特許第6663310号(P6663310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6663310硬化肉盛の形成方法、硬化肉盛部材及び硬化肉盛板を生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663310
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】硬化肉盛の形成方法、硬化肉盛部材及び硬化肉盛板を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20200227BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   B23K9/04 F
   B23K9/04 A
   B23K9/04 S
   B23K9/167 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-126222(P2016-126222)
(22)【出願日】2016年6月27日
(65)【公開番号】特開2018-1172(P2018-1172A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(74)【代理人】
【識別番号】100114731
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 重男
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 文康
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−202626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定長の金属製の中空パイプ内に硬質粒子を充填して該中空パイプの両端を閉鎖し、
上記中空パイプを金属製の母材上に横向きに載置し、
上記中空パイプの上方に溶接用トーチを近接させて、その電極と上記中空パイプとの間にアークを発生させ、該アークにより上記中空パイプと上記母材の表面を溶融して溶融池を形成し、
上記中空パイプの溶融により未溶融の上記硬質粒子を、上記中空パイプの内部から上記溶融池内に流出させ、
上記溶接トーチを上記中空パイプに沿って移動させることにより、上記母材の表面において、上記溶接トーチの移動軌跡に沿う硬化肉盛層を形成することを特徴とする硬化肉盛の形成方法。
【請求項2】
上記硬質粒子の粒径は0.2mm〜2mmの範囲である請求項1記載の硬化肉盛の形成方法。
【請求項3】
上記硬質粒子の粒径は0.25mm〜0.71mmの粒径、又は、0.71mm〜1.18mmの粒径、又は、0.18mm〜1.70mmの粒径の何れかの粒径である請求項1記載の硬化肉盛の形成方法。
【請求項4】
上記中空パイプの直径は5mm〜8mmである請求項1〜3の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法。
【請求項5】
上記硬質粒子はサーメット粒子である請求項1〜4の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法。
【請求項6】
上記アーク溶接はTIG溶接である請求項1〜5の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法によって、母材の表面に硬化肉盛層を形成したものである硬化肉盛部材を生産する方法
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法によって、板状の母材の表面に硬化肉盛層を形成したものである硬化肉盛板を生産する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質粒子としてサーメット等を使用した硬化肉盛の形成方法、及びその方法により硬化肉盛を形成した硬化肉盛部材及び硬化肉盛板を生産する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、板状体の表面にアーク溶接によって硬化肉盛を形成する場合、溶融池に上方から炭化タングステン等の硬質粒子を散布することで、板状体の表面に、内部に硬質粒子が添加された硬化肉盛層を形成する方法が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
