粗さ(RaやRq)を小さくでき、また、ボイド層を形成されにくくすることができる。加えて、成形品のボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後の機械的強度を高く維持できる傾向にあり、酸素透過係数を低く維持できる傾向にある。
【0010】
<特定ポリアミド樹脂>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来するポリアミド樹脂を含む。
【0011】
特定ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上が、さらに好ましくは90モル%以上が、メタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来する。上限値については、特に定めるものではないが、100モル%であってもよい。
キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンであっても、メタキシリレンジアミンであっても、両者の混合物であってもよい。本発明における特定ポリアミド樹脂に用いるキシリレンジアミンの一実施形態として、パラキシリレンジアミン0〜70モル%と、メタキシリレンジアミン100〜30モル%からなるキシリレンジアミンが例示され、パラキシリレンジアミン0〜30モル%と、メタキシリレンジアミン100〜70モル%からなるキシリレンジアミンが好ましい実施形態として例示される。
【0012】
特定ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることが出来るメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の50モル%未満であり、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1〜25モル%、特に好ましくは5〜20モル%の割合で用いる。
【0013】
また、ジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上が、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来することが好ましい。上限値については、特に定めるものではないが、100モル%であってもよい。
特定ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるジカルボン酸は、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、炭素原子数4〜10のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸であることがより好ましい。
特定ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、アジピン酸およびセバシン酸が好ましく、アジピン酸が好ましい。炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸は、1種又は2種以上を混合して使用できる。
本発明におけるジカルボン酸成分の実施形態の一例として、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上、好ましくは90モル%以上がアジピン酸またはセバシン酸(好ましくは、アジピン酸)である態様が挙げられる。
【0014】
上記炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0015】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性、バリア性の点から、テレフタル酸およびイソフタル酸の少なくとも一方を用いることが好ましく、イソフタル酸を用いることがより好ましい。テレフタル酸およびイソフタル酸の割合は、好ましくはジカルボン酸構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1〜30モル%、特に好ましくは5〜20モル%の範囲である。
【0016】
本発明における特定ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成されるが、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位以外の構成単位を排除するものではなく、特定ポリアミド樹脂を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。これらの成分は、通常、特定ポリアミド樹脂の3質量%以下である。
【0017】
本発明で用いる特定ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは8,000〜28,000であり、さらに好ましくは9,000〜26,000であり、よりさらに好ましくは10,000〜24,000であり、特に好ましくは11,000〜22,000である。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0018】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度[NH2](μ当量/g)と末端カルボキシル基濃度[COOH](μ当量/g)から、次式で算出される。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH2])
【0019】
