(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電磁波抑制物質の含有量は、樹脂組成物(A)のベースポリマーと電磁波抑制物質の合計100重量部に対して、5〜60重量部であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のフレキシブルプリント回路基板用またはフレキシブルフラットケーブル用電磁波抑制シート。
電磁波抑制シート[I]の片面または両面に粘着剤層[II]が積層され、その積層された電磁波抑制シート[I]と粘着剤層[II]の積層体の片面または両面に支持フィルム[III]が積層されてなることを特徴とする請求項6記載のフレキシブルプリント回路基板用またはフレキシブルフラットケーブル用電磁波抑制粘着シート。
電磁波抑制シート[I]の片面または両面に粘着剤層[II]が積層され、上記粘着剤層[II]の露出面に、剥離ライナー[IV]が積層されてなることを特徴とする請求項6または7記載のフレキシブルプリント回路基板用またはフレキシブルフラットケーブル用電磁波抑制粘着シート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0018】
<電磁波抑制シート[I]>
まず、本発明の電磁波抑制シート[I]は、電磁波抑制物質を含有する樹脂組成物(A)によって形成されている。そして、上記樹脂組成物(A)は、100%モジュラスが1〜7MPaのポリウレタン系樹脂(a1)を含有するものである。
【0019】
上記ポリウレタン系樹脂(a1)は、ベースポリマーとしての役割を果たすもので、100%モジュラスが1〜7MPaのものを用いることが重要である。すなわち、100%モジュラスが低過ぎると得られる電磁波抑制シート[I]の機械的強度が低下し、逆に、100%モジュラスが高すぎると柔軟性が劣ったり、電磁波抑制物質の分散性が悪くなったりするからである。なお、上記100%モジュラスの測定方法は、JIS−K7311の方法に従うものとする。
【0020】
そして、上記ポリウレタン系樹脂(a1)のなかでも、得られる電磁波抑制シート[I]の機械的強度、柔軟性、電磁波抑制物質の分散性の点で、特に、100%モジュラスが1.5〜6MPaのものが好ましく、さらに好ましくは2〜5MPaのものである。
【0021】
100%モジュラスが1〜7MPaであるポリウレタン系樹脂(a1)は、例えば、ポリエステル、ポリエーテルあるいはポリエステルアミドを基体とする数平均分子量(Mn)が500〜50000程度であるポリオールと、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等のポリイソシアネートとからなり、水酸基とイソシアネート基の当量比の調整や、ポリオールの数平均分子量の選択、数種類のポリオールの組合せ、等によって製造することができる。
【0022】
そして、これらの具体例としては、例えば、市販品であるレザミンME−3412LP(大日精化工業社製、100%モジュラス:4MPa)、レザミンP−1288(大日精化工業社製、100%モジュラス:5MPa)、レザミンP−4038(大日精化工業社製、100%モジュラス:5MPa)、レザミンP−2280(大日精化工業社製、100%モジュラス:4MPa)、レザミンP−2283(大日精化工業社製、100%モジュラス:5MPa)、レザミンP−2288(大日精化工業社製、100%モジュラス:6MPa)、レザミンP−880(大日精化工業社製、100%モジュラス:5MPa)、クリスボン5116ELD(DIC社製、100%モジュラス:1.5MPa)、クリスボンNY−324(DIC社製、100%モジュラス:5.5MPa)等があげられる。
【0023】
また、本発明において、100%モジュラスが1〜7MPaであるポリウレタン系樹脂(a1)の重量平均分子量は、得られる電磁波抑制シート[I]の機械的強度、柔軟性、電磁波抑制物質の分散性、電磁波抑制シート[I]の形成性の点から、5万〜200万が好ましく、特には10万〜100万が好ましい。なお、上記「重量平均分子量」は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法によって求めることができる(以下同じ)。
【0024】
さらに、本発明において、100%モジュラスが1〜7MPaであるポリウレタン系樹脂(a1)のガラス転移温度は、−50℃以上が好ましく、より好ましくは−30℃以上である。ガラス転移温度が低すぎると、得られる電磁波抑制シート[I]がブロッキングを起こすおそれがある。なお、ガラス転移温度の上限は通常70℃、好ましくは50℃である。上記「ガラス転移温度」は、JIS−K7121に準拠して測定することができる(以下同じ)。
【0025】
