(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6662988
(24)【登録日】2020年2月17日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】金型の表面の処理方法
(51)【国際特許分類】
B23H 9/00 20060101AFI20200227BHJP
B23H 3/04 20060101ALI20200227BHJP
B23H 3/02 20060101ALI20200227BHJP
B23H 3/10 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
B23H9/00 A
B23H3/04 Z
B23H3/02 C
B23H3/10 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-219979(P2018-219979)
(22)【出願日】2018年11月26日
【審査請求日】2018年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】597139170
【氏名又は名称】学校法人静岡理工科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307031253
【氏名又は名称】RTM 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136560
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 衛
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−129296(JP,A)
【文献】
特開2015−137385(JP,A)
【文献】
特公昭36−21147(JP,B1)
【文献】
特開2013−13995(JP,A)
【文献】
特開昭60−108233(JP,A)
【文献】
特開昭60−108235(JP,A)
【文献】
特開2015−30911(JP,A)
【文献】
特開昭57−8039(JP,A)
【文献】
特開昭48−84391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 9/00
B23H 3/00 − 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、
前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて、金属板を変形させて前記電極を作製する電極作製工程と、
前記金属製の金型の加工対象面に、絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、
前記電極と前記金属製の金型の加工対象面とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金属製の金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有し、
前記金属板が、穴を有する板であり、
前記穴の径のサイズがφ1mm〜5mmであり、
前記穴が、電解加工のための電解液の供給、加工屑を含んだ電解液の排出および電解加工で生成したガスの排出が行える穴であることを特徴とする金型の表面の処理方法。
【請求項2】
前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて金属板を変形させる際に、前記加工対象面と前記金属板との間に電極作製用スペーサを挿入して電極を作製する請求項1記載の金型の表面の処理方法。
【請求項3】
前記金属製の金型の加工対象面と前記電極との間に間隙を保持するための間隙保持用スペーサを配置して前記金型と前記電極との相対位置を固定し、前記金属製の金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する請求項1または2に記載の金型の表面の処理方法。
【請求項4】
前記金属板を分割し、複数の電極によって前記金属製の金型の加工対象面の形状の全体に凹凸のパターンを形成する請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の金型の表面の処理方法。
【請求項5】
金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、
金属板の表面に絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、
マスクを付着させた該金属板を、前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて変形させて電極を作製する電極作製工程と、
前記電極と前記金型の加工対象面とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有し、
前記金属板が、穴を有する板であり、
前記穴の径のサイズがφ1mm〜5mmであり、
前記穴が、電解加工のための電解液の供給、加工屑を含んだ電解液の排出および電解加工で生成したガスの排出が行える穴であることを特徴とする金型の表面の処理方法。
【請求項6】
前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて、前記金属板を変形させる際に、前記加工対象面と前記金属板との間に電極作製用スペーサを挿入して電極を作製する請求項5記載の金型の表面の処理方法。
【請求項7】
