特許第6663221号(P6663221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6663221R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節された微生物及びそれを用いたポリヒドロキシアルカノエート共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663221
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節された微生物及びそれを用いたポリヒドロキシアルカノエート共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20200227BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20200227BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20200227BHJP
   C12P 7/62 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12N15/31
   C12N15/60
   C12P7/62
【請求項の数】14
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2015-560051(P2015-560051)
(86)(22)【出願日】2015年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2015052758
(87)【国際公開番号】WO2015115619
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2017年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-17879(P2014-17879)
(32)【優先日】2014年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-17873(P2014-17873)
(32)【優先日】2014年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭司
【審査官】 清野 千秋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−523050(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105379(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/090873(WO,A1)
【文献】 国際公開第95/021257(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/065772(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/071356(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12N 15/09−15/90
C12P 7/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムDNA上にR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を有する微生物であって、前記微生物はポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子を有し、前記R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列が、大腸菌由来のtrcプロモーター、lacUV5プロモーター及びtrpプロモーター、並びに、phaC1遺伝子プロモーター及びphaC1遺伝子改変プロモーターからなる群から選択される1つ以上のプロモーターを含む外来発現調節DNAを含み、それにより、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節されて3−ヒドロキシヘキサン酸(3HH)モノマーを含有するポリヒドロキシアルカノエート共重合体を産生することを特徴とする微生物。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子が、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来の遺伝子である、請求項1記載の微生物。
【請求項3】
カプリアビダス(Cupriavidus)属である、請求項1又は2記載の微生物。
【請求項4】
カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)である、請求項3記載の微生物。
【請求項5】
アエロモナス(Aeromonas)属である、請求項1〜4のいずれか1項記載の微生物。
【請求項6】
アエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)である、請求項5記載の微生物。
【請求項7】
前記外来発現調節DNAが、前記プロモーター配列の下流にシャインダルガルノ(SD)配列をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の微生物。
【請求項8】
前記SD配列が、配列番号51、52及び60〜66のいずれかで示される塩基配列を含む、請求項7記載の微生物。
【請求項9】
前記phaC1遺伝子が、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)由来である、請求項1〜8のいずれか1項記載の微生物。
【請求項10】
前記phaC1遺伝子改変プロモーターが、配列番号55〜59のいずれかで示される塩基配列を含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の微生物。
【請求項11】
前記大腸菌由来プロモーターが、配列番号47、48及び50で示される塩基配列を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の微生物。
【請求項12】
前記発現調節DNAが、配列番号37〜45のいずれかで示される塩基配列を含む、請求項1〜11のいずれか1項記載の微生物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載の微生物を培養し、該微生物からポリヒドロキシアルカノエート共重合体を回収することを含むことを特徴とする、3−ヒドロキシヘキサン酸(3HH)モノマーを含有するポリヒドロキシアルカノエート共重合体の生産方法。
【請求項14】
前記ポリヒドロキシアルカノエート共重合体が、P(3HB−co−3HH)である、請求項13記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節された組み換え微生物、及び該微生物を用いてモノマー組成比の制御されたポリヒドロキシアルカノエート共重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと記すこともある)は、広範な微生物によって生成されるポリエステル型有機分子ポリマーである。PHAは生分解性を有する熱可塑性高分子であり、PHAは再生可能資源からも産生されうる。これらのことから、PHAを環境調和型素材又は生体適合型素材として工業的に生産し、多様な産業へ利用する試みが行われている。
【0003】
現在までに数多くの微生物において、エネルギー貯蔵物質としてPHAを菌体内に蓄積することが知られている。PHAの代表例としては、3−ヒドロキシ酪酸(以下、3HBと記すこともある)のホモポリマーであるポリ−3−ヒドロキシ酪酸(以下、P(3HB)と記すこともある)が挙げられる。P(3HB)は熱可塑性高分子であり、自然環境中で生物的に分解されることから、環境にやさしいプラスチックとして注目されている。しかし、P(3HB)は結晶性が高いために硬くて脆い性質を持っており、実用的には応用範囲が限られている。応用範囲を広げるためには、P(3HB)に柔軟性を付与することが必要であった。
【0004】
そこで、3HBと3−ヒドロキシ吉草酸(以下、3HVと記す)とからなるPHA共重合体(以下、P(3HB−co−3HV)と記す)とその製造方法が開発された(特許文献1、特許文献2)。P(3HB−co−3HV)は、P(3HB)に比べると柔軟性に富むため、幅広い用途に応用できると考えられた。しかしながら、実際にはP(3HB−co−3HV)中の3HVモル分率を増加させてもそれに伴う物性の変化が乏しく、特にフィルムやシート、軟質系包装容器等へ加工するために要求される程には柔軟性が向上しないため、シャンプーボトルや使い捨て剃刀の取手等、硬質成型体の限られた分野にしか利用されていない。
【0005】
さらにPHAの柔軟性を高めるために、3HBと3−ヒドロキシヘキサン酸(以下、3HHと記すこともある)からなるPHA共重合体(以下、P(3HB−co−3HH)と記すこともある)及びその製造方法について研究が行われてきた(特許文献3、特許文献4)。これら報告においてP(3HB−co−3HH)は、土壌より単離されたアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)の野生株を用い、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸を炭素源として発酵生産されており、得られたP(3HB−co−3HH)の3HH組成比は、オレイン酸を炭素源としたとき15mol%、パルミチン酸を炭素源としたときに5mol%であった。
【0006】
P(3HB−co−3HH)の物性に関する研究も行われている(非特許文献1)。この報告では、炭素数が12個以上の脂肪酸を唯一の炭素源としてA. caviaeを培養し、3HH組成比が11〜19mol%のP(3HB−co−3HH)を発酵生産している。P(3HB−co−3HH)は3HH組成比の増加にしたがって、P(3HB)の様な硬くて脆い性質から次第に柔軟な性質を示すようになり、3HH組成比がより高くなるとP(3HB−co−3HV)を上回る柔軟性を示すことが明らかにされた。すなわち、P(3HB−co−3HH)は3HH組成比を変えることで、硬質ポリマーから軟質ポリマーまで応用可能な幅広い物性を持たせることができるため、低3HH組成比のP(3HB−co−3HH)はテレビの筐体等のように硬さを要求されるものに、一方、高3HH組成比のP(3HB−co−3HH)はフィルム等のように柔軟性を要求されるものに、それぞれ使用できるなど、幅広い分野への応用が期待できる。
【0007】
また、カプリアビダス・ネカトール(C. necator)を宿主とし、pJRD215(ATCC 37533)にポリエステル合成酵素遺伝子やR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子等を導入したpJRDEE32やpJRDEE32d13等のPHA合成酵素発現プラスミドによる形質転換体のPHA生産性が調べられている(特許文献5、非特許文献2)。該菌株の培養後の菌体量はもともと4g/Lと低かったが、植物油脂を炭素源とした同菌株の培養条件改善により菌体量は45g/L、ポリマー含量は62.5%、3HH組成比は8.1mol%にまで、ポリマー生産性が向上することがわかった。このように、培養方法によってP(3HB−co−3HH)の3HH組成比やポリマー生産性を改善する試みがなされている(特許文献6)。しかし、一般的にプラスミドを使用して外来遺伝子を導入すると、バクテリアの増殖サイクルの期間にプラスミドが欠失する事によって、導入した遺伝子の不安定性が生じてしまうために、工業的生産にはあまり適さないという問題がある。
【0008】
一方、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を、C. necatorの染色体DNAに組み込むことで3HH組成比を向上させた報告もなされている(特許文献7,非特許文献3)。この報告ではC. necatorのpha合成酵素遺伝子を含むphaオペロン領域にR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を複数挿入することで3HH組成比を10.5mol%にまで向上させている。
【0009】
前述のようにP(3HB−co−3HH)はその3HH組成比により物性が変化するため、幅広い用途に使用可能な一方、望ましい物性を得るためには3HH組成比の細かな制御が必要である。さらに、工業的な生産においては、プロセス簡略化の点から、同一の培養条件において、異なる3HH組成比のP(3HB−co−3HH)を生産できるように、それぞれに適した菌株を複数取得することが望ましい。しかし、従来のP(3HB−co−3HH)生産菌株の育種において、3HH組成比の細かな制御を目的とした改良はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭57−150393号公報
【特許文献2】特開昭59−220192号公報
【特許文献3】特開平5−93049号公報
【特許文献4】特開平7−265065号公報
【特許文献5】特開平10−108682号公報
【特許文献6】特開2001−340078号公報
【特許文献7】国際公開第WO2011/105379号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Y. Doi, S. Kitamura, H. Abe, Macromolecules 28, 4822−4823 (1995)
【非特許文献2】T. Fukui, Y. Doi, J.Bacteriol, 179, 15, 4821−4830 (1997)
【非特許文献3】Y. Kawashima et al、Appl. Environ. Microbiol., 78, 493−502 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、モノマー組成比の制御されたポリヒドロキシアルカノエート(PHA)共重合体を生産する微生物の育種、及び該微生物を用いてモノマー組成比の制御されたポリヒドロキシアルカノエート(PHA)共重合体を発酵生産することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、微生物中に内在するR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現を調節することによって3HHモノマー合成経路が制御され、微生物中に蓄積されるPHA共重合体のモノマー組成比率を効率的に制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の特徴を包含する。
【0015】
(1)ゲノムDNA上にR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を有する微生物であって、該R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列が、1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加からなる改変を含み、それにより、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節されることを特徴とする微生物。
【0016】
(2)上記改変が、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現を調節可能にする、プロモーター配列、シャインダルガルノ(SD)配列、又はそれらの両方の塩基配列に1若しくは複数の塩基の置換又は挿入を含む、上記(1)記載の微生物。