本発明で用いる特定ポリアミド樹脂は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))が、好ましくは1.8〜3.1である。分子量分布は、より好ましくは1.9〜3.0、さらに好ましくは2.0〜2.9である。分子量分布をこのような範囲とすることにより、機械特性に優れた複合材料が得られやすい傾向にある。
特定ポリアミド樹脂の分子量分布は、例えば、重合時に使用する開始剤や触媒の種類、量及び反応温度、圧力、時間等の重合反応条件などを適宜選択することにより調整できる。また、異なる重合条件によって得られた平均分子量の異なる複数種の特定ポリアミド樹脂を混合したり、重合後の特定ポリアミド樹脂を分別沈殿させることにより調整することもできる。
【0020】
分子量分布は、GPC測定により求めることができ、具体的には、装置として東ソー製「HLC−8320GPC」、カラムとして、東ソー製「TSK gel Super HM−H」2本を使用し、溶離液トリフルオロ酢酸ナトリウム濃度10mmol/lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、樹脂濃度0.02重量%、カラム温度40℃、流速0.3ml/分、屈折率検出器(RI)の条件で測定し、標準ポリメチルメタクリレート換算の値として求めることができる。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定し作成する。
【0021】
本発明においては、特定ポリアミド樹脂の融点は、150〜350℃であることが好ましく、180〜300℃であることがより好ましく、180〜250℃であることがさらに好ましい。
なお、本発明における融点とは、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度である。測定には、例えば、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC−60」を用い、試料量は約5mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30ml/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温(25℃)から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させ次いで、溶融した試料を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温した際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度を融点とすることができる。
【0022】
特定ポリアミド樹脂の製造方法は、特開2014−173196号公報の段落0052〜0053の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定ポリアミド樹脂を組成物の60重量%以上の割合で含むことが好ましく、80重量%以上の割合で含む構成とすることもできる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0024】
<他のポリアミド樹脂>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定ポリアミド樹脂以外の他のポリアミド樹脂を含んでいても良い。
他のポリアミド樹脂の例としては、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66、6T/6I、6/6T、66/6T、66/6T/6I、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記「I」はイソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分を示す。
本発明のポリアミド樹脂組成物における他のポリアミド樹脂の割合は、配合する場合、特定ポリアミド樹脂の0.5〜50重量%の範囲内で配合することが好ましく、3〜30重量%の範囲内で配合することがより好ましい。
本発明のポリアミド樹脂のブレンド形態として、特定ポリアミド樹脂とポリアミド6をブレンドする形態が例示される。本実施形態では、ポリアミド6は、特定ポリアミド樹脂の5〜20重量%であることが好ましい。
また、他のポリアミド樹脂を実質的に配合しない構成とすることもできる。実質的に配合しないとは、例えば、他のポリアミド樹脂の割合が、特定ポリアミド樹脂の5重量%未満であることをいう。
【0025】
<核剤>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、一般式(1)で表される化合物および一般式(2)で表される化合物から選択される核剤を含む。
一般式(1)
【化3】
一般式(1)中、nは0〜2の整数であり、R1〜R5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数が1〜20のアルキル基、炭素原子数が2〜20のアルケニル基、炭素原子数が2〜20のアルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン原子または炭素原子数が6〜20のアリール基であり、R6は、炭素原子数が1〜20のアルキル基である。
【0026】
上記一般式(1)において、nは、1が好ましい。
1〜R5としての、炭素原子数が1〜20のアルキル基は、炭素原子数1〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数2〜6のアルキル基であることがより好ましい。アルキル基は、直鎖アルキル基であることが好ましい。
1〜R5としての、炭素原子数が2〜20のアルケニル基は、炭素原子数2〜10のアルケニル基であることが好ましく、炭素原子数2〜6のアルケニル基であることがより好ましい。アルケニル基は、直鎖アルケニル基であることが好ましい。