なお、本発明において、樹脂組成物(A)の樹脂成分は、全て上記ポリウレタン系樹脂(a1)からなるものである必要はなく、物性が異なる他のポリウレタン系樹脂や、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を一部含有するものであっても差し支えない。ただし、100%モジュラスが1〜7MPaのポリウレタン系樹脂(a1)による効果が損なわれないよう、他の樹脂成分の含有割合は、樹脂成分全体の10重量%以下にとどめることが好適である。
【0026】
次に、上記樹脂組成物(A)に含有される電磁波抑制物質としては、従来、電磁波抑制効果があるとして用いられている各種の導電性粉末があげられる。より具体的には、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、磁性粉、フェライト等の金属粉末や、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等の金属酸化物粉末、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ(単層・二層・多層タイプ、カップスタック型)、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル、炭素繊維、カーボンナノホーン、金属で表層を被覆した導電性複合粒子等があげられ、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
カーボンナノチューブを用いる場合、その平均径(軸方向に対して直交する方向の直径または横断面径)は、例えば、0.5nm〜1μm程度から選択でき、単層カーボンナノチューブの場合には、例えば、0.5〜10nm程度であり、多層カーボンナノチューブの場合は、例えば、5〜300nm程度である。カーボンナノチューブの平均長は、例えば、1〜1000μm程度である。また、カーボンナノファイバーを用いる場合、その平均直径は、1nm〜350nmが例示できる。炭素繊維としては、重質油、副生油、コールタール等から作られるピッチ系や、ポリアクリロニトリルから作られるPAN系等があげられる。
【0028】
また、導電性粉末を用いるのではなく、樹脂組成物(A)中に、空気等の気泡を分散含有させ、その気泡によって電磁波を散乱させる場合は、上記気泡が電磁波抑制物質となる。
【0029】
本発明において、電磁波抑制物質の含有量は、樹脂組成物(A)のベースポリマーと電磁波抑制物質の合計100重量部に対して、5〜60重量部であることが好ましく、より好ましくは8〜55重量部、特に好ましくは10〜50重量部である。少なすぎると所望の電磁波抑制性能が得られにくくなる傾向があり、多すぎると得られる電磁波抑制シートの強度が低下したりして物理的性能が低下する傾向がある。
【0030】
これらの電磁波抑制物質は、単独で用いても2種以上を併用しても差し支えないが、なかでも、カーボンブラック(a2)、グラファイト(a3)等の炭素材料を、単独もしくは2種以上組み合わせて用いることが好適であり、とりわけ、カーボンブラック(a2)とグラファイト(a3)を組み合わせることが最適である。なお、カーボンブラック(a2)とグラファイト(a3)とは、カーボンブラック(a2)が非晶質であるのに対しグラファイト(a3)が網目構造を持つ結晶であることによって区別される。このため、カーボンブラック粒子はグラファイト粒子よりも細かい形状となる。
【0031】
本発明で用いることのできるカーボンブラック(a2)としては、分散性と導電性に優れたものが好適に用いられる。そのため、好ましいカーボンブラック(a2)の平均粒子径は、通常1〜500nmであり、より好ましくは5〜300nm、さらに望ましくは10〜100nm、特に好ましくは20〜60nmの範囲である。すなわち、カーボンブラック(a2)の平均粒子径が大きすぎると、所望の導電性が得られにくく電磁波抑制効果が低下する傾向があり、逆に、小さすぎると、分散性が低下する傾向がある。
なお、上記「カーボンブラック(a2)の平均粒子径」は、カーボンブラック凝集体を構成する一次粒子を電子顕微鏡で観察し計測することによって求められるものである(以下同じ)。
【0032】
このようなカーボンブラック(a2)としては、市販品として、例えば、シーストS、導電性カーボンブラック#5500,#4500,#4400,#4300、黒鉛化カーボンブラック#3855,#3845,#3800(以上、東海カーボン社製)、#3050B、#3030B、#3230B、#3400B(以上、三菱化学社製)、アセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業社製)、BLACK PEARLS 2000、STERLING C、VULCAN P、VULCAN XC−72(以上、キャボット社製)、ケッチェンブラックEC300J、ケッチェンブラックEC600JD(以上、ライオン社製)等があげられる。
