(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、本発明の液圧発生装置を車両用ブレーキシステムに適用した場合を例として説明する。
【0020】
車両用ブレーキシステムAは、
図1に示すように、原動機(エンジンや電動モータなど)の起動時に作動するバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、原動機の停止時などに作動する油圧式のブレーキシステムの双方を備えるものである。
【0021】
車両用ブレーキシステムAは、モータを併用するハイブリッド自動車やモータのみを動力源とする電気自動車・燃料電池自動車や、エンジン(内燃機関)のみを動力源とする自動車に搭載することができる。
【0022】
車両用ブレーキシステムAは、ブレーキペダルP(特許請求の範囲における「ブレーキ操作子」)のストローク量(作動量)に応じてブレーキ液圧を発生させるとともに、車両挙動の安定化を支援する液圧発生装置1を備えている。
【0023】
液圧発生装置1は、基体100と、ブレーキペダルPのストローク量に応じてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ10と、ブレーキペダルPに擬似的な操作反力を付与するストロークシミュレータ40と、モータ24を駆動源としてブレーキ液圧を発生させるスレーブシリンダ20と、を備えている。さらに、液圧発生装置1は、車輪ブレーキBRの各ホイールシリンダWに作用するブレーキ液の液圧を制御し、車両挙動の安定化を支援する液圧制御装置30と、電子制御装置90(特許請求の範囲における「制御装置」)と、リザーバタンク80と、を備えている。
【0024】
なお、以下の説明における各方向は、液圧発生装置1を説明する上で便宜上設定したものであるが、液圧発生装置1を車両に搭載したときの方向と概ね一致している。つまり、ブレーキペダルPを踏み込んだときのロッドP1の移動方向を前方(前端側)とし、ブレーキペダルPが戻ったときのロッドP1の移動方向を後方(後端側)としている(
図2参照)。さらに、ロッドP1の移動方向(前後方向)に対して水平に直交する方向を左右方向としている(
図2参照)。
【0025】
基体100は、車両に搭載される金属製のブロックであり(
図3参照)、基体100の内部には三つのシリンダ穴11,21,41および複数の液圧路2a,2b,3,4,5a,5b,71,72,73,74などが形成されている。また、基体100には、リザーバタンク80およびモータ24などの各種部品が取り付けられる。
【0026】
基体100内には、
図7に示すように、有底円筒状の第一シリンダ穴11、第二シリンダ穴21および第三シリンダ穴41が形成されている。各シリンダ穴11,21,41は、前後方向に延在されており、各シリンダ穴11,21,41の軸線L1,L2,L3は平行かつ並列に配置されている。また、各シリンダ穴11,21,41の後端部は基体100の後面101b,102bに開口している。
【0027】
マスタシリンダ10は、
図1に示すように、タンデムピストン型であり、第一シリンダ穴11に挿入された二つの第一ピストン12a,12b(セコンダリピストンおよびプライマリピストン)と、第一シリンダ穴11内に収容された二つのコイルばね17a,17bと、を備えている。
【0028】
第一シリンダ穴11の底面11aと、底側の第一ピストン12a(セコンダリピストン)との間には底側圧力室16aが形成されている。底側圧力室16aにはコイルばね17aが収容されている。コイルばね17aは、底面11a側に移動した第一ピストン12aを開口部11b側に押し戻すものである。
【0029】
底側の第一ピストン12aと、開口側の第一ピストン12b(プライマリピストン)との間には開口側圧力室16bが形成されている。また、開口側圧力室16bにはコイルばね17bが収容されている。コイルばね17bは、底面11a側に移動した第一ピストン12bを開口部11b側に押し戻すものである。
【0030】
ブレーキペダルPのロッドP1は、第一シリンダ穴11内に挿入されている。ロッドP1の先端部は、開口側の第一ピストン12bに連結されている。これにより、開口側の第一ピストン12bは、ロッドP1を介してブレーキペダルPに連結されている。
両第一ピストン12a,12bは、ブレーキペダルPの踏力を受けて第一シリンダ穴11内を摺動し、底側圧力室16a内および開口側圧力室16b内のブレーキ液を加圧する。
【0031】
