(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6662623
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】ドグクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 11/10 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
F16D11/10 C
F16D11/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-236188(P2015-236188)
(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公開番号】特開2017-101762(P2017-101762A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 弘紹
(72)【発明者】
【氏名】田淵 元樹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 清二
(72)【発明者】
【氏名】塩津 勇
【審査官】
藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−172155(JP,A)
【文献】
特開昭61−045114(JP,A)
【文献】
実開昭58−133616(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転する二つの部材にそれぞれ設けられたドグ歯を噛み合わせて係合することにより、二つの部材を連結してトルクの伝達を可能にするドグクラッチにおいて、
前記ドグ歯が設けられ円弧状に形成された複数のピース部材と、
前記ピース部材とは別個独立しかつ前記ピース部材が固定される円環状のベース部材とを備え、
複数の前記ピース部材は、円環状になるように周方向に隣接して前記ベース部材に固定され、
前記ピース部材の強度は、前記ベース部材の強度より高い
ことを特徴とするドグクラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載のドグクラッチにおいて、
前記ベース部材の内周には、前記ベース部材を固定部材に回転できないように嵌合させる凹部もしくは凸部が形成されていることを特徴とするドグクラッチ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のドグクラッチにおいて、
前記ドグ歯は、均一の間隔で円環状に配列されていることを特徴とするドグクラッチ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のドグクラッチにおいて、
前記ドグ歯は、前記ピース部材における内周側から軸線方向に突出するように設けられ、
前記ピース部材における前記ドグ歯より外周側の部分がフランジ状になっている
ことを特徴とするドグクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、相対回転する2つの部材にそれぞれ設けられたドグ歯を噛み合わせて係合することにより、2つの部材を連結してトルクの伝達を可能にするドグクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、径方向外側に外歯が形成されたピースに対して、径方向内側に内歯が形成されたスリーブを、油圧アクチュエータによって軸線方向に移動させることで、外歯と内歯とを係合させるように構成されたドグクラッチが開示されている。ピースは周方向へ回転可能に保持され、スリーブは周方向へ回転不可能に保持されている。そのため、スリーブを軸線方向に動かし、ピースの外歯とスリーブの内歯とを係合させることでピースの回転を停止させることができる。また、ピースには、ピースの外歯とスリーブの内歯とが係合していない状態で対向する面である端面に油溝が設けられている。油溝は、端面における内周側から内歯の平坦部(歯端面)を通って歯先まで延びていて、周方向に略等間隔で複数形成されている。特許文献1では、この油溝に内周側から潤滑用のオイルを流すことによって、外歯の歯先まで潤滑することができるため、回転しているピースの外歯とスリーブの内歯とを係合させるときに、外歯の平坦部と内歯の平坦部とが接触した際の摩擦力を緩和することができ、ドグクラッチの係合を良好にすることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−010711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているようなドグクラッチにおいて、ドグクラッチを構成するピースおよびスリーブはそれぞれ一体に形成される。そのため、ピースもしくはスリーブを製造するときに、ピースやスリーブなどの大きさに応じてプレス機などの加工機を、大型化する必要がある。また、ピースやスリーブにおけるドグ歯は、高い強度が求められるため、ピースもしくはスリーブを一体で形成する場合には、ピースもしくはスリーブ全体を高い強度の材料で形成することとなる。したがって、ドグクラッチの製造コストが増大するおそれがあった。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、製造コストを低減することができるドグクラッチを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、相対回転する二つの部材にそれぞれ設けられたドグ歯を噛み合わせて係合することにより、二つの部材を連結してトルクの伝達を可能にするドグクラッチにおいて、前記ドグ歯が設けられ円弧状に形成された複数のピース部材と、前記ピース部材とは別個独立しかつ前記ピース部材が固定される円環状のベース部材とを備え、複数の前記ピース部材は、円環状になるように周方向に隣接して前記ベース部材に固定さ
れ、前記ピース部材の強度は、前記ベース部材の強度より高いことを特徴とするものである。
