特許第6662405号(P6662405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6662405
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】シールチェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/02 20060101AFI20200227BHJP
   F16G 13/06 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   F16G13/02 D
   F16G13/06 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-89938(P2018-89938)
(22)【出願日】2018年5月8日
(65)【公開番号】特開2019-196790(P2019-196790A)
(43)【公開日】2019年11月14日
【審査請求日】2019年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇志
【審査官】 木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−256262(JP,A)
【文献】 特許第4255787(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/02
F16G 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して離れて配置される一対の内リンクプレートと、
一対の前記内リンクプレートを貫通し、両端部が一対の前記内リンクプレートの外側にそれぞれ突出した状態で一対の前記内リンクプレートに接合される筒状のブシュと、
前記ブシュに回転可能に挿入されるピンと、
一対の前記内リンクプレートを外側から挟むように配置され、前記ピンの両端部がそれぞれ接合される一対の外リンクプレートと、
前記内リンクプレートの外側面と前記外リンクプレートの内側面との間に前記ピン及び前記ブシュを囲うように配置された環状のシール部と、を備えたシールチェーンであって、
前記シール部は、
前記ピンに対して一体回転可能に接合された環状のピン側シールリングと、
前記ブシュに対して一体回転可能に接合され、前記ピンの軸方向において前記ピン側シールリングと対向する環状のブシュ側シールリングと、
前記ピン側シールリングと前記ブシュ側シールリングとの間に挟まれるように径方向に並んで配置された互いに外径の異なる複数の環状のシール部材と、を備えることを特徴とするシールチェーン。
【請求項2】
前記ピン側シールリングにおける前記ブシュ側シールリングとの対向面には環状のピン側凹溝が形成され、
前記ブシュ側シールリングにおける前記ピン側シールリングとの対向面には環状のブシュ側凹溝が形成され、
前記シール部材は、前記ピン側凹溝と前記ブシュ側凹溝とによって挟まれていることを特徴とする請求項1に記載のシールチェーン。
【請求項3】
前記ピン側凹溝及び前記ブシュ側凹溝は、径方向の中央部の深さが最も深くなっており、径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっていることを特徴とする請求項に記載のシールチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面との間にシール部を配置したシールチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシールチェーンとして、例えば特許文献1に示すものが知られている。このようなシールチェーンのシール機構は、鋼製の環状シール受け部材と、内プレートの外側面から一部突出したブシュの外周面に外嵌されて環状シール受け部材と内プレートとの間に介在する第1弾性シールリングと、環状シール受け部材の外周側に配置されて内プレートの外側面に当接する鋼製シールリングと、該鋼製シールリングの内周面と環状シール受け部材の外周面との間で挟持される第2弾性シールリングとから構成されている。
【0003】
環状シール受け部材は、連結ピンに外嵌固定されて外プレートの内側面に当接するとともにブシュの端面と外プレートの内側面との間に介在するディスク状シール受け部と、該ディスク状シール受け部の外周側に内プレートに向けて膨出するリム状シール受け部とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−157423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のシールチェーンでは、長期間の使用で連結ピンとブシュとの摺動面が摩耗することによってシールチェーンが伸びる摩耗伸びが発生した場合、環状シール受け部材は連結ピンに追従するため、第1弾性シールリングがブシュの外周面と環状シール受け部材のリム状シール受け部とに挟まれて摩滅する。さらに連結ピンとブシュとの摺動面が摩耗すると、ブシュが環状シール受け部材のリム状シール受け部に当接するため、シールチェーンにかかる引っ張り荷重がリム状シール受け部に作用するようになる。この結果、リム状シール受け部が破損するおそれがあるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされた。