【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題は、本発明により分子表現型がサブグループ「Th2
high」、「Th2 low」、「Th1 high」及び「Th1 low」のグループから選択され、患者が生物学的に単離されてGATA−3及び/又はTbetの遺伝子発現が測定され、疾病の分子表現型への分類に利用される、慢性炎症を伴う疾患を患うヒト患者の分子表現型を診断する方法によって解決される。その際、慢性炎症を伴う疾病を患うヒト患者の分子表現型のより詳細な分類は、転写因子GATA−3、及び/又は転写因子Tbetの遺伝子発現を測定することによって行われる。冒頭部に前述したように、自己免疫性疾患及び慢性炎症反応の発症にはTh1細胞に特異の転写因子TbetとTh2細胞に特異の転写因子GATA−3が関与している。Th2への分極はTbetの抑制によってTh1の分化を抑止し、逆の場合も同様である。GATA−3及び/又はTbetの発現レベルに応じて、慢性炎症を伴う疾病の分子表現型への、ひいてはサブグループへの分類がなされる。本発明による診断方法により、臨床診療で簡単に前記の分子表現検査を高い有効度で行うことができる。
【0025】
転写因子GATA−3及びTbetは、Th1又はTh2に依存する炎症疾患の発症時の中心的な鍵分子である。したがって、タンパク質発現又はmRNA発現の直接的な測定は、仲介メカニズムが結果を損なうことが在り得ないため可能な最良の患者層別方法である。
【0026】
方法の実施形態によれば、GATA−3及び/又はTbetの発現レベルはタンパク質量又はmRNA量によって決定される。その際、タンパク質の量は免疫分析を用いて定量的に決定される。免疫分析は好適には、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)検査、放射免疫測定(RIA)、電気化学発光(ECL)免疫測定、CLIA(化学発光結合免疫吸着測定)、FLIA(蛍光結合免疫吸着測定)、又はマルチプレックス測定である。
【0027】
上記の分析は、高い感度と特異性の他に、可能な自動化のあらゆる利点をもたらし、したがって、臨床診療に特に適している。もちろん、本発明に基づいて、場合によってはGATA−3及び/又はTbetのタンパク質量を定量的に検出するのに適する他のいずれかの検査を選択することもできる。更に、GATA−3及び/又はTbetの発現レベルを質量分析法、ガスクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法、HPLCなどの固相単離による液状診断法、又はマイクロ流体法又はナノ流体法によって判定することができる。
【0028】
方法は場合によっては、GATA−3及び/又はTbetを判定するためにELISA検査を用いた以下のステップを含むことができる:
−細胞破壊により溶解物を生成し、
−第1のGATA−3特異抗体及び/又はTbet特異抗体を被覆したマイクロタイタープレートのウェルに溶解物を添加し、
−マイクロタイタープレートを洗浄し、
−マイクロタイタープレートのウェルに第2のGATA−3特異抗体又はTbet特異抗体を添加し、
−マイクロタイタープレートを洗浄し、
−GATA−3タンパク質又はTbetタンパク質を検出し、定量化するステップ。
【0029】
検出のために、第2の特異抗体を例えばビオチンで標識することができ、ストレプトアビジンと結合した酵素を別個に添加することができる。第2の特異抗体を直接酵素と結合させることもできる。適切な場合は、第2の特異抗体に対する、酵素と結合した第3の抗体を使用することもできる。
【0030】
酵素は好適には、ペルオキシダーゼ又はアルカリ性ホスファターゼであり、比色分析又は化学発光などに適する適宜の基質で変換される。
【0031】
本発明の別の態様によれば、それに加え、又はその代わりに、タンパク質量を上記のように検出するために補足的にGATA−3及び/又はTbetのmRNA量を決定することができる。それには好適には、PCR、特に好適にはqPCR、又はマイクロアレイチップが適している。GATA−3及びTbetなどに特有のプローブ又はプライマーを上記の検出方法のためにどのように選択するかという方法は当業者には周知である。
【0032】
生物学的単離は本発明の好適な実施形態により、全血、尿、痰、肺細胞洗浄液(BAL)、生体検査、ブラシ生検、脳脊椎液、気管分泌物、精液、腹水、唾液又はリンパ液から得られた。当業者は、適宜の生物学的単離を得るための常法を周知している。
【0033】
