特許第6663144号(P6663144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人海上技術安全研究所の特許一覧

<>
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000002
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000003
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000004
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000005
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000006
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000007
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000008
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000009
  • 特許6663144-空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663144
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/38 20060101AFI20200227BHJP
   B63H 5/16 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   B63B1/38
   B63H5/16 C
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-57264(P2015-57264)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-175539(P2016-175539A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】川島 英幹
(72)【発明者】
【氏名】上入佐 光
(72)【発明者】
【氏名】枌原 直人
(72)【発明者】
【氏名】白石 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】拾井 隆道
(72)【発明者】
【氏名】濱田 達也
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/115567(WO,A1)
【文献】 特開2008−143345(JP,A)
【文献】 特開平04−212695(JP,A)
【文献】 特開2009−214874(JP,A)
【文献】 米国特許第7798875(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/32 − 1/40
B63H 1/14 − 1/28
B63H 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の周囲に気泡を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑に用いる気泡を噴出する空気供給口を備え、
さらに、空気潤滑用気泡対策装置として、前記船体の船尾に設けたプロペラと、前記空気供給口からの前記プロペラに流入する前記気泡を集中させ前記プロペラの翼根部に前記気泡を流す前記プロペラの前方に設けた気泡集中手段とを備え、前記気泡集中手段が負圧によって前記気泡を誘引する構造を有し、前記気泡集中手段は、前記船体と前記プロペラの間に設けたダクトであり、前記ダクトを前記船体の船尾部に支持する捻られた形状を成すダクト支持手段を前記ダクトの内側にさらに備え、前記ダクト支持手段は、前記プロペラの回転方向と同方向に捻られていることを特徴とする空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【請求項2】
前記ダクト、円筒状を成したダクトであることを特徴とする請求項1に記載の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【請求項3】
前記ダクトの後端部の直径が、前記プロペラの直径の50%以下であることを特徴とする請求項2に記載の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【請求項4】
前記ダクトの断面形状を内側に凸を成す翼型としたことを特徴とする請求項2又は請求項に記載の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【請求項5】
前記ダクトを、上流側の内直径よりも下流側の内直径が小さい加速型ダクトとしたことを特徴とする請求項2から請求項のうちの1項に記載の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【請求項6】
前記ダクトの中心を前記プロペラの軸心と一致させたことを特徴とする請求項2から請求項のうちの1項に記載の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【請求項7】
