(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661978
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】シールド工法又は推進工法に用いられる掘削機
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
E21D9/06 301L
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-218160(P2015-218160)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-89167(P2017-89167A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 幸三郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 宏治
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−107680(JP,A)
【文献】
特開昭53−139331(JP,A)
【文献】
特開2004−176304(JP,A)
【文献】
特開2003−314190(JP,A)
【文献】
特開平06−272483(JP,A)
【文献】
特開昭63−014993(JP,A)
【文献】
米国特許第06287052(US,B1)
【文献】
特開2008−095491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00−9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド工法又は推進工法において用いられ、筒状のスキンプレートと、当該スキンプレートの先端に回転自在に設けられたカッター装置とを有して、前記カッター装置により地山内を掘進する掘削機であって、
前記カッター装置の外周部分で且つ前記スキンプレートよりも外方側の部位の後方側に向いた部位に、前記スキンプレートと前記掘削孔の内壁面との間に対して、後方に向けて滑材を注入するための開口部を備え、
前記開口部は、前記カッター装置の外周リング及び前記外周リングに出し入れ自在に設けられたコピーカッターの両方に設けられ、
前記外周リングに設けられた開口部又は前記コピーカッターに設けられた開口部の何れから前記滑材を注入するかが切替可能とされている
ことを特徴とする掘削機。
【請求項2】
前記外周リングに設けられた開口部及び前記コピーカッターに設けられた開口部にそれぞれ連通し、当該開口部へと前記滑材を供給するための各供給路には、前記滑材の逆流を防止する逆止弁が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の掘削機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法又は推進工法に用いられる掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地山を掘削し、掘削内周面にセグメントを順次組み立てて周方向に接続しながら掘削の進行方向に連結することで覆工体を構築すると共に、その形成した覆工体から推進反力を得て掘進作業を進めるシールド工法に使用されるシールド機が知られている。
【0003】
このようなシールド機では、地山(すなわち、掘削孔の内壁面)からシールド機に作用する土水圧に抗して掘進するために、これらシールド機と掘削孔の内壁面との間の摩擦を低減することが重要な課題となっている。そのため、従来は、例えば、
図4(a)および(b)に示すように、シールド機1におけるカッター装置2の外周リング21に出入り自在に配設されたコピーカッター3の後方で、シールド機1の外周を覆うスキンプレート4の外周に、シールド機1から掘削孔の内壁面Hに向けて開口した注入口5を設け、この注入口5からスキンプレート4と内壁面Hとの間に、ベントナイト泥水やポリマー系材料からなる滑材Wを注入することにより、これらスキンプレート4と内壁面Hとの間の摩擦を低減するようにしていた。
【0004】
また、この他の手法としては、シールド機のスキンプレートにおける先端部外周面に沿って周方向に設けられたフリクションカットの後方に位置し、スキンプレートの外周面の周方向に形成された切欠部から、スキンプレートの外周に滑材を注入するもの(例えば、特許文献1参照)や、カッター装置の前面に設けられるカッタービットの切刃付近に形成された注出口から滑材を噴出させるもの(例えば、特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−156888号公報
【特許文献2】特開平07−62981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したシールド機1のように、コピーカッター3の後方におけるスキンプレート4の外周に設けられた注入口5から滑材Wを注入する場合や、特許文献1のシールド機のように、スキンプレートの外周面の周方向に形成された切欠部から滑材を注入する場合、滑材Wを注入口5(切欠部)の周囲にしか注入することができず(換言すれば、滑材Wをスキンプレート4と内壁面Hとの間の全周に亘って行き届かせることができず)、十分な摩擦低減効果を得ることが難しかった。
【0007】
さらに、特許文献2のシールド機では、カッター装置前面のカッタービットにおける摩耗は防止できるものの、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に作用する摩擦を低減することができなかった。
