特許第6662303号(P6662303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6662303
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】積層体及び加飾成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20200227BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20200227BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20200227BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20200227BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20200227BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   B32B27/00 M
   B32B27/18 D
   B32B7/025
   B32B27/00 E
   C09J7/20
   C09J201/00
   C09J11/04
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-571486(P2016-571486)
(86)(22)【出願日】2016年1月25日
(86)【国際出願番号】IB2016000045
(87)【国際公開番号】WO2016120705
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2017年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-13331(P2015-13331)
(32)【優先日】2015年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】錦織 義治
(72)【発明者】
【氏名】太田 喜寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 亜美
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−332222(JP,A)
【文献】 特開2006−001561(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/054867(WO,A1)
【文献】 特開2003−323121(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011446(WO,A1)
【文献】 特開2013−235024(JP,A)
【文献】 特開2002−067137(JP,A)
【文献】 特開2016−050254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層と、前記粘着剤層の一方の面側に積層された表面層と、前記粘着剤層の他方の面側であって、前記表面層が積層された面とは反対の面側に積層された樹脂製のセパレーター層とを有する積層体であって、
前記セパレーター層は、基材層と、前記基材層の一方の面側に積層された剥離剤層と、前記基材層の他方の面側であって、前記剥離剤層が積層された面とは反対の面側に積層された帯電防止層とを有し、
前記帯電防止層の表面電気抵抗が1×105〜1×1012Ω/□であり、
前記積層体は真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる、積層体。
【請求項2】
前記セパレーター層は、表面電気抵抗が1×105〜1×1012Ω/□である層を有する請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記帯電防止層は、無機系帯電防止剤を含む請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記粘着剤層の表面電気抵抗が1×105〜1×1012Ω/□である請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記粘着剤層は、無機系帯電防止剤を含む請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記表面層は、紫外線吸収剤を含有する表面保護層と、有色層とを有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の積層体の表面層及び粘着剤層から構成される粘着フィルムと、前記粘着フィルムで加飾された成形体とを含む加飾成形体。
【請求項8】
前記成形体が非平面形状である請求項に記載の加飾成形体。
【請求項9】
積層体を用いて加飾成形体を製造する方法であって、
前記積層体は、粘着剤層と、前記粘着剤層の一方の面側に積層された表面層と、前記粘着剤層の他方の面側であって、前記表面層が積層された面とは反対の面側に積層された樹脂製のセパレーター層とを有し、
前記セパレーター層は、基材層と、前記基材層の一方の面側に積層された剥離剤層と、前記基材層の他方の面側であって、前記剥離剤層が積層された面とは反対の面側に積層された帯電防止層とを有し、
前記帯電防止層の表面電気抵抗が1×105〜1×1012Ω/□であり、
前記積層体からセパレーター層を剥離して、表面層及び粘着剤層を有する粘着フィルムを得る工程と、
真空条件下又は減圧条件下において、前記粘着フィルムを成形体に積層する工程と、
気圧差により、前記粘着フィルムを前記成形体に圧着する工程と
を含むことを特徴とする加飾成形体の製造方法。
【請求項10】
基材層と、
前記基材層の一方の面側に積層され、表面電気抵抗が1×105〜1×1012Ω/□である樹脂層と、
前記基材層の他方の面側に積層された剥離剤層と
を有する樹脂製のセパレーターであって、
真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる粘着フィルムを保護するために用いられるセパレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び加飾成形体に関する。具体的には、本発明は、表面層と、粘着剤層と、セパレーター層とを有する積層体であって、真空条件下又は減圧条件下での成形時に異物の噛み込みを抑制し得る積層体に関する。さらに本発明は、このような積層体で加飾された加飾成形体に関するものでもある。
