特許第6662969号(P6662969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6662969慢性炎症に伴う疾病の患者の分子表現型を診断する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6662969
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】慢性炎症に伴う疾病の患者の分子表現型を診断する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20200227BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20200227BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20200227BHJP
   C12Q 1/6874 20180101ALI20200227BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20200227BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20200227BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20200227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20200227BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20200227BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   G01N33/53 M
   G01N37/00 102
   C12Q1/6883 Z
   C12Q1/6874 Z
   C12Q1/686 Z
   C12Q1/68
   A61K31/7088
   A61K45/00
   A61K48/00
   A61P29/00
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-167068(P2018-167068)
(22)【出願日】2018年9月6日
(62)【分割の表示】特願2015-531519(P2015-531519)の分割
【原出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2019-7977(P2019-7977A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2018年10月5日
(31)【優先権主張番号】12184500.2
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512210102
【氏名又は名称】ステルナ ビオロジカルス ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ビレ
(72)【発明者】
【氏名】アグニエシュカ トゥロフスカ
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−507438(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/013753(WO,A1)
【文献】 ETTREIKI C,EFFECTS OF IRON ON T-BET/GATA3 EXPRESSION AND EPIGENETIC REGULATIONS IN TH1 AND TH2 INFLAMMATORY MODELS,INFLAMMATION RESEARCH,スイス,BIRKHAEUSER VERLAG,2011年 6月 1日,V60 N.SUPPL.1,P S48-S49
【文献】 ALTER, MAREIKE,Zur Regulation und Expression der Transkriptionsfaktoren T-bet und Gata-3 bei allergisch-entzundlich,Internet,2006年,URL:http://d-nb.info/986825085/34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料におけるTh1細胞特異の転写因子Tbetのタンパク質発現を測定し、所定の基準値と比較することにより、「Th1 high」または、「Th1 low」のいずれかの分子表現型のサブグループに分類し、
当該分類は、
タンパク質量で前記Tbetの発現レベルが判定され、
前記タンパク質量が、免疫分析のうち、ELISA検査、放射免疫分析、電気化学発光免疫分析、CLIA(化学発光結合免疫吸着分析)、FLIA(蛍光結合免疫吸着分析)、又は多重分析のいずれかによって決定され、及び/又は、
前記Tbetの前記発現レベルがmRNA量によって決定され、該mRNA量がPCR又はマイクロアレイチップを用いて定量的に判定されることを特徴とする、慢性炎症に伴う疾病の患者の分子表現型の分類方法。
【請求項2】
前記生物学的試料における前記Tbetのタンパク質発現が所定の基準値よりも高い場合に、前記サブグループ「Th high」の前記分子表現型に前記患者を分類する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
記生物学的試料における前記betのタンパク質発現所定の基準値よりも低い場合に、前記サブグループ「Th low」の前記分子表現型に前記患者を分類する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
記Tbetのタンパク質発現の判定の他に、血清IgE濃度及び/又は好酸性顆粒球数が判定され、且つ/又はFeNO値が判定されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記慢性炎症に伴う疾患が、アレルギー性気管支喘息、鼻炎結膜炎、アレルギー性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、天疱瘡、潰瘍性結腸炎、寄生虫疾患を含むTh2関連の慢性炎症疾患、又は疥癬、アレルギー性接触性皮膚炎、クローン病、COPD、リウマチ性関節炎、自己免疫性疾患、1型糖尿病、MSを含むTh1関連の慢性炎症疾患のいずれかであることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
慢性炎症に伴う疾病に罹患している分子表現型を有する患者を治療する薬剤であって、
該薬剤は、Tbet特異的DNAザイムを含み、
該Tbet特異的DNAザイムが、前記患者の生物学的試料におけるTbetのタンパク質発現に基づいて、前記請求項1から5のいずれかの方法により分類された、サブグループTh1 high」の分子表現型を有する前記患者の治療に用いられることを特徴とする、薬剤。
【請求項7】
外水相W1、該外水相W1に分散させた油相O、及び該油相O内に分散させた内水相W2を含み、
該内水相W2に分散させた少なくとも1つの電解質がハロゲン化アルカリ及びハロゲン化アルカリ土類及びその硫酸塩群から選択され、少なくとも1つの前記GATA−3又はTbet特異的DNAザイムを含み、
前記外水相W1は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドである親水性乳化剤を含み、前記油相Oがトリアシルグリセルドから形成され、ジメチコーン群の親油性乳化剤を含むことを特徴とする、請求項に記載の薬剤。
【請求項8】
慢性炎症を伴う疾病を患うヒト患者の分子表現型を分類するキットであって、前記患者の生物学的試料中のタンパク質量及び/又はbetのmRNA量を定量的に決定するための請求項1からのいずれか一項に記載の方法に用いられる、キット。
【請求項9】
前記タンパク質量を定量的に決定するため、記Tbetに対する異的な抗体を含み、疫分析のうちELISAを実行するための構成を含むことを特徴とする、請求項に記載のキット。
【請求項10】