【0033】
また、本発明で用いることのできるグラファイト(a3)も、カーボンブラック(a2)と同様、分散性と導電性に優れたものが好適に用いられる。そのため、好ましいグラファイト(a3)の平均粒子径は、通常1〜300μmであり、好ましくは3〜200μm、さらに望ましくは5〜100μm、特に好ましくは8〜50μmの範囲である。なお、上記「グラファイト(a3)の平均粒子径」は、レーザ回折式粒度分布測定装置によって求められるものである(以下同じ)。グラファイト(a3)の平均粒子径は、大きすぎても小さすぎても、所望の導電性が得られにくく電磁波抑制効果が低下する傾向がある。
【0034】
このようなグラファイト(a3)は、天然黒鉛や人造黒鉛を精製・粉砕・分級することによって得られ、その形状は、長さおよび幅が、厚さの3〜500倍である板状のものが好ましい。ここで、「板状」とは、一方向が縮んだ形状を意味し、例えば扁平球状や鱗片状であってもよい。
【0035】
上記グラファイト(a3)としては、市販品として、例えば、SNEシリーズ、SNOシリーズ、SGPシリーズ、SGDシリーズ、SGXシリーズ、SGLシリーズ、SCNシリーズ、SCLシリーズ(以上、SECカーボン社製)や、鱗状黒鉛粉末(CPシリーズ、CBシリーズ、F#シリーズ)、高純度黒鉛粉末(ACPシリーズ、ACBシリーズ、SPシリーズ、HCPシリーズ)、人造黒鉛粉末(PAGシリーズ、HAGシリーズ)、土状黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、球状化黒鉛粉末(以上、日本黒鉛工業社製)等があげられる。また、これらの市販品をさらに粉砕し、精密分級してもよい。
【0036】
本発明において、前記カーボンブラック(a2)を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物(A)のベースポリマーと電磁波抑制物質の合計100重量部に対して15〜60重量部に設定することが好ましく、より好ましくは20〜55重量部、特に好ましくは25〜50重量部である。すなわち、上記カーボンブラック(a2)の含有量が少なすぎると所望の導電性が得られにくく電磁波抑制効果が低下する傾向があり、多すぎると得られる電磁波抑制シート[I]の強度が低下したりして物理的性能が低下する傾向がある。
【0037】
また、同様に、前記グラファイト(a3)を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物(A)のベースポリマーと電磁波抑制物質の合計100重量部に対して5〜60重量部であることが好ましく、より好ましくは8〜55重量部、特に好ましくは10〜50重量部である。すなわち、少なすぎると所望の導電性が得られにくく電磁波抑制効果が低下する傾向があり、多すぎると得られる電磁波抑制シート[I]の強度が低下したりして物理的性能が低下する傾向がある。
【0038】
さらに、本発明において、カーボンブラック(a2)とグラファイト(a3)を組み合わせて用いる場合、カーボンブラック(a2)、グラファイト(a3)をそれぞれ単独で用いる場合より導電粒子の充填状態が改善され、所望の導電性が得られやすくなり、電磁波抑制性能が向上する。両者(a2)、(a3)を合計した含有量は、樹脂組成物(A)のベースポリマーと電磁波抑制物質の合計100重量部に対して25〜75重量部であることが好ましく、より好ましくは30〜70重量部、特に好ましくは40〜60重量部である。両者(a2)、(a3)を合計した含有量が少なすぎると、所望の電磁波抑制性能が得られにくくなる傾向があり、多すぎると、分散性が低下して、得られる電磁波抑制シート[I]の強度が低下したりして物理的性能が低下する傾向がある。
【0039】
また、カーボンブラック(a2)とグラファイト(a3)を組み合わせて用いる場合、カーボンブラック(a2)とグラファイト(a3)の含有割合(a2/a3)は、10/90〜90/10(重量比、以下同じ)が好ましく、15/85〜85/15がより好ましく、20/80〜80/20がさらに好ましく、25/75〜75/25が特に好ましい。両者(a2),(a3)の含有割合が、上記範囲から外れると、電磁波抑制効果が低下する傾向がある。
【0040】
なお、樹脂組成物(A)には、必須成分である、上記特定のポリウレタン系樹脂(a1)と、例えばカーボンブラック(a2)やグラファイト(a3)等の電磁波抑制物質以外に、必要に応じて、各種の任意成分を配合することができる。このような任意成分としては、難燃剤(例えば、メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム、水酸化アルミニウム等)、有機顔料や無機顔料等の着色剤、光安定剤、耐候安定剤、離型剤等があげられる。
【0041】