この発明では、前記ベース部材の内周に、前記ベース部材を固定部材に回転できないように嵌合させる凹部もしくは凸部が形成されていてよい。
この発明では、前記ドグ歯は、均一の間隔で円環状に配列されていてよい。
この発明では、前記ドグ歯は、前記ピース部材における内周側から軸線方向に突出するように設けられ、前記ピース部材における前記ドグ歯より外周側の部分がフランジ状になっていてよい。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、ドグ歯が形成された円弧状の複数のピース部材が円環状に配置され、その円環状に配置されたピース部材をベース部材に固定することでドグクラッチが構成されている。そのため、ベース部材とピース部材とが異なる部材として製造されるとともに、一つ一つのピース部材を小型化することができる。すなわち、ピース部材とベース部材とが一体に形成される場合と比較して、ピース部材を製造するために用いるプレス機などの装置を小型化することができる。また、ピース部材を、高い強度を備える材料で形成することによってドグ歯の強度を向上させることができる。したがって、ドグクラッチの製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この発明の実施形態におけるドグクラッチを構成する二つの部材のうち一方の部材を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施形態におけるドグクラッチの構成を、図面を参照して説明する。ドグクラッチは、相対回転する二つの部材にそれぞれ設けられたドグ歯を噛み合わせて係合することにより、二つの部材を連結してトルクの伝達を可能にするように構成されている。なお、以下の説明では、便宜上、ドグクラッチを構成する二つの部材のうち一方の部材のみを説明し、その一方の部材を回転部材1と称して説明する。
【0010】
図1に示すように、この発明の実施形態におけるドグクラッチのうち一方の部材である回転部材1は、円弧状に形成された六つのピース部材2と、ピース部材2に形成された複数のドグ歯3と、円環状のベース部材4とによって構成されている。
【0011】
ピース部材2は、円弧状に形成されていて、六つのピース部材2が周方向に隣接して配置されている。ピース部材2と隣接する他のピース部材2とは、互いに外周同士および内周同士が隣接するように配置されることにより円環状に形成されている。また、この実施形態では、同一の大きさおよび形状に形成された六つのピース部材2によって円環状に形成されている。また、
図1に示すように、隣接するピース部材2同士はわずかに隙間5を空けてベース部材4に固定されている。この隙間5によって、ピース部材2に形成された隣接するドグ歯3同士の間隔と、異なるピース部材2の隣接するドグ歯3同士の間隔とが均一になるように管理されている。
【0012】
ドグ歯3は、回転部材1における噛み合い爪もしくは噛み合い歯である。ドグ歯3は、ピース部材2の内周に沿って設けられ、ピース部材2における内周側から軸線方向に突出するように設けられている
。したがって、ピース部材2のうちドグ歯より外周側の部分は図1に示すようにフランジ状になっている。また、ドグ歯3はピース部材2に複数設けられていて、各ドグ歯3が周方向に所定の間隔を空けて配置されている。そのため、上述したようにピース部材2が円環状に配置されることにより、ドグ歯3も円環状に配置される。
【0013】
ベース部材4は、円環状に形成された部材であって、内周にはこのベース部材4と図示しない固定部材とがスプライン嵌合するための凸部6が形成されている。この凸部6は、ベース部材4の内周から径方向内側に向けて突出している。また、ベース部材4には、円環状に形成されたピース部材2が固定される。具体的には、ピース部材2におけるドグ歯3が形成されている面(端面)とは反対側の面と、ベース部材4の一方の面とを軸線方向で向かい合うように配置し、それぞれの対向する面同士を固定する。ピース部材2とベース部材4とは、かしめやボルト止めなどの手段によって完全拘束されている。なお、この実施形態においてピース部材2とベース部材4とは完全拘束されているが、この構成に限らず、例えば、ベース部材4のうちピース部材2と対向する面に凹部を形成し、ピース部材2のうちベース部材4と対向する面にその凹部に嵌め合わされる凸部を形成して、それらを嵌め合わせることによって一体化するように構成されていてもよい。
【0014】
この構成によれば、ドグ歯3が形成された円弧状の複数のピース部材2が円環状に形成され、その円環状のピース部材2をベース部材4に固定することで回転部材1が形成されている。すなわち、回転部材1はベース部材4と複数のピース部材2とによって構成されている。そのため、各部品が一体に形成された回転部材と比較して、プレス機などの装置を小型化できる。また、回転部材1が複数の異なる部材で構成されているため、例えば、ピース部材2を構成する材料を高い強度の材料に変更することでドグ歯3の強度も向上させることができる。したがって、ドグクラッチの製造コストを低減することができる。
【0015】
なお、上述した実施形態において、六つのピース部材2によって円環状に形成されているが、円環状を形成するために用いるピース部材2は、複数であればいくつでもよい。例えば、2つのピース部材2によって円環状に形成されていてもよいし、10個のピース部材2によって円環状に形成されていてもよい。また、ピース部材2は、全て同一の大きさおよび形状でなくてもよい。例えば、2種類の異なる大きさのピース部材を、交互に隣接して配置することで円環状に形成できるように構成されていてもよい。さらに、六つのピース部材2を隙間なく隣接して配置させる場合には、その隣接したピース部材2同士の接する部位を固定して、径方向へのずれが生じないように構成する。また、相対回転する二つの部材のうち、一方の部材である回転部材1についてのみ説明したが、図示しない他方の部材については、同様に構成されていてもよいし異なる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0016】
1…回転部材、 2…ピース部材、 3…ドグ歯、 4…ベース部材。