mRNA量を定量的に判定するため、記Tbet遺伝子用の配列特異的なサンプル、及び/又はプライマーを含むことを特徴とする、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は慢性炎症に伴う疾病の患者を診断する方法及びキット、及びこのような患者を治療する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性炎症は、社会経済的に極めて重要な増大する医学的問題領域を呈している。それには特に以下の疾病群が挙げられる。自己免疫疾患、及びリウマチ性疾患(特に皮膚、肺、腎臓、血管系、神経系、結合組織、筋骨格、内分泌系の兆候)、即時型アレルギー反応及び喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アテローム性動脈硬化症、乾癬及び接触性皮膚炎及び臓器移植後及び骨髄移植後の慢性拒絶反応。これらの疾患の多くはこの10年間、先進工業国だけではなく一部は世界中で罹患率が高まっている。このように、欧州、北米、日本及びオーストラリアではこの間、人口の20%超がアレルギー性疾患及び喘息を罹っている。慢性破壊性肺疾患は現在、死因が世界5番目であり、WHOの試算では2020年には3番目の死因になるとされている。心臓発作、脳卒内、及び末梢動脈閉塞疾患の二次疾患を伴う動脈硬化症は、罹患率と死亡率の統計で世界的に首位を占めている。乾癬及び接触性皮膚炎は神経皮膚炎と共に、該して最も頻繁に見られる慢性皮膚炎である。
【0003】
今日まで環境要因と遺伝性素因との相互作用の理解が不十分であったため、免疫系の調節異常が続いている。それに関して、これらの異なる疾患については以下の共通原理を確認することができる。
【0004】
(A)通常は人に無害な抗原に対する過剰な免疫反応が生じる。これらの抗原は環境要素(例えば花粉、動物の毛、食品、ダニなどのアレルギー誘発物質、防腐剤、色素、洗剤などの化学物質)であることがある。これらの場合、患者にアレルギー反応が生じる。例えば喫煙者及び受動喫煙者の場合は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が生じる。他方では、免疫系も特定の器官に対して反応し、これを異物として認識し、それに対する炎症反応が始まることがある。これらの場合は、自己免疫疾患が生じる。いずれの場合も、無害の非毒性抗原が異物又は危険であると誤認され、不適切な炎症反応が始まる。
(B)疾病は開始、進行、すなわち炎症反応の進展と同時に進み、それに関連する破壊及び器官の機能損失を伴う変質(いわゆるリモデリング)が加わる。
(C)疾病は、患者特有の亜表現型の顕著な特徴を呈する。
(D)開始、持続及び破壊及び変質過程には先天性及び後天性免疫が持続的に関与する。先天性免疫の影響(重要な要素:多様な固定集団を有する抗原提示細胞、及び補体系)は、適応免疫系の細胞の活性化と分化とを生じる。
【0005】
(重要な要素:Tリンパ球及びBリンパ球)T細胞は、その後の過程で高度分化エフェクターに分化することで中心的な機能を果たす。
【0006】
その際、T細胞は特定のエフェクター機構を活性化し、且つ獲得し、それには以下の機能が含まれる。抗原の産生、免疫系のエフェクター細胞の機能制御(例えば好中球、好塩基球、好酸性顆粒球など)、先天性免疫系の機能のフィードバック、例えば上皮、内皮、結合組織、骨、軟骨、及び特に神経細胞などの非造血細胞の機能への影響。そこで、免疫系と神経系との間の特別な相互作用が生じ、慢性炎症における神経免疫相互作用の概念がそこから発展した。
【0007】
前述のT細胞は疾病過程で中心的な機能を果たすため、その分化を理解することは決定的に重要である。複雑な信号伝達カスケードは、ナイーブCD4細胞からTh1細胞(T helper 1 cell)又はTh2細胞(T helper 2 cell)への分化に関与している。
【0008】
適宜のペプチド−MHC複合体によるT細胞受容体を介した刺激は、クローン性増殖と、CD4+Tリンパ球からTヘルパー(Th)1細胞又はTh2細胞へのプログラムされた分化を誘発する。これらの2つの亜型の区別はそのサイトカインプロファイルに基づいて行われる。Th1細胞はインターフェロンγ(INFγ)、インターロイキン2(IL−2)及び腫瘍壊死因子−αを産生し、一方、Th2細胞はIL−4、IL−5、IL−6、IL−9、及びIL−13を分泌する。細菌感染及びウイルス感染は、Th1細胞により支配される免疫反応を誘発する。他方では、Th2細胞は抗寄生虫IgEの産生を調整する。その際、Th1細胞とTh2細胞とはバランスが取れている。このバランスが崩れると疾病の原因となるため、過剰なTh1細胞反応は自己免疫疾患に関連し、一方、アレルギー性疾患は増強されたTh2細胞反応に基づくものである。
【0009】
Th1サイトカインは、例えば自己免疫性ブドウ膜炎、実験的アレルギー性脳脊髄炎、1型糖尿病又はクローン病などの自己免疫性疾患の発症に関与し、一方Th2サイトカイン(IL−4、IL−5、IL−13又はIL−9)は、例えば気道好酸球増多、喘息、粘液過分泌及び気道反応性亢進などの炎症性気道疾患に関与することが知られている。これらの疾患の原因は、抗原特異的Th細胞による特性サイトカインの産生中の病態生理学的変化である。肺及び気道内のTh2細胞亜集団は、動物モデルで気管支喘息の特徴的な症候を誘発する。
【0010】
自己免疫性疾患及び慢性炎症反応には、特に2つの転写因子、すなわちTh1細胞に特異の転写因子Tbet及びTh2細胞に特異の転写因子GATA-3が関与している。
【0011】
Th1細胞特異の転写因子Tbetは特にナイーブCD4T細胞からTh1細胞への分化に関与している。その発現はT細胞受容体(TZR)のシグナル伝達経路を介して、及びINFγ−受容体/STAT1を介して制御される。Tbetは内在性INFγ遺伝子を転写活性化し、INFγ産生を誘発する。Tbetの生体内機能はノックアウトマウス(Tbet−/−)内で確認される。Tbetが欠損したマウスではTh2サイトカインの量が増加する。
【0012】
炎症性腸疾患の発症時の粘膜T細胞の機能は知られている。転写因子Tbetは特にTh1細胞の成長を誘発し、これらの細胞内のINFγ産生を制御する。Tbetの抑制によって、Th1細胞とTh2細胞とのバランスはTh2の方に移行する。
【0013】
これに対して例えばアレルギー性喘息などの炎症疾病は、Th2細胞の活性化に関連している。Th2細胞は、アレルギー性疾患、特に様々な喘息疾患の発症に重要な役割を果たす。それに必要なTh0細胞のTh2細胞への分化は、転写因子GATA−3に依存する。GATA−3は、転写因子のGATAファミリーに属する。
【0014】
Th2細胞に特異な転写因子GATA−3は、特にナイーブCD4+T細胞からTh2細胞への分化に関与している。その際、Th2細胞の分化は主として2つの細胞受容体(TZR)及びIL−4受容体経路によって制御される:TZRから伝達されるシグナルはTh2細胞に特異な転写因子c-Maf及びGATA-3と、転写因子NFAT及びAP−1の両方によって活性化される。IL−4受容体の活性化によってSTAT6はIL−4受容体の細胞質ドメインに結合され、そこでJak1キナーゼ及びJak3キナーゼによってリン酸化される。リン酸化自体は核内のSTAT6の二量化と転写とを引き起こし、そこでSTAT6はGATA−3及びその他の遺伝子の転写を活性化する。GATA−3は、Th1細胞内ではなく成熟したTh2細胞内でのみ発現される亜鉛フィンガー転写因子である。
【0015】
Th2細胞は例えばIL−4、IL−5、IL−6、IL−13及びGM-CSFなどのサイトカインを産生する。Th2への分極はTbetの抑制によってTh1の分化を抑止し、逆の場合も同様である。しかしGATA−3の発現はT細胞に限定されない。GATA−3の発現は好酸球及び好塩基球、肥満細胞及び上皮細胞内でも検出できよう。GATA−3は、慢性炎症性疾患、特にアレルギー性喘息の免疫病因に重要な役割を果たす。
【0016】
慢性炎症性疾患を治療するための確立された製剤は特に、コルチコステロイド、抗ロイコトリエン、免疫抑制剤、及び抗IgEモノクロナール抗体である。しかし、これらの治療薬が喘息患者に良好に効く程度は異なる。長期間にわたって、これらの効能の差の原因は不明のままである。結論として、患者には多かれ少なかれ「試行錯誤」の原理で個々の症例に基づいて適切な治療を施さなければならなかった。
【0017】
しかし、最近になって、例えば喘息に苦しむ患者をサブグループに区分できることが確認された(非特許文献1)。そこで喘息患者には「Th2 high」及び「Th2 low」と呼ばれる少なくとも2つのサブグループがあることが示された。その際、喘息患者のサブグループ「Th2 high」は特に、ペイオスチンタンパク質をコードする遺伝子POSTN、及びIL−13遺伝子及びIL−5遺伝子を有している。喘息治験患者の「Th2 low」グループは、健常者の対照群と同程度の低いPOSTN遺伝子発現を示した。これらの異なる分子表現型は、現在の治療薬の効能が異なる原因である可能性がある。このように、サブグループ「Th2 high」では、コルチステロイドでの治療への応答挙動が改善することが確認できた。
【0018】
