(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブラシと前記内側弾性体とが接触し、前記内側弾性体が前記ブラシを直接的に径方向外方に向かって押圧することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属パイプの内面研磨装置。
前記駆動手段は、前記軸回りに前記回転体を回転させつつ、前記軸に沿って前記回転体を移動させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の金属パイプの内面研磨装置。
複数の前記回転体が、その軸方向にシャフトを介して連結され、隣り合う前記回転体の間隔が前記回転体の長さより短いことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の金属パイプの内面研磨装置。
前記回転体が前記金属パイプの内部に設置された状態で、前記内側弾性体が圧縮され、前記ブラシを径方向外方に弾性的に押圧することを特徴とする請求項1に記載の金属パイプの内面研磨装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1に記載の縦研磨では、研磨後の金属パイプ内面の表面が粗いという問題がある。したがって、例えば薬品や食品の製造設備で使用されるパイプには好ましくなく、より一層、表面粗さが小さい内面の金属パイプが望まれる。
【0005】
また特許文献1に記載の縦研磨では、金属パイプ内面を研磨するときに生じる粉塵が大気中に飛散したり、摩耗した研磨ベルトを新たな研磨ベルトに交換するために研磨時間が長くなる問題がある。
【0006】
そこで、この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、内面が鏡面仕上げされた金属パイプを形成することができる金属パイプの内面研磨装
置を提供することを目的とする。
【0007】
この発明は更に、研磨するときに生じる粉塵が大気中に飛散するのを防止し、従来の縦研磨と比べて研磨時間を短縮できる金属パイプの内面研磨装
置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置は、被研磨材である金属パイプの内面を研磨する金属パイプの内面研磨装置であって、軸方向に延びる回転体と、前記回転体を前記軸回りに回転させる駆動手段と、粒状の研磨剤と液体とが混合された研磨液を前記金属パイプの内部に供給する供給手段と、を備え、前記回転体が、前記軸と直交する径方向に突出し且つ径方向外側に設けられた弾性を有するブラシと、前記ブラシより径方向内側に設けられた内側弾性体とを有し、前記軸と前記ブラシの先端との間の寸法が、前記金属パイプの内径の半分以上であり、前記回転体が前記金属パイプの内部に設置された状態で、前記内側弾性体が前記ブラシを径方向外方に押圧し、前記ブラシの先端部が起立したまま前記金属パイプ内面に当接して内圧を負荷することで、前記供給手段から供給されて前記金属パイプの内面に付着した研磨剤が前記金属パイプの内面に押し当てられ、前記内面を研磨する。
【0009】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置では、前記回転体が、前記軸方向に延びる本体と、前記軸と直交する径方向の外方に前記本体から突出し、且つ径方向に移動可能に設けられた前記ブラシと、前記軸と前記ブラシとの間に設けられ、前記ブラシを径方向外方に向かって弾性的に押圧する前記内側弾性体と、を有することが好ましい。
【0010】
上記構成により、内側弾性体がブラシを径方向外方に向かって弾性的に押圧する。これにより、回転体を金属パイプ内に挿入すると、径方向内方に弾性変位した内側弾性体がブラシを径方向外方に押圧し、ブラシの先端部が起立したまま金属パイプ内面に当接して内圧を負荷することができる。また、内側弾性体がブラシを径方向外方に向かって弾性的に押圧することで、金属パイプ内で回転体を回転させたときにブラシが撓むのを防止し、ブラシ先端部の起立状態を維持したまま金属パイプの内面を研磨できる。
【0011】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置は、前記ブラシと前記内側弾性体とが接触し、前記内側弾性体が前記ブラシを直接的に径方向外方に向かって押圧してもよい。