GATA−3及びTbetは、転写因子として亜種Th1及びTh2のTヘルパー細胞の細胞核内で有効なタンパク質である。これらの両方の核タンパク質の濃度を特定量の全血内などでの特定量の生物学的単離で決定するために、GATA−3及びTbetを形成する細胞を先ず単離し、次いで溶解させなけらばならない。これらのタンパク質をヒト血清又は血漿から直接検出することは、そこには検出可能な濃度で存在しないため、ほぼ不可能である。したがって、GATA−3及びTbetの分析は場合によっては以下の4つのステップで行われる。
−GATA−3/Tbetを発現する細胞を全血のその他の細胞成分から単離し、
−細胞を破壊し、細胞間タンパク質/核タンパク質を放出し、
−GATA−3及び/又はTbetの濃度を測定し、
−判明したGATA−3及び/又はTbetの濃度を正規化するステップ。
【0034】
有利な変形形態によれば、本発明の方法はGATA−3及び/又はTbetの発現レベルがタンパク質量、又はmRNA量のいずれで決定されるかに関わりなく、以下のステップの1つ又は複数を含んでいる。
(i)好適にはFicoll勾配遠心法により白血球を単離し、
(ii)好適にはサイズ排除濾過により白血球を濃縮し、又は、
(iii)好適には磁気ビーズに結合された細胞特異的抗体を用いてTh1細胞/Th2細胞、特にCD4+T細胞を濃縮するステップ。
【0035】
上記のステップ(i)から(iii)は、細胞破壊の前に実行され、特に白血球内では遺伝子GATA−3及びTbetがそれぞれ異なって発現されるため、診断方法の感度及び有効度を高めることができる。
【0036】
本発明の別の態様では、下記の条件のうち少なくとも1つが満たされれば、患者をサブグループ「Th2 high」の分子表現型に分類できる。
a)生物学的単離におけるGATA−3遺伝子発現が所定の基準値よりも高く、
b)生物学的単離におけるGATA−3とTbet遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも高いこと。
【0037】
したがって、サブグループ「Th2 high」は、所定の基準値と比較して高い絶対的GATA−3遺伝子発現を特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、単離における健常者の対応するGATA−3のタンパク質含有値を基準値として用いることができる。更に絶対的な基準値を用いることもできる。mRNA量を測定する場合は、健常者の単離におけるGATA−3 mRNA量の対応値を用いることができる。更に、この場合も例えばコピー/mlなどの絶対基準値を用いることもできる。
【0038】
本発明の有利な実施形態により、GATA−3遺伝子発現を高める代わりに、又はそれに加えて生物学的単離におけるGATA−3と、Tbet遺伝子発現との比率を所定の基準値よりも高くすると、患者をサブグループ「Th2 high」への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるGATA−3と、Tbet遺伝子発現との比率の対応値を用いることができる。GATA−3とTbetとの比率を決定することで、GATA−3遺伝子発現の他に補足的パラメータとしてTbet遺伝子発現が確認されるため予測の確実性が高まる。冒頭に記載したように、両方の転写因子は発現を逆調整するため、Tbetを含めることでGATA−3遺伝子発現を測定するための内部制御がなされる。
【0039】
有利な変形形態によれば、サブグループ「Th2 high」の分子表現型に患者を分類するための本発明の方法は以下のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−GATA−3及び/又はTbetのタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−上記のa)又はb)に記載の条件の少なくとも1つが当てはまる場合は、患者をサブグループ「Th2 high」の1つに分類するステップ。
【0040】
あるいは、GATA−3及び/又はTbet遺伝子発現の上記の決定に加えて、サブグループ「Th2 high」に確実に分類するための別のパラメータの決定が行われる。このように、例えば血清IgE濃度及び好酸性顆粒球の数を測定することができる。サブグループ「Th2 high」への分類は更に、血清IgE濃度が100IU/mlより高く、且つ/又は1リットル当たりの好酸性顆粒球の細胞数が0.14x10
9個以上である場合になされる。あるいは、必要に応じて、呼気中の一酸化窒素の濃度、すなわちFeNO値を判定することができる。
