特許第6663243号(P6663243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663243
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】透光板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 18/00 20060101AFI20200227BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20200227BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20200227BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   B32B18/00 C
   C23C14/06 K
   C23C14/34 S
   B60J1/00 H
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-27392(P2016-27392)
(22)【出願日】2016年2月16日
(65)【公開番号】特開2017-144612(P2017-144612A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東條 暁典
(72)【発明者】
【氏名】古市 渉
(72)【発明者】
【氏名】河合 昂平
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−264271(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/151169(WO,A1)
【文献】 特開2012−092408(JP,A)
【文献】 特開2000−104165(JP,A)
【文献】 特開2012−132035(JP,A)
【文献】 特開2015−092027(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0267952(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 18/00
B60J 1/00
C23C 14/06
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基体と、
前記樹脂基体上に設けられたプライマー層と、
前記プライマー層の上に設けられたハードコート層と、
前記ハードコート層の上に設けられたセラミック層と、
からなる透光板であって、
前記透光板は、前記セラミック層に対するXPS解析を実施した場合に、
Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、
Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、
それぞれ有し、
前記セラミック層はスパッタリングによって、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜されたものであることを特徴とする透光板。
【請求項2】
前記セラミック層の表面及び内部に遊離炭素の存在が確認される請求項1に記載の透光板。
【請求項3】
前記セラミック層は、SiCをターゲットとして用いて成膜されたものである請求項1又は2に記載の透光板。
【請求項4】
前記セラミック層は、Si、O及びCからなる非晶質体である請求項1〜3のいずれかに記載の透光板。
【請求項5】
前記ハードコート層は、酸素(O)を含む請求項1〜4のいずれかに記載の透光板。
【請求項6】
前記プライマー層は、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなる請求項1〜5のいずれかに記載の透光板。
【請求項7】
前記ハードコート層は、シリコーン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなる請求項1〜6のいずれかに記載の透光板。
【請求項8】
前記樹脂基体は、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートからなる請求項1〜7のいずれかに記載の透光板。
【請求項9】
前記セラミック層の厚さが5〜300nmである請求項1〜8のいずれかに記載の透光板。
【請求項10】
樹脂基体上に、プライマー層を形成する工程、
前記プライマー層の上にハードコート層を形成する工程、及び、
前記ハードコート層の上にセラミック層を形成する工程を含み、
前記セラミック層を形成する工程は、スパッタリングによって、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜することを含むことを特徴とする透光板の製造方法。
【請求項11】
前記セラミック層を形成する工程においては、SiCをターゲットとして用いる請求項10に記載の透光板の製造方法。
【請求項12】
前記ハードコート層が酸素(O)を含み、前記ハードコート層中の酸素をプラズマによって活性化させて、前記ハードコート層直上に前記セラミック層を形成する請求項10又は11に記載の透光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮や燃費向上のために、自動車の軽量化が進められている。そして、そのような軽量化対策の一つとして、自動車に使用されるガラスの樹脂化が検討されている。自動車用の樹脂ガラス(有機ガラス)の材料には、ポリカーボネートや、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン、ABS等の透明な平板を形成可能な樹脂材料が使用可能である。そしてその中でも、耐衝撃性や、耐熱性、透明性等に優れたポリカーボネートが好適に使用される。しかしながら、樹脂ガラスは、その形成材料たる樹脂の種類に拘わらず、無機ガラスよりも表面の硬度が低い。そのため、耐摩耗性や耐擦傷性が不充分であり、しかも耐候性にも劣るといった欠点を有している。