【0017】
(3)上記R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列が、置換又は挿入によって、外来プロモーター配列を含む、上記(1)又は(2)記載の微生物。
【0018】
(4)上記置換又は挿入の位置が、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流1万塩基以内である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物。
【0019】
(5)さらにポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子を有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の微生物。
【0020】
(6)ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素遺伝子が、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来の遺伝子である、上記(5)記載の微生物。
【0021】
(7)カプリアビダス(Cupriavidus)属である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の微生物。
【0022】
(8)カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)である、上記(7)記載の微生物。
【0023】
(9)アエロモナス(Aeromonas)属である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の微生物。
【0024】
(10)アエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)である、上記(9)記載の微生物。
【0025】
(11)上記R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列が、置換又は挿入によって導入された、大腸菌由来プロモーター、phaC1遺伝子プロモーター及びphaC1遺伝子改変プロモーターからなる群から選択される1つ以上のプロモーターを含む、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の微生物。
【0026】
(12)上記プロモーター配列の下流にSD配列をさらに含む、上記(2)〜(11)のいずれかに記載の微生物。
【0027】
(13)上記SD配列が、配列番号51又は52で示されるSD配列である、上記(12)記載の微生物。
【0028】
(14)上記R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子が他の遺伝子とオペロンを形成している、上記(1)〜(13)のいずれかに記載の微生物。
【0029】
(15)モノマー組成比の制御されたポリヒドロキシアルカノエート共重合体を産生することができる、上記(5)〜(14)のいずれかに記載の微生物。
【0030】
(16)カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)由来のphaC1遺伝子の改変プロモーターを含む30bp〜900bpの発現調節DNAであって、該改変プロモーターが配列番号55〜59の塩基配列からなる群から選択される塩基配列を含む、発現調節DNA。
【0031】
(17)上記phaC1遺伝子のシャインダルガルノ(SD)配列又はその改変SD配列をさらに含む、ただし該SD配列又は改変SD配列が、配列番号51、52、60〜66のいずれかで示される塩基配列を含む、上記(16)記載の発現調節DNA。
【0032】
(18)配列番号47〜50で示される塩基配列からなるプロモーターのいずれか1つと、配列番号51、52、60〜66のいずれかで示される塩基配列を含む、発現調節DNA。
【0033】
(19)上記(16)〜(18)のいずれかに記載の発現調節DNAを含む、上記(1)〜(15)のいずれかに記載の微生物。
【0034】
(20)上記(5)〜(15)及び(19)のいずれかに記載の微生物を培養し、該微生物からポリヒドロキシアルカノエート共重合体を回収することを含むことを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート共重合体の生産方法。
【0035】
(21)上記ポリヒドロキシアルカノエート共重合体が、構成単位として3−ヒドロキシヘキサン酸(3HH)モノマーを含有する共重合体である、上記(20)記載の方法。
【0036】
(22)上記ポリヒドロキシアルカノエート共重合体が、P(3HB−co−3HH)である、上記(21)記載の方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、産業上有用な所望のモノマー組成比を有するPHA共重合体を発酵生産することができる。
【0038】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2014−17873号、2014−17879号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
1.ゲノムDNA上にR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を有し、かつ、該遺伝子の発現が調節された微生物
本発明は、ゲノムDNA上にR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を有する微生物であって、該R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列が、1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加からなる改変を含み、それにより、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節されることを特徴とする微生物を提供する。
【0040】
本明細書で使用する「ゲノムDNA」には、染色体DNA(単に「染色体」ともいう。)だけでなく例えばメガプラスミドDNA(単に「メガプラスミド」ともいう。)なども包含し、好ましいゲノムDNAは染色体である。また、本明細書で使用する「R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子」は、脂肪酸β酸化系の中間体であるエノイルCoAからPHAモノマーの供給源である(R)−3−ヒドロキシアシルCoAに変換する酵素であるR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ(PhaJ)をコードする遺伝子である。
【0041】
本発明に用いる微生物は、ゲノムDNA上にR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を有する微生物であれば特に限定されず、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を元々有する野生株、或いは該野生株を人工的に突然変異処理して得られる変異株、或いは、遺伝子工学的手法により外来のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子がゲノムDNA上に挿入又は置換された組み換え菌株のいずれでもよい。そのような微生物として、具体的には、細菌、酵母、糸状菌などが例示され、好ましくは、細菌であり、例えば、ラルストニア(Ralstonia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ワウテルシア(Wautersia)属、アエロモナス(Aeromonas)属、エシェリキア(Escherichia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属等の細菌類が好ましい例として挙げられる。安全性及び生産性の観点から、より好ましくはラルストニア属、カプリアビダス属、アエロモナス(Aeromonas)属、ワウテルシア属に属する細菌であり、さらに好ましくはラルストニア属又はアエロモナス(Aeromonas)属に属する細菌であり、特に好ましくはカプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)又はアエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)である。
【0042】
細菌由来のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼは、例えばNCBI(米国)のGenBank等の公開データベースにおいて、例えばA. caviae 由来のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼとしてBAA21816、C. necator由来のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼとしてYP_725579.1、YP_728561.1、YP_728829.1などが登録され知られている。
【0043】
本発明によれば、上記微生物は、ゲノムDNA上のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列が、1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加からなる改変を含み、それにより、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節されることを特徴とする。ここで、該置換、欠失、挿入及び/又は付加は、野生型と比較して、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現の強度を(正(+)若しくは負(−)に、好ましくは正(+)に)変化させうるものである限り特に限定されない。
【0044】
R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流には、該遺伝子の発現を調節する、プロモーター配列、SD配列、又はそれら両方の配列に、1若しくは複数の塩基の改変を含んでもよいし、或いは、該プロモーター配列及びSD配列以外の塩基配列もまた、1若しくは複数の塩基の改変を含んでもよい。具体的には、上記微生物のゲノムDNA上のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流にもともと存在する(すなわち、野生型の)プロモーター配列、SD配列、又はその他の該遺伝子上流1万塩基以内の塩基配列に、好ましくはプロモーター配列、SD配列、又はその両方の塩基配列に、改変(すなわち、1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加、好ましくは置換又は挿入)を導入することによって、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現の強度を変化させてもよく、或いは、ゲノムDNA上のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列に、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現を調節可能にするDNAを、挿入するか、或いは、上流の任意の塩基配列と置換することによって導入し、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現の強度を制御してもよい。
【0045】
或いは、発現強度の調節を効率的に行う好ましい代替的手法として、ゲノムDNA上のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の翻訳開始点近傍の発現調節可能な部位において、その部位の塩基配列の一部をプロモーター配列及び/又はSD配列を含む発現調節DNAと置換するか、或いは、その部位に該発現調節DNAを挿入することができる。
【0046】
上記導入される(言い換えるなら、外来の)発現調節DNAは、例えば、同種又は異種の微生物由来のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子のプロモーター配列、SD配列、又はそれらの改変配列、或いは同種又は異種の微生物由来の、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子以外の遺伝子のプロモーター配列、SD配列、又はそれらの改変配列、を含むDNAを包含しうる。ここで、同種の微生物由来のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子のプロモーターとしては、同種の微生物における異なるR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子のプロモーター配列を使用してもよいし、同種の微生物における同一のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子のプロモーター配列をその位置を変えて導入してもよい。同種微生物由来のSD配列についても同様である。
【0047】
本明細書中で使用する「1若しくは複数の塩基」という用語は、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の翻訳開始部位の上流の、発現調節領域(プロモーター領域及び/又はSD配列領域を含み、該プロモーター領域にはオペレーター配列も含みうる。)を含む1万塩基以内の塩基配列中の1若しくは複数の塩基、例えば1若しくは数個の塩基、少なくとも20〜50個の塩基、少なくとも50〜100個の塩基、少なくとも100〜200個の塩基などを指す。本明細書中、該1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、該遺伝子の発現を調節可能にする1若しくは複数の塩基の変異の導入である。また、本明細書中の「数個」とは、2〜10の整数、好ましくは2〜7の整数を指す。
【0048】
本明細書で使用する「発現調節可能な」又は「発現を調節可能にする」というような用語は、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の転写によるmRNA合成とその後のタンパク質合成を、未改変の場合と比べてほぼ同等レベル若しくはそれ以上或いはそれ未満となるように、好ましくは強化するように制御することを指す。
【0049】
上記ゲノムDNA上のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の改変について、ゲノムDNA上に任意のDNAを部位特異的に置換又は挿入する方法は当業者に周知であり、代表的な方法としては特に限定するわけではないが以下の方法が挙げられる。トランスポゾンと相同組換えの機構を利用した方法(Ohman等, J. Bacteriol., vol.162:p1068(1985))、相同組換えの機構によって起こる部位特異的な組み込みと第二段階の相同組換えによる脱落を原理とした方法(Noti等, Methods Enzymol., vol.154, p197(1987))などがあり、また、Bacillus subtilis由来のsacB遺伝子を共存させて、第二段階の相同組換えによって遺伝子が脱落した微生物株をシュークロース添加培地耐性株として容易に単離する方法(Schweizer, Mol. Microbiol., vol.6, p1195 (1992)、 Lenz等, J. Bacteriol., vol.176, p4385(1994))も利用することができるが、ゲノムDNA上に任意DNAを挿入/置換出来ればその方法は特に制限されない。