【0041】
本発明の方法の別の有利な実施形態は、以下の条件の少なくとも1つが満たされた場合に、患者をサブグループ「Th2 low」の分子表現型に分類することに関するものである。
a)生物学的単離におけるGATA−3遺伝子発現が所定の基準値よりも低い場合、
b)生物学的単離におけるGATA−3とTbet遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも低い場合。
【0042】
したがって、サブグループ「Th2 low」は、所定の基準値よりも絶対的GATA−3遺伝子発現が低いことを特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、単離における健常者の対応するGATA−3のタンパク質含有値を基準値として用いることができる。その際、サブグループ「Th2 low」の慢性炎症を伴う疾病の患者の場合、それにも関らず絶対的GATA−3遺伝子発現は通常は健常者の単離の場合よりも高くなることに留意されたい。しかし絶対的遺伝子発現は、健康な場合よりも低くことがある。いずれにせよ、GATA−3遺伝子発現はサブグループ「Th2 high」の場合ほど高くはないとされている。したがって、患者がサブグループ「Th2 low」に分類されるのは、そのGATA−3タンパク質含有率が高まったとしても健常者の分類と比較して緩やかにしか高まらない場合である。固定基準値を用いることもできる。mRNA量を測定する場合は、基準値として健常者の単離における対応するGATA−3のmRNA量の値を用いることができ、その際、患者のGATA−3のmRNA量が対応する健常者のサンプルよりも低いか、大幅に高くない場合にサブグループ「Th2 low」への分類がなされる。この場合も固定基準値を用いることができる。
【0043】
本発明の有利な実施形態では、GATA−3遺伝子発現の低減の代わりに、又はそれに加えて、生物学的単離でGATA−3と、Tbetとの比率が所定の基準値よりも低い場合に、患者の前記のサブグループ「Th2 low」の分子表現型への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるGATA−3と、Tbet遺伝子発現との比率の対応値を用いることができる。GATA−3とTbet遺伝子発現との比率を判定することで、GATA−3遺伝子発現と共に補足的パラメータとしてTbet遺伝子発現が確認されるので、この場合も予測の確実性が高まる。前述のように、両方の転写因子の発現は逆調整するので、Tbetを用いると、ある点ではGATA−3遺伝子発現を測定するための内部制御がなされる。
【0044】
有利な変形形態では、患者をサブグループ「Th2 low」の分子表現型に分類する本発明の方法は下記のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−GATA−3及び/又はTbetのタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−前述のa)又はb)の条件の少なくとも1つが該当する場合に患者をサブグループ「Th2 low」に分類するステップ。
【0045】
あるいは、GATA−3及び/又はTbet遺伝子発現の上記の判定に加えて、サブグループ「Th2 low」により確実に分類する更に別のパラメータを決定することもできる。このように、例えば血清IgE濃度及び好酸性顆粒球の数を測定することができる。この場合も血清IgE濃度が100IU/ml未満であり、且つ/又は好酸性顆粒球の細胞数が1リットル当たり0.14x10
9個未満である場合にサブグループ「Th2 low」への分類がなされる。あるいは、必要に応じて、呼気中の一酸化窒素の濃度、すなわちFeNO値を判定することができる。
【0046】
本発明の別の実施形態では、下記の条件の少なくとも1つが満たされると患者のサブグループ「Th
1 high」の分子表現型への分類がなされる。
a)生物学的単離におけるTbet遺伝子発現が所定の基準値よりも高い、
b)生物学的単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも高い。
【0047】