【0003】
このような課題を解決するために、特許文献1には、透明な樹脂基板の少なくとも一方の面上に、ハードコート層が積層形成されてなる自動車用樹脂ガラスであって、上記ハードコート層が、真空蒸着重合によって形成された有機高分子薄膜を含んで構成され、上記ハードコート層が、上記有機高分子薄膜と、該有機高分子薄膜の上記樹脂基板側とは反対側に、真空成膜プロセスによって積層形成された無機薄膜とを含む複層構造を有している自動車用樹脂ガラスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−116182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の自動車用樹脂ガラスでは、無機薄膜をハードコート層としているが、耐摩耗性をより向上させる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題点を踏まえてなされたものであり、耐摩耗性に優れる透光板を提供すること、及び、該透光板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の透光板は、
樹脂基体と、
上記樹脂基体上に設けられたプライマー層と、
上記プライマー層の上に設けられたハードコート層と、
上記ハードコート層の上に設けられたセラミック層と、
からなる透光板であって、
上記透光板は、上記セラミック層に対するXPS解析を実施した場合に、
Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、
Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、
それぞれ有することを特徴とする。
【0008】
本発明の透光板は、樹脂基体、プライマー層及びハードコート層を有し、ハードコート層の上にセラミック層が形成されている。セラミック層は、樹脂材料と比較して圧倒的に硬いので、透光板に耐摩耗性を付与することができる。また、本発明の透光板は、上記セラミック層に対するXPS(X線光電子分光)解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、それぞれ有する。XPS解析を実施した場合に、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを有するセラミック層の組成は、SiO(二酸化ケイ素)に近く、硬く、耐摩耗性に優れるうえ、透明性に優れるものとなる。また、このようなセラミック層は、その組成がSiO(二酸化ケイ素)に近いことから、ハードコート層とセラミック層との密着性が良好となり、セラミック層がハードコート層から剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性を充分に発揮することができる。
また、本発明においては、セラミック層を形成する際に、例えば酸素を多く含有するハードコート層表面付近をプラズマによって活性化すると、ハードコート中の酸素とスパッタによって供給されるSi、C、Oとの結びつきが確実なものとなりハードコート層とセラミック層との密着性がより良好となり、かつ、形成される膜(セラミック層)は二酸化ケイ素に近い非晶質体となる。
また、ハードコート層中の酸素原子をも巻き込んだSiOの非晶質体がハードコート層との界面で形成されるためセラミック層がハードコート層から剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性を充分に発揮することができる。
【0009】
また、セラミック層を構成するセラミック材料は、エネルギーバンドギャップの作用により一般に短波長側の光を吸収しやすく紫外線を吸収することができる。このため、例えばセラミック層の厚さを適宜調整することにより、セラミック層によって紫外線を効果的に吸収することができる。このため、透光板を構成する樹脂材料に紫外線が届かず、紫外線による樹脂基体の劣化を防止することができる。さらには、適宜セラミック層の種類等を調整することで紫外線に限定されず、赤外線に対しても光を減衰させることができる。
【0010】
本発明の透光板においては、上記セラミック層の表面及び内部に遊離炭素の存在が確認されることが好ましい。
セラミック層の表面及び内部に遊離炭素が存在すると、セラミック層表面が滑らかとなるため好ましい。遊離炭素の存在は、セラミック層に対するXPS解析を実施することにより確認することができる。具体的には、セラミック層に対するXPS解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において284eVのピークはC=C結合を示し、セラミック層に遊離炭素が存在すると、該ピークがブロードとなる波形が観察される。従って、Cの結合状態解析における284eVのピークの波形から、遊離炭素の存在が確認出来る。
なお、セラミック層の表面とは、ハードコート層側と反対側のセラミック層の表面である。
【0011】
本発明の透光板においては、上記セラミック層はスパッタリングによって、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜されたものであることが好ましい。
セラミック層がこのような方法により形成されたものであると、ハードコート層とセラミック層との連続性が確保され、ハードコート層とセラミック層との密着性がより向上する。このため透光板の耐摩耗性がより向上する。
【0012】
上記セラミック層は、SiCをターゲットとして用いて成膜されたものであることが好ましい。
SiCは、セラミック材料としては特に硬い部類の素材であるので、本発明におけるセラミック層の成分として好適に利用することができ、透光板の耐摩耗性をより向上させることができる。
