(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663312
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/88 20190101AFI20200227BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20200227BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20200227BHJP
B29C 48/25 20190101ALI20200227BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20200227BHJP
【FI】
B29C48/88
B29C48/305
B29C48/08
B29C48/25
B29L7:00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-128298(P2016-128298)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-1470(P2018-1470A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】権田 貴司
(72)【発明者】
【氏名】田中 清文
(72)【発明者】
【氏名】石田 純也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和宏
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−245708(JP,A)
【文献】
特開2008−044336(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/102178(WO,A1)
【文献】
特開2008−230826(JP,A)
【文献】
特開昭63−081017(JP,A)
【文献】
特開2010−43215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 − 48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機に装着され、熱可塑性樹脂含有の成形材料を連続した樹脂シートに成形するダイと、成形された樹脂シートに接触して冷却する冷却ロールと、この冷却ロールに隣接し、冷却ロールの周面に樹脂シートを密接させる圧着ロールと、この圧着ロールに隙間を介して接近する静電気除去手段とを備え、
ダイの下方に冷却ロールと圧着ロールとがそれぞれ回転可能に配設され、圧着ロールの周面が絶縁性の弾性層により被覆されており、
静電気除去手段は、圧着ロールの軸方向に並ぶ複数の放電針を含み、この複数の放電針は、プラスの高電圧とマイナスの高電圧とが交互に印加されることにより、周辺の酸素分子をプラスイオンとマイナスイオンに交互に変換することを特徴とする樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
冷却ロールと圧着ロールの弾性層の少なくともいずれかの周面に模様が施され、この模様により、樹脂シートに模様が形成される請求項1記載の樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
静電気除去手段は、圧着ロールの軸方向に指向するケースと、このケースの長手方向に並ぶ複数の放電針とを含み、ケースに、複数の放電針に高電圧を印加する高圧電源が内蔵され、ケースの正面部が圧着ロールの弾性層に隙間を介して接近し、ケースの正面部に複数の放電針が露出して取り付けられるとともに、放電針の先端部が略錐台形に形成される請求項1又は2記載の樹脂シートの製造装置。
【請求項4】
複数の放電針は、ケースの長手方向に配列されるとともに、ケースの厚さ方向にずらして配列される請求項3記載の樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
熱可塑性樹脂含有の成形材料を押出機に投入し、請求項1ないし4のいずれかに記載した樹脂シートの製造装置により、樹脂シートを製造することを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートを適切に冷却し、製造作業の円滑化を図ることのできる樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における樹脂シートの製造装置は、図示しないが、押出機に装着され、熱可塑性樹脂含有の成形材料を連続した樹脂シートに成形するダイと、このダイの下方に配置される冷却ロールとを備え、冷却ロールの周面に樹脂シートを接触させて冷却し、この冷却した樹脂シートを複数のテンションロールを介し巻取ロールに順次巻き取るようにしている(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