これらの成分を用いた樹脂組成物(A)の調製は、例えば、ポリウレタン樹脂(a1)と電磁波抑制物質に対し、揮発性溶剤、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド等を投入して充分に混練し、これらを均一に分散させることによって行われる。
【0042】
上記混練は、例えば、高速分散機、縦型分散機、ニーダー、ボールミル、3本ロールミル、ジェットミル、インペラー等を用いて行うことができる。
【0043】
本発明の電磁波抑制シート[I]は、上記樹脂組成物(A)を用いて、例えば次のようにして得ることができる(第1の製法)。
【0044】
すなわち、まず、
図1に示すように、支持フィルム[III]上に、樹脂組成物(A)の溶液を、例えば、ドクターブレードを用いて塗布し、その塗布層を乾燥して電磁波抑制シート[I]を形成する。この製法によれば、片面に支持フィルム[III]が積層された形態の電磁波抑制シート[I]を得ることができる。
【0045】
上記電磁波抑制シート[I]には、後述する粘着剤層[II]との密着力を高めるため、その表面にサンドブラスト処理等の物理的処理や、火炎処理、コロナ処理、もしくはプラズマ処理等の物理化学的処理、あるいは、プライマー処理等を施すことが好ましい。
【0046】
本発明において、上記支持フィルム[III]は、電磁波抑制シート[I]の製造時に基材としての役割を果すだけでなく、それ自身の強度・柔軟性によって、電磁波抑制シート[I]の補強・ガイド作用を果すものである。したがって、上記支持フィルム[III]は、特に支障がなければ、製造後も電磁波抑制シート[I]から外すことなく、そのまま電磁波抑制シート[I]と一体的に取り扱われる。
【0047】
このようにして得られた電磁波抑制シート[I]は、ベースとして用いられる樹脂組成物(A)が、100%モジュラスが1〜7MPaという、極めて柔軟な物性を有するポリウレタン系樹脂(a1)を含有するものであるため、厚みが薄くても、広帯域の周波数にわたって優れた電磁波抑制性能と、優れた柔軟性と、優れた導電性とを備えているのである。そして、シート厚みをごく薄くすることができ、柔軟性にも優れていることから、屈曲部分やFPC、FFC等に、支障なく用いることができる。したがって、電磁波対策を施した電気機器や電子機器の、大幅な軽量化を実現することができる。
【0048】
このような、電気・電子機器の軽量化の観点からすれば、上記電磁波抑制シート[I]の厚み(支持フィルム[III]を含まないシート単独の厚み)は、5〜1000μmの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは8〜500μm、さらに好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmの範囲である。かかる厚みが薄すぎると電磁波抑制効果が低下する傾向があり、厚すぎると柔軟性が低下する傾向がある。
【0049】
そして、上記電磁波抑制シート[I]は、このように、ごく薄いものであっても、上記支持フィルム[III]が補強・ガイド作用を果すため、この、ごく薄い電磁波抑制シート[I]をフレキシブルプリント回路基板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)、その他各種基板等に貼り付けても、クラックが入ったり、剛直化したりすることなく、電子機器の軽量化を可能にすることができる。
【0050】
なお、上記の製法において、支持フィルム[III]は、市販の製品フィルムをそのまま用いてもよいし、樹脂材料を塗布し乾燥してフィルム状のものを得るようにしてもよい。また、電磁波抑制シート[I]と支持フィルム[III]は同じ樹脂を用いてもよいし、別の樹脂を用いてもよい。
【0051】
支持フィルム[III]は単層でも複層でもよく、支持フィルム[III]に用いられる素材としては、用途に応じて従来公知の材料を適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、セロファン、セルロイド、合成紙、アート紙、再帰反射シート、ポリエチレン布状体、クラフト紙、OPPフィルム、PETフィルム、CPPフィルム、あるいは、熱可塑性樹脂等を用いることができる。また、支持フィルム[III]には、後述する粘着剤層[II]との密着力を高めるため、その表面にサンドブラスト処理等の物理的処理や、火炎処理、コロナ処理、もしくはプラズマ処理等の物理化学的処理、あるいは、プライマー処理等を施すことが好ましい。
【0052】
支持フィルム[III]を形成するための樹脂材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂ポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等があげられる。なかでも、ポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂またはポリウレタン樹脂のいずれかを選択することが好ましい。また、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。
