(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記記憶部は、前記ディテクタ上の前記特定以外のピクセル位置における散乱放射線強度を、前記特定のピクセル位置の前記特定のフレームにおける散乱放射線強度の算出結果に基づいて補間する補間式又は前記補間式から算出される補間データを記憶する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の散乱線強度算出装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。本発明に係る散乱線強度算出装置及びそれを備えた散乱線補正装置を開発するために検討及び評価した結果について説明し、最後に本発明に係る散乱線強度算出装置及びそれを備えた散乱線補正装置について説明する。なお、本実施形態では、ディテクタの各画素でフレーム毎に計数される値である画素値を輝度値と呼ぶことにする。輝度値には、直接放射線が寄与する分と、散乱放射線が寄与する分とが含まれている。本実施形態では、前者を直接放射線による輝度値又は直接放射線の輝度値と呼び、後者を散乱放射線による輝度値又は散乱放射線の輝度値と呼ぶことにする。直接放射線による輝度値又は直接放射線の輝度値は直接放射線の強度に対応し、散乱放射線による輝度値又は散乱放射線の輝度値は散乱放射線の強度に対応する。
【0014】
<1.ディテクタの各ピクセルで取り込まれる散乱放射線の計算>
<1−1.鉛円板の位置に対応するピクセルにおける散乱放射線の輝度値>
ディテクタの有感領域での散乱放射線の輝度値は実験的に求めることができる。その方法としては、直径の異なる数種類の鉛円板1を
図1に示すようにX線源2と被写体3の間に設置してCT撮影を行い、鉛円板1の中心位置に対応するディテクタ4のピクセル位置の輝度値を比較して外挿する。
【0015】
鉛円板は十分な厚さがあればX線をほぼ遮断できると考えてよい。したがって、鉛円板の中心位置に対応するディテクタのピクセル位置の輝度値は、直接放射線成分を含まず散乱放射線のみが反映されていると考えることができる。この鉛円板の中心位置に対応するディテクタのピクセル位置の輝度値に反映される散乱放射線は、鉛円板の外側を通過したX線が被写体に照射した場合に生成する散乱放射線であると考えられる。
【0016】
しかし、鉛円板に照射するX線は吸収されて被写体に照射しないので、その分散乱放射線が減少することになる。そして、その減少分は鉛円板の直径が小さくなればなるほど少なくなる。つまり、鉛円板の直径が小さいほど散乱放射線が多くなる。そして、鉛円板の直径と散乱放射線との関係を外挿して直径が0のときの散乱放射線の輝度値(外挿データ)を求めると、鉛円板を設置せずに通常のCT撮影を行った場合にそのピクセルで反映される散乱放射線の輝度値であるとみなすことができる。
【0017】
<1−2.外挿データに関する検討>
上記1−1.で説明した外挿データを求める具体的な方法を検討するため、頭部ファントムを模した数学ファントムにX線管から放出されるX線スペクトルのX線束を照射したときのX線の挙動を、モンテカルロ法を用いて計算することによりディテクタの各ピクセルで取り込まれる直接放射線や散乱放射線の数を計算した。ディテクタは蓄積型であるので厳密には異なるが、ピクセルに取り込まれるX線の数と得られる輝度値とはほぼ比例関係にあると考えることができる。
【0018】
頭部ファントムは、前歯や臼歯、上顎、下顎、頸椎、軟組織等、形状や構成する組成をできるだけ現実のものに近づけるようにしてジオメトリーを作成した。実際のCT撮影では、患者の余分な被曝を抑えるため、ディテクタの有感領域にのみ直接X線が入射するようX線束をX線管直下において鉛コリメータでカットしているので、モンテカルロ法を用いた計算でも同様にカットした。X線が被写体で散乱せずに取り込まれるべきピクセルで検出された場合は直接放射線とみなし、異なるピクセルで取り込まれた場合は散乱放射線とみなして、直接放射線と散乱放射線をそれぞれ計算
した。直接放射線と散乱放射線の和が、実際のCT撮影においてディテクタで検出される放射線に対応する。ここでは、直接放射線と散乱放射線の和を全放射線とする。
【0019】
X線源と頭部ファントムとの間に設置した鉛円板の直径を2mm、4mm、8mm、12mm、16mm、20mm、24mmと変化させてモンテカルロ法で計算した場合の全放射線の輝度値から外挿して算出した0mmの場合、すなわち、鉛円板を設置しない場合の散乱放射線の輝度値と、モンテカルロ法で計算した0mmの場合の散乱放射線の輝度値とを比較する。