更に、2グループ、すなわち「Th2 high」と「Th2 low」の喘息患者にヒト化モノクロナール抗体による治療がIL−13に対して効く程度が異なることも判明している(非特許文献2)その際、血清IgEの値が100IU/ml以上で、好酸性顆粒球の細胞数が1リットル当たり0.14x10個以上である場合は、喘息患者は経験的に先ず「Th2 high」グループに分類された。それ未満の値の場合はそれぞれ「Th2 low」グループに分類された。あるいは、血液検体又は気道検体では検出困難なTh2サイトカインIL−13の代理マーカー(Surrogatmarker)として使用される血清ペリオスチン濃度に基づいて分類が行われた。その際、IL−13が特に生体内上皮細胞内のペリオスチンコード遺伝子POSTNの発現を誘発するという事実が利用される。(非特許文献3)血清ペリオスチン濃度が平均を超える患者は、Corren他、2011年刊によれば「ペリオスチンhigh」に分類された。上記のサブグループ「Th2 high」及び「ペリオスチンhigh」の場合は、抗IL−13抗体による治療での応答挙動がより良好である傾向があると言うことができよう。
【0019】
特許文献1によれば、例えばPOSTN、CLCA1及びSERPINB2などの多くの候補遺伝子の遺伝子発現を利用した、喘息患者のある種の分類も提案されている。これらの遺伝子は周知のようにTh2サイトカインIL−4又はIL−13によって上方制御されたため、クラスタは「IL−4/IL−13シグネチャー」とも呼ばれている。血清ペリオスチン濃度及び対応するmRNA量の測定と共に、対応する血清IgE値及び好酸性顆粒球の数の決定も記載された。
【0020】
この遺伝子発現、特にPOSTNに基づく患者の分類の欠点は、「IL−4/IL−13シグネチャー」と共に、サイトカインIL−5も喘息の病因に重要な役割を果たすことにある。その上、免疫カスケード内の、ひいては発症に対するペリオスチンタンパク質の役割は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】国際公開第2009/124090号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Woodruff他著、2009年刊、「2型Tヘルパー誘発性炎症は喘息の主要な亜表現型を規定する」、Am J Respir Crit Care Med、180巻、388〜395ページ
【非特許文献2】Corren他著、2011年刊、「喘息の成人へのLebrikizumab治療」、The new england journal of medicine、10.1056/NEJMoa1 106469
【非特許文献3】Woodruff他著、2007年刊、Proc Natl Acad Sci USA、104(40):15858−63.「ゲノムワイドなプロファイリングは、喘息及びコルチコステロイドへの治療反応性に関する上皮細胞を特定する」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、「Th2 high」又は「Th2 low」ないし「Th1 high」又は「Th1 low」のグループの慢性炎症を伴う疾病を患うヒト患者の許容され、同時に臨床的に実際的な分子表現型検査に適するバイオマーカーを発見することが課題である。更に、このように分類された患者を特にこれらのサブグループに特効がある治療薬で治療する必要がある。そのためにバイオマーカーは患者、特に喘息患者に関する治療薬の効能の個々の予測を可能にする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題は、本発明により分子表現型がサブグループ「Th2
high」、「Th2 low」、「Th1 high」及び「Th1 low」のグループから選択され、患者が生物学的に単離されてGATA−3及び/又はTbetの遺伝子発現が測定され、疾病の分子表現型への分類に利用される、慢性炎症を伴う疾患を患うヒト患者の分子表現型を診断する方法によって解決される。その際、慢性炎症を伴う疾病を患うヒト患者の分子表現型のより詳細な分類は、転写因子GATA−3、及び/又は転写因子Tbetの遺伝子発現を測定することによって行われる。冒頭部に前述したように、自己免疫性疾患及び慢性炎症反応の発症にはTh1細胞に特異の転写因子TbetとTh2細胞に特異の転写因子GATA−3が関与している。Th2への分極はTbetの抑制によってTh1の分化を抑止し、逆の場合も同様である。GATA−3及び/又はTbetの発現レベルに応じて、慢性炎症を伴う疾病の分子表現型への、ひいてはサブグループへの分類がなされる。本発明による診断方法により、臨床診療で簡単に前記の分子表現検査を高い有効度で行うことができる。
【0025】
転写因子GATA−3及びTbetは、Th1又はTh2に依存する炎症疾患の発症時の中心的な鍵分子である。したがって、タンパク質発現又はmRNA発現の直接的な測定は、仲介メカニズムが結果を損なうことが在り得ないため可能な最良の患者層別方法である。
【0026】
方法の実施形態によれば、GATA−3及び/又はTbetの発現レベルはタンパク質量又はmRNA量によって決定される。その際、タンパク質の量は免疫分析を用いて定量的に決定される。免疫分析は好適には、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)検査、放射免疫測定(RIA)、電気化学発光(ECL)免疫測定、CLIA(化学発光結合免疫吸着測定)、FLIA(蛍光結合免疫吸着測定)、又はマルチプレックス測定である。
【0027】
上記の分析は、高い感度と特異性の他に、可能な自動化のあらゆる利点をもたらし、したがって、臨床診療に特に適している。もちろん、本発明に基づいて、場合によってはGATA−3及び/又はTbetのタンパク質量を定量的に検出するのに適する他のいずれかの検査を選択することもできる。更に、GATA−3及び/又はTbetの発現レベルを質量分析法、ガスクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法、HPLCなどの固相単離による液状診断法、又はマイクロ流体法又はナノ流体法によって判定することができる。
【0028】
方法は場合によっては、GATA−3及び/又はTbetを判定するためにELISA検査を用いた以下のステップを含むことができる:
−細胞破壊により溶解物を生成し、
−第1のGATA−3特異抗体及び/又はTbet特異抗体を被覆したマイクロタイタープレートのウェルに溶解物を添加し、
−マイクロタイタープレートを洗浄し、
−マイクロタイタープレートのウェルに第2のGATA−3特異抗体又はTbet特異抗体を添加し、
−マイクロタイタープレートを洗浄し、
−GATA−3タンパク質又はTbetタンパク質を検出し、定量化するステップ。
【0029】
検出のために、第2の特異抗体を例えばビオチンで標識することができ、ストレプトアビジンと結合した酵素を別個に添加することができる。第2の特異抗体を直接酵素と結合させることもできる。適切な場合は、第2の特異抗体に対する、酵素と結合した第3の抗体を使用することもできる。
【0030】
酵素は好適には、ペルオキシダーゼ又はアルカリ性ホスファターゼであり、比色分析又は化学発光などに適する適宜の基質で変換される。
【0031】
本発明の別の態様によれば、それに加え、又はその代わりに、タンパク質量を上記のように検出するために補足的にGATA−3及び/又はTbetのmRNA量を決定することができる。それには好適には、PCR、特に好適にはqPCR、又はマイクロアレイチップが適している。GATA−3及びTbetなどに特有のプローブ又はプライマーを上記の検出方法のためにどのように選択するかという方法は当業者には周知である。
【0032】
生物学的単離は本発明の好適な実施形態により、全血、尿、痰、肺細胞洗浄液(BAL)、生体検査、ブラシ生検、脳脊椎液、気管分泌物、精液、腹水、唾液又はリンパ液から得られた。当業者は、適宜の生物学的単離を得るための常法を周知している。
【0033】
GATA−3及びTbetは、転写因子として亜種Th1及びTh2のTヘルパー細胞の細胞核内で有効なタンパク質である。これらの両方の核タンパク質の濃度を特定量の全血内などでの特定量の生物学的単離で決定するために、GATA−3及びTbetを形成する細胞を先ず単離し、次いで溶解させなけらばならない。これらのタンパク質をヒト血清又は血漿から直接検出することは、そこには検出可能な濃度で存在しないため、ほぼ不可能である。したがって、GATA−3及びTbetの分析は場合によっては以下の4つのステップで行われる。
−GATA−3/Tbetを発現する細胞を全血のその他の細胞成分から単離し、
−細胞を破壊し、細胞間タンパク質/核タンパク質を放出し、
−GATA−3及び/又はTbetの濃度を測定し、
−判明したGATA−3及び/又はTbetの濃度を正規化するステップ。
【0034】
有利な変形形態によれば、本発明の方法はGATA−3及び/又はTbetの発現レベルがタンパク質量、又はmRNA量のいずれで決定されるかに関わりなく、以下のステップの1つ又は複数を含んでいる。
(i)好適にはFicoll勾配遠心法により白血球を単離し、
(ii)好適にはサイズ排除濾過により白血球を濃縮し、又は、
(iii)好適には磁気ビーズに結合された細胞特異的抗体を用いてTh1細胞/Th2細胞、特にCD4+T細胞を濃縮するステップ。
【0035】