前記金属製の金型の加工対象面と前記電極との間に間隙を保持するための間隙保持用スペーサを配置して前記金型と前記電極との相対位置を固定し、前記加工対象面に凹凸のパターンを形成する請求項5または6に記載の金型の表面の処理方法。
【請求項8】
前記金属板を分割し、複数の電極によって前記金属製の金型の加工対象面の形状の全体に凹凸のパターンを形成する請求項5〜7のうちいずれか一項に記載の金型の表面の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の表面の処理方法に関し、特に、湯流れを改善し、引けを防止できる金型の表面の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト法は、アルミニウム製品やマグネシウム製品を大量に製造する方法として一般的な方法である。これまで多くのアルミニウム製品、マグネシウム製品がダイカスト法により製造されてきたが、近年、製品の大型化、一体化(以前は個々の部品を製造し、組み立てていたものを一つの部品として製造すること)が進み、不良品率が上がるという問題が顕在化している。これは、製造すべき部品が大型化・複雑形状化することで射出される溶融アルミニウムや溶融マグネシウムが金型全体に流れにくいため、あるいは、冷却が均一でないために製品に欠陥を作ること等が原因である。特に肉厚部を有するダイカスト製品は、冷却時に表面にくぼみができる現象、割れが生じる現象、内部に空間ができる現象等、いわゆる「引け」が発生することがある。
【0003】
このような「引け」を防止する方法として、特許文献1、特許文献2のような方法が開示されている。特許文献1には、ダイカスト金型のキャビティ面・湯道にブラスト加工により、ディンプルを形成し、湯流れ改善・引けの防止を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、機械的な打痕や放電加工等の方法により、ダイカスト金型のキャビティ面にピットを形成し、ダイカスト時の引けを防止する方法が開示されている。一方、特許文献3には、金型等、金属表面に凹凸形状を形成する方法として、電解加工法を用いた方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4775521号公報
【特許文献2】特許第5984126号公報
【特許文献3】特許第5791134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2記載の技術は、ブラスト加工、機械的な打痕、放電加工等の方法により、金型キャビティ面等に凹凸形状を加工するには、凹凸形状の大きさに制限があり、加工時間が長くかかる、等の問題があるものであった。また、特許文献3記載の技術は、金属表面に様々な形状の紋様を加工することができるが、加工対象部分に比べて小さい電極を操作して加工する方法であり、加工の高速化は困難なものであった。
【0006】
また、多くの研究により、ダイカスト金型のキャビティ面、湯道に凹凸形状を形成することで、ダイカスト製品の不良率を低減できることがわかってきている。それらの技術の多くが数10μm程度の凹凸をつける技術である。昨今のダイカスト製品の大型化・複雑化のため、さらに大きな凹凸形状形成の要求が上がってきている。しかし、数100μm程度の凹凸形状を作ることは、機械的な打痕による方法では困難である。さらに、エッチングによる方法では形状形成は可能であるが、長時間の加工が必要である。ブラスト加工でも形状形成自体は可能であるが、通常のマスクの技術では困難であり、マスクの問題が解決できたにせよ加工時間が長く必要であり、現実的な方法ではない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、前記の従来技術の問題点を解決し、湯流れを改善し、引けを防止できる金型の表面の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、金型(特にダイカスト金型)のキャビティ面、湯道に、凹凸形状を高速に形成することによって、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の金型の表面の処理方法は、
金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、
前記金属製の金型の加工対象面あるいは前記電極の表面に、絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、
前記加工対象面の形状に合った形状で導電性の材料を有する電極を作製する電極作製工程と、
前記金型の加工対象面と前記電極とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記電極が、前記金型の加工対象面の形状と比較して、側面方向と底面方向の両方向の寸法を縮小したものであることが、好ましい。
【0011】
さらに、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属製の金型の加工対象面と前記電極との間に、間隙を保持するための間隙保持用スペーサを配置し、前記金属製の金型と前記電極との相対位置を固定して、前記加工対象面に凹凸のパターンを形成することが、好ましい。
【0012】
また、本発明の金型の表面の処理方法は、
金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、
前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて、金属板を変形させて前記電極を作製する電極作製工程と、