【0050】
「プロモーター」及び「SD配列」は、以下の一般的な定義を有する。
【0051】
「プロモーター」は、遺伝子の転写開始反応の効率に関与する調節配列であり、転写開始点の比較的近くに存在して働く調節配列、転写開始点から離れて存在して働く調節配列の両方を包含する広義の意味を有している。例えば細菌などの原核生物では、通常、プロモーターは、遺伝子の転写開始点(+1)の上流の−35領域から−10領域までの配列を含むが、それらの領域の配列は、原核生物種によってしばしば異なり、例えば、大腸菌におけるそのコンセンサス配列は、例えばTTGACA(配列番号53)及びTATAAT(配列番号54)であることが知られている。
【0052】
SD配列は、一般に、遺伝子の翻訳開始点(+1)の数塩基〜十数塩基上流に位置し、16S rRNAの3'末端部分と相補的又は、部分的に相補的な配列であり、SD配列の部分でリボソームがmRNAに結合し、そのすぐ下流の翻訳開始コドンから翻訳が開始される。そのため、SD配列は転写開始点と翻訳開始コドンの間に位置している。またSD配列を含むmRNAにおける開始コドンより上流の非翻訳領域は、一般に5’UTRと呼ばれ、mRNAの安定性に影響を与えることがある。本発明においてSD配列は、転写開始点と、構造遺伝子の翻訳開始点の間に位置し、構造遺伝子の翻訳(タンパク質合成)に関与するmRNA上のリボソーム結合配列、及び、該リボソーム結合配列をコードするDNA配列を指す。
【0053】
本発明において、上記発現調節領域を置換又は挿入など改変する位置としては、対象となるR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子が存在するゲノムDNA領域上の上流で、その発現を調節できる限り特に制限されないが、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子により近い位置において置換又は挿入されるのが好ましい。或いは、改変位置として、例えばR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流1万塩基以内に置換又は挿入されてもよく、上流1000塩基以内に置換又は挿入されるのが好ましく、上流500塩基以内に置換又は挿入されるのがさらに好ましく、上流50塩基以内に置換又は挿入されるのが特に好ましい。
【0054】
さらにまた、例えば上記C. necator等、微生物種によっては、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子は、他の代謝系遺伝子やPHA合成に関与する酵素などの他の遺伝子とオペロンを形成している場合もある。そのような場合、他の構造遺伝子の発現に影響を与えずにR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現のみを効率的に制御するためには、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子よりも上流に存在する他の構造遺伝子と、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子との間に、置換又は挿入によって外部より導入されたプロモーターとSD配列を有する発現調節配列が含まれることがもっとも好ましい。
【0055】
また、上記C. necator等、微生物種によっては、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を複数有していることもある。そのような場合、発現調節の対象となるR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子は特に限定されず、複数存在するR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子のいずれか1つを対象としてもよいし、又は2つ以上を対象としてもよい。さらに、C.necatorは、元来、ゲノムDNAとして、染色体とメガプラスミドを有しており、本発明において発現の調節の対象となるR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子は、そのいずれに存在しているものでもかまわないが、染色体上に存在しているのが好ましい。
【0056】
本発明において、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流において置換、挿入等改変(若しくは、変異)される発現調節配列に含有されるプロモーターやSD配列は特に限定されず、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現を調節可能な配列であればいずれも使用可能である。また、これらプロモーターやSD配列は、対象となる微生物が元々有しているプロモーター及び/又はSD配列と同じ若しくは異なる配列であってもよいし、或いは、対象となる微生物とは異なる微生物種(例えば、異なる属、種又は株)由来のプロモーター及び/又はSD配列であってもよいし、或いは、これらの配列を改変して得られる改変プロモーター及び/又は改変SD配列であってもよい。本発明において、発現調節DNAに含有されるプロモーターとしては特に限定されないが、例えば、C. necatorがもつPHA合成酵素遺伝子(phaC1遺伝子)のプロモーターであるphaC1プロモーター(REP)や、phaC1プロモーター(REP)の−35領域及び/又は−10領域の配列やその間の配列を、少なくとも1塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加によって変化させることにより得られる改変phaC1プロモーター(改変REP)の他、公知の大腸菌由来のプロモーター、例えば、配列番号47で示されるtrcプロモーター、配列番号49で示されるlacプロモーター、配列番号50で示されるlacUV5プロモーター、配列番号48で示されるtrpプロモーターなどが挙げられる。この中でも、trcプロモーター、lacUV5プロモーター、trpプロモーターなどの大腸菌由来のプロモーターが、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現を強める効果が高い点で好ましい。また、改変REPとして、例えば配列番号55〜59のいずれかに示される塩基配列を含むプロモーターが挙げられ、配列番号59に示される塩基配列を含むプロモーターが好ましい。
【0057】
上記の改変REPについてさらに具体的に説明する。
【0058】
改変REPは、C. necatorがもつPHA合成酵素遺伝子であるphaC1遺伝子のプロモーターであるphaC1プロモーター(REP)の配列を改変して得られる。phaC1遺伝子は、phaA遺伝子、phaB1遺伝子とオペロンを組む形でゲノムDNA上に存在していることから、phaC1プロモーター(REP)はphaオペロンプロモーターとも称される。
【0059】
本発明において、改変の対象となるphaC1プロモーター(REP)は、好ましくはC. necator H16株由来の配列番号67(TTGACAGCGCGTGCGTTGCAAGGCAACAAT)で表される塩基配列を有するものである。phaC1プロモーター(REP)における−35領域と−10領域はそれぞれ1塩基目からの6塩基(例えば、TTGACA(配列番号53と同じ配列)と、25塩基目からの6塩基(例えば、AACAAT(配列番号68))である。
【0060】
改変REPは、前述のC. necator由来のphaC1プロモーターの−35領域及び−10領域内の1もしくは数個の塩基、好ましくは1〜4個の塩基、の置換、付加、挿入及び/又は欠失、好ましくは置換、を有すること、また−35領域と−10領域との間の距離を、1もしくは数個の塩基、好ましくは1〜2個の塩基、の欠失又は付加によって変化させることにより得られ、かつプロモーター活性を有する。
【0061】
本明細書中で使用される「数個」とは、2〜10の整数、例えば2〜7の整数、2〜5の整数、2〜4の整数、2〜3の整数などを意味する。
【0062】
本明細書において「プロモーター活性を有する」という用語は、プロモーターにRNAポリメラーゼが結合し転写(mRNA合成)を開始できる能力を有していることを指す。
【0063】
改変REPは、例えば、配列番号55〜59のいずれかで示される塩基配列を有するプロモーターである。配列番号55〜59の塩基配列は、C. necator H16株の改変phaC1プロモーター配列であるので、菌株が異なる場合、改変REPは、上記の配列番号55〜59の塩基配列と異なってもよい、該菌株の野生型プロモーター配列において1もしくは数個、好ましくは1〜4個の塩基の置換、付加、挿入及び/又は欠失を有する配列からなる。
【0064】
改変REPは、上記塩基の置換、付加、挿入及び/又は欠失により野生型のphaC1プロモーター(REP)に比較してプロモーター活性もしくは転写効率が変化しており、構造遺伝子の発現強度の制御に有用である。ここで、該プロモーター活性の変化とは、野生型のphaC1プロモーター(REP)と比較して活性が上昇したもの、活性が同等もしくは例えば80%以内で低下したもの、或いは、野生型phaC1プロモーターを使用したときの遺伝子発現量と比較して高い又は同等又は80%以内で低下した遺伝子発現量が得られるもの、のいずれをも含み、目的によって適宜選択できる。
【0065】
phaC1プロモーター(REP)の改変は、例えば次のような手法により行うことができる。
【0066】
phaC1プロモーター(REP)配列における1もしくは数個、好ましくは1〜4個の塩基の置換、付加、挿入及び/又は欠失を有する核酸の合成は、PCRによる変異導入法、部位特異的突然変異導入法、自動核酸合成法などの公知の方法に基づき行うことができる。通常よく使用されるPCRによる変異導入法について簡単に説明すると、この方法は、例えば変異導入用プライマーとPCR法を組み合わせて行なうことができる。該変異導入用プライマーは、公知の方法に基づいて、標的核酸を特異的に増幅しうるオリゴヌクレオチドを設計し、これに目的とする塩基変異(置換、付加、挿入及び/又は欠失)を導入して作製すればよい。PCRによる増幅条件は、改変プロモーターを含む核酸を増幅できる限り、どのような条件を用いてもよい。具体的には、野生型phaC1遺伝子由来のプロモーター配列を含むおよそ30bp〜900bp、又はそれ以上(例えばおよそ30bp〜1200bp)、のサイズの二本鎖DNAを挿入したプラスミドを構築し、増幅対象の塩基配列を挟むようにセンス及びアンチセンス変異導入用プライマーをアニーリングし、20〜40サイクルの増幅反応を行うことを含む。
【0067】
一方、本発明において、発現調節配列に含有されるSD配列は特に限定されないが、例えば、配列番号51で示されるphaC1遺伝子のSD配列(phaC1SD配列)、該phaC1SD配列の少なくとも1塩基を置換することで得られる改変phaC1SD配列などが挙げられる。改変phaC1SD配列としては特に限定されないが、配列番号52(TCTCTCT)、配列番号60(TGTGAGA)、配列番号61(ATATAGA)、配列番号62(AGTGAGA)、配列番号63(TGTGTGA)、配列番号64(TGAGTGA)、配列番号65(AGAGATA)及び配列番号66(AGATAGA)で示される改変SD配列などが挙げられ、配列番号52で示される改変SD配列が好ましい。
【0068】
上記の改変SD配列についてさらに具体的に説明する。
【0069】
改変SD配列は、例えばA. Steinbuchelらによって予測されているphaC1SD配列(J. Bacterial. 1991, 173(1):168)を改変して得ることができる。この場合の改変の対象となるphaC1SD配列は、C. necatorのゲノムDNA上においてphaC1遺伝子の翻訳開始点から約17塩基上流に位置し、具体的には、AGAGAGA(配列番号69)の塩基配列で示される。
【0070】
改変SD配列は、前述のphaC1遺伝子のSD配列の1もしくは数個、好ましくは1〜7個の塩基を置換することで得られる「改変phaC1SD配列」である。改変phaC1SD配列の具体例は、上記の配列番号52、60〜66のいずれかで示される塩基配列を含むDNAである。
【0071】
改変phaC1SD配列は、上記塩基の置換により野生型のphaC1SD配列を用いた場合に比較して、翻訳活性及び/又はmRNAの安定性が変化しており、構造遺伝子の発現強度の制御に有用である。ここで、翻訳活性、及び/又はmRNAの安定性の変化とは、野生型phaC1SD配列と比較して上昇したもの、同等のもの、又は例えば60%以内、40%以内、若しくは25%以内で低下したもの、或いは、野生型phaC1SD配列を使用したときと比較して高い、同等又は例えば60%以内、40%以内、若しくは25%以内で低下した遺伝子発現量(又は、タンパク質生産量)が得られるもののいずれをも含み、目的によって適宜選択できる。
【0072】
phaC1SD配列の改変体、すなわち、phaC1SD配列への塩基置換などの変異が導入された核酸の合成は、上記と同様に、PCRによる変異導入法、部位特異的突然変異導入法、自動核酸合成法などの公知の方法によって行うことができる。例えば、変異導入用プライマーとPCR法を組み合わせることによって行うことができる。該変異導入用プライマーは、公知の方法に基づいて、標的遺伝子断片を特異的に増幅しうるオリゴヌクレオチドを設計し、これに目的とする塩基変異(置換、付加、挿入及び/又は欠失)を導入して作製すればよい。PCRによる増幅条件は、標的核酸が増幅できる限り、どのような条件を用いてもよい。
【0073】
SD配列は、発現調節因子として転写開始点と翻訳開始点の間に位置し、翻訳開始点から上流に数塩基〜十数塩基のところに位置している。また、SD配列を含む開始コドンより上流の非翻訳領域は、一般に5’UTRと呼ばれ、mRNAの安定性に影響を与えることがある。そのため、SD配列やそれを含む5’UTRに変異を導入することによって、mRNAの安定性が変化し、結果として遺伝子発現強度が変化することも考えられる。本発明においてSD配列は、転写開始点と、構造遺伝子の翻訳開始点との間に位置し、構造遺伝子の翻訳(タンパク質合成)に関与するmRNA上のリボソーム結合配列、及び、該リボソーム結合配列をコードするDNA配列を指す。
【0074】
本発明の発現調節DNAとしては、上で例示したようなプロモーターとSD配列を含有するものが好ましい。
【0075】
そのような発現調節DNAは、プロモーターとSD配列がともに、それぞれプロモーター機能、リボソーム結合機能を発揮しうるような適切な位置に配置されており、そうすることによって遺伝子発現に利用することができる。また、前述したように、プロモーターやSD配列はそれぞれ遺伝子発現の異なるステップを制御することから、上記の改変REPを公知のSD配列とともに、或いは、上記の改変SD配列を公知のプロモーターとともに含有する発現調節DNAを作製して使用することもできる。また、本発明の発現調節DNAには、プロモーターとSD配列以外に、発現調節に係わる適切なDNAを含んでいてもよく、例えば、phaC1遺伝子上流900塩基以内、500塩基以内、300塩基以内若しくは200塩基以内の塩基配列や発現調節の対象となる構造遺伝子の上流900塩基以内、500塩基以内、300塩基以内若しくは200塩基以内の塩基配列を含んでいてもよい。また、このような塩基配列のサイズは、発現調節に関わるかぎり900塩基を超えてもよいが、好ましくは900塩基以内である。
【0076】