【0013】
上記セラミック層は、Si、O及びCからなる非晶質体であることが好ましい。
非晶質体であると、セラミック層が透明であるうえ、セラミック層の厚さが薄い場合でも紫外線を吸収する作用を発現できる。
【0014】
上記ハードコート層は、酸素(O)を含むことが好ましい。
ハードコート層が酸素を含むと、ハードコート層とセラミック層との密着性がより向上する。このため透光板の耐摩耗性がより向上する。
また、ハードコート層が酸素を含む場合に、上記のスパッタリングによってセラミック層を形成すると、ハードコート層中(特に、ハードコート層表面付近)の酸素がプラズマによって活性化され、該酸素とスパッタリングによって供給されるSi、C、Oとの結びつきがより確実なものとなる。このため、セラミック層がこのように形成されたものであると、ハードコート層とセラミック層との密着性がより良好となる。さらに、形成されるセラミック層は二酸化ケイ素に近い非晶質体となる。また、ハードコート層中の酸素をも巻き込んだSiOの非晶質体がハードコート層との界面で形成されるため、セラミック層がハードコート層からより剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性をより充分に発揮することができる。
【0015】
上記プライマー層は、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。
上記の樹脂は樹脂基体及びハードコート層との接着性に優れるため、透光板を構成する樹脂基体及びハードコート層を、プライマー層を介して強固に接着することができる。
【0016】
上記ハードコート層は、シリコーン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。これらの樹脂は、酸素を含むため、ハードコート層の材料として好ましい。ハードコート層がシリコーン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなると、ハードコート層とセラミック層との密着性がより向上する。このためセラミック層がハードコート層からより剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性をより充分に発揮することができる。特に、上記のスパッタリングによってセラミック層を形成すると、ハードコート層中に含まれる酸素がプラズマによって活性化され、該酸素とスパッタによって供給されるSi、C、Oとが結びつく機会が増加し、ハードコート層とセラミック層との界面付近においてこれらの2つの層の元素分布に連続性が生じる。その結果、ハードコート層とセラミック層との界面付近において、これらの2つの層の元素組成の差が小さくなるため、ハードコート層とセラミック層との密着性がより良好となる。
【0017】
上記樹脂基体は、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートからなることが好ましい。
これらの樹脂は、高い透光性を有している上に、複屈折がなく、充分な強度を有しているので、本発明の透光板の樹脂基体の材料として好適に利用することができる。
【0018】
上記セラミック層の厚さは5〜300nmであることが好ましい。
セラミック層の厚さが上記範囲であると、耐摩耗性が充分に付与される。また、紫外線を充分に吸収することができるため樹脂基体に紫外線の影響が及ぶことを効果的に防ぐことができる。
【0019】
本発明の透光板の製造方法は、
樹脂基体上に、プライマー層を形成する工程、
上記プライマー層の上にハードコート層を形成する工程、及び、
上記ハードコート層の上にセラミック層を形成する工程を含み、
上記セラミック層を形成する工程は、スパッタリングによって、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜することを含むことを特徴とする。
【0020】
セラミック層を形成する際に、スパッタリングによって上記の条件で成膜すると、得られる透光板は、上記セラミック層に対するXPS解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、それぞれ有することになる。
このため本発明の方法によれば、上述した本発明の透光板を製造することができる。
【0021】
上記セラミック層を形成する工程においては、SiCをターゲットとして用いることが好ましい。スパッタリングによって、ターゲットにSiCを用いて上記の条件で成膜することにより、より耐摩耗性に優れ、樹脂基体が紫外線によって劣化しにくい透光板を製造することができる。
【0022】
本発明の方法においては、上記ハードコート層が酸素(O)を含み、上記ハードコート層中の酸素をプラズマによって活性化させて、上記ハードコート層直上に上記セラミック層を形成することが好ましい。
ハードコート層が酸素を含むと、上記のスパッタリングによってセラミック層を形成する際に、該ハードコート層中の酸素をプラズマによって活性化させることができる。ハードコート層中(特に、ハードコート層表面付近)の酸素が活性化されると、該酸素とスパッタリングによって供給されるSi、C、Oとが結びつく機会が増加し、これらの結びつきがより確実なものとなり、ハードコート層とセラミック層との界面付近においてこれらの2つの層の元素分布に連続性が生じる。その結果、ハードコート層とセラミック層との界面付近において、これらの2つの層の元素組成の差が小さくなるため、ハードコート層とセラミック層との密着性がより良好となる。さらに、形成されるセラミック層は二酸化ケイ素に近い非晶質体となるため、硬く、耐摩耗性に優れるうえ、透明性に優れるものとなる。また、ハードコート層中の酸素をも巻き込んだSiOの非晶質体がハードコート層との界面で形成されるため、セラミック層がハードコート層からより剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性をより充分に発揮することができる透光板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の透光板の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施例1で作製した透光板のXPS解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の透光板及び透光板の製造方法について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0025】