1〜R5としての、炭素原子数が2〜20のアルコキシ基は、炭素原子数2〜10のアルコキシ基であることが好ましく、炭素原子数2〜6のアルコキシ基であることがより好ましい。アルコキシ基のアルキル鎖は、直鎖アルキル鎖であることが好ましい。
1〜R5としての、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
1〜R5としての、炭素原子数が6〜20のアリール基は、フェニル基が好ましい。
1〜R5は、これらの基に含まれる水素原子の1つまたは2つ以上は、置換基で置換されていてもよい。置換されている場合、置換基はOH基であることが好ましい。また、R1〜R5は、置換されている場合、1つの基あたり、1〜3個の置換基を有することが好ましい。しかしながら、R1〜R5は、これらの基に含まれる水素原子は、置換基で置換されていない方が好ましい。
【0027】
1、R2、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、それぞれ独立に水素原子がより好ましい。
3は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20のアルキル基、炭素原子数が2〜20のアルケニル基または炭素原子数が2〜20のアルコキシ基であることが好ましく、炭素原子数が1〜20のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数1〜10のアルキル基であることがさらに好ましく、炭素原子数2〜6のアルキル基であることが特に好ましい。アルキル基は、直鎖アルキル基であることが好ましい。
3は、R3に含まれる水素原子の1つまたは2つ以上は、置換基で置換されていてもよい。置換されている場合、置換基はOH基であることが好ましい。また、R3は、置換されている場合、1つのR3あたり、1〜3個の置換基を有することが好ましい。しかしながら、R3は、置換基で置換されていない方が好ましい。
3の具体例としては、−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH2CH2CH2CH3、−CH2CH=CH2、−CH(CH3)CH=CH2、−CH2CH−X1−CH2−X2、−CH2CH−X3−CH2CH3、−CH2CH−X4−CH2OHもしくは−CH2OH−CH(OH)−CH2OH(但し、X1〜X4は、それぞれ独立したハロゲン基である。)が例示される。
【0028】
6は、上記R3と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0029】
上記一般式(1)で表される化合物の製造方法としては、国際公開WO2005/111134号パンフレット等に記載の方法を挙げることができる。市販品としても、容易に入手することができ、例えば、ミラッドNX8000(ミリケン・アンド・カンパニー製)を挙げることができる。
【0030】
一般式(2)
【化4】
一般式(2)中、R7は、それぞれ独立に、炭素原子数4以上の炭化水素基であり、R8は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数が1〜20のアルキル基、炭素原子数が2〜20のアルケニル基、炭素原子数が2〜20のアルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン原子または炭素原子数が6〜20のアリール基である。
上記一般式(2)において、R7は、それぞれ独立に、炭素原子数4以上の炭化水素基であり、炭素原子数4以上の環状構造を有する炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数4〜10の環状構造を有する炭化水素基であることがより好ましく、炭素原子数5〜8の環状構造を有する炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素原子数6の環状構造を有する炭化水素基であることが特に好ましい。環状構造としては、脂環であっても、芳香環であってもよいが、脂環が好ましい。また、環状構造には置換基を有していてもよいが、置換基を有していない方が好ましい。置換基を有する場合、置換基は、アルキル基であることが好ましい。
8は、上記一般式(1)におけるR1と同義であり、好ましい範囲も同様である。従って、R8は、それぞれ独立に、水素原子が好ましい。
一般式(2)で表される化合物は、市販品として、容易に入手することができ、例えば、エヌジェスターNU−100(新日本理化製)を挙げることができる。
【0031】
特定核剤の配合量は、特定ポリアミド樹脂100重量部に対し、0.01重量部〜2.0重量部である。配合量の下限値は、0.03重量部以上であることが好ましく、0.05重量部以上であることがより好ましい。配合量の上限値は、1.0重量部以下であることが好ましく、0.7重量部以下であることがより好ましく、0.5重量部以下であることがさらに好ましく、0.3重量部以下であることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズをより効果的に低くできる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定核剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合の配合量は、合計量をもって、上記配合量とする。
【0032】
<特定脂肪族金属塩>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ステアリン酸またはモンタン酸の、ナトリウム塩、カルシウム塩、またはマグネシウム塩から選択される脂肪族金属塩を含む。