前記プロペラのピッチを、前記プロペラの前記翼根部で最大値となり翼端部で最小値となる、半径方向に減少する逓減ピッチとしたことを特徴とする請求項1から請求項のうちの1項に記載の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【請求項8】
前記プロペラを支持するプロペラボスの表面にさらに前記気泡の集中を促進する凹部を設けたことを特徴とする請求項1から請求項のうちの1項に記載の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体の周囲に気泡を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑に用いる気泡対策装置を備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船体の周囲に空気を噴出して船体表面近傍の海水に気泡を介在させることにより船舶の抵抗を低減させる空気潤滑法が、摩擦抵抗低減技術として用いられている。
しかしながら、船体の船尾に取り付けられたプロペラに気泡が流入すると、プロペラ効率の低下や船体の振動を招いてしまう。そこで、従来から気泡を除去する装置が提案されている。
【0003】
特許文献1には、船体の船尾側部分にトンネルフィン等の船尾付加物を設けることによってプロペラ上部の水流を整流及び加速させ、喫水下部分に設けた空気吹き出し孔から噴出され左右両側の船側に沿って後方に流れる気泡がプロペラに流入することを防止しようとする船舶の抵抗低減装置が開示されている。
特許文献2には、船底に複数の空気回収口を設け、船底に設けた複数の空気吹き出し口から吹き出した空気を空気回収口から船体内に回収することによって空気を除去し、空気がプロペラに流入することを防止しようとする船舶の気泡回収装置が開示されている。
特許文献3には、水噴出部をプロペラの前方に設け、水噴出部から水中へ水を噴出することによって、船首側の底部に設けた空気吹き出し口から水中に吹き出され船首から船尾へ向かって移動する気泡をプロペラから離れる方向へ誘導し、気泡がプロペラに流入することを防止しようとするプロペラの起振力抑制装置が開示されている。
また、気泡を除去する装置ではないが、特許文献4には、気液供給装置において、吐出管内に設けられ、気液流体を旋回させることによって空気を吐出管の中心側に集める旋回部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−93486号公報
【特許文献2】特開2011−213303号公報
【特許文献3】特開2014−125126号公報
【特許文献4】特開2002−52330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に記載の装置を用いたとしても、プロペラに流入しようとする気泡を合理的に除去することは困難である。
特許文献1においては、例えば図2Aに示されるように、船尾側部分においてプロペラ16の上方に位置する空気層201が、プロペラ16に流入しないように、長さの長い船尾付加物41を設けている。また、例えば図4Aに示されるように、プロペラ16の外端に近い大きな船尾付加物42を設け、船尾付加物42によってプロペラ16上部の水流を整流及び加速し、プロペラ16近傍において空気層201の気泡が滞留することを防止している。このため、船尾付加物41、42が大型となり摩擦抵抗の増加、製造コスト、取り付けやメンテナンス等の面から課題がある。また、船尾付加物41、42が、船側の空気層201に機能するとしても、船底の空気層200に対して有効に機能することは困難である。
また、特に特許文献2に記載の気泡回収装置や特許文献3に記載の水噴出部を設けようとする場合には、構成が大がかりとなり、製造コストやメンテナンス費用が増大してしまう。
また、特許文献4に記載の発明は、液体に気体を加えて気液流体にして供給する気液供給装置に関するものであり、船体の周囲に噴出された気泡がプロペラに流入することによる悪影響を防止するものではない。
【0006】
そこで本発明は、船体の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑法の効果を維持しつつ、噴出した気泡がプロペラに流入することによるプロペラ効率への悪影響を合理的に防止する空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶においては、船体の周囲に気泡を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑に用いる気泡を噴出する空気供給口を備え、さらに、空気潤滑用気泡対策装置として、船体の船尾に設けたプロペラと、前記空気供給口からの前記プロペラに流入する前記気泡を集中させ前記プロペラの翼根部に前記気泡を流すプロペラの前方に設けた気泡集中手段とを備え、前記気泡集中手段が負圧によって前記気泡を誘引する構造を有し、気泡集中手段は、船体とプロペラの間に設けたダクトであり、ダクトを船体の船尾部に支持する捻られた形状を成すダクト支持手段をダクトの内側にさらに備え、ダクト支持手段は、プロペラの回転方向と同方向に捻られていることを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、気泡集中手段によって気泡の集まり易いプロペラの翼根部への気泡の流入が促され、気泡はプロペラの翼根部に集中して後方に流れる。