上記の発現調節DNAにおけるプロモーターとSD配列の挿入などによる配置は、公知の方法に基づき行うことができる。例えばPCR法によりそれぞれの配列を含む断片を増幅し、得られた増幅断片を適当な制限酵素で切断し、及び、適当な位置に結合することによって達成される。ここで、「適当な位置」について、上記発現調節DNAは、発現調節の対象となる構造遺伝子の上流で、その発現を調節できる限り特に制限されないが、対象となる構造遺伝子により近い位置に結合されるのが好ましい。例えば対象となる構造遺伝子がゲノムDNA上にある場合、そのゲノムDNA領域の上流1万塩基以内に置換又は挿入されることで結合されてもよく、上流1000塩基以内に置換又は挿入されることで結合されるのが好ましく、上流500塩基以内に置換又は挿入されることで結合されるのがさらに好ましく、上流50塩基以内に置換又は挿入されることで結合されるのが特に好ましい。
【0077】
また、例えば上記C. necator等のR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子のように、対象となる構造遺伝子が、他の構造遺伝子とオペロンを形成している場合、他の構造遺伝子の発現に影響を与えずに対象となる構造遺伝子の発現のみを効率的に制御するためには、対象となる構造遺伝子よりも上流に存在する他の構造遺伝子と、対象となる構造遺伝子との間に、置換又は挿入によって発現調節配列が結合されることが好ましい。一方、オペロンを構成している各種構造遺伝子の全てに対しその発現を制御したい場合には、当該オペロンにおける本来のプロモーター領域やその周辺に置換又は挿入によって発現調節配列が結合されることが好ましい。
【0078】
また、上記発現調節配列を対象となる構造遺伝子と組み合わせて、プラスミドベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、コスミドベクターなどのベクターを構築する場合、上記発現調節配列においてそのプロモーターは、対象となる構造遺伝子の上流で、その発現を調節できる限り特に制限されないが、対象となる構造遺伝子に比較的近い位置に結合されるのが好ましい。例えば上流1万塩基以内に置換又は挿入されることで結合されてもよく、上流1000塩基以内に置換又は挿入されることで結合されるのが好ましく、上流500塩基以内に置換又は挿入されることで結合されるのがさらに好ましく、上流100塩基以内に置換又は挿入されることで結合されるのが特に好ましい。また、SD配列は、mRNAからタンパク質への翻訳活性に関与することから、プロモーター下流の転写開始点と翻訳開始点の間に位置している必要があり、例えば、該遺伝子の翻訳開始点から数塩基〜十数塩基上流に配置するのがよい。
【0079】
発現調節DNAは、例えば、配列番号47〜50で示されるプロモーター配列のいずれか1つの下流の適切な位置に、配列番号51で示されるphaC1遺伝子のSD配列、又は配列番号52、60〜66のいずれかの塩基配列で示されるその改変SD配列が存在することがより好ましい。なお、発現調節DNAは、プロモーター領域とSD領域以外に任意のDNA配列を含みうるがその配列は特に限定されない。R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流に実際に置換、挿入等の改変若しくは変異を有する発現調節DNAとして、例えば、配列番号37〜45のいずれかに示される塩基配列を含むものが挙げられるがこれらに限定されない。
【0080】
一の実施形態により、したがって、本発明はさらに、配列番号47〜50で示される塩基配列からなるプロモーター、又は、配列番号55〜59のいずれかに示される塩基配列を含む改変REPのいずれか1つと、配列番号51で示されるphaC1SD配列、又は、配列番号52、60〜66のいずれかで示される改変phaC1SD配列とを含む、発現調節DNAも提供する。上記のとおり、該SD配列は、該プロモーターの下流の適切な位置に配置される。上記のプロモーター、改変REP、phaC1SD配列、改変phaC1SD配列、発現調節DNAなどのDNAは、例えば自動核酸合成機を使用することによって製造することができるし、また、PCR法などの核酸増幅法によって増幅することができる。
【0081】
R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節された本発明の微生物を、PHA共重合体の生産に利用する場合、当該微生物にはR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子以外にPHA合成酵素遺伝子が含有されている必要がある。この場合、本発明に用いる微生物として、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子とPHA合成酵素遺伝子の両方を元々有する微生物を利用してもよいし、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子とPHA合成酵素遺伝子のどちらか、又はその両方が遺伝子工学的手法により導入されたものであってもよい。また、PHA合成酵素遺伝子は当該微生物が元来保有する染色体上又はプラスミド上又はメガプラスミド上に存在していてもよいし、或いは、プラスミド、ファージ、ファージミドなどの外来のベクター上に存在していてもよいが、染色体上又はプラスミド上又はメガプラスミド上に存在するのが好ましく、染色体上に存在するのがより好ましい。PHA合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、炭素数6以上のモノマー単位を含有するPHA共重合体を合成可能なPHA合成酵素をコードする遺伝子が好ましく、構成単位として3HHモノマーを含有するPHA共重合体を合成可能なPHA合成酵素をコードする遺伝子がより好ましい。そのようなPHA合成酵素遺伝子として、A. caviae由来のPHA合成酵素遺伝子が好ましく、A. caviae野生株の有するPHA合成酵素遺伝子(phaC遺伝子)や、その変異酵素遺伝子である配列番号46に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子、配列番号46に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列で、3HHモノマーを含有する共重合PHAを合成可能なPHA合成酵素をコードする遺伝子等がより好ましい。なお、上記配列同一性は90%以上であればより好ましく、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上である。
【0082】
そのような、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子を有し、かつ、3HHモノマーを含有するPHA共重合体を合成可能なPHA生産微生物として、C. necator、より好ましくはC. necator H16株にA. caviae由来の配列番号46に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるPHA合成酵素遺伝子が導入された微生物を好ましい例として挙げることができる。
【0083】
このような、構成単位として3HHモノマーを含有するPHA共重合体を生産可能な微生物の作製方法は、特に限定するわけではないが、C. necatorを宿主として以下に例示する。上記例示したようなA. caviae由来のPHA合成酵素遺伝子を、C. necatorのゲノムDNA上に相同組換え法などでC. necatorのPHA合成酵素遺伝子と置換する。そして、ゲノムDNA上に内在するR体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の上流の塩基配列に、上記のプロモーター及びSD配列を含有する発現調節DNAを相同組換え法などの方法で挿入する。
【0084】
相同組換え法においては、導入すべき上記の遺伝子、プロモーター、SD配列及び発現調節配列から選択される核酸配列の他に、ゲノムDNA上の標的遺伝子座の導入部位の上流及び/又は下流の相同な塩基配列を含むベクターを、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、スフェロプラスト法などの公知の手法を用いて、上記の対象の微生物の形質転換を行い、ゲノムDNA上の標的遺伝子座に目的の核酸エレメントを導入することができる。ベクターとして、例えばプラスミド、ファージ、ファージミドなどを使用可能である。ベクターにはさらに、目的微生物を選択するためのマーカー遺伝子、例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子など、ターミネーターなどを含むことができる。なお、遺伝子クローニングや遺伝子組み換え技術については、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989又は2001)などに記載される技術を利用することができる。
【0085】
改変プロモーター及び/又は改変SD配列が導入された微生物のゲノムDNA上の目的遺伝子の発現活性を解析するために、以下のような手法を使用することができる。
【0086】
改変phaC1プロモーター(改変REP)及び改変phaC1SD配列の遺伝子発現活性は、該プロモーター及びSD配列の下流にレポーター遺伝子を連結し、そのレポーター遺伝子の発現量を公知の方法で測定することによって評価することができる。使用されるレポーター遺伝子としては特に限定されず、βガラクトシダーゼ遺伝子や酸性フォスファターゼ遺伝子のような酵素活性を測定できる遺伝子の他、遺伝子発現量を相対的、間接的に確認できるもの、例えば蛍光タンパク質(GFP、EGFP等)、発光タンパク質(ルシフェラーゼ等)であってもよい。或いは、例えば、C. necatorによるP(3HB−co−3HH)の生産において、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子(phaJ遺伝子)のコピー数を増加させた組み換え体ではその3HH組成が上昇することが示されていることから、該プロモーター及びSD配列の下流にphaJ遺伝子などの遺伝子を連結した配列を有するプラスミドベクターを導入したC. necator株において、P(3HB−co−3HH)を生産し、その3HH組成を分析することでも、プロモーター及びSD配列の遺伝子発現活性を推定することができる。
【0087】
本発明の微生物を使用すると、モノマー組成比の制御されたポリヒドロキシアルカノエート(PHA)共重合体を生産することができる。従来、微生物発酵においてPHA共重合体のモノマー組成比を任意に制御しうる手法は知られていなかったが、本発明の微生物では、発現調節配列を改変することによって、種々のモノマー組成比に変更することができる。PHA共重合体の例は、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3HH)との共重合体、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)と3-ヒドロキシオクタン酸(3HO)との共重合体などであり、モノマーの炭素数は、例えば4〜8若しくはそれ以上であるが、これらに限定されない。また、PHA共重合体が、例えばP(3HB−co−3HH)の場合、共重合体中の3HHモノマー組成比(mol%)を約5〜約15の間で制御することができる。本発明によれば、P(3HB−co−3HH)の3HHのモノマー組成比(mol%)を、好ましくは約6〜約15、より好ましくは約8〜約13、さらに好ましくは約9〜約12とすることが可能であり、汎用性が高く、柔軟性のある生分解性ポリマーを生産できる。本発明では、PHA共重合体が、構成単位として3−ヒドロキシヘキサン酸(3HH)モノマーを含有する共重合体が好ましく、とりわけ、上記のモノマー組成比を有するP(3HB−co−3HH)である。
【0088】
2.ポリヒドロキシアルカノエート共重合体の生産方法
本発明はまた、上記微生物を培養し、該微生物からポリヒドロキシアルカノエート(PHA)共重合体を回収することを含むことを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエート共重合体の生産方法を提供する。
【0089】
本発明においては、上記のような、R体特異的エノイルCoAヒドラターゼ遺伝子の発現が調節され、かつPHA合成酵素遺伝子を含有する微生物を培養することで、PHA共重合体を菌体内に蓄積させて、PHA共重合体を生産する。
【0090】
培養時の炭素源としては、本発明のPHA生産微生物が資化可能であればどんな炭素源でも使用可能であるが、好ましくは、グルコース、フルクトース、シュークロースなどの糖類、パーム油、パーム核油、コーン油、やし油、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤトロファ油などの油脂やその分画油類、あるいはその精製副産物、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリンスチン酸などの脂肪酸やそれらの誘導体等が好ましい。より好ましくは、パーム油、パーム核油などの植物油脂のほか、パーム核油を分別した低融点分画であるパーム核油オレイン、また特に食糧との競合を避ける観点から、PFAD(パーム油脂肪酸蒸留物)やPKFAD(パーム核油脂肪酸蒸留物)、菜種油の脂肪酸蒸留物といった油脂の精製副産物等が挙げられる。本発明のPHAの生産においては、上記炭素源、炭素源以外の栄養源である窒素源、無機塩類、そのほかの有機栄養源を含む培地を用いて、前記微生物を培養することが好ましい。窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。無機塩類としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。そのほかの有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸、ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。
【0091】
培養温度、培養時間、培養時pH、培地等の条件は、使用する微生物、例えばラルストニア(Ralstonia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ワウテルシア(Wautersia)属、アエロモナス(Aeromonas)属、エシェリキア(Escherichia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属等の細菌類において通常使用されるような培養条件でよい。
【0092】
本発明において、菌体からのPHA共重合体の回収は、特に限定されないが、例えば次のような方法により行うことができる。培養終了後、培養液から遠心分離機等で菌体を分離し、その菌体を蒸留水及びメタノール等により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてPHA共重合体を抽出する。このPHA共重合体を含んだ有機溶剤溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、そのろ液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えてPHA共重合体を沈殿させる。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてPHA共重合体を回収する。
【0093】
得られたPHA共重合体の重量平均分子量(Mw)や3HH等のモノマー組成(mol%)の分析は、例えば、ガスクロマトグラフ法や核磁気共鳴法等により行うことができる。
【0094】