リザーバタンク80は、ブレーキ液をリザーバユニオンポート81,82に補給するための容器であり、基体100の上面101eに取り付けられている(
図2参照)。リザーバタンク80の下面に突設された二つの給液部は、基体100の上面101eに形成された二つのリザーバユニオンポート81,82に挿入されている。リザーバユニオンポート81,82を通じてリザーバタンク80から底側圧力室16a内および開口側圧力室16b内にブレーキ液が補給される。
【0032】
ストロークシミュレータ40は、第三シリンダ穴41に挿入された第三ピストン42と、第三シリンダ穴41の開口部41bを閉塞する蓋部材44と、第三ピストン42と蓋部材44との間に収容された二つのコイルばね43a,43bと、を備えている。
【0033】
第三シリンダ穴41の底面41aと第三ピストン42との間には圧力室45が形成されている。第三シリンダ穴41内の圧力室45は、後記する分岐液圧路3および第二メイン液圧路2bを介して、第一シリンダ穴11の開口側圧力室16bに通じている。
ストロークシミュレータ40では、マスタシリンダ10の開口側圧力室16bで発生したブレーキ液圧によって、ストロークシミュレータ40の第三ピストン42がコイルばね43a,43bの付勢力に抗して移動し、付勢された第三ピストン42によってブレーキペダルPに擬似的な操作反力が付与される。
【0034】
スレーブシリンダ20は、シングルピストン型であり、第二シリンダ穴21に挿入された第二ピストン22と、第二シリンダ穴21内に収容されたコイルばね23と、モータ24と、駆動伝達部25と、を備えている。
【0035】
第二シリンダ穴21の底面21aと、第二ピストン22との間には圧力室26が形成されている。また、圧力室26にはコイルばね23が収容されている。コイルばね23は、底面21a側に移動した第二ピストン22を開口部21b側に押し戻すものである。
【0036】
モータ24は、後記する電子制御装置90によって駆動制御される電動サーボモータである。モータ24の後面の中心部から後方に向けて出力軸24aが突出している。
モータ24は、基体100のフランジ部103の前側の面に取り付けられている(
図4参照)。出力軸24aは、フランジ部103に形成された挿通穴103cに挿通されており、フランジ部103の後方に突出している。出力軸24aの後端部には、駆動側プーリー24bが取り付けられている。
【0037】
駆動伝達部25は、モータ24の出力軸24aの回転駆動力を直線方向の軸力に変換する機構である。
駆動伝達部25は、ロッド25aと、ロッド25aを取り囲んでいる筒状のナット部材25bと、ナット部材25bの全周に設けられた従動側プーリー25cと、従動側プーリー25cと駆動側プーリー24bとに掛けられた無端状のベルト25dと、カバー部材25eと、を備えている。
【0038】
ロッド25aは、第二シリンダ穴21の開口部21bから第二シリンダ穴21内に挿入されており、ロッド25aの前端部が第二ピストン22に当接している。ロッド25aの後部は、基体100の後面102bから後方に突出している。
ロッド25aの後部の外周面と、ナット部材25bの内周面との間には、ボールねじ機構が設けられている。また、ナット部材25bは、ベアリングを介して基体100に固定されている。
【0039】
出力軸24aが回転すると、その回転駆動力が駆動側プーリー24b、ベルト25dおよび従動側プーリー25cを介してナット部材25bに入力される。そして、ナット部材25bとロッド25aとの間に設けられたボールねじ機構によって、ロッド25aに直線方向の軸力が付与され、ロッド25aが前後方向に進退移動する。
ロッド25aが前方に移動したときには、第二ピストン22がロッド25aからの入力を受けて第二シリンダ穴21内を摺動し、圧力室26内のブレーキ液を加圧する。
【0040】
次に、基体100内に形成された各液圧路について説明する。
二つのメイン液圧路2a,2bは、
図1に示すように、マスタシリンダ10の第一シリンダ穴11を起点とする液圧路である。
第一メイン液圧路2aは、マスタシリンダ10の底側圧力室16aから液圧制御装置30を介して二つの車輪ブレーキBR,BRに通じている。
第二メイン液圧路2bは、マスタシリンダ10の開口側圧力室16bから液圧制御装置30を介して他の二つの車輪ブレーキBR,BRに通じている。
【0041】
分岐液圧路3は、ストロークシミュレータ40の圧力室45から第二メイン液圧路2bに至る液圧路である。分岐液圧路3には常閉型電磁弁8が設けられている。常閉型電磁弁8は分岐液圧路3を開閉するものである。
