特許第6661981号(P6661981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6661981
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20200227BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   F04C2/10 341B
   F04C15/00 B
   F04C15/00 G
   F04C15/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-218470(P2015-218470)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-89454(P2017-89454A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】畑 浩一
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−281078(JP,A)
【文献】 特開2014−240614(JP,A)
【文献】 特開昭62−265482(JP,A)
【文献】 特開2006−125272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸と一体回転するインナーロータと、前記インナーロータが収容され、前記インナーロータが回転することにより前記インナーロータとの間で容積変化が生じ、流体を送出するアウターロータとを有するポンプロータと、
電動モータを保持するモータハウジングと、
前記ポンプロータを収容するポンプハウジングとを備え、
前記ポンプハウジングは中空部及び円筒部が形成されたポンプボデー及びポンプカバーを含み、
前記回転軸における軸方向の一方が前記ポンプボデーに当接し、他方が前記ポンプロータの軸方向端面と近接対向するように配設され、前記ポンプハウジング、及び前記ポンプロータ夫々の熱膨張係数より大きい熱膨張係数であり、前記ポンプロータの前記軸方向端面との隙間を可変する熱膨張部材を有し、
前記ポンプボデーは前記中空部に前記ポンプロータ及び前記熱膨張部材を収容すると共に、
前記軸方向において前記円筒部が前記モータハウジングの内部に挿通し、
前記ポンプカバーは前記中空部を閉塞すると共に、
前記ポンプカバーには前記流体の吸入ポートとなるポンプカバー側第1凹部及び前記流体の吐出ポートとなるポンプカバー側第2凹部が形成され、
前記熱膨張部材には前記吸入ポートとなる熱膨張部材側第1凹部及び前記吐出ポートとなる熱膨張部材側第2凹部が形成されると共に、
前記熱膨張部材には前記軸方向において一部が前記モータハウジングの内部に挿通する小径部、及び前記小径部より大径でかつ前記ポンプロータと当接する大径部を有する、電動ポンプ。
【請求項2】
前記ポンプロータは鉄系焼結部品、前記ポンプハウジングは鉄部材であって、前記熱膨張部材はアルミ部材である請求項1 に記載の電動ポンプ。
【請求項3】
前記熱膨張部材は、前記回転軸を回転可能に支持する軸受部を有する請求項1または2に記載の電動ポンプ。
【請求項4】
軸方向において前記ポンプハウジングと前記熱膨張部材との間に、弾性力を有する弾性部材を備えた請求項1から3の何れか一項に記載の電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の油圧発生源として、エンジンが駆動することで油圧を発生させる機械式オイルポンプと、電力によりモータを駆動することで油圧を発生させる電動ポンプが知られている。
【0003】