本発明において生産されるPHA共重合体は、構成単位として3HHモノマーを含有するPHA共重合体が好ましく、3HBモノマーと3HHモノマーを構成単位とするP(3HB−co−3HH)がより好ましく、3HH組成比が5mol%以上15mol%以下のP(3HB−co−3HH)がさらに好ましい。本発明で得られるPHAは、3HH組成などのモノマー比が制御されており、硬質ポリマーから軟質ポリマーまで応用可能な幅広い物性を持たせることができる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。なお全体的な遺伝子操作は、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に記載されているように行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主等は、市場の供給者から購入し、その説明に従い使用することができる。なお、酵素としては、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0096】
[製造例1]KNK005ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、遺伝子破壊用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0097】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号1及び配列番号2で示されるプライマーを用いて、PCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で2分を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD−plus−(東洋紡社製)を用いた。また同様に、配列番号3及び配列番号4で示されるプライマーを用いて、PCRを行った。さらに、上記PCRで得られた2種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号1及び4で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaZ6構造遺伝子より上流及び下流の塩基配列を有する遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X−phaZ6(−+)を作製した。
【0098】
さらに、C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号5及び配列番号6で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号7及び配列番号8で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、上記PCRで得られた2種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号5及び8で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaZ1構造遺伝子より上流及び下流のDNA配列を有する遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X−phaZ1(−+)を作製した。
【0099】
さらに、C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号9及び配列番号10で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号11及び配列番号12で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、上記PCRで得られた2種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号9及び12で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaZ2構造遺伝子より上流及び下流のDNA配列を有する遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X−phaZ2(−+)を作製した。
【0100】
次に、遺伝子破壊株の作製を行った。
【0101】
遺伝子破壊用プラスミドベクターpNS2X−phaZ6(−+)で大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、KNK005株(US7384766号参照)とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。KNK005株は配列表の配列番号46に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子を導入したC. necator H16株である。
【0102】
培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。この遺伝子破壊株をKNK005ΔphaZ6株と命名した。得られたKNK005ΔphaZ6株はC. necator H16株の染色体上のphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列表の配列番号46に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入された株である。
【0103】
さらに、同様の方法で、KNK005ΔphaZ6株を親株としてpNS2X−phaZ2(−+)を用いて、染色体上のphaZ6遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失した染色体遺伝子破壊株KNK005ΔphaZ2,6株を作製した。さらに、同様の方法で、KNK005ΔphaZ2,6株を親株としてpNS2X−phaZ1(−+)を用いて、染色体上のphaZ6遺伝子及びphaZ1遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失した染色体遺伝子破壊株KNK005ΔphaZ1,2,6株を作製した。得られたKNK005ΔphaZ1,2,6株はC. necator H16株の染色体上のphaZ6遺伝子及びphaZ1遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失し、さらにphaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列表の配列番号46に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子が導入された株である。
【0104】
[製造例2]KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0105】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号13及び配列番号14で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号15及び配列番号16で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、プラスミドpKK388−1(CLONTECH社製)をテンプレートとして配列番号17及び配列番号18で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号13及び配列番号16で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4b構造遺伝子より上流の塩基配列、trcプロモーター、phaC1SD配列、及びphaJ4b構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−trc−phaJ4bを作製した。
【0106】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0107】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−trc−phaJ4bで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4b構造遺伝子の上流に、配列番号38で示される、trcプロモーター及びphaC1SD配列を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0108】
[製造例3]KNK005 lacUV5−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株の作製
先ず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0109】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号13及び配列番号14で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号15及び配列番号16で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、E. coli HB101株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号19及び配列番号20で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号13及び配列番号16で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4b構造遺伝子より上流の塩基配列、lacUV5プロモーター、phaC1SD配列、及びphaJ4b構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−lacUV5−phaJ4bを作製した。
【0110】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0111】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU− lacUV5−phaJ4bで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4b構造遺伝子の上流に、配列番号39で示される、lacUV5プロモーター及びphaC1SD配列を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0112】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 lacUV5−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0113】
[製造例4]KNK005 trp−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0114】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号13及び配列番号14で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号15及び配列番号16で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、プラスミドpKK388−1(CLONTECH社製)をテンプレートとして配列番号17及び配列番号21で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。
【0115】
上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号13及び配列番号16で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4b構造遺伝子より上流の塩基配列、trpプロモーター、phaC1SD配列、及びphaJ4b構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−trp−phaJ4bを作製した。
【0116】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0117】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−trp−phaJ4bで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4b構造遺伝子の上流に、配列番号40で示される、trpプロモーター及びphaC1SD配列を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0118】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 trp−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0119】
[製造例5]KNK005 REP−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0120】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号13及び配列番号14で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号15及び配列番号16で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号22及び配列番号23で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号13及び配列番号16を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4b構造遺伝子より上流の塩基配列、phaC1プロモーター、phaC1SD配列、及びphaJ4b構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−REP−phaJ4bを作製した。
【0121】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−REP−phaJ4bで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4b構造遺伝子の上流に、配列番号37で示される、phaC1プロモーター及びphaC1SD配列を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0122】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 REP−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0123】
[製造例6]KNK005 REPSDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0124】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号13及び配列番号14で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号24及び配列番号16で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号22及び配列番号25で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。
【0125】
上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号13及び配列番号16を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4b構造遺伝子より上流の塩基配列、phaC1プロモーター、phaC1SD配列改変体、及びphaJ4b構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−REPSDM11−phaJ4bを作製した。
