(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1時点から現時点である第2時点までを解析範囲とし、前記第1時点よりも前記解析範囲だけ過去の時点から前記第2時点までの区間における各時点の観測値を示す時系列データを抽出する時系列範囲抽出部と、
抽出された前記時系列データによって示される前記各時点の観測値に基づいて前記第1時点における移動平均値を算出し、前記解析範囲における前記観測値の変化の傾向を示す一次関数の傾きを、前記第1時点における関数値を前記移動平均値に設定して目的関数が最小化されるように算出し、前記傾きで定まる前記一次関数の前記解析範囲における各時点の関数値を算出する傾向算出部と、
前記一次関数を表すグラフデータを生成し、前記グラフデータを、前記第1時点を起点として表示部に出力する表示演算部と、を備え、
前記目的関数は、前記解析範囲内の各時点の乗算値の総和であり、
前記乗算値は、前記一次関数の関数値と前記観測値との差分の二乗値に重み係数を乗じて得られる数値であり、
前記重み係数は、前記第1時点から前記各時点までの経過時間が大きいほど大きい数値である
データ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明のデータ処理装置、データ処理方法及びプログラムの実施形態について説明する。
【0017】
(データ処理システム)
まず、本実施形態に係るデータ処理システムの一構成例について説明する。
図1は、本実施形態に係るデータ処理システムの一構成例を示すブロック図である。
データ処理システム1は、監視装置10と、制御装置20と、を含んで構成されるシステムである。監視装置10と制御装置20は、それぞれ本発明のデータ処理装置の実施形態である。
図1に示す例では、制御装置20が制御対象とする被制御系は、プラント設備30である。監視装置10と制御装置20とは、ネットワークNWを介して接続される。監視装置10と制御装置20との間では、無線又は有線で相互に各種のデータが送受信可能である。なお、監視装置10と制御装置20は、一体化した単一の装置として構成されてもよい。従って、ネットワークNWは、必ずしもデータ処理システム1の構成要素にならなくてもよい。
【0018】
監視装置10は、制御装置20からネットワークNWを介して観測データを逐次に受信する。観測データは、各時点における観測値を示すデータである。監視装置10は、観測値や観測値に対する分析処理により得られる関数値を示す表示グラフを生成し、生成した表示グラフを表示部(後述)に表示させる。監視装置10は、操作入力部(後述)が受け付けた操作に応じた操作信号に基づいて各種の指示情報を生成する。指示情報には、制御の目標値を与えるための目標情報が含まれる。監視装置10は、生成した目標情報を制御装置20に送信する。監視装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、業務用携帯端末装置(タブレット)、多機能携帯電話機、などとして構成されてもよい。
【0019】
制御装置20は、制御対象となる被制御系から入力される入力値を目標値に近づくように制御する制御装置である。
図1に示す例では、被制御系は、プラント設備30である。制御装置20は、プラント制御部22と、入出力部24と、通信部26と、を含んで構成される。制御装置20は、例えば、DCS(Distributed Control System:分散型制御システム)、FA(Factory Automation)PLC(Programmable Logic Controller)などとして構成されてもよい。
【0020】
プラント制御部22は、プラント設備30から入力される入力情報が入出力部24を介して所定時間毎に入力される。この入力情報が示す入力値が制御量に相当する。また、プラント制御部22には、監視装置10から送信される目標情報が通信部26を介して入力される。プラント制御部22は、目標情報に基づいて目標値を設定し、目標値と出力値の偏差に基づいてプラント設備30に出力する出力値を逐次に算出する。算出される出力値が操作量に相当する。プラント制御部22は、算出した出力値を示す出力情報をプラント設備30に入出力部24を介して出力する。また、制御装置20は、逐次に得られる入力値、偏差のいずれか、又はその両者を観測値として示す観測データを、通信部26を介して監視装置10に送信する。なお、センサ32の数が複数である場合には、一部のセンサ32、例えば、センサ32−1からの出力値はプラント制御部22が実行する制御に用いられ、それ以外のセンサ32、例えば、センサ32−2からの入力値は用いられなくてもよい。但し、制御に用いられない入力値も監視装置10の監視対象となってもよい。即ち、その入力値を示す観測データも、監視装置10に出力されてもよい。