ここで、従来の電動ポンプは、ポンプ効率の向上を目的として特許文献1が開示されている。特許文献1には、内側に内歯を備えたアウターロータと、アウターロータの内側に配置されて回転軸と一体回転すると共にアウターロータの内歯と噛合する外歯を備えたインナーロータとからなるポンプロータと、ポンプロータの軸方向両端面、及び径方向外周面に対向するように包囲するハウジングとを備えた電動ポンプであって、ポンプロータの成型母材をスーパーエンジニアリングプラスチックとする構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−206072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の電動ポンプでは、ポンプロータはスーパーエンジニアリングプラスチックであり、ハウジングのアルミ材に対し硬度が高い。よって、軸方向に熱膨張したポンプロータによって、ハウジングのポンプロータ摺動面が摩耗し、ポンプ効率が低下する恐れがある。
【0006】
そこで本発明は、上記実情を鑑みて成されたものであって、ポンプ効率の向上を図った電動ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電動ポンプの特徴構成は、
回転軸と、
前記回転軸と一体回転するインナーロータと、前記インナーロータが収容され、前記インナーロータが回転することにより前記インナーロータとの間で容積変化が生じ、流体を送出するアウターロータとを有するポンプロータと、
電動モータを保持するモータハウジングと、
前記ポンプロータを収容するポンプハウジングとを備え、
前記ポンプハウジングは中空部及び円筒部が形成されたポンプボデー及びポンプカバーを含み、
前記回転軸における軸方向の一方が前記ポンプボデーに当接し、他方が前記ポンプロータの軸方向端面と近接対向するように配設され、前記ポンプハウジング、及び前記ポンプロータ夫々の熱膨張係数より大きい熱膨張係数であり、前記ポンプロータの前記軸方向端面との隙間を可変する熱膨張部材を有し、
前記ポンプボデーは前記中空部に前記ポンプロータ及び前記熱膨張部材を収容すると共に、
前記軸方向において前記円筒部が前記モータハウジングの内部に挿通し、
前記ポンプカバーは前記中空部を閉塞すると共に、
前記ポンプカバーには前記流体の吸入ポートとなるポンプカバー側第1凹部及び前記流体の吐出ポートとなるポンプカバー側第2凹部が形成され、
前記熱膨張部材には前記吸入ポートとなる熱膨張部材側第1凹部及び前記吐出ポートとなる熱膨張部材側第2凹部が形成されると共に、
前記熱膨張部材には前記軸方向において一部が前記モータハウジングの内部に挿通する小径部、及び前記小径部より大径でかつ前記ポンプロータと当接する大径部を有する。
【0008】
本構成により、例えば流体や外気等の環境温度が比較的低温の場合は、ポンプロータ、及びハウジングよりも、熱膨張部材を熱収縮できる。これにより、軸方向におけるポンプロータ、及びハウジングと熱膨張部材との摩擦を低減できる。また、環境温度が比較的高温の場合は、ポンプロータ、及びハウジングよりも熱膨張部材は熱膨張させることができる。つまり、軸方向におけるポンプロータ、ハウジング、及び熱膨張部材をより密着させることができる。ここで、ポンプ効率は通常、流体の粘性が高い時(比較的低温時)はポンプロータ、ハウジング、及び熱膨張部材の摩擦が小さく、また、流体の粘性が低い時(比較的高温時)は夫々が密着するようにあると好適である。これにより、環境温度の変化に対し、熱膨張部材がポンプロータ、及びハウジングよりも伸縮することでポンプ効率の向上が図れる。
また本構成の小径部により、この小径部を内包する挿通部の径も併せて小さくできる。従って挿通部の外周に形成されるポンプボデーの円筒部をモータハウジングに挿通でき、ポンプボデーとモータハウジングの組付け精度を向上できる。
更に本構成の大径部により、ポンプカバーのみならず熱膨張部材も吸気ポート、排気ポートとなる凹部が形成可能となる。すなわち、ポンプカバーのみならず熱膨張部材を介してポンプボデーにも吸入口及び吐出口を設置可能となり、電動ポンプを取付ける部材に合わせて、吸入口及び吐出口を設ける位置を選択できる。
【0009】
本発明の他の特徴構成は、前記ポンプロータは鉄系焼結部品、前記ポンプハウジングは鉄部材であって、前記熱膨張部材はアルミ部材である点にある。
【0010】
本構成により、ポンプロータは鉄系焼結部品であるため、従来のスーパーエンジニアリングプラスチックに対し硬度を低く設定することができる。これにより、ポンプロータとポンプハウジング(発明を実施するための形態では「ハウジング」と記載)の摺動面の摩耗を抑制することができる。よって、ポンプ効率の向上を図ることができる。