したがって、サブグループ「Th1 high」は、所定の基準値と比較して高い絶対的GATA−3遺伝子発現を特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、健常者の単離におけるTbetタンパク質含有量の対応する値を基準値として用いることができ、患者のTbetタンパク質含有量が高まると患者のサブグループ「Th1 high」への分類がなされる。固定基準値を用いることもできる。その際、mRNA量を測定する場合、健常者の単離におけるTbet mRNA量の対応する値を基準値として用いることができ、患者のTbet mRNA量が高まると患者のサブグループ「Th1 high」への分類がなされる。この場合も固定基準値を用いることができる。
【0048】
本発明の方法の有利な実施形態では、Tbetの上昇の代わりに、又はそれに加えて、生物学的単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも高い場合に、患者の前記のサブグループ「Th1 high」の分子表現型への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率を用いることができる。この場合もTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率の測定は、Tbet遺伝子発現の他に補足的パラメータとしてGATA−3遺伝子発現が確認され、GATA−3を用いるとTbet遺伝子発現の測定が内部制御されるため、予測の確実性が高まる。
【0049】
有利な変形形態では、患者をサブグループ「Th1 high」の分子表現型に分類する本発明の方法は下記のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−Tbet及び/又はGATA−3のタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−前述のa)又はb)に記載の条件の少なくとも1つが該当する場合は、患者をサブグループ「Th1 high」の分子表現型に分類するステップ。
【0050】
本発明の別の態様は、下記の条件の少なくとも1つが満たされると、患者をサブグループ「Th1 low」の分子表現型に分類できる方法に関する。すなわち、
a)生物学的単離におけるTbet遺伝子発現が所定の基準値よりも低く、
b)生物学的単離におけるTbetと、生物学的単離におけるGATA−3遺伝子発現が所定の基準値よりも低いこと。
【0051】
したがって、サブグループ「Th1 low」は、所定の基準値よりも低い絶対的Tbet遺伝子発現を子表現型を特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、健常者の単離におけるTbetタンパク質含有量の対応する値を基準値として用いることができる。その際、サブグループ「Th1 low」の慢性炎症を伴う疾病の患者の場合、それにも関らず絶対的Tbet遺伝子発現は通常は健常者の単離の場合よりも高くなり得ることに留意されたい。しかし、絶対的Tbet遺伝子発現も健常者の場合よりも低くなり得る。いずれにせよ、Tbet遺伝子発現は、サブグループ「Th1 high」の場合ほど高くはないとされている。したがって、患者がサブグループ「Th1 low」に分類されるのは、そのTbetタンパク質含有量が健常者の単離と比較して高まったとしても大幅に高くない場合である。固定基準値を用いることもできる。mRNA量を測定する場合は、基準値として健常者の単離における対応するTbet mRNA量の値を用いることができ、その際、患者のTbet mRNA量が対応する健常者の検体よりも低いか、大幅に高くない場合に患者はサブグループ「Th1 low」に分類される。この場合も固定基準値を用いることができる。
【0052】
本発明の有利な変形形態では、GATA−3遺伝子発現の低減の代わりに、又はそれに加えて、生物学的単離でTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも低い場合に、患者の前記のサブグループ「Th1 low」の分子表現型への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率を用いることができる。Tbetと、GATA−3遺伝子発現との比率の決定は、Tbet遺伝子発現の他に補足的パラメータとしてGATA−3遺伝子発現が確認され、GATA−3を用いると、ある点ではTbet遺伝子発現の測定が内部制御されるため、予測の確実性が高まる。
【0053】
有利な変形形態では、患者をサブグループ「Th1 low」の分子表現型に分類する本発明の方法は下記のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−Tbet及び/又はGATA−3のタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−上記のa)又はb)に記載の条件の少なくとも1つが当てはまる場合は、患者をサブグループ「Th1 low」の1つに分類するステップ。