【0126】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−REPSDM11−phaJ4bで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4b構造遺伝子の上流に、配列番号41で示される、phaC1プロモーター及びphaC1SD配列改変体を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0127】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 REPSDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0128】
[製造例7]KNK005 REPN17SDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株の作製
先ず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0129】
製造例6で作製したプラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−REPSDM11−phaJ4bをテンプレートとして配列番号13及び配列番号26で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号27及び配列番号16で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた2種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号13及び配列番号16を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4b構造遺伝子より上流の塩基配列、phaC1プロモーター改変体、phaC1SD配列改変体、及びphaJ4b構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−REPN17SDM11−phaJ4bを作製した。
【0130】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0131】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4bU−REPN17SDM11−phaJ4bで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4b構造遺伝子の上流に、配列番号42で示される、phaC1プロモーター改変体及びphaC1SD配列改変体を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0132】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 REPN17SDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0133】
[製造例8]KNK005 trcSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0134】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号28及び配列番号29で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号30及び配列番号31で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、プラスミドpKK388−1(CLONTECH社製)をテンプレートとして、配列番号32及び配列番号33で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。
【0135】
上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号28及び配列番号31を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4a構造遺伝子より上流の塩基配列、trcプロモーター、phaC1SD配列改変体、及びphaJ4a構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−trcSDM11−phaJ4aを作製した。
【0136】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0137】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−trcSDM11−phaJ4aで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4a構造遺伝子の上流に、配列番号43で示される、trcプロモーター及びphaC1SD配列改変体を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0138】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 trcSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0139】
[製造例9]KNK005 lacUV5−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0140】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号28及び配列番号29で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号34及び配列番号31で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、E. coli HB101株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号35及び配列番号20で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号28及び配列番号31を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4a構造遺伝子より上流の塩基配列、lacUV5プロモーター、phaC1SD配列、及びphaJ4a構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−lacUV5−phaJ4aを作製した。
【0141】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0142】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−lacUV5−phaJ4aで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4a構造遺伝子の上流に、配列番号39で示される、lacUV5プロモーター及びphaC1SD配列を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0143】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 lacUV5−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0144】
[製造例10]KNK005 lacUV5SDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0145】
製造例9で作製したプラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−lacUV5−phaJ4aをテンプレートとして配列番号28及び配列番号33で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号30及び配列番号31で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた2種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号28及び配列番号31を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4a構造遺伝子より上流の塩基配列、lacUV5プロモーター、phaC1SD配列改変体、及びphaJ4a構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−lacUV5SDM11−phaJ4aを作製した。
【0146】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0147】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−lacUV5SDM11−phaJ4aで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4a構造遺伝子の上流に、配列番号44で示される、lacUV5プロモーター及びphaC1SD配列改変体を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0148】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 lacUV5SDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0149】
[製造例11]KNK005 trp−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株の作製
先ず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0150】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号28及び配列番号29で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号34及び配列番号31で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。さらに、プラスミドpKK388−1(CLONTECH社製)をテンプレートとして、配列番号32及び配列番号21で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号28及び配列番号31を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4a構造遺伝子より上流の塩基配列、trpプロモーター、phaC1SD配列、及びphaJ4a構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−trp−phaJ4aを作製した。
【0151】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0152】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−trp−phaJ4aで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4a構造遺伝子の上流に、配列番号40で示される、trpプロモーター及びphaC1SD配列を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0153】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 trp−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0154】
[製造例12]KNK005 trpSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0155】
製造例11で作製したプラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−trp−phaJ4aをテンプレートとして配列番号28及び配列番号33で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号30及び配列番号31で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた2種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号28及び配列番号31を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4a構造遺伝子より上流の塩基配列、trpプロモーター、phaC1SD配列改変体、及びphaJ4a構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−trpSDM11−phaJ4aを作製した。
【0156】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0157】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−trp SDM11−phaJ4aで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4a構造遺伝子の上流に、配列番号45で示される、trpプロモーター及びphaC1SD配列改変体を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0158】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 trpSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0159】
[製造例13]KNK005 REP−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0160】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号28及び配列番号29で示されるプライマーを用いて、製造例1と同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号34及び配列番号31で示されるプライマーを用いて、同様の条件でPCRを行った。また同様に、配列番号36及び配列番号23で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。上記PCRで得られた3種類のDNA断片をテンプレートとして、配列番号28及び配列番号31を用いて同様の条件でPCRを行い、得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、SwaI消化した特開2007−259708号明細書に記載のベクターpNS2X−sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、phaJ4a構造遺伝子より上流の塩基配列、phaC1プロモーター、phaC1SD配列、及びphaJ4a構造遺伝子配列を有するDNA挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−REP−phaJ4aを作製した。
【0161】
