特許第6662032号(P6662032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6662032
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】自動車のエネルギ回生システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/24 20060101AFI20200227BHJP
   B60R 16/03 20060101ALI20200227BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20200227BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20200227BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20200227BHJP
   F02D 29/04 20060101ALI20200227BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20200227BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20200227BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   B60W10/24
   B60R16/03 Z
   B60L7/14
   B60L1/00 L
   B60H1/32 613Z
   F02D29/04 B
   F02D29/06 E
   B60R16/03 K
   B60W10/30
   B60W10/00 150
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-253184(P2015-253184)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-114379(P2017-114379A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松田 征二
(72)【発明者】
【氏名】加茂 正幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 修
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−015524(JP,A)
【文献】 特開2015−189249(JP,A)
【文献】 特開2012−020597(JP,A)
【文献】 特開2015−030377(JP,A)
【文献】 特開2012−147636(JP,A)
【文献】 特開2011−244568(JP,A)
【文献】 特開2000−059918(JP,A)
【文献】 特開2015−033205(JP,A)
【文献】 特開2012−111270(JP,A)
【文献】 特開2003−158801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
F02D 29/00 − 29/06
B60K 6/20 − 6/547
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
B60L 50/00 − 58/40
B60H 1/00 − 3/06
B60R 16/00 − 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを始動する際に前記エンジンを始動する動力の動力源となり、前記エンジンの始動後に前記エンジンから伝達される動力で発電する電動発電装置と、
前記エンジンを始動する際に前記電動発電装置に電力を供給する一方、前記電動発電装置で発電された電力が充電されるバッテリと、
空調用の冷凍サイクル装置を構成し、前記エンジンから伝達される動力で駆動されるコンプレッサと、
前記冷凍サイクル装置を構成するエバポレータに設けられ、該エバポレータからの冷気によって冷却されて蓄冷され、基準温度を超える場合に放冷する蓄冷装置と、
前記電動発電装置及び前記コンプレッサを制御し、自動車の制動時の慣性エネルギを前記電動発電装置を介して前記バッテリに回収させ、又は、前記コンプレッサを介して前記蓄冷装置に回収させる回生制御装置と
を備え、
前記回生制御装置は、前記コンプレッサの稼働状況と、前記バッテリの充電率と、前記エバポレータによって冷却された蓄冷装置を通過した後の出口冷気温度とに基づき、前記バッテリに回収させる回生と、前記蓄冷装置に回収させる回生とを制御し、