上記のステップ(i)から(iii)は、細胞破壊の前に実行され、特に白血球内では遺伝子GATA−3及びTbetがそれぞれ異なって発現されるため、診断方法の感度及び有効度を高めることができる。
【0036】
本発明の別の態様では、下記の条件のうち少なくとも1つが満たされれば、患者をサブグループ「Th2 high」の分子表現型に分類できる。
a)生物学的単離におけるGATA−3遺伝子発現が所定の基準値よりも高く、
b)生物学的単離におけるGATA−3とTbet遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも高いこと。
【0037】
したがって、サブグループ「Th2 high」は、所定の基準値と比較して高い絶対的GATA−3遺伝子発現を特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、単離における健常者の対応するGATA−3のタンパク質含有値を基準値として用いることができる。更に絶対的な基準値を用いることもできる。mRNA量を測定する場合は、健常者の単離におけるGATA−3 mRNA量の対応値を用いることができる。更に、この場合も例えばコピー/mlなどの絶対基準値を用いることもできる。
【0038】
本発明の有利な実施形態により、GATA−3遺伝子発現を高める代わりに、又はそれに加えて生物学的単離におけるGATA−3と、Tbet遺伝子発現との比率を所定の基準値よりも高くすると、患者をサブグループ「Th2 high」への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるGATA−3と、Tbet遺伝子発現との比率の対応値を用いることができる。GATA−3とTbetとの比率を決定することで、GATA−3遺伝子発現の他に補足的パラメータとしてTbet遺伝子発現が確認されるため予測の確実性が高まる。冒頭に記載したように、両方の転写因子は発現を逆調整するため、Tbetを含めることでGATA−3遺伝子発現を測定するための内部制御がなされる。
【0039】
有利な変形形態によれば、サブグループ「Th2 high」の分子表現型に患者を分類するための本発明の方法は以下のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−GATA−3及び/又はTbetのタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−上記のa)又はb)に記載の条件の少なくとも1つが当てはまる場合は、患者をサブグループ「Th2 high」の1つに分類するステップ。
【0040】
あるいは、GATA−3及び/又はTbet遺伝子発現の上記の決定に加えて、サブグループ「Th2 high」に確実に分類するための別のパラメータの決定が行われる。このように、例えば血清IgE濃度及び好酸性顆粒球の数を測定することができる。サブグループ「Th2 high」への分類は更に、血清IgE濃度が100IU/mlより高く、且つ/又は1リットル当たりの好酸性顆粒球の細胞数が0.14x10個以上である場合になされる。あるいは、必要に応じて、呼気中の一酸化窒素の濃度、すなわちFeNO値を判定することができる。
【0041】
本発明の方法の別の有利な実施形態は、以下の条件の少なくとも1つが満たされた場合に、患者をサブグループ「Th2 low」の分子表現型に分類することに関するものである。
a)生物学的単離におけるGATA−3遺伝子発現が所定の基準値よりも低い場合、
b)生物学的単離におけるGATA−3とTbet遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも低い場合。
【0042】
したがって、サブグループ「Th2 low」は、所定の基準値よりも絶対的GATA−3遺伝子発現が低いことを特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、単離における健常者の対応するGATA−3のタンパク質含有値を基準値として用いることができる。その際、サブグループ「Th2 low」の慢性炎症を伴う疾病の患者の場合、それにも関らず絶対的GATA−3遺伝子発現は通常は健常者の単離の場合よりも高くなることに留意されたい。しかし絶対的遺伝子発現は、健康な場合よりも低くことがある。いずれにせよ、GATA−3遺伝子発現はサブグループ「Th2 high」の場合ほど高くはないとされている。したがって、患者がサブグループ「Th2 low」に分類されるのは、そのGATA−3タンパク質含有率が高まったとしても健常者の分類と比較して緩やかにしか高まらない場合である。固定基準値を用いることもできる。mRNA量を測定する場合は、基準値として健常者の単離における対応するGATA−3のmRNA量の値を用いることができ、その際、患者のGATA−3のmRNA量が対応する健常者のサンプルよりも低いか、大幅に高くない場合にサブグループ「Th2 low」への分類がなされる。この場合も固定基準値を用いることができる。
【0043】
本発明の有利な実施形態では、GATA−3遺伝子発現の低減の代わりに、又はそれに加えて、生物学的単離でGATA−3と、Tbetとの比率が所定の基準値よりも低い場合に、患者の前記のサブグループ「Th2 low」の分子表現型への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるGATA−3と、Tbet遺伝子発現との比率の対応値を用いることができる。GATA−3とTbet遺伝子発現との比率を判定することで、GATA−3遺伝子発現と共に補足的パラメータとしてTbet遺伝子発現が確認されるので、この場合も予測の確実性が高まる。前述のように、両方の転写因子の発現は逆調整するので、Tbetを用いると、ある点ではGATA−3遺伝子発現を測定するための内部制御がなされる。
【0044】
有利な変形形態では、患者をサブグループ「Th2 low」の分子表現型に分類する本発明の方法は下記のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−GATA−3及び/又はTbetのタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−前述のa)又はb)の条件の少なくとも1つが該当する場合に患者をサブグループ「Th2 low」に分類するステップ。
【0045】
あるいは、GATA−3及び/又はTbet遺伝子発現の上記の判定に加えて、サブグループ「Th2 low」により確実に分類する更に別のパラメータを決定することもできる。このように、例えば血清IgE濃度及び好酸性顆粒球の数を測定することができる。この場合も血清IgE濃度が100IU/ml未満であり、且つ/又は好酸性顆粒球の細胞数が1リットル当たり0.14x10個未満である場合にサブグループ「Th2 low」への分類がなされる。あるいは、必要に応じて、呼気中の一酸化窒素の濃度、すなわちFeNO値を判定することができる。
【0046】
本発明の別の実施形態では、下記の条件の少なくとも1つが満たされると患者のサブグループ「Th high」の分子表現型への分類がなされる。
a)生物学的単離におけるTbet遺伝子発現が所定の基準値よりも高い、
b)生物学的単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも高い。
【0047】
したがって、サブグループ「Th1 high」は、所定の基準値と比較して高い絶対的GATA−3遺伝子発現を特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、健常者の単離におけるTbetタンパク質含有量の対応する値を基準値として用いることができ、患者のTbetタンパク質含有量が高まると患者のサブグループ「Th1 high」への分類がなされる。固定基準値を用いることもできる。その際、mRNA量を測定する場合、健常者の単離におけるTbet mRNA量の対応する値を基準値として用いることができ、患者のTbet mRNA量が高まると患者のサブグループ「Th1 high」への分類がなされる。この場合も固定基準値を用いることができる。
【0048】
本発明の方法の有利な実施形態では、Tbetの上昇の代わりに、又はそれに加えて、生物学的単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも高い場合に、患者の前記のサブグループ「Th1 high」の分子表現型への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率を用いることができる。この場合もTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率の測定は、Tbet遺伝子発現の他に補足的パラメータとしてGATA−3遺伝子発現が確認され、GATA−3を用いるとTbet遺伝子発現の測定が内部制御されるため、予測の確実性が高まる。
【0049】