本願は、2015年1月27日に出願された日本国特願2015−013331号に基づく優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車内外装部品、家電用部品、建材用部品などの表面を保護したり、装飾(加飾)をしたりする場合、射出成形又は真空成形によって成形体を加工した後、成形体の表面にスプレー塗装などで塗料を塗布し、乾燥及び加熱硬化させることが行われていた。しかし、このような塗装は、揮発性有機溶剤の排出が作業環境を悪化させるという問題に加え、成形部品ごとの作業工程と生産設備が必要となること、且つ塗料の重ね塗りが必要となるため、塗料の歩留りが悪く、生産性が低いという問題があった。
【0003】
近年は、自動車内外装部品、家電用部品、建材用部品などを軽量化する目的で、成形体として樹脂成形体の使用が進んでいる。樹脂成形体の装飾(加飾)には、スプレー塗装が適さない場合が多く、樹脂成形体の表面を加飾するために、様々な手法が開発されている。中でも、成形体の最表面を、加飾フィルムで加飾して加飾成形体を得る方法は、塗料等を使って表面に塗布又は印刷する方法よりも、意匠の自由度が高く、生産性も優れるといった利点を有する。また、加飾フィルムを用いた加飾方法は、三次元的な凹凸を有する成形体表面も加飾をすることできるため、様々な用途に用いられている。
【0004】
三次元的な凹凸を有する成形体表面を加飾フィルムで加飾する方法としては、3次元被覆成形(TOM成形)方法がある(特許文献1)。TOM成形は、真空条件下又は減圧条件下での成形工法であり、加飾フィルムと成形体とを圧着させて加飾成形体を得る方法である。TOM成形においては、成形体の材質を問わず加飾をすることが可能である。また、成形体に真空孔を設けることなく、逆テーパ部、末端巻き込み部を被覆成形することができる。
【0005】
TOM成形に用いられる加飾フィルムには、加飾層のみを有するフィルムと、加飾層(表面層)及び粘着剤層を有する積層フィルム(積層体)とがある。加飾層のみを有するフィルムを用いて加飾成形体を得る場合は、フィルム自体を溶融して、溶融フィルムと成形体とを密着させる方法が用いられる。また、加飾層(表面層)及び粘着剤層を有する積層フィルムを用いる場合は、加飾層は溶融させる必要はなく、粘着剤層の粘着力を利用して、積層フィルムと成形体とを密着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特許第3733564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の加飾フィルムを用いてTOM成形を行った場合、成形体と積層フィルムとの間にゴミなどの異物を噛み込む場合があり問題となっていた。このような異物の噛み込みが起こった場合は、加飾成形体表面に異物由来の凹凸が生じることとなり、加飾成形体の歩留りを悪化させてしまうため問題となる。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、TOM成形を行う際に、異物の噛み込みを抑制し得る加飾積層フィルム(積層体)を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、表面層と、粘着剤層と、セパレーター層とを有する積層体において、いずれかの層の表面電気抵抗を所定の範囲内とすることにより、TOM成形時に異物の噛み込みを抑制し得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1]粘着剤層と、粘着剤層の一方の面側に積層された表面層と、粘着剤層の他方の面側であって、表面層が積層された面とは反対の面側に積層された樹脂製のセパレーター層とを有し、粘着剤層、表面層、及びセパレーター層の少なくともいずれかは、表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である層を有することを特徴とする積層体。
[2]セパレーター層は、表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である層を有する[1]に記載の積層体。
[3]セパレーター層は、基材層と、基材層の一方の面側に積層された剥離剤層と、基材層の他方の面側であって、剥離剤層が積層された面とは反対の面側に積層された帯電防止層とを有し、帯電防止層の表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]帯電防止層は、無機系帯電防止剤を含む[3]に記載の積層体。
[5]粘着剤層の表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である[1]〜[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]粘着剤層は、無機系帯電防止剤を含む[5]に記載の積層体。
[7]表面層は、紫外線吸収剤を含有する表面保護層と、有色層とを有する[1]〜[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる[1]〜[7]のいずれかに記載の積層体。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の積層体の表面層及び粘着剤層から構成される粘着フィルムと、粘着フィルムで加飾された成形体とを含む加飾成形体。
[10]前記成形体が非平面形状である[9]に記載の加飾成形体。
[11]積層体を用いて加飾成形体を製造する方法であって、積層体は、粘着剤層と、粘着剤層の一方の面側に積層された表面層と、粘着剤層の他方の面側であって、表面層が積層された面とは反対の面側に積層された樹脂製のセパレーター層とを有し、粘着剤層、表面層、及びセパレーター層の少なくともいずれかは、表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である層を有し、積層体からセパレーター層を剥離して、表面層及び粘着剤層を有する粘着フィルムを得る工程と、真空条件下又は減圧条件下において、粘着フィルムを成形体に積層する工程と、気圧差により、粘着フィルムを成形体に圧着する工程とを含むことを特徴とする加飾成形体の製造方法。
[12]基材層と、基材層の一方の面側に積層され、表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である樹脂層と、基材層の他方の面側に積層された剥離剤層とを有する樹脂製のセパレーターであって、真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられる粘着フィルムを保護するために用いられるセパレーター。
[13]粘着剤層と、粘着剤層の一方の面側に積層された表面層とを有し、粘着剤層及び表面層の少なくともいずれかは、表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である層を有することを特徴とする粘着フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、TOM成形時に異物の噛み込みを抑制し得る積層体を得ることができる。また、本発明の積層体を用いれば、加飾成形体の生産性を高めることができ、かつ、意匠性に優れた加飾成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の積層体の構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明の積層体の構成の一例を示す断面図である。