はじめに、本発明の透光板について説明する。
本発明の透光板は、樹脂基体と、上記樹脂基体上に設けられたプライマー層と、上記プライマー層の上に設けられたハードコート層と、上記ハードコート層の上に設けられたセラミック層と、からなる。本発明の透光板は、樹脂基体上に、プライマー層、ハードコート層及びセラミック層をこの順に有するが、プライマー層、ハードコート層及びセラミック層は、樹脂基体の片面に設けられていてもよく、樹脂基体の両面に設けられていてもよい。
【0026】
樹脂基体は、樹脂材料からなる基体である。樹脂材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、PET樹脂、ポリスチレン、透明塩化ビニル樹脂等が挙げられる。中でも、樹脂基体は、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートからなることが好ましい。樹脂基体がポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートからなるものであると、これらの樹脂は強度が高いため、本発明の透光板の強度がより向上する。またこれらの樹脂は、高い透光性を有している上に、複屈折がない点でも本発明の透光板の樹脂基体として好ましい。
【0027】
樹脂基体とプライマー層との密着性を向上させるため、所望によりサンドブラスト処理や化学薬品等による粗化処理が樹脂基体の表面に施されていてもよい。
上記粗化処理により形成される樹脂基体の表面の表面粗さRzJISは、0.3〜20μmが望ましい。上記した粗化面の表面粗さRzJISは、JIS B 0601(2001)で定義される十点平均粗さである。
【0028】
上記樹脂基体の粗化面の表面粗さRzJISが0.3μm未満であると、樹脂基体の表面積が小さくなるため、樹脂基体とプライマー層との密着性が充分に得られにくくなる場合がある。一方、樹脂基体の粗化面の表面粗さRzJISが20μmを超えると、樹脂基体の表面にプライマー層が形成されにくくなる場合がある。これは、樹脂基体の粗化面の表面粗さRzJISが大きすぎると、樹脂基体の表面に形成された凹凸の谷の部分にプライマー層が形成されにくく、この部分に空隙が形成されるためであると考えられる。
なお、樹脂基体の粗化面の表面粗さRzJISは、レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−X200violet仕様)を用いて表面の輪郭曲線を測定した後、JIS B 0601(2001)に準拠して、走査距離は30μmとして測定することができる。
【0029】
樹脂基体の形状は、特に限定されるものではなく、平板、半円筒、円筒状の他、その断面の外縁の形状は、楕円形、多角形等の任意の形状であってもよい。樹脂基体は、例えば、リアウインドウ等の自動車用の窓、ランプカバー又はランプレンズの形状であることが好ましい。
また、樹脂基体の厚さは、透光板を使用する用途に応じて適切な厚さとすることができる。
板状の透光板の樹脂基体として適切なmmオーダーの厚さでもよいし、フィルム状の透光板の樹脂基体として適切なμmオーダーの厚さでもよい。なお、樹脂基体の厚さは不均一であってもよい。例えば透光板を自動車用の窓に使用する場合には、樹脂基体の厚さは3〜6mmが好ましく、3〜4mmがより好ましい。
【0030】
本発明の透光板では、樹脂基体上にプライマー層が設けられている。
プライマー層は、透光板を構成する樹脂基体及びハードコート層に対して接着性が良好な材料からなることが好ましく、例えば、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂及びエポキシ樹脂、からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。これらの樹脂は樹脂基体及びハードコート層との接着性に優れるため、透光板を構成する樹脂基体及びハードコート層を、プライマー層を介して強固に接着することができる。
中でも、プライマー層は、アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなることがより好ましい。
【0031】
プライマー層の厚さは特に限定されないが、例えば、1〜10μmが好ましく、3〜8μmがより好ましい。プライマー層の厚さが1μm未満であると、プライマー層を介して樹脂基体及びハードコート層を強固に接着できなくなったり、最終製品に仕上げたときに耐摩耗性がなくなったりする。
プライマー層の厚さを10μmを超えて厚くすると膜厚バラツキが大きくなりハードコート層を強固に接着できない場合があるばかりでなく、後のハードコート形成時の厚みバラツキの原因にもなる。プライマー層の厚さは均一であることが好ましい。
【0032】
ハードコート層を形成する材料としては、例えば、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂が挙げられる。
これらは1種又は2種以上使用することができる。ハードコート層がこのような材料からなるものであると、ハードコート層とセラミック層との密着性がより向上する。このためセラミック層がハードコート層からより剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性等をより充分に発揮することができる。中でも、シリコーン系樹脂がより好ましい。