【0021】
入出力部24は、プラント設備30との間で各種のデータを入出力する。入出力部24は、例えば、入出力インタフェースである。 通信部26は、ネットワークNWに接続され、ネットワークNWに接続された機器、例えば、監視装置10との間で各種のデータを無線又は有線で送受信する。通信部26は、例えば、通信インタフェースである。入出力部24と通信部26とは、一体に構成されてもよいし、別個独立に構成されてもよい。なお、プラント設備30のセンサ32、アクチュエータ34と制御装置20との通信は、無線又は有線等のネットワークNWを介して行われてもよい。
【0022】
プラント設備30は、制御装置20から出力された出力情報によって運転状態が制御される設備である。プラント設備30は、運転状態を示す入力情報を制御装置20に入力する。プラント設備30は、センサ32と、アクチュエータ34と、を含んで構成される。
センサ32は、プラント設備30の運転状態を検出するためのセンサである。センサ32は、例えば、温度を検出する温度センサ、圧力を検出する圧力センサ、流体を検出する流量計、電流を検出する電流計、電圧を検出する電圧計など、アクチュエータ34の動作により変化する状態を検出する。センサ32−1、32−2は、それぞれ検出した状態を示す出力情報を制御装置20に逐次に入力する。センサ32−1、センサ32−2は、それぞれ異なる種別の物理量を入力値として検出するセンサであってもよい。
【0023】
アクチュエータ34は、制御装置20から出力された出力情報に基づいて動作する。その動作に応じてプラント設備30の状態が変化する。アクチュエータ34は、例えば、ポンプ、コンプレッサ、バルブ、モータ、モータ駆動装置などである。一般に、出力情報が示す出力値が大きいほどアクチュエータ34の動作量が大きくなる。例えば、アクチュエータ34の動作量は、出力値に比例する。従って、センサ32−1、プラント制御部22及びアクチュエータ34により1個の制御ループが形成される。
【0024】
なお、
図1に示す例では、制御ループの個数が1個である場合を例にするが、制御ループの個数は複数であってもよい。制御ループの個数が複数である場合には、個々の制御ループに係る処理が並列に実行されればよい。
【0025】
(監視装置)
次に、本実施形態に係る監視装置10の一構成例について説明する。
図2は、本実施形態に係る監視装置10の一構成例を示すブロック図である。
監視装置10は、データ取得部12と、データ処理部14と、表示部16と、操作入力部18と、を含んで構成される。
【0026】
データ取得部12は、制御装置20から各時点の観測値を示す観測データを受信する。データ取得部12は、受信した観測データをデータ処理部14に出力する。データ取得部12は、例えば、通信インタフェースであり、ネットワークNWと有線又は無線で接続する。なお、データ取得部12が観測データを取得する手段は、必ずしもネットワークNWでなくてもよい。
【0027】
データ処理部14は、傾向判定部140と、表示演算部148と、を含んで構成される。また、傾向判定部140は、時系列データ記憶部142と、時系列範囲抽出部144と、傾向算出部146と、を含んで構成される。
時系列データ記憶部142は、データ取得部12から入力される観測データを記憶する。時系列データ記憶部142には、その観測値が取得された時刻の順に観測データが累積される。累積された観測データは、各時点の観測値を示す時系列データとして形成される。
【0028】
時系列範囲抽出部144は、時系列データ記憶部142から現時点までの所定のデータ取得期間内の各時点における観測値を示す時系列データを取得する。データ取得期間は、基準時点から現時点までの解析範囲が含まれる期間であればよい。基準時点は、現時点から所定時間前の時点である。現時点は、必ずしもその時点の時刻(現在時刻)に限られず、観測値が取得される最新の時刻であってもよい。傾向算出部146が基準時点における移動平均値を算出する場合には、データ取得期間の長さは、少なくとも解析範囲の長さの2倍であればよい。時系列範囲抽出部144は、取得した時系列データを傾向算出部146に出力する。
【0029】