係る樹脂シートの製造に際しては、樹脂シートの冷却ムラによる蛇腹状の変形を防ぎながら望ましい表面状態に成形するとともに、均一な厚さの樹脂シートを成形し、しかも、成形速度を向上させるため、冷却ロールの周面に樹脂シートを適切に密着させ、巻き付ける必要がある。
【0004】
そこで、従来においては、(1)冷却ロールの上部近傍に、冷却ロールの軸方向に伸びる極細線のワイヤ電極(特許文献1、2参照)あるいはテープ電極(特許文献3参照)を張架し、このワイヤ電極あるいはテープ電極を用いて樹脂シートに静電荷を付与することにより、冷却ドラムの周面に樹脂シートを適切に密着させる手法が提案されている(特許文献1参照)。また、(2)樹脂シートを冷却ドラム(冷却ロール)と圧着ロールとに狭持させることにより、冷却ドラムの周面に密着させる手法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003‐291203号公報
【特許文献2】特開2003‐311826号公報
【特許文献3】特開2001‐252965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来における樹脂シートの製造は、以上のように実施され、(1)の方法の場合には、冷却ロールの上部近傍に張架された極細線のワイヤ電極、あるいはテープ電極を用いて樹脂シートに静電荷を付与することにより、冷却ロールの周面に樹脂シートを適切に密着させる。冷却ロールの周面に樹脂シートを適切に密着させるためには、樹脂シートに付与する静電荷量を大きくすることが有効であるが、静電荷量を大きくするためには、電極の電圧を高くしなければならず、電圧を高くしすぎると、ワイヤ電極あるいはテープ電極から冷却ロールに放電が生じ、樹脂シートにピンホールが発生してしまうこととなる。
【0007】
樹脂シートにピンホールが発生すると、電極の電圧が低下し、樹脂シートの冷却ロールへの適切な密着性が失われてしまうという問題が生じる。また、ワイヤ電極あるいはテープ電極には、樹脂シートや成形材料中に含まれる添加剤の成分、オリゴマー成分が付着することがあり、付着すると、電極が破断したり、劣化し、さらには異常放電が起こり、密着ムラが生じるという問題が発生する。
【0008】
また、(2)の方法の場合には、冷却ロールと圧着ロールとに樹脂シートを挟持させる際、圧着ロールが帯電し、冷却ロールではなく、圧着ロールの周面に樹脂シートが巻き付いて密着することがある。圧着ロールの周面に樹脂シートが巻き付いて密着すると、樹脂シートを適切に冷却することができないので、樹脂シートに厚みムラが生じたり、樹脂シートに弛み等の変形が生じたり、樹脂シートや圧着ロールが損傷し、その結果、樹脂シートを巻取ロールに巻き取ることができず、製造作業に重大な支障を来すという問題が生じる。
【0009】
本発明は上記に鑑みなされたもので、圧着ロールに樹脂シートが密着するのを防止することにより、樹脂シートを適切に冷却し、製造作業の円滑化を図ることのできる樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては上記課題を解決するため、押出機に装着され、熱可塑性樹脂含有の成形材料を連続した樹脂シートに成形するダイと、成形された樹脂シートに接触して冷却する冷却ロールと、この冷却ロールに隣接し、冷却ロールの周面に樹脂シートを密接させる圧着ロールと、この圧着ロールに隙間を介して接近する静電気除去手段とを備え、
ダイの下方に冷却ロールと圧着ロールとがそれぞれ回転可能に配設され、圧着ロールの周面が絶縁性の弾性層により被覆されており、
静電気除去手段は、圧着ロールの軸方向に並ぶ複数の放電針を含み、
この複数の放電針は、プラスの高電圧とマイナスの高電圧とが交互に印加されることにより、周辺の酸素分子をプラスイオンとマイナスイオンに交互に変換することを特徴としている。
【0011】
なお、冷却ロールと圧着ロールの弾性層の少なくともいずれかの周面に模様が施され、この模様により、樹脂シートに模様が形成されるものとすることができる。
また、冷却ロールと圧着ロールの弾性層のうち、少なくとも圧着ロールの弾性層の周面に模様が施され、この模様により、樹脂シートに模様が形成されるものとすることができる。
【0012】