有利な変形形態では、患者をサブグループ「Th1 high」の分子表現型に分類する本発明の方法は下記のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−Tbet及び/又はGATA−3のタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−前述のa)又はb)に記載の条件の少なくとも1つが該当する場合は、患者をサブグループ「Th1 high」の分子表現型に分類するステップ。
【0050】
本発明の別の態様は、下記の条件の少なくとも1つが満たされると、患者をサブグループ「Th1 low」の分子表現型に分類できる方法に関する。すなわち、
a)生物学的単離におけるTbet遺伝子発現が所定の基準値よりも低く、
b)生物学的単離におけるTbetと、生物学的単離におけるGATA−3遺伝子発現が所定の基準値よりも低いこと。
【0051】
したがって、サブグループ「Th1 low」は、所定の基準値よりも低い絶対的Tbet遺伝子発現を子表現型を特徴としてもよい。その際、タンパク質量を測定する場合、健常者の単離におけるTbetタンパク質含有量の対応する値を基準値として用いることができる。その際、サブグループ「Th1 low」の慢性炎症を伴う疾病の患者の場合、それにも関らず絶対的Tbet遺伝子発現は通常は健常者の単離の場合よりも高くなり得ることに留意されたい。しかし、絶対的Tbet遺伝子発現も健常者の場合よりも低くなり得る。いずれにせよ、Tbet遺伝子発現は、サブグループ「Th1 high」の場合ほど高くはないとされている。したがって、患者がサブグループ「Th1 low」に分類されるのは、そのTbetタンパク質含有量が健常者の単離と比較して高まったとしても大幅に高くない場合である。固定基準値を用いることもできる。mRNA量を測定する場合は、基準値として健常者の単離における対応するTbet mRNA量の値を用いることができ、その際、患者のTbet mRNA量が対応する健常者の検体よりも低いか、大幅に高くない場合に患者はサブグループ「Th1 low」に分類される。この場合も固定基準値を用いることができる。
【0052】
本発明の有利な変形形態では、GATA−3遺伝子発現の低減の代わりに、又はそれに加えて、生物学的単離でTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率が所定の基準値よりも低い場合に、患者の前記のサブグループ「Th1 low」の分子表現型への分類がなされる。その際、基準値として、健常者の単離におけるTbetと、GATA−3遺伝子発現との比率を用いることができる。Tbetと、GATA−3遺伝子発現との比率の決定は、Tbet遺伝子発現の他に補足的パラメータとしてGATA−3遺伝子発現が確認され、GATA−3を用いると、ある点ではTbet遺伝子発現の測定が内部制御されるため、予測の確実性が高まる。
【0053】
有利な変形形態では、患者をサブグループ「Th1 low」の分子表現型に分類する本発明の方法は下記のステップを含んでいる:
−患者の生物学的単離細胞からタンパク質又はRNAを放出し、
−Tbet及び/又はGATA−3のタンパク質又はmRNAの発現レベルを確定し、
−上記のa)又はb)に記載の条件の少なくとも1つが当てはまる場合は、患者をサブグループ「Th1 low」の1つに分類するステップ。
【0054】
あるいは、GATA−3及び/又はTbet遺伝子発現の上記の決定に加えて、サブグループ「Th1 high」及び「Th1 low」に確実に分類するための別のパラメータの決定が行われる。このように、例えば好酸性顆粒球の数又は血清IgE濃度を測定することができる。血清IgE濃度が100IU/ml未満であり、且つ/又は好酸性顆粒球の細胞数が1リットル当たり0.14x10個未満である場合にサブグループ「Th1 high」への分類がなされる。それ以外の場合は、サブグループ「Th1 low」に分類される。あるいは、必要に応じて、呼気中の一酸化窒素の濃度、すなわちFeNO値を判定することができる。
【0055】
サンプル調製時の差異を考慮に入れるため、GATA−3及びTbetの濃度の正規化を行うことができる。サンプル調製時の差異は、例えば溶解される細胞数の差により、個々のサンプルの異なる溶解効率により、又は細胞調製中に様々な細胞型が異なる含有率となることにより生じることがある。本発明による正規化の可能性は特に、細胞溶解物の全タンパク質含有量への正規化、溶解した細胞数に基づく正規化、又は特定の細胞型内の特異に判明したマーカータンパク質濃度に基づく正規化である。
【0056】
サブグループ「Th2 high」の分子表現型と診断された患者は、場合によっては同時にサブグループ「Th1 low」に分類されることがある。サブグループ「Th1 high」の分子表現型と診断された患者は、場合によっては同時にサブグループ「Th2 low」に分類されることがある。それは、Th2への分極がTbetの抑制によりTh1の分化が抑止され、逆も同様であるからである。
【0057】
本発明により例えば自己免疫性疾患及びリウマチ性疾患(特に皮膚、肺、腎臓、血管系、神経系、結合組織、筋骨格、内分泌系の兆候)、即時型アレルギー反応及び喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アテローム性動脈硬化症、乾癬及び接触性皮膚炎及び臓器移植後及び骨髄移植後の慢性拒絶反応などが診断され、治療される。GATA−3及び/又はTbetが発症に関与し、且つ/又はその結果として脱調整される場合は、本発明による腫瘍性疾患の診断又は治療も可能である。
【0058】
本発明により慢性炎症疾患は、例えばアレルギー性気管支喘息、鼻炎結膜炎、アレルギー性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、天疱瘡、潰瘍性結腸炎、寄生虫疾患などのTh2関連の、又は例えば疥癬、アレルギー性接触性皮膚炎、クローン病、COPD、リウマチ性関節炎、自己免疫性疾患、1型糖尿病、又はMSなどのTh1関連の慢性炎症疾患である。
【0059】
上記の課題は、本発明によって更に、分子表現型を有するヒト患者の慢性炎症を伴う疾病を治療する薬剤によって解決され、前記本発明による診断方法によって1つ又は複数の実施形態により分子表現型が判定される。その際、特定された分子表現型には特に「Th1 low」、「Th1 high」、「Th2 low」又は「Th2 high」グループが含まれる。
【0060】
好適な実施形態により、前記薬剤はGATA−3、又はTbet特異のリボ核酸又はデオキシリボ核酸、特にGATA−3特異、又はTbet特異のDNAザイムを含んでいる。
【0061】
DNAザイムの一般モデルは「10−23」モデルである(Sontoro他、1997年)「10−23DNAザイム」とも呼ばれる10−23モデルのDNAザイムは、2つの基質結合ドメインが側面にある15ヌクレオチドの触媒ドメインを有している。触媒ドメインは、好適には配列ggctagctacaacga(配列番号154)を有している。基質結合ドメインの長さは可変であり、同一の長さ、又は異なる長さである。好適な実施形態では、基質結合ドメイン長は6から14のヌクレオチド長であり、特に好適には少なくとも9ヌクレオチドの長さである。このようなDNAザイムは基本配列nnnnnnnnnggctagctacaacgannnnnnnnn(配列番号155)を含んでいる。その際、タンパク質GATA−3及びTbetをコードするmRNAを結合する基質結合ドメインが特に好適である。
【0062】
記載の触媒中央ドメインggctagctacaacgaは好適な実施形態の1つであるに過ぎない。同等の生物学的活性を有する「10−23DNAザイム」が改変触媒ドメインで得られることは当業者には周知である。
【0063】
特に好適な実施形態では、基質結合ドメインは、切断部位が側面にある領域と完全に相補形である。しかし、標的RNAを結合し、これを開裂するには、DNAザイムは必ずしも完全な相補形でなくてもよい。10−23型のDNAザイムは標的mRNAをプリン−ピリミジン連続配列で開裂する。本発明により、DNAザイムには好適には、その内容が本発明の開示内容に記載されているWO2005/033314A2号明細書に記載のGATA−3又はTbetに対する生体内活性DNAザイムが含まれる。
【0064】
生体内でGATA−3遺伝子発現を特異的に抑止する薬剤は特に、配列番号1から配列番号70までに基づく配列のDNAザイムからなるグループから選択される少なくとも1つのDNAザイムを含んでいる。このようなDNAザイムは好適には、配列番号151(データバンク番号:XM_043124)からのヒトGATA−3、配列番号152(データバンク番号:X58072からのヒトGATA−3、及びプラスミドpCR2.1から配列されたヒトGATA−3)から選択された遺伝子配列を有するヒト遺伝子をコードするmRNAに結合する。
【0065】
