(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
廃棄物を収容する筒状の容器本体と、前記容器本体内に二酸化炭素を含有するガスを供給して、前記廃棄物中の重金属を炭酸化反応させるガス供給装置と、を有する、廃棄物の前処理装置であって、
前記容器本体を軸線を中心として回転させる回転装置と、
前記容器本体内で前記廃棄物中の重金属が炭酸化反応している際に、前記廃棄物の温度を計測する温度計測装置と、
前記重金属の炭酸化反応の状態を、前記廃棄物の温度の計測結果に基づいて判断する判断装置と、
前記容器本体の回転速度を、前記判断装置の判断結果に基づいて調整する第1の調整装置と、
を有し、
前記重金属は、鉛、カドミウム、鉄、銅、ニッケル、及びマンガンの少なくとも一である、廃棄物の前処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、前処理装置及び前処理方法の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
実施形態で説明する前処理とは、廃棄物をリサイクルする前、または廃棄物を最終処分場で埋め立てる前において、廃棄物に対して行われる処理、具体的には、廃棄物中の重金属を不溶化する処理である。
【0015】
実施形態で説明する前処理装置及び前処理方法は、廃棄物中に多量に含まれるCaが炭酸化する際に発生する熱による温度上昇をモニタリングすることにより、廃棄物中のPb等の重金属の炭酸化の進行状況を確認しながら、廃棄物の前処理を行う技術である。そのため、前処理装置及び前処理方法は、Caを含有する廃棄物やCa資材を添加した汚染土壌を、廃棄物の対象としている。以下、汚染土壌の代表事例である焼却灰を用いて説明を行う。
【0016】
まず、本実施形態の前処理装置及び前処理方法で前提とする原理を確認するべく行った試験を
図1を参照して説明する。
【0017】
(カラム試験)
φ100 ×400 mmHの透明塩ビ製のカラム10を用意し、カラム10内に排水材として砂利11を充填し、砂利11の上に焼却灰12を厚さ30cm充填して、試験装置20を作製した。ガスを通気する通気管13の途中に流量計14が設けられ、通気管13は、ガスの通気方向で流量計14よりも下方で、第1通気部15と第2通気部16とに分岐している。第1通気部15の開口端は、カラム10内で砂利11が充填された箇所に配置され、第2通気部16の開口端は、カラム10内で焼却灰12よりも上方の空間に配置されている。給水タンク17とカラム10内とを接続する給水管18が設けられ、給水管18の途中に、給水タンク17の水を吸入して吐出するポンプ19が設けられている。また、ポンプ19の駆動時間を計測するタイマ21が設けられている。
【0018】
また、カラム10の上端の開口部は蓋22で閉じられている。さらに、カラム10内の温度を計測する放射温度計23が設けられている。放射温度計23は、カラム10の高さ方向に間隔をおいて配置されている。また、カラム10の底部に、カラム10内から排出される水を回収する浸出水受器27が接続されている。
【0019】
そして、給水タンク17から、カラム10内の上方空間に水を供給して焼却灰12に散水し、かつ、カラム10内にCO2 を含むガスを通気する試験を行った。焼却灰12に散水して洗浄した際の溶出成分を含む水は、浸出水受器27に溜まる。
【0020】
図2は、各種の試験処理区、各種の試験条件を示す。N1,N2,N3及び01,02,03,04は試験処理区である。ガス導入位置において、「焼却灰下」は、カラム10内で砂利11の充填されている位置を表す。また、「焼却灰上」は、カラム10内で焼却灰12の充填位置よりも上のヘッドスペースを表す。
【0021】
試験は、カラム10内に18時間の散水を行った後、
図2に記載した条件で通気を行った。通気を開始してから、カラム10の外部の温度を、放射温度計23で上層24、中層25、下層26のそれぞれについて計測した。上層24は焼却灰12が充填されている位置で最も上であり、中層25は上層24と下層26との間に位置する。
【0022】
試験終了後、カラム10内の焼却灰が配置されている位置を上層24、中層25、下層26に3等分し、上層24、中層25、下層26について、それぞれ溶出試験(環境庁告示13号)を行い、上層24、中層25、下層26について、それぞれのPb溶出値を計測した。