【0012】
上記構成では、ブラシと内側弾性体とが接触し、内側弾性体がブラシを直接的に径方向外方に向かって押圧するので、内側弾性体がブラシを確実に押圧することができる。
【0013】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置では、複数の前記ブラシが、前記本体の周方向に等間隔に設けられることが好ましい。
【0014】
複数のブラシが本体の周方向に等間隔に設けられたので、複数のブラシの先端部が金属パイプ内面に当接して負荷する内圧を均一にすることができる。
【0015】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置は、前記回転体が前記金属パイプの内部に設置された状態で、前記ブラシの先端部が前記金属パイプの内面と垂直に当接することが好ましい。
【0016】
回転体が金属パイプの内部に設置された状態で、ブラシの先端部が金属パイプの内面と垂直に当接することは、ブラシの先端部が起立したまま、金属パイプ内面に当接して内圧を負荷することを意味する。この状態で、ブラシが研磨剤を介して金属パイプに内圧を負荷しつつ、回転体が軸回りに回転することで、金属パイプの内面に付着した研磨剤が金属パイプの内面を周方向に研磨する。したがって、内面が鏡面仕上げされた金属パイプを形成することができる。
【0017】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置では、前記回転体が前記金属パイプの内部に設置された状態で、前記金属パイプの内面と前記回転体の表面との間に空間が形成されることが好ましい。
【0018】
金属パイプの内部に回転体が設置された状態で、金属パイプの一端から他端に向かって研磨液を注入する。金属パイプの内面と回転体の表面との間に空間が形成されたので、金属パイプ内に注入された研磨液が空間を通って金属パイプの一端から他端まで行き渡ることができる。
【0019】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置では、前記駆動手段は、前記軸回りに前記回転体を回転させつつ、前記軸に沿って前記回転体を移動させることが好ましい。
【0020】
駆動手段が、軸回りに回転体を回転させつつ、軸に沿って回転体を移動させることで、回転体より長い金属パイプであっても、その内面を研磨することができる。
【0021】
本発明に係る金属パイプの内面研磨装置では、複数の前記回転体が、その軸方向にシャフトを介して連結されることが好ましい。
【0022】
上記構成により、金属パイプの長さに応じて複数の回転体を連結することで、長さが例えば4m以上の長尺状金属パイプであったとしても、複数の回転体が研磨剤を金属パイプの内面に押し当てて研磨することができる。
【0023】
本発明に係る金属パイプは、上記の内面研磨装置によって研磨された内面の算術平均粗さ(Ra)が0.1μm未満である。これにより、内面が鏡面仕上げされた金属パイプを得ることができる。
【0024】
本発明に係る金属パイプは、上記の内面研磨装置によって内面が研磨され、長さが4m以上である。これにより、内面が鏡面仕上げされた長尺状の金属パイプを得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、回転体の軸とブラシの先端との間の寸法が、金属パイプの内径の半分以上であり、内側弾性体が弾性変位する。これにより、金属パイプの内部に回転体を挿入すると、ブラシが内方に移動することによって弾性変位した内側弾性体が、ブラシを径方向外方に向かって弾性的に押圧する。これにより、径方向外方に押圧されたブラシの先端部が起立したまま、金属パイプ内面に当接して内圧を負荷する。そして、研磨液が供給された状態で金属パイプの内部に設置された回転体を回転させると、ブラシの先端部が起立状態を維持しつつ研磨液を金属パイプの内面に押し当て、金属パイプの内面に研磨剤を付着する。ブラシが研磨剤を介して金属パイプに内圧を負荷しつつ、回転体が軸回りに回転することで、金属パイプの内面に付着した研磨剤が金属パイプの内面を周方向に研磨する。これにより、内面が鏡面仕上げされた金属パイプを形成することができる。