【0020】
図2は、鉛円板の直径を変えた場合の全放射線の輝度値と、鉛円板がない場合の散乱放射線の輝度値とを、正面照射、側面照射、背面照射それぞれにおいて示すグラフである。前者の値から外挿した値を算出するための近似方法として、(I) 軸対称な6次曲線で近似した場合、(II) 軸対称な6次曲線と、直径2mm及び4mmの2点を結ぶ直線との間の平均値で近似した場合、(III)1次式の最小二乗法で近似した場合、の3つのパターンを検討した。
【0021】
図3は、各照射パターンにおける、各近似方法を用いて得られた鉛円板を設置しない場合の散乱放射線の輝度値と、モンテカルロ法で計算した0mmの場合の散乱放射線の輝度値との誤差を示す表である。
【0022】
全体的に最も安定して誤差が小さいのは近似方法(II)である。したがって、以下の説明では、近似方法(II)で散乱放射線の輝度値を算出することにした。
【0023】
しかしながら、近似方法(I)、近似方法(III)、或いは近似方法(I)〜(III)以外の近似方法を採用してよい。なお、近似方法(II)や近似方法(I)のように6次式を用いることで誤差が小さくなるので、6次式を用いた近似を行うことが望ましい。
【0024】
ディテクタ上の特定のピクセル位置における散乱放射線による輝度値は上記のようにして求めることができる。以下の説明では、
図1において設置する鉛円板の位置を、それに対応するディテクタ上のピクセル位置が
図4に示す5×5=25箇所の黒丸部分のいずれかになるように調整して各撮影を行い、得られる実験データから散乱放射線を算出する。
【0025】
<1−3. ディテクタ上の全ピクセルにおける散乱放射線の輝度値の計算>
ディテクタ上において、各ピクセル位置での散乱放射線はピクセル座標が変化してもそれほど急激に変化せず、緩やかに変化する。
図5の25箇所の散乱放射線の輝度値が分かっているので、これが滑らかに変化するように残りのピクセルにおける散乱放射線の輝度値を計算することが可能である。撮影実験に先立って、計算によりこれを実証したので以下に示す。
【0026】
上記1−2.と同様にモンテカルロ法を用いて、鉛円板を取り除いたジオメトリーでX線を照射した場合にディテクタの各ピクセルで取り込まれる直接放射線と散乱放射線の数を計算する。このとき、横軸または縦軸方向に平行な1列のピクセル上で取り込まれる散乱放射線の輝度値のピクセルナンバーに対するプロファイルを考えると、これらは緩やかな曲線を描く。このプロファイルは、その内5点の値が既知であれば、最小二乗法により4次曲線で近似できる。
図4に示す25箇所の黒丸部分で考えると、縦方向と横方向で計10個のプロファイルをそれぞれ近似することができる。すると、
図5に示す実線上のピクセルにおける散乱放射線の輝度値は4次曲線での近似により算出することができる。これらの輝度値から、その他のピクセルにおける散乱放射線の輝度値を算出することになる。その手順を以下に示す。
【0027】
ディテクタ上のピクセルは
図5に示す実線によって区切られる16個のブロックのいずれかに必ず属するので、その属するブロック内の座標(x,y)のピクセルにおける散乱放射線の輝度値Bv(x,y)を算出することを考える。この1ブロックのピクセルの座標と輝度値に関する模式図を
図6に示す。
【0028】
ブロックの角の座標をそれぞれ(x
0,y
0)、(x
1,y
0)、(x
0,y
1)、(x
1,y
1)とする。すると、ブロックの角4点の輝度値Bv(x
0,y
0)、Bv(x
1,y
0)、Bv(x
0,y
1)、Bv(x
1,y
1)および、着目ピクセル(x,y)を通り横軸方向および縦軸方向に平行な直線とブロックの境界位置のピクセルにおける輝度値Bv(x,y
0)、Bv(x
1,y)、Bv(x,y
1)、Bv(x
0,y)は、全て上述した4次曲線での近似により輝度値を算出することができるピクセルにおける輝度値であるので、すでに既知である。
【0029】
ピクセル位置を(x,y
0)から(x,y)、 (x,y
1)へと移動するとき、Bv(x,y
0)、Bv(x,y)、 Bv(x,y
1)への輝度値の変化は、Bv(x
0,y
0)、Bv(x
0,y)、Bv(x
0,y
1)への輝度値の変化、および、Bv(x
1,y
0)、Bv(x
1,y)、Bv(x
1,y
1)への輝度値の変化の影響を受けることになる。このとき、輝度値は緩やかに変化するので、輝度値の比Bv(x,y)/Bv(x
0,y)は、Bv(x,y
