(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6662912
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】塩素化銅フタロシアニン顔料
(51)【国際特許分類】
C09B 67/20 20060101AFI20200227BHJP
C09B 67/50 20060101ALI20200227BHJP
C09B 47/10 20060101ALI20200227BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20200227BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20200227BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20200227BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20200227BHJP
G03G 9/09 20060101ALI20200227BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
C09B67/20 G
C09B67/50 B
C09B47/10
C09D17/00
C09D11/037
C09D7/41
C09D5/03
G03G9/09
G02B5/20
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-562643(P2017-562643)
(86)(22)【出願日】2016年6月2日
(65)【公表番号】特表2018-522966(P2018-522966A)
(43)【公表日】2018年8月16日
(86)【国際出願番号】US2016035392
(87)【国際公開番号】WO2016196715
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2018年1月31日
(31)【優先権主張番号】62/170,756
(32)【優先日】2015年6月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507385165
【氏名又は名称】サン ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】パメラ エム.ビゼンチン
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル ジェイ.シュワルツ
【審査官】
山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−189528(JP,A)
【文献】
特開2013−079399(JP,A)
【文献】
特表2010−533745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一塩化銅フタロシアニンを含む塩素化銅フタロシアニン顔料組成物であって、前記一塩化銅フタロシアニンはα結晶形とβ結晶形とを含む混合結晶形であって、50%超のβ結晶形を含み、前記一塩化銅フタロシアニンはα位及びβ位を有する下記の構造を有し、
【化1】
前記フタロシアニンのα位及びβ位における塩素置換が以下の式によって定義され、
m+n=1
m≧n
n>0.2、
式中mは前記α位における塩素置換基の平均数を表し、nは前記β位における塩素置換基の平均数を表す、塩素化銅フタロシアニン顔料組成物。
【請求項2】
粒径が20〜90nmである、請求項1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
【請求項3】
粒径が30〜70nmである、請求項1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
【請求項4】
前記顔料組成物が少なくとも一種の添加剤を含む、請求項1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
【請求項5】