特定脂肪族金属塩は、ステアリン酸の、ナトリウム塩、カルシウム塩、またはマグネシウム塩が好ましく、ステアリン酸カルシウムがさらに好ましい。
【0033】
特定脂肪族金属塩の配合量は、特定ポリアミド樹脂100重量部に対し、0.08〜2.0重量部である。配合量の下限値は、0.1重量部以上であることが好ましく、0.2重量部以上であることがより好ましく、0.3重量部以上であることがより好ましく、0.4重量部以上であることが特に好ましい。配合量の上限値は、1.5重量部以下であることが好ましく、1.0重量部以下であることがより好ましく、0.8重量部以下であることがさらに好ましく、0.6重量部以下であることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズをより効果的に低くできる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定脂肪族金属塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合の配合量は、合計量をもって、上記配合量とする。
【0034】
本発明のポリアミド樹脂組成物における、特定核剤と特定脂肪族金属塩の重量比率(脂肪族金属塩/核剤)は3.0以上であることが好ましく、4.0以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。このような比率とすることにより、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後のヘイズをより効果的に低くできる。また、ボイル処理、水処理またはレトルト処理を行った後の成形品の表面荒れを効果的に抑制することができる。特定核剤と特定脂肪族金属塩の重量比率(脂肪族金属塩/核剤)の上限値は特に定めるものではないが、例えば、20.0以下とすることができ、さらには、15以下とすることもでき、特には、12以下とすることができる。
特に本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物を厚さ60μmのフィルムに成形し、90℃の水に30分浸漬した後の、フィルム表面の算術平均粗さRaが70nm以下、二乗平均平方根粗さRqが100nm以下となる組成物とすることができる。Rqの下限値については、0nmが望ましいが、例えば、Rqが35nmであっても十分実用レベルである。
【0035】
<その他の成分>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記の他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の成分を配合することができる。他の成分としては、ポリアミド樹脂以外の樹脂、上記特定核剤および特定脂肪族金属塩以外の添加剤が例示される。
【0036】
ポリアミド樹脂以外の他の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂以外の樹脂成分を実質的に配合しない構成としてもよく、例えば、他の樹脂成分を、ポリアミド樹脂組成物に含まれる樹脂成分全量の5重量%以下、さらには、1重量%以下、特には、0.4重量%以下とすることもできる。
他の添加剤としては、離型剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、耐衝撃改良剤等の添加剤、層状珪酸塩等のクレイやフィラー等を加えることもできるが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合しても良い。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130〜0155、特開2009−120821号公報の段落0029〜0040の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
これらの成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。上記ポリアミド樹脂および添加剤は、混練機に一括して供給してもよいし、ポリアミド樹脂成分に他の配合成分を順次供給してもよい。また、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合、混練しておいてもよい。
【0038】
<成形品>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、各種成形品に成形加工することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物を用いた成形品の製造方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形方法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形方法を適用することができる。
成形品としては、単層フィルムまたはシート、多層フィルムまたはシート、繊維、糸、ロープ、チューブ、ホース、各種成形材料、容器、各種部品、完成品、筐体等が例示される。さらに成形品(特に、フィルム)は、延伸してもよい。
本発明の成形品は、ボイル処理した後において、その一部または全部(好ましくは、成形品のうち、肉厚が50〜100μmの厚さの領域、特には、60μmの厚さとしたとき)の、成形品表面の算術平均粗さRaを70nm以下とすることができ、さらには50nm以下、特には30nm以下とすることができる。Raの下限値については、0nmが望ましいが、例えば、Raが25nmであっても十分実用レベルである。