【0042】
二つの連通路5a,5bは、スレーブシリンダ20の第二シリンダ穴21を起点とする液圧路である。両連通路5a,5bは、共通液圧路4に合流して、第二シリンダ穴21に通じている。
第一連通路5aは、第二シリンダ穴21内の圧力室26から第一メイン液圧路2aに至る流路であり、第二連通路5bは、圧力室26から第二メイン液圧路2bに至る流路である。
【0043】
第一メイン液圧路2aと第一連通路5aとの連結部位には、三方向弁である第一切替弁51が設けられている。第一切替弁51は、2ポジション3ポートの電磁弁である。
第一切替弁51が
図1に示す第一ポジションの状態では、第一メイン液圧路2aの上流側(マスタシリンダ10側)と下流側(車輪ブレーキBR側)とが連通し、第一メイン液圧路2aと第一連通路5aとが遮断される。
第一切替弁51が第二ポジションの状態では、第一メイン液圧路2aの上流側と下流側とが遮断され、第一連通路5aと第一メイン液圧路2aの下流側とが連通する。
【0044】
第二メイン液圧路2bと第二連通路5bとの連結部位には、三方向弁である第二切替弁52が設けられている。第二切替弁52は、2ポジション3ポートの電磁弁である。
第二切替弁52が
図1に示す第一ポジションの状態では、第二メイン液圧路2bの上流側(マスタシリンダ10側)と下流側(車輪ブレーキBR側)とが連通し、第二メイン液圧路2bと第二連通路5bとが遮断される。
第二切替弁52が第二ポジションの状態では、第二メイン液圧路2bの上流側と下流側とが遮断され、第二連通路5bと第二メイン液圧路2bの下流側とが連通する。
【0045】
第一連通路5aには、第一遮断弁61が設けられている。第一遮断弁61は常開型電磁弁である。第一遮断弁61が通電時に閉弁すると、第一遮断弁61において第一連通路5aが遮断される。
第二連通路5bには、第二遮断弁62が設けられている。第二遮断弁62は常開型電磁弁である。第二遮断弁62が通電時には閉弁すると、第二遮断弁62において第二連通路5bが遮断される。
【0046】
二つの圧力センサ6,7は、ブレーキ液圧の大きさを検知するものであり、両圧力センサ6,7で取得された情報は電子制御装置90に出力される。
第一圧力センサ6は、第一切替弁51よりも上流側に配置されており、マスタシリンダ10で発生したブレーキ液圧を検知する。
第二圧力センサ7は、第二切替弁52よりも下流側に配置されており、両連通路5a,5bと両メイン液圧路2a,2bの下流側とが連通しているときには、スレーブシリンダ20で発生したブレーキ液圧を検知する。
【0047】
スレーブシリンダ補給路73は、リザーバタンク80からスレーブシリンダ20に至る液路である。また、スレーブシリンダ補給路73は、分岐補給路73aを介して共通液圧路4に接続されている。
分岐補給路73aには、リザーバタンク80側から共通液圧路4側へのブレーキ液の流入のみを許容するチェック弁73bが設けられている。
通常時は、スレーブシリンダ補給路73を通じてリザーバタンク80からスレーブシリンダ20にブレーキ液が補給される。
また、吸液制御時には、スレーブシリンダ補給路73、分岐補給路73aおよび共通液圧路4を通じて、リザーバタンク80からスレーブシリンダ20にブレーキ液が吸液される。
【0048】
戻り液路74は、液圧制御装置30からリザーバタンク80に至る液路である。戻り液路74には、液圧制御装置30を介して各ホイールシリンダWから逃がされたブレーキ液が流入する。戻り液路74に逃がされたブレーキ液は、戻り液路74を通じてリザーバタンク80に戻される。
【0049】
液圧制御装置30は、各車輪ブレーキBRの各ホイールシリンダWに作用するブレーキ液の液圧を適宜制御するものである。液圧制御装置30は、アンチロックブレーキ制御を実行し得る構成を備えている。各ホイールシリンダWは、それぞれ配管を介して基体100の出口ポート301に接続されている。
液圧制御装置30は、ホイールシリンダWに作用する液圧(以下、「ホイールシリンダ圧」という)を増圧、保持または減圧させることができる。液圧制御装置30は、入口弁31、出口弁32、チェック弁33を備えている。
【0050】
入口弁31は、第一メイン液圧路2aから二つの車輪ブレーキBR,BRへ至る二つの液圧路と、第二メイン液圧路2bから二つの車輪ブレーキBR,BRへ至る二つの液圧路とに一つずつ配置されている。
入口弁31は、常開型の比例電磁弁(リニアソレノイド弁)であり、入口弁31のコイルに流す電流値に応じて、入口弁31の開弁圧を調整可能となっている。