また、金属パイプ内面を研磨するときに生じる粉塵が研磨液に混入するので、粉塵が大気中に飛散するのを防止できる。更に、研磨剤が金属パイプ内面を研磨することにより生じる摩擦熱を液体が吸収し、冷却できる。一方、仮にやすりを用いて金属パイプの内面を研磨すると、摩耗したやすりを新たなやすりに交換する手間が生じる。しかし研磨剤が金属パイプ内面を研磨するので、回転体自体が摩耗することはない。したがって、新たな回転体に交換する手間が省けるので、やすりを用いる場合と比べて研磨時間を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0028】
図1に示す本実施形態の内面研磨装置10は、4mの長さの長尺状ステンレスパイプ(被研磨材である金属パイプ)の内面を研磨する。内面研磨装置10によって内面を研磨されたステンレスパイプは、食品や薬品の製造装置に使用されるが、用途は特に限定されない。内面研磨装置10によって研磨されたステンレスパイプの内面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1μm未満となる。
【0029】
なお、この内面研磨装置10はステンレスパイプに限定されず、チタン、真鍮などステンレス以外の金属製パイプの内面を研磨できる。また本実施形態では4mの長さの長尺状ステンレスパイプを研磨するが、研磨する金属パイプの長さは特に限定されない。4mより短い金属パイプの内面を研磨しても良く、他方、例えば6mなど4mより長い金属パイプの内面を研磨しても良い。
【0030】
内面研磨装置10は後述する通り、液体に混入される湿式の研磨剤を用いてステンレスパイプの内面を研磨する。したがって、外部に液体が漏出するのを防止するため、内面研磨装置10は箱型のカバー(不図示)で覆われているが、説明の便宜上、ここではカバーを省略する。
【0031】
図6を併せて参照すると、内面研磨装置10は、ステンレスパイプ1が設置して固定された状態で、ステンレスパイプ1の内部に研磨液を供給する供給手段であるポンプ12と、ステンレスパイプ1の内部で回転する回転体である治具21と、治具21を軸23回りに回転駆動する駆動手段であるモータ30とを備えている。
【0032】
ポンプ12は、研磨液を貯留するタンク13に連通し、先端14からタンク13内の研磨液を吐出する。内面研磨装置10にステンレスパイプ1が設置された状態で、ポンプ12の先端14は、パイプ(不図示)を介してステンレスパイプ1のモータ30と反対側の端部開口に接続する。内面研磨装置10にステンレスパイプ1を設置し運転している間、ポンプ12はステンレスパイプ1の内部に研磨液を吐出して供給する。ステンレスパイプ1に供給された研磨液は、ステンレスパイプ1のモータ30側端部開口から排出される。排出された研磨液は、ステンレスパイプ1(治具21)の下方に設置された回収器16に案内され、ドレンバン17に貯められる。なお、この回収器16は、図示しないカバーと一体に形成されている。
【0033】
研磨液は、液体と粒状研磨剤との混合液である。液体は本実施形態では水を採用するが、これに限定されない。液体は酸性水または有機溶剤であっても良く、具体的にはアルコール、オイル、エタノールまたは硝酸が考えられる。ただし液体は、研磨剤を混合して金属の研磨に用いられるものであれば、その素材は特に限定されない。
【0034】
研磨剤は本実施形態では酸化アルミニウムを採用するが、これに限定されない。研磨剤として湿式研磨剤が用いられ、水より比重が大きく、研磨対象となる金属より硬度が高いものであれば良い。このような研磨剤として例えば、炭化物または酸化物が採用され、具体的にはカーボンやダイヤモンドが考えられる。ただし研磨剤は、液体に混合して金属の研磨に用いられるものであれば、その素材は特に限定されない。
【0035】
研磨剤は治具21によってステンレスパイプ1の内面に押し当てられ、ステンレスパイプ1の内面を研磨する。本実施形態の内面研磨装置10は8本の治具21を有し、これらの治具21が軸23方向にシャフト22を介して連結されている。すなわち、4mのステンレスパイプ1の内面を8本の治具21を用いて研磨する。なお説明の便宜上、以下の説明では8本の治具21とシャフト22を総称して治具ユニット20と呼ぶ。
【0036】