生体内でGATA−3遺伝子発現を特異的に抑止するための薬剤は、好適には配列5’GTGGATGGAggctagctacaacgaGTCTTGGAG(配列番号40)を有するDNAザイムhgd40を含んでいる。
【0066】
生体内でGATA−3遺伝子発現を特異的に抑止するための薬剤は、好適には特に配列番号71から配列番号148までに基づく配列を有するDNAザイムからなるグループから選択された少なくとも1つのDNAザイムを含んでいる。このようなDNAザイムは好適には、配列番号149(データバンク番号NM_013351からのヒトTbet)及び配列番号150(pBluescript-SKから配列決定されたヒトTbet)から選択された遺伝子配列を有するヒトTbetをコードするmRNAに結合する。
【0067】
生体内Tbet発現を特異に抑止するための薬剤は、好適には配列5’-GGCAATGAAggctagctacaacgaTGGGTTTCT(配列番号139)を有するDNAザイムtd69、又は配列番号5’-TCACGGCAAggctagctacaacgaGAACTGGGT(配列番号140)を有するtd70を含んでいる。
【0068】
DNAザイムの代わりに、GATA−3表現又はTbet表現を特異的に抑止するための薬剤は、適宜のsiRNAを含んでいてもよい。
【0069】
薬剤は好適には、前記の特異なリボ核酸分子又はデオキシリボ核酸分子を医薬として許容できる組成物の形態で、経口、経直腸、非経口、静脈内、筋肉内、又は皮下、槽内、膣内、腹腔内、髄腔内、経脈内、局所(粉末剤、軟膏、又は点滴)又は噴霧の形態で投与できる剤形を有している。本発明の薬剤の経口投与のための投薬形態には、軟膏、粉末、噴霧又は吸入剤が含まれる。活性組成物は必要に応じて無菌状態で生理学的に許容可能な担体及び可能な防腐剤、緩衝液、又は噴射剤と混合される。
【0070】
薬剤は、慢性炎症を伴う疾病群全体の治療に使用できる。
【0071】
本発明の特に好適な実施形態では、GATA−3特異のDNAザイムを有するサブグループ「Th2 high」の分子表現型を有する患者の治療を行う。サブグループ「Th1 high」の分子表現型を有する患者の治療はTbet特異のDNAザイムを用いて行われる。更に、サブグループ「Th2 low」の分子表現型を有する患者の治療をTbet特異のDNAザイムを用いて、及びサブグループ「Th1 low」の分子表現型を有する患者の治療をGATA−3のDNAザイムを用いて行うことができる。
【0072】
したがって、GATA−3特異のDNAザイムを有する本発明の薬剤は、好適にはサブグループ「Th2 high」の分子表現型を有する患者の治療に使用され、Tbet特異のDNAザイムを有する薬剤は好適にはサブグループ「Th1 high」の分子表現型を有する患者の治療に使用される。
【0073】
本発明により、診断される患者のサブグループ、すなわち「Th2 high」、「Th2 low」、「Th1 high」又は「Th1 low」の分子表現型患者を治療するための薬剤の特別な利点は、特異な薬剤、特にDNAザイム及び/又はsiRNAを使用して、差次的発現が事前に確認され、慢性炎症反応及び自己免疫性疾患に関与する、転写因子のコードされたリボ核酸分子の機能的不活性化が行われることにある。この戦略は、従来の方法、及び上記のCorren他、2011年のアプローチとは明らかに異なっているが、それはこれらの場合は一方では例えばペリオスチン(代理マーカー)が測定され、次いで抗IL−13抗体を用いて別の標的、例えばIL−13に対して治療が提案されているからである。これに対して本発明の薬剤は高い特異性を備えている。これは細胞特異の介在を引き起こし、区画及び器官にとって特異な薬剤である。
【0074】
本発明の投与形態には、信頼できる医学的評価によれば患者に過剰な毒性、刺激又はアレルギー反応を引き起こさない限り、医薬として許容される組成、改変、及び「プロドラッグ」が含まれる。「プロドラッグ」という用語は、例えば血液中の加水分解によるなどで吸収改善のために形質転換される化合物を指す。
【0075】
本発明の薬剤はまた、前記の特異な核酸分子を適用するために使用される多重乳剤の形態でもよい。適切な多重乳剤は更に、外水相W1、外水相W1に分散させた油相O、及び油相O内に分散させた内水相W2を含み、内水相W2に分散させた少なくとも1つの電解質がハロゲン化アルカリ及びハロゲン化アルカリ土類及びその硫酸塩群から選択され、少なくとも1つの特異なリボ核酸分子又はデオキシリボ核酸分子、好適にはGATA−3特異又はTbet特異のDNAザイムを備え、外水相W1は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドである親水性乳化剤を含み、油相Oはトリアシルグリセルドから形成され、ジメチコーン群の親油性乳化剤を備えている。このような複数の乳化剤を使用して、特に核酸分子を特に効果的に不都合な劣化から防護することができる。
【0076】
投与形態は臨床的因子に応じて主治医によって決定される。投与形態は例えば患者の体格、体重、体表面積、年齢、性別又は全般的な健康状態などのさまざまな要因によって左右され、更には投与される特定の薬剤、及び可能な場合には並行して投与されるその他の薬剤の投与期間と形態によって左右される。その際、特に有利な変形形態では、薬剤の有効成分の量を測定された発現レベルに適合させる。したがって、サブグループ「Th2 high」に分類され、極めて高いGATA−3発現が確認されると、有効成分、特にGATA−3特異のDNAザイムを高投与量で投与することができる。したがって、サブグループ「Th2 high」に分類され、極めて高いGATA−3発現が確認されると、有効成分、特にGATA−3特異のDNAザイムを高投与量で投与することができる。
【0077】
本発明の別の態様は、慢性炎症を伴う疾病を患うヒト患者の分子表現型を診断するキットであって、患者の生物学的単離においてタンパク質又はGATA−3及び/又はTbetのmRNA量を定量的に決定するための少なくとも1つの特別な要素を含むキットに関する。
【0078】
本発明の診断用キットは、既成の「キット」で簡単に実施することができ、これは担体の表面で吸収される抗体又は抗原を含み、例えばヒトの場合はビオチン−ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ型、又はアルカリ性ホスファターゼ型の反応カスケードによって検出されるように標識された抗ヒトIgE抗体の投与を行う。
【0079】
あるいは、診断用キットは担体の他に緩衝液及び試薬、例えば色素反応を生じるマーカーと結合された、例えば反応を検出するためのストレプアビジンなどの試薬をも含んでいる。
【0080】
あるいは、キットはそれに加えて、キットを較正するためのGATA−3及び/又はTbetの標準サンプルを含んでおり、タンパク質又はGATA−3及び/又はTbetのmRNAの量を検出するために標準サンプルが使用される。
【0081】
好適な実施形態では、タンパク質の量を定量的に決定するため、GATA−3及び/又はTbetに対するそれぞれに特異的な抗体を含んでいる。場合によっては、改良によって免疫測定分析、特にELISASを実施するための別の要素を含めてもよい。
【0082】
ELISASを実施するための別の要素は、細胞破壊のための界面活性剤、マイクロタイタプレート、GATA−3及び/又はTbet用のタンパク質量基準、二次抗体、及び検出のために基質を転換するための結合酵素のグループから選択される。好適には、GATA−3及び/又はTbetに対する第1の特異抗原の他に、GATA−3及び/又はTbetに対する別の特異抗原がキットに含まれる。
【0083】
キットは、mRNAを定量的に判定するために、それぞれGATA−3及び/又はTbet遺伝子用の配列特異的なプローブ及び/又はプライマーを含むことができる。
【0084】
本発明のその他の特徴、詳細及び利点は、特許請求の範囲、及び図面を参照した実施例の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1】刺激ジャーカット細胞からのGATA−3の放出に対する様々な界面活性剤の影響を示すグラフである。
図2a】発色サンドイッチELISAによるTbet及びGATA−3の定量化の結果を示すグラフである。
図2b】発色サンドイッチELISAによるTbet及びGATA−3の定量化の結果を示すグラフである。
図3】サンプルを定量化するためのGATA−3 ELISASの標準曲線である。
図4】サンプルを定量化するためのTbet ELISASの標準曲線である。
図5】健康なボランティアとアレルギー患者のヒト末梢血単核細胞(PBMC)溶解物内のTbetの正規化決定値を示すグラフである。
図6】未処置のマウスと比較した、GATA−3特異DNAザイムhgd40(配列番号40)で4日間処置した後のアレルギー性気道炎症の大幅な改善を示すグラフである。
図7】8週間の処置後の慢性炎症で発生する好中球の数、BAL内の好酸球の数、及びIL-5の放出に対するGATA−3特異DNAザイムhgd40(配列番号40)の影響を示すグラフである。