この方法によれば、硬化肉盛層内部に硬質粒子が含まれるため、耐摩耗性に優れた硬化肉盛板を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−763号公報
【特許文献2】国際公開第2007/114524号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、硬質粒子は、硬度が高いことが求められるが、耐摩耗性能等からすると、アーク溶接によって肉盛層の全体に均等に分布することが好ましい。
【0006】
しかしながら、硬質粒子として例えば炭化チタン(TiC)等は硬度は高いが、母相金属に比べて比重が小さいため、従来のように、溶融池内に上から散布する方法では、溶融池内において硬質粒子が浮いてしまい、当該硬質粒子が硬化肉盛層の表層にのみ分布することになり、耐摩耗材としては好ましくないという課題がある。
【0007】
従って、硬質粒子の比重を母相金属の比重に等しいか、或いは、母相金属の比重に近い比重とすることが考えられるが(特許文献2)、溶融池の上方から硬質粒子を散布する方法では、逆に硬質粒子が溶融池の下方に沈んでしまい、結果として硬質粒子が硬化肉盛層の下方側に多く分布し、硬化肉盛層内に均等に分布させることが難しいという課題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、母材上に、硬質粒子を内部に充填した中空パイプを載置し、当該中空パイプに沿ってアーク溶接を行うことで、母相金属に対して比重が小さく、硬度の高い硬質粒子であっても、硬質粒子を硬化肉盛層内に均等に分布させることができる硬化肉盛層の形成方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、上記形成方法により硬化肉盛を形成した硬化肉盛部材、硬化肉盛板を生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため本発明は、
第1に、所定長の金属製の中空パイプ内に硬質粒子を充填して該中空パイプの両端を閉鎖し、上記中空パイプを金属製の母材上に横向きに載置し、上記中空パイプの上方に溶接用トーチを近接させて、その電極と上記中空パイプとの間にアークを発生させ、該アークにより上記中空パイプと上記母材の表面を溶融して溶融池を形成し、上記中空パイプの溶融により未溶融状態の上記硬質粒子を、上記中空パイプの内部から上記溶融池内に流出させ、上記溶接トーチを上記中空パイプに沿って移動させることにより、上記母材の表面において、上記溶接トーチの移動軌跡に沿う硬化肉盛層を形成することを特徴とする硬化肉盛の形成方法により構成される。
【0011】
中空パイプを金属製の母材上に横向きに載置するとは、例えば母材が平面の場合は、中空パイプの長手方向を母材表面上に平行に載置することをいう。このように構成すると、溶融池内に中空パイプ内から硬質粒子が流出するため、溶融池内において、未溶融状態の硬質粒子を均等に分布させることができる。よって、例えばサーメット粒子のように母相金属に対して比重の小さい硬質粒子であっても、溶融池内に均等に分布させることができ、硬質粒子が均等に分布した硬化肉盛層を形成することができる。
【0012】
第2に、上記硬質粒子の粒径は0.2mm〜2mmである上記第1記載の硬化肉盛の形成方法により構成される。
【0013】
このような粒径の硬質粒子であれば、該硬質粒子を溶融池内に未溶融状態で残留させることができる。
【0014】
第3に、上記硬質粒子の粒径は0.25mm〜0.71mmの粒径、又は、0.71mm〜1.18mmの粒径、又は、0.18mm〜1.70mmの粒径の何れかの粒径である上記第1記載の硬化肉盛の形成方法により構成される。
【0015】
このように硬質粒子の粒径を小、中、大に変化させても、何れも溶融池内に未溶融状態の硬質粒子を均等に分布させることができるため、用途に応じて各種の硬化肉盛を形成することが可能となる。
【0016】
第4に、上記中空パイプの直径は5mm〜8mmである上記第1〜3の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法により構成される。