前記顔料組成物が自動車用塗料系に用いられる、請求項1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の塩素化銅フタロシアニン顔料組成物を含む、コーティング、インク、水性又は溶媒性顔料製剤、電子写真用トナー及び現像剤、プラスチック、カラーフィルター、パウダーコーテイング材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、「Chlorinated Copper Phthalocyanine Pigments(塩素化銅フタロシアニン顔料)」と題する、2015年6月4日出願の米国仮特許出願第62/170756号の優先権を主張し、その内容全体は援用により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
フタロシアニン化合物は、非常に濃く明るい発色の安定性の高い18π電子共役系大員環であり、下記一般式で表される。
【0003】
【化1】
【0004】
金属フタロシアニン配位化合物(すなわち、Mはフタロシアニン分子の中心キャビティー(central cavity)に結合可能な一つ又は複数の原子を表し、Mは軸配位子に対する結合能を有することが可能である)及び無金属フタロシアニン(すなわち、Mは水素を表す)を含むフタロシアニンは、繊維業及び製紙業において染料又は顔料としてよく用いられ、化学センサー、光力学的な癌治療薬、非線形光学材料、触媒及び液晶用途にも用いられてきた。
【0005】
フタロシアニンは、無水フタル酸、フタルイミド、フタロニトリル又はo−シアノベンザミド等のフタル酸誘導体自体が充分な窒素源を含まない場合は、フタル酸誘導体を尿素等の窒素源と共に加熱する際に生成されてもよい。金属フタロシアニン配位化合物の合成は、さらに適切な金属誘導体の存在を必要とする。金属フタロシアニンは、通常次の二つの方法のうちの一つによって合成される。良く使われる方法の一つでは、フタルイミド又は無水フタル酸(フタルイミドの前駆体として)のいずれかを出発原料として用いるが、他の方法ではフタロニトリルを用いる。どちらの方法においても、金属錯体の生成と同時に配位子の合成が生じる。
【0006】
概して、無水フタル酸から金属フタロシアニンを合成するには、無水フタル酸を、尿素、塩化アルミニウム(III)(AlCl
3)等の金属ハロゲン化物及び少量のモリブデン化合物等の触媒と共に高沸点の溶媒中で加熱し、その際尿素を前記窒素源として用いる。前記触媒の存在は、これらの反応により主要な中間体である1−アミノ−3−イミノイソ−インドリンの生成を触媒するために必須である。前記金属フタロシアニン顔料であるクロロアルミニウムフタロシアニンの合成における出発原料として無水フタル酸を使用することは、 Huanshun et al.、「Metal phthalocyanine solid phase synthesis」、Ranliao Yu Ranse41(3):150−152(2004)、中国特許第101717401号明細書、特開2003−176424号明細書、特開2003−176423号明細書、特許第4407097号明細書及び米国特許第6826001号明細書に記載されている。これらに記載の手順は全て、モリブデン、典型例としてはモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸化物又は他の類似のモリブデン化合物を触媒に必要な量で用いることを含む。
【0007】
金属フタロシアニンの合成に通常使用される他の方法は、フタロニトリルを出発原料とし、前記フタロニトリルをAlCl
3等の金属ハロゲン化物と共に溶媒の存在下又は非存在下で200℃前後に加熱することを含む。例えば、前記溶媒として例えばエタノール等の炭素数1〜10のアルコール類を使用してクロロアルミニウムフタロシアニンを合成するプロセスでは、収率68%しか得られなかった(露国特許第2164233号明細書)、そしてフタロニトリルをAlCl
3の存在下水中で180℃で加熱する方法では、激しい反応の結果収率70%しか得られなかったと記載されている(特開昭62−158284号明細書)。前記反応にアンモニアの使用が含まれる場合は、得られた収率がさらに低下した。アンモニア及び塩化アルミニウムの錯体では、フタロニトリルとの加熱前に生成可能であったがクロロアルミニウムフタロシアニンの収率は47%であった(特開第2000−1270885号明細書)。
【0008】
前記二つの方法の代わりに、金属フタロシアニンを置換(いわゆるトランスメタル化)反応により生成することも可能である。例えば、クロロアルミニウムフタロシアニンを銅フタロシアニン等の別の金属フタロシアニンから生成することが可能である。これらの反応では、銅フタロシアニンを溶融AlCl
3及びNaCl中240℃に6時間かけて加熱することにより、前記金属(例えば銅)をアルミニウムで置換する(欧州特許第0635550号明細書及び米国特許第5556966号明細書)。しかしながら、最終品は未反応の銅フタロシアニンを含有していてもよく、それにより金属触媒を用いて生成されるフタロシアニンと同様の環境問題が挙げられる。