本発明の成形品は、ボイル処理した後において、その一部または全部(好ましくは、成形品のうち、肉厚が50〜100μmの厚さの領域、特には、60μmの厚さとしたとき)の、二乗平均平方根粗さRqを100nm以下とすることができ、さらには、70nm以下、特には、50nm以下とすることができる。Rqの下限値については、0nmが望ましいが、例えば、Rqが35nmであっても十分実用レベルである。
本発明の成形品は、ボイル処理した後において、その一部または全部(好ましくは、成形品のうち、肉厚が50〜100μmの厚さの領域、特には、60μmの厚さとしたとき)の酸素透過係数を、0.08cc・mm/m2・day・atm以下とすることができる。酸素透過係数の下限値については、0cc・mm/m2・day・atmが好ましいが、0.07cc・mm/m2・day・atmであっても十分実用レベルである。
また、本発明の成形品(特に、後述する厚さの単層フィルムまたはシート、例えば、60μmの厚さとしたとき)は、ボイル処理後のヘイズを、20%以下とすることができ、さらには、5%以下とすることができる。また、水処理後のヘイズを、5%以下とすることができ、さらには、2.5%以下とすることができ、特には、2%以下とすることもできる。さらに、レトルト処理後のヘイズを、40%以下とすることができ、さらには、30%以下とすることができ、特には、28%以下とすることもできる。ここでいう、ボイル処理後、水処理後およびレトルト処理は、後述する実施例に記載の方法で処理したものをいう。また、ヘイズ、Ra、Rqおよび酸素透過係数についても、後述する実施例で記載する方法に従って測定した値をいう。尚、実施例で採用する機器等が廃版等の理由により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を採用することができる。他の測定方法についても同様である。
【0039】
<<単層フィルムまたはシート>>
単層フィルムまたはシートとしては、厚さを、5〜1000μmとすることができ、さらには、15〜500μmとすることもでき、さらには、50〜100μmとすることもできる。
単層フィルムやシートは、ラップ、あるいは各種形状のパウチ、容器の蓋材、ボトル、カップ、トレイ、チューブ等の包装容器に好ましく利用できる。
【0040】
<<多層フィルムまたはシート>>
多層フィルムまたはシートとしては、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いてなる単層フィルムまたはシートと、他の樹脂フィルムまたはシートとの積層体が例示される。他の樹脂フィルムまたはシートを構成する樹脂としては、特定ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂が例示され、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。これらの多層積層フィルムまたはシートは、本発明のポリアミド樹脂組成物と、他の樹脂を主成分とする樹脂組成物を共押出して製造する方法、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いてなる単層フィルムまたはシートと、他の樹脂フィルムまたはシートとを接着剤等で貼り合わせる方法等が例示される。
多層フィルムやシートは、ラップ、あるいは各種形状のパウチ、容器の蓋材、ボトル、カップ、トレイ、チューブ等の包装容器に好ましく利用できる。
【0041】
<<容器>>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、単層または多層の容器に好ましく用いられる。容器の形状は特に限定されず、例えば、ボトル、カップ、チューブ、トレイ、タッパウェア等の成形容器であってもよく、また、パウチ、スタンディングパウチ、ジッパー式保存袋等の袋状容器であってもよい。また、多層容器がフランジ部分を有する場合には、そのフランジ部分にイージーピール機能を付与するための特殊加工を施してもよい。
多層容器としては、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いてなる層と、他の樹脂層等からなる容器が例示される。このような多層容器は、押出成形、押出・吹込み成形等の任意の方法により製造することができる。例えば、3台の押出機、フィードブロック、Tダイ、冷却ロール、巻き取り機等を備えた多層シート製造装置を用い、1台目の押出機からポリプロピレン樹脂(PP樹脂)を主成分とする組成物を、2台目の押出機から接着性樹脂を、3台目の押出機から本発明のポリアミド樹脂組成物をそれぞれ押し出し、フィードブロックを介してPP樹脂層/接着層/ポリアミド樹脂組成物層/接着層/PP樹脂層の3種5層構造の多層シートを製造し、これを加熱軟化した後、真空、圧空、又は真空と圧空を併用した熱成形法によってシートを金型に密着させて容器形状に成形し、これをトリミングして容器を得る方法が挙げられる。ここで、熱成形時のシート表面温度としては、賦形性の観点から、130〜200℃の範囲が好ましく、150〜180℃の範囲がより好ましい。なお、多層シート製造装置や容器の成形方法についてはこれらに限定されるものではなく、任意の方法を適用することができる。
また、射出成形法により射出成形カップ、ブロー成形法によりブローボトルとすることができ、また射出成形によりプリフォームを製造した後、さらにブロー成形によりボトルとすることができる。
さらに、多層射出成形法等によりPET等との多層構造のプリフォームやボトルに加工することもできる。
【0042】