【0054】
あるいは、GATA−3及び/又はTbet遺伝子発現の上記の決定に加えて、サブグループ「Th1 high」及び「Th1 low」に確実に分類するための別のパラメータの決定が行われる。このように、例えば好酸性顆粒球の数又は血清IgE濃度を測定することができる。血清IgE濃度が100IU/ml未満であり、且つ/又は好酸性顆粒球の細胞数が1リットル当たり0.14x10
9個未満である場合にサブグループ「Th1 high」への分類がなされる。それ以外の場合は、サブグループ「Th1 low」に分類される。あるいは、必要に応じて、呼気中の一酸化窒素の濃度、すなわちFeNO値を判定することができる。
【0055】
サンプル調製時の差異を考慮に入れるため、GATA−3及びTbetの濃度の正規化を行うことができる。サンプル調製時の差異は、例えば溶解される細胞数の差により、個々のサンプルの異なる溶解効率により、又は細胞調製中に様々な細胞型が異なる含有率となることにより生じることがある。本発明による正規化の可能性は特に、細胞溶解物の全タンパク質含有量への正規化、溶解した細胞数に基づく正規化、又は特定の細胞型内の特異に判明したマーカータンパク質濃度に基づく正規化である。
【0056】
サブグループ「Th2 high」の分子表現型と診断された患者は、場合によっては同時にサブグループ「Th1 low」に分類されることがある。サブグループ「Th1 high」の分子表現型と診断された患者は、場合によっては同時にサブグループ「Th2 low」に分類されることがある。それは、Th2への分極がTbetの抑制によりTh1の分化が抑止され、逆も同様であるからである。
【0057】
本発明により例えば自己免疫性疾患及びリウマチ性疾患(特に皮膚、肺、腎臓、血管系、神経系、結合組織、筋骨格、内分泌系の兆候)、即時型アレルギー反応及び喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アテローム性動脈硬化症、乾癬及び接触性皮膚炎及び臓器移植後及び骨髄移植後の慢性拒絶反応などが診断され、治療される。GATA−3及び/又はTbetが発症に関与し、且つ/又はその結果として脱調整される場合は、本発明による腫瘍性疾患の診断又は治療も可能である。
【0058】
本発明により慢性炎症疾患は、例えばアレルギー性気管支喘息、鼻炎結膜炎、アレルギー性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、天疱瘡、潰瘍性結腸炎、寄生虫疾患などのTh2関連の、又は例えば疥癬、アレルギー性接触性皮膚炎、クローン病、COPD、リウマチ性関節炎、自己免疫性疾患、1型糖尿病、又はMSなどのTh1関連の慢性炎症疾患である。
【0059】
上記の課題は、本発明によって更に、分子表現型を有するヒト患者の慢性炎症を伴う疾病を治療する薬剤によって解決され、前記本発明による診断方法によって1つ又は複数の実施形態により分子表現型が判定される。その際、特定された分子表現型には特に「Th1 low」、「Th1 high」、「Th2 low」又は「Th2 high」グループが含まれる。
【0060】
好適な実施形態により、前記薬剤はGATA−3、又はTbet特異のリボ核酸又はデオキシリボ核酸、特にGATA−3特異、又はTbet特異のDNAザイムを含んでいる。
【0061】
DNAザイムの一般モデルは「10−23」モデルである(Sontoro他、1997年)「10−23DNAザイム」とも呼ばれる10−23モデルのDNAザイムは、2つの基質結合ドメインが側面にある15ヌクレオチドの触媒ドメインを有している。触媒ドメインは、好適には配列ggctagctacaacga(配列番号154)を有している。基質結合ドメインの長さは可変であり、同一の長さ、又は異なる長さである。好適な実施形態では、基質結合ドメイン長は6から14のヌクレオチド長であり、特に好適には少なくとも9ヌクレオチドの長さである。このようなDNAザイムは基本配列nnnnnnnnnggctagctacaacgannnnnnnnn(配列番号155)を含んでいる。その際、タンパク質GATA−3及びTbetをコードするmRNAを結合する基質結合ドメインが特に好適である。
【0062】
記載の触媒中央ドメインggctagctacaacgaは好適な実施形態の1つであるに過ぎない。同等の生物学的活性を有する「10−23DNAザイム」が改変触媒ドメインで得られることは当業者には周知である。