【0017】
第5に、上記硬質粒子はサーメット粒子である上記第1〜4の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法により構成される。
【0018】
サーメットは例えば鋼材等の母相金属に比べて比重が小さいが、本発明の方法によれば、溶融池内に均等に分布させることができ、硬度の高いサーメット粒子が均等に分布した硬化肉盛層を有する高性能な耐摩耗材等を構成することができる。
【0019】
第6に、上記アーク溶接はTIG溶接である上記第1〜5の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法により構成される。
【0020】
第7に、上記第1〜6の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法によって、母材の表面に硬化肉盛層を形成したものである硬化肉盛部材を生産する方法により構成される。
【0021】
第8に、上記第1〜6の何れかに記載の硬化肉盛の形成方法によって、板状の母材の表面に硬化肉盛層を形成したものである硬化肉盛板を生産する方法により構成される。

【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溶融池内に中空パイプの内部から硬質粒子が流出するため、溶融池内において未溶融状態の硬質粒子を均等に分布させることができる。よって、例えばサーメット粒子のように硬度は高いが、母相金属(母材等)に対して比重の小さい硬質粒子であっても、硬化肉盛層内に均等に分布した硬化肉盛層を形成することができる。
【0023】
また、硬質粒子の粒径を変化させても、何れも溶融池内に均等に分布させることができるため、用途に応じて各種の硬化肉盛を構成することが可能となる。
【0024】
また、硬度の高いサーメット粒子が均等に分布した硬化肉盛層を有する高性能な耐摩耗材等を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る硬化肉盛の形成方法を示すアーク溶接部近傍の概略断面図である。
図2】同上形成方法に使用する母材と中空パイプの断面図である。
図3】同上形成方法に使用する中空パイプの斜視図である。
図4】(a)(b)ともに同上中空パイプの断面図である。
図5】同上形成方法を示す概略斜視図である。
図6】同上形成方法によって硬化肉盛を形成した母材の側面図である。
図7】同上形成方法によって硬化肉盛を形成した母材の斜視図である。
図8】同上形成方法によって形成された硬化肉盛層の断面の写真((a)〜(c))と、各々の拡大写真((a’)〜(c’))であり、(a)(a’)は小粒径のサーメット粒子、(b)(b’)は中粒径のサーメット粒子、(c)(c’)は大粒径のサーメット粒子を使用した場合の写真である。
図9】従来の硬化肉盛溶接により形成した硬化肉盛層の断面の写真(a)と、その拡大写真(b)である。
図10】(a)(a’)、(b)(b’),(c)(c’)は、各々、図8の(a)(a’)、(b)(b’)、(c)(c’)に対応する硬化肉盛の断面の実際の写真である。
図11】(a)(b)は、各々、図9の(a)(b)に対応する硬化肉盛の断面の実際の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る硬化肉盛の形成方法、硬化肉盛部材、硬化肉盛板について詳細に説明する。
【0027】
図1図2図5に本発明に係る硬化肉盛の形成方法を示す。
これらの図に示すように、本発明では例えば直径5mm又は8mm、長さ400mm、厚さ1mmの両端開口の金属製の中空パイプ1の中に、例えば粒度0.7mm程度の硬質粒子2を充填し、その後、上記中空パイプ1の両方の端部1a,1bをかしめて閉鎖したものを予め製造する(図4(b)参照)。
【0028】
上記中空パイプ1は、例えばSS400等のSS材(炭素鋼)により形成されたものが好ましい。
【0029】
この中空パイプ1の長さは、肉盛溶接を施す母材3の大きさ(面積)によって各種の長さ、厚さのものを製造することができる。
【0030】