【0053】
そして、上記樹脂材料として用いる樹脂の重量平均分子量は、5万〜100万であることが好ましい。すなわち、その重量平均分子量が小さすぎると、実用物性が得られず、逆に、大きすぎると、溶融粘度や溶剤と溶解した際の粘度が高すぎるため、樹脂層形成の際の成膜加工性が低下する傾向がある。また、樹脂のガラス転移温度は、−20℃以上90℃以下が好ましく、より好ましくは−10℃以上50℃以下である。下限値より低いと得られたシートがブロッキングを起こすおそれがある。
【0054】
また、支持フィルム[III]の厚みは、3〜200μmの範囲が好ましく、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは8〜50μm、特に好ましくは10〜30μmの範囲である。
【0055】
さらに、本発明の電磁波抑制シート[I](支持フィルム[III]付き)は、次のようにして製造することもできる(第2の製法)。この製法では、
図2(a)に示すように、まず、剥離ライナー1の上に、樹脂組成物(A)の溶液を塗布・乾燥して電磁波抑制シート[I]を形成する。そして、
図2(b)に示すように、この電磁波抑制シート[I]の上に、支持フィルム[III]を形成した後、
図2(c)に示すように、剥離ライナー1を剥離して、支持フィルム[III]付きの電磁波抑制シート[I]を形成する。
【0056】
上記剥離ライナー1は、その上に電磁波抑制シート[I]を形成した後、後から剥離除去されるものであり、剥離ライナー1側に電磁波抑制シート[I]の一部が残留するようなことがなく、容易に剥離できれば、どのようなものであってもよい。
【0057】
また、本発明の電磁波抑制シート[I](支持フィルム[III]付き)は、次のようにして製造することもできる(第3の製法)。この製法では、
図3(a)に示すように、まず、剥離ライナー1の上に、樹脂組成物(A)溶液を塗布・乾燥して電磁波抑制シート[I]を形成するとともに、支持フィルム[III]の片面に、バインダー樹脂層2を塗布し、このバインダー樹脂層2を介して、支持フィルム[III]を電磁波抑制シート[I]に貼り合わせる。そして、
図3(b)に示すように、電磁波抑制シート[I]の、上記貼り合わせ面とは反対側の面から剥離ライナー1を剥離して、支持フィルム[III]付きの電磁波抑制シート[I]を形成する。
【0058】
上記バインダー樹脂層2に用いられるバインダー樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂(「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称、以下同じ)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、天然および合成のシス−1,4−ポリイソプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、部分加硫ブチルゴム、スチレンブタジエンスチレン(SBS)樹脂、スチレンイソプレンスチレン(SIS)樹脂、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)樹脂、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム等があげられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本発明において、電磁波抑制シート[I]の引張強度(JIS−K7311による)は、0.05〜1000N/cmが好ましく、より好ましくは0.1〜500N/cmである。引張強度が低すぎると、強度が乏しいため実用的でなく、引張強度が高すぎると硬くなりすぎて柔軟なシートが得られにくい傾向がある。
【0060】
本発明において、電磁波抑制シート[I]の伸度(JIS−K7311による)は、5〜1000%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜50%の範囲である。伸度が低すぎると得られるシートの柔軟性、追従性が低下する傾向があり、耐衝撃性も低い傾向となる。一方、高すぎると、伸びが大きすぎるため機械的安定性が低下する。
【0061】