前記コンプレッサが駆動され、且つ前記バッテリの充電率が所定の下限値以上であって、前記出口冷気の温度が第1所定温度未満である場合には、前記コンプレッサを介して前記蓄冷装置に蓄冷させ、且つ前記電動発電装置を介して前記バッテリに前記慣性エネルギを回収させることを特徴とする自動車のエネルギ回生システム。
【請求項2】
前記バッテリの充電率が所定の下限値以上であって、前記出口冷気温度が第1所定温度以上である場合には、前記コンプレッサを介して前記蓄冷装置に蓄冷させることを特徴とする請求項1記載の自動車のエネルギ回生システム。
【請求項3】
前記バッテリの充電率が所定の下限値未満の場合には、前記電動発電装置を介して前記バッテリに前記慣性エネルギを回収させることを特徴とする請求項又はに記載の自動車のエネルギ回生システム。
【請求項4】
前記電動発電装置は、前記エンジンの出力軸に設けられたクランクプーリとの間にベルトが掛け渡されたベルト式のスタータジェネレータであることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の自動車のエネルギ回生システム。
【請求項5】
前記回生制御装置は、バッテリの充電率が所定の余裕値以上であって、前記出口冷気温度が前記第1所定温度よりも高い第2所定温度よりも高い場合に前記電動発電装置を動力源として前記コンプレッサを駆動して前記蓄冷装置に蓄冷させることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の自動車のエネルギ回生システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車のエネルギ回生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両制動時の走行エネルギにより発電して回生電力を出力する発電機と、空調用の冷凍サイクル装置の一部をなしてエンジン又は空調コンプレッサ駆動モータで駆動されるコンプレッサと、車両制動時の車両慣性エネルギを発電機の発電電力及びコンプレッサの駆動力又は駆動電力として回収する制御を行う回生制御部とを備える車両用回生制動装置が記載されている。かかる回生制動装置は、発電機により出力される電力を蓄電、放電可能なバッテリと、冷凍サイクル装置に設けられた蓄冷、放冷を調節可能な蓄冷装置とを有し、回生制御部は、車両制動時に蓄冷器を蓄冷動作させることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、内燃機関の動力により駆動されて且つ電子制御可能な車載補機と、該車載補機の駆動によって生成されたエネルギを蓄えるエネルギ蓄積手段とを備える車両に適用され、ドライバによって車両の減速指示がなされる状況下において、車両の運動エネルギを車載補機の駆動エネルギに変換すべく車載補機を駆動させる回生制御を行う車両用制御装置が記載されている。かかる車両用制御装置は、回生制御が行われる期間以外の期間であって且つ車両の走行中において、エネルギ蓄積手段のエネルギ蓄積量に余裕を持たせるように車載補機の駆動制御を行う制御手段を備えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−158801号公報
【特許文献2】特開2012−111270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された車両用回生制動装置では、回生制御部が、車両制動時に蓄冷器に蓄冷動作させるが、バッテリの充電率が下限値を下回る場合にも蓄冷動作させるとバッテリが過放電となることがある。
【0006】
特許文献2に記載された車両用制御装置は、回生制御が行われる期間以外の期間であって且つ車両の走行中において、エネルギ蓄積量に余裕を持たせるように車載補機の駆動制御を行うが、回生制御が行われる期間でバッテリの充電率や冷凍サイクル装置(エアコン)の稼働状況によって車載補機を選択してエネルギを回生する旨の記載はない。