プロペラにおいて翼根部の部分が発生する推力は他の部分が発生する推力に比べて小さいので、プロペラへの気泡流入を防止するのではなく、気泡集中手段を設けてプロペラの翼根部への気泡の流入を促し、気泡を翼根部に集中させてプロペラの後方に流すことによって、プロペラの推力を大きく発生させる部分の気泡を確実かつ簡便に除去することができる。したがって、気泡がプロペラの推力発生に寄与する部分に流入することによるプロペラ効率の悪化を抑制でき、気泡集中手段も小型化が可能となる。これにより、船体の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑法の効果を維持しつつ、噴出した気泡がプロペラに流入することによるプロペラ効率への悪影響を合理的に防止する空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶を提供できる。また、ダクト支持手段に捻りを与えることで旋回流が作られ、気泡はその旋回流の流速の遅い中心に集められる。したがって、気泡をより一層プロペラの翼根部に集中させることができる。また、ダクト支持手段により発生する旋回流が強まり、気泡をより一層プロペラの翼根部に集中させることができる。
【0008】
請求項2記載の本発明は、ダクト、円筒状を成したダクトであることを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、ダクトに発生する負圧によって気泡が誘引され、ダクト内に気泡が集まり、気泡はプロペラの翼根部に集中して後方に流れる。また、ダクトを設けることでプロペラへの流入面における流れが遅くなり、伴流係数が良化してプロペラ効率が向上する。
【0009】
請求項3記載の本発明は、ダクトの後端部の直径が、プロペラの直径の50%以下であることを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、ダクトを出た気泡がプロペラの翼根部以外の部分に流れることが防止され、気泡はより一層プロペラの翼根部に集中して後方に流れる。したがって、気泡がプロペラの推力を発生させる部分に流れることをより確実に防止でき、ダクトも小型のものとできる
【0010】
求項記載の本発明は、ダクトの断面形状を内側に凸を成す翼型としたことを特徴とする。請求項に記載の本発明によれば、ダクトを翼型に形成することで、流速を増し気泡を中心に集め、プロペラの翼根部に集中させて後方に流すことができるとともに、分力として船体を前方に推進する揚力を増加させることができる。
【0011】
請求項記載の本発明は、ダクトを、上流側の内直径よりも下流側の内直径が小さい加速型ダクトとしたことを特徴とする。請求項に記載の本発明によれば、ダクトを加速型ダクトとすることで、流れを加速し気泡をより一層、中心寄りに集め、プロペラの翼根部に集中させることができる。
【0012】
請求項記載の本発明は、ダクトの中心をプロペラの軸心と一致させたことを特徴とする。請求項に記載の本発明によれば、ダクトの中心とプロペラの軸心を一致させることで、気泡をプロペラの翼根部に正しく集中させて後方に流すことができるとともに、ダクトの製作や設置が容易となる。
【0013】
請求項記載の本発明は、プロペラのピッチを、プロペラの翼根部で最大値となり翼端部で最小値となる、半径方向に減少する逓減ピッチとしたことを特徴とする。請求項記載の本発明によれば、プロペラの翼根部のピッチを増すことで、翼根部付近での旋回流を強くして気泡をより一層、旋回流の中心寄りに集め、プロペラの翼根部に集中させることができる。
【0014】
請求項記載の本発明は、プロペラを支持するプロペラボスの表面にさらに気泡の集中を促進する凹部を設けたことを特徴とする。請求項に記載の本発明によれば、プロペラと共に回転するプロペラボスに凹部を形成して低圧となる部分を作ることで、気泡をより一層プロペラの翼根部に集中させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、気泡集中手段によって気泡の集まり易いプロペラの翼根部への気泡の流入が促され、気泡はプロペラの翼根部に集中して後方に流れる。プロペラにおいて翼根部の部分が発生する推力は他の部分が発生する推力に比べて小さいので、プロペラへの気泡流入を防止するのではなく、気泡集中手段を設けてプロペラの翼根部への気泡の流入を促し、気泡を翼根部に集中させてプロペラの後方に流すことによって、プロペラの推力を大きく発生させる部分の気泡を確実かつ簡便に除去することができる。したがって、気泡がプロペラの推力発生に寄与する部分に流入することによるプロペラ効率の悪化を抑制でき、気泡集中手段も小型化が可能となる。これにより、船体の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑法の効果を維持しつつ、噴出した気泡がプロペラに流入することによるプロペラ効率への悪影響を合理的に防止する空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶を提供できる。また、ダクト支持手段に捻りを与えることで旋回流が作られ、気泡はその旋回流の流速の遅い中心に集められる。したがって、気泡をより一層プロペラの翼根部に集中させることができる。また、ダクト支持手段により発生する旋回流が強まり、気泡をより一層プロペラの翼根部に集中させることができる。
【0016】
また、ダクト、円筒状を成したダクトである場合には、ダクトに発生する負圧によって気泡が誘引され、ダクト内に気泡が集まり、気泡はプロペラの翼根部に集中して後方に流れる。また、ダクトを設けることでプロペラへの流入面における流れが遅くなり、伴流係数が良化してプロペラ効率が向上する。