また、静電気除去手段は、圧着ロールの軸方向に指向するケースと、このケースの長手方向に並ぶ複数の放電針とを含み、ケースに、複数の放電針に高電圧を印加する高圧電源が内蔵され、ケースの正面部が圧着ロールの弾性層に隙間を介して接近し、ケースの正面部に複数の放電針が露出して取り付けられるとともに、放電針の先端部が略錐台形に形成されると良い。
【0013】
なお、複数の放電針は、ケースの長手方向に配列されるとともに、ケースの厚さ方向にずらして配列されると
良い。
【0014】
また、本発明においては上記課題を解決するため、熱可塑性樹脂含有の成形材料を押出機に投入し、
請求項1ないし4のいずれかに記載した樹脂シートの製造装置により、樹脂シートを製造することを特徴としている。
【0015】
ここで、特許請求の範囲における成形材料には、熱可塑性樹脂の他、各種フィラーを添加することができる。樹脂シートは、薄い樹脂フィルムを含み、透明、不透明、半透明を特に問うものではない。また、冷却ロールと圧着ロールとは、同じ径でも良いし、異なる径でも良い。静電気除去手段は、圧着ロールに隙間を介して水平に接近する構成でも良いし、上下方向や左右方向に傾斜して接近する構成でも良い。さらに、放電針は、螺子形や略釘形等に形成することができる。この放電針の先端部は、円錐台形や角錐台形の略錐台形に形成されることが好ましい。
【0016】
本発明によれば、樹脂シートを製造する場合には、静電気除去手段を起動して複数の放電針に高電圧を印加すれば良い。すると、複数の放電針にコロナ放電がそれぞれ生じることにより、プラスイオンとマイナスイオンとが生成され、これらプラスイオンとマイナスイオンとが圧着ロールに供給される。プラスイオンとマイナスイオンとが圧着ロールに接近すると、圧着ロールの帯電電荷が反対極性のイオンを引きつけ、圧着ロールの静電気が電気的に中和して除電される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧着ロールに隙間を介して接近する静電気除去手段の複数の放電針に高電圧を印加すれば、周辺の酸素分子をプラスイオンとマイナスイオンに変換することができるので、圧着ロールに樹脂シートが密着するのを抑制し、樹脂シートを適切に冷却して製造作業の円滑化を図ることができるという効果がある。また、圧着ロールと静電気除去手段との間に障害物が介在しないので、圧着ロールに到達するプラスイオンとマイナスイオンの量が制限されるのを防止することができる。
また、周波数のタイミング調整により、樹脂シートの製造装置の設備環境・作業環境に適した静電気除去効果を得ることができる。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、圧着ロールに樹脂シートが密着するのを低減することができるので、冷却ロールと圧着ロールの弾性層の周面の少なくともいずれかにエンボス模様等の模様を施すことができる。この模様により、樹脂シートの表裏両面、表面、裏面に、梨地やシボ、微細な凹凸等の模様を転写形成することができる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、ケースに放電針用の高圧電源を内蔵するので、面倒なケーブル配線を省略することができる。また、ケースの正面部に複数の放電針が露出して取り付けられるので、圧着ロールの弾性層と放電針との間の隙間を簡易に調整することができ、しかも、放電針の清掃や保守点検が実に容易となる。また、放電針の先端部が先細りではなく、徐々に広がる略錐台形なので、公知の針形の電極よりも、プラスイオンとマイナスイオンの生成効率を増大させることが可能になる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、複数の放電針がケースの長手方向に配列されるとともに、ケースの厚さ方向にずらして配列されるので、ケースの長手方向や厚さ方向の一部にイオンの供給領域やイオンバランスが偏るのを防ぐことができる。したがって、優れたイオンバランスを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法の実施形態を模式的に示す全体説明図である。
【
図2】本発明に係る樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法の実施形態における冷却ロール、圧着ロール、及び静電気除去手段を模式的に示す平面説明図である。
【
図3】本発明に係る樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法の実施形態における静電気除去手段を模式的に示す側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における樹脂シートの製造装置は、
図1ないし