なお、本発明の電磁波抑制シート[I]には、その片面または両面に、粘着剤層[II]が積層された、電磁波抑制粘着シートとしてもよい。電磁波抑制シート[I]に粘着剤層[II]を設けておけば、この粘着剤層[II]を利用して、電磁波抑制シート[I]を、随時、目的とする場所に貼付して固定することができる。そして、上記粘着剤層[II]の表面は、後述する剥離ライナー[IV]によって被覆しておくことが、取り扱い上、望ましい。また、粘着剤層[II]を利用して電磁波抑制シート[I]を貼付するような用い方をしないものであっても、その片面または両面に積層された粘着剤層[II]を利用して、前述の支持フィルム[III]を貼り合わせるようにしてもよい。
【0062】
上記粘着剤層[II]を形成するための粘着剤としては、粘着シート用の粘着剤として一般に用いられているものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂系粘着剤、天然ゴムや合成ゴム等のゴム系粘着剤、SBSブロック共重合体系粘着剤やSISブロック共重合体系粘着剤並びにこれらの水素添加物等のブロック共重合体系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体系粘着剤、ポリビニルエーテル樹脂系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤等があげられる。なかでも耐久性や耐候性に優れ、取り扱い時の汚れも少ないアクリル樹脂系粘着剤が好適に用いられる。これらの粘着剤は、単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0063】
このようなアクリル樹脂系粘着剤としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を重合させて得られるアクリル系ポリマーが、好適に用いられる。
【0064】
上記カルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等のモノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸やこれらのモノエステル等があげられる。
【0065】
また、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、アルキル基の炭素数が4〜12程度のものが望ましく、具体的には、n−ブチル(メタ)アクリレート(「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である、以下同じ)、イソブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等があげられる。
【0066】
そして、これらの粘着剤の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、溶剤型粘着剤、エマルジョン型粘着剤、ホットメルト型粘着剤、反応型粘着剤、光重合可能なモノマー型粘着剤等のいずれの形態であってもよい。塗工手段や乾燥方法に制限はなく、公知のものを採用できる。また、これらの粘着剤には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、ポリイソシアネート系化合物やアジリジン系化合物、金属キレート系化合物等の架橋剤や、粘着性付与剤、カップリング剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、難燃剤、帯電防止剤等の各種添加剤の1種もしくは2種以上を配合することができる。
【0067】
上記粘着剤層[II]を形成するための粘着剤の塗布方法は、従来公知の方法を適宜使用することができる。そして、粘着剤層[II]の厚みは、通常、その厚みが3μm〜0.5mm、特には5〜100μm、さらには10〜50μmであることが好ましい。粘着剤層[II]の厚みが薄すぎると、粘着性や凹凸追従性が不充分となる傾向があり、逆に厚すぎると、粘着性はもはやそれ以上向上しないにもかかわらず、コスト高となる傾向がある。
【0068】
なお、電磁波抑制シート[I]に上記粘着剤層[II]が積層され、その上に剥離ライナー[IV]が積層された積層体を得るには、例えば、まず、剥離ライナー[IV]上に粘着剤を塗布・乾燥して粘着剤層[II]を形成し、その上に電磁波抑制シート[I]を貼り合わせる方法(第1の方法)があげられる。また、他の方法として、電磁波抑制シート[I]上に粘着剤を塗布・乾燥して粘着剤層[II]を形成し、その上に剥離ライナー[IV]を貼り合わせる方法(第2の方法)等があげられる
【0069】
上記剥離ライナー[IV]としては、粘着剤層[II]から剥離ライナー[IV]を剥離したときに、粘着剤層[II]と接する剥離ライナー[IV]の界面において、容易に剥離ライナー[IV]を剥離することができ、かつ剥離ライナー[IV]の剥離面に粘着剤の残留が少ないことが要求される。ここでいう容易に剥離することが可能なレベルとは、一般的に180度引き剥がし粘着力(JIS−Z0237に準じて剥離速度300mm/分で測定)が0.005N/50mm以上、5N/50mm以下のものをいう。