【0011】
本発明の他の特徴構成は、前記熱膨張部材は、前記回転軸を回転可能に支持する軸受部を有する点にある。
【0012】
本構成により、熱膨張部材を回転軸と同軸に位置するように組付けるので、ポンプロータと良好な位置に組付けることができる。これにより、ポンプ効率の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の他の特徴構成は、軸方向において前記ポンプハウジングと前記熱膨張部材との間に、弾性力を有する弾性部材を備えた点にある。
【0016】
本構成により、求められる圧力よりも大きい圧力となったとしても、弾性部材が弾性変形し、熱膨張部材が軸方向にポンプロータから離れるように移動し、適正な圧力に下げることができる。これにより、ポンプ効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態における電動ポンプの構成を示す断面図である。
図2図1における熱膨張部材の熱膨張状態を示す要所部分拡大図である。
図3図1における熱膨張部材の熱収縮状態を示す要所部分拡大図である。
図4】第2実施形態における電動ポンプの構成を示す断面図である。
図5図4における熱膨張部材の熱膨張状態を示す要所部分拡大図である。
図6図4における熱膨張部材の熱収縮状態を示す要所部分拡大図である。
図7】第3実施形態における電動ポンプの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
本発明に係る電動ポンプの第1実施形態について図1から図3に基づいて説明する。
【0019】
電動ポンプAは、例えば車両の流体(例えばオイル)を圧送し、油圧の発生源となるものである。ここで、車両以外の油圧装置に用いても良く、また圧送対象としてオイルに代えて液状の薬剤や化学物質等であっても良い。
〔電動ポンプ〕
電動ポンプAは、図1に示すように、流体(例えばオイル)を吸入し、吐出するポンプ部と、このポンプ部Bを回転軸14(例えばシャフト)により駆動する電動モータ部Cとを備えている。尚、電動モータ部を制御する制御部(図示しない)を公知の方法(例えば特許文献1)等により一体化しても良い。
〔ポンプ部〕
ポンプ部Bは、図1に示すように流路が形成されたハウジング1に収容されるポンプロータ2の回転により流体の吸入、及び吐出を行う。
【0020】
ハウジング1は、中空部を形成する筒状のポンプボデー11と、ポンプボデー11の一方に設けられ、中空部を閉塞するプレート状のポンプカバー12とを備える。また、ポンプボデー11の中空部には、ポンプロータ2と、熱膨張部材17と、シャフト14が備えられている。このとき、熱膨張部材17は、軸方向において一方(図2に示す17b)をポンプボデー11に形成された段部11bによって支持され、他方(図2に示す17a)をポンプロータ2と近接対向するように備えられている。また、熱膨張部材17はシャフト14を回転自在に支持する軸受部17cを形成している。
【0021】
ポンプロータ2は、内接型のトロコイドポンプであって回転軸芯Xを中心として回転するシャフト14の駆動力により回転し、外周にトロコイド曲線に従う歯面形状の複数の歯部が形成されるインナーロータ21と、このインナーロータ21の外部に回転軸芯Xから偏心するように配置され、内周にインナーロータ21の歯部より1つ歯数が多い歯部が形成されるアウターロータ22とを備えている。ここで、インナーロータ21が回転することで、アウターロータ22とインナーロータ21との間の容積が変化することで、オイルを昇圧し送出している。尚、ポンプロータ2は、内接型に構成される必要はなく、2つのギヤを有する外接ギヤポンプとして構成するものでも良い。
【0022】
インナーロータ21は、鉄系焼結部品を用いて形成され、図2に示すようにシャフト14と一体回転し、回転軸芯Xを中心に回転する。このときインナーロータ21は、インナーロータ21の軸方向端面21bが熱膨張部材17の端面(図2に示す17a)と近接対向し、他方の端面(図2に示す22a)がポンプカバー12の合わせ面12aと近接対向する。
【0023】