【0063】
特に好適な実施形態では、基質結合ドメインは、切断部位が側面にある領域と完全に相補形である。しかし、標的RNAを結合し、これを開裂するには、DNAザイムは必ずしも完全な相補形でなくてもよい。10−23型のDNAザイムは標的mRNAをプリン−ピリミジン連続配列で開裂する。本発明により、DNAザイムには好適には、その内容が本発明の開示内容に記載されているWO2005/033314A2号明細書に記載のGATA−3又はTbetに対する生体内活性DNAザイムが含まれる。
【0064】
生体内でGATA−3遺伝子発現を特異的に抑止する薬剤は特に、配列番号1から配列番号70までに基づく配列のDNAザイムからなるグループから選択される少なくとも1つのDNAザイムを含んでいる。このようなDNAザイムは好適には、配列番号151(データバンク番号:XM_043124)からのヒトGATA−3、配列番号152(データバンク番号:X58072からのヒトGATA−3、及びプラスミドpCR2.1から配列されたヒトGATA−3)から選択された遺伝子配列を有するヒト遺伝子をコードするmRNAに結合する。
【0065】
生体内でGATA−3遺伝子発現を特異的に抑止するための薬剤は、好適には配列5’GTGGATGGAggctagctacaacgaGTCTTGGAG(配列番号40)を有するDNAザイムhgd40を含んでいる。
【0066】
生体内でGATA−3遺伝子発現を特異的に抑止するための薬剤は、好適には特に配列番号71から配列番号148までに基づく配列を有するDNAザイムからなるグループから選択された少なくとも1つのDNAザイムを含んでいる。このようなDNAザイムは好適には、配列番号149(データバンク番号NM_013351からのヒトTbet)及び配列番号150(pBluescript-SKから配列決定されたヒトTbet)から選択された遺伝子配列を有するヒトTbetをコードするmRNAに結合する。
【0067】
生体内Tbet発現を特異に抑止するための薬剤は、好適には配列5’-GGCAATGAAggctagctacaacgaTGGGTTTCT(配列番号139)を有するDNAザイムtd69、又は配列番号5’-TCACGGCAAggctagctacaacgaGAACTGGGT(配列番号140)を有するtd70を含んでいる。
【0068】
DNAザイムの代わりに、GATA−3表現又はTbet表現を特異的に抑止するための薬剤は、適宜のsiRNAを含んでいてもよい。
【0069】
薬剤は好適には、前記の特異なリボ核酸分子又はデオキシリボ核酸分子を医薬として許容できる組成物の形態で、経口、経直腸、非経口、静脈内、筋肉内、又は皮下、槽内、膣内、腹腔内、髄腔内、経脈内、局所(粉末剤、軟膏、又は点滴)又は噴霧の形態で投与できる剤形を有している。本発明の薬剤の経口投与のための投薬形態には、軟膏、粉末、噴霧又は吸入剤が含まれる。活性組成物は必要に応じて無菌状態で生理学的に許容可能な担体及び可能な防腐剤、緩衝液、又は噴射剤と混合される。
【0070】
薬剤は、慢性炎症を伴う疾病群全体の治療に使用できる。
【0071】
本発明の特に好適な実施形態では、GATA−3特異のDNAザイムを有するサブグループ「Th2 high」の分子表現型を有する患者の治療を行う。サブグループ「Th1 high」の分子表現型を有する患者の治療はTbet特異のDNAザイムを用いて行われる。更に、サブグループ「Th2 low」の分子表現型を有する患者の治療をTbet特異のDNAザイムを用いて、及びサブグループ「Th1 low」の分子表現型を有する患者の治療をGATA−3のDNAザイムを用いて行うことができる。
【0072】
したがって、GATA−3特異のDNAザイムを有する本発明の薬剤は、好適にはサブグループ「Th2 high」の分子表現型を有する患者の治療に使用され、Tbet特異のDNAザイムを有する薬剤は好適にはサブグループ「Th1 high」の分子表現型を有する患者の治療に使用される。
【0073】
本発明により、診断される患者のサブグループ、すなわち「Th2 high」、「Th2 low」、「Th1 high」又は「Th1 low」の分子表現型患者を治療するための薬剤の特別な利点は、特異な薬剤、特にDNAザイム及び/又はsiRNAを使用して、差次的発現が事前に確認され、慢性炎症反応及び自己免疫性疾患に関与する、転写因子のコードされたリボ核酸分子の機能的不活性化が行われることにある。この戦略は、従来の方法、及び上記のCorren他、2011年のアプローチとは明らかに異なっているが、それはこれらの場合は一方では例えばペリオスチン(代理マーカー)が測定され、次いで抗IL−13抗体を用いて別の標的、例えばIL−13に対して治療が提案されているからである。これに対して本発明の薬剤は高い特異性を備えている。これは細胞特異の介在を引き起こし、区画及び器官にとって特異な薬剤である。