図3に示すように、溶融押出機に装着されて溶融混練された熱可塑性樹脂含有の成形材料を連続した樹脂シート2に成形するダイ1と、成形された樹脂シート2に摺接して冷却する冷却ロール3と、この冷却ロール3の周面に樹脂シート2を密接させる圧着ロール4と、この圧着ロール4に斜め上方から接近する静電気除去手段10とを備え、この静電気除去手段10の複数の放電針16を圧着ロール4の軸方向に配列し、この複数の放電針16に高電圧が印加されることにより、周辺の酸素分子をプラスイオンとマイナスイオンとに変換するようにしている。
【0024】
溶融押出機は、例えば単軸押出成形機あるいは二軸押出機等からなり、加熱される横長のシリンダに螺旋溝を備えたスクリュが回転可能に内蔵軸支され、このスクリュが駆動装置の駆動で回転して投入された成形材料を溶融混練し、先端部側のダイ1に供給するよう機能する。シリンダの末端部上方には、成形材料用の投入ホッパが連通して装着され、この投入ホッパの少なくともシリンダに連通する下部には、成形材料の酸化劣化や酸素架橋の防止の観点から、ヘリウムガス、アルゴンガス、あるいは窒素ガス等の不活性ガスを連続的に供給する不活性ガス供給管が接続される。
【0025】
シリンダの開口した先端部には、加熱される接続管が接続され、この接続管には、成形材料を一定速度で押し出すギアポンプが装着される。このギアポンプとダイ1との間には、成形材料に含まれる未溶融物を分離する目的でフィルタが選択的に嵌着される。
【0026】
成形材料の熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)やポリスチレン(PS)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド4T(PA4T)、ポリアミド6T(PA6T)、変性ポリアミド6T(変性PA6T)やポリアミド9T(PA9T)等のポリアミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルホンやポリフェニレンスルフィドケトンスルホン等のポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)やポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等のポリアリールケトン、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン(PES)やポリフェニレンサルホン(PPSU)等のポリサルホン、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)やポリアミドイミド(PAI)等のポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA樹脂)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリビニデンフルオライド樹脂(PVdF)やフッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート(PC)等の樹脂があげられる。
【0027】
これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。成形材料には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、耐熱向上剤、核剤、耐電防止剤、無機化合物、有機化合物等が選択的に添加される。
【0028】
ダイ1は、
図1に示すように、接続管の下方に屈曲した先端部に接続され、溶融押出機のギアポンプから供給されてきた成形材料を幅方向に分流し、この成形材料を細長い隙間から押し出して薄い帯形の樹脂シート2を押出成形するよう機能する。このダイ1としては、例えばTダイ等が利用される。
【0029】
樹脂シート2は、例えば1.5〜1000μm、好ましくは2〜500μm、より好ましくは5〜300μmの厚さに成形され、電線の絶縁被覆用シート、フィルムキャパシタ用誘電体、携帯機器のスピーカの振動板、断熱防音ブラケット用シート、プリント基板用シート、スロット絶縁用紙、スラストワッシャー用基材フィルムや炭素繊維複合材料用フィルム等に利用される。この樹脂シート2の厚さは、1000μmを越えると、成形速度が著しく低下し、生産性に劣るため、留意する必要がある。
【0030】
冷却ロール3と圧着ロール4とは、
図1に示すように、ダイ1の下方に隣接して回転可能に軸支され、冷却ロール3が拡径に形成されるとともに、圧着ロール4が冷却ロール3よりも縮径に形成されており、ダイ1からの樹脂シート2を挟持する。冷却ロール3は、例えば表面メッキの施された金属製ロール等が使用され、下流には、複数のテンションロールと巻取ロールとがそれぞれ回転可能に配設される。
【0031】