以上の課題は、推進工法に用いられる掘削機のスキンプレートと地盤との摩擦を低減する場合も同様である。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、シールド工法や推進工法において、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間におけるスキンプレートの全周に亘って滑材を注入し、これらスキンプレートと内壁面との間に生じる摩擦力を十分に低減可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するべく、本発明に係るシールド機は、
シールド工法又は推進工法において用いられ、円筒状のスキンプレートと、当該スキンプレートの先端に回転自在に設けられたカッター装置とを有して、前記カッター装置により地山内を掘進する掘削機であって、
前記カッター装置の外周部分で且つ前記スキンプレートよりも外方側の部位の後方側に向いた部位に、前記スキンプレートと前記掘削孔の内壁面との間に対して、後方に向けて滑材を注入するための開口部を備え
、
前記開口部は、前記カッター装置の外周リング及び前記外周リングに出し入れ自在に設けられたコピーカッターの両方に設けられ、
前記外周リングに設けられた開口部又は前記コピーカッターに設けられた開口部の何れから前記滑材を注入するかが切替可能とされていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、開口部が回転移動する部位に設けられるため、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間におけるスキンプレートの全周に亘って滑材を注入でき、これらスキンプレートと掘削孔の内壁面との間に生じる摩擦力を低減できる。これにより、掘削機の掘進に伴って、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に生じる摩擦が解消される際の振動を予め抑制できる。また、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に生じる摩擦力を低減できるため、スキンプレートと接触する掘削孔の内壁面に対して掘削機の掘進方向に作用する剪断抵抗が軽減されるため、当該剪断抵抗によって掘削機周辺の地山の組成が変わって発生していた液状化や、圧密沈下などの現象を未然に回避することができる。
【0011】
また、前記開口部は
、前記カッター装置の外周リングまたは前記外周リングに出し入れ自在に設けられたコピーカッターの
両方に設けられ、
前記外周リングに設けられた開口部又は前記コピーカッターに設けられた開口部の何れから前記滑材を注入するかが切替可能とされているので、滑材をスキンプレートと掘削孔の内壁面との間に対して、スキンプレートの全周に亘って均一に注入できる。
【0012】
また、
前記外周リングに設けられた開口部及び前記コピーカッターに設けられた開口部に
それぞれ連通し、当該開口部へと前記滑材を供給するための
各供給路には、前記滑材の逆流を防止する逆止弁が設けられていることが好ましい。これによれば、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に対して注入した滑材が供給路内に逆流するのを防止できる。また、供給路内に対する外部からの土砂等の流入をも阻止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、掘削機のスキンプレートと掘削孔の内壁面との間におけるスキンプレートの全周に亘って滑材を注入でき、これにより、スキンプレートと掘削孔の内壁面との間に生じる摩擦力を効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態におけるシールド機を示し、(a)はその断面図、(b)はその正面から見た部分的断面図である。
【
図2】
図1のカッター装置を示し、(a)は正面図、(b)は側方から見た断面図である。
【
図3】
図2の要部を拡大して示し、(a)はコピーカッターの突出時を示す部分的断面図、(b)はコピーカッターの格納時を示す部分的断面図である。
【
図4】従来におけるシールド機を示し、(a)はその断面図、(b)はその正面から見た部分的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明がシールド機に適用された場合の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うシールド機もまた本発明の技術思想に含まれる。また、以下の説明において、前部および前方とは、シールド機の掘進方向前方の部位,方向を示し、後部および後方とは、シールド機の掘進方向後方の部位,方向を示すものとする。
【0016】
図1は、本実施形態に係るシールド機10を示す。なお、
図1において、
図4との対応部分に同一符号を付している。
図1に示すシールド機は、円筒状のスキンプレート4と、このスキンプレート4の先端に回転自在に設けられたカッター装置2と、推進ジャッキ11とを有している。また、シールド機10において、回転駆動されるカッター装置2の先端には、
図2(a)にも示すように、多数のカッタービット(掘削ビット)2aが立設されており、このカッター装置2の背面側にチャンバ12が形成されている。チャンバ12には、掘削土砂の排出用のスクリューコンベア(不図示)が連通接続されている。また、シールド機10は、曲線部の掘進時等において余堀部を形成するための、径方向に進退可能なコピーカッター3を備えている。
【0017】
シールド工法において、シールド機10は、先端に設けられたカッター装置2を回転駆動させながらこれに対向する地山の切羽(不図示)を掘削しつつ、その掘削土をカッター装置2後方のチャンバ12内に取り込む。そして、チャンバ12の下部に設けたスクリューコンベア(不図示)により搬出される掘削土を排土用コンベア(不図示)で後方に搬送排出する。これと共に、シールド機10は、シールド機2の後部に備えられたセグメント組立機(エレクター13)によってセグメント(不図示)を順次組み立て、それを周方向に接続しながら掘進方向に連結して掘削孔の内壁面Hを覆う筒状の覆工体を形成し、この覆工体に反力を取ってシールド機を掘進させる。
【0018】
