特許第6662018号(P6662018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6662018
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20200227BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   F16F15/04 A
   F16F15/04 P
   F16F15/04 E
   E04H9/02 331A
   E04H9/02 331D
   E04H9/02 331Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-246928(P2015-246928)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-110769(P2017-110769A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大津 春記
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】花村 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】松崎 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】五十畑 建
(72)【発明者】
【氏名】藁科 全興
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−239422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造と前記下部構造とが水平方向に相対変位する免震構造であって、
前記下部構造には、前記上部構造の側部から前記水平方向に所定距離を隔てて立設された壁部と、前記壁部の上端から前記水平方向に延出する水平部と、が設けられており、
先端が前記上部構造から前記水平方向に跳ね出し、基端が前記上部構造に接合した跳ね出し部材と、
前記跳ね出し部材の下面に設けられ、前記下部構造の前記水平部との間で前記跳ね出し部材を支承する支承体と、
を有し、
前記相対変位の中立時の前記支承体から前記壁部までの距離は、前記所定距離以上であり、
前記水平部には、前記相対変位の中立時における前記支承体の両側の所定範囲に滑り面が形成されており、
前記跳ね出し部材は、前記支承体から前記先端側に前記所定範囲以上突出している
ことを特徴とする免震構造。
【請求項2】
上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造と前記下部構造とが水平方向に相対変位する免震構造であって、
前記下部構造には、前記上部構造の側部から前記水平方向に所定距離を隔てて立設された壁部と、前記壁部の上端から前記水平方向に延出する水平部と、が設けられており、
先端が前記上部構造から前記水平方向に跳ね出し、基端が前記上部構造に接合した跳ね出し部材と、
前記跳ね出し部材の下面に設けられ、前記下部構造の前記水平部との間で前記跳ね出し部材を支承する支承体と、
を有し、
前記相対変位の中立時の前記支承体から前記壁部までの距離は、前記所定距離以上であり、
前記跳ね出し部材の前記支承体よりも前記基端側の下部に錘が設けられている
ことを特徴とする免震構造。
【請求項3】
上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造と前記下部構造とが水平方向に相対変位する免震構造であって、
前記下部構造には、前記上部構造の側部から前記水平方向に所定距離を隔てて立設された壁部と、前記壁部の上端から前記水平方向に延出する水平部と、が設けられており、
先端が前記上部構造から前記水平方向に跳ね出し、基端が前記上部構造に接合した跳ね出し部材と、
前記跳ね出し部材の下面に設けられ、前記下部構造の前記水平部との間で前記跳ね出し部材を支承する支承体と、
を有し、
前記相対変位の中立時の前記支承体から前記壁部までの距離は、前記所定距離以上であり、
前記上部構造と前記跳ね出し部材の前記基端との接合はピン接合である
ことを特徴とする免震構造。
【請求項4】
請求項3に記載の免震構造であって、
前記ピン接合は、
前記上部構造の側部から突出するように前記上部構造に設けられた板部材であって、先端側に係合孔が設けられた板部材と、