前記金属製の金型の加工対象面に、絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、
前記電極と前記金属製の金型の加工対象面とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金属製の金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有することを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて金属板を変形させる際に、前記加工対象面と前記金属板との間に電極作製用スペーサを挿入して電極を作製することが、好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属板が、穴を有する板であり、
前記電極の金属板中の穴を通して前記電解液を、前記電極と前記金属製の金型の加工対象面との間に供給および/または回収することが、好ましい。
【0015】
また、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属製の金型の加工対象面と前記電極との間に間隙を保持するための間隙保持用スペーサを配置して前記金型と前記電極との相対位置を固定し、前記金属製の金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成することが、好ましい。
【0016】
さらに、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属板を分割し、複数の電極によって前記金属製の金型の加工対象面の形状の全体に凹凸のパターンを形成することが、好ましい。
【0017】
また、本発明の金型の表面の処理方法は、
金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、
金属板の表面に絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、
マスクを付着させた該金属板を、前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて変形させて電極を作製する電極作製工程と、
前記電極と前記金型の加工対象面とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有することを特徴とするものである。
【0018】
さらに、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて、前記金属板を変形させる際に、前記加工対象面と前記金属板との間に電極作製用スペーサを挿入して電極を作製することが、好ましい。
【0019】
さらにまた、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属板が、穴を有する板であり、前記電極の穴を通して電解液を極間に供給および/または回収することが、好ましい。
【0020】
また、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属製の金型の加工対象面と前記電極との間に間隙を保持するための間隙保持用スペーサを配置して前記金型と前記電極との相対位置を固定し、前記加工対象面に凹凸のパターンを形成することが、好ましい。
【0021】
さらに、本発明の金型の表面の処理方法は、
前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて、前記金属板 前記金属板を分割し、複数の電極によって前記金属製の金型の加工対象面の形状の全体に凹凸のパターンを形成することが、好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、湯流れを改善し、引けを防止できる金型の表面の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態1の全体の説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態1の電極形状の説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態1の加工方法の説明図である。
【
図4】本発明の実施の形態2の全体の説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態2の電極の製造方法の説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態2の加工方法の説明図である。
【
図7】本発明の実施の形態2の他の全体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の金型の表面の処理方法(テクスチャリング方法)ついて具体的に説明する。なお、本発明の金型の表面の処理方法はダイカスト金型に限らず、重力鋳造法その他の鋳造用金型、あるいは鍛造型、プレス型においても適用することができ、ダイカスト金型に限るものではない。なお、以下では、例としてダイカスト金型の場合で説明し、「金型の表面の処理方法」を「ダイカスト金型の表面の処理方法」と称すこともある。