0)/Bv(x
0,y
0)とBv(x,y
1)/Bv(x
0,y
1)の間の値を緩やかに変化すると考えるのが妥当である。
【0030】
ここで、y 座標の変化に伴って輝度値が単調に変化すると仮定すると、輝度値の比Bv(x,y)/Bv(x
0,y)を求めることができ、Bv(x
0,y)が既知なので、Bv(x,y)を計算することができる。これをBvs1(x,y) とする。一方、Bv(x,y)/Bv(x
1,y)はBv(x,y
0)/Bv(x
1,y
0)とBv(x,y
1)/Bv(x
1,y
1)の間を緩やかに変化すると考えることもできるので、このことからもBv(x,y)を計算することができ、これをBvl1(x,y) とする。一般にBvs1(x,y) とBvl1(x,y)は一致しないので、これをBv(x,y)の仮の値としてBv1(x,y)とした。
【0032】
しかし、これをブロック内のすべてのピクセルに適用しようとすると、ブロックの境界部分(x= x
0およびx= x
1 のとき)で輝度値の不整合が生じる。そこで、x= x
0およびx= x
1のときのBv(x,y)の値をそれぞれBv00(y), Bv01(y) とする。本来、Bv1(x
0,y) はBv00(y)に、Bv1(x
1,y) はBv01(y)に一致しなければならないので、x= x
0 およびx= x
1 でそれぞれ一致するよう以下のようにBv1(x,y) を補正して、その補正した値をBv(x,y)とする。
【0034】
ここで、51ピクセル×51ピクセルのディテクタで2次元のピクセル座標(x,y)にそれぞれ0〜50のピクセル番号を与える。検出される輝度値の内、x=0,x=50およびy=0, y=50のピクセルライン上のピクセルについてはすべて既知であり、
図7に当てはめて考えると、x
0=0, x
1=50, y
0=0, y
1=50である。例えば、x=25, y=20 として、既知の輝度値を
図7に示す値とする。
【0035】
図7に示す既知の輝度値からBv1 を計算したところ、1139 であった。そして、式(2)を適用してBv(25,20)の値を算出したところ、1135となった。また、ピクセルラインで囲まれた内部のピクセルの輝度値を同様に計算し、ピクセルの位置を水平な平面上に、輝度値を高さ方向に取って3次元で表わすと、プロファイルは
図8のようになった。
図8に子示すプロファイルの位置による変化は違和感のないものとなっている。
【0036】
このようにして求めた輝度値に関しても、頭部ファントムを模した数学ファントムを被写体としてモンテカルロ法で計算した散乱放射線による輝度値との誤差を見積もった。25箇所のピクセル領域で、モンテカルロ法で計算した散乱放射線による輝度値を利用して、縦軸方向・横軸方向それぞれ5本ずつ、計10本のピクセルラインの輝度値のプロファイルを4次曲線で近似し、それ以外のピクセルの輝度値を上記で述べた方法で式(2)より算出する。
【0037】
そして、上述した10本のピクセルライン以外のピクセルの輝度値を式(2)で算出したプロファイル(以下、「第1プロファイル」と称す)を、すでにモンテカルロ法で計算している全ピクセルの輝度値のプロファイル(以下、「第2プロファイル」と称す)と比較する。
図9(a)は第2プロファイルから得られる正面照射の場合の散乱放射線による輝度値のイメージ画像であり、
図9(b)は第1プロファイルから得られる正面照射の場合の散乱放射線による輝度値のイメージ画像である。両者を比較すると、
図9(b)は
図9(a)をよく再現していることが分かる。
【0038】
第1プロファイル及び第2プロファイルに対して、正面照射、側面照射、背面照射の場合のY=350における散乱放射線による輝度値のプロファイルを調べたところそれぞれ
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)のようになった。
図10には、第2プロファイルをスムージングした第3プロファイルも合わせて示している。第2プロファイルと第1プロファイルの平均誤差をそれぞれ計算したところ、4.09%, 4.02%, 6.44%となった。一方、第3プロファイルと第1プロファイルの平均誤差はそれぞれ0.86%, 2.76%, 3.03%となり、モンテカルロ法で計算した輝度値のピクセル間のバラツキが誤差に影響を与えていたと思われる。Y=300, 400についても同様に誤差を計算したところ、表1のようになり、同様の傾向を示している。ここで、表1中のMCは第2プロファイル、Smは第3プロファイル、F(1)は第1プロファイルを示している。Y=400の背面照射は誤差が大きいのは歯列部分にあまり影響を与えない両端部分のずれが大きいためである。中央付近の350ピクセルのみで誤差を計算したところ1.42%であったので、CT再構成画像への影響は少ない。