図8】気管支周囲/血管周囲の炎症及び肺組織内の杯細胞過形成に対するGATA−3特異DNAザイムhgd40(配列番号40)の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0086】
材料及び方法:
例えば、特異抗体の結合に基づく技術で細胞を単離することができる。ここでMiltenyi社(Macs−システム)、Dynal社(DynaBeads)又はBD−Bioscience社(iMAG)から市販されている磁気ビーズが使用される。代替としてこれは、例えばCytomation社(MOFLO)、BD-Bioscience社(FACS−バンテージ)の細胞分別装置において蛍光マーカーで標識された抗体を用いた細胞洗浄によって行われる。標的細胞の純度は好適には、少なくとも80%、より好適には少なくとも95%、最も好適には少なくとも99%である。
【0087】
RNAを単離する方法は、例えばSambrook及びRussell共著、「分子クローニング」、ラボラトリマニュアル3版、Cold Spring Harbor Laboratory(2001年刊)、ニューヨーク、及びAusubel他著、「分子生物学における最新プロトコル」、John Wiley & Sons(1998年刊)ニューヨーク、に記載されている。更に、市販のキット(シリカテクノロジー)、例えばQiagen社のRNeasyキットをRNA単離のために使用することも標準的な当業者には可能である。更に、例えば市販のキット、Qiagen社(Oligotex mRNAキット)、Promega社(PolyATract mRNA単離システム)又はMiltenyi社(mRNAdirect)を使用して標的細胞から直接mRNAを洗浄することが好適である。
【実施例】
【0088】
実施例1
GATA−3及びTbetは、いわゆる転写因子として亜型Th1及びTh2のTヘルパー細胞の効果を発揮するタンパク質である。所定量の生物学的単離、特に所定量の全血でのこれらの両方の核タンパク質の濃度を決定するため、GATA−3及びTbetを形成する細胞を先ず単離し、次いで溶解させなけらばならない。このタンパク質をヒト血清又は血漿から直接検出することは、そこには検出可能な濃度で存在しないため不可能である。したがって、サブグループ「Th2 high」の分子表現型GATA−3及びTbetの分析は4段階で行われる。すなわち、
−GATA−3/Tbetを発現する細胞を全血のその他の細胞成分から単離し、
−細胞を破壊し、細胞内タンパク質/核タンパク質を放出し、
−GATA−3及びTbetの濃度を測定し、
−判明したGATA−3及びTbetの濃度を正規化する。
GATA−3/Tbetの発現細胞を全血のその他の細胞成分から分離して単離するステップ。
【0089】
これは、様々な方法により異なる複雑さで実施され、特に本発明による分離及び単離のための下記のステップが実行される。
【0090】
−Ficoll密度勾配遠心法により全血から白血球を単離し、引き続き特異的な表面マーカーに対する抗体によりTh1/Th2の親和性精製を行う。
−場合によっては、表面マーカーに対する抗体によりTh1/Th2の細胞型の親和性精製、及び白血球を事前に濃縮せずに1段階の方法を実行することができる。
−場合によっては、タンパク質GATA−3及びTbetを定量化するために、白血球の単離をFicoll密度勾配遠心法で行うことで十分である。
−場合によっては、Ficoll密度勾配遠心法の代わりに、96ウェルフォーマットのディープウェルプレート内の特異な表面マーカーに対する抗体によるビードベースの親和性精製を用いることができる。
−場合によっては、Ficoll密度勾配遠心法の代わりに、96ウェルフォーマットのディープウェルプレート内の特異的な表面マーカーに対する抗体によるビードベースの親和性精製を用いることができる。
−場合によっては、白血球調合液を得るために赤血球の低浸透圧溶解を行うことができ、又は、
−場合によっては、全血から直接タンパク質分解を行うことができる。
【0091】
細胞破壊及び細胞内タンパク質/核タンパク質の放出
これは、様々な方法及び原理、特に本発明により以下の方法ステップで達成することができる。
−細胞膜を異なる活性成分の溶解緩衝液で破壊する:
a)細胞の破裂を引き起こす低張緩衝液、
b)細胞膜を破壊することにより細胞内タンパク質を放出する界面活性剤含有緩衝液、
c)細胞から水分を引き出すことにより細胞の完全性を破壊する、イオン強度が高く、又は浸透活性の緩衝液、
−加熱、衝撃凍結又は超音波などの物理的方法、
−均質化又は乳鉢粉砕などの機械的方法。
【0092】
界面活性剤含有緩衝液の例として以下が可能である。
−高濃度のイオン性界面活性剤(例えばSDS、又はコール酸塩及びその派生物)、又は非イオン性界面活性剤(例えばトリトン又はTween(登録商標)−20)の緩衝液系、
−イオン性と非イオン性界面活性剤の混合物(例えば50mMトリス塩酸(pH7.5)、150mM塩化ナトリウム、1% NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、及び0.1%SDS)、
−未知組成の市販の溶解緩衝液(例えばM−PER)。
【0093】
刺激ジャーカット細胞からのGATA−3の放出に対する様々な界面活性剤の影響が図1に示されている。その際、RIPA緩衝液(1%のRIPA)を使用すると、様々な溶解緩衝液によるジャーカット細胞(ヒトT細胞株)の溶解、及びELISAによるGATA−3の定量化によってGATA−3タンパク質の特に高度の放出が生じる。約50ng/mlのGATA−3が検出された。
【0094】
GATA−3及びTbetの濃度測定
GATA−3及びTbetの両方の転写因子の濃度は基本的に様々な方法で決定することができる。本発明により、特に、
−ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)
−CLIA(化学発光免疫吸着測定法)
−FLIA(蛍光免疫吸着測定法)
−質量分光分析法
−クロマトグラフィー法(例えばガスクロマトグラフィー)
−固相分離による液状化法(例えばHPLC)
ミクロ液体法及びナノ流体法が使用される。
【0095】
図2a及び2bは、発色サンドイッチELISAを用いたTbet及びGATA−3を定量化した結果を示している。細胞は、Ficoll密度勾配遠心法によって全血から採集された。細胞(刺激ヒト単核細胞)は、Ripa緩衝液で溶解された。GATA−3及びTbetの濃度に関して溶解物が2つのELISAプロトタイプ法で分析された。両方のタンパク質の濃度が、細胞溶解物の全タンパク質濃度に関して示された(タンパク質含有量に正規化)。
【0096】
図2aに記載の結果は、Th1細胞がTh2細胞(約56ng/ml被分析物/mgタンパク質)よりも高いTh1細胞含有量(約160g/ml被分析物/mgタンパク質)を有することを示しており、この状態はELISA試験の結果から明確に読み取ることができる:
【0097】
【表1】
【0098】
したがってこの表では、サブグループ「Th2 high」の分子表現型Th1細胞内のTbet含有量は、Th2細胞内よりも2倍よりも多い、すなわち約3倍である。
【0099】
図2bによれば、Th2細胞内のGATA−3の含有量(約10ng/ml被分析物/mgタンパク質)は、Th1細胞内よりも多い(約6ng/ml被分析物/mgタンパク質)したがってこの表では、Th2細胞内のGATA−3含有量は、Th1細胞内よりも1.5倍よりも多い、すなわち1.7倍多い。
更に、図2a及び図2bから、タンパク質含有量に正規化すると、Th1細胞内のTbetGATA−3との比率はTh2細胞内の対応する比率とは異なっていることが分かる。したがって、Th1細胞内のTbetとGATA−3との比率は約27、すなわち20よりも多いのに対して、Th2細胞内の対応する含有量の比率は約6、すなわち10未満である。
【0100】
GATA−3とTbetの定量的決定は、それぞれサンドイッチELISA(酵素結合免疫吸着測定法により行われる。
【0101】
実施例2−GATA−3 ELISA:
そのため、96ウェルマイクロタイタプレートのウェルはGATA−3に対する特異抗体で被覆される。サンプル又は標準液を追加した後に、GATA−3は96ウェルプレート上の抗体と結合する。非結合物質の洗浄プロセスの後、GATA−3に対する第2の特異ビオチン化特異抗体が追加される。非結合物質を除去するための更なる洗浄プロセスの後、ペルオキシダーゼを標識したストレプトアビジンが追加される。非結合物質を除去するための更なる洗浄プロセスの後、基質が追加される。発色は、所定の時間後に停止液を追加することにより停止する。発色強度はマイクロタイタープレート読み取り装置によって定量化される。サンプルの定量化は、既知のタンパク質濃度の付随標準液との比較によって行われる。図3は、GATA−3 ELISASに対応する標準曲線を示している。
【0102】