入口弁31は、通常時に開弁していることで、スレーブシリンダ20から各ホイールシリンダWへ液圧が付与されるのを許容している。また、入口弁31は、車輪がロックしそうになったときに電子制御装置90の制御により閉弁し、各ホイールシリンダWに付与される液圧を遮断する。
【0051】
出口弁32は、各ホイールシリンダWと戻り液路74との間に配置された常閉型の電磁弁である。
出口弁32は、通常時に閉弁されているが、車輪がロックしそうになったときに電子制御装置90の制御により開弁される。
【0052】
チェック弁33は、各入口弁31に並列に接続されている。チェック弁33は、ホイールシリンダW側からスレーブシリンダ20側(マスタシリンダ10側)へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。したがって、入口弁31が閉弁しているときでも、チェック弁33は、各ホイールシリンダW側からスレーブシリンダ20側へのブレーキ液の流れを許容する。
【0053】
電子制御装置90は、樹脂製の箱体であるハウジング91と、ハウジング91内に収容された制御基板(図示せず)と、を備えている。ハウジング91は、
図2に示すように、基体100の右側面101dに取り付けられている。
電子制御装置90は、
図1に示すように、両圧力センサ6,7やストロークセンサ(図示せず)などの各種センサから得られた情報や予め記憶させておいたプログラム等に基づいて、モータ24の作動や各弁の開閉を制御する。
【0054】
次に車両用ブレーキシステムAの動作について概略説明する。
図1に示す車両用ブレーキシステムAでは、システムが起動されると、両切替弁51,52が励磁されて、前記した第一ポジションから第二ポジションに切り替わる。
これにより、第一メイン液圧路2aの下流側と第一連通路5aとが通じるとともに、第二メイン液圧路2bの下流側と第二連通路5bとが通じる。そして、マスタシリンダ10と各ホイールシリンダWとが遮断されるとともに、スレーブシリンダ20とホイールシリンダWとが連通する。
【0055】
また、システムが起動されると、分岐液圧路3の常閉型電磁弁8は開弁される。これにより、ブレーキペダルPの操作によってマスタシリンダ10で発生した液圧は、ホイールシリンダWには伝達されずに、ストロークシミュレータ40に伝達される。
そして、ストロークシミュレータ40の圧力室45の液圧が大きくなり、第三ピストン42がコイルばね43a,43bの付勢力に抗して蓋部材44側に移動することで、ブレーキペダルPのストロークが許容され、擬似的な操作反力がブレーキペダルPに付与される。
【0056】
また、ストロークセンサ(図示せず)によって、ブレーキペダルPの踏み込みが検知されると、電子制御装置90によりスレーブシリンダ20のモータ24が駆動され、スレーブシリンダ20の第二ピストン22が底面21a側に移動する。これにより、圧力室26内のブレーキ液が加圧される。
電子制御装置90は、スレーブシリンダ20の発生液圧(第二圧力センサ7で検出された液圧)と、ブレーキペダルPの操作量に対応した要求液圧とを対比し、その対比結果に基づいてモータ24の回転速度等を制御する。
このようにして、車両用ブレーキシステムAではブレーキペダルPの操作量に応じて液圧を昇圧させる。そして、スレーブシリンダ20の発生液圧は液圧制御装置30に入力される。
【0057】
ブレーキペダルPの踏み込みが解除されると、電子制御装置90によりスレーブシリンダ20のモータ24が逆転駆動され、第二ピストン22がコイルばね23によってモータ24側に戻される。これにより、圧力室26内が降圧される。
【0058】
なお、スレーブシリンダ20のモータ24が駆動している状態で、第二圧力センサ7の検出値が判定値まで上昇しない場合は、電子制御装置90は両遮断弁61,62を閉弁するとともに、スレーブシリンダ20を加圧駆動する。
それでも第二圧力センサ7の検出値が上昇しない場合には、両遮断弁61,62よりもスレーブシリンダ20側の経路においてブレーキ液の減少が生じている可能性があるため、電子制御装置90は、マスタシリンダ10から各ホイールシリンダWに液圧が直接作用するように各弁を制御する。
【0059】
また、両遮断弁61,62を閉弁してスレーブシリンダ20を加圧駆動したときに、第二圧力センサ7の検出値が上昇した場合は、電子制御装置90は第一遮断弁61を閉弁するとともに、第二遮断弁62を開弁してスレーブシリンダ20を加圧駆動する。
その結果、第二圧力センサ7の検出値が上昇した場合には、第一メイン液圧路2aにおいてブレーキ液が減少している可能性があるため、電子制御装置90は、第二メイン液圧路2bにおいてスレーブシリンダ20による液圧の昇圧を継続する。