【0009】
銅フタロシアニンの色合いは、分子中に存在する塩素原子の数によって変化することがよく知られている。よって、非塩素化銅フタロシアニンの青色の色合いは、8個の塩素原子が導入されている場合は緑〜青色へ変化し、12個又はそれ以上の塩素原子が銅フタロシアニン分子に包含されている場合は、さらに濃い緑色の色合い(「フタロシアニングリーン」)に変化する。
【0010】
塩素化金属フタロシアニンは、様々な方法により製造されてきた。液体ハロゲン化剤には、塩化スルフリル及び塩化チオニルが含まれる。塩化アルミニウム等のこういったハロゲン化剤は、限定された量で使用されるが、反応培地の大部分は液体ハロゲン化剤からなる。すなわち、前記ハロゲン化剤は、前記反応における液体培地の供給に左右される。
【0011】
フタロシアニングリーンの典型的な製造手順では、溶媒としてクロロスルホン酸等の高価な試薬を多量に用いた後、前記反応が完了する前に当該溶媒を廃棄する。このようなプロセスは、廃棄溶媒の浪費及び塩素化フタロシアニン類の生成に要する長い反応時間の両方により費用が高額となる。
【0012】
Moser及びThomasは、銅フタロシアニンの塩素処理に塩化銅を触媒として用いることを開示している(「Phthalocyanine Compounds」、172−179頁、Reinhold Publishing Corporation、New York(1963))。しかしながら、Moser及びThomasは、塩化スルフリルと銅フタロシアニンの反応を含むプロセスに塩化銅を使用することは開示していない。
【0013】
米国特許第3320276号明細書には、塩化スルフリルにより、無金属フタロシアニン又は銅フタロシアニン等のフタロシアニンの金属錯体を、ハロゲン元素を添加せず、塩化アルミニウム及び/又は臭化アルミニウムの存在下で、好ましくは塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物を含有した状態で、ハロゲン担体として存在する一塩化硫黄でハロゲン化することが記載されている。しかしながら、このプロセスでは、塩化アルミニウム又は臭化アルミニウムが液状の溶融状態であることが必要である。このプロセスは、塩化アルミニウムを加熱及び液状の流体状態に保持する手段を要するため、多くの点において不利である。このプロセスでは、多量の塩化アルミニウムを要し、例えば、全ての例において10部の銅フタロシアニンに対し100部の無水塩化アルミニウムを要する。さらに、加水分解塩化アルミニウム(反応終了時)が廃棄されるため、廃液問題の一因となる可能性がある。
【0014】
概して、フタロシアニンのハロゲン化は、工業的には、フタロシアニンを塩化アルミニウム及び塩化ナトリウムの共晶塩に溶解してハロゲン化する方法、又はフタロシアニンをクロロスルホン酸に溶解してハロゲン化する方法により、行われてきた。しかしながらこれらの方法では、産業上前記溶媒の回収が難しく、その結果大量の酸性廃液が生じる。環境保護のためには、前記廃液を処理すべきであるが、その処理には多大な費用を要する。上記問題に対処するために回収可能な溶媒を用いるハロゲン化方法として、金属塩化物を溶媒として用いる方法が開示されている。例えば、特開昭52−29819号明細書及び米国特許第4948884号明細書には、フタロシアニンを溶媒である四塩化チタン中でハロゲン化する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
平均塩素原子数が4未満である最小限に塩素化した金属フタロシアニン顔料等の最小限に塩素化したフタロシアニン顔料及び顔料組成物、さらに顔料組成物中の塩素の平均数が1である最小限に塩素化した銅フタロシアニン顔料を合成することにより、環境への負の影響を最小限にする効率的なプロセスのニーズが存在している。
【0016】
本発明は、従来の金属フタロシアニン塩素化のデメリットを克服し、少なくとも四塩素化銅フタロシアニン顔料よりも含有塩素原子が少ない金属(銅)フタロシアニンを製造することを目的とする。本発明の技術は、主としてβ相にあり、標準的な四塩素化銅フタロシアニン顔料よりも含有塩素の少ない顔料であって、自動車用の水性及び溶媒性の系において、標準品と同様の色空間、色度、定着特性及びカラートラベル効果を与える顔料を対象とするものである。これらの顔料は、毒性及び環境的側面においてよりメリットがあり、製造業者が安全かつ経済的方法で顔料を製造することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1における「粗生成物#1」の塩素化銅フタロシアニンのX線回折パターン(m=0.71、n=0.29)を示す。