【0017】
また、ダクトの後端部の直径が、プロペラの直径の50%以下である場合には、ダクトを出た気泡がプロペラの翼根部以外の部分に流れることが防止され、気泡はより一層プロペラの翼根部に集中して後方に流れる。したがって、気泡がプロペラの推力を発生させる部分に流れることをより確実に防止でき、ダクトも小型のものとできる
【0018】
た、ダクトの断面形状を内側に凸を成す翼型とした場合には、ダクトを翼型に形成することで、流速を増し気泡を中心に集め、プロペラの翼根部に集中させて後方に流すことができるとともに、分力として船体を前方に推進する揚力を増加させることができる。
【0019】
また、ダクトを、上流側の内直径よりも下流側の内直径が小さい加速型ダクトとした場合には、ダクトを加速型ダクトとすることで、流れを加速し、気泡をより一層、中心寄りに集め、プロペラの翼根部に集中させることができる。
【0020】
また、ダクトの中心をプロペラの軸心と一致させた場合には、ダクトの中心とプロペラの軸心を一致させることで、気泡をプロペラの翼根部に正しく集中させて後方に流すことができるとともに、ダクトの製作や設置が容易となる。
【0021】
また、プロペラのピッチを、プロペラの翼根部で最大値となり翼端部で最小値となる、半径方向に減少する逓減ピッチとした場合には、プロペラの翼根部のピッチを増すことで、翼根部付近での旋回流を強くして気泡をより一層、旋回流の中心寄りに集め、プロペラの翼根部に集中させることができる。
【0022】
また、プロペラを支持するプロペラボスの表面にさらに気泡の集中を促進する凹部を設けた場合には、プロペラの回転と共に回転するプロペラボスに凹部を形成して低圧となる部分を作ることで、気泡をより一層プロペラの翼根部に集中させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態による空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶の概略構成図
図2】同船舶に用いる空気潤滑用気泡対策装置を示す概略構成図
図3】同船舶に用いる気泡集中手段(ダクト)の要部を示す一部断面構成図
図4】同船舶に用いる気泡集中手段(ダクト)のダクト内圧力分布図
図5】同船舶に用いる逓減ピッチプロペラと通常プロペラのピッチ分布を示すグラフ
図6】同船舶に用いる気泡集中手段のプロペラボスを示す概略構成図
図7】模型船におけるダクト有りの場合とダクト無しの場合の船尾部周辺のプロペラ位置横断面における流速分布を示す図
図8】本発明の他の実施形態による空気潤滑用気泡対策装置の気泡集中手段を後方から前方視した状態を示す要部正面図
図9】本発明の更に他の実施形態による空気潤滑用気泡対策装置のダクトを後方から前方視した状態を示す要部正面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態による空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶について説明する。
【0025】
図1は本発明の一実施形態による空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶の概略構成図、 図2は同船舶に用いる空気潤滑用気泡対策装置を示す一部断面側面図、図3は同船舶に用いる気泡集中手段(ダクト)の要部を示す一部断面構成図、図4は同船舶に用いる気泡集中手段(ダクト)のダクト内圧力分布図、図5は同船舶に用いる逓減ピッチプロペラと通常プロペラのピッチ分布を示すグラフ、図6は同船舶に用いる気泡集中手段のプロペラボスを示す概略構成図、図7は模型船におけるダクト有りの場合とダクト無しの場合の船尾部周辺のプロペラ位置横断面における流速分布を示す図である。
【0026】
図1に示すように、船舶は、船体1の船尾に設けたプロペラ10と、プロペラ10の前方に設けた気泡集中手段20を有している。
また、船舶は、船体1の船首側の上甲板に設けた通風筒30と、船体1の船底に設けた空気供給口40と、通風筒30と空気供給口40とを連通する空気経路32を有している。通風筒30の上端には開口31を備え、船体1内部の船首倉庫33には送気手段34を備えている。送気手段34は、例えばブロワ(送風機)などにより構成することができ、空気経路32に設けられ、空気を吸い込み、必要な圧力に加圧して空気潤滑用空気を船底の空気供給口40から吹き出す。
このように、開口31から吸入された空気は空気経路32を通って空気供給口40から気泡として噴出される。空気供給口40から気泡として気体を供給することで、海面S.L.よりも下側の船体1の周囲に気泡を供給して高い摩擦抵抗低減効果を得ることができる。
また、船首倉庫33の下部には床面に溜まった水を船外に排出する排水手段35を有している。これにより、万が一、通風筒30内に水が侵入しても、排水手段35により船外に排出することができる。
空気供給口40から噴出された気泡は、直径が数ミリメートルの気泡であるため、浮力効果により船底に張り付くようにして船底に沿って船尾側に流れて行く。
【0027】
図2に示すように、プロペラ10は中心部にプロペラボス13を有し、本実施形態において気泡集中手段20は、船体1とプロペラ10の間に設けた円筒状を成したダクトとしている。
また、ダクト(気泡集中手段)20の後端部21の直径は、プロペラ10の直径Dpの50%以下としている。