前記跳ね出し部材の前記支承体よりも前記基端側の下部に設けられた係合凸部であって、前記係合孔よりも小さく形成され、前記係合孔に挿入される係合凸部と、
を含んで構成されている
ことを特徴とする免震構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の免震構造であって、
前記所定距離は、前記上部構造と前記下部構造との最大変位の距離よりも大きい
ことを特徴とする免震構造。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の免震構造であって、
前記支承体は、球体を備えた転がり支承である
ことを特徴とする免震構造。
【請求項7】
請求項6に記載の免震構造であって、
前記支承体は、前記水平方向と直交する方向に複数配置されている
ことを特徴とする免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上部構造(例えば建物)と下部構造(例えば基礎)との間に免震装置(例えば積層ゴム)を備え、免震装置が変形することにより、上部構造の振動を抑制するようにした免震構造が知られている。また、上部構造と下部構造(上部構造の周囲の壁部)との間に免震装置の変形に必要な隙間(以下、クリアランスともいう)を設け、さらに、そのクリアランス上を覆う部材を設けるようにしたものも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、上部構造に設けられた突出板(跳ね出し部材に相当)と、下部構造(壁部)に設けられた床板とによってクリアランスを覆っている。そして、地震発生時には、突出板が水平方向に移動することによって床板と衝突し、床板の先端が持ち上げられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−327551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構造では、クリアランスを覆う突出板と床板が異なる部材で構成されており、さらに、地震発生時に床板が持ち上がるため、雰囲気や情感を重要視する建物(例えば古い建築物)に適用するには違和感があるという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その主な目的は、クリアランスを覆う部材(跳ね出し部材)を上部構造側のみに設けて、外観上の違和感を無くすとともに、跳ね出し部材を確実に支承することにあることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために本発明の免震構造は、
上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造と前記下部構造とが水平方向に相対変位する免震構造であって、
前記下部構造には、前記上部構造の側部から前記水平方向に所定距離を隔てて立設された壁部と、前記壁部の上端から前記水平方向に延出する水平部と、が設けられており、
先端が前記上部構造から前記水平方向に跳ね出し、基端が前記上部構造に接合した跳ね出し部材と、
前記跳ね出し部材の下面に設けられ、前記下部構造の前記水平部との間で前記跳ね出し部材を支承する支承体と、
を有し、
前記相対変位の中立時の前記支承体から前記壁部までの距離は、前記所定距離以上であり、
前記水平部には、前記相対変位の中立時における前記支承体の両側の所定範囲に滑り面が形成されており、
前記跳ね出し部材は、前記支承体から前記先端側に前記所定範囲以上突出している
ことを特徴とする。
このような免震構造によれば、跳ね出し部材が上部構造側のみに設けられており、また、上部構造と下部構造とが相対変位する際に、跳ね出し部材が持ち上がらない(水平方向に移動する)ので外観上の違和感がない。また、支承体から壁部までの距離がクリアランスの距離(所定距離)以上であるので、相対変位が過大となる場合においても支承体がクリアランスの部分に落ちないようにすることできる。よって、外観上の違和感を無くすとともに、跳ね出し部材を確実に支承することができる。
更に、滑り面の露出を防止でき、安全性の向上を図ることができる。
【0008】
また、上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造と前記下部構造とが水平方向に相対変位する免震構造であって、
前記下部構造には、前記上部構造の側部から前記水平方向に所定距離を隔てて立設された壁部と、前記壁部の上端から前記水平方向に延出する水平部と、が設けられており、