そして、図1図5に示すように、金属製の母材3の表面に、上記中空パイプ1を横向きに(母材表面に平行に)載置し、該中空パイプ1の端部1aにアーク溶接(TIG溶接)のトーチ4の先端の電極(タングステン電極)5を近接させ、上記電極5と上記中空パイプ1の端部1aとの間にアーク6(図1参照)を発生させ、上記中空パイプ1及び上記母材3を溶融して溶融池7を形成し、上記トーチ4を上記中空パイプ1に沿う方向(矢印A方向)に移動させることにより、トーチ4の移動軌跡上に硬化肉盛層8を形成するものである。
【0031】
このように上記中空パイプ1は、溶融して溶融池を形成する点で溶接棒としての機能を有すると共に、内部の硬質粒子を溶融池内に流出させる機能を有する。
【0032】
上記硬質粒子2は、いわゆるサーメットの粒子を使用する。ここで使用するサーメットは、金属の炭化物や窒化物などの硬質化合物の粉末を金属の結合材として混合して焼結した複合材料であり、0.1mm〜3mm程度の粒径、好ましくは0.2mm〜2mm程度の粒径に粉砕したものを使用する。より具体的には、例えば、炭化チタン(TiC)と炭窒化チタン(TiCN)の混合物等のチタン系のサーメットを使用する。例えば、サーメット粒子は、炭化チタンと炭窒化チタンの混合物をニッケル或いはコバルトで結合したものとすることができる。
【0033】
上記サーメットの粒度は、例えば小さい粒径の0.2mm〜0.7mm、中程度の粒径の0.7mm〜1.2mm、大きい粒径の1.2mm〜1.8mm程度のものが考えられ(全体として0.1mm〜2mm程度)、用途に応じて、粒径を使い分けることが好ましい。又は、上記各粒径のものを混合して使用することが好ましい。また、この程度の大きさの粒径の硬質粒子は、溶融池内においても溶融することなく未溶融状態で残るものである。
【0034】
また、上記中空パイプ1の直径は、上記小さい粒径の場合は、直径5mmのものを使用し、上記中程度の粒径又は大きい粒径の場合は、直径が若干大きいもの、例えば直径8mmのものを使用することが好ましい。従って、中空パイプ1の直径は5mm〜8mmとすることが好ましい。
【0035】
ここでチタン系のサーメットは、その比重が5であり母相金属に比べて軽いため(鉄の比重7.8〜8(SS400の比重7.85)、超硬合金は15)、従来のように上方から溶融池7への散布では、サーメット粒子2が溶融池7の上方に浮いてしまい、溶融池7内の全体に均等に分布させることが難しい。本発明では、このようなチタン系サーメット粒子2を中空パイプ1内に充填し、アーク溶接により中空パイプ1を溶融させることで、溶融池7内の全体に未溶融のサーメット粒子2を均等に分布させるものである。
【0036】
ここで、上記母材3は、例えばベルトコンベア装置のコンベアベルトの両サイドに設けられる耐摩耗板として用いられるものであり、その材質は例えばSS400(一般構造用圧延鋼材)である(その他材質としては、炭素鋼、合金鋼等が考えられる)。母材3は平板的なものに限らず、本発明の硬化肉盛を施す母材としては、例えば、ベルトコンベア装置のスプロケットの軸受、ミキサーの内張り、掘削機用ビットの先端部等、各種の形状のものが考えられる。
【0037】
次に、本発明に係る硬化肉盛の形成方法について説明する。
まず、サーメット粒子2を中空パイプ1に充填する。この場合、まずは、図4(a)に示すように、所定長の中空パイプ1の一端1aをかしめて、他端1bより中空パイプ1内にサーメット粒子2を充填する。この場合、サーメット粒子2が中空パイプ1内で密となるように充填する。
【0038】
上記サーメット粒子2を他端1bまで密に充填した後、上記他端1bをかしめて閉鎖し、サーメット粒子の充填された中空パイプ1を製造する(図4(b)参照)。
【0039】
次に、図5に示すように、上記中空パイプ1を平板状の母材3の表面に載置する。この場合、母材3が平板の場合は、上記中空パイプ1の軸方向(長手方向)が母材3の表面に平行となるように、該表面上に横向きに載置し、また中空パイプ1が母材3の一辺3aに平行となるように載置する。従って、上記中空パイプ1の側面は上記母材3の表面上に接している状態となる。
【0040】
その後、アーク溶接のトーチ4を上記中空パイプ1の一端1aに近づけ、その電極5を上記一端1aに近接又は接触させる。このときのアーク溶接としてはTIG溶接を行うことが好ましい。また、上記トーチ4は、上記中空パイプ1又は母材3の表面に対して垂直に立てた状態で、上記電極5の先端から中空パイプ1に向けてアーク6(図1参照)を発生させる。