【表1】
【0039】
<2.実験方法>
X線撮影装置は朝日レントゲン工業株式会社製のAUJE SOLIO を使用した。歯科用X線CT装置では、被写体の周りをX線管とディテクタがそれぞれ両端に設置されたアームが360度回転する。フレーム数は510枚、フレームレートは30fpsである。ディテクタの有感領域は156.96mm×159.36mm(654ピクセル×664ピクセル)であり、ディテクタの素子はCsI、厚さは700μmである。焦点からディテクタまでの距離が600mm、焦点から回転中心までの距離が375mmとなる。X線管の管電圧は85kV、管電流は4mAとした。
【0040】
撮影は、頭部ファントムを最適な位置に設置した場合、横方向に−5mm、−3mm、+3mm、+5mmずらした場合、前後方向に−5mm、+5mmずらした場合、上下方向に−5mm、+5mmずらした場合の9パターン行った。実際はファントムを固定してアームの中心位置および高さを調整することで対応した。
【0041】
それぞれのパターンについて鉛円板を設置しない通常の撮影、
図4に示す25箇所に対応する位置に中心位置がくるように異なる直径の鉛円板をそれぞれ1 つずつ設置した場合の撮影を行った。鉛円板の直径は、2.3mm、4.7mm、8.2mm、11.8mm、15.5mmの5種類である。したがって、撮影は1パターンで5×25+1=126回、全部で9×126=1134回行った。それぞれの撮影に対して、510枚(フレーム数分)の測定画像のデータがある。
【0042】
<3.実験結果>
上述した<1.ディテクタの各ピクセルで取り込まれる散乱放射線の計算>で説明した方法に基づいて、各パターン、各鉛円板位置、各フレームの撮影データについて、鉛円板の直径の変化に対する、鉛円板位置に対応するピクセル領域の平均輝度値をグラフ化して、直径が0の場合の輝度値を外挿することによって、有感領域内の25箇所の散乱放射線による輝度値を算出した。これらの内、頭部ファントムを最適な位置に設置したパターンにおいて、
図11(i)〜
図11(iv)に示すフレームNo.1(正面照射), 128(側面照射), 256(背面照射), 384(側面照射)の測定画像の4箇所のピクセル領域a〜dについて、鉛円板の直径を横軸、輝度値を縦軸に取った場合のグラフを
図12(a)〜
図12(d)に示す。ただし、直径0mmのときの輝度値は、直径2.3mmから15.5mmのときの5点の輝度値を用いて外挿により算出した値である。また、
図11(i)はcの位置、
図11(ii)はdの位置、
図11(iii)はaの位置、
図11(iv)はbの位置に鉛円板が該当する場合の測定画像を例として示している。なお、暗電流による輝度値は差し引いている。
【0043】
図12(a)〜
図12(d)に示すグラフでは、被写体の厚みが薄く測定画像の輝度値が高い箇所では散乱放射線の輝度値が大きく、被写体が厚い部分では逆に小さくなっており、散乱放射線の特徴が現れている。また、いずれも外挿した0mmのときの輝度値と撮影で得られた他の輝度値とは滑らかな曲線を描いており、この方法で妥当な散乱放射線の輝度値が算出されていると考えてよい。そして、頭部ファントムの位置がずれた他のパターンについても同様にディテクタの有感領域内における散乱放射線の輝度値を算出することができる。
【0044】
<4.散乱線補正の効果>
上述した方法で算出した散乱放射線の輝度値を用いて散乱線補正を行うことによって、CT再構成画像の画質がどの程度向上するのかを確認する必要がある。
【0045】
そこで、頭部ファントムが最適な位置に設置されているパターンで撮影して得られるデータから、各フレームについて25箇所のピクセル領域の散乱放射線の輝度値を算出した。そして、フレームごとに、式(2)を用いてディテクタのピクセル全体の散乱放射線の輝度値を算出して、撮影で得られた測定画像の各ピクセルにおける放射線(直接放射線+散乱放射線)の輝度値からその散乱放射線の輝度値を差し引くことによって、散乱線補正を実行した。
【0046】
そして、これら処理後の測定画像を再構成した三次元CT画像と、特開2015−65993号公報で提案されている散乱線補正を適用した画像とを比較した。その結果を以下に示す。
【0047】