先端が前記上部構造から前記水平方向に跳ね出し、基端が前記上部構造に接合した跳ね出し部材と、
前記跳ね出し部材の下面に設けられ、前記下部構造の前記水平部との間で前記跳ね出し部材を支承する支承体と、
を有し、
前記相対変位の中立時の前記支承体から前記壁部までの距離は、前記所定距離以上であり、
前記跳ね出し部材の前記支承体よりも前記基端側の下部に錘が設けられている
ことを特徴とする。
このような免震構造によれば、跳ね出し部材の先端に人がのっても不安定にならない。よって安全性の向上を図ることができる。
【0009】
また、上部構造と下部構造との間に免震装置を備え、前記上部構造と前記下部構造とが水平方向に相対変位する免震構造であって、
前記下部構造には、前記上部構造の側部から前記水平方向に所定距離を隔てて立設された壁部と、前記壁部の上端から前記水平方向に延出する水平部と、が設けられており、
先端が前記上部構造から前記水平方向に跳ね出し、基端が前記上部構造に接合した跳ね出し部材と、
前記跳ね出し部材の下面に設けられ、前記下部構造の前記水平部との間で前記跳ね出し部材を支承する支承体と、
を有し、
前記相対変位の中立時の前記支承体から前記壁部までの距離は、前記所定距離以上であり、
前記上部構造と前記跳ね出し部材の前記基端との接合はピン接合である
ことを特徴とする。
このような免震構造によれば、免震装置の変形に応じて傾斜する(逃げる)ことができる。
【0010】
かかる免震構造であって、前記ピン接合は、前記上部構造の側部から突出するように前記上部構造に設けられた板部材であって、先端側に係合孔が設けられた板部材と、前記跳ね出し部材の前記支承体よりも前記基端側の下部に設けられた係合凸部であって、前記係合孔よりも小さく形成され、前記係合孔に挿入される係合凸部と、を含んで構成されていることが望ましい。
このような免震構造によれば、簡易にピン接合を形成することができる。
【0011】
かかる免震構造であって、前記所定距離は、前記上部構造と前記下部構造との最大変位の距離よりも大きいことが望ましい。
このような免震構造によれば、上部構造と下部構造との衝突を防止することができる。
【0013】
かかる免震構造であって、前記支承体は、球体を備えた転がり支承であることが望ましい。
このような免震構造によれば、水平面の各方向への変位に対して対応することができる。
【0014】
かかる免震構造であって、前記支承体は、前記水平方向と直交する方向に複数配置されていることが望ましい。
このような免震構造によれば、跳ね出し部材の幅(水平方向と直交する方向の長さ)が広くても安定して支承することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外観上の違和感を無くすとともに、跳ね出し部材を確実に支承することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の免震構造の一例を示す概略平面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3図2の跳ね出し部材50のB−B断面図である。
図4】アングル材12と丸棒受け部14の構成を説明するための斜視図である。
図5図5A図5Cは、跳ね出し部材50の取り付け方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
===実施形態===
<<免震構造について>>
図1は、本実施形態の免震構造の一例を示す概略平面図である。また図2は、図1のA−A断面図である。図3は、図2の跳ね出し部材50のB−B断面図である。図4は、アングル材12と丸棒受け部14の構成を説明するための斜視図である。
【0018】
本実施形態では、図に示すように各方向を設定する。すなわち、図1において建物10の長辺方向に沿った方向を前後方向とし、建物10に対して階段部40が位置する方向を「前」とし、逆側を「後」とする。また、図1において前後方向と直交する方向(短辺方向)を左右方向とし、後側から前側をみたときの右側を「右」とし、左側を「左」とする。また、前後方向及び左右方向と直交する方向を上下方向(鉛直方向)とし、免震装置30に対して建物10が位置する側を「上」、逆側を「下」とする。
【0019】
本実施形態の免震構造は、建物10(上部構造に相当)と、地盤20(下部構造に相当)と、免震装置30と、階段部40とを備えている。また、免震構造は、不図示のダンパーなども備えている。
【0020】