その目的は、摩耗伸びが発生してもピン側シールリング及びブシュ側シールリングが破損するおそれをなくすことができるシールチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するシールチェーンは、互いに対向して離れて配置される一対の内リンクプレートと、一対の前記内リンクプレートを貫通し、両端部が一対の前記内リンクプレートの外側にそれぞれ突出した状態で一対の前記内リンクプレートに接合される筒状のブシュと、前記ブシュに回転可能に挿入されるピンと、一対の前記内リンクプレートを外側から挟むように配置され、前記ピンの両端部がそれぞれ接合される一対の外リンクプレートと、前記内リンクプレートの外側面と前記外リンクプレートの内側面との間に前記ピン及び前記ブシュを囲うように配置された環状のシール部と、を備えたシールチェーンであって、前記シール部は、前記ピンに対して一体回転可能に接合された環状のピン側シールリングと、前記ブシュに対して一体回転可能に接合され、前記ピンの軸方向において前記ピン側シールリングと対向する環状のブシュ側シールリングと、前記ピン側シールリングと前記ブシュ側シールリングとの間に挟まれるように配置された環状のシール部材と、を備えることを要旨とする。
【0008】
この構成によれば、長期間の使用でピンとブシュとの摺動面が摩耗することによってシールチェーンが伸びる摩耗伸びが発生した場合、ピン側シールリング及びブシュ側シールリングは、それぞれピン及びブシュに追従するため、互いにほとんど干渉することなくピンの軸方向と直交する方向において相対的に位置がずれる。このとき、ピン側シールリング及びブシュ側シールリングはそれぞれブシュ及びピンと干渉しないため、シールチェーンにかかる引っ張り荷重はピン側シールリング及びブシュ側シールリングに作用しない。したがって、シールチェーンに摩耗伸びが発生してもピン側シールリング及びブシュ側シールリングが破損するおそれをなくすことができる。
【0009】
上記シールチェーンにおいて、前記ピン側シールリングと前記ブシュ側シールリングとの間には、互いに外径の異なる複数の前記シール部材が径方向に並んで配置されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、シール部のシール性を向上することができる。
上記シールチェーンにおいて、前記ピン側シールリングにおける前記ブシュ側シールリングとの対向面には環状のピン側凹溝が形成され、前記ブシュ側シールリングにおける前記ピン側シールリングとの対向面には環状のブシュ側凹溝が形成され、前記シール部材は、前記ピン側凹溝と前記ブシュ側凹溝とによって挟まれていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、シール部材の位置を決めつつ、シール部のシール性を向上することができる。
上記シールチェーンにおいて、前記ピン側凹溝及び前記ブシュ側凹溝は、径方向の中央部の深さが最も深くなっており、径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、ピン側凹溝とブシュ側凹溝との径方向の中央部同士によって挟まれたシール部材が摩耗してその断面積が小さくなった場合には、シール部材と、ピン側凹溝またはブシュ側凹溝との間に隙間ができた状態になる。この状態でシール部材の外周側からピン側凹溝とブシュ側凹溝との間に異物が進入すると、この異物によってシール部材が径方向の内側へ押圧される。すると、シール部材がピン側凹溝とブシュ側凹溝との径方向の内側の端部同士によって挟まれた状態になるため、シール部材と、ピン側凹溝及びブシュ側凹溝との間に隙間ができなくなる。したがって、シール部材が摩耗してその断面積が小さくなった場合でも、異物の進入を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シールチェーンに摩耗伸びが発生してもピン側シールリング及びブシュ側シールリングが破損するおそれをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態のシールチェーンの一部を示す断面図。
図2図1の要部拡大図。
図3図1において摩耗伸びが発生したときの状態を示す要部拡大図。
図4図1において大径Oリングが摩耗したときの状態を示す要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、シールチェーンの一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、シールチェーン11は、例えば鋼材によって構成され、互いに幅方向Yで対向して離れて配置される一対の内リンクプレート12を各々有した複数の内リンク13と、一対の内リンクプレート12を幅方向Yの外側から挟むように配置される一対の外リンクプレート14を各々有した複数の外リンク15とを備えている。
【0016】
内リンク13の内リンクプレート12及び外リンク15の外リンクプレート14は、シールチェーン11が幅方向Yと直交する長手方向の一方側から引っ張られて移動する場合の移動方向ともなる直列方向Xに沿って延びる略矩形板状をなしている。そして、幅方向Yで対向する内リンクプレート12及び外リンクプレート14は、互いに平行となるように配置されている。