アウターロータ22は、鉄系焼結部品を用いて形成され、回転軸芯Xと離間する偏心軸(図示せず)を中心にして回転するように配置されている。このときアウターロータ22は、図2に示すように径方向は外径部22cがポンプボデー11の内径部11aに近接対向し、軸方向は前述のインナーロータ21と同様に、アウターロータ22の軸方向端面22bが熱膨張部材17の端面(図2に示す17a)と近接対向し、他方の端面(図2に示す22a)がポンプカバー12の合わせ面12aと近接対向するようにして収容されている。ここで、インナーロータ21、及びアウターロータ22と、熱膨張部材17の端面17aとの間の隙間を軸方向クリアランス10aとする。
【0024】
ポンプボデー11は、筒状の鉄系部材を用い、中空部を形成するように成型されている。ここで中空部の構造として図2に示すように、アウターロータ22の外径部22c、及び熱膨張部材17の径方向と近接対向する内径部11aと、軸方向において熱膨張部材17の軸方向端部17bと当接する段部11bと、熱膨張部材17を挿通する挿通部11eとを備える。また外部の構造として、ポンプボデー11と電動モータ部Cのモータハウジング13との組付け精度を向上するため、モータハウジング13に挿通する円筒部11gがポンプボデー11に形成されている。
【0025】
ポンプカバー12は、アルミ材や鉄系等の金属部材を用いてプレート状に成型され、軸方向においてポンプボデー11の中空部の一方を閉塞し、合わせ面12aがポンプボデー11の当接面11dに当接するように備えられている。このポンプカバー12には、合わせ面12a側に吸入ポートとなる第1凹部12bと、吐出ポートとなる第2凹部12cと、シャフト14の先端部14aが収容される第3凹部12dとを形成している。
【0026】
熱膨張部材17は、アルミ部材を用いて成型され、図1から図3に示すように中空円筒状で、シャフト14を回転自在に支持する軸受部17cと、ポンプロータ2と近接対向する端面17aと、ポンプボデー11の段部11bと当接する軸方向端部17bと、ポンプボデー11の内径部11aと当接する外周部17iとを備え、ポンプロータ2側の端面17aにはオイルの吸入ポートとなる第1凹部17dと、吐出ポートとなる第2凹部17eとを形成している。ここで、熱膨張部材17のポンプロータ2側の端面17aは、ポンプロータ2の外径と同一の円形状であるのが好ましい。このとき、第1凹部17dは、ポンプカバー12に形成された第1凹部12bの位相に対応し、また、第2凹部17eは、ポンプカバー12に形成された第2凹部12cの位相に対応するように形成している。また、熱膨張部材17は、オイルの温度や外気の温度により熱膨張部材17の温度が変化し、温度の上昇に伴い熱膨張し、温度の低下に伴い熱収縮する。また、熱膨張部材17の熱膨張係数はポンプボデー11、及びポンプロータ2に対し、大きくなるように設定している。これにより、図2に示すように、温度が比較的高温(例えば約80℃以上)にあるときは軸方向クリアランス10aが小さくなり、また図3に示すように、温度が比較的低温(例えば約20℃以下)にあるときは軸方向クリアランス10aが大きくなるように設定されている。ここで、温度を一例として挙げたが、ポンプ効率はオイルが持つ性質(動粘度)により大きく変化するため、例えばオイルの動粘度が高い場合は、前述した温度の定義は共に上昇(例えば高温は約100℃以上、低温は約40℃以下)し、また、動粘度が低い場合は、共に下降(例えば高温は約60℃以上、低温は約0℃以下)する等、温度基準は変化する。
【0027】
また、オイルを吸入する吸入口(図示せず)と、吐出口(図示せず)とはポンプボデー11、またはポンプカバー12のどちらに形成しても良く、ポンプカバー12と熱膨張部材17夫々に吸入ポート(12b、17d)、及び吐出ポート(12c,17e)を形成しているので、夫々のポートに対応する吸入口に繋がる吸入流路(図示せず)と、吐出口に繋がる吐出流路(図示せず)は、ポンプボデー11、またはポンプカバー12のどちらに形成しても良い。
〔電動モータ部〕
電動モータ部Cは、図1に示すようにモータハウジング13により例えばモールド等によって保持され、筒状となるコア部材16bと、コア部材16bに巻線されたコイル16aと、シャフト14と一体回転し、コア部材16bの内部に配設されたモータロータ15とを有するセンサレスブラシレスDCモータを備えている。