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、コンプレッサの稼働状況に応じて自動車の制動時におけるエネルギ回生の効率化を図ることができる自動車のエネルギ回生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る自動車のエネルギ回生システムは、エンジンを始動する際に前記エンジンを始動する動力の動力源となり、前記エンジンの始動後に前記エンジンから伝達される動力で発電する電動発電装置と、前記エンジンを始動する際に前記電動発電装置に電力を供給する一方、前記電動発電装置で発電された電力が充電されるバッテリと、空調用の冷凍サイクル装置を構成し、前記エンジンから伝達される動力で駆動されるコンプレッサと、前記冷凍サイクル装置を構成するエバポレータに設けられ、該エバポレータからの冷気によって冷却されて蓄冷され、基準温度を超える場合に放冷する蓄冷装置と、前記電動発電装置及び前記コンプレッサを制御し、自動車の制動時の慣性エネルギを前記電動発電装置を介して前記バッテリに回収させ、又は、前記コンプレッサを介して前記蓄冷装置に回収させる回生制御装置とを備え、前記回生制御装置は、前記コンプレッサの駆動状況と、前記バッテリの充電率と、前記エバポレータによって冷却された蓄冷装置を通過した後の出口冷気温度とに基づき、前記バッテリに回収させる回生と、前記蓄冷装置に回収させる回生とを制御し、前記コンプレッサが駆動され、且つ前記バッテリの充電率が所定の下限値以上であって、前記出口冷気の温度が第1所定温度未満である場合には、前記コンプレッサを介して前記蓄冷装置に蓄冷させ、且つ前記電動発電装置を介して前記バッテリに前記慣性エネルギを回収させる
【0009】
上記(1)の構成によれば、回生制御装置は、コンプレッサが駆動され、且つバッテリの充電率が所定の下限値以上であって、出口冷気の温度が第1所定温度以上である場合に、自動車の制動時の慣性エネルギをコンプレッサを介して蓄冷装置に蓄冷させ、且つ電動発電装置を介してバッテリに回収させる。これにより、コンプレッサが駆動され、且つバッテリの充電率が所定の下限値以上であることを条件に、自動車の制動時におけるエネルギ回生の効率化を図ることができる。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記バッテリの充電率が所定の下限値以上であって、前記出口冷気温度が第1所定温度以上である場合には、前記コンプレッサを介して前記蓄冷装置に蓄冷させる。
上記(2)の構成によれば、回生制御装置は、バッテリの充電率が所定の下限値以上であって、出口冷気温度が第1所定温度以上である場合に自動車の制動時の慣性エネルギをコンプレッサを介して蓄冷装置に蓄冷させるので、バッテリの充電率が所定の下限値以上であることを条件に、コンプレッサの稼働状況に応じて自動車の制動時におけるエネルギ回生の効率化を図ることができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記バッテリの充電率が所定の下限値未満の場合には、前記電動発電装置を介して前記バッテリに回収させる。
上記(3)の構成によれば、回生制御装置は、バッテリの充電率が所定の下限値未満の場合には、電動発電装置を介してバッテリに回収させるので、電池切れ(電欠)を回避することができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)から(3)のいずれか一つの構成において、前記電動発電装置は、前記エンジンの出力軸に設けられたクランクプーリとの間にベルトが掛け渡されたベルト式のスタータジェネレータである。
上記(4)の構成によれば、ベルト式のスタータジェネレータがエンジンの出力軸に設けられたクランクプーリとの間に掛け渡されたベルトを循環させ、エンジンを始動する一方、エンジンから伝達される動力で駆動されて発電する。これにより大きな電力を回生することができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)から(3)のいずれか一つの構成において、前記回生制御装置は、バッテリの充電率が所定の余裕値以上であって、前記出口冷気温度が前記第1所定温度よりも高い第2所定温度よりも高い場合に前記電動発電装置を動力源として前記コンプレッサを駆動して前記蓄冷装置に蓄冷させる。
上記(5)の構成によれば、バッテリの充電率が所定の余裕値以上であって、出口冷気温度が第1所定温度よりも高い第2所定温度よりも高い場合に電動発電装置を動力源としてコンプレッサを駆動するので、制動時にもコンプレッサを駆動することができ、自動車の車室内を冷却することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、コンプレッサの稼働状況に応じて自動車の制動時におけるエネルギ回生の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る自動車のエネルギ回生システムの装置構成を概略的に示すシステム構成図である。
図2図1に示した自動車のエネルギ回生システムの制御構成を概略的に示すシステム構成図である。
図3図1及び図2に示した自動車のエネルギ回生システムの制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動車のエネルギ回生システム1の構成を概略的に示す構成図であり、図2は、図1に示した自動車のエネルギ回生システム1の制御構成を概略的に示すシステム構成図である。