本実施形態では、シールド機10において、
図2(b)に示すように、カッター装置2の外周部分で且つスキンプレート4よりも外方側の部位、すなわち、外周リング21におけるスキンプレート4よりも外方に突出している部位に、カッター装置2よりも後方(すなわち、シールド機10の掘進方向と反対方向)に向けて開口した開口部22,31が設けられている。
【0019】
そして、この開口部22,31から、スキンプレート4と掘削孔の内壁面Hとの間に対して、カッター装置2よりも後方に向けて、ベントナイト泥水やポリマー系の材料からなる滑材Wを注入する。これら開口部22,31は、それぞれ回転する外周リング21に配設されているため、滑材Wをスキンプレート4と掘削孔の内壁面Hとの間におけるスキンプレート4の外周の全周に亘って注入できる。
【0020】
なお、滑材Wは、シールド機10の掘進速度と、滑材Wの注入量に応じた流量であって、泥水圧に抗して注入可能な程度に設定された注入圧で注入される。
【0021】
このとき、開口部22は、カッター装置2で掘削する切羽の断面径の大きさに応じて、数箇所設けられることが好ましい。すなわち、大断面のトンネルを形成する場合、カッター装置2も大口径となり、その回転速度は低速となる。このような場合にも、滑剤Wが全周に亘って注入されるよう、開口部22は例えば外周リング21に対して3カ所程度設けられることが好ましい。
【0022】
また、外周リング21の内部には、開口部22,31に連通し、当該開口部22,31へと滑材Wを供給するための供給路23,32が設けられており、この供給路23,32には、滑材Wの逆流を防止するための逆止弁24,33が設けられていることが好ましい。なお、この逆止弁24,33は、可能な限り開口部22,31に近い位置に配置されることが望ましい。
【0023】
ところで、滑材Wを注入するための開口部は、コピーカッター3にも設けることとしてもよい。
図3(a),(b)はコピーカッター3の構成を示す。同図に示すように、コピーカッター3は、カッター装置2の外周リング21にシリンダ34を介して設けられており、不図示のポンプによって、シリンダ34内に作動油Oが出し入れされて油圧が付加されることにより、必要に応じて外周リング21から突出したり、外周リング21内へ格納されたりするように、当該外周リング21の径方向に進退可能に設けられている。このとき、供給路32は、コピーカッター3の出し入れに応じて伸縮または変形可能なフレキシブルホースからなることが好ましい。なお、滑材Wを注入するための開口部は、外周リング21とコピーカッター3とのいずれか一方または両方に設けてもよい。要するに、当該開口部は、スキンプレート4よりも外方側に位置する回転部位に、設けられればよい。
【0024】
以上の構成によれば、コピーカッター3は地山の掘削時、シリンダ34内に作動油Oが出し入れされて油圧が付加されることにより、必要に応じて外周リング21から突出したり、外周リング21内へ格納されたりする。従って、コピーカッター3にも開口部31を設けることで、以下のような万一の場合に対応可能となる。
例えば、外周リング21の開口部22が摩耗によって前方まで拡がった場合、外周リング21より前方側に滑材Wが流出し、当該前方側における流動性が通常よりも高くなってしまう。また、開口部22から滑材Wを注入する際の抵抗が大きく、滑材Wがスキンプレート4の外周に均一に注入されない場合、外周摩擦が通常よりも増えてしまう。そこで、本実施形態のシールド機10では、これらの現象に基づいて、外周リング21の開口部22の利用が不可能と判断し、コピーカッター3の開口部31に切り換えることで、当該開口部31を、滑材Wを注入するための非常用の注入口として利用可能となる。このように、外周リング21とコピーカッター3との両方に開口部22,31を設け、万一の場合であっても、いずれかの開口部22,31を利用可能とすることで、スキンプレート4と掘削孔の内壁面Hとの間に対して、確実に滑材Wを注入することができる。
【0025】
以上、説明したように、本実施形態のシールド機10によれば、カッター装置2の外周部分で且つスキンプレート4よりも外方側の部位に、カッター装置2よりも後方に向けて開口した開口部22,31が設けられ、当該開口部22,31が回転移動する部位に設けられるため、スキンプレート4と掘削孔の内壁面Hとの間におけるスキンプレート4の全周に亘って滑材Wを注入でき、これらスキンプレート4と掘削孔の内壁面Hとの間に生じる摩擦力を低減できる。これにより、シールド機10の掘進に伴って、スキンプレート4と掘削孔の内壁面Hとの間に生じる摩擦が解消される際の振動を予め抑制できる。また、スキンプレート4と掘削孔の内壁面Hとの間に生じる摩擦力を低減できるため、スキンプレート4と接触する掘削孔の内壁面Hに対してシールド機10の掘進方向に作用する剪断抵抗が軽減され、当該剪断抵抗によってシールド機10周辺の地山の組成が変わって発生していた液状化や、圧密沈下などの現象を未然に回避することができる。さらに、開口部22,31がカッター装置2よりも後方に向けて開口されるため、当該開口部22,31を真上に向けて開口する場合と比較して、滑材Wの注入時の開口部22,31内に対する土砂や土水圧の影響を軽減できる。
【0026】
なお、前述した実施形態では、シールド工法に用いられる掘削機であるシールド機10を例にとって説明したが、本発明はこれに限ることはなく、推進工法における掘削機にも同様に適用可能である。さらに、掘削機としては円筒状スキンプレート4を備えるシールド機10に限らず、その他、矩形状や多角形状等の種々の形状に広く適用可能である。
【0027】
また、開口部22,31からの滑材Wの注入方向は真後ろに限らず、斜め後方に注入するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
10…シールド機, 2…カッター装置, 2a…カッタービット, 3…コピーカッター, 4…スキンプレート, 11…推進ジャッキ, 12…チャンバ, 13…エレクター, 21…外周リング, 22,31…開口部, 23,32…供給路, 24,33…逆止弁