傾向算出部146には、時系列範囲抽出部144から時系列データが入力される。傾向算出部146は、時系列データを用いて解析範囲内の各時点における観測値の変化の傾向を示す一次関数の傾きを目的関数が最小化されるように算出する。目的関数は、各時点における一次関数の関数値と観測値の差分値の重み付き平方和である。各時点の重み係数は、基準時点からの当該時点までの経過時間が大きいほど大きい数値であればよい。
【0030】
傾向算出部146は、時系列データを用いて基準時点を中心時刻とする中心化移動平均値を算出してもよい。中心化移動平均値は、移動平均区間内の各時点の関数値の単純平均値である。移動平均区間は、基準時点よりも解析範囲だけ過去の時点から現時点までの区間である。以下、移動平均区間の長さをウィンドウサイズと呼ぶ。また、中心化移動平均値を、単に移動平均値と呼ぶ。傾向算出部146は、基準時点における関数値が中心化移動平均値と等しくなるように一次関数の切片を算出してもよい。傾向算出部146は、算出した切片と傾きに基づいて、解析範囲内の各時点の関数値を算出することができる。傾向算出部146は、算出した各時点の関数値を示す傾向データを表示演算部148に出力する。傾向算出部146は、傾向データに移動平均値をさらに含めてもよい。
【0031】
表示演算部148には、データ取得部12から観測データが入力され、傾向算出部146から傾向データが入力される。表示演算部148は、少なくとも解析範囲内の各時点の観測値と関数値を図示するグラフデータを生成する。傾向データに移動平均値が含まれる場合には、表示演算部148は、各時点の観測値と基準時点までの移動平均値をさらに表すグラフデータを生成してもよい。グラフデータを生成する際、表示演算部148は、各数値、各時点の時刻を、それぞれ垂直方向、水平方向の座標値に変換する。観測値、関数値及び移動平均値間で、それらの値を示す記号もしくは図形の態様(例えば、色、形状、線種など)が異なっていてもよい。表示演算部148は、生成したグラフデータを表示部16に出力する。
【0032】
なお、データ処理部14は、操作入力部18から入力される操作信号が指示する情報に基づいて、観測値の表示を制御してもよい。例えば、データ処理部14は、傾向算出部146に設定されている解析範囲を、操作信号で指示される期間に更新してもよい。データ処理部14に複数系統の観測データが入力される場合には、データ処理部14は、処理対象の系統の観測データを、操作信号で指示される系統の観測データに更新してもよい。その場合、指示される系統の観測データに係る観測値や関数値などが表示部16に表示される。
図1に示す例では、観測データの系統として、センサ32−1からの出力データ、センサ32−2からの出力データ、プラント制御部22からの偏差を示す偏差データ、などが処理対象となりうる。なお、データ処理部14は、複数のウィンドウサイズが設定され、それぞれ異なるウィンドウサイズについて並行して上述した処理を進行し、期待されるウィンドウサイズに合わせた傾向値、即ち、一次関数の傾きならびに関数値を算出する方式を実行するようにしてもよい。
【0033】
また、データ処理部14は、操作入力部18から入力される操作信号が指示する情報に基づいて、制御装置20の運用に係る処理を行ってもよい。例えば、データ処理部14は、制御の目標値として操作信号が指示する目標値を特定する。データ処理部14は、その目標値を与えるためのパラメータを特定してもよい。データ処理部14は、特定した目標値又はパラメータを示す目標情報を制御装置20に送信する。
【0034】
表示部16は、データ処理部14から入力されるグラフデータが表す各時点の観測値と関数値を図示する。表示部16は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)、OELD(Organic Electro Luminescence Display:有機発光ディスプレイ)などのディスプレイである。
【0035】
操作入力部18は、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に応じた操作信号を生成する。操作入力部18は、生成した操作信号をデータ処理部14に出力する。操作入力部18は、例えば、マウス、キーボード、タッチセンサなどの汎用の部材を含んで構成されてもよいし、ボタン、レバー、つまみ、などの専用の部材を含んで構成されてもよい。
【0036】
(変化傾向の算出)
次に、時系列データの変化傾向の算出について
図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係る時系列データの変化傾向の算出方法の説明図である。