図1に示すように、治具ユニット20のモータ30側の一端部(シャフト22の一端部)はモータ30に回転可能に支持されている。治具ユニット20のモータ30と反対側の他端部(シャフト22の他端部)は、地面に立設する支持脚33cに支持されている。治具ユニット20は、モータ30と支持脚33cの間に所定の間隔で配置された図示しない複数の支持脚によってシャフト22の部分が支持されている。支持脚33cの先端部はシャフト22を挟持することで支持しており、この先端部を開閉することで、治具ユニット20の支持および支持の解除をできる。治具ユニット20を覆いつつ、治具ユニット20の他端部から一端部に向かってステンレスパイプ1を移動させる際には、支持脚33cは治具ユニット20の支持を解除する。
【0037】
図2は治具ユニット20の中で、モータ30から離れて配置された他端部側の3本の治具21を示す部分拡大上面図である。治具ユニット20は8本の治具21を有するが、ここでは代表して3本の治具21のみを示している。8本の治具21はそれぞれ、全て同一形状であり、治具21の長さ寸法はL1である。隣り合う治具21は、L2の間隔で等間隔に配置されている。治具21と治具21との間隔L2は、治具21の長さL1より短い。
【0038】
図3は
図2のA−A線に沿った断面図であり、軸23に直交する方向の治具21の拡大断面図である。治具21はシャフト22に固定されており、シャフト22と共に回転する。治具21は、軸23方向に延びる本体41と、軸23と直交する径方向の外方に本体41から突出し、且つ径方向に移動可能に設けられたブラシ44と、軸23とブラシ44との間に設けられ、ブラシ44を径方向外方に向かって弾性的に押圧する内側弾性体であるチューブ45とを有する。
【0039】
本体41は、軸23と直交する断面が円筒形状であり、本体41の周方向に等間隔に3つの断面凹状のブラシ受け48が本体41と一体に形成されている。このブラシ受け48にブラシ44とチューブ45とが設けられている。
【0040】
ブラシ44は、線状に伸びる無数の樹脂からなり、弾性を有する。ここでブラシ44とは、無数の樹脂が植え込まれた基部44aを含む概念である。本実施形態のブラシ44を構成する個々の樹脂は、伸びる方向と直交する方向の断面が円形であり、その直径(以下、線径と称する)は0.2mmから0.6mmである。なおステンレスパイプ1の内部に挿入された治具21が回転したときに、ブラシ44が起立状態を維持できる限り、ブラシ44の線径は特に限定されない。
【0041】
ブラシ44は、ブラシ受け48の側壁48aに径方向に移動可能に支持されている。ブラシ44はチューブ45よりも径方向外側に配置され、軸23に平行に真っ直ぐに延びている。本実施形態では、3本のブラシ44が、本体41の周方向に等間隔に設けられている。なお、ブラシ44の本数は3本に限定されない。ブラシ受け48に支持されたブラシ44は軸23と直交する方向(径方向)に本体41から突出し、径方向に沿って起立している。ブラシ44は、チューブ45によって径方向外方に向かって弾性的に押圧されつつ、ブラシ受け48に設けられたストッパ(図示せず)に係止することで、ブラシ受け48による支持状態が維持される。ブラシ44の先端と軸23との間の寸法L3は、ステンレスパイプ1内径の半分の寸法L4(
図4参照)より大きい。なお、ブラシ44およびその先端部が起立するとは、ブラシ44およびその先端部が立ち上がることを意味し、ブラシ44およびその先端部が撓むことや折れ曲がることを含まない。
【0042】
内側弾性部材は樹脂製のチューブ45であり、弾性を有する。チューブ45は、ブラシ受け48の内部に軸23とブラシ44との間、すなわちブラシ44より径方向内側に配置されている。ブラシ受け48の内部に設けられたチューブ45は、ブラシ受け48の底壁48bとブラシ44との間に配置されて、弾性変位する。チューブ45はブラシ44と接触し、ブラシ44を直接的に径方向外方に向かって押圧する。
【0043】
図1に戻って、モータ30は、軸23回りに治具21を回転させつつ、軸23に沿って治具21を移動させる。モータ30は、一対のレール31の上を軸23方向に移動可能に設置された基板32の上に固定されている。一対のレール31は水平方向に並設されており、地面に立設された支持脚33aと支持脚33bに取付けられた支持板34に固定されている。
【0044】