【0028】
モータハウジング13は、ポンプボデー11の円筒部11gが当接する内径部13aを備えることで、ポンプボデー11とモータハウジング13との組付け精度を確保している。また、モータハウジング13は、コア部材16b、及びコイル16aとモータロータ15との空間を遮断するように形成し、コア部材16b、及びコイル16aにオイルが流入することを防いでいる。
【0029】
モータロータ15は、モータハウジング13に配設されたコア部材16b、及びコイル16aの内周に回転可能となるように設けられ、回転軸芯Xを中心とする円柱状で磁気を有する成型物である。また、モータロータ15は、薄板の磁性鋼板を積層したヨーク15aと、このヨーク15aの周方向等間隔に平状のマグネット15bとを複数備えている。このマグネット15bはヨーク15aに埋没するように形成される。
〔電動ポンプの動作〕
上記構成の電動ポンプAは、制御部(図示せず)により制御される。制御部によって駆動指示がされたとき、コア部材16bに巻線されたコイル16aの励磁によってモータロータ15が回転される。このモータロータ15の駆動力により、シャフト14を介してポンプ部Bのインナーロータ21が一体回転する。そして、インナーロータ21の回転に伴いアウターロータ22はインナーロータ21と同方向に従動回転する。これらにより、ポンプロータ2は、吸入口(図示せず)からオイルを吸入し、吸入ポートから吐出ポートにかけて容積変化しつつ昇圧し、吐出口(図示せず)からオイルを吐出するポンプ作用を行う。
【0030】
このとき、ポンプロータ2より吸入、及び吐出されるオイルは、オイルが持つ温度特性により、ポンプ効率は大きく変化する。例えば、オイルが比較的高温である時は、オイルの粘性が低くなり、軸方向クリアランス10aの影響を大きく受け、軸方向クリアランス10aが広いと送出する圧力が増加するに伴いポンプ効率が低下する。また、例えばオイルが低温である時は、オイルの粘性が高くなることで、回転時の抵抗が大きくなり、その結果、ポンプロータ2が回転しにくくなり、必要な圧力や流量に対し電力を大きく消費し、ポンプ効率が低下する。
【0031】
ここで前述したように、熱膨張部材17がオイルや外気等による温度を受け、熱膨張部材17の温度が変化することで、熱膨張、及び熱収縮し、軸方向クリアランス10aを変化させることができる。このため、オイルが比較的高温となり、オイルの粘性が低下した場合は、図2に示すように熱膨張部材17が熱により熱膨張し、軸方向クリアランス10aを小さくするため、ポンプロータ2の回転により圧力が増加してもポンプ効率の低下を抑制することができる。よって、高温時は熱膨張部材17が熱膨張することでポンプ効率の向上を図ることができる。また、オイルが比較的低温となり、オイルの粘性が高くなる場合は、図3に示すように熱膨張部材17はオイルにより冷却され、熱収縮することで軸方向クリアランス10aが拡大されて、ポンプロータ2の回転に対する抵抗を低減し、回転し易くすることができる。これにより、低温時はオイルの粘性が高くても温度の影響をあまり受けず回転し易くすることで、消費電力を削減し、ポンプ効率の向上を図ることができる。
〔第2実施形態〕
本発明に係る電動ポンプの第2実施形態について図4から図6に基づいて説明する。また、この第2実施形態では、前述した第1実施形態と共通する構成の電動ポンプAを用いるものであるが、熱膨張部材の配設位置が異なっている。尚、この第2実施形態では、第1実施形態と共通する構成部材に関しては同一の符号を付与している。
〔電動モータ部〕
電動モータ部Cは第1実施形態に対応する同様の部材が用いられ、同一の機能を有するものとする。
〔ポンプ部〕
ポンプ部Bは、流路が形成されたハウジング3に収容されるポンプロータ2の回転により流体の吸入、及び吐出を行う。
【0032】
ハウジング1は、図4に示すようにシャフト14を回転自在に支持し、ポンプロータ2を収容するポンプボデー31と、熱膨張部材37を収容する収容部32eを形成したポンプカバー32とを備える。
【0033】
ポンプロータ2は、第1実施形態に対応する同様の部材が用いられ、同一の機能を有するものとする。
【0034】