図13(a)は測定画像を、散乱線補正を行わずに画像再構成した場合の、アキシャル画像を1箇所ピックアップして示したものである。
【0048】
図13(b)は測定画像に対して、特開2015−65993号公報で提案されている散乱線補正を適用した後に画像再構成した場合の、アキシャル画像を1箇所ピックアップして示したものである。
【0049】
図13(c)は測定画像に対して、上述した方法で算出した散乱放射線の輝度値を用いて散乱線補正を行った後に画像再構成した場合の、アキシャル画像を1箇所ピックアップして示したものである。
【0050】
図13(b)では歯列の内側や歯間に沿った方向や臼歯間にアーチファクトが現れており、
図13(a)と比較してそれほど変化がなくあまり画質が改善されていないが、
図13(c)ではアーチファクトが解消されている。すなわち、上述した方法で算出した散乱放射線の輝度値を用いた散乱線補正が有効であることが分かる。
【0051】
<5.CT撮影における頭部ファントムの異なった位置づけで得られる散乱放射線の輝度値の割合の曲線近似>
<5−1.近似曲線の算出方法>
上述した散乱線補正を、頭部ファントムの任意の位置づけ、さらには、任意の生体データにも適用できるようにするためには、鉛円板の位置に対応する25箇所のピクセル領域のフレームごとに得られる散乱放射線の輝度値について、計算式を用いて算出できるようにする必要がある。本節では、頭部ファントムの9種類の位置づけパターンにおいて得られるデータを用いて曲線の計算式を導き、25箇所のピクセル領域のフレームごとのパラメータを算出したので、その方法を以下に示す。なお、以下で述べるピクセルの輝度値について、暗電流による影響はすでに取り除いているものとする。
【0052】
曲線の横軸は、被写体を設置しないで撮影を行った場合(このとき得られる測定画像を白画像と呼ぶことにする)に各ピクセルで得られる輝度値に対する、頭部ファントムを設置して撮影した場合(直接放射線も散乱放射線も含んでいるので、このとき得られる放射線を全放射線と呼ぶことにする。また、鉛円板は設置しない)の輝度値の比とし、それをXとする。また、曲線の縦軸は、全放射線の輝度値に対する、上記<3.実験結果>
において算出した散乱放射線の輝度値の比とし、それをYとする。
【0053】
すると、XとYはともに1より小さい値をもち、被写体が薄い経路を通るときはXが1に近づき、逆に厚い場合は0に近づく。散乱放射線の割合が大きいときはYが1に近づき、小さいときは0に近づく。頭部ファントムのような大きい被写体においては、被写体が厚いと散乱放射線の割合が大きく、薄いと小さくなる傾向がある。以上の傾向に加え、グラフ化した場合のこれらの分布を考慮し、XとYの関係を表す曲線の式を、パラメータaおよびパラメータbを用いた下記の式(3)とした。
【0055】
前述したように、これを各ピクセル領域の各フレームで得られる9 つのデータ分布に対して適用する。式(3)は、両辺に対数をとってY
log=logY、X
log=logX とすることにより、下記の式(4)に変形でき、Y
logをX
logの1 次式で表わすことができる。
【0057】
このため、最小二乗法を適用することによって、各ピクセル領域のフレームごとに式(3)で近似して、そのパラメータaの値およびパラメータbの値を算出することができる。したがって、Xの値とYの値が式(3)で一意的に決まるので、任意のXの値に対してYの値を求めることができる。すなわち、特定のピクセル領域の特定のフレームにおいて、撮影によって得られる任意の輝度値に対して散乱放射線による輝度値を一意的に算出することができる。
【0058】
<5−2.最小二乗法を用いたパラメータの計算>
撮影した9パターンの頭部ファントムの位置づけに対して得られたデータ群すべてを式(3)で近似して、それぞれについてパラメータaの値およびパラメータbの値を決め、データ群と近似曲線とを比較した。これらの内、特徴的な曲線のグラフについて取り上げ、撮影で得られたデータと曲線の間の誤差を計算したので以下に示す。
【0059】
図14 〜
図25の(a)は、着目したフレームの測定画像の内頭部ファントムの位置づけが最適な位置となっているパターンの測定画像を示し、着目したピクセル領域を四角のマークで示している。
【0060】
図14 〜
図25の(b)は、その着目したフレームの着目したピクセル領域におけるXとYの分布と曲線の近似式をグラフ化したものである。
【0061】
図14から
図18 までは、歯列付近のピクセル領域の曲線近似を表している。
図15、