【0070】
このような剥離ライナー[IV]としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートや配向したポリプロピレン等の各種プラスチックフィルムまたは紙の上に、シリコーン系あるいは非シリコーン系の剥離剤を塗工したものが好適に用いられる。市販の剥離紙としては、例えば、フィルムバイナシリーズ、バイナシートシリーズ(以上、藤森工業社製)、トーセロセパレーターSPシリーズ(東セロ社製)、スミリーズシリーズ(住化加工紙社製)、セパレート紙(シノムラ化学社製)等があげられる。
【0071】
また、剥離ライナー[IV]を準備する場合、剥離ライナー[IV]の支持基材としては、全体に対する補強層としての役割を担うことができるものであればどのような材質のものを用いてもよい。例えば、熱可塑性樹脂により構成されたフィルムまたはシート、紙をあげることができ、より具体的には、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン系樹脂;各種ポリアミド系樹脂(いわゆる「ナイロン」等);ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂により構成されたフィルムまたはシート等、半晒、上質紙、グラシン紙等の紙をあげることができ、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
上記支持基材の厚みは、全体をより薄いものとする観点から、10〜300μmが好ましく、25〜200μmがより好ましく、50〜150μmがさらに好ましい。かかる厚みが薄すぎると、剥離ライナー[IV]の強度が低下する傾向があり、厚すぎると、打抜き加工性が低下したりコスト高となったりする傾向がある。
【0073】
なお、粘着剤層[II]を設けた電磁波抑制粘着シートの厚みは、前記電磁波抑制シート[I]および粘着剤層[II]の合計で5〜1500μmであることが好ましく、より好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは20〜100μmである。かかる厚みが薄すぎると、打抜き加工性が低下したり、剥離ライナー[IV]を剥がしたとき破れたりする傾向があり、厚すぎると、コスト高となる傾向がある。
【0074】
また、上記電磁波抑制粘着シートの粘着剤層[II]に、支持フィルム[III]や剥離ライナー[IV]を設けた場合においても、全体の厚みは、10〜2000μmであることが好ましく、より好ましくは20〜800μm、さらに好ましくは50〜300μmである。
【0075】
このように、上記電磁波抑制粘着シートも、全体の厚みを薄く設定することができるため、前記電磁波抑制シート[I]と同様、屈曲部分やFPC、FFC等に、支障なく用いることができる。したがって、電磁波対策を施した電気機器や電子機器の、大幅な軽量化を実現することができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例および比較例をあげて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
[実施例1〜14、比較例1,2]
後記の表1、表2に示す組成の材料を、三本ロールミルを用いて混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、同じく表1、表2に示す支持フィルム[III](易接着処理されたPETフィルム:テイジンテトロンフィルム25μm厚HPE、帝人デュポンフィルム社製)の易接着処理面に流延塗布し80℃で5分乾燥して、厚さ40μmの電磁波抑制シート[I](支持フィルム[III]付き)を形成した。
【0078】
一方、剥離ライナー[IV](SLK−80KCT、住化加工紙社製)の上に、アクリル系粘着剤組成物(2−エチルヘキシルアクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸の共重合体[重量比=10/88/2]の50重量%エチルアセテート溶液[重量平均分子量65万、ガラス転移温度−55℃](第1成分)と、東ソー社製のコロネートL55E(第2成分)の、第1成分/第2成分が100重量部/2重量部の混合物)を、乾燥後の厚みが約25μmとなるように塗布した。そして、100℃で1分間熱風循環式乾燥機にて乾燥した粘着剤を、ラミネートロールを用いて上記電磁波抑制シート[I]の上に貼り合わせ、23℃、65%RHの条件で7日間エージングさせることにより、粘着剤層[II]を形成し、電磁波抑制粘着シート(粘着剤層[II]、剥離ライナー[IV]付き)を得た。
ただし、実施例2は参考例である。
【0079】
[実施例15、16]