【0060】
一方、第一遮断弁61を閉弁するとともに第二遮断弁62を開弁してスレーブシリンダ20を加圧駆動しても、第二圧力センサ7の検出値が上昇しない場合は、電子制御装置90は第一遮断弁61を開弁するとともに、第二遮断弁62を閉弁してスレーブシリンダ20を加圧駆動する。
その結果、第二圧力センサ7の検出値が上昇した場合には、第二メイン液圧路2bにおいてブレーキ液が減少している可能性があるため、電子制御装置90は、第一メイン液圧路2aにおいてスレーブシリンダ20による液圧の昇圧を継続する。
【0061】
液圧制御装置30では、電子制御装置90により入口弁31および出口弁32の開閉状態を制御することで、各ホイールシリンダWのホイールシリンダ圧が調整される。
例えば、入口弁31が開弁し、出口弁32が閉弁した通常状態では、ブレーキペダルPを踏み込めば、スレーブシリンダ20で発生した液圧がそのままホイールシリンダWへ伝達してホイールシリンダ圧が増圧する。
また、入口弁31が閉弁し、出口弁32が開弁した状態では、ホイールシリンダWから戻り液路74側へブレーキ液が流出し、ホイールシリンダ圧が減少して減圧する。
さらに、入口弁31と出口弁32がともに閉となる状態では、ホイールシリンダ圧が保持される。
【0062】
なお、スレーブシリンダ20が作動しない状態(例えば、イグニッションOFFや、電力が得られない場合など)においては、第一切替弁51,第二切替弁52、常閉型電磁弁8が初期状態に戻る。これにより、両メイン液圧路2a,2bの上流側と下流側とが連通する。この状態では、マスタシリンダ10で発生した液圧が液圧制御装置30を介して、各ホイールシリンダWに伝達される。
【0063】
次に、本実施形態の液圧発生装置1におけるマスタシリンダ10、スレーブシリンダ20、ストロークシミュレータ40、液圧制御装置30および電子制御装置90の配置について説明する。
なお、以下の説明では、液圧発生装置1を車両に搭載した状態における各装置の配置について説明する。
【0064】
本実施形態の基体100の上部101は、
図2および
図3に示すように、略直方体形状に形成されている。上部101には、
図7に示すように、第一シリンダ穴11および第三シリンダ穴41が形成されている。上部101の上面101eには、
図2に示すように、リザーバタンク80が取り付けられている。
【0065】
基体100の上部101の上下方向および左右方向の中央部には、
図5に示すように、マスタシリンダ10の第一シリンダ穴11が形成されている(
図6参照)。
第一シリンダ穴11は有底円筒状の穴である。第一シリンダ穴11の軸線L1は、
図7に示すように、前後方向に延在している。第一シリンダ穴11の後端部は、上部101の後面101bに開口している。つまり、第一シリンダ穴11は、後方に向けて開口している。
【0066】
基体100の上部101の後面102bには、
図4に示すように、車体取付面104が形成されている。車体取付面104は、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュボードBの前面に取り付けられる部位である。
車体取付面104の中央部には、
図5に示すように、第一シリンダ穴11の開口部11bが開口している。また、車体取付面104の上下左右の四隅には、四本のスタッドボルト105が立設されている。
【0067】
基体100をダッシュボードBに取り付けるときには、
図4に示すように、エンジンルーム側(
図4の左側)から各スタッドボルト105をダッシュボードBの取付穴(図示せず)に挿入する。そして、車室側(
図4の右側)において各スタッドボルト105の先端部を車体フレーム(図示せず)に取り付ける。これにより、基体100をダッシュボードBの前面に固着させることができる。
【0068】
基体100の上部101において、第一シリンダ穴11の左方には、
図5に示すように、ストロークシミュレータ40の第三シリンダ穴41が形成されている(
図6参照)。
第三シリンダ穴41は有底円筒状の穴である。第三シリンダ穴41の軸線L3は、
図7に示すように、前後方向に延在している。
第三シリンダ穴41の軸線L3は、第一シリンダ穴11の軸線L1に平行である。このように、第一シリンダ穴11と第三シリンダ穴41とは平行かつ並列に配置されている。
第三シリンダ穴41の軸線L3と、第一シリンダ穴11の軸線L1とは、
図6に示すように、水平な基準面S1(仮想面)上において左右に並んでいる。