【0033】
本発明におけるハードコート層は、酸素(O)を含有することが好ましく、ハードコート層に対して15〜50重量%酸素を含有することが好ましい。上記のアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂は酸素を含有し、ハードコート層の材料として好適である。
【0034】
ハードコート層の厚さは特に限定されないが、例えば、2〜9.5μmが好ましく、2.5〜5μmがより好ましい。ハードコート層の厚さが2μm未満であると、所望の硬度が得られない場合があり、耐摩耗性が得られないことがある。ハードコート層の厚さを9.5μmを超えて厚くすると、膜厚バラツキが増えて、耐摩耗性の低下と乾燥時の気泡混入により品質が低下することがある。そのような厚さのハードコート層を形成するために時間もかかる。ハードコート層の厚さは均一であることが好ましい。
【0035】
本発明の透光板では、ハードコート層の上にセラミック層が設けられている。
本発明の透光板においては、上記セラミック層の表面及び内部に遊離炭素の存在が確認されることが好ましい。
【0036】
セラミック層は、Si、O及びCからなる非晶質体であることが好ましい。Si、O及びCからなる非晶質体であると、セラミック層が透明であるため好ましい。また、Si、O及びCからなる非晶質体であると、セラミック層の厚さが薄い場合でも紫外線を吸収する作用を発現できる。
セラミック層は、本発明の効果を損なわない限り、Si、O及びC以外の成分を含んでもよい。
【0037】
上記セラミック層の厚さは5〜300nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。
セラミック層の厚さが上記範囲であると、耐摩耗性が充分に付与される。また、紫外線を充分に吸収することができるため樹脂基体に紫外線の影響が及ぶことを効果的に防ぐことができる。
セラミック層の厚さを300nmを超えて厚くしても特性に大きな変化はなく、そのような厚さのセラミック層を形成することが難しく、時間もかかるため、透光板の価格が高くなりすぎる。
【0038】
プライマー層、ハードコート層、セラミック層等の各層の厚さは、例えば、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。
例えばセラミック層の厚さは、樹脂基体の表面にプライマー層、ハードコート層及びセラミック層が形成された部分と、樹脂基体の表面にプライマー層及びハードコート層が形成され、セラミック層が形成されていない部分がある試料とを準備し、樹脂基体の表面にプライマー層、ハードコート層及びセラミック層が形成された部分と、該セラミック層が形成されていない部分の境界の段差をまたぐようにレーザー顕微鏡を走査して、その段差の高さをセラミック層の厚さとして測定することができる。
プライマー層及びハードコート層についても同様に、樹脂基体の表面にプライマー層、ハードコート層等が形成された部分と、樹脂基体表面にプライマー層、ハードコート層等が形成されていない部分がある試料とを用いて、上記と同様に厚さを測定することができる。
上記測定用試料は、形成したプライマー層、ハードコート層、セラミック層の一部を除去することによって作製してもよい。
【0039】
本発明の透光板は、上記セラミック層に対するXPS解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、それぞれ有する。
【0040】
XPS解析は、以下の条件で行う。より具体的には、XPS解析においては、X線電子分光装置を用い、セラミック層の珪素(Si)および炭素(C)に関連する結合のピーク位置、及びセラミック層の深さ方向の構成比を確認する。
なお、分析装置の条件等は下記のとおりである。
分析装置:アルバック・ファイ社製 QuanteraII
X線源:Al−Kα
X線源の印加電圧、電流:15kV、1.5A
イオン銃のガス種:Ar
Arイオンスパッタ条件:500V、7mA、1.0min
測定エネルギー範囲:wide 0〜1100eV
narrow C(C1s):278〜298eV、Si(Si2p):94〜114eV
【0041】
本発明の透光板では、上記セラミック層に対するXPS解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、それぞれ有する。
また、上述したように、ハードコート層は酸素(O)を含むことが好ましい。上記セラミック層は、ハードコート層中の酸素を活性化させて成膜されたものであることが好ましい。このような方法で形成されたものであると、セラミック層とハードコート層とが接する界面付近において、これらの2つの層の元素組成の差が小さく、これによりセラミック層とハードコート層の密着性がより良好になる。このようにハードコート層とセラミック層との密着性が良好であることから、セラミック層がハードコート層から剥離しにくく、透光板により優れた耐摩耗性が付与される。セラミック層を形成する際に、ハードコート層中の酸素を活性化させる方法としては、スパッタリングによってハードコート層の表面をプラズマで活性化させる方法が挙げられる。
【0042】
また本発明の透光板上のセラミック層はXPS解析において、SiOに近いピーク特性を有し、セラミック層の透明性が良好になるという効果も奏する。
【0043】
本発明におけるセラミック層はスパッタリングによって、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜されたものであることが好ましい。このような方法で形成されたセラミック層は、ハードコート層が酸素を含むと、ハードコート層に含まれる酸素がプラズマによって活性化され、この酸素が、Si、O、Cと結びつくためハードコート層との界面付近において元素分布の連続性が確保され、より密着性に優れ、透光性にも優れるものとなる。