図4に示すように、ダクト20は、ダクト20内の翼面の凸部(点線αで囲んだ部分)の圧力が低くなる。したがって、プロペラ10の前方にダクト(気泡集中手段)20を備えることによって、空気供給口40から噴出され船尾側に到達した気泡は、ダクト20に発生する負圧によって誘引されてダクト20内に集まり、プロペラ10の翼根部11に集中して後方に流される。
翼根部11の部分が発生する推力は、プロペラ10の他の部分が発生する推力に比べて小さいので、プロペラ10への気泡流入を防止するのではなく、ダクト20によって気泡の集まり易いプロペラ10の翼根部11への気泡の流入を促し、気泡を翼根部11に集中させてプロペラ10の後方に流すことによって、プロペラ10の推力を大きく発生させる部分の気泡を確実かつ簡便に除去することができる。したがって、気泡がプロペラ10の推力発生に寄与する部分に流入することによるプロペラ効率の悪化を抑制でき、ダクト20も小型化が可能となる。
また、ダクト20の後端部21の直径をプロペラ10の直径Dpの50%以下、好ましくは40%〜50%とすることで、ダクト20を出た気泡がプロペラ10の翼根部11以外の部分に流れることが防止され、気泡はより一層プロペラ10の翼根部11に集中して後方に流れる。したがって、プロペラ10の推力が大きく発生する部分である0.7R付近(プロペラ直径Dpの70%部分)に気泡が流れることをより確実に防止でき、ダクト20も小型のものとできる。
【0028】
図2及び図3に示すように、ダクト20の断面形状は内側に凸を成す翼型としている。ダクト20を翼型に形成することで、流速を増し気泡を中心に集め、プロペラ10の翼根部11に集中させて後方に流すことができるとともに、分力として船体1を前方に推進する揚力を増加させることができる。
【0029】
図2及び図3に示すように、ダクト20を船体1の船尾部2に支持する捻られた形状を成すダクト支持手段22をダクト20の内側にさらに備えている。本実施形態においてダクト支持手段22は支柱としている。ダクト20は、支柱22を介して船体1の船尾部2に取り付けられる。
ダクト支持手段22に捻りを与えることで旋回流が作られ、気泡がその旋回流の流速の遅い中心に集められるので、気泡をより一層プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
さらに、ダクト支持手段22は、プロペラ10の回転方向と同方向に捻られている。ダクト支持手段22の捻りをプロペラ10の回転方向と同方向とすることで、旋回流を強めて気泡をより一層プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0030】
図2及び図3に示すように、ダクト20は、上流側となる前端部23の内直径よりも下流側となる後端部21の内直径が小さい加速型ダクトである。ダクト20を加速型ダクトとすることで、流れを加速し気泡をより一層、中心寄りに集め、プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0031】
図3に示すように、ダクト20の中心をプロペラ10の軸心と一致させている。ダクト20を軸対称形に形成し、プロペラ10の駆動軸とダクト20の中心軸を一致させて取り付けることで、気泡をプロペラ10の翼根部11に正しく集中させて後方に流すことができるとともに、ダクト20の製作や設置が容易となる。
【0032】
図5に逓減ピッチプロペラと通常プロペラのピッチ分布を示す。
プロペラ10は、プロペラボス13の半径をr1、翼根部11を半径r1から半径r2とする。プロペラ10の半径Rは1/2Dpであり、Hはピッチである。翼根部11(r1からr2)は、プロペラ10の直径Dpの20%以上40%以下である。
本実施形態によるプロペラ10のピッチHは、プロペラ10の翼根部11で最大値Hmaxとなり翼端部12で最小値Hminとなる、半径R方向に減少する逓減ピッチとしている。なお、図5に示す比較例は一定ピッチを示している。
プロペラ10の翼根部11のピッチを増すことで、翼根部11付近での旋回流を強くして気泡をより一層、旋回流の中心寄りに集め、プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0033】
図6は同船舶に用いる気泡集中手段のプロペラボスを示す概略構成図であり、図6(a)はプロペラボスを後方から前方視した状態を示す要部正面図、図6(b)はプロペラボスを側方視した状態を示す要部側面図である。
図6に示すように、プロペラ10を支持するプロペラボス13の表面にさらに気泡の集中を促進する凹部14を設けている。凹部14は、プロペラ10の複数の羽根と羽根の間に切り込み状に形成され、プロペラ10の回転方向にそれぞれ壁面14aを有する。また、凹部14の船長方向はプロペラボス13の前方からプロペラ10の後方に亘って形成され、前方側には壁面14bを有する。
プロペラ10の回転と共に回転するプロペラボス13の凹部14は低圧となり気泡が集まるので、気泡をより一層プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0034】
図7に模型船におけるダクト有りの場合とダクト無しの場合の船尾部周辺のプロペラ位置横断面における流速分布を示す。図7(a)はダクト無しの場合を示し、図7(b)はダクト有りの場合をしており、色が濃い部分ほど流速が速いことを表している。