GATA−3 ELISAを実行する実施例によれば、ステップは特に下記を含んでいる。
−96ウェルプレートの範囲内で必要なウェルの数を使用する。
−50μl/ウェル分析緩衝液を追加する
−100μl/ウェル標準/コントロール/サンプルを追加する。
−震とう機で60分間培養する。
−それぞれ400μl/ウェル洗浄緩衝液で全てのウェルを4回洗浄する。
−100μl/ウェル ビオチン化抗GATA−3抗体を追加する。
−震とう機で60分間培養する。
−それぞれ400μl/ウェル洗浄緩衝液で全てのウェルを4回洗浄する。
−100μl/ウェル ペルオキシダーゼを標識したストレプトアビジンを追加する。
−震とう機で30分間培養する。
−それぞれ400μl/ウェル洗浄緩衝液で全てのウェルを4回洗浄する。
−100μl/ウェル基質を培養する。
−30分間培養する。
−100μlの停止液を追加して反応を停止する。
−マイクロタイタープレート読み取り装置により450nmでの光学密度を測定する。
【0103】
実施例3−Tbet ELISA:
以下の試験原理に基づいてTbetタンパク質を検出する。サンドイッチELISA(酵素結合免疫吸着測定法)を用いてTbetの定量的決定が行われる。そのために96ウェルマイクロタイタープレートのウェルにTbetに対する特異抗体が被覆される。サンプル又は標準液の追加後にTbetが96ウェルプレート上の抗体に結合される。非結合物質の洗浄プロセスの後に、Tbetに対する第2の特異抗体を追加する。非結合物質の更なる洗浄プロセスの後に、Tbet特異抗体に対するぺルオキシダーゼを標識した抗体が追加される。非結合物質を除去するための更なる洗浄プロセスの後、基質が追加される。発色は、所定の時間後に停止液を追加することにより停止する。発色強度はマイクロタイタープレート読み取り装置によって定量化される。サンプルの定量化は、既知のタンパク質濃度の付随標準液との比較によって行われる。図4はTbet ELISASの対応する標準曲線を示している。
【0104】
Tbet ELISAを実施するための実施例によれば、ステップは特に下記を含んでいる。
−96ウェルプレートの範囲内で必要なウェルの数を使用する。
−50μl/ウェル分析緩衝液を追加する。
−100μl/ウェル標準/コントロール/サンプルを追加する。
−震とう機で60分間培養する。
−400μl/ウェル洗浄緩衝液で全てのウェルを4回洗浄する。
−100μl/ウェル抗Tbet抗体を追加する。
−震とう機で60分間培養する。
−400μl/ウェル洗浄緩衝液で全てのウェルを4回洗浄する。
−100μl/ウェルのぺルオキシダーゼを標識した抗Tbet抗体を追加する。
−震とう機で30分間培養する。
−400μl/ウェル洗浄緩衝液で全てのウェルを4回洗浄する。
−100μl/ウェル基質を追加する。
−30分間培養する。
−100μlの停止液を追加して反応を停止する。
−マイクロタイタープレート読み取り装置により450nmでの光学密度を測定する。
【0105】
GATA−3及びTbetの濃度を正規化する。
サンプル調製時の差異を考慮に入れるため、GATA−3及びTbetの濃度の正規化を行うことができる。サンプル調製時の差異は以下によって生じることがある。
−溶解される細胞数の差
−個々のサンプルの異なる溶解効率
−細胞調製中に様々な細胞型が異なる含有率となる。
【0106】
本発明による正規化の可能性は特に、
−細胞溶解物の全タンパク質含有量への正規化(「GATA−3及びTbetの濃度測定」を参照)
−溶解した細胞数に基づく正規化(図5を参照)、又は
−特定の細胞型内の特異に判明したマーカータンパク質濃度への正規化
【0107】
図5は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)溶解物内のTbetの正規化決定値を示している。その際、溶解は、健康な被験者と、例えばアレルギー性気管支喘息鼻炎結膜炎、アレルギー性副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどを患う患者のPBMCとで行われる。Tbetの濃度は溶解物内の細胞数に基づいて正規化される。疾病はTh2細胞依存性であり、その結果、アレルギー患者では健康な被験者(約27ng/ml/100万の細胞)と比較してTbet濃度が低い(約12ng/ml/100万の細胞)。したがって、Tbet濃度はアレルギー患者の場合は健康な被験者と比較して2倍よりも多かった。したがってこの場合、生物学的単離におけるTbet遺伝子発現は所定の基準値、この場合は健康な被験者よりも低いため、患者を容易に分子表現型「Th1 low」に分類することができる。
【0108】
実施例4
実施例2及び3の変更形態として、実施例4では、サンプル調製のために特異抗体を被覆した磁気ビードを使用してTh1/Th2が濃縮される。次いで、実施例2の条件に基づいてGATA−3の検出がなされる。
【0109】
実施例5
実施例2及び3の変更形態として、実施例4では、サンプル調製のためにサイズ排除濾過を用いて溶解物が濃縮される。次いで、実施例2の条件に基づいてGATA−3の検出がなされる。
【0110】
実施例6
GATA−3特異のDNAザイムは、OVA誘発性の「Th2 high」のアレルギー性気道炎症のマウスモデルで治療効果を示す。
【0111】
臨床的表現型「Th2 high」をマウスモデルで最善にマッピングするため、0日目、14日目及び21日目に、アジュバントAL(OH)の存在下でモデルアレルゲンのオボアルブミン(OVA)を有するBALB/c-マウスが腹腔内注射で感作された。肺内のTh2優位アレルギー性炎症反応を誘発するために、マウスは24〜26日目に1%のOVAエアロゾルを吸入した。23〜26日目に、PBS中に溶解したGATA−3特異のDNAザイムhgd40(配列番号40)が鼻腔内に投与された。
【0112】
その際、Balb/c−マウス株の特徴は、好適には強いTh2反応を生じることである。これは、Th2優位の免疫反応の形成を明確に裏付けるアジュバントとしてAL(OH)を使用することにより強化される。これに対応して、記載のマウスモデルは強化される粘液産生、及び気道過敏性を有する粘液形成杯細胞と共に気道内の好酸球及びTh2の大量浸潤を特徴とする。免疫学的には、典型的なサイトカインであるIL−4、IL−5及びIL−13の産生を特徴とするアレルゲン特異のTh2細胞の他に、IgE及びIgG1型免疫グロブリン(マウスでは両方ともTh2依存性)のOVA特異抗体も確認できる。これらのパラメータは全て「Th2 high」表現型の典型的な臨床的特徴である。(Wenzel他、Am J Respir Crit Care Med.1999年9月;160(3):1001〜8ページ
;Woodruff他、2009年)その際、動物モデルの幾つかのパラメータに関する反応強度は、ヒト患者の臨床状態におけるよりも明確に顕著であるため、例えば好酸性顆粒球はマウスモデルの肺細胞洗浄液(BAL)中の全溶解物の約60〜70%を占め、一方、患者の痰中のこの細胞の3〜5%はTh2優位表現型を示した。
【0113】
図6によれば、GATA−3特異DNAザイムhgd40(配列番号40)で4日間処置した後、未処置のマウスと比較してアレルギー性気道炎症の著しい改善を確認できた。特に、BAL内の好酸球の数が著しく減少した。更に、表現型「Th2 high」に特徴的なサイトカインIL−5及びIL−13のBAL濃度を明確に低減することができた。
【0114】
実施例7
GATA−3特異DNAザイムは、Th2優位の慢性アレルギー性気道炎症のマウスモデルに顕著な治療効果を示している。
【0115】
臨床的表現型「Th2 high」を最大限慢性マウスモデルにマッピングするため、0日目、14日目及び21日目に、アジュバントAl(OH)の存在下でモデルアレルゲンのオボアルブミン(OVA)を有するBALB/c-マウスが腹腔内注射で感作された。14週間の期間で週2回のOVAエアロゾル誘発により、マウスには気道の慢性炎症が誘発された。最後の8週間は、ブデソニド又はGATA−3特異DNAザイムhdg40が週3回鼻腔内に投与された(121日まで)。
【0116】
図7及び図8によれば、GATA−3特異DNAザイムhdg40(配列番号40)で8週間処置した後、BAL内の好酸球の数は顕著に減少し、更に慢性炎症で発生する好中球の数の減少を確認できた。それに伴って、肺組織内では気管支周囲/血管周囲の炎症の軽減及び杯細胞過形成の軽減が確認された。同時に、再刺激されたリンパ球内でhgd40で処置された被験者のIL−5放出の減少が観察された。これに対してブデソニドグループではパラメータの管著な改善は確認できなかった。
【0117】
本発明は上記の実施形態に限定されず、多様に変更可能である。
【0118】
特許請求の範囲、明細書及び図面から生じる特徴及び利点の全ては、構造上の細部、空間配置、及び方法ステップを含め、それ自体でも様々な組み合わせでも発明的である。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
図8