図1に示したように、本発明の実施形態に係る自動車のエネルギ回生システム1は、自動車の制動時の慣性エネルギをバッテリ2又は蓄冷装置3に回生するものであり、エンジン4、電動発電装置5、バッテリ2、冷凍サイクル装置6、及び補機制御装置7を備えて構成される。
【0019】
エンジン4は、自動車の動力源となるものであり、エンジン4用の制御装置8(以下「エンジン用ECU8」という)により統括的に制御される。エンジン用ECU8は、アクセルポジションセンサ81、ブレーキマスタシリンダ82、車速センサ83等から各種情報を取得し、アクセルペダルの踏み込み量、ブレーキマスタシリンダ82の圧力、車速等に基づいてエンジン4を制御する。
また、エンジン4の出力軸となるクランク軸(図示せず)の一方の端部には、クランクプーリ41が設けられている。クランクプーリ41は、補機(電動発電装置5、コンプレッサ61(圧縮機)、ウォータポンプ(図示せず)等)を駆動するためのものであり、その外周にV型の溝(図示せず)が設けられている。本実施形態に係るクランクプーリ41は、クランク軸の軸方向に複数列(例えば、二列)のV型の溝が設けられている。
【0020】
電動発電装置5は、エンジン4を始動する際にエンジン4を始動する動力の動力源となり、エンジン4から伝達される動力で発電する装置である。電動発電装置5は、自動車の発進時にエンジン4を始動し、エンジン4の始動後にエンジン4から伝達される動力で発電するスタータジェネレータで構成される。本実施形態に係るスタータジェネレータは、エンジン4のクランク軸に設けられたクランクプーリ41との間にベルト52(Vベルト)が掛け渡されたベルト式のスタータジェネレータ50(以下「SG50」という)が採用されている。
SG50は、その回転軸(入出力軸)がエンジン4のクランク軸と平行となるように配置され、その回転軸にはプーリ51(以下「SGプーリ51」という)が設けられている。SGプーリ51は、その外周にクランクプーリ41と同一形状のV型の溝(図示せず)が設けられ、クランクプーリ41との間にはベルト52が掛け渡されている。本実施形態に係るSG50は、クランク軸の軸方向エンジン側(基端側)に設けられたV溝との間にベルト52が掛け渡されている。
【0021】
バッテリ2は、エンジン4を始動する際に電動発電装置5(SG50)に電力を供給する一方、電動発電装置5で発電された電力が充電されるものである。その他に回生電力が充電される二次電池、例えば、エネルギ密度の高いリチウムイオン電池が用いられても良い。また、バッテリ2の電圧及び電流は電圧センサ21と電流センサ22で監視され、バッテリ2の充電率(SOC)はバッテリ2マネージメントユニット9(以下、「BMU9」という)で管理される。
また、バッテリ2は、リアデフロスタ、フォグランプ等の各種の電気負荷23に接続され、各種電気負荷に電力を供給する。
【0022】
冷凍サイクル装置6は、車室内の冷房又は除湿を行うためのものであり、コンプレッサ61(圧縮機)、コンデンサ62(凝縮器)、エキスパンション・バルブ63(膨張弁)及びエバポレータ64(蒸発器)を備えて構成されている。
コンプレッサ61は、冷凍サイクル装置6を循環する冷媒を圧縮して高圧ガス状にするためのものであり、コンプレッサ61を駆動する動力はエンジン4から伝達される。コンプレッサ61には、電磁マグネットクラッチ(図示せず)が内蔵され、任意のタイミングでマグネットクラッチが断続され、コンプレッサ61を駆動させる一方、任意のタイミングでマグネットクラッチが遮断され、コンプレッサ61を空転させる。
コンプレッサ61は、その回転軸(入力軸)がエンジン4のクランク軸と平行になるように配置され、その回転軸にはプーリ611(以下「エアコンプーリ611」という)が設けられている。エアコンプーリ611は、その外周にクランクプーリ41と同一形状のV型の溝(図示せず)が設けられ、クランクプーリ41との間にはベルト65が掛け渡されている。本実施形態に係るコンプレッサ61は、クランク軸の軸方向開放側に設けられたV溝との間にベルト65が掛け渡されている。尚、かかるベルト65は、エンジン4に設けられたウォータポンプを駆動するプーリ42(以下「ポンププーリ42」という)にも掛け渡され、クランクプーリ41から伝達された動力は、ウォータポンプ及びコンプレッサ61を駆動する。
【0023】
コンデンサ62は、コンプレッサ61による圧縮で高温のガス状となった冷媒を液化するものであり、コンプレッサ61で高温高圧のガス状となった冷媒(冷媒ガス)は走行風やファンによって冷却され、液化される。
【0024】