【
図2】
図2は、実施例2における「粗生成物#2」の塩素化銅フタロシアニンのX線回折パターン(m=0.60、n=0.40)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明技術は、β結晶形の塩素化銅フタロシアニン顔料であって、前記結晶形が下記一般式(I)に表される前記顔料の主相であり、置換度が以下の式によって表され、
0.4<m+n≦4
m≧n
n>0.2、
式中mはα位における塩素置換基の平均数を表し、nはβ位における塩素置換基の平均数を表す、塩素化銅フタロシアニン顔料に関する。
式(I)
【0020】
概して、前記塩素化銅フタロシアニン顔料は、一塩化銅フタロシアニン顔料のように1個の塩素原子を含んでいてもよい。これらの塩素化フタロシアニン顔料類は、少なくとも4個の塩素原子を含有する高塩素化フタロシアニン顔料類よりも、安全かつ毒性が弱く環境に対する影響も低いと考えられる。本発明における前記顔料は、混合結晶形であり、大部分がα及びβ形であり、そして主にβ形である。β結晶形は主相であり、これは結晶形の少なくとも50%を構成する。これらの顔料は、標準的な(四塩素化及びそれ以上の)銅フタロシアニン顔料と比較して、自動車用塗料系において同様の色空間、色度、光定着及びカラートラベル効果を生じる。
【0021】
対象となる塩素化銅フタロシアニン顔料は、既存のフタロシアニン合成手順により製造可能であり、塩素ガスの取扱い及び使用に関連した供給や設備投資なしに、標準テトラクロロ−銅フタロシアニン顔料に類似した特性の顔料製品を製造するより費用対効果の良い手段を顔料製造業者に提供する。
【0022】
これら塩素化銅フタロシアニン顔料を合成する好ましいプロセスは、無水フタル酸−尿素プロセス(Wyler法)であるが、前記合成は如何なる特定の方法に限定されるものではない。前記塩素化銅フタロシアニン顔料の粒径及び粒形は、前記合成プロセス、前記合成工程における反応培地の選択及び合成後の仕上げ工程(例えば高圧蒸気滅菌、塩摩滅、ボールミル粉砕、酸膨潤等)の影響を受けてもよい。
【0023】
X線粉体回折パターンは、グラファイト−単色化CuKα
1放射(λ=1.5406Å)を使用したSiemens D5000 Diffractometer(シーメンスD5000回折計)を用いて得られた。粉体顔料試料は、2”x2”標準試料ホルダーに隙間なく詰めた。そして試料ホルダーを解析のために前記X線回折計に搭載した。計器をBruker AXS社の石英標準品(P/N C72298A227B36)を使用して較正した。X線回折ピークは、実験的限界値の範囲内にあると解釈され、わずかに異なるピークとして得られる。その他の方法では異なるピークが生成することも理解される。反応により得られる可能な全ての塩素化銅フタロシアニン化合物の複雑な混合結晶である、実施例1及び実施例2で製造した「粗生成物#1」及び「粗生成物#2」のX線回折パターンを表1及び表2にまとめた。表中の値は、相対強度≧5%及びd≧2.5Åにおける値である。
図1及び
図2は前記X線回折パターンを示す。
【0026】
本明細書に記載の前記方法により、概して主相がβ結晶形である一塩化銅フタロシアニン顔料組成物を製造する。前記一塩化顔料組成物は、コーティング(自動車用塗料等)、プラスチック、印刷インク、水性又は溶媒性顔料製剤、電子写真用トナー及び現像剤、パウダーコーテイング材、インク、好ましくはインクジェットインク、カラーフィルター及びカラーリングシードに適しているものであってもよい。
【0027】
フタロシアニン誘導体は、前記本発明の範囲に含まれていてもよく、前記顔料粒子を含んでいてもよい。フタロシアニン誘導体には、フタロシアニンスルホンアミド、フタルイミドメチルフタロシアニン、アルコキシル化フタロシアニン誘導体、フタロシアニンスルホン酸(「スルホン化フタロシアニン」)及びそれらの塩が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0028】
本発明技術の好ましい実施形態を含む本発明の詳細を上記記載した。しかしながら、当業者が本開示を考慮する際に、本発明の範囲及び精神の範囲内で本発明に変更及び/又は改良を加えても良いことが理解されよう。
【実施例】
【0029】
下記実施例は、本発明の具体的な形態を説明するものであるが、如何なる形態においても本発明の範囲を限定するものではなく、又そのように解釈されるべきではない。
【0030】