建物10は、免震装置30を介して、地盤20の上(具体的には溝部21の底面上)に配置されている。そして、建物10は、免震装置30によって地盤20に対して水平方向(前後方向及び左右方向)に相対変位可能に免震支承されている。換言すると、建物10と地盤20は、地震力などの外力を受けることにより水平方向に相対変位する。なお、本実施形態の建物10は、雰囲気や情感など外観が重要視される建築物である。
【0021】
地盤20は、建物10を支持しており、建物10からの力を地盤に伝えている。また、地盤20は、建物10の外周を囲むように凹状(溝状)に形成された溝部21を有している。この溝部21の側壁21a(壁部に相当)と建物10との間には、距離Wのクリアランスが設けられている。なお、距離Wは、免震装置30の水平方向への最大変形量(建物10と地盤20との最大変位の距離)よりも大きくなるように設定されている。換言すると、側壁21aは、建物10の側部と距離Wのクリアランスを隔てて立設されている。また、側壁21aの上端から前方(水平方向)に水平部21bが延出している。側壁21aに近い部分の(具体的には、跳ね出し部材50と対向する部分)の水平部21b上には、滑り板60が配置されている。滑り板60は、例えばステンレス製の板状部材であり、その表面(上面)は滑り面となっている。
【0022】
また、建物10の出入口となる部位(図1において前側)には、クリアランスを覆うように階段部40が設けられている。本実施形態の階段部40は、建物10に設けられているので建物10の変位(移動)に伴って移動する。つまり、建物10と地盤20との相対変位に応じて、階段部40と地盤20とが相対変位することになる(後述する)。なお、階段部40が設けられた部位以外のクリアランスに対しては、人や車両などが落下しないような措置(外側に植栽を設けるなど)が施されている。
【0023】
免震装置30は、建物10の下面と地盤20の溝部21の底面との間に複数(本実施形態では、図1に示すように12固)設けられている。複数の免震装置30は、各位置において、建物10の重量(荷重)を分担支持している。本実施形態の免震装置30は、積層ゴムタイプのものであり、積層体32(例えば、円形のゴム層と鋼板とを上下に交互に積層してなる円柱状の弾性体)を、上下一対のフランジ板31で挟んで構成されている。また、下側のフランジ板31は、不図示のボルトなどにより地盤20に固定されており、上側のフランジ板31は、不図示のボルトなどにより建物10に固定されている。そして、免震装置30は、建物10と地盤20との相対変位による水平力に応じて積層体32が水平方向にせん断変形(上側のフランジ板31と下側のフランジ板31とが水平方向に相対変位)する。このように免震装置30がせん断変形することにより、建物10の水平振動を長周期化することができ、建物10の損傷を防止することができる。なお、免震装置30のせん断変形の大きさに応じて、免震装置30の高さは低くなる。つまり、地震発生時(建物10と地盤20とが水平方向に相対変位した時)の建物10の上下方向の位置は、平常時(相対変位の中立時に相当)より低下することになる。
【0024】
階段部40は、建物10の出入口(前側部分)において、建物10と地盤20(側壁21a)との間のクリアランスを覆うように設けられた階段状の部位である。階段部40は、跳ね出し部材50を備えている。跳ね出し部材50は、階段部40の最下段(一段目)を構成している、なお、跳ね出し部材50の詳細については後述する。階段部40の2段目以上は、建物10によって構成されている。
【0025】
図2に示すように、階段部40の2段目(建物10)の前面には断面L字形のアングル材12の一方の面(上下方向に沿った面)がボルト(不図示)などで固定されている。また、図4に示すように、アングル材12の他方の面(前後方向に沿った面)の下側には、丸棒受け部14がアングル材12から前方に突出するように接続(例えば溶接)されている。そして、この丸棒受け部14のアングル材12から突出した部位には貫通孔14a(係合孔に相当)が設けられている。また、図3及び図4に示すように、丸棒受け部14は、左右方向に間隔をあけて複数設けられている。これらの丸棒受け部14の貫通孔14aには、跳ね出し部材50の丸棒55(後述)が挿入されることになる。
【0026】
跳ね出し部材50は、先端が建物10の階段部40から前方(水平方向)に跳ね出し、基端が階段部40の2段目(建物10)の前端部にピン接合されている。跳ね出し部材50は、床板51と、下枠52とを備えている。
【0027】
床板51は、跳ね出し部材50うち視認される部分(ここでは図2に示すように前面および上面)に形成されている。床板51は、天然石、あるいは、人造石によって石貼りされている。