実施例1において、電磁波抑制シート[I]の厚みを40μmとしたのを、実施例15では10μmに変えた。また、実施例16では100μmに変えた。それ以外は実施例1と同様にして、電磁波抑制シート[I]および電磁波抑制粘着シートを得た。これらについても、実施例1と同様の形で表3に示す。
【0080】
[実施例17,18]
実施例1において、支持フィルム[III]として厚み25μmのPETフィルム(HPE、帝人デュポンフィルム社製)を用いたのを、実施例17では厚み25μmのポリイミドフィルム(100H、東レデュポン社製)に変えた。また、実施例18では厚み9μmのPPSフィルム(トレルナ#9−3030、東レ社製)に変えた。それ以外は実施例1と同様にして、電磁波抑制シート[I]および電磁波抑制粘着シートを得た。これらについても、実施例1と同様の形で表3に示す。
なお、後記の表1〜表3において、用いた各材料の詳細を以下に示す。
【0081】
<ベースポリマー(a1)>
・ポリウレタン樹脂1:レザミンME−3412LP(大日精化工業社製)
100%モジュラス 4MPa
・ポリウレタン樹脂2:クリスボン5116ELD(DIC社製)
100%モジュラス 1.5MPa
・ポリウレタン樹脂3:クリスボンNY−324(DIC社製)
100%モジュラス 5.5MPa
・ポリウレタン樹脂4:レザミンME−44ELPNS(大日精化工業社製)
100%モジュラス 17.5MPa
・ポリエステル樹脂:ポリエスターSP−180S20TM(日本合成化学工業社製)
100%モジュラス 3.5MPa
【0082】
<カーボンブラック(a2)>
・カーボンブラック1:ケッチェンブラックEC300J(ライオン社製)
平均粒子径40nm
・カーボンブラック2:ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)
平均粒子径34nm
・カーボンブラック3:♯3030B(三菱化学社製)
平均粒子径55nm
【0083】
<グラファイト(a3)>
・グラファイト1:UP−15N(日本黒鉛工業社製)
平均粒子径15
μm
・グラファイト2:CGB−10(日本黒鉛工業社製)
平均粒子径10
μm
・グラファイト3:PAG−5(日本黒鉛工業社製)
平均粒子径30
μm
【0084】
<分散剤>
・高分子量ポリエステル酸アマイドアミン塩系分散剤:ディスパロンDA703−50
(楠本化成社製)
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
このようにして得られた実施例品、比較例品に対し、下記の評価項目について測定、評価を行い、その結果を、後記の表4〜表6に示した。
【0089】
[柔軟性]
JIS−P8115に準拠し、作製した電磁波抑制シート[I]を10000回屈曲した。そして、屈曲後の表面の状態を見てシワ、クラックの形状を観察し、以下の基準に従って評価した。
○:表面にシワやクラックが無い。
△:表面にシワが僅かにあり、クラックは無い。
×:表面にシワがはっきり判り、クラックが発生している。
【0090】
[粘着力]
JIS−Z0237に準拠し、作製した電磁波抑制粘着シートをステンレス304鋼板で鏡面仕上げのものに圧着し、23℃、50%RHで、24時間後の180度引き剥がし試験を行い、粘着力を測定した。
【0091】
[表面抵抗率]
JIS−K7194に準拠し、四端子四探針法にて電磁波抑制シート[I]の表面の、表面抵抗率を測定した。
【0092】
[放射抑制率]
IEC62431に従い、ベクトルネットワークアナライザ、および、電波送信、受信アンテナにホーンアンテナを用い、アンテナ間距離が50cmとなるように設置し、送信および受信アンテナ間に、発泡倍率70倍の発泡スチロール製スペーサーに貼付した電磁波抑制粘着シートを設置し、電波暗室内で自由空間法にて透過係数S21を測定した。その後、電磁波抑制粘着シートを取り除き、上記と同様にスペーサー単独のS21を測定し、電磁波抑制粘着シートがある場合とない場合とのS21の差から放射抑制率を求めた。放射抑制率の値は、発生する周波数やその強さにもよるため一概に決められる値ではないが、2.4G〜2.5GHz、および、5G〜6GHz両周波数において、10dB以上であることが好ましい。
【0093】
[伝送減衰率]
IEC62333に従い、マイクロストリップラインに電磁波抑制粘着シートを貼付し、ベクトルネットワークアナライザにより反射係数S11および透過係数S21を測定し、伝送減衰率Rtp値を求めた。伝送減衰率の値は発生する周波数やその強さにもよるため一概に決められる値ではないが、1G〜3GHz、および、5G〜6GHz両周波数において、20dB以上であることが好ましい。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
上記の結果から、実施例品がいずれの項目についても優れた評価を得ているのに対し、比較例品は殆どの項目について評価が劣っていることがわかる。