図3図3は、本発明の加飾成形体の構成を説明する断面図である。
図4図4は、実施例及び比較例において使用した成形体を説明する図である。図4(a)は上面図、図4(b)は右側面図、図4(c)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態及び具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(積層体)
本発明の積層体は、粘着剤層と、粘着剤層の一方の面側に積層された表面層と、粘着剤層の他方の面側であって、表面層が積層された面とは反対の面側に積層された樹脂製のセパレーター層とを有する。また、粘着剤層、表面層、及びセパレーター層の少なくともいずれかは、表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である層を有する。なお、本明細書において、表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□である層とは、該層のいずれか一方の面の表面電気抵抗が上記範囲内であればよいことを示している。
【0015】
本発明では、粘着剤層、表面層又はセパレーター層の各層を構成する層が上記範囲内の表面電気抵抗を有していてもよく、粘着剤層、表面層又はセパレーター層の各層自体が上記範囲内の表面電気抵抗を有していてもよい。中でも、粘着剤層及び表面層から構成される粘着フィルムの両面、及びセパレーター層の両面の中から選択される少なくとも一面が上記範囲内の表面電気抵抗を有していることが好ましい。
また、粘着剤層、表面層又はセパレーター層のいずれか1層が上記範囲内の表面電気抵抗を有していればよく、上記層の2層以上の層が上記範囲内の表面電気抵抗を有していてもよい。例えば、粘着剤層及びセパレーター層が上記範囲内の表面電気抵抗を有していてもよい。
【0016】
本発明の積層体は上記の構成を有するため、真空条件下又は減圧条件下での成形時(TOM成形時)に異物の噛み込みを抑制することができる。また、本発明の積層体を構成するセパレーター層は、樹脂層であるため、積層体からセパレーター層を剥離した際に、セパレーター層由来の異物が粘着剤層に付着することを抑制することができる。このため、より効果的に、異物の噛み込みを抑制することが可能となる。
【0017】
本発明において、各層の表面電気抵抗は、ハイレスターUX MCP−HT800(三菱化学アナリテック社製、測定方式:定電圧印加/漏洩電流測定方式)で測定した値である。
【0018】
図1は、本発明の積層体の構成の一例を示す断面図である。図1に示されているように、本発明の積層体1は、粘着剤層10と、粘着剤層10の一方の面側に積層された表面層20と、粘着剤層10の他方の面側であって、表面層20が積層された面とは反対の面側に積層されたセパレーター層30を有する。積層体1は、セパレーター層30を有するため、積層体1の保管時等において、粘着剤層10の表面にゴミ等の異物が付着することが抑制されている。本発明の積層体1を使用する際には、このセパレーター層30を剥離し、粘着剤層10を露出させる。そして、粘着剤層10は、被着物である成形体に貼着されることとなる。本明細書においては、セパレーター層30が剥離された積層体を粘着フィルム5という。
【0019】
図2は、本発明の積層体の好ましい構成を示す断面図である。本発明の積層体1においては、表面層20は、表面保護層22と有色層24とを含む層であることが好ましい。また、セパレーター層30は、基材層32と、剥離剤層34と、帯電防止層36とを含む層であることが好ましい。本発明の積層体1は、上述した層以外の層を有していてもよく、表面層20がさらに帯電防止層を有する構成であってもよく、粘着剤層が有色層又は帯電防止層を有する構成であってもよい。
なお、図2に示されたような積層体1においてもセパレーター層30が剥離された後は、粘着フィルム5となる。本発明はこのような粘着フィルムに関するものでもある。
【0020】
本発明の積層体は、上記のような構成を有するため、シート状であってもよいし、ロール状に巻き上げられていてもよい。ロール状に巻き上げられている場合は、セパレーター層が芯軸側に配置されるように巻き上げられることが好ましい。
【0021】
(セパレーター層)
本発明の積層体は、セパレーター層を含む。セパレーター層は、樹脂製であり、紙基材を含まない層である。このようなセパレーター層を用いることにより、紙由来のゴミ等の異物が、積層体と成形体との間に挟まることがなくなり、異物の噛み込みを効果的に抑制することができる。
【0022】
セパレーター層の表面電気抵抗は、1×10〜1×1012Ω/□であることが好ましく、1×10〜1×1012Ω/□であることがより好ましい。積層体においては、セパレーター層を剥離する際の静電相互作用により異物が粘着剤層に付着しやすい傾向にある。しかし、本発明では、セパレーター層の表面電気抵抗を上記範囲内とすることにより、異物の付着を抑制することができ、特に真空条件下又は減圧条件下での成形時(TOM成形時)に異物の噛み込みをより効果的に抑制することができる。なお、本発明は、TOM成形に用いられる粘着シートの粘着剤層側に積層されたセパレーターに関するものでもある。
【0023】
セパレーター層は、単層構成であり、その単層の表面電気抵抗が上記範囲内であってもよいが、表面電気抵抗が上記範囲内の層を有することが好ましい。具体的には、セパレーター層は、基材層と、基材層の一方の面側に積層された剥離剤層と、基材層の他方の面側であって、剥離剤層が積層された面とは反対の面側に積層された帯電防止層とを有することが好ましい。中でも、帯電防止層の表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□であることが好ましい。
【0024】
本発明では、セパレーター層が帯電防止剤を含有することが好ましく、表面層及び粘着剤層から構成される粘着フィルムには、帯電防止剤が含まれないことが好ましい。本発明では、積層体を使用する際には、セパレーター層は積層体から剥離され、表面層及び粘着剤層から構成される粘着フィルムとなる。そして、この粘着フィルムが、被着物である成形体に貼着される。すなわち、セパレーター層のみが帯電防止剤を含有する場合、加飾成形体には帯電防止剤が含まれないこととなり、加飾成形体全体の耐久性がより高められることとなる。
【0025】