これらの実施例には、本発明の前記製剤及び前記組成物の使用について記載されている。これらの実施例において作製した顔料はX線回折(Siemens D5000 Diffractometer)により解析した。これら塩素化銅フタロシアニン顔料を合成する好ましいプロセスは、二モリブデン酸アンモニウム触媒を用いた無水フタル酸−尿素プロセス(Wyler法)である。
【0031】
本明細書において使用する用語「顔料/顔料の」は、例えば約20nm〜90nm又は約30〜70nmの粒径分布の粒径、粒形、結晶構造、凝集、多形相及び着色力等の必要とされる顔料特性を発現するために、反応混合物から単離後に処理又はさらに加工したフタロシアニン反応生成物を意味する。顔料フタロシアニン製品を得るためのフタロシアニン反応生成物の処理又はさらなる加工は、ミル粉砕、破砕若しくは精製又はそれらのいかなる組み合わせを含むことが可能である。
【0032】
下記に示す顔料の粒径分布をDisc Centrifuge Photosedimentometer(DCP)Size Analyser(遠心円板式光沈降計)(BrookhavenInstruments Corporation)により測定した。測定値を表3に示す。
【0033】
DCP測定手順:
まず、顔料乾燥粉体を分散剤のNuosperse W−28で1:2の比(顔料:分散剤)で混合し、DCP解析で使用する分散体を調製した。超音波浴、超音波ホーンの順に用いて得られたペーストを脱イオン水に1:100の比で分散した。測定をBrookhavenBI−DCP粒径分析計を用いて、ディスク速度10,000RPM、室温で実施した。BrookhavenBI−DCPソフトウェアのバージョン5.87を用いてデータ加工及び粒径計算を行った。
【0034】
【表3】
【0035】
実施例1:塩素化銅フタロシアニン(m=0.71、n=0.29)の調製
1L樹脂フラスコに、92.8gの無水フタル酸、27.2gの3−クロロ無水フタル酸、11.0gの4−クロロ無水フタル酸、163.5gの尿素、20.7gの塩化銅(I)、0.5gの二モリブデン酸アンモニウム及び705gのジクロロトルエンを入れ、撹拌しながら200℃に加熱した。200℃で2時間撹拌して反応させた。その後、前記内容物を室温へ冷却し、前記溶媒を減圧下で除去した。粗残渣を、2500gの水及び100gの濃硫酸中90℃で2時間撹拌した。粗プレスケーキをろ過により単離し、導電率100μmhos/cm未満で洗浄して乾燥した後オスタライザーミキサーで破砕した。得られた青色粗生成物(粗生成物#1)を、X線解析で検証した(表1、
図1)。その後粗生成物#1(27g)を実験用混錬機により80℃で6時間かけて塩(216g)及びプロピレングリコール(53g)で摩滅させた。摩滅完了時に、前記混合物を水に懸濁して大気温で撹拌し、得られたスラリーのpHが1.0未満(pH<1.0)になるまで濃塩化水素(HCl)を添加した。その後前記スラリーを90℃に加熱し1時間保持した後ろ過した。前記顔料をろ過により単離し、導電率が100μmhos/cm未満になるまで洗浄し、乾燥し、オスタライザーミキサーで破砕し、60メッシュスクリーンを通過させることにより最終製品(顔料#1)得た。顔料#1及び標準品(Palomar(登録商標) Blue 248−4816)を、顔料/バインダー比8.83/3.19でSkandexシェーカー上でデュポン(DuPont)水性塗料系に3時間分散させた。顔料#1を含む塗料製剤及び前記標準品を、調温調湿スプレーブース内でパネルにスプレーした。前記スプレーブース内の設備は、Automatic Test Panel Spray Machine(自動テストパネルスプレー機)(Spraymation,Inc.)と呼ばれている。
【0036】
表4に、50アルミニウム(DuPont50%アルミニウム水性塗料系[塗料フィルムにおけるアルミニウム/顔料比は50/50であり、製品コード:54−47166及び顔料より生成])における前記パネルのCIE L
*a
*b
*データを示す。前記50アルミニウムのデータをX−Rite MA−68多角度分光光度計を使用して得た。表3のデータは、顔料#1は色相及び明度において前記標準品に近く、前記標準品よりも彩度がよく、トラベル(ΔH=0.3)に示されるように基本的に中間色のカラートラベル効果を有することを示す。用語「カラートラベル効果」は、視野角15°〜110°で測定した際の金属塗料フィルムの見かけの色値における変化を指す。本明細書で使用される用語「トラベルΔ色相(トラベルΔH)」は、前記測定値15°及び測定値110°の色相における差異を指す。前記二つの測定値間に差がない場合(いわゆるトラベルΔH=0)、下方へのトラベル効果は「中間色」とされる。トラベルΔHが小さい程、前記ペイントの外観が良くなる。表3のデータにより、本発明の一塩化銅フタロシアニン顔料を市販のテトラクロロ銅フタロシアニン顔料の代替品としてもよく、本発明の一塩化銅フタロシアニン顔料は安全性、毒性及び環境的観点からよりメリットがあることが確認される。