【0017】
したがって、本実施形態のシールチェーン11は、その直列方向Xにおける内リンク13及び外リンク15の一端側と他端側でそれぞれ内リンクプレート12間の間隔及び外リンクプレート14間の間隔が等しくなるように構成された所謂フラットタイプのチェーンである。
【0018】
内リンクプレート12の直列方向Xにおける両端部には、それぞれ円形のブシュ挿入孔17が内リンクプレート12の厚さ方向ともなる幅方向Yに貫通するように形成されている。内リンク13において対向する一対の内リンクプレート12間には、これら一対の内リンクプレート12間の距離を保つように円筒状のブシュ18が2つ組み付けられる。
【0019】
ブシュ18の両端部は、一対の内リンクプレート12のブシュ挿入孔17に対してそれぞれ回転不能に嵌合(接合)されている。この場合、ブシュ18の両端部における先端部分は一対の内リンクプレート12よりも幅方向Yの外側にそれぞれ突出している。つまり、ブシュ18は、両端部において一対の内リンクプレート12を貫通している。ブシュ18は、円筒状のローラ19に挿入されることでローラ19を回転可能に支持している。すなわち、ブシュ18はローラ19に遊嵌されている。
【0020】
外リンクプレート14の直列方向Xにおける両端部には、それぞれブシュ18の内径よりも若干小さい外径を有した円柱状のピン21が挿嵌される円形のピン挿入孔22が外リンクプレート14の厚さ方向ともなる幅方向Yに貫通するように形成されている。ピン21の先端部には孔23が貫通するように形成され、孔23にはピン21がピン挿入孔22から抜けないようにするための抜止ピン24が挿入されている。抜止ピン24は、自身が孔23から抜けないように、先端部が屈曲されている。
【0021】
そして、外リンク15の一対の外リンクプレート14は、ブシュ18が一対の内リンクプレート12間に組み付けられて形成された内リンク13における一対の内リンクプレート12を外側から挟むように配置された状態で、ピン21を介して内リンク13の内リンクプレート12に対して回動自在に連結される。この場合、ピン21は、両端部以外の中間部が内リンク13の一対の内リンクプレート12間に組み付けられたブシュ18に回転可能に挿入された状態で、両端部が外リンク15の一対の外リンクプレート14のピン挿入孔22に対してそれぞれ回転不能に嵌合(接合)されている。
【0022】
したがって、ピン21の両端部は一対の外リンクプレート14をそれぞれ貫通しており、直列方向Xで隣り合う内リンク13の内リンクプレート12と外リンク15の外リンクプレート14とが直列方向Xの端部同士でピン21及びブシュ18を介して回動自在に連結されている。
【0023】
ピン21の基端面25には、円形の凹部26が形成されている。ピン21の内部における凹部26の底面の中央部からピン21における軸方向となる幅方向Yの中央部にかけての位置には、連通路27が直線状に延びるように形成されている。連通路27における凹部26側の開口には、連通路27へグリースを注入するためのグリースニップル28が取り付けられている。
【0024】
ピン21の外周面21aにおけるブシュ18と対応する位置には、幅方向Yに延びる溝29が形成されている。溝29と連通路27における凹部26側とは反対側の端部とは、ピン孔30によって連通されている。したがって、連通路27は、グリースニップル28とピン孔30とを連通している。
【0025】
ピン21の凹部26には、ゴムなどの可撓性材料によって構成された有底円形箱状のキャップ31が着脱自在に装着されている。キャップ31をピン21の凹部26に装着した状態では、キャップ31がグリースニップル28を覆うようになっている。キャップ31の底壁の中央部には、細孔31aが貫通するように形成されている。
【0026】
ピン21の外周面21aとブシュ18の内周面18aとの間には、潤滑剤としてグリースが配置されている。ピン21の外周面21aとブシュ18の内周面18aとの間には、グリースニップル28から、連通路27、ピン孔30、及び溝29を介してグリースが補給可能になっている。なお、内リンクプレート12の外側面12bと外リンクプレート14の内側面14aとの間には、ピン21及びブシュ18を囲うように配置された円環状のシール部32が配置されている。
【0027】
次に、シール部32の構成について詳述する。
図1及び図2に示すように、シール部32は、円環板状をなす金属製のピン側シールリング33と、円環板状をなす金属製のブシュ側シールリング34と、円環状のシール部材の一例としての大径Oリング35と、円環状のシール部材の一例としての角リング36と、円環状の小径Oリング37とを備えている。
【0028】
ピン側シールリング33は、ピン21に対して一体回転可能に外嵌(接合)され、幅方向Yにおける外側の面が外リンクプレート14の内側面14aに接触している。ブシュ側シールリング34は、ブシュ18に対して一体回転可能に外嵌(接合)され、ピン21の軸方向となる幅方向Yにおいてピン側シールリング33と対向している。ブシュ側シールリング34は、幅方向Yにおける内側の面が内リンクプレート12の外側面12bに接触している。ブシュ側シールリング34とピン側シールリング33とは、径方向及び直列方向Xにおいて重なっていない。
【0029】