また基板32は、ラックアンドピニオンにより軸23に沿って駆動される。基板32には図示しないモータが載置されており、このモータがシャフト36を介してピニオンギヤ37を回転させる。支持脚33aと支持脚33bに取付けられたラックギヤ38と噛み合うピニオンギヤ37が回転することで、基板32と共にモータ30が軸23に沿って移動する。
【0045】
以下、内面研磨装置10にステンレスパイプ1を設置し、ステンレスパイプ1の内面を研磨する方法について説明する。
【0046】
図5は、ステンレスパイプ1を設置する途中の内面研磨装置10を示す概略断面図である。
図5中、治具ユニット20の他端部から一端部に向かって治具21を覆うようにステンレスパイプ1を軸23方向に移動させ(
図7参照)、位置決めする。
図8は、ステンレスパイプ1を位置決めした状態を示す治具ユニット20の他端部の部分拡大上面図である。ステンレスパイプ1が位置決めして固定されると、ステンレスパイプ1の内部に全ての治具21が設置される。ステンレスパイプ1が位置決めされると、ステンレスパイプ1のモータ30と反対側の端部開口がパイプ(不図示)を介してポンプ12の先端14に接続し、タンク13内の研磨液をステンレスパイプ1の内部に供給可能になる。
【0047】
ブラシ44の先端と軸23との間の寸法L3が、ステンレスパイプ1内径の半分の寸法L4より大きい。したがって
図9に示すように、ステンレスパイプ1の内部に治具21が挿入されると、ブラシ44が径方向の内方に移動し、チューブ45は圧縮される。これにより、チューブ45がブラシ44を径方向外方に弾性的に押圧するので、ブラシ44が起立したまま、その先端部がステンレスパイプ1の内面に当接して一定の内圧を負荷する。このとき、
図10に示すように、ブラシ44の少なくとも一部の先端部がステンレスパイプ1の内面と垂直に当接している。本実施形態では、ブラシ44の先端部がステンレスパイプ1の内面に負荷する内圧を80Nから300Nに設定する。内圧が80Nよりも小さいと、ブラシ44の先端部がステンレスパイプ1の内面に研磨剤を押し当てる力が弱くなり、研磨できなくなる。一方、内圧が300Nよりも大きいと、ブラシ44が撓んで起立しなくなる。
【0048】
タンク13から研磨液をステンレスパイプ1の内部に供給すると、ステンレスパイプ1の内面と治具21の表面との間に形成された空間S(
図11参照)を研磨液が通り、ステンレスパイプ1の一端から他端に行き渡る。この状態で、モータ30が治具21を軸23回りに回転させると、遠心力により研磨液がブラシ44の先端部に移動して集まる。そして、ブラシ44の先端部が研磨液をステンレスパイプ1の内面に押し当て、ステンレスパイプ1の内面に研磨剤2を付着する。また、チューブ45がブラシ44を径方向外方に弾性的に押圧するので、治具21が回転している間、ブラシ44およびその先端部は起立状態を維持する(
図12参照)。このように、ブラシ44が研磨剤2を介してステンレスパイプ1に内圧を負荷しつつ軸23回りに回転することで、ステンレスパイプ1の内面に付着した研磨剤2がステンレスパイプ1の内面を周方向に研磨する。
【0049】
以上のように本実施形態では、ステンレスパイプ1の内部に治具21を挿入すると、内方に弾性変位したチューブ45がブラシ44を径方向外方に向かって弾性的に押圧する。これにより、径方向外方に押圧されたブラシの先端部が起立したまま、金属パイプ内面に当接して内圧を負荷する。そして、ステンレスパイプ1内に研磨液を供給して治具21を回転させると、ブラシ44の先端部が起立状態を維持したまま回転する。このとき、ブラシ44の先端部が、付着した研磨剤をステンレスパイプ1の内面に押し当てることで、研磨剤が前記内面を周方向に研磨する。すなわち本発明は、物理研磨だけを用いて金属パイプの内面を研磨する装置に関する。
【0050】
モータ30は、治具21を軸回りに回転させつつ、軸23に沿って治具21を移動させる。隣り合う治具21が等間隔に配置されているので、治具21と治具21の間の間隔L2分だけモータ30が治具21を軸23方向に移動させる。これにより、ステンレスパイプ1の内面全体が治具21および研磨剤2によって研磨される。このように、隣り合う治具21と治具21を間隔L2を空けて配置することで、ステンレスパイプ1の長手方向全体に延びる1本の治具を設ける場合と比べて、治具21を軸23回りに回転させる駆動力を抑制し、モータ30の小型化や消費電力を低減できる。また、ステンレスパイプ1の内面から受ける反作用の力を抑制し、治具ユニット20の破損を防止できる。