次に、プロモーター及びSD配列挿入株の作製を行った。
【0162】
プロモーター及びSD配列挿入用プラスミドベクターpNS2X−sacB+phaJ4aU−REP−phaJ4aで大腸菌S17−1株(ATCC47055)を形質転換し、製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。培養液を250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK005ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRによる解析により染色体上のphaJ4a構造遺伝子の上流に、配列番号37で示される、phaC1プロモーター及びphaC1SD配列を有するDNA断片が挿入された菌株1株を単離した。
【0163】
このプロモーター、及びSD配列挿入株をKNK005 REP−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株と命名した。
【0164】
[実施例1]KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
種母培地の組成は1w/v%Meat−extract、1w/v%Bacto−Trypton、0.2w/v%Yeast−extract、0.9w/v%NaHPO・12HO、0.15w/v%KHPOとした。
【0165】
PHA生産培地の組成は1.1w/v%NaHPO・12HO、0.19w/v%KHPO、0.13w/v%(NHSO、0.1w/v%MgSO・7HO、0.1v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v%FeCl・6HO、1w/v%CaCl・2HO、0.02w/v%CoCl・6HO、0.016w/v%CuSO・5HO、0.012w/v%NiCl・6HOを溶かした溶液。)とした。炭素源はパーム核油を分別した低融点画分であるパーム核油オレインを単一炭素源として用いた。
【0166】
製造例2で作製したKNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し、培養液を種母とした。PHA生産培養は50mLの生産培地を入れた坂口フラスコに前培養種母を1.0v/v%接種した。培養温度30℃で72時間振とう培養を行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0167】
得られた乾燥菌体1gに100mLのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mLになるまで濃縮後、90mLのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、PHA生産量を算出した。結果を表1に示した。
【0168】
【表1】
【0169】
生産されたポリエステルの3HH組成比率は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥ポリエステルの約20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでポリエステル分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100〜200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温した。
【0170】
上記条件にて分析した結果、得られたポリエステルは共重合体ポリエステルP(3HB−co−3HH)であり、3HH組成比率は上記の表1に示す通りであった。
【0171】
[実施例2]KNK005 lacUV5−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例3で作製したKNK005 lacUV5−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0172】
[実施例3]KNK005 trp−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例4で作製したKNK005 trp−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0173】
[実施例4]KNK005 REP−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例5で作製したKNK005 REP−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0174】
[実施例5]KNK005 REPSDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例6で作製したKNK005 REPSDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0175】
[実施例6]KNK005 REPN17SDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例7で作製したKNK005 REPN17SDM11−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0176】
[実施例7]KNK005 trcSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例8で作製したKNK005 trcSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0177】
[実施例8]KNK005 lacUV5−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例9で作製したKNK005 lacUV5−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0178】
[実施例9]KNK005 lacUV5SDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例10で作製したKNK005 lacUV5SDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0179】
[実施例10]KNK005 trp−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例11で作製したKNK005 trp−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0180】
[実施例11]KNK005 trpSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例12で作製したKNK005 trpSDM11−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0181】
[実施例12]KNK005 REP−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例13で作製したKNK005 REP−phaJ4a/ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。
【0182】
[比較例1]KNK005ΔphaZ1,2,6株によるPHAの生産
KNK005 trc−phaJ4b/ΔphaZ1,2,6株に代えて製造例1で作製したKNK005ΔphaZ1,2,6株を用いて、実施例1と同様の方法でPHAを生産し、得られたPHAの生産量、及び3HH組成比率を測定した。結果を上記の表1に示した。
【0183】
[実施例13]他の発現調節配列が微生物株によるPHAの生産及び3HH組成比率に及ぼす影響を調べるための試験及び結果
(13−1)プラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bの作製
C. necator H16株のphaC1の野生型のプロモーター(REP)及びSD配列と、phaJ4b遺伝子を含む塩基配列からなるDNAを挿入したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bを次のように作製した。 C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号72及び配列番号23で示されるプライマーを用いてPCRを行った。PCRは(1)98℃で2分、(2)98℃で15秒、60℃で30秒、68℃で60秒を25サイクル繰り返し、ポリメラーゼはKOD−plus−(TOYOBO製)を用いた。PCRで得たDNA断片をREPとした。次に、C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号70及び配列番号71で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片を(ReSD)−phaJ4bとした。次に、REP及び(ReSD)−phaJ4bをテンプレートとして配列番号72及び配列番号71で示されるプライマーを用いて同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をEcoRIで消化した。このDNA断片をREP−phaJ4b(EcoRI)とした。このREP−phaJ4b(EcoRI)を、国際公開公報WO/2007/049716号公報に記載のプラスミドベクターpCUP2をMunIで切断したものと連結した。REP−phaJ4b(EcoRI)とpCUP2をMunIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、APPLIED BIOSYSTEMS社製のDNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzerを用いて塩基配列を決定し、鋳型としたDNAの塩基配列と同一であることを確認するとともに、phaJ4b遺伝子がpCUP2上のparP遺伝子とは逆向きに挿入されたものを取得した。取得したプラスミドベクターをpCUP2−REP−phaJ4bとした。
【0184】
(13−2)プロモーター改変プラスミドベクターpCUP2−REPP3M14−phaJ4bの作製
上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1Cのプロモーターに配列番号73で示した変異を導入したpCUP2−REPP3M14−phaJ4bを次のように作製した。
【0185】
上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bをテンプレートとして配列番号72及び配列番号74で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をREP−PUとした。次に、上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bをテンプレートとして配列番号71及び配列番号75で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片を(REPP3M)−phaJ4bとした。次に、REP−PU及び(REPP3M)−phaJ4bをテンプレートとして配列番号72及び配列番号71で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をEcoRIで消化した。このDNA断片をREPP3M−phaJ4b(EcoRI)とした。このREPP3M−phaJ4b(EcoRI)を、国際公開公報WO/2007/049716号公報に記載のプラスミドベクターpCUP2をMunIで切断したものと連結した。REPP3M−phaJ4b(EcoRI)とpCUP2をMunIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaC1のプロモーター部分の塩基配列が配列番号73で示したように変異が導入されたものを取得し、pCUP2−REPP3M14−phaJ4bとした。
【0186】
(13−3)プロモーター改変プラスミドベクターpCUP2−REPN17−phaJ4bの作製
上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のプロモーターに配列番号76で示した変異を導入したpCUP2−REPN17−phaJ4bを次のように作製した。
【0187】
上記(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bをテンプレートとして配列番号71及び配列番号77で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片を(REPN17)−phaJ4bとした。次に、上記(13−2)で作製したREP−PU及び(REPN17)−phaJ4bをテンプレートとして配列番号72及び配列番号71で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をEcoRIで消化した。このDNA断片をREPN17−phaJ4b(EcoRI)とした。このREPN17−phaJ4b(EcoRI)を、国際公開公報WO/2007/049716号公報に記載のプラスミドベクターpCUP2をMunIで切断したものと連結した。REPN17−phaJ4b(EcoRI)とpCUP2をMunIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaC1のプロモーター部分の塩基配列が配列番号76で示したように変異が導入されたものを取得し、pCUP2−REPN17−phaJ4bとした。
【0188】
(13−4)SD配列改変プラスミドベクターpCUP2−REPSDM4−phaJ4bの作製
上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列TGTGTGA(配列番号63)に改変したpCUP2−REPSDM4−phaJ4bを次のように作製した。
【0189】
上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bをテンプレートとして配列番号71及び配列番号78で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片を(REP)SDM4−phaJ4bとした。次に、上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bをテンプレートとして配列番号72及び配列番号79で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をREP−SDUとした。次に、(REP)SDM4−phaJ4b及びREP−SDUをテンプレートとして配列番号72及び配列番号71で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をEcoRIで消化した。このDNA断片をREPSDM4−phaJ4b(EcoRI)とした。このREPSDM4−phaJ4b(EcoRI)を、国際公開公報WO/2007/049716号公報に記載のプラスミドベクターpCUP2をMunIで切断したものと連結した。REPSDM4−phaJ4b(EcoRI)とpCUP2をMunIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaC1のSD配列部分の塩基配列がTGTGTGA(配列番号63)に改変されたものを取得し、pCUP2−REPSDM4−phaJ4bとした。
【0190】
(13−5)SD配列改変プラスミドベクターpCUP2−REPSDM11−phaJ4bの作製