【0044】
また、セラミック層は、SiCをターゲットとして用いて成膜されたものであることが好ましい。SiCをターゲットとして使用してスパッタリングによって上記条件で形成されたセラミック層は、硬度が特に高いため、透光板の耐摩耗性をより向上させることができる。また、SiCは紫外線を吸収しやすい性質も有するため、紫外線による樹脂基体の劣化もより効果的に防止することができる。
【0045】
図1は、本発明の透光板の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の透光板10は、樹脂基体11と、樹脂基体11上に設けられたプライマー層12と、プライマー層12の上に設けられたハードコート層13と、ハードコート層13の上に設けられたセラミック層14と、からなる。
樹脂基体11、プライマー層12、ハードコート層13及びセラミック層14の好ましい態様等は、上述したとおりである。
【0046】
図2は、本発明の透光板の一例について、セラミック層に対するXPS分析でのCの結合状態とSiの結合状態の解析結果である(図2の(a):Cの結合状態解析(C1s)の結果を示すグラフ;図2の(b):Siの結合状態解析(Si2p)の結果を示すグラフ)。
【0047】
次に、本発明の透光板の製造方法について説明する。本発明の透光板の製造方法は、上述した本発明の透光板を製造する方法として好適である。
本発明の透光板の製造方法は、
樹脂基体上に、プライマー層を形成する工程、
上記プライマー層の上にハードコート層を形成する工程、及び、
上記ハードコート層の上にセラミック層を形成する工程を含み、
上記セラミック層を形成する工程は、スパッタリングによって、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜することを含むことを特徴とする。
【0048】
(1)樹脂基体の準備
はじめに、樹脂基体を準備する。
樹脂基体としては本発明の透光板の説明で説明した樹脂基体を使用することができ、使用する用途に応じて任意の形状に切削加工、押出成形等により成形した樹脂基体を準備する。
また、樹脂基体の表面の不純物を除去するために洗浄処理を行うことが好ましい。
上記洗浄処理としては特に限定されず、従来公知の洗浄処理を用いることができ、具体的には、例えば、水やアルコール溶媒中で超音波洗浄を行う方法等を用いることができる。
また、スパッタリング装置内に樹脂基体を設置し、プラズマを発生させることによって樹脂基体の表面をプラズマ洗浄してもよい。
【0049】
また、上記洗浄処理後には、必要に応じて、樹脂基体の表面の粗さを調整したりするために、樹脂基体の表面に粗化処理を施してもよい。具体的には、例えば、サンドブラスト処理、エッチング処理等の粗化処理を施してもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
この粗化処理後に、さらに洗浄処理を行ってもよい。
樹脂基体表面の好ましい表面粗さ等については、既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0050】
(2)プライマー層の形成
次に、樹脂基体上に、プライマー層を形成する。
プライマー層を形成する方法は特に限定されず、上述したプライマー層を構成する樹脂を用いて、公知の方法(例えば、ディップ法)により樹脂基体表面にプライマー層を形成する。
【0051】
(3)ハードコート層の形成
続いて、プライマー層の上にハードコート層を形成する。ハードコート層は、酸素(O)を含むことが好ましい。
ハードコート層を形成する方法は特に限定されず、上述したハードコート層を構成する材料を用いてプライマー層表面にハードコート層を形成すればよい。
プライマー層及びハードコート層を硬化させる方法は特に限定されず、熱硬化、紫外線硬化、電子線硬化、常温硬化等の各方法を使用でき、材料に応じて適宜選択すればよい。また、プライマー層及びハードコート層は、プライマー層を硬化させた後、ハードコート層を形成してもよく、プライマー層及びハードコート層を同時に硬化させてもよい。
【0052】
(4)セラミック層の形成
上記で得られた樹脂基体上にプライマー層及びハードコート層が形成された積層体のハードコート層表面にセラミック層を形成する。
セラミック層の形成は、スパッタリングによって、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜することを含む。
【0053】
本発明の製造方法においては、ハードコート層が酸素(O)を含む場合には、ハードコート層中の酸素をプラズマによって活性化させて、該ハードコート層直上に上記セラミック層を形成することが好ましい。本発明においては、上記の95W〜105Wのエネルギー条件下でスパッタリングを行うことによって、ハードコート層中の酸素を活性化することができる。
ハードコート層が酸素を含むと、セラミック層をスパッタリングによって形成する際に、ハードコート層中の酸素がプラズマによって活性化され、上記酸素とスパッタによって供給されるSiとCとOの結び付く機会が増加し、これらの結びつきがより確実なものとなり、ハードコート層とセラミック層との界面付近においてこれらの2つの層の元素分布に連続性が生じる。その結果、ハードコート層とセラミック層との界面付近において、これらの2つの層の元素組成の差が小さくなるため、ハードコート層とセラミック層との密着性がより良好となる。さらに、形成されるセラミック層はSiOに近い非晶質体となるため、硬く、耐摩耗性に優れるうえ、透明性に優れるものとなる。また、ハードコート層中の酸素をも巻き込んだSiOの非晶質体がハードコート層との界面で形成されるため、セラミック層がハードコート層からより剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性をより充分に発揮することができる透光板を得ることができる。