本発明の金型の表面の処理方法(ダイカスト金型の表面の処理方法)は、金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、前記金属製の金型の加工対象面あるいは前記電極の表面に、絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、前記加工対象面の形状に合った形状で導電性の材料を有する電極を作製する電極作製工程と、前記金型の加工対象面と前記電極とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有することを特徴とするものである。また、本発明の金型の表面の処理方法(ダイカスト金型の表面の処理方法)は、金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて、金属板を変形させて前記電極を作製する電極作製工程と、前記金属製の金型の加工対象面に、絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、前記電極と前記金属製の金型の加工対象面とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金属製の金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有することを特徴とするものである。さらに、金型の表面の処理方法(ダイカスト金型の表面の処理方法)は、金属製の金型と、電極とを用いる金型の表面の処理方法であって、金属板の表面に絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、マスクを付着させた該金属板を、前記金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて変形させて電極を作製する電極作製工程と、前記電極と前記金型の加工対象面とを対向させ、前記電極をマイナス、前記金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、前記金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有することを特徴とするものである。主にダイカスト金型のキャビティ面、湯道に、凹凸形状を高速に形成する方法を提供するものであり、特に、これまで形成が困難であった数100μm程度以上の凹凸形状の高速形成が可能である。これにより、大型化・複雑化が進むダイカスト製品の製造において、湯流れを改善し、引けを防止できる金型を提供することができる。なお、金型の金属としては、本発明の効果が得られれば特に限定されないが、例えば、JIS G 4404 SKD61等を挙げることができる。また、絶縁性のマスクの材質としては、本発明の効果が得られれば特に限定されないが、例えば、ゴム、プラスチック等を挙げることができる。
【0025】
(実施の形態1)
第1の実施形態に係るダイカスト金型の表面の処理方法(テクスチャリング方法)は、金型の加工対象面に絶縁性のマスクを付着させ、加工対象物の形状に合った電極を対向させて電解作用により金型表面に凹凸形状を形成する方法である。
図1は、本発明の実施の形態1の全体の説明図(概念図)である。
図1中、101は電極、102は金型、103は金型に付着させた絶縁性のマスクである。金型102の上面(図の直線部分)は加工したくない場所であり、この部分には全面マスクをしていることを示している。金型102のくぼみの部分が金型のキャビティ部分を想定した図であり、この部分に加工したいパターンのマスクを施している図である。この図では、加工したくない部分には全面マスクを施していることになっているが、電極から距離が離れれば、電解作用は弱くなるので、必ずしも加工しない部分全面をマスクで覆う必要はない。104は電解加工を行うときに極間に介在させる電解液であり、通常、塩化ナトリウム水溶液、硝酸ナトリウム水溶液等の電解質の水溶液を用いる。105は電解加工を行うための電源装置であり、工作物すなわち金型側がプラス、電極側がマイナスの電圧を印加する。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態1の電極形状の説明図である。まず、電極の形状を金型の凹凸をつけたい加工対象部分の形状に合わせて作製する。金型を製造するために、形彫放電加工を使用する場合であれば、形彫放電加工に使用した電極を使用するのが都合がよい。形彫放電加工の電極は、加工したキャビティの形状と比較して、全体的に(下方向、側面方向等)縮小した形状で、相似形状になっている。キャビティの表面を電解加工で加工するためには、この状態が望ましい。この様子を
図2(a)に示す。電解加工を行う場合に、キャビティの面と電極の距離がどこでもほぼ同じ距離になっている。この状態で電解加工を行うと、キャビティの加工対象部分全体がほぼ同じ速度で加工され、均一なテクスチャリングができる。それに対して、キャビティと同じ形状の電極を使用した場合(
図2(b))には、電解加工のための極間の距離を確保するために、電極を引き上げた状態で位置決めしても、壁が立った側面部分では、極間距離が確保できず、距離の近い部分が優先的に加工されてしまう場合がある。すなわち、電極形状は、加工対象部分であるキャビティの形状を反転させた形状から全体的に、すなわち、全方向に対して縮小した形状とすることが望ましい。電極作製上は、電極の下方向については、電極の位置、すなわち、金型からの距離で調整できるため、側面方向に収縮した形状にすればよいことになる。
【0027】
次に、金型102の加工対象部分に、加工するパターンに応じた絶縁性のマスク103を形成させる。電解加工の影響がおよぶ可能性があり、かつ、加工を行いたくない部分には、全面金型表面を覆うマスクを施しておくのが望ましい。
【0028】
次に、工作物である金型102と電極101の位置決めを行う。
図2は、本発明の実施の形態1の加工方法の説明図であり、