【0041】
そして、上記アーク6にて溶接棒としての上記中空パイプ1及び母材3を溶融しながら、上記中空パイプ1の軸方向に沿う方向である矢印A方向にトーチ4を上記母材3の表面に平行に移動させる。
【0042】
上記アーク6を発生させると、上記中空パイプ1が溶融すると共に、母材3が溶融し、上記アーク6の直下に溶融池7が形成される(図1参照)。
【0043】
このとき溶融池7は、中空パイプ1が溶融することによる溶融液状体と、母材表面が溶融することによる溶融液状体によるものであるが、上記中空パイプ1が溶融したとき、中空パイプ1内のサーメット粒子2(比重5)は、中空パイプ1及び母材3の材質(SS400等の鋼材)の比重(7.8〜8)よりも小さいが、中空パイプ1を構成する材質(SS400)の溶融液状体中に、中空パイプ1内部側から流出することになるため、上記溶融池6中に未溶融状態のサーメット粒子2が均等に分布することになる。
【0044】
また、上記サーメット粒子2の粒径は0.1mm〜2mm程度の大きさを有しているため、溶融されることなく、未溶融の状態で溶融池7内に残留する。
【0045】
この状態で上記トーチ4を矢印A方向に移動させると、図1に示すように、トーチ4の移動軌跡に沿って、未溶融状態のサーメット粒子2が均等に分布した硬化肉盛が形成されて行き、この硬化肉盛が凝固することにより、サーメット粒子が硬化肉盛層の上下方向及び左右方向の全体に均等に分布した図1に示す硬化肉盛層8を形成することができる。
【0046】
その後は、母材3の表面上において、最初に形成した硬化肉盛層8に隣接した位置に、新たな中空パイプ1を載置し、上記と同様にアーク溶接により硬化肉盛層を形成して行けば良い。通常は、耐摩耗板のような平板は母材3であれば、図7に示すように、母材3の表面の全域に硬化肉盛層8を形成する。
【0047】
このように、本発明の硬化肉盛の形成方法によると、硬質粒子として耐摩耗性の高いサーメット粒子2を使用して、硬化肉盛層8内にサーメット粒子2を均等に分布させることができるため、耐摩耗性が高く、かつ長寿命の硬化肉盛層を形成することができる。
【実施例】
【0048】
(実験例1)
1 サーメット粒子(炭化チタンと炭窒化チタンの混合物からなるチタン系サーメット粒 子)
粒度(粒径) 0.25mm〜0.71mm
2 中空パイプ
直径5mm、厚さ1mm、材質SS400、長さ400mm
3 母材
形状 厚さ6mm、 縦×横 500mm×50mmの平板
材質 SS400
【0049】
4 溶接方法
TIG溶接(電流は200A、シールドガスはアルゴンガスを使用)
図5に示すように、上記母材上にサーメット粒子が充填された中空パイプ1を載置し、TIG溶接により中空パイプ1に沿ってアークを飛ばし、中空パイプ1に沿って硬化肉盛層を形成した。
【0050】
5 結果
実験例1によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層8の横断面図を図8(a)に示し、同図(a)の(イ)部の拡大図(拡大率:50倍)を同図(a’)に示す(尚、図8(a)(a’)に対応する実際の写真を、図10(a)(a’)に示す、拡大率は図8と同じ)。同図にてわかるように、サーメット粒子2は未溶融状態で硬化肉盛層8の内部に均等に分布しており、従来のように硬化肉盛層の表層部にのみ分布することはなかった。
【0051】
(実験例2)
1 サーメット粒子(実験1と同じもの)
粒度(粒径) 0.71mm〜1.18mm
2 中空パイプ
直径8mm、厚さ1mm、材質SS400、長さ400mm
3 母材
形状 厚みさ6mm、 縦×横 500mm×50mmの平板
材質 SS400
【0052】
4 溶接方法
TIG溶接(電流は200A、シールドガスはアルゴンガスを使用)
実験例1と同様の方法により、母材上に硬化肉盛層を形成した。
【0053】
5 結果
実験例2によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層8の横断面図を図8(b)に示し、同図(b)の(ロ)部の拡大図(拡大率:50倍)を同図(b’)に示す(尚、図8(b)(b’)に対応する実際の写真を、図10(b)(b’)に示す、拡大率は図8と同じ)。同図にてわかるように、未溶融状態のサーメット粒子2は硬化肉盛層8の内部に略均等に分布しており、従来のように硬化肉盛層の表層部にのみ分布することはなかった。