第一シリンダ穴11と第三シリンダ穴41との間隔は、第一シリンダ穴11の半径よりも小さく設定されており、第一シリンダ穴11と第三シリンダ穴41とは左右方向に隣接している。なお、第一シリンダ穴11の直径は、第三シリンダ穴41の直径よりも小さく形成されている。
【0069】
第三シリンダ穴41は、基体100の上部101の後面101bに開口している。つまり、第三シリンダ穴41は、後方に向けて開口している。
第三シリンダ穴41の周壁部の略左半分は、
図3に示すように、上部101の左側面101cから左方に突出している。
【0070】
基体100の下部102は、
図6に示すように、上部101に連続して形成されており、上部101の右側面101dよりも右方に突出している。また、下部102の左側面102cは、上部101の左側面101cよりも右方にオフセットされている。
下部102の後面102bは、
図7に示すように、上部101の後面101b(車体取付面104)よりも前方にオフセットされている。また、下部102の前部102aは、上部101の前面101aよりも前方に突出している。
【0071】
基体100の下部102には、
図5に示すように、スレーブシリンダ20の第二シリンダ穴21が形成されている(
図6参照)。
第二シリンダ穴21は、有底円筒状の穴である。第二シリンダ穴21の軸線L2は、
図7に示すように、前後方向に延在している。
第二シリンダ穴21は、
図6に示すように、第一シリンダ穴11および第三シリンダ穴41よりも下方に配置されており、第二シリンダ穴21は、第一シリンダ穴11の右斜め下方に配置されている。
【0072】
第二シリンダ穴21の軸線L2は、
図7に示すように、第一シリンダ穴11の軸線L1および第三シリンダ穴41の軸線L3に平行である。このように、第一シリンダ穴11、第二シリンダ穴21および第三シリンダ穴41は平行かつ並列に配置されている。
第二シリンダ穴21は、基体100の下部102の後面102bに開口している。つまり、第二シリンダ穴21は、後方に向けて開口している。
【0073】
基体100の下部102の後端部には、
図6に示すように、左方に向けて突出したフランジ部103が形成されている。フランジ部103は、下部102の左側面102cに対して垂直に立設された板状の部位である。
【0074】
図4に示すように、フランジ部103の前側の面は、モータ24が取り付けられるモータ取付面103aである。また、フランジ部103の後側の面は、駆動伝達部25が取り付けられる駆動伝達部取付面103bである。
フランジ部103の駆動伝達部取付面103bは、下部102の後面102bに連続して形成されており、同一平面を構成している。そして、駆動伝達部取付面103bは、下部102の後面102bと同様に、上部101の後面101bよりも前方にオフセットされている。つまり、駆動伝達部取付面103bは、上部101の車体取付面104よりも前方に配置されている。
【0075】
フランジ部103のモータ取付面103aには、モータ24が取り付けられている。モータ24の前端面は、基体100の上部101の前面101aよりも後方に配置されている。モータ24は、基体100の前後方向および左右方向の中央に近い位置に配置されている。
【0076】
フランジ部103には、挿通穴103cが前後方向に貫通している。モータ24の後面から後方に向けて突出した出力軸24aは、挿通穴103cに挿入されており、挿通穴103cを通じて駆動伝達部取付面103bから後方に向けて突出している。
【0077】
フランジ部103の挿通穴103cは、
図6に示すように、第一シリンダ穴11および第三シリンダ穴41よりも下方で、第一シリンダ穴11の左斜め下方に配置されている。
したがって、モータ24をフランジ部103に取り付けると、出力軸24aは、
図5に示すように、第一シリンダ穴11および第三シリンダ穴41よりも下方で、第一シリンダ穴11の左斜め下方に配置される。
【0078】
モータ24をフランジ部103に取り付けた状態では、
図4に示すように、出力軸24aの軸線L4は、前後方向に延在している。
出力軸24aの軸線L4は、各シリンダ穴11,21,41の軸線L1,L2,L3に平行である。このように、各シリンダ穴11,21,41と、出力軸24aとは平行かつ並列に配置されている。
また、出力軸24aの軸線L4と第二シリンダ穴21の軸線L2とは、
図5に示すように、左右方向に水平に並んで配置される。
【0079】