図3は、本発明の実施の形態1の加工方法の説明図である。工作物である金型102と電極101との間の位置決めに関しては、電極を工作機械のようなX軸、Y軸、Z軸の移動軸を有する機械、あるいは、多関節ロボットなどで移動できる場合には、極間距離を数100μm乃至数mmの範囲、より望ましくは、500μm程度から1mm程度の距離に位置決めすればよい。このような大掛かりな装置を使用せずとも、
図3のように、工作物である金型と電極との間に絶縁材料からなる間隙保持用スペーサ301を用いて位置決めすることもできる。この場合、スペーサの厚みは、前述の距離である数100μm乃至数mmの範囲、より望ましくは、500μm程度から1mm程度の厚みとすればよい。スペーサの部分は電解加工が進まなくなるが、必ずしも金型全面に均一な凹凸形状が必要なわけではないので特段問題にはならない。テクスチャリング加工をするためのマスクをこの範囲の厚みとすれば、スペーサの役割も持たせることができるが、後述する電解液の流れを阻害しないようなマスクのパターンとするか、あるいは、加工中に定期的に電解液を入れ替える作業を行う必要がある。
【0029】
次に、工作物である金型102の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型加工工程の説明を行う。工作物である金型102と電極101との間の極間に、電解液104を導き、電源装置105により、金型102にプラス、電極101にマイナスの電圧を印加する。電源105により印加する電圧は、通常、数V〜数10V程度とするが、5V程度〜20V程度を使用することが多い。また、印加する電圧は連続した直流の電圧でよいが、パルス状の電圧を印加してもよい。パルス幅の短いパルス電流を流す場合には、加工速度は遅くなるが、凹凸のパターンははっきりした形状になる傾向がある。テクスチャリングのための金型表面の電解加工の際の加工電流は、電源の電圧、極間距離、電解液の電導度、加工面積により決まる。(加工電流を一定に制御する方式の電源装置を使用した場合には、電流値は設定した値になるが、電源の電圧が変化する。ここでの説明は、電流一定方式の電源ではなく、電圧を設定する電源装置を使用した場合の説明をする。)電解加工では、電源の電圧が同じで、極間距離が同じであれば、面積に比例して電流が増加し、加工速度は面積によらず同じになる。すなわち、高速加工が容易にできる方法である(ただし、厳密には、加工が進むに従い、気泡や加工屑が生成するため、それらを除去できなければ加工速度は遅くなっていく)。テクスチャリング加工の場合にも、加工面積が増加するに従い、電流値が増加する傾向がみられたが、単位面積当たりの加工電流を5A/cm
2以上、より好ましくは、10A/cm
2以上とすると加工を良好に進めることができた。これよりも電流密度が低い場合には、加工面表面に絶縁性の酸化膜が形成される場合があり、酸化膜が形成された部分は除去加工ができなくなった。この傾向は、電解液が塩化ナトリウム(NaCl)水溶液の場合よりも、硝酸ナトリウム(NaNO
3)水溶液の場合の方が顕著であった。
【0030】
ここまで、金型側にマスクを形成する方法について説明したが、マスクは電極側に形成してもよい。加工の方法、電極と工作物である金型との位置決めの方法等は、金型にマスクをつけた場合と何ら変わるところはない。しかし、電極側のマスクをつけた部分にも、マスクのついていない部分から加工電流が回り込むので、金型に形成される凹凸形状は金型にマスクをつけた場合よりも、ぼけた形状になる。特に、加工する凹凸形状が数10μm程度以下の細かいパターンの場合には、工作物側にマスクを形成する方が望ましい。加工する凹凸形状が数100μm程度以上の比較的大きなパターンの場合には、逆に電極側にマスクをつけた方が、滑らかなパターンとなるので、望ましい場合もある。電極側にマスクを形成する場合、放電加工に使用した電極を使用する場合には、放電加工により荒れた表面を取り除き滑らかな金属面を出してからマスクを形成しないと、加工中にマスクが剥がれることがあるので、注意を要する。
【0031】
なお、説明では、電解液の処理については言及しなかったが、実際には、加工中に極間に電解液を供給しつつ、加工により加工屑等を含んだ電解液を回収する仕組みが必要である。
【0032】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2の全体の説明図(概念図)である。
図4において、401は電極、402は金型、403は金型に付着させた絶縁性のマスクである。金型402の上面(図の直線部分)は加工したくない場所であり、この部分には全面マスクをしていることを示している。金型402のくぼみの部分が金型のキャビティ部分を想定した図であり、この部分に加工したいパターンのマスクを施している図である。この図では、加工したくない部分には全面マスクを施していることになっているが、電極から距離が離れれば、電解作用は弱くなるので、必ずしも加工しない部分全面をマスクで覆う必要はない。404は電解加工を行うときに極間に介在させる電解液であり、通常、塩化ナトリウム水溶液、硝酸ナトリウム水溶液等の電解質の水溶液を用いる。405は電解加工を行うための電源装置であり、工作物すなわち金型側がプラス、電極側がマイナスの電圧を印加する。実際には電極401を保持する仕組みが必要であるが、
図4には図示していない。電極401を冶具で固定して移動軸に固定する方法、後述するように電極401と金型402の間にスペーサを置いて保持する方法等がある。
【0033】