図18では、頭部ファントムの位置がずれることで透過X線の経路上の骨の厚さが変化するためX線減弱が大きく変化しており、Xの変化量が大きい。しかし、これらのデータ群の分布は式(3)で表わされる曲線で近似することができ、よく合っていることがグラフからも分かる。その誤差は5%程度以内となっている。誤差の精度は、データ数が増えればさらによくなっていくことが期待される。
【0062】
図16、
図17の着目ピクセル領域は、頭部ファントムの厚みが大きい部分であり、この部分はファントムの位置づけがずれてもX線の透過経路におけるファントムの厚みはほとんど変わらない。このため、XもYも変化量が小さい。したがって、散乱放射線による輝度値もほとんど変化しない。
【0063】
図14の(b)は、ちょうど歯列が重なっている部分とその周辺に位置する場合の曲線近似であり、重なり位置となった場合は散乱放射線の割合が非常に高くなる。しかし、この場合でもデータ群は、曲線に沿った形で分布している。
【0064】
図19〜
図22の(b)は、歯列付近から離れたピクセル領域の曲線近似を表している。これらについても、いずれのデータ群も曲線に沿った分布をしており、誤差は歯列付近よりもよい値が得られている。ピクセルラインに沿った輝度値の変化が歯列付近よりも緩やかであるため、散乱放射線の割合の変化も少ないと考えられる。
【0065】
図23〜
図25の(b)は、ディテクタの端の、頭部ファントムの厚みが非常に薄い領域の曲線近似を表している。これらについても、いずれのデータ群も曲線に沿った分布をしている。
【0066】
<6.臼歯の重なり部分等、X線減弱が大きい部分の取扱い>
歯列部分、特に歯の重なり部分などX線減弱の大きい部分に対応するディテクタ上のピクセルにおいては、X線減弱が小さい場合よりも散乱放射線による輝度値が小さい。すると、任意の生体データに適用する場合、実際の投影画像においては、歯の重なり部分が25箇所のピクセル領域の間に位置する場合などは、上記の<1−3. ディテクタ上の全ピクセルにおける散乱放射線の輝度値の計算>で求めた4次曲線によるプロファイルでは散乱放射線による輝度値が実際よりも大きい値で計算される場合がある。そうすると、散乱線補正後の歯列部分の輝度値が少なくなり、CT再構成画像に少なからず影響を与えるので、散乱放射線の輝度値を修正する必要がある。この修正方法の一例を以下に示す。
【0067】
図26に1フレームの投影画像と25箇所の領域が示されている。歯列部分に相当するのは点7と点12の間、点8と点13の間、点9と点14の間である。
図27は
図26中の点2、点7、点12、点17、点22を通るピクセルライン上における全放射線の輝度値と4次曲線から計算した散乱放射線の輝度値のプロファイルを図示したものである。
【0068】
図27より、ピクセルNo.200 から300 の間(この部分は点7と点12の間に該当する)で双方の輝度値がほぼ等しくなっているピクセルがあることが分かる。これは直接放射線が検出されておらず、X線が透過していないことになり、金属などX線減弱係数の大きい物質がなければこのようなことは起こらないので矛盾する。
【0069】
したがって、この部分の散乱線補正を厳密に行うため、上記の<1−3. ディテクタ上の全ピクセルにおける散乱放射線の輝度値の計算>に基づいて縦軸方向および横軸方向5本ずつ計10本に関して4次曲線の計算を行った後に、上記2点間の輝度値のプロファイルの計算を追加でそれぞれ行い、散乱放射線の輝度値を修正する必要がある。
【0070】
この各2点間のピクセルにおいても、鉛円板を用いた実験を行うことは可能である。しかし、矢印部分の領域においては、上記の式(3)のパラメータはあまり変化しないので、このことを利用する。例えば、フレームNo. 40 における点7と点12の両方について、白画像に対する全放射線の輝度値の比を横軸に、全放射線に対する散乱放射線の輝度値の比を縦軸にとって図示したグラフ(
図14〜
図25のグラフと同等)を
図28に示す。これらはいずれも1本の曲線に沿って分布しており、式(3)のパラメータは共通の値を適用できることが分かる。この曲線で算出される値を利用して、
図27の散乱放射線による輝度値のプロファイルを修正する。
【0071】
点7と点12の間における散乱放射線と全放射線の輝度値の関係がこの曲線で表わされると仮定して、この2点間を4等分する3点を取り、3点それぞれについて、散乱放射線による輝度値を算出する。そして、この算出した輝度値が正しいとする。
【0072】