【0037】
【表4】
*標準品はPalomar(登録商標) Blue 248−4816であり、SunChemicalより市販されているPB 15:1である。
【0038】
【表5】
【0039】
実施例2:塩素化銅フタロシアニン(m=0.60、n=0.40)の調製
1L樹脂フラスコに、92.8gの無水フタル酸、22.6gの3−クロロ無水フタル酸、15.5gの4−クロロ無水フタル酸、163.5gの尿素、20.7gの塩化銅(I)、0.5gの二モリブデン酸アンモニウム及び705gのジクロロトルエンを入れ、撹拌しながら200℃に加熱した。200℃で2時間撹拌して反応させた。その後、前記反応混合物を室温へ冷却し、前記溶媒を減圧下で除去した。得られた残渣を、2800gの水及び100gの濃硫酸中90℃で2時間撹拌した。前記顔料をろ過により単離し、導電率が100μmhos/cm未満になるまで洗浄して乾燥した後オスタライザーミキサーで破砕した。得られた青色粗生成物(粗生成物#2)を、X線解析で検証した(表2、
図2)。粗生成物#2(37.5g)を、ステンレス製ジャー内で大気温で6時間ボールミル粉砕した。前記ジャーには、〜870gの1/4インチボールと〜97gの小釘を入れておいた。その後前記ボールミル粉砕粗生成物(31g)を実験用混錬機により80℃で6時間かけて塩(248g)及びプロピレングリコール(61g)で摩擦粉砕した。摩擦粉砕完了時に、前記混合物を水に懸濁して大気温で撹拌し、得られたスラリーのpHが1.0未満(pH<1.0)になるまで濃塩化水素(HCl)を添加した。その後前記スラリーを90℃に加熱し1時間保持した後ろ過した。前記顔料をろ過により単離し、導電率が100μmhos/cm未満になるまで洗浄し、乾燥し、オスタライザーミキサーで破砕し、60メッシュスクリーンを通過させることにより最終製品(顔料#2)を得た。顔料#2及び標準品(Palomar(登録商標) Blue 248−4816)を、顔料/バインダー比8.83/3.19でSkandexシェーカー上でデュポン(DuPont)水性塗料系に3時間分散させた。顔料#2を含む塗料製剤及び前記標準品を、調温調湿スプレーブース内でパネルにスプレーした。前記スプレーブース内の設備は、Automatic Test Panel Spray Machine(自動テストパネルスプレー機)(Spraymation,Inc.)と呼ばれている。
【0040】
表6に、50アルミニウム(DuPont50%アルミニウム水性塗料系[塗料フィルムにおけるアルミニウム/顔料比は50/50であり、製品コード:54−47166及び顔料より生成])における前記パネルのCIE L
*a
*b
*データを示す。前記50アルミニウムのデータをX−Rite MA−68多角度分光光度計を使用して得た。表4のデータは、顔料#2は彩度において前記標準品に近く、トラベルΔH(=−0.9)に示されるように基本的に中間色のカラートラベル効果を有することを示す。このデータにより、本発明の一塩化銅フタロシアニン顔料を市販のテトラクロロ銅フタロシアニン顔料の代替品としてもよく、本発明の一塩化銅フタロシアニン顔料は安全性、毒性及び環境的観点からよりメリットがあることが確認される。
【0041】
【表6】
*標準品はPalomar(登録商標) Blue 248−4816であり、SunChemicalより市販されているPB 15:1である。
【0042】
【表7】
【0043】
以下の実施例には、本発明の前記製剤及び前記組成物の使用について記載されている。実施例において作製した顔料はX線回折(Siemens D5000 Diffractometer)により解析した。
【0044】
実施例3:塩素化銅フタロシアニン(m=0.71、n=0.29)(PMV−00156−121/PMV−00156−125)の調製