傾向算出部146に入力される時系列データを構成する時刻t
iにおける観測値をx
tiと表す。iは、各時点の順序を示す整数である。時刻t
Nは、現時点の時刻を示す。
図3において、細い実線は、現時点までの各時点における観測値の時系列を示す。また、傾向算出部146には、ウィンドウサイズWが予め設定されている。ウィンドウサイズWは、移動平均区間内の観測値の数2K+1に相当する。Kは、解析範囲内の観測値の数を示す1以上の整数である。
【0037】
傾向算出部146は、現時点t
NからK点過去の時刻である基準時点t
N―Kにおける移動平均値<x
tN―K>を算出する。与えられている時系列データによれば、基準時点t
N―Kまでの移動平均値が算出可能である。
図3において、太い実線が基準時点t
N―Kまでの各時点における移動平均値を示す。しかし、基準時点t
N―Kよりも後の時刻の移動平均値を算出するには、現時点t
Nよりも後の時刻における観測値を要する。そのため、現時点t
Nでは、基準時点t
N―Kよりも後の時刻の移動平均値を算出することができない。そこで、傾向算出部146は、基準時点t
N―Kよりも後の各時刻における観測値の変化傾向を示す一次関数の関数値を算出する。傾向算出部146は、基準時点t
N―Kにおける関数値として、基準時点t
N―Kにおける移動平均値<x
tN―K>を採用する。傾向算出部146は、モーメント回帰を用いて各時刻t
N−K+iにおける一次関数<x
tN−K>+a
tN(t
N−K+i‐t
N−K)の傾きa
tNを算出する。モーメント回帰は、例えば、式(1)に示す目的関数Jを最小化して傾きa
tNを算出する手法である。
【0039】
式(1)において、t
N−K+i‐t
N−Kは、時刻t
N−K+iにおける基準時点t
N−Kからの経過時間を示す。また、{…}内で差し引かれる値<x
tN−K>+a
tN(t
N−K+i‐t
N−K)は、一次関数の時刻t
N−K+iの関数値に相当する。従って、式(1)は、時刻t
N−K+iの観測値x
tN−Kから一次関数の関数値を差し引いて得られる差分値の二乗値に、経過時間t
N−K+i‐t
N−Kを乗じて得られる乗算値を、解析範囲内で総和をとって目的関数が得られることを示す。なお、式(1)において、{…}で表される部分は、通常の最小二乗法で用いられる項である。
傾向算出部146は、式(1)に示す目的関数Jを最小化する傾きa
tNを算出する際、式(2)で与えられる関係を用いる。
【0041】
式(2)は、目的関数Jを傾きa
tNで微分して得られる導関数が0となる条件から導かれる。
図3において、太い破線は、基準時点t
N―Kから現時点t
Nまでの各時点における一次関数の関数値を示す。
【0042】
上述した例では、目的関数Jを算出する際、差分値の二乗値に経過時間t
N−K+i‐t
N−Kが乗じられる。そのため、新しい観測値ほど、関数値との差分値による目的関数Jに対する寄与が大きくなるので、現時点に近い観測値の時間変動が重視される。従って、観測値の位相に対する関数値の位相の遅れを生じずに、ユーザの直観に近い変化傾向を示す関数値が推定される。
なお、傾向算出部146において、現時点t
Nまでの解析範囲が期間をもって設定されていれば、解析範囲の一部に観測値を取得できなかった欠損点が存在していても、式(2)を用いた傾きa
tNの算出が可能である。そのため、
図1のセンサ32−1、32−2からの測定値が一時的に測定できない状況、例えば、入出力部24の全体あるいは一部の機能の一時的な不具合が生じたときや全体あるいは一部の機能が一時的に停止したとき、または、ネットワークNWによる伝送損失がある際などの欠損が生じても安定した関数値の算出が可能である。
【0043】
上述した例では、各時点間の間隔が不定間隔である場合にも適用可能であるが、各時点間の間隔が一定間隔dである場合には、式(1)は、式(3)に示すように変形される。
【0045】
式(3)において、時刻t
iは、t
1+(i‐1)dである。
そして、式(3)に示す目的関数Jを傾きa
tNで微分して得られる導関数が0となる条件として、式(4)に示す関係が得られる。
【0047】
式(4)の分母は、定数となる。この定数の値は、K(K+1)(2K+1)・d
3/6となる。傾向算出部146が式(4)に示す関係を用いて傾きa
tNを算出する際、予め設定した定数を用いればよい。逐次に定数を算出するための処理を省略することで計算量がさらに低減される。そのため、演算資源が比較的小さい機器(例えば、組み込み機器)などへの実装が容易になる。