【0051】
[本実施形態の内面研磨装置の特徴]
本実施形態のステンレスパイプ1の内面研磨装置10には以下の特徴がある。
【0052】
本実施形態の内面研磨装置10では、治具21の軸23とブラシ44の先端との間の寸法が、ステンレスパイプ1の内径の半分寸法L4以上であり、チューブ45自体が弾性変位する。これにより、ステンレスパイプ1の内部に治具21を挿入すると、内方に弾性変位したチューブ45がブラシ44を径方向外方に向かって押圧する。そして、径方向外方に押圧されたブラシ44の先端部が起立したまま、ステンレスパイプ1内面に当接して内圧を負荷する。したがって、研磨液が供給された状態でステンレスパイプ1の内部に設置された治具21を回転させると、ブラシ44の先端部が研磨液をステンレスパイプ1の内面に押し当て、ステンレスパイプ1の内面に研磨剤を付着できる。ブラシ44が研磨剤を介してステンレスパイプ1に内圧を負荷しつつ、治具21が軸23回りに回転することで、ステンレスパイプ1の内面に付着した研磨剤2がステンレスパイプ1の内面を周方向に研磨する。これにより、内面が鏡面仕上げされたステンレスパイプ1を形成することができる。
【0053】
本実施形態の内面研磨装置10では、ステンレスパイプ1内面を研磨するときに生じる粉塵が研磨液に混入するので、粉塵が大気中に飛散するのを防止できる。また、研磨剤2がステンレスパイプ1内面を研磨することにより生じる摩擦熱を液体が吸収し、冷却できる。一方、仮にやすりを用いてステンレスパイプの内面を研磨すると、摩耗したやすりを新たなやすりに交換する手間が生じる。しかし、本発明では研磨剤2がステンレスパイプ1内面を研磨するので、治具21自体が摩耗することはない。したがって、新たな治具21に交換する手間が省けるので研磨時間を短縮できる。
【0054】
本実施形態の内面研磨装置10では、チューブ45がブラシ44を径方向外方に向かって弾性的に押圧する。これにより、治具21をステンレスパイプ1内に挿入すると、径方向内方に弾性変位したチューブ45がブラシ44を径方向外方に押圧し、ブラシ44の先端部が起立したままステンレスパイプ1内面に当接して内圧を負荷することができる。また、チューブ45がブラシ44を径方向外方に向かって弾性的に押圧することで、ステンレスパイプ1内で治具21を回転させたときにブラシ44が撓むのを防止し、ブラシ44先端部の起立状態を維持したままステンレスパイプ1の内面を研磨できる。
【0055】
本実施形態の内面研磨装置10では、ブラシ44とチューブ45とが接触し、チューブ45がブラシ44を直接的に径方向外方に向かって押圧するので、チューブ45がブラシ44を確実に押圧することができる。
【0056】
本実施形態の内面研磨装置10では、複数のブラシ44が本体の周方向に等間隔に設けられたので、複数のブラシ44の先端部がステンレスパイプ1内面に当接して負荷する内圧を均一にすることができる。
【0057】
本実施形態の内面研磨装置10では、治具21がステンレスパイプ1の内部に設置された状態で、ブラシ44の先端部がステンレスパイプ1の内面と垂直に当接することは、ブラシ44の先端部が起立したまま、ステンレスパイプ1内面に当接して内圧を負荷することを意味する。この状態で、ブラシ44が研磨剤2を介してステンレスパイプ1に内圧を負荷しつつ、治具21が軸23回りに回転することで、ステンレスパイプ1の内面に付着した研磨剤2がステンレスパイプ1の内面を周方向に研磨する。したがって、内面が鏡面仕上げされたステンレスパイプ1を形成することができる。
【0058】
本実施形態の内面研磨装置10では、ステンレスパイプ1の内部に治具21が設置された状態で、ステンレスパイプ1の一端から他端に向かって研磨液を注入する。ステンレスパイプ1の内面と治具21の表面との間に空間Sが形成されたので、ステンレスパイプ1内に注入された研磨液が空間Sを通ってステンレスパイプ1の一端から他端まで行き渡ることができる。
【0059】
本実施形態の内面研磨装置10では、モータ30が軸23回りに治具21を回転させつつ、軸23に沿って治具21を移動させる。これにより、治具21より長いステンレスパイプ1であっても、その内面全体を研磨することができる。