エキスパンション・バルブ63は、コンデンサ62による凝縮で高圧の液状となった冷媒(冷媒液)を霧化しやすくするものであり、コンデンサ62で高温高圧となった冷媒(冷媒液)はエキスパンション・バルブ63で低圧の霧状冷媒となり、気化しやすくなる。
【0025】
エバポレータ64は、エキスパンション・バルブ63による霧化で低圧の霧状となった冷媒が周囲の空気から熱を奪う(熱交換)ものであり、エキスパンション・バルブ63で低圧霧状となった冷媒は周囲の空気から熱を奪い、低温低圧のガス状冷媒となる。
【0026】
また、エバポレータ64は、蓄冷装置3を含んで構成されている。蓄冷装置3は、エバポレータ64からの冷気によって冷却されて蓄冷され、基準温度(設定温度)を超える場合に放冷するものであり、エバポレータ64の内部に設けられている。蓄冷装置3は、その内部にパラフィン等の蓄冷剤が封入され、エバポレータ64で熱交換された冷熱が蓄えられ(蓄冷)、コンプレッサ61の停止時等、冷媒の温度が基準温度以上となる場合に蓄えられた冷熱が放出される(放冷)。
【0027】
補機制御装置7(以下、「補機用ECU」という)は、上述したSG51及びコンプレッサ61等の補機を制御するためのものであり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)及びタイマ等を含んで構成されている。
【0028】
入出力装置には、エンジン用ECU8、BMU9のほか、エアコンスイッチ71、デフロスタスイッチ72、外気温度センサ73、車室内温度センサ74、日射センサ75及びエバポレータ64の近傍に設けられた出口温度センサ77、自動車に設けられたGセンサ78や傾斜センサ79が接続されている(図2参照)。これにより、補機制御装置7には、アクセル開度、ブレーキマスタシリンダ圧、車速、バッテリ2の充電率(SOC)のほか、エアコンスイッチ71のオン/オフ、デフロスタスイッチ72のオン/オフ、外気温度、車室内温度、日照量、及びエバポレータ64の出口冷気温度、自動車の加速度や自動車の傾き、が入力される。
また、入出力装置には、SG50及びコンプレッサ61等の補機が接続されている。これにより、SG50及びコンプレッサ61等の補機は、補機制御装置7から出力された制御信号により制御される。
【0029】
記憶装置には、制御プログラムのほか、各種データが記憶されている。各種データには、入出力装置から入力された外気温度、車室内温度等の履歴が含まれ、中央演算処理装置では当日の最高車室温度及び最低車室温度が算出される。
【0030】
また、補機用ECU7は、回生制御部70を備えている。これにより、補機用ECU7は回生制御装置としても機能する。
回生制御部70は、自動車車の制動時にSG50及びコンプレッサ61を制御することにより、慣性エネルギを電力又は冷熱として回生する。慣性エネルギを電力として回生する場合には、SG50を機能させることにより、SG50を介して運動エネルギを電力に変換し、バッテリ2に回収する。慣性エネルギを冷熱として回生する場合には、コンプレッサ61のクラッチを接続することにより、冷凍サイクル装置6を介して慣性エネルギを冷熱に変換し、蓄冷装置3に回収する。
【0031】
また、本実施形態に係る補機用ECU7(回生制御装置)は、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の下限値以上であって、冷凍サイクル装置6を構成するエバポレータ64の出口冷気温度が第1所定温度以上である場合に慣性エネルギでコンプレッサ61を駆動することにより、蓄冷装置3に冷熱を蓄冷させるように構成されている。所定の下限値は、例えば、自動車が最小限必要な電力に余裕を加えた値に設定され、例えば、15%から20%の間で任意に設定される。
【0032】
また、本実施形態に係る補機用ECU7(回生制御装置)は、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の余裕値以上であって、エバポレータ64の出口冷気温度が上述した第1所定温度よりも高い第2所定温度よりもさらに高い場合にSG50を動力源としてコンプレッサ61を駆動するように構成されている。所定の余裕値は、例えば、所定の下限値に十分な余裕を加えた値に設定され、例えば、70%から満充電までの間で任意に設定される。
【0033】
図3は、図1及び図2に示した自動車のエネルギ回生システム1の制御手順を示すフローチャートである。
本発明の実施形態に係るエネルギ回生システム1では、回生制御部70において、現在の外気温、最高車室内温度、最低車室温度、日射の有無、エバポレータ64の出口冷気温度、リアデフロスタやフォグランプ等から要求される車体電力要求等を収集する。また、これらの情報とエアコンスイッチ71のオン頻度とに基づいて自動車に乗車するユーザ(例えば、運転者)の暑さに対する耐性を判断する。