容器(好ましくは多層容器)は顧客の購入意欲を高めるために内容物を可視化したい様々な物品を収納、保存することができる。例えば、水産加工品、畜産加工品、飯類、液体食品が挙げられる。特に加熱殺菌処理温度が100℃以上と高く、酸素の影響を受けやすい食品の保存に適している。これらの詳細は、特開2011−37199号公報の段落0032〜0035の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0044】
<原料>
ポリアミド樹脂(S6007):MXD6、三菱ガス化学製、MXナイロン S6007、融点237℃
核剤(NU−100):ジアミド系核剤、新日本理化製、エヌジェスター NU−100
構造式
【化5】
核剤(NX8000):ソルビトール系核剤、ミリケン・アンド・カンパニー製、ミラッドNX8000
構造式
【化6】
脂肪族金属塩(StCa):ステアリン酸カルシウム、関東化学製、07105−01
【0045】
実施例1
<ポリアミド樹脂フィルムの製造>
後述する表に示すように、ポリアミド樹脂、核剤、脂肪族金属塩を同表に示す量(重量部)となるように秤量し、タンブラーにてブレンドし、二軸押出機(プラスチック工学研究所製、PTM−30)の根元から投入し、溶融して押し出し、厚さ60μmのフィルム(成形品)を作製した。押出機の温度設定は、ポリアミド樹脂の融点+30℃に設定した。
【0046】
<ヘイズ(Haze)の測定>
成形品(上記で得られたポリアミド樹脂組成物からなるフィルム)を、曇価測定装置を使用して透過法によりヘイズを測定した。本実施例では、曇価測定装置として、日本電色工業(株)製、型式:COH−300Aを用いた。単位は%で示した。
処理後のHazeについては、表に記載の処理方法で処理した後、上記と同様にして、ヘイズを測定した。
処理方法は、以下の通りである。
ボイル処理:フィルムを90℃の水に30分浸漬した。
水処理:フィルムを23℃の水に24時間浸漬した。
レトルト処理:フィルムを121℃の高圧水蒸気で30分間処理した。
【0047】
<成形品表面の算術平均粗さ(Ra)の測定>
成形品(上記で得られたポリアミド樹脂組成物からなるフィルム)をボイル処理したものについて、その表面の算術平均粗さ(Ra)を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した。
具体的には、キーエンス製の共焦点レーザー顕微鏡(VK−X100)を用い、成形品の表面観察と計測を実施し、試料の表面粗さを数値化した。表面粗さの数値化は、JIS B 0601に準拠して、算術平均粗さRaを算出した。単位は、nmで示した。
【0048】
<二乗平均平方根粗さ(Rq)の測定>
成形品(上記で得られたポリアミド樹脂組成物からなるフィルム)について、JIS B 0601に記載の方法に従って、Rqを測定した。単位は、nmで示した。
【0049】
<ボイル処理後の成形品におけるボイド層厚みの割合の測定>
ボイル処理後の成形品におけるボイド層の厚みの割合の測定は、上記で得られたポリアミド樹脂フィルムをボイル処理したものを用いて行った。
具体的には、上記で得られたポリアミド樹脂組成物フィルムをボイル処理したものについて、日立製IM−4000を用いてイオンミリングによる断面出し加工を行い、得られた成形品を走査型電子顕微鏡(日立製、S4800、SU8020)で観察した。観察されたボイド層の厚みを成形品の前記観察した断面の厚みで除することによりボイド層厚み割合を算出した。
ボイド層とは、成形品をボイル処理した際に成形品中に形成されてしまう空隙が存在する層をいい、観察した断面の厚み方向でボイドが存在する部分の端から端までの距離をボイド層の厚みという。
具体的には以下の式によりボイド層厚みを算出した。
ボイド層厚み割合(%)=ボイド層厚み/成形品厚み×100
【0050】
<引張弾性率・破断強度・破断伸び率の測定>
上記で得られたポリアミド樹脂組成物フィルム、および、前記ポリアミド樹脂組成物フィルムをボイル処理したものについて、それぞれ、ASTM−D882に準拠して引張弾性率(単位:MPa)、破断強度(MPa)、破断伸び率(%)の測定を行った。
測定は、23℃、50%相対湿度(RH)の環境下において、上記で得られたフィルムから幅10mm、長さ120mmの短冊状の試験片を作製し、ストログラフV1−C〔東洋精機製作所製〕を用いて、チャック間距離50mm、引張速度50mm/分の条件にて、行った。
【0051】
<酸素透過係数の測定>
上記で得られたポリアミド樹脂組成物フィルム、および、前記ポリアミド樹脂組成物フィルムをボイル処理したものについて、それぞれ、酸素透過係数を、酸素透過率測定装置(MOCON社製、型式:OX−TRAN2/21)を使用し、ASTM−D3985に準じて、23℃、相対湿度60%の雰囲気下にて測定した。安定した時点の値を酸素透過係数とした。
【0052】
実施例2〜4、比較例1〜5
実施例1において、表1の通り原料を変更し、他は同様に行った。
【0053】
結果を下記表に示す。
【表1】
【0054】
上記結果から明らかなとおり、特定核剤と、特定脂肪族金属塩を併用した場合、ボイル処理、水処理、レトルト処理後のヘイズが小さく、ポリアミド樹脂組成物を用いてなる成形品の白化を効果的に抑制できていることが分かった(実施例1〜4)。また、ボイル処理後のフィルムの引張弾性率、破断強度、破断伸び率の変化率が小さかった。特に、特定核剤と特定脂肪族金属塩の重量比率(脂肪族金属塩/所定の核剤)が3.0以上の場合では、ボイル処理、水処理、レトルト処理後のヘイズが顕著に小さく、ポリアミド樹脂組成物を用いてなる成形品のヘイズ上昇を顕著に抑制できていることが分かった(実施例1、3および4)。
これに対し、特定核剤および特定脂肪族金属塩の一方を含まない場合や含んでいても配合量が少ない場合、ボイル処理、水処理、レトルト処理の前のヘイズは、実施例と大差はないが、これらの処理の後のヘイズが顕著に高くなってしまった(比較例1〜5)。