【0048】
なお、式(3)に示す目的関数Jでは、各時点t
N−K+iにおける観測値から関数値の差分の二乗値に対して乗じられる重み係数w
iが、基準時点t
N−Kからの経過時間t
N−K+i‐t
N−Kに比例する場合を例にしたが、これには限られない。重み係数w
iは、経過時間t
N−K+i‐t
N−Kの増加に対して単調に増加する正値に一般化されてもよい。重み係数w
iは、K次元の重み係数ベクトルの要素値として、傾向算出部146に予め設定しておけばよい。その場合には、式(3)に示す目的関数Jは、式(5)に示すように一般化される。
【0050】
そして、式(5)に示す目的関数Jを傾きa
tNで微分して得られる導関数が0となる条件として、式(6)に示す関係が得られる。傾向算出部146は、式(6)を用いて傾きa
tNを算出してもよい。
【0052】
なお、各時点間の間隔が不定間隔である場合には、傾向算出部146は、式(7)を用いて傾きa
tNを算出してもよい。
【0054】
式(7)は、式(2)において基準時点t
N−Kからの経過時間t
N−K+i‐t
N−Kを、重み係数w
iに置き換えたものに相当する。
また、傾向算出部146は、式(8)に示すように、重み係数w
iとして、基準時点t
N−Kからの経過時間tに依存する関数w(t)を用いて、傾きa
tNを算出してもよい。
【0056】
(傾向判定処理)
次に、本実施形態に係る傾向判定処理の一例について説明する。
図4は、本実施形態に係る傾向判定処理の一例を示すフローチャートである。
(ステップS102)時系列範囲抽出部144は、時系列データ記憶部142から現時点t
Nまでの移動平均区間内の各時点における観測値x
tN−2K,…,x
tNを示す時系列データを取得する。その後、ステップS104の処理に進む。
(ステップS104)傾向算出部146は、取得された時系列データを用いて現時点から所定時間前の基準時点t
N−Kを中心時刻とする移動平均値<x
tN−K>を算出する。その後、ステップS106の処理に進む。
(ステップS106)傾向算出部146は、目的関数が最小化されるように現時点までの解析範囲内の各時点の関数値を与える一次関数の傾きa
tN−Kを算出する。傾きa
tN−Kを算出する際、例えば、式(2)、(4)、(6)、(7)、(8)のいずれが用いられてもよい。その後、ステップS108の処理に進む。
【0057】
(ステップS108)表示演算部148は、算出された移動平均値<x
tN−K>を表す座標点を起点とし、その移動平均値<x
tN−K>と傾きa
tN−Kで定まる一次関数の関数値を表現する直線とを示すグラフデータを表示部16に出力する。このグラフデータには、さらに現時点t
Nまでの各時点t
iの観測値x
tiを示す座標値が含まれてもよい。
この出力が、現時点t
Nにおける出力となる。その後、ステップS110の処理に進む。
(ステップS110)データ処理部14は、解析範囲の最新の時点である現時点t
Nを次の時点t
N+1とする。その後、ステップS102の処理に戻る。
【0058】
(表示例)
次に、本実施形態に係る表示部16が表示するグラフデータの表示例について説明する。
図5、
図6は、それぞれ表示部16が表示するグラフデータの表示例を示す図である。
図5、
図6において、太い実線、細い実線、太い破線は、それぞれ基準時点t
N―Kまでの移動平均値、現時点t
Nまでの観測値、解析範囲(t
N―K〜t
N)内における一次関数の関数値をそれぞれ示す。これらの関数値は、式(4)を用いて算出された傾きa
Nと基準時点t
N―Kにおける移動平均値<x
tN―K>に基づいて算出された値である。ここで、算出解析範囲の長さKは、10点である。
図5、
図6ともに解析範囲内の関数値を示す直線が、基準時点t
N―Kにおける移動平均値と整合しつつ、観測値に対する位相の遅延を伴わずに表されている。
図5に示す例では、関数値を表す直線は現時点t
N付近の各時点における観測値の時間経過による増加傾向を示す。これに対して、基準時点t
N―Kにおける移動平均値は、減少傾向を示す。
図6に示す例では、関数値を表す直線は現時点t
N付近の各時点における観測値の減少傾向を示す。これに対して、基準時点t
N―Kにおける移動平均値は、増加傾向を示す。このように、本実施形態によれば現時点における観測値の変化傾向が、移動平均値よりも人間の直観に合うように表される。
【0059】
(プラント制御部)
次に、本実施形態に係る制御装置20のプラント制御部22の構成について説明する。