【0028】
下枠52は、跳ね出し部材50の骨組み(フレーム)であり床板51の下側に設けられている。また、下枠52には、支承体53と、ウェイト54(錘に相当)と、丸棒55(係合凸部に相当)と、弾性体56とが設けられている。
【0029】
支承体53は、下枠52の前端部の下面(すなわち、跳ね出し部材50の下面)に設けられている。本実施形態位において、支承体53は、鉄球(球体に相当)を全方向に回転可能に保持したボールキャスタ(転がり支承体)を用いている。なお、図2では、支承体53は1つしか記載されていないが、支承体53は、左右方向に間隔をあけて複数配置されている複数配置されている。そして、各支承体53は、地盤20の水平部21b(より具体的には滑り板60)と接触し、水平部21bとの間で跳ね出し部材50を支承する。
【0030】
ウェイト54は、下枠52の後端部(支承体53よりも後側)の下部に設けられている。本実施形態のウェイト54は、鋼板を上下方向に複数重ねて構成されている。このウェイト54を設けているのは以下の理由による。
【0031】
もし仮に、ウェイト54を設けていない場合、跳ね出し部材50の前端(先端)の上部に人がのったとき(体重をかけたとき)に、跳ね出し部材50が支承体53を支点(軸)として回転する(跳ね出し部材50の後端が上に持ち上がる)おそれがあり、安全性に問題がある。また、跳ね出し部材50(丸棒55)と、建物10(丸棒受け14)との接合(ピン接合)が解除されてしまうおそれもある。これに対し、本実施形態では、支承体53よりも後側にウェイト54を設けているので、跳ね出し部材50が回転する(跳ね出し部材50の後端が上に持ち上がる)ことを抑制でき、安全性の向上を図ることができる。なお、ウェイト54を設けることで支承体53よりも後側の重量が重くなっても、跳ね出し部材50の後端は建物10に接合されているので、跳ね出し部材50は傾かずに水平に保持されている。
【0032】
丸棒55は、下枠52の後端部の下面において、下側に向けて突出するように設けられている。丸棒55は、丸棒受け部14と対応する位置に設けられている。すなわち、丸棒55は、左右方向に間隔をあけて複数設けられている。そして、丸棒55は丸棒受け部14の貫通孔14aに挿入されることになる。
【0033】
弾性体56は、弾性力を有する部材であり、本実施形態ではゴムを用いている。弾性体56は、下枠52の後端部の下面において、丸棒55の上端部の周囲を囲むように設けられている。そして、丸棒55が丸棒受け部14の貫通孔14aに挿入された際に、弾性体56は、下枠52と丸棒受け14との間に挟まれる。これにより、免震装置30が変形することで建物10の位置が低くなった際に、跳ね出し部材50が建物10に対して傾きやすく(逃げやすく)くなる。
【0034】
<<跳ね出し部材50の取り付けについて>>
図5A図5Cは、跳ね出し部材50の取り付け方法の説明図である。
【0035】
まず、図5Aに示すように、丸棒受け14に対する下枠52の位置合わせをする。つまり、丸棒55が丸棒受け14の貫通孔14aの上に位置するように、下枠52の位置を合わせる。
【0036】
次に、図5Bに示すように、下枠52を下に移動させ、丸棒55を丸棒受け14の貫通孔14aに挿通させる。
【0037】
その後、図5Cに示すように、下枠52の上面及び前側面に床板51を取付ける。
【0038】
<<免震の動作について>>
地震などの外力を受けると、建物10と地盤20とが水平方向(ここでは前後方向とする)に相対変位する。建物10と地盤20側壁21aとの間には免震装置30の最大変形量(最大変位の距離)よりも大きい距離Wのクリアランスが設けられているため、建物10は地盤20に衝突せずに振動する。この建物10の振動は、免震装置30によって抑制される。また、階段部40(跳ね出し部材50を含む)は、建物10に設けられているので、跳ね出し部材50の支承体53は、建物10と地盤20の相対変位に応じて、当該跳ね出し部材50を支承しつつ、水平部21bの滑り板60上(滑り面)を転がる。つまり、跳ね出し部材50は、建物10とともに、地盤20に対して前後方向に移動(変位)する。
【0039】
また、跳ね出し部材50の後端と建物10とはピン接合であるので、免震装置30の変形によって、建物10の位置が低下した際に、跳ね出し部材50は建物10との接合部を支点として傾斜する(逃げる)ことができる。
【0040】