図1に示すように、基体100の下部102の後面102bおよびフランジ部103の駆動伝達部取付面103bには、駆動伝達部25の各部品が組み付けられる。
図4に示すように、駆動伝達部25のカバー部材25eの後端部が上部101の車体取付面104よりも後方に突出しないように、車体取付面104に対する下部102の後面102bおよびフランジ部103の駆動伝達部取付面103bの前方へのオフセット量が設定されている。
したがって、基体100の車体取付面104をダッシュボードBに取り付けたときに、ダッシュボードBの前面と、基体100のフランジ部103の駆動伝達部取付面103bとの間に駆動伝達部25が収まる。
【0080】
基体100の上部101の右側面101dには、
図7に示すように、各種の弁51,52,61,62,8,31,32(
図1参照)および両圧力センサ6,7(
図1参照)を取り付けるための複数の装着穴110が形成されている。
【0081】
上部101の右側面101dには、
図2に示すように、電子制御装置90のハウジング91が取り付けられている。各装着穴110(
図7参照)に取り付けられた各種の弁51,52,61,62,8,31,32(
図1参照)および両圧力センサ6,7(
図1参照)は、ハウジング91に覆われている。
【0082】
ハウジング91は、第二シリンダ穴21の上方に配置されている。このように、ハウジング91とスレーブシリンダ20とは、基体100の上部101の右側で上下方向に鉛直に並んで配置されている(
図5参照)。
【0083】
ハウジング91の前端部は、
図3に示すように、基体100の上部101の前面101aよりも前方に突出している。ハウジング91の前部の左側面には、外部接続用コネクタ92およびモータ接続用コネクタ93が設けられている。
外部接続用コネクタ92は、外部配線ケーブル(図示せず)の端部に設けられたコネクタが接続される部位である。外部接続用コネクタ92は、上部101の前面101aの前方に延在している。
モータ接続用コネクタ93は、外部接続用コネクタ92の下方に配置されている。モータ接続用コネクタ93は、ケーブル(図示せず)を介してモータ24のモータ用コネクタ24cに接続される部位である。
【0084】
本実施形態の液圧発生装置1では、
図5に示すように、第二シリンダ穴21およびモータ24(出力軸24a)は、第一シリンダ穴11の軸線L1および第三シリンダ穴41の軸線L3を含む水平な基準面S1(仮想面)よりも下方に配置されている。
また、第三シリンダ穴41およびモータ24(出力軸24a)は、第一シリンダ穴11を含む鉛直な基準面S2(仮想面)よりも左方に配置されている。さらに、第二シリンダ穴21は、第一シリンダ穴11を含む鉛直な基準面S2よりも右方に配置されている。
【0085】
このように、液圧発生装置1では、第二シリンダ穴21とモータ24とが第一シリンダ穴11よりも下方で、第一シリンダ穴11の軸線L1を含む鉛直な基準面S2の左右に配置されている。
したがって、液圧発生装置1を前後方向から見たときに、第一シリンダ穴11の中心点(軸線L1)、第二シリンダ穴21の中心点(軸線L2)および出力軸24aの中心点(軸線L4)を結んだ線が三角形となる位置関係に配置されている。つまり、液圧発生装置1を前後方向から見たときに、第一シリンダ穴11(マスタシリンダ10)を三角形の頂点として、その三角形の底辺の左右端部に第二シリンダ穴21(スレーブシリンダ20)および出力軸24a(モータ24)が配置されている。
【0086】
以上のような液圧発生装置1では、
図4に示すように、各シリンダ穴11,21,41の軸線L1,L2,L3およびモータ24の出力軸24aの軸線L4を並列に配置することで、各シリンダ穴11,21,41およびモータ24がバランス良く配置されている。
【0087】
本実施形態の液圧発生装置1では、マスタシリンダ10、スレーブシリンダ20およびストロークシミュレータ40の三つのシリンダ穴11,21,41が同一方向に向けて開口するとともに、モータ24の出力軸24aも各シリンダ穴11,21,41の開口方向と同一方向に向けて突出している。
これにより、液圧発生装置1では、基体100に対して一方向(後方)から各シリンダ穴11,21,41を加工することができる。また、液圧発生装置1では、各シリンダ穴11,21,41および出力軸24aに対して一方向(後方)から各種部品の組み付けることができる。
このように、液圧発生装置1では、基体100への各シリンダ穴11,21,41の加工性や各種部品の組み付け性を向上させることができるため、液圧発生装置1の製造効率を高めることができる。
【0088】