ポンプボデー31は、鉄系部材からなり、図4に示すように内部の構造としてポンプロータ2を収容する収容部31cと、軸方向においてポンプカバー32と当接する当接面31dと、シャフト14を回転可能に支持する軸受部31hとを備える。また外部の構造として、ポンプボデー31と電動モータ部Cのモータハウジング13との組付け精度を向上するため、ポンプボデー31に円筒部31gが形成されている。さらに、収容部31c内のオイルが軸受部31hを介し、電動モータ部Cに流入することを防ぐ為に、円筒内径部31iにオイルシール18bを備えている。このとき、オイルシール18bを省略し、第1実施形態と同一の構造としても良い。
【0035】
収容部31cは、ポンプロータ2に対し軸方向が近接対向する底部31bと、ポンプロータ2に対し径方向が近接対向する内径部31aとから形成されている。
【0036】
ポンプカバー32は、アルミ材や鉄系等の金属部材を用いてプレート状に成型され、ポンプロータ2側に熱膨張部材37を収容する凹状の収容部32eが形成され、合わせ面32aがポンプボデー31の当接面31dに当接するように備えられている。
収容部32eは、熱膨張部材37の外周部37iと当接する収容部内径32gと、熱膨張部材37の軸方向端面37bと当接する収容部底面32fとから形成される。このとき、外周部37iと収容部内径32gの周形状は楕円形状や、最低1箇所が直線を有する形状とすることで、熱膨張部材37が回転軸芯X回りに回転しようとすることを規制するように形成される。また、その他の形状として熱膨張部材37の軸方向端面37bに凸部(図示しない)を形成し、この凸部に対応する凹部(図示しない)をポンプカバー32の収容部底面32fに形成することで回転軸X回りに回転使用とすることを規制しても良い。また、この凸部をポンプカバー32に、凹部を熱膨張部材37に形成しても良い。
【0037】
熱膨張部材37は、アルミ部材からなり、軸方向においてポンプロータ2に当接するポンプロータ2側の端面37aに吸入ポートとなる第1凹部37dと、吐出ポートとなる第2凹部37eと、シャフト14の先端部14aを収容できる第3凹部37hを形成している。また、前述のとおり、熱膨張部材37に形成された外周部37iと、軸方向端面37bとは、ポンプカバー32に形成された収容部32eに当接することで熱膨張部材37は保持されている。このとき、軸方向において熱膨張部材37のポンプロータ2側の端面37aとポンプロータ2の熱膨張部材37側の軸方向端面21b、22bとの間に形成される隙間を軸方向クリアランス10aとする。
【0038】
また、熱膨張部材37は、オイルの温度や外気の温度により熱膨張部材37の温度が変化し、温度の上昇に伴い熱膨張し、温度の低下に伴い熱収縮する。これにより、図5に示すように、温度が比較的高温にあるときは軸方向クリアランス10aが小さくなり、また図6に示すように、温度が比較的低温にあるときは軸方向クリアランス10aが大きくなるように設定されている。
〔電動ポンプの動作〕
前述した第1実施形態と同じように、電動ポンプAは、制御部(図示せず)より制御された電流がコア部材16bに巻線されたコイル16aの励磁によってモータロータ15が回転され、このモータロータ15の駆動力により、シャフト14を介してポンプ部Bのインナーロータ21が回転される。そして、シャフト14によりインナーロータ21が回転し、アウターロータ22はインナーロータ21と同方向に従動回転する。これらにより、収容部31cに収容されたポンプロータ2は、吸入口からオイルを吸入し、吸入ポートから吐出ポートにかけて容積変化しつつ昇圧し、吐出口からオイルを吐出するポンプ作用を行う。
【0039】
ここで、第1実施形態と同様に環境温度の変化により、熱膨張部材37の温度が変化することで、熱膨張、及び熱収縮することができる。このため、オイルが比較的高温となり、オイルの粘性が低下した場合は、図5に示すように熱膨張部材37が熱により熱膨張し、軸方向クリアランス10aを小さくするため、ポンプロータ2の回転により圧力が増加してもポンプ効率の低下を抑制することができる。よって、高温の時は熱膨張部材37が熱膨張することでポンプ効率の向上を図ることができる。また、オイルが比較的低温となり、オイルの粘性が高くなる場合は、図6に示すように熱膨張部材37はオイルにより冷却され、熱収縮することで軸方向クリアランス10aを拡大されて、ポンプロータ2の回転に対する抵抗を低減し、回転し易くすることができる。これにより、低温時はオイルの粘性が高くても温度の影響をあまり受けず回転し易くすることで、消費電力を削減し、ポンプ効率の向上を図ることができる。