【0034】
図3に示すように、本実施形態に係るエネルギ回生システム1では、エンジン4を始動すると、まず、回生制御部70において、外気温度センサ73で計測された外気温度(計測値)、車室内温度センサ74で計測された車室内温度(計測値)、及び日射センサ75で計測された日射の有無、さらにいうなら日射量を取得する(ステップS1)。
【0035】
つぎに、回生制御部70において、エネルギの回生が可能であるか否かを判断する(ステップS2)。エネルギの回生が可能であるか否かは、アクセル開度、ブレーキマスタシリンダ圧、車両の加速度や車両の傾斜で判断される。例えば、アクセル開度が0(ゼロ)、ブレーキマスタシリンダ圧が所定値以上、自動車が下り勾配にあるとき、の少なくとも一つ以上が成立する場合にエネルギの回生が可能であると判断される。
【0036】
回生制御部70において、エネルギの回生が可能であると判断すると、回生制御部70において、コンプレッサ61が駆動されているか否かを判断する(ステップS3)。コンプレッサ61が駆動されているか否かは、デフロスタスイッチ72、エアコンスイッチ71、コンプレッサ61が駆動されているか否かで判断される。例えば、デフロスタスイッチ72及びエアコンスイッチ71がオンのとき、又は、エアコンスイッチ71がオンによりコンプレッサ61が駆動されているときにコンプレッサ61が駆動されていると判断される。
【0037】
回生制御部70において、コンプレッサ61が駆動されていると判断すると、回生制御部70において、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の下限値(閾値)よりも小さいか否かを判断する(ステップS4)。バッテリ2の充電率が所定の下限値よりも小さいか否かは、BMU9で管理するSOCが所定の下限値よりも小さいか否かで判断される。
【0038】
回生制御部70において、バッテリ2の充電率が所定の下限値よりも小さいと判断すると、回生制御部70は、コンプレッサ61に制御信号を出力し、コンプレッサ61のクラッチを遮断する一方、SG50を機能させる(ステップS5)。これにより、運動エネルギは、SG50を介して電力に変換され、バッテリ2に回生される(SG50のみによる回生)。
【0039】
回生制御部70において、バッテリ2の充電率が所定の下限値よりも小さくない(下限値以上である)と判断すると、回生制御部70において、エバポレータ64の出口冷気温度が所定の温度よりも低いか否かを判断する(ステップS6)。回生制御部70において、エバポレータ64の出口冷気温度が所定の温度よりも低いと判断すると、SG50を機能させる(ステップS7)。これにより、運動エネルギは、SG50を介して電力に変換され、バッテリ2に回生され、冷凍サイクル装置6を介して冷熱に変換され、蓄冷装置3に回生される(SG50による回生と冷凍サイクル装置6による回生)。
【0040】
一方、回生制御部70において、エバポレータ64の出口冷気温度が所定の温度よりも低くない(所定の温度以上)と判断すると、その状態を維持する(ステップS8)。これにより、運動エネルギは冷凍サイクルを介して冷熱に変換され、蓄冷装置3に回生される(冷凍サイクル装置6のみによる回生)。
【0041】
また、回生制御部70において、加速起因によりエネルギの回生が終了したか否かを監視(判断)する(ステップS9)。加速起因によりエネルギの回生が終了したか否かは、ドライバの加速要求があったか否かで判断される。例えば、アクセル開度が0(ゼロ)でない場合に加速起因によりエネルギの回生が終了したと判断される。尚、加速起因によりエネルギの回生が終了したか否かの判断は、アクセル開度が0でない場合に限られるものではなく、ブレーキマスタシリンダ圧が所定値未満にあるとき等に加速起因によるエネルギの回生が終了したと判断しても良い。
【0042】
また、回生制御部70において、アイドリングストップ移行起因によりエネルギの回生が終了したか否かを監視(判断)する(ステップS10)。アイドリングストップ移行起因によりエネルギの回生が終了したか否かの判断は、アイドリングストップの条件が成立したか否かで判断される。
【0043】
回生制御部70において、アイドリングストップ移行起因によりエネルギの回生が終了したと判断すると、回生制御部70において、SG50でコンプレッサ61が駆動可能であるか否かを判断する(ステップS11)。SG50でコンプレッサ61の駆動が可能であるか否かは、例えば、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の余裕値以上であるか否かで判断される。