本実施形態の液圧発生装置1では、
図5に示すように、マスタシリンダ10の下方にスレーブシリンダ20およびモータ24が配置され、さらに、マスタシリンダ10の左右両側にスレーブシリンダ20およびモータ24が配置することで、液圧発生装置1の重心が低くなっている。特に、モータ24は重量が大きい部品であるため、液圧発生装置1の下部に配置することで、マスタシリンダ10、スレーブシリンダ20およびモータ24の重量バランスを安定させることができ、液圧発生装置1の安定性を効果的に高めることができる。
【0089】
本実施形態の液圧発生装置1では、
図4に示すように、基体100のフランジ部103の後側の面(駆動伝達部取付面103b)に駆動伝達部25が取り付けられ、フランジ部103の前側の面(モータ取付面103a)にモータ24が取り付けられている。これにより、基体100に対してモータ24および駆動伝達部25がバランス良く配置されているため、液圧発生装置1の安定性を高めることができる。
【0090】
本実施形態の液圧発生装置1では、ハウジング91とスレーブシリンダ20とが上下方向に並べて配置されており、基体100の周囲のスペースを有効に利用することで、液圧発生装置1が小型化されている。
【0091】
本実施形態の液圧発生装置1では、第一シリンダ穴11と第三シリンダ穴41とが左右方向に水平に隣接されているため、マスタシリンダ10をストロークシミュレータ40に連結し易くなっている。また、マスタシリンダ10とストロークシミュレータ40とがコンパクトに配置されるため、液圧発生装置1を小型化することができる。
【0092】
本実施形態の液圧発生装置1では、
図4に示すように、ダッシュボードBに基体100の車体取付面104を取り付けたときに、ダッシュボードBと基体100の駆動伝達部取付面103bの間に駆動伝達部25が収まる。したがって、液圧発生装置1を車両に搭載するためのスペースを確保し易くなっている。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
本実施形態の液圧発生装置1では、
図5に示すように、第一シリンダ穴11の下方に第二シリンダ穴21および出力軸24aが配置されているが、第一シリンダ穴11の上方に第二シリンダ穴21および出力軸24aを配置してもよい。この場合には、液圧発生装置1を前後方向から見たときに、第一シリンダ穴11の中心点、第二シリンダ穴21の中心点および出力軸24aの中心点を結んだ線が逆三角形となる位置関係に配置される。
【0094】
本実施形態の液圧発生装置1では、基体100の後面101b,102bに各シリンダ穴11,21,41が開口しているが、各シリンダ穴11,21,41が、前後に異なる方向に開口していてもよい。
【0095】
本実施形態の液圧発生装置1では、
図4に示すように、モータ24から後方に向けて出力軸24aが突出しているが、モータ24から前方に向けて出力軸24aが突出するように、モータ24を配置してもよい。
例えば、駆動伝達部25の後方にモータ24を配置し、モータ24から前方に向けて突出した出力軸24aを駆動伝達部25に接続してもよい。このように、スレーブシリンダ20、駆動伝達部25およびモータ24を直線状に配置してもよい。
【0096】
本実施形態の液圧発生装置1では、
図5に示すように、第二シリンダ穴21の上方にハウジング91が配置されているが、第二シリンダ穴21の下方にハウジング91を配置してもよい。
【0097】
本実施形態の液圧発生装置1では、
図1に示すように、マスタシリンダ10がタンデムピストン型のシリンダであるが、シングルピストン型のシリンダによってマスタシリンダ10を構成してもよい。
また、本実施形態の液圧発生装置1では、スレーブシリンダ20がシングルピストン型のシリンダであるが、タンデムピストン型のシリンダによってスレーブシリンダ20を構成してもよい。
【0098】
本実施形態の液圧発生装置1では、マスタシリンダ10、ストロークシミュレータ40、スレーブシリンダ20および液圧制御装置30が基体100に設けられているが、マスタシリンダ10およびスレーブシリンダ20の二つの装置だけを基体100に設けてもよい。
【0099】
なお、本実施形態では、各シリンダ穴11,21,41の軸線L1,L2,L3およびモータ24の出力軸24aの軸線L4が平行に配置されているが、軸線L1,L2,L3,L4同士が傾斜していてもよい。このように、本発明では、各シリンダ穴11,21,41の軸線L1,L2,L3およびモータ24の出力軸24aの軸線L4は略並列に配置されている。