〔第3実施形態〕
本発明に係る電動ポンプの第3実施形態について図7に基づいて説明する。この第3実施形態では、前述した第1実施形態、及び第2実施形態と共通する構成の電動ポンプA用いるものであるが、さらに弾性部材が配設されている。尚、この第3実施形態では、第1実施形態、及び第2実施形態と共通する構成部材に関しては同一の符号を付与している。
〔電動モータ部〕
電動モータ部Cは第1実施形態、及び第2実施形態に対応する同様の部材が用いられ、同一の機能を有するものとする。
〔ポンプ部〕
ポンプ部Bは、前述した第1実施形態と同様に、ポンプボデー11に収容されたポンプロータ2と、熱膨張部材17とに対し、閉塞するようにポンプカバー12がポンプボデー11に取り付けられている。
【0040】
このとき、図7に示すように、ポンプボデー11の段部11bと、熱膨張部材17の軸方向端部17bとの間に弾性力を有する弾性シール部材18cが備えられている。ここで、第1実施形態に弾性シール部材18cを備える例を示したが、第2実施形態に対し、軸方向においてポンプカバー12の収容部底面12fと熱膨張部材17との間に備えても良い。
【0041】
弾性シール部材18cは、回転軸芯Xと同一軸芯となる円形状であり、ポンプボデー11、及び熱膨張部材17に対し、軸方向に弾性力が働き、また、外部からある一定以上の力がかかると弾性変形するように備えられている。また、弾性シール部材18cは、シール性を有するゴム部材(例えばOリング)により形成され、比較的高温の時には熱膨張し、低温時には熱収縮する特性を有する。
〔電動ポンプの動作〕
弾性シール部材18cは、例えばオイルが比較的高温となった場合、弾性シール部材18cの温度も上昇し、熱膨張する。これにより、ポンプボデー11と熱膨張部材17との間において、軸方向に弾性力が働き、熱膨張部材17がポンプロータ2側に力が作用する。よって、前述と同様に、軸方向クリアランス10aを縮小することができ、比較的高温時のポンプ効率の向上を図ることができる。また、例えばオイルが低温となった場合も同様に、弾性シール部材18cの温度が低下し、熱収縮される。これにより、ポンプボデー11と熱膨張部材17との間において、軸方向に働く弾性力は低下し、ポンプロータ2を軸方向に押す力が低下するのでポンプロータ2は回転しやすくなる。よって、前述と同様に、ポンプロータ2が回転し易くすることで消費電力を削減し、ポンプ効率の向上を図ることができる。
【0042】
また、その他の作用について、弾性シール部材18cは、ある一定の圧力がかかると弾性変形する特性を有しているため、例えば比較的高温時に、弾性シール部材18cが熱膨張し、軸方向クリアランス10aを縮小し過ぎたとしても、ポンプロータ2側から発生する油圧により弾性シール部材18cが弾性変形し、軸方向クリアランス10aを拡大できるようにすることで、最適化した油圧を発生させることができる。この作用は、公知の方法(例えば特開2006−233867公報)に記載の脱調防止機構と同一の機能を有する物である。
【符号の説明】
【0043】
〔第1実施形態〕
11 ポンプボデー
12 ポンプカバー
14 回転軸(シャフト)
15 モータロータ
17 熱膨張部材
10a 軸方向クリアランス
2 ポンプロータ
21 インナーロータ
22 アウターロータ
A 電動ポンプ
B ポンプ部
C 電動モータ部
X 回転軸芯
〔第2実施形態〕
31 ポンプボデー
32 ポンプカバー
32e 収容部
2 ポンプロータ
21 インナーロータ
22 アウターロータ
14 回転軸(シャフト)
15 モータロータ
37 熱膨張部材
18b オイルシール
10a 軸方向クリアランス
A 電動ポンプ
B ポンプ部
C 電動モータ部
X 回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7