図7は、本実施形態に係るプラント制御部22の一構成例を示すブロック図である。
プラント制御部22は、減算部222、傾向判定部224、比例演算部226、積分演算部228、傾向演算部230及び加算部232を含んで構成される。
【0060】
傾向判定部224は、時系列データ記憶部2242と、時系列範囲抽出部2244と、傾向算出部2246と、を含んで構成される。時系列データ記憶部2242、時系列範囲抽出部2244及び傾向算出部2246の構成は、それぞれ時系列データ記憶部142、時系列範囲抽出部144及び傾向算出部146(
図2)と同様である。
ここで、時系列データ記憶部2242は、各時点の観測値を示す観測データとして、減算部222から入力される各時点の偏差を示す偏差情報を記憶する。時系列データ記憶部2242には、その偏差が算出された時刻の順に偏差情報が累積される。累積された偏差情報は、各時点の偏差を示す時系列データとして形成される。
【0061】
次に、各部が行う処理について説明する。
減算部222は、目標値情報が示す現時点tにおける目標値r(t)から,プラント設備30からの入力情報が示すその時点の入力値(測定値)y(t)を差し引いて、その時点における偏差e(t)を算出する。算出された偏差e(t)を傾向判定部224、比例演算部226、積分演算部228への入力とする。
傾向判定部224は、現時点tまでの解析範囲内の偏差e(t)から現時点tにおける傾きv(t)を算出する。傾向判定部224は、例えば、式(2)、(4)、(6)、(7)、(8)のいずれかに示す観測値x
tNとして偏差e(t)を代入して、傾きa
tNとして傾きv(t)を算出する。算出された傾きv(t)を傾向演算部230への入力とする。
【0062】
比例演算部226は、偏差e(t)に所定の比例ゲインK
pを乗じて比例項PとしてK
p・e(t)を算出する。算出された比例項Pを加算部232への入力とする。
積分演算部228は、時刻tまでの積分値∫e(τ)dτに所定の積分ゲインK
Iを乗じて積分項IとしてK
I・∫e(τ)dτを算出する。積分区間の開始時は、例えば、制御装置20の動作開始時である。算出された積分項Iを加算部232への入力とする。
【0063】
傾向演算部230は、現時点tにおける傾きv(t)に所定の傾きゲインK
vを乗じて傾き項VとしてK
v・v(t)を算出する。算出された傾き項Vを加算部232への入力とする。
加算部232は、比例項P、積分項I及び傾き項Vの総和を出力値(操作出力値)u(t)として算出する。算出した出力値u(t)を示す出力情報がプラント設備30に出力される。
【0064】
図7に示すプラント制御部22における出力値の算出方法では、PID制御における微分項Dに代えて、プラント設備30の制御状態の時間変動を示す傾きv(t)から算出される傾き項Vが用いられている。また、この傾きv(t)の算出において、プラント設備30の制御状態を示す偏差e(t)として過去よりも現時点tに近い偏差e(t)が重視される。そのため、ノイズその他の外乱により著しく時間変動する微分項Dよりも、外乱による影響が低減され、傾き項Vが用いられることで、より安定した制御が可能となる。
なお、プラント制御部22は、さらに微分演算部と選択部を備えてもよい。微分演算部は、傾向演算部230と並列に備えられ、減算部222からの偏差e(t)から微分項Dを算出する。選択部は、微分演算部からの微分項Dと傾向演算部230からの傾き項Vのいずれかを選択し、選択した項を加算部232に出力する。これにより、出力値u(t)の算出において、微分項Dと傾き項Vのいずれか用いられる。
【0065】
なお、プラント制御部22による制御の手法は、PIV、PV、IV、Vのいずれかでよい。PIVは、上述したように、比例項P、積分項I及び傾き項Vの総和を出力値とする手法である。PVは、比例項P及び傾き項Vの和を出力値とする手法である。IVは、積分項I及び傾き項Vの和を出力値とする手法である。Vは、傾き項Vを出力値とする手法である。
【0066】
以上に説明したように、本実施形態に係るデータ処理装置として制御装置20は、プラント制御部22において、基準時点から現時点までの解析範囲における各時点の観測値を示す時系列データを抽出する時系列範囲抽出部2244を備える。
図7に示す例では、観測値として、測定値の目標となる目標値r(t)とプラント設備30からの測定値y(t)との偏差e(t)が用いられる。また、データ処理装置は、解析範囲における各時点の観測値の変化の傾向を示す一次関数の傾きを、目的関数が最小化されるように算出する傾向算出部2246を備える。目的関数として、解析範囲内の各時点の乗算値の総和が用いられる。乗算値として、一次関数の関数値と観測値の差分の二乗値に重み係数を乗じて得られる数値が、重み係数として、基準時点から各時点までの経過時間が大きいほど大きい数値が用いられる。