【0054】
スパッタリングは物理蒸着(PVD)の一種である。
スパッタリングによりセラミック層を形成する場合、樹脂材料からなる樹脂基体、プライマー層、ハードコート層等の温度が高温にならず、樹脂材料の耐熱温度以下の温度でセラミック層を形成することができるので、本発明におけるセラミック層の形成方法として適している。
【0055】
スパッタリングとしては、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、2極スパッタ法、反応性スパッタ法、ECRスパッタ法、RF(交流、高周波)スパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法等が挙げられる。中でも、RFスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法等がより好ましく、RFマグネトロンスパッタ法がさらに好ましい。
RFスパッタであると、絶縁体であるセラミックターゲットについてもスパッタリングが可能であり、マグネトロンスパッタとすることによって成膜速度を速くすることができる。
【0056】
RFマグネトロンスパッタ法によるスパッタリングを行う場合には、スパッタリング装置にセラミック層の材料となるターゲットを設置して、樹脂基体上にプライマー層及びハードコート層が形成された積層体をチャンバー内に載置し、チャンバー内を5%〜20%の酸素雰囲気としてチャンバー内の圧力を例えば0.3〜0.7Paに減圧する。
そして、高周波電圧を印加して95W〜105Wのエネルギー条件下でスパッタリングを所定時間行い、所定の厚さのセラミック層をハードコート層上に形成する。
【0057】
ターゲットは、スパッタリングにおいてSi及びCを発生する材料であればよい。好ましい態様では、上記セラミック層を形成する工程においては、SiCをターゲットとして用いる。SiCをターゲットとして用いて形成されたセラミック層は、特に硬度が高く透光板に優れた耐摩耗性を付与することができる。
【0058】
上記セラミック層を形成する工程においては、SiCのターゲットを用い、スパッタリングによって上記の条件で成膜することによって、Si、O及びCからなる非晶質体のセラミック層を形成することができる。
【0059】
本発明の方法においては、95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下でスパッタリングを行う。
スパッタリングの際のエネルギー条件(出力条件)が95W未満であると、セラミック層中の炭素量が欠乏し、セラミック層に対するXPS解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において弱いピークとなる。即ち、セラミック層の密度が上がらず、所望の硬度が得られなかったり、耐傷性が低下したりする。エネルギー条件が105Wを超えると、得られる透光板において、セラミック層の組成がSiC膜に近くなるため、透光性の低下を招くことになる。また、セラミック層とハードコート層の密着性が低下する。スパッタリングの際のエネルギー条件は、好ましくは98W〜102Wである。
【0060】
また、スパッタリングを5%未満の酸素雰囲気で行って成膜すると、セラミック層に含まれるO(酸素)の濃度が少なくなるため、セラミック層中の酸素含有量が減り、セラミック層とハードコート層の界面付近において、構成元素分布の連続性が失われ、所望の密着が得られなかったりする。スパッタリングを20%を超える酸素雰囲気で行って成膜すると、セラミック層に含まれる酸素(O)の濃度が過剰になりすぎて、膜としての強度が弱くハードコート層との密着性が低下する。
スパッタリングにおいては、8%〜12%の酸素雰囲気で成膜することが好ましい。
【0061】
スパッタリングは、5〜200℃で行うことが好ましい。この温度はチャンバー内の設定温度であり、常温(25℃±15℃)であることも好ましい。なお、樹脂基体、プライマー層等がスパッタリングの熱で溶融しないよう適宜冷却して温度調整してもよい。
スパッタリングの時間は特に限定されないが、例えばエネルギー条件を100Wとする場合であれば、10〜20分間が好ましい。
【0062】
本発明の透光板は、耐摩耗性が必要な用途に好適に使用することができる。また本発明の透光板は、耐紫外線性が必要な用途にも使用することができる。本発明の透光板は、特に自動車部品用途に好ましく用いることができる。
具体的には、リアウインドウ等の自動車用の窓、ランプカバー又はランプレンズであることが好ましく、中でも、自動車用の窓に特に好適に使用される。
【0063】
自動車用の窓としては、前後左右の窓、ルーフ等が挙げられる。
ランプカバーとしてはヘッドランプカバー、スモールランプカバー、ウィンカーカバー、フォグランプカバー、テールランプカバー、ブレーキランプカバー、バックランプカバー、車内灯カバー等が挙げられる。
ランプレンズとしては、ヘッドランプレンズ、スモールランプレンズ、ウィンカーレンズ、フォグランプレンズ、テールランプレンズ、ブレーキランプレンズ、バックランプレンズ、車内灯レンズ等が挙げられ、ランプカバーと一体化したものであってもよい。
【0064】
また、自動車部品用途以外の用途として、航空機、船舶、鉄道等の自動車以外の輸送用機器の窓、家屋、オフィスビル等の建築物の窓、航空機、船舶、鉄道、自転車、2輪車等の自動車以外の輸送用機器の各種ランプカバー、各種ランプレンズ、室内照明(LED照明、蛍光灯)、信号機、道路灯、歩道灯、防犯灯、公園灯等の各種照明のカバー等に使用することができる。
【0065】
以下に、本発明の透光板、及び、透光板の製造方法の作用効果について列挙する。