【0044】
回生制御部70において、SG50でコンプレッサ61が駆動可能であると判断されると、回生制御部70において、酷暑であるか否かを判断する(ステップS12)。酷暑であるか否かは、車室内温度、日射量等で判断される。例えば、車室内温度が35°C以上の場合に酷暑と判断される。尚、酷暑か否かであるので、エバポレータ64の温度を指標にしなくても良い。
【0045】
回生制御部70において、酷暑であると判断すると、回転制御部は、SG50に制御信号を出力し、バッテリ2に充電された電力でSG50を駆動する(ステップS13)。したがって、SG50が動力源となり、エンジン4がSG50でアシストされ、エンジン4はアイドリングの回転数の半分程度の回転数で回転する。これにより、SG50が動力源となり、コンプレッサ61が駆動される。
【0046】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る自動車の回生制御装置によれば、補機用ECU7(回生制御装置)は、バッテリ2の充電率(SOC)と、エバポレータ64によって冷却された蓄冷装置3による回生とを制御するので、コンプレッサ61の稼働状況に応じて自動車の制動時におけるエネルギ回生の効率化を図ることができる。
【0047】
また、補機用ECU7(回生制御装置)は、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の下限値C1以上であって、エバポレータ64の出口冷気温度が第1所定温度以上である場合に自動車の制動時の慣性エネルギをコンプレッサ61を介して蓄冷装置3に蓄冷させるので、バッテリ2の充電率が所定の下限値以上であることを条件に、コンプレッサ61の稼働状況に応じて自動車の制動時におけるエネルギ回生の効率化を図ることができる。
【0048】
また、補機用ECU7(回生制御装置)は、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の下限値C1以上であって、エバポレータ64の出口冷気温度が第1所定温度以上である場合に自動車の制動時の運動エネルギをコンプレッサ61を介して蓄冷装置3に蓄冷させ、且つ自動車の制動時の運動エネルギをSG50を介してバッテリ2に回収させるので、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の下限値以上であることを条件に、コンプレッサ61の稼働状況に応じて自動車の制動時におけるエネルギ回生の効率化を図ることができる。
【0049】
また、補機用ECU7(回生制御装置)は、バッテリ2の充電率(SOC)が所定の下限値未満の場合には、自動車の制動時の運動エネルギをSG50を介してバッテリ2に回収させるので、電池切れ(電欠)を回避することができる。
【0050】
また、自動車の発進時にSG50がエンジン4を始動し、エンジン4の始動後にエンジン4から伝達される動力で発電するので、いわゆるスアイドルストップが可能となり、制動時のエネルギを電力に回生可能となる。これにより、自動車の燃費向上の資することができる。
【0051】
また、SG50がエンジン4の出力軸に設けられたクランクプーリ41との間に掛け渡されたベルト52を循環させ、エンジン4を始動する一方、エンジン4から伝達される動力で駆動されて発電する。これにより大きな電力を回生することができる。
【0052】
また、バッテリの充電率が所定の上限値以上であって、エバポレータ64の出口冷気温度が第2所定温度よりも高い場合に電動発電装置5を動力源としてコンプレッサ61を駆動するので、制動時にもコンプレッサ61を駆動することができ、自動車の車室内を冷却することができる。
【0053】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0054】
1 エネルギ回生システム
2 バッテリ
21 電圧センサ
22 電流センサ
23 電気負荷
3 蓄冷装置
4 エンジン
41 クランクプーリ
42 ポンププーリ
5 電動発電装置
50 ベルトスタータ式のジェネレータ(SG)
51 SGプーリ
52 ベルト
6 冷凍サイクル装置
61 コンプレッサ
611 エアコンプーリ
62 コンデンサ
63 エキスパンション・バルブ
64 エバポレータ
65 ベルト
7 補機制御装置(補機用ECU)
70 回生制御部
71 エアコンスイッチ
72 デフロスタスイッチ
73 外気温度センサ
74 車室内温度センサ
75 日射センサ
77 出口温度センサ
78 Gセンサ
79 傾斜センサ
8 エンジン用ECU
81 アクセルポジションセンサ
82 ブレーキマスタシリンダ
83 車速センサ
9 バッテリマネージメントユニット(BMU)
図1
図2
図3