【0067】
(効果)
この構成により、現時点に近い時点の観測値ほど重視して一次関数の傾きが算出されるので、観測値の変化の傾向を示す一次関数の関数値の位相が現時点の観測値に対して遅延しない。従って、観測値の乱雑な時間変動が低減又は除去されるとともに、人間の直観に合った観測値の変化の傾向を定量化された値として示される。よって、観察者は、監視対象の状態の変化の傾向を容易に判断できるようになる。ひいては、監視もしくはその運用のための負担が低減する。
また、上述したプラント制御部22における出力値の算出方法では、PID制御における微分項Dに代えて、プラント設備30の制御状態の時間変動を示す傾きv(t)から算出される傾き項Vが用いられる。傾きv(t)の算出において、プラント設備30の制御状態を示す偏差e(t)として過去よりも現時点tに近い偏差e(t)が重視される。そのため、ノイズその他の外乱により著しく時間変動する微分項Dよりも、外乱による影響が低減され、傾き項Vが用いられることで、より安定した制御が可能となる。
【0068】
また、一次関数の関数値と観測値の差分の二乗値に乗じられる重み係数を、基準時点からの経過時間に比例する数値とする。
最新の傾向解析範囲だけで演算を行うので、ハードウェア規模や演算量の増加が抑制され、経済的な導入が可能となる。
【0069】
また、監視装置10は、各時点の関数値を与える一次関数を表すグラフデータを生成し、グラフデータを表示部16に出力する表示演算部148を備える。
この構成により、観測値の変化傾向を示す一次関数の関数値の時間変化が表示される。そのため、ユーザは表示される関数値の時間変化を視認することにより、直感に合った観測値の変化傾向を把握することができる。
【0070】
また、制御装置20は、観測値として、制御対象、例えば、
図7に示すプラント設備30からの測定値と、目標値との偏差を算出する減算部222と、少なくとも現時点の傾きに基づいてプラント設備30に出力する出力値を算出する傾向演算部230と加算部232を備える。
この構成により、位相が遅延せず、かつ微細な乱雑な成分が低減又は解消された観測値の変化傾向を用いて出力値が算出される。そのため、遅延を生じずに観測値の時間微分が用いられる場合よりも安定した制御が可能となる。
【0071】
(変形例)
以上、図面を参照してこの発明の実施形態について説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0072】
図1に示す例では、監視装置10、制御装置20の個数は、1個であるが、これには限られない。監視装置10、制御装置20の個数は、それぞれ2個以上であってもよい。また、監視装置10の動作と制御装置20の動作は必ずしも同期せず、独立であってもよい。
また、
図2に示す実施形態では、監視装置10が表示部16と操作入力部18を備えている場合を例にするが、これには限られない。表示部16と操作入力部18の一部又は両方は、監視装置10との間でデータを送受信できれば、監視装置10に含まれなくてもよい。
【0073】
また、制御装置20は、センサ32−1とアクチュエータ34の一方又は両方と一体に構成されてもよい。その場合には、制御装置20は、センサモジュール、アクチュエータモジュールなどのいわゆるIoT(Internet of Things;モノのインターネット)機器として実装されてもよい。なお、傾向判定部140、224は、設置場所、機器の配置などに関わらず、どこに構成されるものであってもよい。
【0074】
また、上述したデータ処理装置の実施形態は、主にデータ処理システム1における監視装置10、制御装置20を例にするが、これに限られない。処理対象である時系列データは、乱雑な時間変動成分を含み、多くの観測値からなる時系列データであれば、いかなる分野に適用しても有用である。例えば、医療分野における観測値として、心拍数、血圧、などに適用可能である。金融、商取引分野における観測値として、株価などの有価証券の価格、外国為替などの交換率、商品価格などに適用可能である。警備、機器の動作監視において、環境音、動作音などの音量、基本周波数などに適用可能である。また、制御対象は、必ずしもプラント設備30に限られず、プロセス系、個々の機器の動作などであってもよい。