(1)本発明の透光板は、樹脂基体、プライマー層及びハードコート層を有し、ハードコート層の表面にセラミック層が形成されている。セラミック層は、樹脂材料と比較して圧倒的に硬いので、透光板に耐摩耗性を付与することができる。また、本発明の透光板が有するセラミック層の組成はSiOに近いため、硬く、耐摩耗性に優れるうえ、透明性に優れるものとなる。さらに、セラミック層とハードコート層との密着性が良好となる。また、セラミック層を構成するセラミック材料は、紫外線を吸収することができるため、例えばセラミック層の厚さを適宜調整することにより、セラミック層によって紫外線を効果的に吸収することができる。このため、透光板を構成する樹脂材料に紫外線が届かず、紫外線による樹脂基体の劣化を防止することができる。さらには、適宜セラミック層の種類等を調整することで紫外線に限定されず、赤外線に対しても光を減衰させることができる。
また、セラミック層が、スパッタリングによってハードコート層の表面をプラズマで活性化しながら成膜されたものであると、ハードコートとセラミック層の界面の元素分布が連続的となり、ハードコート層とセラミック層との密着性がより良好となる。このためセラミック層がハードコート層からより剥離等しにくく、セラミック層により付与される耐摩耗性をより充分に発揮することができる。
【0066】
(2)本発明の樹脂基体の製造方法では、ハードコート層表面へのセラミック層の形成をスパッタリングによって95W〜105Wのエネルギー条件下、5%〜20%の酸素雰囲気下で成膜することにより行う。スパッタリングによりセラミック層を形成する場合、樹脂基体、プライマー層及びハードコート層の温度が高温にならず、樹脂材料の耐熱温度以下の温度でセラミック層を形成することができるので、樹脂材料へのセラミック層の形成方法として適している。また、スパッタリングにおいて上記条件で成膜することにより、セラミック層に対してXPS解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、それぞれ有する透光板を得ることができる。
【0067】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
樹脂基体として、ポリカーボネート板(厚さ4mm)を準備した。
この樹脂基体表面に、ディップ法によりシリコーンからなるプライマー層を形成した。次いで、プライマー層の上にポリシロキサン系の前駆体を用い、熱処理によりシリコーン樹脂からなるハードコート層を形成した。プライマー層の厚さは4μmであり、ハードコート層の厚さは3μmであった。
【0069】
上記で形成したハードコート層の表面に、ターゲットをSiCとして、スパッタリングによってセラミック層を形成した。スパッタリング装置としては、SRV−4300シリーズ(芝浦メカトロニクス(株)製)を使用した。スパッタの電源は、高周波電源を用いた。サンプル/ターゲット間距離は100mmであった。チャンバー内の圧力は0.6Pa、出力(電力)100W、10%の酸素雰囲気下、温度条件は室温(RT)とし、処理時間:16分40秒で狙い膜厚20nmのセラミック層を形成し、透光板を得た。
【0070】
X線電子分光装置を用い、セラミック被膜(セラミック層)の珪素(Si)および炭素(C)に関連する結合のピーク位置、及びセラミック被膜の深さ方向の構成比を確認した。
なお、分析装置の条件等は下記のとおりである。
分析装置:アルバック・ファイ社製 QuanteraII
X線源:Al−Kα
X線源の印加電圧、電流:15kV、1.5A
イオン銃のガス種:Ar
Arイオンスパッタ条件:500V、7mA、1.0min
測定エネルギー範囲:wide 0〜1100eV
Narrow解析 C(C1s):278〜298eV、Si(Si2p):94〜114eV
結果を図2に示す。
【0071】
図2は、実施例1で作製した透光板のXPS解析の結果を示すグラフである。図2の(a)は、Cの結合状態解析(C1s)の結果を示すグラフであり、図2の(b)は、Siの結合状態解析(Si2p)の結果を示すグラフである。
【0072】
図2に示すグラフから、実施例1の透光板は、そのセラミック層をXPS解析した場合に、Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、それぞれ有する、を満たしていた。
【0073】
実施例1で作製した透光板の耐摩耗性を評価するため、ヘイズ値を測定した。具体的には、アルミナの砥粒を有する磨耗輪を、透光板のセラミック層表面で移動させ、移動の後に残される傷の痕跡による光の拡散透過で評価した。この評価方法においては、数値が小さいほど耐摩耗性に優れる。装置条件は下記のとおりである。なお測定はJIS K 7136:2000に準じて行った。
【0074】
<ヘイズ値>
光計測器
ヘイズメータ:日本電色工業(株)製 NDH4000(A光源を使用)
光スポット径:7mm
<磨耗試験>
磨耗試験機 :taber社Model5135
サンプル回転数:1000回
回転速度 :72rpm
荷重 :500g
摩耗輪 :CS−10F
【0075】
<全光線透過率>
透光板の全光線透過率を測定した。装置条件は下記のとおりである。
ヘイズメータ:日本電色工業製 NDH4000(A光源を使用)
光スポット径:7mm
上記で測定したヘイズ値及び全光線透過率を表1に示す。また、透光板の色を、目視により確認し、表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1で作製された透光板は、XPS解析を実施した場合に、Cの結合状態解析において283〜284eVの範囲にC/S値のピークを、Siの結合状態解析において101〜102eVの範囲にC/S値のピークを、それぞれ有するもので、SiOに近い硬度を有し、樹脂基体〜プライマー層〜ハードコート層〜セラミック層の連続性に優れ、セラミック層のはがれを防止でき、耐摩耗性に優れるものであった。また、実施例1の透光板は透明性を有しており、上記のセラミック層を有しているので、また、紫外線を吸収することができるものであった。
【符号の説明】
【0078】
10 透光板
11 樹脂基体
12 プライマー層
13 ハードコート層
14 セラミック層
図1
図2