【0060】
本実施形態の内面研磨装置10では、治具21が、その軸23方向にシャフト22を介して連結された。金属パイプの長さに応じて複数の治具21を連結することで、長さが例えば4m以上の長尺状金属パイプであったとしても、複数の治具21が研磨剤2を金属パイプの内面に押し当てて研磨することができる。
【0061】
<実施例>
本願発明者らは、上記内面研磨装置10によって研磨されたステンレスパイプ1の内面の算術平均粗さ(Ra)を測定し、従来のステンレスパイプの内面の算術平均粗さ(Ra)と比較した。
【0063】
表1は比較例として、従来の縦研磨によって研磨されたステンレスパイプ内面の周方向の算術平均粗さ(Ra)を示すグラフである。この縦研磨では、第1工程で90番、第2工程で120番、第3工程で140番、第4工程で240番、第5工程で400番の粒度のやすりを用い、合計5つの工程でステンレスパイプの内面を研磨した。なお、やすりの粒度はJIS規格の「JIS R 6010 研磨布紙用研磨材の粒度による規定」に基づく。このような縦研磨によって研磨された複数本のステンレスパイプの中で、任意の2本について周方向の算術平均粗さ(Ra)を測定すると、1本目は0.7576μmであり、2本目は0.6103μmであった。
【0065】
表2は、本発明に係る内面研磨装置10によって研磨されたステンレスパイプ1内面の周方向の算術平均粗さ(Ra)を測定したグラフである。この研磨では、液体としての水と、研磨剤としての酸化アルミニウムとを混合した研磨液を用いた。最初の第1工程では、線径が0.5mmのブラシ44を用い、治具21を300rpmで30分間、回転させた。任意の時期に第1工程において、ステンレスパイプ1の内面をブラシ44が押圧する内圧を計測すると120Nから160Nであった。続く第2工程では、線径が0.4mmのブラシ44を用い、治具21を300rpmで30分間、回転させた。任意の時期に第2工程において、ステンレスパイプ1の内面をブラシ44が押圧する内圧を計測すると160Nから270Nであった。これら2つの工程によって研磨された複数本のステンレスパイプの中で、任意の2本について周方向の算術平均粗さ(Ra)を測定すると、1本目は0.093μmであり、2本目は0.096μmであった。以上から、本発明に係るステンレスパイプ1の内面の算術平均粗さ(Ra)は0.1μm未満であることが分かった。なお、この算術平均粗さ(Ra)はJIS B 0031(1994)での規定に基づく。
【0066】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0067】
前記実施形態では、4m長さのステンレスパイプ1の内面を8本の治具21で研磨したが、これに限定されない。ステンレスパイプの長さと同じ長さの1本の治具を用いても良い。このとき、モータ30および治具21を軸23方向に移動させなくても良い。治具の本数は8本に限定されず、2本、3本など複数本の治具を用いても良い。
【0068】
また前記実施形態では、隣り合う治具21の間に間隔L2を設け、この間隔L2は治具21の長さL1より短いがこれに限定されない。モータ30を軸方向に移動させてステンレスパイプの内面全体を研磨できる限り、間隔L2は治具の長さL1と同じであっても良く、治具の長さL1より長くても良い。
【0069】
前記実施形態では、ブラシ44の先端と軸23との間の寸法L3はステンレスパイプ1内径の半分の寸法L4より大きいがこれに限定されず、寸法L3と寸法L4が等しくても良い。
【0070】
前記実施形態では、弾性を有するチューブ45が内側弾性体を構成したがこれに限定されず、例えばバネやゴムが内側弾性体を構成しても良い。
【解決手段】回転体21が、軸23と直交する径方向に突出し且つ径方向外側に設けられた弾性を有するブラシ44と、ブラシ44より径方向内側に設けられた内側弾性体46とを有し、軸23とブラシ44の先端との間の寸法が、金属パイプ1の内径の半分以上であり、回転体21が金属パイプ1の内部に設置された状態で、内側弾性体46がブラシ44を径方向外方に押圧し、ブラシ44の先端部が起立したまま金属パイプ1内面に当接して内圧を負荷することで、供給手段12から供給されて金属パイプ1の内面に付着した研磨剤が金属パイプ1の内面に押し当てられ、内面を研磨する。