一方、上記の<1−3. ディテクタ上の全ピクセルにおける散乱放射線の輝度値の計算>に基づいて計算される4次曲線からすでに散乱放射線による輝度値を計算しているので、両者の値を比較してその差を求め、3点から得られる輝度値差のプロファイルを4次曲線から計算した散乱放射線による輝度値のプロファイルから差し引くことによって修正する。
【0073】
まず、3点における散乱放射線の輝度値差の大小関係は、
(1)ピクセルナンバー順に小さくなる、
(2)ピクセルナンバー順に大きくなる、
(3)真ん中のピクセルが最大となる、
(4)真ん中のピクセルが最小となる、
の4パターンに大別できる。ピクセルナンバーに対するこの輝度値の差のプロファイルが滑らかになるようにするため、Sinカーブを採用する。それを図示したものを
図29(a)〜(d)に示す。横軸がピクセルナンバーで縦軸が上記2種類の方法で算出した散乱放射線の輝度値の差である。図のピクセルナンバー0が点7に該当し、ピクセルナンバー165 が点12に該当する。これら2つのピクセルにおける輝度値差は0であり、プロファイルの両端は0からゆっくり大きくなるので、点7および点12におけるSin カーブの位相は−π/2+2nπ(n; 整数)である。点7と点12を4等分した各領域を順に領域I、領域II、領域III、領域IVとする(
図29(a)参照)。
【0074】
パターン(1)については、領域Iで輝度値差が0から最大値に達するので、その2分の1を振幅としてSin カーブの位相が−π/2 から+π/2 まで変化するようにする。領域II〜IVは、各領域で位相が+π/2+2nπから(3/2)π+2nπに変化するよう位相の定数のパラメータを調整する。振幅は各領域の輝度値差の2分の1である。
【0075】
パターン(2)については、ピクセルに対するプロファイルがパターン(1)と左右逆になるが、上記と同様に修正できる。
【0076】
パターン(3)については、領域I及びIIで−π/2+2nπからπ/2+2nπまで、領域III及びIVではπ/2+2nπから(3/2)π+2nπまで位相が変化するようパラメータを決める。
【0077】
パターン(4)については、領域Iで−π/2 からπ/2、領域IIでπ/2 から(3/2)π、領域IIIで(3/2)πから(5/2)π、領域IVで(5/2)πから(7/2)πに位相を変化させ、同様に修正する。
【0078】
3点の輝度値の差の大小関係から上記パターンの内のいずれに該当するかを判断し、輝度値差のプロファイルを計算して、4次曲線からすでに計算している散乱放射線による輝度値からこの輝度値差を差し引くことによって、より理想に近い散乱放射線の輝度値を計算することができる。
【0079】
このように、散乱放射線の輝度値の計算に処理を追加した結果、
図27のプロファイルは
図30のようになった。これにより歯列部分で散乱線補正後の輝度値が極端に小さくなるということは回避され、散乱放射線のプロファイルも滑らかに変化していることが分かる。
【0080】
<7.生体を被写体とした場合における散乱線補正の効果>
図31(a)は生体を被写体とした測定画像を、散乱線補正を行わずに画像再構成した場合の、アキシャル画像を1箇所ピックアップして示したものである。
【0081】
図31(b)は生体を被写体とした測定画像に対して、特開2015−65993号公報で提案されている散乱線補正を適用した後に画像再構成した場合の、アキシャル画像を1箇所ピックアップして示したものである。
【0082】
図31(c)は生体を被写体とした測定画像に対して、上述した<1.ディテクタの各ピクセルで取り込まれる散乱放射線の計算>で説明した方法で算出した散乱放射線の輝度値を用いて散乱線補正を行った後に画像再構成した場合の、アキシャル画像を1箇所ピックアップして示したものである。
【0083】
図31(b)では歯列の内側や歯間に沿った方向や臼歯間にアーチファクトが現れており、
図31(a)と比較してそれほど変化がなくあまり画質が改善されていないが、
図31(c)ではアーチファクトが解消されている。すなわち、上述した<1.ディテクタの各ピクセルで取り込まれる散乱放射線の計算>で説明した方法で算出した散乱放射線の輝度値を用いた散乱線補正は、生体を被写体とした場合でも有効であることが分かる。
【0084】
<8.散乱線補正装置>
図32は、本発明の一実施形態に係る散乱線補正装置100の構成を示す図である。
【0085】