図2に示されているように、セパレーター層30は、基材層32と、剥離剤層34と、帯電防止層36とを含む層であることが好ましく、帯電防止層36は、帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤は、イオン性帯電防止剤、有機系帯電防止剤、及び無機系帯電防止剤から選択される少なくとも1種であることが好ましく、有機系帯電防止剤及び無機系帯電防止剤から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、無機系帯電防止剤であることが特に好ましい。なお、有機系帯電防止剤は、π共役系導電性高分子系帯電防止剤であることがより好ましい。帯電防止剤として、π共役系導電性高分子系帯電防止剤及び無機系帯電防止剤から選択される少なくとも1種を用いることにより、帯電防止性能の湿度依存性を抑えることができる。すなわち、あらゆる湿度帯において、帯電防止性能を発揮することができる。特に、無機系帯電防止剤は、低湿度環境下においても優れた帯電防止性能を発揮することができる。なお、イオン性帯電防止剤は、比較的安価であるため、積層体の製造コストを抑制することができる。
【0026】
イオン性帯電防止剤として、本発明では如何なる公知のイオン性帯電防止剤も使用できるが、好ましくは、グリセリン酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、ステアリン酸モノグリセライド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミンの脂肪酸エステル、アルキルサルフェート、アルキルフォスフェート、アルキルベタイン、ポリスチレンスルホン酸ソーダ、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエーテルエステルアミド等を挙げることができる。
【0027】
有機系帯電防止剤としては、π共役系導電性高分子系帯電防止剤を用いることが好ましい。π共役系導電性高分子系帯電防止剤として、本発明では公知の如何なるπ共役系導電性高分子系帯電防止剤も使用することができるが、好ましくは、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等を挙げることでき、特に好ましくはポリチオフェンである。
【0028】
無機系帯電防止剤として、本発明では公知の如何なる無機系帯電防止剤も使用することでき、好ましくは、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)フィラー、ITO(スズドープ酸化インジウム)フィラー、銀ナノフィラー、酸化アンチモンドープ酸化錫被服酸化チタン等を挙げることができ、特に好ましくは銀ナノフィラーである。
【0029】
帯電防止層が帯電防止剤を含む場合、帯電防止剤の含有量は帯電防止層の全質量に対して、2〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましい。また、帯電防止剤層の乾燥後の塗布量は、0.001〜1g/mであることが好ましく、0.01〜0.2g/mであることが特に好ましい。
【0030】
セパレーター層を構成する基材層は、樹脂層であることが好ましく、樹脂層は熱可塑性樹脂から構成されていることが好ましい。具体的には、基材層としては、ポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム又はポリアクリロニトリルフィルムを挙げることができる。中でも、ポリエステルフィルムは好ましく用いられ、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムは特に好ましく用いられる。また、基材層には、レンズフィルム、プリズムフィルム、ホログラムフィルムなどの凹凸加工が施されたフィルムを用いてもよい。
【0031】
剥離剤層は、剥離剤を含む。剥離剤としては、例えば、汎用の付加型もしくは縮合型のシリコーン系剥離剤が用いられる。特に、反応性が高い付加型シリコーン系剥離剤が好ましく用いられる。シリコーン系剥離剤としては、具体的には、東レ・ダウコーニングシリコーン社製のBY24−162、SD−7234等、及び信越化学工業(株)製のKS−3600、KS−774、X62−2600などが挙げられる。また、シリコーン系剥離剤中に、SiO単位と、(CHSiO1/2単位あるいはCH=CH(CH)SiO1/2単位とを有する有機珪素化合物であるシリコーンレジンを含有することが好ましい。シリコーンレジンの具体例としては、東レ・ダウコーニングシリコーン社製のBY24−843、SD−7292、SHR−1404等、及び信越化学工業(株)製のKS−3800、X92−183等が挙げられる。
【0032】
剥離剤層には、触媒、密着向上剤等の補助添加剤を添加することができる。触媒としては、白金系、錫系の触媒を好ましく挙げることができる。また密着向上剤は、密着が向上すれば特に如何なるものでも使用でき、好ましくはシランカップリング剤を挙げることができる。
剥離剤層の乾燥後の塗布量は、0.01〜1g/mであることが好ましく、0.05〜0.2g/mであることが特に好ましい。
【0033】
セパレーター層は、基材層に、剥離剤含有液及び帯電防止剤含有液を塗布し、乾燥することにより形成することができる。各々の溶液を塗布する際には、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、カーテンコーター、グラビアコーター等を用いることができる。中でも、表裏が1回で塗布できる2ヘッドコーターを使用することが好ましく、少ない塗布量をコントロールできるグラビアヘッドを持つ表裏塗工できる2ヘッドコーターが特に好ましい。これにより、基材層の両面に機能層を同時に形成することができ、セパレーター層の生産効率を高めることができる。
【0034】
(粘着剤層)
本発明の積層体は、粘着剤層を含む。本発明では、粘着剤層が成形体の表面に貼着することで、成形体を加飾することができる。なお、粘着剤層の表面電気抵抗は1×10〜1×1012Ω/□であることが好ましく、1×10〜1×1012Ω/□であることがより好ましい。
【0035】
粘着剤層は、粘着剤としてポリマーを含む。また、粘着剤層は帯電防止剤を含むことも好ましい。特に、セパレーター層の表面電気抵抗が1×10〜1×1012Ω/□の範囲内にない場合は、粘着剤層が帯電防止剤を含むことが好ましい。粘着剤層が含有する帯電防止剤としては、セパレーター層が含有し得る帯電防止剤と同様のものを列挙することができ、好ましい帯電防止剤も同様である。
【0036】
粘着剤層が帯電防止剤を含む場合、帯電防止剤の含有量は粘着剤層の全質量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜7質量%であることがより好ましく、1〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
粘着剤層の厚みは、5〜500μmであることが好ましく、10〜350μmであることがより好ましく、20〜200μmであることがさらに好ましい。粘着剤層の厚みを上記範囲内とすることにより、加飾成形体を形成する際に、積層体と成形体との間にゴミ等の異物を噛み込んだ場合であっても、表面へ異物形状が浮き出すことを抑制することができる。このため、微小な異物であれば、噛み込んだ場合であってもその影響を受けることがない。