大径Oリング35及び小径Oリング37は断面視で円形状をなしており、角リング36は断面視で矩形状をなしている。大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37は、ピン側シールリング33と、ブシュ側シールリング34及びブシュ18の端面18bとの間に挟まれるように配置されている。すなわち、大径Oリング35及び角リング36はピン側シールリング33とブシュ側シールリング34との間に挟まれるように配置され、小径Oリング37はピン側シールリング33とブシュ18の端面18bとの間に挟まれるように配置されている。
【0030】
大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37は、いずれもエラストマなどの可撓性材料によって構成されている。大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37のうちでは、大径Oリング35の外径が最も大きく、小径Oリング37の外径が最も小さい。したがって、大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37は、互いに外径が異なっており、径方向に並んで配置されている。大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37には、潤滑剤としてグリースが十分に塗布されている。
【0031】
ピン側シールリング33におけるブシュ側シールリング34との対向面33aにおける大径Oリング35及び角リング36と対応する位置には、それぞれ円環状のピン側凹溝の一例としてのピン側第1凹溝38及び円環状のピン側凹溝の一例としてのピン側第2凹溝39が形成されている。ピン側第1凹溝38は、断面視で略半楕円形状をなしており、底面が大径Oリング35に圧接している。ピン側第1凹溝38は、ピン側シールリング33の径方向の中央部の深さが最も深くなっており、当該径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっている。ピン側第2凹溝39は、断面視で略U字状をなしており、角リング36における厚さ方向(幅方向Y)の略半分と嵌合している。
【0032】
ピン側シールリング33におけるブシュ18の端面18bとの対向面33bにおける小径Oリング37と対応する位置には、ピン側第3凹溝40が形成されている。ピン側第3凹溝40は、断面視で略半楕円形状をなしており、底面が小径Oリング37に圧接している。ピン側第3凹溝40は、ピン側シールリング33の径方向の中央部の深さが最も深くなっており、当該径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっている。
【0033】
ブシュ側シールリング34におけるピン側シールリング33との対向面34aには、それぞれ円環状のブシュ側凹溝の一例としてのブシュ側第1凹溝41及び円環状のブシュ側凹溝の一例としてのブシュ側第2凹溝42が形成されている。ブシュ側第1凹溝41は、断面視で略半楕円形状をなしており、底面が大径Oリング35に圧接している。ブシュ側第1凹溝41は、ブシュ側シールリング34の径方向の中央部の深さが最も深くなっており、当該径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっている。ブシュ側第2凹溝42は、断面視で略L字状をなしており、角リング36における厚さ方向(幅方向Y)の略半分と嵌合している。この場合、角リング36の内周面36aは、ブシュ18の外周面18cに接触している。
【0034】
ブシュ18の端面18bにおける小径Oリング37と対応する位置には、円環状のブシュ凹溝43が形成されている。ブシュ凹溝43は、断面視で略半楕円形状をなしており、底面が小径Oリング37に圧接している。ブシュ凹溝43は、ブシュ側シールリング34の径方向の中央部の深さが最も深くなっており、当該径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっている。
【0035】
大径Oリング35は、ピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41との径方向における中央部同士によって挟まれている。ピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41とは、互いに同一の形状となるように形成されている。角リング36は、ピン側第2凹溝39とブシュ側第2凹溝42とによって挟まれている。ピン側第2凹溝39と、ブシュ側第2凹溝42及びブシュ18の外周面18cで形成される溝とは、互いにほぼ同一の形状となるように形成されている。
【0036】
小径Oリング37は、ピン側第3凹溝40とブシュ凹溝43との径方向における中央部同士によって挟まれている。ピン側第3凹溝40とブシュ凹溝43とは、互いに同一の形状となるように形成されている。ピン側シールリング33におけるブシュ側シールリング34との対向面33aと、ブシュ側シールリング34におけるピン側シールリング33との対向面34aとの間には、僅かな隙間S1が形成されている。ピン側シールリング33におけるブシュ18の端面18bとの対向面33bと、ブシュ18の端面18bとの間には、僅かな隙間S2が形成されている。隙間S1の大きさは隙間S2の大きさとほぼ同じになっている。
【0037】
次に、シールチェーン11の作用について説明する。