【0054】
(実験例3)
1 サーメット粒子(実験1と同じもの)
粒度(粒径) 1.18mm〜1.70mm
2 中空パイプ
直径8mm、厚さ1mm、材質 SS400、長さ400mm
3 母材
形状 厚さ6mm、 縦×横 500mm×50mmの平板
材質 SS400
【0055】
4 溶接方法
TIG溶接(電流は200A、シールドガスはアルゴンガスを使用)
実験例1と同様の方法により、母材上に硬化肉盛層を形成した。
5 結果
実験例3によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層の横断面図を図8(c)に示し、同図(c)の(ハ)部の拡大図(拡大率:50倍)を同図(c’)に示す(尚、図8(c)(c’)に対応する実際の写真を、図10(c)(c’)に示す、拡大率は図8と同じ)。同図にてわかるように、未溶融状態のサーメット粒子2は硬化肉盛層8の内部に略均等に分布しており、従来のように硬化肉盛層の表層部にのみ分布することはなかった。
(まとめ)
上述のように、実験1〜実験3の何れの粒度(粒径)の場合でも、硬化肉盛層8の内部には、未溶融状態のサーメット粒子2が略均等、即ち、硬化肉盛層8の上下方向においても、硬化肉盛溶接層8の左右方向においても、略均等に分布しており、耐摩耗性の良好な硬化肉盛を形成できることがわかった。
【0056】
また、図8の横断面は硬化肉盛層の長手方向の任意の位置の横断面であり、本発明の硬化肉盛の形成方法によると、硬化肉盛層の長手方向のどの位置においても、同様にサーメット粒子を均等(硬化肉盛層内の上下方向及び左右方向において均等)に分布させることができることがわかった。
【0057】
(比較例)
1 サーメット粒子(実験1と同じもの)
粒度(粒径) 0.25mm〜0.71mm
2 母材
形状 厚さ6mm、 縦×横 500mm×50mmの平板
材質 SS400
【0058】
3 溶接方法
従来の方法、即ち、アーク溶接により母材上に溶融池を形成し、溶融池の上方から該溶融池にサーメット粒子を散布する方法により硬化肉盛層を形成した。
5 結果
比較例によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層9の横断面図を図9(a)に示し、同図(a)の(ニ)部の拡大図(拡大率:50倍)を同図(b)に示す(尚、図9(a)(b)に対応する実際の写真を、図11(a)(b)に示す、拡大率は図9と同じ)。同図にてわかるように、サーメット粒子10は硬化肉盛層9の表層部にのみ分布していることがわかる。
【0059】
以上のように、本発明によれば、溶融池7内に中空パイプ1内から硬質粒子2が流出するため、溶融池7内において未溶融状態の硬質粒子2を均等に分布させることができる。よって、例えばサーメット粒子2のように硬度は高いが、母相金属に対して比重の小さい硬質粒子であっても、サーメット粒子2が硬化肉盛層8内に、その長手方向全体に亘って均等に分布した硬化肉盛層を形成することができる。
【0060】
また、硬質粒子2の粒径を変化させても、何れも溶融池内に均等に分布させることができるため、用途に応じて各種の硬化肉盛を構成することが可能となる。
【0061】
また、硬度の高いサーメット粒子2が均等に分布した硬化肉盛層を有する高性能な耐摩耗材等を構成することができる。
【0062】
本発明の硬化肉盛の形成方法は、上述のような板状態に限定されず、例えば、掘削機用のビットの先端部、その他各種の部材にも適用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る硬化肉盛の形成方法は、サーメット粒子のような硬質で比重の小さい硬質粒子を使用して耐摩耗性の高い硬化肉盛層を形成することができるので、各種の部材に広く適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 中空パイプ
1a 一端
1b 他端
2 硬質粒子(サーメット粒子)
3 母材
4 溶接用トーチ
5 電極
6 アーク
7 溶融池
8 硬化肉盛層
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
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図11