【0074】
本発明の投与形態には、信頼できる医学的評価によれば患者に過剰な毒性、刺激又はアレルギー反応を引き起こさない限り、医薬として許容される組成、改変、及び「プロドラッグ」が含まれる。「プロドラッグ」という用語は、例えば血液中の加水分解によるなどで吸収改善のために形質転換される化合物を指す。
【0075】
本発明の薬剤はまた、前記の特異な核酸分子を適用するために使用される多重乳剤の形態でもよい。適切な多重乳剤は更に、外水相W1、外水相W1に分散させた油相O、及び油相O内に分散させた内水相W2を含み、内水相W2に分散させた少なくとも1つの電解質がハロゲン化アルカリ及びハロゲン化アルカリ土類及びその硫酸塩群から選択され、少なくとも1つの特異なリボ核酸分子又はデオキシリボ核酸分子、好適にはGATA−3特異又はTbet特異のDNAザイムを備え、外水相W1は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドである親水性乳化剤を含み、油相Oはトリアシルグリセルドから形成され、ジメチコーン群の親油性乳化剤を備えている。このような複数の乳化剤を使用して、特に核酸分子を特に効果的に不都合な劣化から防護することができる。
【0076】
投与形態は臨床的因子に応じて主治医によって決定される。投与形態は例えば患者の体格、体重、体表面積、年齢、性別又は全般的な健康状態などのさまざまな要因によって左右され、更には投与される特定の薬剤、及び可能な場合には並行して投与されるその他の薬剤の投与期間と形態によって左右される。その際、特に有利な変形形態では、薬剤の有効成分の量を測定された発現レベルに適合させる。したがって、サブグループ「Th2 high」に分類され、極めて高いGATA−3発現が確認されると、有効成分、特にGATA−3特異のDNAザイムを高投与量で投与することができる。したがって、サブグループ「Th2 high」に分類され、極めて高いGATA−3発現が確認されると、有効成分、特にGATA−3特異のDNAザイムを高投与量で投与することができる。
【0077】
本発明の別の態様は、慢性炎症を伴う疾病を患うヒト患者の分子表現型を診断するキットであって、患者の生物学的単離においてタンパク質又はGATA−3及び/又はTbetのmRNA量を定量的に決定するための少なくとも1つの特別な要素を含むキットに関する。
【0078】
本発明の診断用キットは、既成の「キット」で簡単に実施することができ、これは担体の表面で吸収される抗体又は抗原を含み、例えばヒトの場合はビオチン−ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ型、又はアルカリ性ホスファターゼ型の反応カスケードによって検出されるように標識された抗ヒトIgE抗体の投与を行う。
【0079】
あるいは、診断用キットは担体の他に緩衝液及び試薬、例えば色素反応を生じるマーカーと結合された、例えば反応を検出するためのストレプアビジンなどの試薬をも含んでいる。
【0080】
あるいは、キットはそれに加えて、キットを較正するためのGATA−3及び/又はTbetの標準サンプルを含んでおり、タンパク質又はGATA−3及び/又はTbetのmRNAの量を検出するために標準サンプルが使用される。
【0081】
好適な実施形態では、タンパク質の量を定量的に決定するため、GATA−3及び/又はTbetに対するそれぞれに特異的な抗体を含んでいる。場合によっては、改良によって免疫測定分析、特にELISASを実施するための別の要素を含めてもよい。
【0082】
ELISASを実施するための別の要素は、細胞破壊のための界面活性剤、マイクロタイタプレート、GATA−3及び/又はTbet用のタンパク質量基準、二次抗体、及び検出のために基質を転換するための結合酵素のグループから選択される。好適には、GATA−3及び/又はTbetに対する第1の特異抗原の他に、GATA−3及び/又はTbetに対する別の特異抗原がキットに含まれる。
【0083】
キットは、mRNAを定量的に判定するために、それぞれGATA−3及び/又はTbet遺伝子用の配列特異的なプローブ及び/又はプライマーを含むことができる。
【0084】
本発明のその他の特徴、詳細及び利点は、特許請求の範囲、及び図面を参照した実施例の以下の説明から明らかになる。