まず、本発明の実施例2の電極作製工程について説明する。発明の実施の形態1では、金型402の加工対象部分、すなわち、キャビティ部分の形状に合わせた電極を準備したが、金型が大型化する場合には、その都度電極を準備するのは、効率がよくない。そこで、本実施の形態2では、より汎用性のある方法について説明する。電極401は、元は銅、ステンレス等の材質の金属の平板である。電解加工では、マイナス側の極は加工されないので、電極の材質は、特に、銅、ステンレスに限らず、他の鋼材等でもよい。ただし、後の工程で変形する必要があるので、軟らかく、変形しやすい材料が望ましい。この金属平板を金型402の加工対象部分の形状に合わせて、変形させ、電極401とする。変形の方法は、例えば、金属板を金型402の上に置き、上から押し付ける方法、プラハンマ等でたたき出し少しずつ変形させる方法等がある。金属板を火であぶるなど温度を上げることで変形は容易になるが、金属板表面、特に、金型側の面が酸化した場合には酸化膜を除去する必要がある。いくつかの変形の方法について記載したが、本実施の形態では、金属板の変形の方法を何ら限定するものではない。
【0034】
図5は、本発明の実施の形態2の電極の製造方法の説明図である。金属板を変形させて、電極401を作る際には、
図5に示すように、金属板と金型との間に電極作製用スペーサ501を挟んでおくことが望ましい。電極作製用スペーサ501は連続したシートのようなものでも、断続的な物体を配置してもよい。電極作製用スペーサは501の厚みは、後の電解加工による金型表面加工工程の際の電極401と金型402との極間距離に近い値にしておくことが望ましい。
図5に示すように、電極作製用スペーサ501を介して電極401を作製することで、金型402のキャビティ形状から全体的に形状を収縮した形状の電極を作製することができる。電解加工による金型表面加工工程の際の電極401と金型402との極間距離がどの場所においてもほぼ均一な値とすることができ、後の電解加工による金型表面加工工程において、均等に表面の加工を進めることができる。金型のキャビティの形状が深さの浅い緩やかな形状であれば、電極作製用スペーサが必ずしも必要でないことはいうまでない。
【0035】
次に、金型402の加工対象部分に、加工するパターンに応じた絶縁性のマスク403を形成させる。電解加工の影響がおよぶ可能性があり、かつ、加工を行いたくない部分には、全面金型表面を覆うマスクを施しておくのが望ましい。この図では、加工したくない部分には全面マスクを施していることになっているが、電極から距離が離れれば、電解作用は弱くなるので、必ずしも加工しない部分全面をマスクで覆う必要はない。
【0036】
次に、工作物である金型402と電極401の位置決めを行う。前述のように、
図4には、電極401を保持する仕組みについては図示していない。工作物である金型402と電極401との間の位置決めに関しては、電極を工作機械のようなX軸、Y軸、Z軸の移動軸を有する機械、あるいは、多関節ロボット等で移動できる場合には、電極401を、冶具を介して機械の移動軸に固定して位置決めを行うことになる。極間距離を数100μm乃至数mmの範囲、より望ましくは、500μm程度から1mm程度の距離に位置決めすればよい。このような大掛かりな装置を使用せずとも、
図6のように、工作物である金型と電極との間に絶縁材料からなる間隙保持用スペーサ601を用いて位置決めすることもできる。この場合、スペーサの厚みは、前述の距離である数100μm乃至数mmの範囲、より望ましくは、500μm程度から1mm程度の厚みとすればよい。スペーサの部分は電解加工が進まなくなるが、必ずしも金型全面に均一な凹凸形状が必要なわけではないので特段問題にはならない。テクスチャリング加工をするためのマスクをこの範囲の厚みとすれば、スペーサの役割も持たせることができるが、後述する電解液の流れを阻害しないようなマスクのパターンとするか、あるいは、加工中に定期的に電解液を入れ替える作業を行う必要がある。
【0037】
次に、工作物である金型402の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型加工工程の説明を行う。工作物である金型402と電極401との間の極間に、電解液404を導き、電源装置405により、金型402にプラス、電極401にマイナスの電圧を印加する。電源405により印加する電圧は、通常、数V〜数10V程度とするが、5V程度〜20V程度を使用することが多い。また、印加する電圧は連続した直流の電圧でよいが、パルス状の電圧を印加してもよい。パルス幅の短いパルス電流を流す場合には、加工速度は遅くなるが、凹凸のパターンははっきりした形状になる傾向がある。テクスチャリングのための金型表面の電解加工の際の加工電流は、電源の電圧、極間距離、電解液の電導度、加工面積により決まる。(加工電流を一定に制御する方式の電源装置を使用した場合には、電流値は設定した値になるが、電源の電圧が変化する。ここでの説明は、電流一定方式の電源ではなく、電圧を設定する電源装置を使用した場合の説明をする。)電解加工では、電源の電圧が同じで、極間距離が同じであれば、面積に比例して電流が増加し、加工速度は面積によらず同じになる。すなわち、高速加工が容易にできる方法である。(ただし、厳密には、加工が進むに従い、気泡や加工屑が生成するため、それらを除去できなければ加工速度は遅くなっていく。)テクスチャリング加工の場合にも、加工面積が増加するに従い、電流値が増加する傾向がみられたが、単位面積当たりの加工電流を5A/cm
2以上、より好ましくは、10A/cm
2以上とすると加工を良好に進めることができた。これよりも電流密度が低い場合には、加工面表面に絶縁性の酸化膜が形成される場合があり、酸化膜が形成された部分は除去加工ができなくなった。この傾向は、電解液が塩化ナトリウム(NaCl)水溶液の場合よりも、硝酸ナトリウム(NaNO
3)水溶液の場合の方が顕著であった。
【0038】
なお、説明では、電極作製工程において、金属板を金型形状に合わせて変形させる旨記載したが、金型の形状が平面形状であれば、金属板を変形させる必要がないことは言うまでない。