【0038】
粘着剤層を構成するポリマーの平均分子量は、10,000〜5,000,000であることが好ましく、300,000〜2,000,000であることがより好ましい。ポリマーの平均分子量を上記範囲内とすることにより、真空条件下又は減圧条件下での成形(TOM成形)時に、成形体への追従性を高めることができ、複雑な形状の成形体も加飾することができる。また、ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は2〜30が好ましく、4〜20であることが特に好ましい。目的の分子量分布を得るために、平均分子量の異なる2種類以上のポリマーを混合して使用することができる。
ポリマーの分子量分布を広くすることにより、真空条件下又は減圧条件下での成形(TOM成形)時に、成形体への追従性を高めることができ、複雑な形状の成形体も加飾することができる。
【0039】
粘着剤層の粘着力としては、JIS Z 0237に基づいて測定する粘着力が、10〜100N/25mmであることが好ましく、25〜75N/25mmであることが更に好ましい。
【0040】
粘着剤層を構成するポリマーは、アクリル系ポリマーを少なくとも1種を含むことが好ましい。またアクリル系ポリマー以外に脂肪族(C5)系石油樹脂、芳香族(C9)系石油樹脂、共重合(C5/C9)系石油樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)系石油樹脂、クマロンインデン樹脂、αメチルスチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂、ロジン、ロジンエステル樹脂、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、及びこれらの水添型樹脂等を含有しても構わない。
アクリル系ポリマーを構成する単量体単位としては、アルキル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられ、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレートを好ましく挙げることができる。
【0041】
また粘着力向上のために、必要に応じて下記の成分を含有してもよい。例えば、カルボキシル基と有する成分、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート、及び/又は水酸基を有する成分、好ましくは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒトロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、クロロ−2−ヒロドキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロオクチル(メタ)アクリレート、及び/又は共重合可能な不飽和成分、好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトニル、マクロマーを挙げることができる。これらカルボキシル基を有する成分、水酸基を有する成分、共重合可能な成分は、アクリル系ポリマーの0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%含まれていることが好ましい。
【0042】
粘着剤層には、必要に応じて公知の添加剤である充填剤、顔料、増粘剤、粘性調整剤、濡れ剤、レベリング剤、消泡剤、防腐剤、分散剤、酸化防止剤、凍結防止剤、難燃剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させてもよい。
【0043】
(表面層)
本発明の積層体は、表面層を含む。表面層は単層構成であってもよいが、紫外線吸収剤を含有する表面保護層と、有色層とを有する層であることが好ましい。なお、有色層とは、顔料、染料、金属、金属酸化物等を含有することが好ましい。有色層は、顔料、染料、金属、金属酸化物を含有する樹脂層であってもよく、顔料、染料、金属、金属酸化物からなる蒸着、スパッタ層でもよく、また顔料、染料、金属、金属酸化物を含むインキ層を表面層に印刷で施したものであってもよい。この場合は、その印刷部のことを有色層(有色部)と呼んでもよい。この場合の、印刷方法としては特に制限されず、例えば、凸版印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などが挙げられる。これらの印刷に用いる印刷インキとしては、酸化重合型の油性インキ、大豆油インキ、ベジタブルオイルインキ、並びに、紫外線硬化型のUVインキ、LED−UVインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ等を挙げることができ、特に、グラビアインキ、スクリーンインキ、インクジェットインキが好ましい。印刷インキには、必要に応じて、顔料分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐磨耗防止剤、ブロッキング防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0044】
また有色層は、顔料、染料、金属、金属酸化物を含有する樹脂層である場合、樹脂層は熱可塑性樹脂から構成されていることが好ましい。具体的には、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、及び、スチレンの共重合体)、AS樹脂(アクリロニトニル、スチレンの共重合体)、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂等が好ましい。
【0045】
有色層が有してもよい顔料としては、無機顔料(アルミナホワイト、酸化チタン、亜鉛華、黒色酸化鉄、雲母状酸化鉄、鉛白、ホワイトカーボン、モリブデンホワイト、カーボンブラック、リサージ、リトポン、バライト、カドミウム赤、カドミウム水銀赤、ベンガラ、モリブデン赤、鉛丹、黄鉛、カドミウム黄、バリウム黄、ストロンチウム黄、チタン黄、チタンブラック、酸化クロム緑、酸化コバルト、コバルト緑、コバルト・クロム緑、群青、紺青、コバルト青、セルリアン青、マンガン紫、コバルト紫等)及び有機顔料(シェラック、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、フタロシアニンブルー、染色レーキ等)、またトルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が挙げられる。本発明ではこれらに限定されることはなく、公知の如何なる顔料も使用できる。
【0046】