1L樹脂フラスコに、92.8gの無水フタル酸、27.2gの3−クロロ無水フタル酸、11.0gの4−クロロ無水フタル酸、163.5gの尿素、10.4gの塩化銅(I)、16.7gの硫酸銅(II)、0.5gの二モリブデン酸アンモニウム及び485gの軽度分岐アルキルベンゼン溶媒を入れ、撹拌しながら200℃に加熱した。200℃で2.5〜3時間撹拌して反応させた。その後、前記内容物を室温へ冷却し、前記溶媒を減圧下で除去した。得られた粗残渣を、2500gの水及び100gの濃硫酸中90℃で2時間撹拌した。粗プレスケーキをろ過により単離し、導電率が100μmhos/cm未満になるまで洗浄して乾燥した後オスタライザーミキサーで破砕した。得られた青色粗生成物(粗生成物#3)を、X線解析で検証した。その後粗生成物#3(27g)を実験用混錬機により80℃で6時間かけて塩(216g)及びプロピレングリコール(52g)で摩擦粉砕した。摩擦粉砕完了時に、前記混合物を水に懸濁して大気温で撹拌し、得られたスラリーのpHが1.0未満(pH<1.0)になるまで濃塩化水素(HCl)を添加した。その後前記スラリーを90℃に加熱し1時間保持した後ろ過した。前記顔料をろ過により単離し、導電率が100μmhos/cm未満になるまで洗浄し、乾燥し、オスタライザーミキサーで破砕し、60メッシュスクリーンを通過させることにより最終製品を得た。顔料#3及び標準品(Palomar(登録商標) Blue 248−4816)を、顔料/バインダー比8.83/3.19でSkandexシェーカー上でデュポン(DuPont)水性塗料系に3時間分散させた。顔料#3を含む塗料製剤及び前記標準品を、調温調湿スプレーブース内でパネルにスプレーした。前記スプレーブース内の設備は、Automatic Test Panel Spray Machine(自動テストパネルスプレー機)(Spraymation,Inc.)と呼ばれている。
【0045】
表8に、50アルミニウム(DuPont50%アルミニウム水性塗料系[塗料フィルムにおけるアルミニウム/顔料比は50/50であり、製品コード:54−47166及び顔料より生成])における前記パネルのCIE L
*a
*b
*データを示す。前記50アルミニウムのデータをX−Rite MA−68多角度分光光度計を使用して得た。表5のデータは、顔料#3は彩度において前記標準品に近く、トラベルΔH(=1.1)に示されるように基本的に中間色のカラートラベル効果を有することを示す。このデータにより、本発明の一塩化銅フタロシアニン顔料を市販のテトラクロロ銅フタロシアニン顔料の代替品としてもよく、本発明の一塩化銅フタロシアニン顔料は安全性、毒性及び環境的観点からよりメリットがあることが確認される。
【0046】
【表8】
1標準品はPalomar(登録商標) Blue 248−4816であり、SunChemicalより市販されているPB 15:1である。
【0047】
【表9】
本開示には以下の実施形態も開示される。
[実施形態1]
塩素化銅フタロシアニン顔料組成物であって、50%超のβ結晶形を含み、α位及びβ位を有する下記の構造を有し、
【化3】
前記フタロシアニンのα位及びβ位における塩素置換が以下の式によって定義され、
0.4<m+n≦4
m≧n
n>0.2、
式中mは前記α位における塩素置換基の平均数を表し、nは前記β位における塩素置換基の平均数を表す、塩素化銅フタロシアニン顔料組成物。
[実施形態2]
粒径が約20〜90nmである、実施形態1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態3]
粒径が約30〜70nmである、実施形態1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態4]
95Wティントにおける色相角(H)が約225°〜242°である、実施形態1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態5]
前記顔料組成物が少なくとも一種の添加剤を含む、実施形態1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態6]
前記添加剤が顔料誘導体である、実施形態5に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態7]
前記添加剤が修飾フタロシアニン顔料誘導体である、実施形態6に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態8]
前記添加剤がスルホン化フタロシアニン顔料誘導体である、実施形態7に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態9]
前記顔料組成物が自動車用塗料系に用いられる、実施形態1に記載のフタロシアニン顔料組成物。
[実施形態10]
実施形態1に記載の塩素化銅フタロシアニン顔料組成物を含む、コーティング、インク、水性又は溶媒性顔料製剤、電子写真用トナー及び現像剤、プラスチック、カラーフィルター、パウダーコーテイング材。