【0039】
また、説明では、電解液の処理については言及しなかったが、実際には、加工中に極間に電解液を供給しつつ、加工により加工屑等を含んだ電解液を回収する仕組みが必要である。実際には、電極401と金型402との間隙に電解液を強く噴射するのは困難であり、加工中、定期的に電極401を金型402から離し、極間の電解液を入れ替える必要があり、加工時間の多くをその作業に費やした。
【0040】
そこで、
図7は、本発明の実施の形態2の他の全体の説明図であり、電解液の循環についての発明を示す図である。
図7において、701は電極、702は電解液を蓄える電解液タンク、703は電解液タンク中の電解液を電解加工中の極間に供給する供給ポンプ、704は電解加工に使用されて加工屑等を含んだ電解液を電解液タンク702に回収する回収ポンプである。図中の他の項目については、
図4と同じであるので、説明を省略する。
【0041】
図7では、電極701に使用する金属板に穴が開いている。穴の形態に特に限定はなくどのような形状の穴でもよい。また、金属の網のような材料を金属板の代わりに使用してもよい。必要なことは、金属板、すなわち、それが変形されてできた電極701が、電解液、気体を通過させられる構造にすることである。電極の作製方法等他の内容は、
図4乃至
図6を用いて説明した内容と同じである。穴の径のサイズは、丸形状の場合にはφ1mm乃至φ3mm程度であれば穴の下の部分が加工されなくなる現象がほぼ見られず、均一に加工を行うことができ好ましい。また、φ5mm程度までであれば、若干の加工深さの違いが生じたが、許容範囲である。さらに、極間距離を広げれば、穴のサイズがこれよりも大きくなっても、加工深さの差は目立たなくなる。特に、電解液として塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を使用した場合には電極から離れた部分も加工が進みやすいため、φ5mm程度までは問題はない。しかしながら、形成しようとしている凹凸形状は、必ずしも金型面に均一にある必要はないので、穴のサイズはこの範囲に限らないことは言うまでもない。
【0042】
電極面を電解液、および、気体が通過できるので、電解液は電解液タンク702から供給ポンプ703により加工部分周辺に供給されると、そのまま、加工間隙に導かれる。電解加工により、生成するガス、および、加工屑は逆に電極を通過して、極間外へ排出される。極間外へ排出された電解液は回収ポンプ704により電解液タンク702へ戻される。電解液タンクでは、図示しないフィルタシステムが搭載されており、電解液中の加工屑が除去される。電解液の浄化のためのフィルタは、電解液タンクではなく、回収の経路中にあってもよい。
【0043】
なお、本実施の形態2で述べた加工現象については、実施の形態1で述べた内容と同一であり、実施の形態1で述べた説明は、そのまま本実施の形態2でも当てはまるので、記載を省略する。
【0044】
また、本実施の形態2では、金型側にマスクを形成する方法について述べたが、
図4の場合、
図7の場合とも、電極側にマスクがあってもよい。電極側にマスクを形成する場合には、金属平板の状態でマスクを付着させておき、マスクがついた金属板を変形させて電極とするとマスクの形成が容易であった。ただし、金属板の大きな変形が必要な電極形状の場合には、電極作製過程でマスクが剥離する現象が起きるため、そのような場合には、電極作製後にマスクをつける方法をとらねばならない。
【0045】
なお、これまでの説明では、金型のテクスチャリング加工を施す部分の形状に合わせて電極を一体で作製する内容になっていたが、実際の金型へのテクスチャリング加工においては、電極を金型形状に合わせて一体で作製する必要は全くない。むしろ、適切に分割し、部分毎に処理を行うのが、処理の状況を確認しつつ作業を進めることができ、現実的である。さらに、電極を分割することで、電解液の極間への供給、加工後の電解液の回収は容易になる。また、電解加工の際に加工の電流密度の低い部分ができ、金型表面の酸化により加工ができなくなる部分ができる問題も、電極を分割することで避けることが容易になる。さらには、電極を分割することで、それぞれの電極の形状を単純化することができる。金属板を大きく変形することなく、電極を作製できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、主にダイカスト金型のキャビティ面、湯道に、凹凸形状を高速に形成することができ、特に、これまで形成が困難であった数100μm程度以上の凹凸形状の高速形成が容易にできる。これにより、大型化・複雑化が進むダイカスト製品の製造において、湯流れを改善し、引けを防止できる金型を提供することができる。
【符号の説明】
【0047】
101 電極
102 金型
103 マスク
104 電解液
105 電源装置
301 スペーサ
401 電極
402 金型
403 マスク
404 電解液
405 電源装置
501 電極作製用スペーサ
601 スペーサ
701 電極
702 電解液タンク
703 供給ポンプ
704 回収ポンプ
【要約】 (修正有)
【課題】湯流れを改善し、引けを防止できる金型の表面の処理方法を提供する。
【解決手段】金属製の金型の加工対象面の形状に合わせて金属板を変形させて電極を作製する電極作製工程と、該金型の加工対象面に、絶縁性のマスクを付着させるマスク形成工程と、該電極と該金型の加工対象面とを対向させ、電極をマイナス、金型をプラスとした電圧を、電解液を介して印加し、該金型の加工対象面に凹凸のパターンを形成する金型表面加工工程と、を有する金型の表面の処理方法である。
【選択図】
図7