有色層が有しても良い染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応性染料、分散染料、又は食品用色素等を挙げることができる。なお、本発明では公知の如何なる染料も使用することができ、限定されるものではない。これらの染料の中でも、特にアゾ系及びフタロシアニン系の染料が好ましく、また、酸性染料、直接染料、反応性染料、食品用色素等が特に好ましい。
【0047】
有色層が有しても良い金属層としては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、インジウム等を挙げることができる。
【0048】
表面保護層は、積層体の最表面を構成する層であり、加飾成形体においても最表面を構成する層である。特に、自動車内外装部品等の強度が求められる部材を加飾する際には、表面保護層には、傷のつきにくさ及び強度等を有していることが求められる。本発明における表面保護層は、鉛筆硬度がB以上であることが好ましく、F以上であることがより好ましい。
【0049】
表面保護層は、樹脂層であることが好ましい。具体的には、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、及び、スチレンの共重合体)、AS樹脂(アクリロニトニル、スチレンの共重合体)、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ウレタン樹脂等を好ましく挙げることができる。より好ましくは、耐擦傷性の優れることからアクリル樹脂である。また本発明の表面保護層は、電離放射線硬化樹脂であっても構わない。電離放射線硬化樹脂とは、電子線又は紫外線等を照射することによって硬化する樹脂である。本発明において、電離放射線硬化樹脂は、実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明な電離放射線硬化樹脂としては、例えば、アクリル系紫外線硬化樹脂を用いることが好ましい。
【0050】
本発明では、表面保護層及び/又は有色層の間には、帯電防止剤を含有させても構わない。この場合、帯電防止剤は、セパレーター層の項目で挙げた帯電防止剤と同様のものを用いることができる。
【0051】
(真空条件下又は減圧条件下での成形(TOM成形))
本発明の積層体は、真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられることが好ましい。本発明の積層体を用いることにより、真空条件下又は減圧条件下での成形において、粘着剤層と成形体との間に、ゴミ等の異物を噛み込むことを抑制することができる。このように、本発明の積層体は、真空条件下又は減圧条件下での成形に用いられることにより、その効果を発揮することができる。
【0052】
本明細書において、真空条件下又は減圧条件下での成形は、いわゆるTOM成形といわれるものである。TOM成形工法においては、真空条件下又は減圧条件下において、粘着フィルム(表面層及び粘着剤層の積層フィルム)を成形体に積層する工程と、気圧差により、粘着フィルムを成形体に圧着する工程とを含む。なお、本明細書においては、真空条件下又は減圧条件下での成形には、成形体に真空孔を設けたものを利用して、粘着フィルムと成形体とを密着させる工法は含まれない。具体的には、真空条件下又は減圧条件下での成形は、日本国特許第3733564号公報に記載の「真空成形装置」を用いることで実施をすることができる。
【0053】
本発明は、上述したような加飾成形体の製造方法に関するものでもある。具体的には、本発明の加飾成形体の製造方法は、上述した積層体からセパレーター層を剥離して、表面層及び粘着剤層を有する粘着フィルムを得る工程と、真空又は減圧条件下において、粘着フィルムと成形体とを密着させる工程と、圧空条件下において、粘着フィルムと成形体とを圧着させる工程とを含む。また、加飾成形体の製造方法においては、粘着フィルムと成形体とを密着させる工程の後に、積層体の表面を100〜180℃に加熱する工程を含むことが好ましい。この場合、積層体の表面の加熱には、赤外線ヒーターを使用することが好ましい。
【0054】
(加飾成形体)
本発明は、上述したような積層体の表面層及び粘着剤層から構成される粘着フィルムと、粘着フィルムで加飾された成形体とを含む加飾成形体に関するものでもある。加飾成形体は、成形体の表面の一部又は全面に粘着フィルムを貼着させたものである。すなわち、加飾成形体においては、表面層が粘着剤層を介して積層されている。
【0055】
図3は、加飾成形体100の構成を説明する断面図である。図3は、表面に凹部を有する成形体50を粘着フィルム5で加飾した様子を示している。図3に示されているように、真空条件下又は減圧条件下での成形においては、成形体50に真空孔を設けなくても、逆テーパ部及び末端巻き込み部を被覆成形することができる。また、製品の材質を問わずに、加飾することができる。これにより、複雑な三次元的凹凸を有する成形体表面についても加飾することができ、意匠性の高い加飾成形体100を得ることができる。
【0056】
成形体50としては、ED鋼板、Mg合金、SUS、アルミニウム合金などの金属材料や樹脂成形体を挙げることができるが、樹脂成形体であることが好ましい。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート含有樹脂、ポリオレフィン樹脂を好ましく例示することができる。ポリカーボネート含有樹脂としては、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートがブレンドされた樹脂(PCPBT)、ポリカーボネートやABS樹脂がブレンドされた樹脂(PCABS)等を好ましく用いることができる。また、ポリオレフィン樹脂としてはポリプロピレン(PP)を好ましく用いることができる。
【0057】
本発明において、成形体50の形状、すなわち、粘着フィルム5を積層させる対象物の形状は、平面若しくは略平面であってもよいし、或いは非平面であってもよい。例えば、成形体50の形状は、図3に示されているように、表面に凹部を有する形状であってもよいし、或いは表面に凸部を有する形状(図示されていない)であってもよい。成形体50は、図3に示されているように、逆テーパ部や末端巻き込み部を有する形状であってもよい。本発明によれば、外観に不良が生じやすい非平面形状の成形体であっても、異物の噛み込みを抑制することができ、剥がれ等の不具合を防止できる。
【0058】
本発明により得られる加飾成形体は、例えば、自動車用部品(例えば、ボディー、バンパー、スポイラー、ミラー、ホイール、内装材等の部品であって、各種材質のもの)、二輪車用部品、道路用資材(例えば、交通標識、防音壁等)、トンネル用資材(例えば、側壁板等)、鉄道車両、家具、楽器、家電製品、建築材料、容器、事務用品、スポーツ用品、玩具等に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例3及び4はそれぞれ、参考例3及び4と読み替えるものとする。
【0060】
(実施例1)
クリーンルーム(クラス1000)の中で、セパレートフィルムA上に乾燥後の厚さが25μmとなるようにアクリル系粘着剤Aを塗布した。90℃で3分間にわたって乾燥して粘着剤層付きセパレーター層を得た。