さて、無端状のシールチェーン11を互いに離れて配置された一対のスプロケット(図示略)に対して巻き掛けるように噛合させた状態で片方のスプロケットを回転させると、シールチェーン11が一対のスプロケットの回りを周回移動する。このようにしてシールチェーン11を長期間使用していると、ピン21の外周面21aとブシュ18の内周面18aとの間で摩耗が生じる。
【0038】
すると、ピン21の外周面21aとブシュ18の内周面18aとの間の隙間が大きくなることによってシールチェーン11が伸びる、いわゆる摩耗伸びが発生する。シールチェーン11に摩耗伸びが発生すると、シールチェーン11にかかる引っ張り荷重は、外リンクプレート14及び内リンクプレート12に対して互いに逆向きに作用する。すなわち、シールチェーン11にかかる引っ張り荷重は、外リンクプレート14に対して直列方向Xにおける一方側の方向に作用するとともに内リンクプレート12に対して直列方向Xにおける他方側の方向に作用する。
【0039】
このため、図3に示すように、ピン21の外周面21aとブシュ18の内周面18aとが摩耗した分だけピン21とブシュ18との位置が直列方向X(ピン21の軸方向と直交する方向)において相対的にずれる。このとき、ピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34は、それぞれピン21及びブシュ18に追従する。このため、ピン21の外周面21aとブシュ18の内周面18aとが摩耗した分だけピン側シールリング33とブシュ側シールリング34との位置が直列方向Xにおいて相対的にずれる。
【0040】
これにより、大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37は、ピン側シールリング33とブシュ側シールリング34との位置ずれに伴う剪断力を受けて弾性変形する。このとき、ピン側シールリング33とブシュ側シールリング34とは、直列方向Xにおいて重ならないように配置されているため、互いにほとんど干渉することがない。
【0041】
加えて、ピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34はそれぞれブシュ18及びピン21と干渉しないため、シールチェーン11にかかる引っ張り荷重はピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34に作用しない。したがって、シールチェーン11に摩耗伸びが発生しても、ピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34が破損することはない。
【0042】
また、図4に示すように、シール部32は、断面視で略楕円形状をなすピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41との径方向における中央部同士によって大径Oリング35が挟まれた構造を有している。このため、大径Oリング35が摩耗してその線径(断面積)が図4の二点鎖線で示す状態から実線で示す状態にまで小さくなった場合には、大径Oリング35と、ピン側第1凹溝38またはブシュ側第1凹溝41との間に隙間ができた状態になる。
【0043】
この状態で大径Oリング35の外周側から図4の矢印で示すようにピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41との間に異物が進入すると、この異物によって大径Oリング35が径方向の内側へ押圧される。すると、大径Oリング35がピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41との径方向の内側の端部同士によって挟まれた状態になるため、大径Oリング35と、ピン側第1凹溝38及びブシュ側第1凹溝41との間に隙間ができなくなる。したがって、シール部32は、大径Oリング35が摩耗してその線径が小さくなった場合でも、異物の進入を抑制できる。
【0044】
なお、シール部32は、小径Oリング37が摩耗してその線径が小さくなった場合でも、上述した大径Oリング35の場合と同様に、異物の進入を抑制できる。
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
【0045】
(1)シールチェーン11において、シール部32は、ピン21に対して一体回転可能に接合された環状のピン側シールリング33と、ブシュ18に対して一体回転可能に接合され、ピン21の軸方向である幅方向Yにおいてピン側シールリング33と対向する環状のブシュ側シールリング34とを備えている。この構成によれば、シールチェーン11の長期間の使用でピン21とブシュ18との摺動面が摩耗することによってシールチェーン11が伸びる摩耗伸びが発生した場合、ピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34は、それぞれピン21及びブシュ18に追従するため、互いに殆ど干渉することなく直列方向Xにおいて相対的に位置がずれる。このとき、ピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34はそれぞれブシュ18及びピン21と干渉しないため、シールチェーン11にかかる引っ張り荷重はピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34に作用しない。したがって、シールチェーン11に摩耗伸びが発生してもピン側シールリング33及びブシュ側シールリング34が破損するおそれをなくすことができる。