圧着ロール4の周面周方向には、シリコーンゴム等からなる絶縁性の弾性層5が覆着され、この弾性層5が冷却ロール3の表面に弾接する。この弾性層5の材料は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等があげられるが、耐熱性、難燃性、耐アーク性、耐コロナ性等に優れるシリコーンゴムが最適である。また、シリコーンゴムにフッ素樹脂シート2をさらに積層被覆した圧着ロール4を使用すれば、表面が平滑性に優れる樹脂シート2を得ることができる。
【0032】
なお、樹脂シート2に模様を形成したい場合には、冷却ロール3と圧着ロール4の弾性層5の周面にエンボス模様がそれぞれ施される。このエンボス模様により、樹脂シート2の表裏両面に、梨地やシボ、微細な凹凸等の模様を転写形成することが可能になる。
【0033】
静電気除去手段10は、
図1ないし
図3に示すように、圧着ロール4の軸方向(
図1の奥方向)に指向するバーケース11と、このバーケース11の長手方向(
図2の左右方向)に並ぶ複数の放電針(エミッタ)16とを備え、アース線により接地して使用される。バーケース11は、例えば強度や剛性に優れる所定の樹脂を用いて細長い断面矩形の箱形に成形され、放電針16用の高圧電源12と制御回路13とがそれぞれ内蔵されており、溶融押出機の架台に緩衝材等を介して設置されるとともに、圧着ロール4の上部に隙間を介した接近状態で直接斜めに対向する。
【0034】
バーケース11の平坦な正面部14は、上下一対の対向パネル15を着脱自在に備え、圧着ロール4の上部の弾性層5に隙間を介して斜め上方から近接し、放電針16の清掃の便宜を図る観点から、複数の放電針16が露出して取り付けられる。バーケース11の正面部14と圧着ロール4の弾性層5上部との間の隙間Cは、火花放電等の防止と樹脂シート2の成形性の観点から、5〜20cm、好ましくは10〜15cm、より好ましくは11〜14cmの長さに設定される。
【0035】
これは、隙間Cが5cm未満の場合には、火花放電が発生してしまうおそれがあるからである。逆に、隙間Cが20cmを越える場合は、樹脂シート2が冷却ロール3ではなく、圧着ロール4の周面に巻き付いて密着することがあるからである。また、バーケース11の周壁、例えば側面等には、静電気除去手段10の起動、停止、正常・異常等を点灯したり、点滅して報知する報知器である複数のLEDが装着され、この複数のLEDが制御回路13に制御される。
【0036】
制御回路13は、CPUがデータ記録部のRAMを作業領域としてデータ記録部のROMに記憶された所定のプログラムを読み込むことにより、例えば静電気除去手段10が過負荷状態あるいは短絡が発生した場合、静電気除去手段10の電源を所定の時間OFFにして放電針16に対する電流を制限し、その後、静電気除去手段10を自動復帰させる。
【0037】
複数の放電針16は、バーケース11の長手方向に一列の直線に配列されても、略千鳥形に配列されても良く、放電針16と放電針16との間にクリアランスが区画形成されており、各放電針16が所定の合金により略釘形に形成されて高圧電源12からプラス及びマイナスの高電圧が印加される。
【0038】
放電針16は、
図3に示すように、バーケース11の正面部14にナット等を介して螺着される円柱形の針部17を備え、この針部17の先端に、細い円柱の縮径部18が形成され、この縮径部18の先端に、針部17と略同径あるいは拡径の断面略台形の先端部19が形成されてその周縁が鋭いエッジ20に形成されており、この先端部19の先端面が平坦あるいはやや湾曲して形成される。放電針16の先端部19は、徐々に幅広に広がる略円錐台形に形成され、斜め下方の弾性層5に向けられて近接し、プラスイオンとマイナスイオンの発生効率を増大させるよう機能する。
【0039】
このような複数の放電針16は、プラス及びマイナスの直流高電圧が印加されると、幅広の先端部19にコロナ放電を発生させることにより、放電針16周辺の酸素分子を電離分解してプラスイオンとマイナスイオン(図の点線参照)とを生成し、これらプラスイオンとマイナスイオンとが帯電した前方の圧着ロール4に供給される。プラスイオンとマイナスイオンとが帯電した圧着ロール4に接近すると、帯電した圧着ロール4の帯電電荷が反対極性のイオンを引きつけるので、圧着ロール4の静電気が電気的に中和して除電されることとなる。
【0040】
プラスイオンとマイナスイオンは、圧着ロール4の除電効果を高めるため、可能な限り少ないバランス差であるのが好ましい。この点に鑑み、複数の放電針16は、プラスイオンとマイナスイオンのバランス差が少なくなるよう、プラスとマイナスの直流高電圧が印加される。
【0041】