表面保護層(表面層)としてハードコート性フィルムAを用い、得られた粘着剤層付きセパレーター層の粘着剤層面とハードコート性フィルムAとをクリーンルーム(クラス1000)の中で貼合し、23℃、相対湿度50%環境下で7日間エージングを行った。このようにして積層体1を得た。
【0061】
次に23℃、相対湿度50%の環境下と、15℃、相対湿度30%の環境下とにおいて、各々、次の操作を行い加飾成形体を得た。
【0062】
<加飾成形体の作成方法>
積層体1からセパレーター層を取り外し、粘着フィルム1とした。その粘着フィルム1をTOM成形機にセットした。防雨入線カバー(ABS樹脂製、パナソニック株式会社社製、品番:WP9171)を、該カバーの外面(凸面)側と上記粘着フィルム1の粘着剤層とが向き合うように、TOM成形機(布施真空株式会社製、NGF成形機)にセットした。TOM成形機を用いて130℃で粘着フィルム1を上記成形体に積層させることによって、加飾成形体1を得た。同じようにして加飾成形体1を10個作成した。なお、上記防雨入線カバーの形状を図4(a)〜(c)に示す。図4(a)〜(c)に示されている防雨入線カバーは、図4(a)のように上方から観察したときに、長さ(縦)方向の長さが90mmであり、幅(横)方向の長さが60mmであった。
【0063】
<セパレートフィルムA>
厚さ50μmのPET(東レ社製、ルミラーT60)の片面上に、グリセリンモノステアレートを乾燥後の塗工量が0.1g/mになるようにクリーンルーム(クラス1000)の中で塗布し、乾燥機にて130℃、30秒間処理を行った。このようにして、帯電防止層を形成した。
次に、反対面上に、熱硬化型シリコーン(東レ・ダウコーニング社製、LTC300B)100質量部と、触媒(東レ・ダウコーニング社製、SRX212)1質量部とからなる剥離剤を、乾燥後の重量で0.1g/mになるようにクリーンルーム(クラス1000)の中で塗布した。乾燥機にて130℃、60秒間処理を行い、剥離剤層Aを形成した。
以上のようにしてセパレートフィルムA(セパレーター層A)を得た。23℃、相対湿度50%条件下で、セパレートフィルムAの表面電気抵抗を測定したところ、剥離剤層側は5×1016Ω/□、帯電防止層側は7×1011Ω/□であった。
【0064】
<粘着剤A>
ブチルアクリレート65質量部、メチルアクリレート30質量部、アクリル酸5質量部を、窒素雰囲気の反応容器(温度コントローラー、攪拌機、還流器付)に投入し、酢酸エチル200質量部及びアソビスイソブチロニトリル0.1質量部を加えて、75℃にて10時間重合反応を行い、ポリマーAを得た。得られたポリマーAの分子量(Mw)をGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)で測定したところ80万であった。またポリマーAのガラス転移温度(Tg)を示差操作型熱量計(セイコウインスルメント製DSC−6100)で測定したところ、−25℃であった。
得られたポリマーAと、ポリαメチルスチレン(分子量Mw=850,000、Tg=105℃、和光純薬製)と、架橋剤(三菱瓦斯化学社製、テトラドX)とを、乾燥重量比で98:10:2となるように配合して粘着剤Aを得た。粘着剤Aの分子量分布は、6.5であった。なお、分子量及び分子量分布はGPCにより測定した。
粘着剤Aを塗布して形成された粘着剤層の、23℃、相対湿度50%条件下での表面電気抵抗を測定したところ、2×1015Ω/□であった。
【0065】
<ハードコート性フィルムA>
表面保護層として、ハードコート性フィルムAを用いた。ハードコート性フィルムAとしては、三菱レイヨン社製、アクリプレンHBA001Pを用いた。このフィルムの鉛筆硬度は2H、厚さは125μmであった。23℃、相対湿度50%環境下での表面電気抵抗は、両面とも2×1016Ω/□であった。
【0066】
(実施例2)
粘着剤Aの代わりに粘着剤Bを使用する以外、実施例1と同様にして加飾成形体2を得た。結果を表1に示す。
【0067】
<粘着剤B>
ブチルアクリレート65質量部、メチルアクリレート30質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5質量部を、窒素雰囲気の反応容器(温度コントローラー、攪拌機、還流器付)に投入し、酢酸エチル200質量部及びアソビスイソブチロニトリル0.1質量部を加えて、75℃にて10時間重合反応を行い、ポリマーB1を得た。得られたポリマーBの分子量(Mw)及びTgを実施例1と同様にして測定したところ、分子量Mw=80万、Tg=−35℃であった。
次に、メチルメタクリレート90質量部、ジメチルアミノエチルメタクリレート10質量部を窒素雰囲気の反応容器に投入し、酢酸エチル200質量部及びアソビスイソブチロニトリル2質量部を加え、75℃にて10時間重合反応を行い、ポリマーB2を得た。同様にして測定したところ、分子量Mw=1万、Tg=95℃であった。
得られたポリマーB1と、ポリマーB2と、架橋剤(三菱瓦斯化学社製、テトラドX)と、ビストリフルオロメタンスルホンイミドとを、乾燥重量比で46:40:2:2となるように配合して粘着剤Bを得た。粘着剤Bの分子量分布は18であった。粘着剤Bを塗布して形成された粘着剤層の、23℃、相対湿度50%条件下での表面電気抵抗を測定したところ7×1010Ω/□であった。
【0068】
(実施例3)
セパレートフィルムAの代わりにセパレートフィルムBを使用する以外、実施例2と同様にして加飾成形体3を得た。結果を表1に示す。
【0069】
<セパレートフィルムB>
厚さ38μmのPET(東レ社製、ルミラーT60)の片面上に、熱硬化型シリコーン(東レ・ダウコーニング社製、LTC300B)100質量部、触媒(東レ・ダウコーニング社製、SRX212)1質量部からなる剥離剤を、乾燥後の重量で0.1g/mになるように塗布した。乾燥機にて130℃、60秒間処理を行い、剥離剤層Bを形成した。
以上のようにしてセパレートフィルムB(セパレーター層B)を得た。23℃、相対湿度50%条件下で表面電気抵抗を測定したところ、剥離剤層側は5×1016Ω/□、非剥離剤層側は5×1016Ω/□であった。
【0070】
(実施例4)
ハードコート性フィルムAの代わりに厚さ100μmのPET−B(有機系帯電防止剤練り込みグレードPETフィルム)(東レ社製、ルミラーX53)を用いた。PET−Bの23℃、相対湿度50%条件下の表面電気抵抗は1×1010Ω/□であった。また、セパレートフィルムAの代わりにセパレートフィルムBを使用した。上記以外は、実施例1と同様にして加飾成形体4を得た。
【0071】
(実施例5)
セパレートフィルムAの代わりにセパレートフィルムCを、粘着剤Aの代わりに粘着剤Cを用いる以外、実施例1と同様にして加飾成形体5を得た。結果を表1に示す。
【0072】
<セパレートフィルムC>