【0046】
(2)シールチェーン11において、ピン側シールリング33とブシュ側シールリング34との間には、互いに外径の異なる大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37が径方向に並んで配置されている。この構成によれば、シール部32のシール性を向上することができる。
【0047】
(3)シールチェーン11において、大径Oリング35はピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41との径方向における中央部同士によって挟まれ、角リング36はピン側第2凹溝39とブシュ側第2凹溝42とによって挟まれ、小径Oリング37はピン側第3凹溝40とブシュ凹溝43との径方向における中央部同士によって挟まれている。この構成によれば、大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37のそれぞれの位置を決めつつ、シール部32のシール性を向上することができる。
【0048】
(4)シールチェーン11において、ピン側第1凹溝38及びブシュ側第1凹溝41は、径方向の中央部の深さが最も深くなっており、径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっている。この構成によれば、ピン側第1凹溝38及びブシュ側第1凹溝41との径方向の中央部同士によって挟まれた大径Oリング35が摩耗してその線径(断面積)が小さくなった場合には、大径Oリング35と、ピン側第1凹溝38またはブシュ側第1凹溝41との間に隙間ができた状態になる。この状態で大径Oリング35の外周側からピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41との間に異物が進入すると、この異物によって大径Oリング35が径方向の内側へ押圧される。すると、大径Oリング35がピン側第1凹溝38とブシュ側第1凹溝41との径方向の内側の端部同士によって挟まれた状態になるため、大径Oリング35と、ピン側第1凹溝38及びブシュ側第1凹溝41との間に隙間ができなくなる。したがって、大径Oリング35が摩耗してその線径が小さくなった場合でも、異物の進入を抑制できる。
【0049】
(5)シールチェーン11において、ピン側第3凹溝40及びブシュ凹溝43は、径方向の中央部の深さが最も深くなっており、径方向の両端部に向かうほど深さが浅くなっている。この構成によれば、ピン側第3凹溝40及びブシュ凹溝43との径方向の中央部同士によって挟まれた小径Oリング37が摩耗してその線径(断面積)が小さくなった場合には、小径Oリング37と、ピン側第3凹溝40またはブシュ凹溝43との間に隙間ができた状態になる。この状態で小径Oリング37の外周側からピン側第3凹溝40とブシュ凹溝43との間に異物が進入すると、この異物によって小径Oリング37が径方向の内側へ押圧される。すると、小径Oリング37がピン側第3凹溝40とブシュ凹溝43との径方向の内側の端部同士によって挟まれた状態になるため、小径Oリング37と、ピン側第3凹溝40及びブシュ凹溝43との間に隙間ができなくなる。したがって、小径Oリング37が摩耗してその線径が小さくなった場合でも、異物の進入を抑制できる。
【0050】
(変更例)
なお、上記実施形態は次のように変更してもよい。
・ピン側第1凹溝38及びブシュ側第1凹溝41は、大径Oリング35の断面形状に沿った断面視半円形状にしてもよい。
【0051】
・ピン側第3凹溝40及びブシュ凹溝43は、小径Oリング37の断面形状に沿った断面視半円形状にしてもよい。
・ピン側第1凹溝38及びブシュ側第1凹溝41のうちいずれか一方を省略してもよい。
【0052】
・ピン側第3凹溝40及びブシュ凹溝43のうちいずれか一方を省略してもよい。
・ピン側第2凹溝39とブシュ側第2凹溝42のうちいずれか一方を省略してもよい。
・大径Oリング35、角リング36、及び小径Oリング37のうちいずれか2つを省略してもよい。この場合、省略した2つのリングがあった空間に、潤滑剤としてグリースを溜めるようにしてもよい。
【0053】
・角リング36の代わりに、例えば不織布などの繊維を用いた繊維シールを用いてもよい。
・シールチェーン11は、対向する2つのリンクプレートの直列方向Xにおける一端側の幅を他端側の幅よりも狭くなるように湾曲したリンクをブシュ18及びピン21によって回動可能に複数連結した所謂オフセットタイプのチェーンであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
11…シールチェーン、12…内リンクプレート、14…外リンクプレート、18…ブシュ、21…ピン、32…シール部、33…ピン側シールリング、33a,34a…対向面、34…ブシュ側シールリング、35…シール部材の一例としての大径Oリング、36…シール部材の一例としての角リング、37…小径Oリング、38…ピン側凹溝の一例としてのピン側第1凹溝、39…ピン側凹溝の一例としてのピン側第2凹溝、41…ブシュ側凹溝の一例としてのブシュ側第1凹溝、42…ブシュ側凹溝の一例としてのブシュ側第2凹溝。
図1
図2
図3
図4