図7(b)に示すように、ダクト20を設置することによって、ダクト20を設置しない場合と比べてプロペラ10への流入面における流れを遅く出来ることが分かる。空気潤滑を実施すると摩擦抵抗が低減し、船体表面の流体を引きずる効果が小さくなるため、船体表面に発達する境界層内の速度分布が変化し、プロペラ面での流速が速くなり、自航要素の内、伴流係数が悪化する。ダクト20は、それ自体が発生する伴流により伴流係数を良化できる。また、例えばポリマー投入など、その他の摩擦抵抗低減方法を実施した場合においても伴流係数の悪化が考えられるが、ダクト20を設置することによって伴流係数を良化できる。
したがって、ダクト20を設置することで、気泡をプロペラ10の翼根部11に集中させてプロペラ効率の悪化を抑制できるとともに、伴流係数を良化してプロペラ効率を向上できる。
【0035】
図8を用いて、本発明の他の実施形態による空気潤滑用気泡対策装置を説明する。図8は本発明の他の実施形態による空気潤滑用気泡対策装置の気泡集中手段を後方から前方視した状態を示す要部正面図である。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態による気泡集中手段20は、円筒状を成したダクトではなく、半円状を成したダクト200(図8(a))、中心角を120度の角度の略円弧状に形成したダクト210(図8(b))、中心角を210度の角度の略円弧状に形成したダクト220(図8(c))、又はダクト部分を除去したフィン230(支柱)とした点において上記した実施形態と異なる。
【0036】
図8(a)のダクト200は、中心角が180度であり、ダクト中心線Ydが、船体1を後方から前方視した状態でプロペラ10の上下方向のプロペラ中心線Ypに対してプロペラ10の回転方向に傾き角θを有するように、ダクト支持手段(支柱)201を介して船体1の船尾部2に取り付けられる。
図8(b)のダクト210は、中心角が120度である。ダクト中心線Ydがプロペラ中心線Ypと一致するように、ダクト支持手段(支柱)211を介して船体1の船尾部2に取り付けられる。
図8(c)のダクト220は、中心角が210度であり、ダクト中心線Ydが、船体1を後方から前方視した状態でプロペラ10の上下方向のプロペラ中心線Ypに対してプロペラ10の回転方向に傾き角θを有するように、ダクト支持手段(支柱)221を介して船体1の船尾部2に取り付けられる。
プロペラ10の前方に気泡集中手段であるダクト200(210、220)を備えることによって、空気供給口40から噴出され船尾側に到達した気泡は、ダクト200(210、220)に発生する負圧によって誘引されてダクト200(210、220)内に集まり、プロペラ10の翼根部11に集中して後方に流すことができる。
なお、本実施形態によるダクト200、210、220は、内部を通過する流れを速くして気泡を周辺から誘引し、プロペラ10の作り出す旋回流の作用も利用してダクト200、210、220の中心部に気泡を集め、プロペラ10の翼根部11に気泡を集中させ後方に流す思想に基づいているため、全周ダクトでなくても実質的にプロペラ10の推進力を損なわない気泡除去効果が期待できる。
【0037】
図8(d)の複数のフィン(支柱)230は、船体1の船尾部2に取り付けられ、フィン230はプロペラ10の回転方向と同方向に捻られている。フィン230の捻りをプロペラ10の回転方向と同方向とすることで、旋回流を強めて気泡をより一層プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0038】
図9を用いて、本発明の更に他の実施形態による空気潤滑用気泡対策装置を説明する。図9は本発明の更に他の実施形態による空気潤滑用気泡対策装置のダクトを後方から前方視した状態を示す要部正面図である。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態によるダクト支持手段(支柱)300は、4つの支柱からなり、ダクト20の中心軸に対して放射状に配置される。ダクト20は、4つの支柱を介して船体1の船尾部2に取り付けられる。
また、ダクト支持手段300は、プロペラ10の回転方向と逆方向に捻られている。ダクト20に流入した流れは、プロペラ10の回転方向と逆方向に捻りを有した支持手段300によりプロペラ10の回転方向と逆向きに回転流化され、プロペラ10に対向流として流入する。したがって、気泡集中手段(ダクト)20に発生する負圧によって気泡を集め、プロペラ10の翼根部11に集中して後方に流すことでプロペラ効率を向上させると共に、流れがプロペラ10に対向流として流入することで、プロペラ効率の一層の向上が図れる。
【0039】
以上のように、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト等の気泡集中手段20によって気泡の集まり易いプロペラ10の翼根部11への気泡の流入が促され、気泡はプロペラ10の翼根部11に集中して後方に流れる。プロペラ10において翼根部11の部分が発生する推力は他の部分が発生する推力に比べて小さいので、プロペラ10への気泡流入を防止するのではなく、気泡集中手段20を設けてプロペラ10の翼根部11への気泡の流入を促し、気泡を翼根部11に集中させてプロペラ10の後方に流すことによって、プロペラ10の推力を大きく発生させる部分の気泡を確実かつ簡便に除去することができる。したがって、気泡がプロペラ10の推力発生に寄与する部分に流入することによるプロペラ効率の悪化を抑制でき、気泡集中手段20も小型化が可能となる。