上記構成において、樹脂シート2を製造する場合には、静電気除去手段10を起動して複数の放電針16にプラスの直流高電圧とマイナスの直流高電圧を交互に印加すれば良い。すると、複数の放電針16の先端部19にコロナ放電がそれぞれ発生することにより、プラスイオンとマイナスイオンとが生成され、これらプラスイオンとマイナスイオンとが斜め下方の圧着ロール4に供給される。プラスイオンとマイナスイオンとが圧着ロール4に接近すると、圧着ロール4の帯電電荷が反対極性のイオンを引きつけ、圧着ロール4の静電気が電気的に中和して除電される。
【0042】
プラスイオンとマイナスイオンとを圧着ロール4に供給する手段は、特に必要としないが、例えばエア供給手段であるブロワ等を利用し、プラスイオンとマイナスイオンとをエアと共に圧着ロール4に供給しても良い。
【0043】
静電気除去手段10を起動したら、この起動と同時に、あるいはその後に溶融押出機に成形材料を投入して作動させれば良い。すると、成形材料がダイ1により連続した薄い樹脂シート2に成形され、この樹脂シート2が冷却ロール3と圧着ロール4とに挟持され、冷却ロール3の周面に樹脂シート2が適切に密着して均一に冷却された後、冷却された樹脂シート2が複数のテンションロールを介し巻取ロールに順次巻き取られる。
【0044】
なお、静電気除去手段10の起動は、成形材料がダイ1により連続した樹脂シート2に成形され、この樹脂シート2が冷却ロール3と圧着ロール4とに狭持された後でも良い。この場合、冷却ロール3の周面に樹脂シート2が適切に密着して均一に冷却された後、冷却された樹脂シート2が複数のテンションロールを介し巻取ロールに順次巻き取られる。これらの静電気除去手段10の起動時期は、特に限定されるものではなく、いずれでも良い。また、放電針16に直流高電圧を交互に印加する際、パルス(周波数)のタイミングを調整すれば、設備環境・作業環境に適した静電気除去効果を得ることができる。
【0045】
上記によれば、静電気除去手段10により圧着ロール4の静電気を除電するので、例え樹脂シート2がどんなに薄膜でも、圧着ロール4の弾性層5周面に樹脂シート2が巻き付いて密着するのを防止することができる。圧着ロール4の周面に樹脂シート2が密着することがないので、樹脂シート2の適切な冷却が期待できる。
【0046】
したがって、樹脂シート2や圧着ロール4が損傷するのを防ぎ、樹脂シート2を巻取ロールに適切に巻き取ることが可能となり、製造作業の迅速化や容易化を図ることができる。また、バーケース11が細長い箱形なので、嵩張ることがなく、省スペース化が大いに期待できる。また、バーケース11の正面部14が開放され、複数の放電針16が露出して視認可能なので、保守点検作業等が実に容易となる。
【0047】
また、複数の放電針16がバーケース11の長手方向に配列されるとともに、バーケース11の厚さ方向にずらして配列されるので、バーケース11の長手方向や厚さ方向の一部にイオンの供給領域やイオンバランスが偏るのを確実に防ぐことが可能になる。したがって、優れたイオンバランスの獲得が大いに期待できる。
【0048】
また、各放電針16の先端部19が先細りではなく、徐々に広がる略円錐台形なので、周知の針形の電極よりも、プラスイオンとマイナスイオンの生成効率を著しく増大させることが可能になる。また、圧着ロール4の弾性層5とバーケース11の正面部14との間の隙間Cが5〜20cmの適切な長さで、イオンの量が制限されることがないので、優れた除電効果が期待できる。さらに、圧着ロール4の弾性層5からの塵埃等が放電針16に付着するのを有効に防止したり、放電針16から冷却ロール3に対する火花放電のおそれを適切に排除することができる。
【0049】
なお、上記実施形態ではダイ1により、単層の樹脂シート2を押出成形したが、多層の樹脂シート2を押出成形しても良い。また、上記実施形態の冷却ロール3と圧着ロール4の弾性層5の周面にエンボス模様をそれぞれ施しても良いが、冷却ロール3の周面にエンボス模様を施しても良いし、圧着ロール4の弾性層5周面にエンボス模様を施しても良い。
【0050】
また、静電気除去手段10は、直流高電圧を利用する直流DCタイプが好ましいが、交流電源を高電圧(AC4kV〜7kV)に昇圧し、商用周波数(50Hz又は60Hz)のタイミングでプラスとマイナスのイオンを生成する交流ACタイプでも良い。このACタイプの場合、優れたイオンバランスを得ることができ、しかも、静電気除去手段10の取扱性の向上も期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法は、各種樹脂シートの製造分野で使用される。
【符号の説明】
【0052】
1 ダイ
2 樹脂シート
3 冷却ロール
4 圧着ロール
5 弾性層
10 静電気除去手段
11 バーケース(ケース)
12 高圧電源
13 制御回路
14 正面部
16 放電針
17 針部
19 先端部