散乱線補正装置100は、ROM12やHDD17に格納されているプログラムに従って散乱線補正装置100全体を制御するCPU11と、固定的なプログラムやデータを記録するROM12と、作業メモリを提供するRAM13と、外部との通信を行うための通信インターフェース部14と、画像データを一時的に記憶するVRAM15と、VRAM15に記憶された画像データに基づいて画像を表示する表示部16と、詳細は後述するHDD17と、キーボード、ポインティングデバイス等の操作部18とを備えている。
【0086】
散乱線補正装置100の通信インターフェース部14と外部との通信方法は、有線通信でもよく、無線通信でもよく、有線と無線を組み合わせた通信であってもよい。散乱線補正装置100としては、例えば、パーソナルコンピュータを挙げることができる。
【0087】
HDD17は、画像再構成処理プログラム、散乱線補正プログラム等の各種プログラム、及び、歯科用X線撮影装置によるCT撮影の撮影データ(測定画像)、上記画像再構成処理プログラムによって生成された再構成ボリュームデータ、各種プログラムを実行する際に用いられる各種パラメータの設定値等の各種データを記憶する。
【0088】
また、散乱線補正装置100は、ディテクタからの情報を取得して測定画像を生成し、その生成した測定画像をHDD17に記憶してもよく、通信インターフェース部14を用いて外部から測定画像を取得し、その取得した測定画像をHDD17に記憶してもよい。外部の装置がCT再構成をおこなってもよい。この場合、本実施形態とは異なりHDD17が画像再構成処理プログラムを記憶しない構成にすることが可能であり、散乱線補正装置100が散乱線補正後の測定画像を、CT再構成を行う外部の装置に送信すればよい。
【0089】
画像再構成処理プログラムは、歯科用X線撮影装置によるCT撮影の撮影データを再構成して再構成ボリュームデータを生成するためのプログラムである。散乱線補正プログラムは、散乱線補正を行うためのプログラムである。なお、散乱線補正プログラムは、散乱線強度を算出する散乱線強度算出プログラムを含む。
【0090】
HDD17に記憶されている各プログラムは、散乱線補正装置100にプリインストールされていてもよく、光ディスク等の記憶媒体に格納された形態で流通されて散乱線補正装置100にインストールされてもよく、ネットワークを介して流通されて散乱線補正装置100にインストールされてもよい。HDD17に記憶されている各プログラム及び各データの一部を、HDD17ではなくROM12に記憶するようにしてもよい。
【0091】
HDD17は、被写体のX線撮影で用いられるディテクタ上の特定のピクセル位置(例えば
図4に示す25箇所の黒丸部分)の特定のフレーム(例えば上述した510個のフレーム)における全放射線強度に対する散乱放射線強度の算出結果(例えば上述した外挿データ)の比と、特定のフレームでの被写体を設けないX線撮影で特定のピクセル位置で検出される全放射線強度に対する特定のフレームでの被写体のX線撮影で前記特定のピクセル位置で検出される全放射線強度の比との関係を示す曲線式のパラメータ(例えば上述したパラメータa及びパラメータb)を記憶する。HDD17に記憶されている散乱線補正プログラムは、CPU11で実行されることで散乱線補正装置100のハードウェアを、特定のピクセル位置の特定のフレームにおいて、被写体のX線撮影で検出される全放射線強度又は直接放射線強度に対する散乱放射線強度の比を算出する算出部、及び、当該記算出部の算出結果に基づいて測定画像に対して散乱線補正を行う補正部、として機能させる。さらに、HDD17は、例えば上述した式(2)又は当該式(2)から算出される補間データを記憶してもよい。なお、HDD17に記憶されている散乱線強度算出プログラムは、CPU11で実行されることで散乱線補正装置100のハードウェアを、上記の算出部として機能させる。すなわち、散乱線補正プログラムのうち散乱線強度算出プログラムのみを実行した場合、散乱線補正装置100は、散乱線強度を算出する散乱線強度算出装置となる。
【0092】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0093】
例えば、鉛円板の代わりに、円形状以外の形状(例えば矩形形状)である鉛板材を用いてもよい。また、鉛以外のX線吸収材を用いてもよい。また、上述した実施形態のように散乱放射線の外挿データを求めるのではなく、微小な貫通孔を有するX線吸収材を用いて特定のピクセル位置の直接放射線を求めるようにしてもよい。
【0094】
例えば、上述した実施形態では、頭部ファントムにインプラント等の金属を含めていないが、頭部ファントムにインプラント等の金属を含めてもよい。