【0040】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、気泡集中手段を船体1とプロペラ10の間に設けた円筒状を成したダクト20としたことで、ダクト20に発生する負圧によって気泡が誘引され、ダクト20内に気泡が集まり、気泡はプロペラ10の翼根部11に集中して後方に流れる。また、ダクト20を設けることでプロペラ10への流入面における流れが遅くなり、伴流係数が良化してプロペラ効率が向上する。
【0041】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト20の後端部21の直径をプロペラ10の直径Dpの50%以下としたことで、ダクト20を出た気泡がプロペラ10の翼根部11以外の部分に流れることが防止され、気泡はより一層プロペラ10の翼根部11に集中して後方に流れる。したがって、気泡がプロペラ10の推力を発生させる部分に流れることをより確実に防止でき、ダクト20も小型のものとできる。
【0042】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト20を船体1の船尾部2に支持する捻られた形状を成すダクト支持手段(支柱)22をダクト20の内側にさらに備えたことで、旋回流が作られ、気泡はその旋回流の流速の遅い中心に集められる。したがって、気泡をより一層プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0043】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト支持手段22をプロペラ10の回転方向と同方向に捻ることで、ダクト支持手段22により発生する旋回流が強まり、気泡をより一層プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0044】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト20の断面形状を内側に凸を成す翼型としたことで、流速を増し気泡を中心に集め、プロペラ10の翼根部11に集中させて後方に流すことができるとともに、分力として船体1を前方に推進する揚力を増加させることができる。
【0045】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト20を、上流側の内直径よりも下流側の内直径が小さい加速型ダクトとしたことで、流れを加速し、気泡をより一層、中心寄りに集め、プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0046】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト20の中心をプロペラ10の軸心と一致させたことで、気泡をプロペラ10の翼根部11に正しく集中させて後方に流すことができるとともに、ダクト20の製作や設置が容易となる。
【0047】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、プロペラ20のピッチHを、プロペラ10の翼根部11で最大値となり翼端部12で最小値となる、半径方向に減少する逓減ピッチとしたことで、プロペラ10の翼根部11のピッチが増し、翼根部11付近での旋回流を強くして気泡をより一層、旋回流の中心寄りに集め、プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0048】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、プロペラ10を支持するプロペラボス13の表面にさらに気泡の集中を促進する凹部14を設けたことで、プロペラ10の回転と共に回転するプロペラボス13に低圧となる部分が形成され、気泡をより一層プロペラ10の翼根部11に集中させることができる。
【0049】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置によれば、ダクト支持手段22をプロペラ10の回転方向と逆方向に捻った場合には、流れを対向流化してプロペラ効率を向上させることができる。
【0050】
また、本実施の形態による空気潤滑用気泡対策装置を船舶に備えたことで、船体1の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑法の効果を維持しつつ、噴出した気泡がプロペラ10に流入することによるプロペラ効率への悪影響を合理的に防止する空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の空気潤滑用気泡対策装置を備えた船舶は、気泡を翼根部に集中させてプロペラの後方に流すことによって、プロペラの推力を大きく発生させる部分の気泡を確実かつ簡便に除去することができるので、気泡がプロペラに流入することによるプロペラ効率の悪化を抑制できる。したがって、船体の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑法を用いる船舶のみならず空気膜式の船底から溢流してプロペラに流入する気泡の対策にも適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 船体
2 船尾部
10 プロペラ
11 翼根部
14 凹部
20 気泡集中手段(ダクト)
21 後端部
22 ダクト支持手段(支柱)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9