上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列TCTCTCT(配列番号52)に改変したpCUP2−REPSDM11−phaJ4bを次のように作製した。
【0191】
上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bをテンプレートとして配列番号71及び配列番号80で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片を(REP)SDM11−phaJ4bとした。
【0192】
次に、(REP)SDM11−phaJ4b及び上記(13−4)で作製したREP−SDUをテンプレートとして配列番号72及び配列番号71で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をEcoRIで消化した。このDNA断片をREPSDM11−phaJ4b(EcoRI)とした。このREPSDM11−phaJ4b(EcoRI)を、国際公開公報WO/2007/049716号公報に記載のプラスミドベクターpCUP2をMunIで切断したものと連結した。
【0193】
REPSDM11−phaJ4b(EcoRI)とpCUP2をMunIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−REP−phaJ4bに対して、phaC1のSD配列部分の塩基配列がTCTCTCT(配列番号52)に改変されたものを取得し、pCUP2−REPSDM11−phaJ4bとした。
【0194】
(13−6)プラスミドベクターpCUP2−trcSDM1−phaJ4bの作製
(1)配列番号47で示されるtrcプロモーターと、C. necator H16株のphaC1のSD配列、phaJ4b遺伝子を含む塩基配列からなるDNAを挿入したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bを次のように作製した。
【0195】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号81及び配列番号82で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をMunI及びSpeIで消化した。このDNA断片を(ReSD)−phaJ4b(MunI,SpeI)とした。この(ReSD)−phaJ4b(MunI,SpeI)を国際公開公報WO/2007/049716号公報に記載のプラスミドベクターpCUP2をMunI及びSpeIで切断したものと連結した。(ReSD)−phaJ4b(MunI,SpeI)とpCUP2をMunI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、鋳型としたDNAの塩基配列と同一であることを確認した。得られたプラスミドをpCUP2−ReSD−phaJ4bとした。次に、プラスミドpKK388−1(CLONTECH社製)をテンプレートとして配列番号83及び配列番号85で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をMunIで消化した。このDNA断片をtrc(MunI)とした。次にtrc(MunI)を上記のプラスミドpCUP2−ReSD−phaJ4bをMunIで切断したものと連結した。trc(MunI)とpCUP2−ReSD−phaJ4bをMunIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、鋳型としたDNAの塩基配列と同一であることを確認するとともに、プラスミドベクターをテンプレートとして配列番号81及び配列番号83で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った際に、trcプロモーター及びphaJ4b遺伝子を含む塩基配列からなる増幅断片が得られる向きにtrc(MunI)断片が挿入されたプラスミドを取得した。得られたプラスミドpCUP2−trc−phaJ4bとした。
【0196】
(2)上で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列TGTGAGA(配列番号60)に改変したpCUP2−trcSDM1−phaJ4bを次のように作製した。
【0197】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号81及び配列番号84で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をSpeIで消化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼで5’末端をリン酸化した。このDNA断片をSDMA−phaJ4b(SpeI)とした。
【0198】
次にSDMA−phaJ4b(SpeI)を、上記(13−6)の(1)のプラスミドpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものと連結した。SDMA−phaJ4b(SpeI)とpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaC1のSD配列部分の塩基配列がTGTGAGA(配列番号60)に改変されたものを取得し、pCUP2−trcSDM1−phaJ4bとした。
【0199】
(13−7)プラスミドベクターpCUP2−trcSDM3−phaJ4bの作製
上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列AGTGAGA(配列番号62)に改変したpCUP2−trcSDM3−phaJ4bを次のように作製した。
【0200】
上記(13−6)の(2)に記載の方法で得た、SDMA−phaJ4b(SpeI)とpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaC1のSD配列部分の塩基配列がAGTGAGA(配列番号62)に改変されたものを取得し、pCUP2−trcSDM3−phaJ4bとした。
【0201】
(13−8)プラスミドベクターpCUP2−trcSDM4−phaJ4bの作製
上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列TGTGTGA(配列番号63)に改変したpCUP2−trcSDM4−phaJ4bを次のように作製した。
【0202】
上記(13−6)の(2)に記載の方法で得た、SDMA−phaJ4b(SpeI)とpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaC1のSD配列部分の塩基配列がTGTGTGA(配列番号63)に改変されたものを取得し、pCUP2−trcSDM4−phaJ4bとした。
【0203】
(13−9)プラスミドベクターpCUP2−trcSDM5−phaJ4bの作製
上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列TGAGTGA(配列番号64)に改変したpCUP2−trcSDM5−phaJ4bを次のように作製した。
【0204】
上記(13−6)の(2)に記載の方法で得た、SDMA−phaJ4b(SpeI)とpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaCのSD配列部分の塩基配列がTGAGTGA(配列番号64)に改変されたものを取得し、pCUP2−trcSDM5−phaJ4bとした。
【0205】
(13−10)プラスミドベクターpCUP2−trcSDM2−phaJ4bの作製
上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列ATATAGA(配列番号61)に改変したpCUP2−trcSDM2−phaJ4bを次のように作製した。
【0206】
C. necator H16株の染色体DNAをテンプレートとして配列番号86及び配列番号81で示されるプライマーを用いて上記(13−1)と同様の条件でPCRを行った。PCRで得られたDNA断片をSpeIで消化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼで5'末端をリン酸化した。このDNA断片をSDMG−phaJ4b(SpeI)とした。
【0207】
次にSDMG−phaJ4b(SpeI)を、上記(13−6)の(1)のプラスミドpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものと連結した。
【0208】
SDMG−phaJ4b(SpeI)とpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaC1のSD配列部分の塩基配列がATATAGA(配列番号61)に改変されたものを取得し、pCUP2−trcSDM2−phaJ4bとした。
【0209】
(13−11)プラスミドベクターpCUP2−trcSDM6−phaJ4bの作製
上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列AGAGATA(配列番号65)に改変したpCUP2−trcSDM6−phaJ4bを次のように作製した。
【0210】
上記(13−9)に記載の方法で得た、SDMG−phaJ4b(SpeI)とpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaC1のSD配列部分の塩基配列がAGAGATA(配列番号65)に改変されたものを取得し、pCUP2−trcSDM6−phaJ4bとした。
【0211】
(13−12)プラスミドベクターpCUP2−trcSDM7−phaJ4bの作製
上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaJ4bの発現調節を行うC. necator H16株のphaC1のSD配列を塩基配列AGATAGA(配列番号66)に改変したpCUP2−trcSDM7−phaJ4bを次のように作製した。
【0212】
上記(13−9)に記載の方法で得た、SDMG−phaJ4b(SpeI)とpCUP2−trc−phaJ4bをPmaCI及びSpeIで切断したものを連結したプラスミドベクターについて、上記(13−1)と同様の方法で塩基配列を決定し、上記(13−6)の(1)で作製したプラスミドベクターpCUP2−trc−phaJ4bに対して、phaCのSD配列部分の塩基配列がAGATAGA(配列番号66)に改変されたものを取得し、pCUP2−trcSDM7−phaJ4bとした。
【0213】
(13−13)PHAの生産量、及び3HH組成比率分析
種母培地の組成は1w/v%Meat−extract、1w/v%Bacto−Trypton、0.2w/v%Yeast−extract、0.9w/v%NaHPO・12HO、0.15w/v%KHPOとした。
【0214】
種母培地を用いてプラスミドベクター導入株を培養する場合には、カナマイシンを最終濃度100μg/mlとなるように添加した。
【0215】
PHA生産培地の組成は1.1w/v%NaHPO・12HO、0.19w/v%KHPO、0.13w/v%(NHSO、0.1w/v%MgSO・7HO、0.1v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v%FeCl・6HO、1w/v%CaCl・2HO、0.02w/v%CoCl・6HO、0.016w/v%CuSO・5HO、0.012w/v%NiCl・6HOを溶かしたもの。)とした。炭素源はパーム核油を分別した低融点画分であるパーム核油オレインを単一炭素源として用いた。
【0216】
上で作製した各プラスミドベクターによって上記KNK005ΔphaZ1,2,6株を形質転換して得られたプラスミドベクター導入株、すなわち、pCUP2−REPN17−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−REPSDM4−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−REPSDM11−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−trcSDM1−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−trcSDM3−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−trcSDM4−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−trcSDM5−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−trcSDM2−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−trcSDM6−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株、pCUP2−trcSDM7−phaJ4b in KNK005ΔphaZ1,2,6株の10株について、グリセロールストック(50μL)をそれぞれ種母培地(10mL)に接種して培養温度30℃で24時間振とう培養し、培養液を種母とした。
【0217】
PHA生産培養は50mLの生産培地を入れた坂口フラスコに前培養種母を1.0v/v%接種した。培養温度30℃で72時間振とう培養を行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
【0218】
得られた乾燥菌体1gに100mLのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mLになるまで濃縮後、90mLのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、PHA生産量を算出した。結果を表2に示した。
【0219】
生産されたポリエステルの3HH組成比率は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥ポリエステルの約20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することでポリエステル分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0220】
ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100〜200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200〜290℃まで30℃/分の速度で昇温した。
【0221】
上記条件にて分析した結果、得られたポリエステルは共重合体ポリエステルP(3HB−co−3HH)であり、3HH組成比率は表2に示す通りであった。
【0222】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0223】
本発明の微生物は、モノマー組成比の制御されたポリヒドロキシアルカノエート(PHA)共重合体を生産することを可能にするため、硬質ポリマーから軟質ポリマーまで幅広い物性をもつ生分解性ポリマーを生産することができる。
【0224】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0225】
配列番号1〜36、70〜72、74〜75、77〜86:プライマー
配列番号38〜40、43〜45:発現調節DNA
配列番号60〜66:SD配列
配列番号76、55〜59:プロモーター
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]