このように本実施形態の免震構造では、跳ね出し部材50が建物10に設けられており、建物10の階段部40の一部として構成されているので外観上の違和感がない。また、建物10と地盤20とが相対変位する際においても、跳ね出し部材50が地盤20の水平部21b上を移動する(持ち上がらない)ので違和感がない。また、支承体53から地盤20の側壁21aまでの距離Lが、クリアランスの距離W以上であるので、想定外の地震が発生した場合においても、支承体53が側壁21aを超えて溝部21に落ちない。よって、外観上の違和感を無くすとともに、跳ね出し部材50を確実に支承することができる。
【0041】
なお、滑り板60(滑り面)は、支承体53の両側の所定範囲に設けることが望ましい。例えば、想定される相対変位が図2に示す範囲aである場合、少なくとも支承体53に対して両側(前側、後側)に範囲aの部分に滑り面を設けることが望ましい。この場合、跳ね出し部材50は、前端側において、支承体53から範囲a以上突出させるようにする。例えば、支承体53の前側に距離Lの滑り面(滑り板60)を設ける場合、跳ね出し部材50の前端を支承体53から距離L以上突出させるようにする。仮に、この場合、跳ね出し部材50の前端が図2と同じ位置であると、平常時において跳ね出し部材50の前方に滑り板60(滑り面)が露出していることになり、安全性に問題が生じる。これに対し、跳ね出し部材50の前端を支承体53から距離L以上突出させると、平常時において跳ね出し部材50の前方に滑り板60(滑り面)が露出しないので、安全性の向上を図ることができる。
【0042】
以上、説明したように、本実施形態の免震構造は、建物10と地盤20との間に免震装置30を備え、建物10と地盤20とが水平方向に相対変位する免震構造であり、地盤20には建物10の側部から前方に距離Wを隔てて立設された側壁21aと、側壁21aの上端から前方に延出する水平部21bが設けられている。
【0043】
そして、本実施形態では、先端が建物10から前方に跳ね出し、基端が建物10に接合した跳ね出し部材50と、跳ね出し部材50の下面に設けられ、地盤20の水平部21bとの間で跳ね出し部材50を支承する支承体53と、を有している。また、平常時(相対変位の中立時)の支承体53から側壁21aまでの距離Lは、クリアランスの距離W以上である。これのように、跳ね出し部材50が建物10のみに設けられており、また、建物10と地盤20とが相対変位する際に、跳ね出し部材50が持ち上がらない(水平方向に移動する)ので外観上の違和感がない。また、支承体53から側壁21aまでの距離Lがクリアランスの距離W(所定距離)以上であるので、支承体53が、側壁21aを超えてクリアランスに落ちないようにできる。よって、外観上の違和感を無くすとともに、跳ね出し部材50を確実に支承することができる。
【0044】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0045】
前述の実施形態では、建物10と地盤20との間に免震装置30が配置されていたがこれには限られず、例えば、建物の中間層(上部構造と下部構造との間)に免震装置30が配置されていてもよい。
【0046】
前述の実施形態では、支承体53としてボールキャスタ(転がり支承体)を用いていたが、これには限らない。例えば、円柱形状の部材を軸が左右方向に沿うように配置し、軸を中心に回転して支承するものでもよい。この場合も建物10と地盤20とが前後方向に相対変位した場合、その建物10の変位に応じて、跳ね出し部材50も水平方向に変位することになる。但し、この場合、建物10と地盤20とが軸方向(この場合左右方向)に相対変位する場合には対応できない(転がらない)。本実施形態では支承体53としてボールキャスタを用いているので、前後方向及び左右方向の各方向への相対変位に対して対応することができる。また、支承体53として滑り支承体を用いてもよい。
【0047】
前述の実施形態では、建物10に固定された丸棒受け部14の貫通孔14aに、跳ね出し部材50の後端に設けられた丸棒55を挿入することに基づいて、跳ね出し部材50と建物10とをピン接合していたが、これには限らず、他の構成によって建物10と跳ね出し部材50とをピン接合するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 建物
12 アングル材
14 丸棒受け部
14a 貫通孔
20 地盤
21 溝部
21a 側壁
21b 水平部
30 免震装置
31 フランジ板
32 積層体
40 階段部
50 跳ね出し部材
51 床板
52 下枠
53 支承体
54 ウェイト
55 丸棒
56 弾性体
60 滑り板
図1
図2
図3
図4
図5