厚さ38μmのPET(東レ社製、ルミラーT60)の片面上に、π共役系有機導電材料であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含むデナトロンP−502S(ナガセケムテックス製)を、乾燥後の塗工量が0.07g/mになるようにクリーンルーム(クラス1000)の中で塗布し、乾燥機にて130℃、30秒間処理を行った。このようにして、帯電防止層を形成した。
次に、反対面上に、熱硬化型シリコーン(東レ・ダウコーニング社製、LTC300B)100質量部、触媒(東レ・ダウコーニング社製、SRX212)1質量部からなる剥離剤を、乾燥後の重量で0.1g/mになるようにクリーンルーム(クラス1000)の中で塗布した。乾燥機にて130℃、60秒間処理を行い、剥離剤層Cを形成した。
以上のようにしてセパレートフィルムC(セパレーター層C)を得た。23℃、相対湿度50%条件下で表面電気抵抗を測定したところ、剥離剤層側は5×1016Ω/□、帯電防止層側は3×10Ω/□であった。
【0073】
<粘着剤C>
ブチルアクリレート30質量部、2−エチルヘキシルアクリレート30質量部、αメチルスチレン35部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5質量部を、窒素雰囲気の反応容器(温度コントローラー、攪拌機、還流器付)に投入し、酢酸エチル200質量部及びアソビスイソブチロニトリル0.1質量部を加えて、75℃にて10時間重合反応を行い、ポリマーCを得た。得られたポリマーCの分子量(Mw)及びTgを実施例1と同様にして測定したところ、分子量Mw=150万、Tg=5℃であった。
得られたポリマーC及び架橋剤(日本ポリウレタン製、コロネートL)を、乾燥重量比で95:5となるように配合して接着剤Cを得た。粘着剤Cの分子量分布は4.5であった。粘着剤Cを塗布して形成された粘着剤層の、23℃、相対湿度50%条件下での表面電気抵抗を測定したところ7×1010Ω/□であった。
【0074】
(実施例6)
ハードコート性フィルムAの裏面の全面に、グラビア印刷機で、インキ(OS−M[NL]藍、大日精化製)を、乾燥後の厚さが5μmとなるように塗布し、有色層(インキ層)を設けた表面層を作製した。このような表面層を用いた以外は実施例1と同様にして加飾成形体6を得た。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例7)
セパレートフィルムAの代わりにセパレートフィルムCを用いる以外、実施例6と同様にして加飾成形体7を得た。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例8)
セパレートフィルムAの代わりにセパレートフィルムDを用いる以外、実施例6と同様にして加飾成形体8を得た。結果を表1に示す。
【0077】
<セパレートフィルムD>
厚さ50μmのPET(東レ社製、ルミラーT60)の片面上に、銀ナノワイヤー(CST−NW−S40、Coldstones製)、ポリエステル系バインダー(ペスレジンA−645GH、高松油脂製)を乾燥後の重量で20:80に配合してなる帯電防止層Dを、乾燥後の塗工量が0.01g/mになるようにクリーンルーム(クラス1000)の中で塗布し、乾燥機にて130℃、30秒間処理を行った。このようにして、帯電防止層を形成した。
次に、反対面上に、熱硬化型シリコーン(東レ・ダウコーニング社製、LTC300B)100質量部と、触媒(東レ・ダウコーニング社製、SRX212)1質量部とからなる剥離剤を、乾燥後の重量で0.1g/mになるようにクリーンルーム(クラス1000)の中で塗布した。乾燥機にて130℃、60秒間処理を行い、剥離剤層Dを形成した。
以上のようにしてセパレートフィルムD(セパレーター層D)を得た。23℃、相対湿度50%条件下で表面電気抵抗を測定したところ、剥離剤層側:5×1016Ω/□、帯電防止層側:6×10Ω/□であった。
【0078】
(実施例9)
ハードコート性フィルムAの代わりに、易成形PET(ソフトシャインTA009、東洋紡製)の裏面にインジウム蒸着(厚さ:30nm)を施した表面層を使用し、粘着剤Aの代わりに粘着剤Cを用いる以外、実施例1と同様にして加飾成形体9を得た。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
セパレートフィルムAの代わりにセパレートフィルムBを用いる以外、実施例1と同様にして加飾成形体11を得た。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例5)
セパレートフィルムAの代わりにセパレート紙E(王子タック社製、片面ポリエチレンラミネート紙セパレーター(商品名:L6W))を用いる以外、実施例1と同様にして加飾成形体15を得た。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例6)
セパレートフィルムAの代わりにセパレート紙Eを用いる以外、実施例6と同様にして加飾成形体16を得た。結果を表1に示す。
【0086】
(評価)
(欠陥数)
23℃、相対湿度50%の環境下で成形された加飾成形体の表面を観察し、表面の凸状に膨れた欠陥数を計測した。各実施例及び比較例で得た加飾成形体の上面(図4(a)の上面に対応する領域)をレーザー顕微鏡(VK−X100、キーエンス製)で観察し、高さが3μm以上のものを欠陥として数を計測した。なお、欠陥数は、各実施例及び各比較例においてそれぞれ同様に作製した10個の加飾成形体の同領域の欠陥数の平均値である。
【0087】
(低湿度環境下欠陥数)
15℃、相対湿度30%の環境下で成形された加飾成形体の表面を上記と同様の方法で観察し、欠陥数を計測し、平均値を求めた。
【0088】
(耐久性)
<キセノンテスト>
加飾成形体を耐候性試験機(キセノンウェザーメーター、機種:XL75、スガ試験機製)にて2,000hrの処理を行い、無処理の加飾成形体及び外観について目視にて比較を行い、下記評価基準に従い評価を行った。
○:無処理の加飾成形体と外観の差異がない。
△:無処理の加飾成形体に比べて、加飾成形体の表面の一部が白化している。
×:無処理の加飾成形体に比べて、加飾成形体の表面の全面が白化している。
【0089】
(耐久性)
<軍手擦りテスト>
軍手をはめた手で加飾成形体を10往復擦り、傷の発生の有無を目視で確認した。
○:傷の発生が全くない。
△:傷の発生がややある。
×:傷の多数発生している。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例で得られた加飾成形体においては、欠陥数が減少されていることがわかる。特に、セパレーター層の表面電気抵抗値が所定の範囲で積層体を用いたものにおいては、耐久性が優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0092】
1…積層体、5…粘着フィルム、10…粘着剤層、20…表面層、22…表面保護層、24…有色層、30…セパレーター層、32…基材層、34…剥離剤層、36…帯電防止層、50…成形体、100…加飾成形体
図1
図2
図3
図4