【0023】
図3は、各試験処理区におけるPb溶出値の結果を示し、
図4は、試験処理区N1における放射温度計23の温度計測結果を示す。
図4において、二点鎖線で示す特性線A1は上層24の温度であり、破線で示す特性線A2は中層25の温度であり、実線で示す特性線A3は下層26の温度である。
図5の横軸には、通気処理の期間中、各処理区における放射温度計23の計測値の最高温度から、通気前の温度を差し引いた「温度差」が示されている。そして、
図5では、横軸に示す「温度差」とPb溶出値との関係が示されている。
【0024】
図5のように、黒点で示すPb溶出値と、温度差との間には、傾き負である比例的な相関がある。ここで、「傾き負」とは、温度差が大きくなることに伴い、Pb溶出値が少なくなることを意味する。つまり、廃棄物の温度を計則することで、廃棄物中におけるPbの炭酸化反応状態を、間接的にモニタリング可能であることが分かる。より具体的には、廃棄物の温度が高くなることに伴い、廃棄物中のPbの溶出値を低減できることが分かる。
【0025】
上記したカラム試験の結果を踏まえ、廃棄物の前処理装置及び前処理方法の具体例を、順次説明する。
【0026】
(具体例1)
廃棄物の前処理装置及び前処理方法の具体例1を、
図6及び
図7を参照して説明する。前処理装置30は、固定構造物80によって支持されている。固定構造物80は、床、架台、ベッド、地面等を含む。前処理装置30は、内側ドラム31及び外側ドラム32と、内側ドラム31を回転させる回転装置33と、回転装置33を支持する支持装置34と、内側ドラム31内に焼却灰を供給する供給装置35と、内側ドラム31内に洗浄水を供給する給水装置36と、外側ドラム32内から洗浄水を排水する排水装置37と、外側ドラム32内にCO2 を含むガスを通気するガス供給装置38と、処理済みの焼却灰を内側ドラム31内から排出する排出装置39と、を有する。
【0027】
内側ドラム31は、内部に焼却灰D1を収容し、かつ、径方向の通気性及び通水性を有する。内側ドラム31としては、筒状、具体的に円筒状のメッシュ構造、金属製の円筒に径方向の貫通孔を形成したもの、等を用いることができる。また、内側ドラム31の内面に搬送機構40が設けられている。搬送機構40は、内側ドラム31の軸線A1の周りに螺旋状に設けられたスクリュー羽根、またはスクリュー溝である。軸線A1は、略水平に配置されている。
図6では搬送機構40としてスクリュー羽根を設けた例が示されている。
【0028】
回転装置33は、電動モータ41と、電動モータ41の駆動軸に減速機を介して連結された回転軸42と、を有する。支持装置34は、金属製の壁、フレーム等で構成された本体部43と、外側ドラム32が固定された第1外蓋44及び第2外蓋45と、を有する。本体部43は、回転軸42を軸受46により回転可能に支持している。第1外蓋44及び第2外蓋45は、固定構造物80により回転しないように支持されている。
【0029】
本体部43と電動モータ41との間にハウジング47が設けられ、ハウジング47内にメカニカルシール48が設けられている。メカニカルシール48は、従動リング及びシートリングと、従動リングをシートリングに押し付ける弾性部材と、を有する端面シールである。従動リングまたはシートリングの何れか一方が回転軸42に取り付けられ、残りの一方がハウジング47に取り付けられる。従動リングとシートリングとが互いに押し付け合い、シール面を形成する。
【0030】
第1外蓋44及び第2外蓋45は、軸線A4方向に間隔をおいて配置されている。第1外蓋44及び第2外蓋45は、共に回転しないように設けられている。第2外蓋45は本体部43に固定され、第2外蓋45は軸受49により回転軸42を回転可能に支持する。第1外蓋44は軸受50により回転軸42を回転可能に支持する。
【0031】
外側ドラム32は、気密性及び液密性を備えた素材、例えば、金属で円筒形状に成形されている。外側ドラム32の軸線A4方向の第1端部は第1外蓋44に固定され、外側ドラム32の第2端部は第2外蓋45に固定されている。つまり、外側ドラム32は、軸線A4方向の両端が第1外蓋44及び第2外蓋45により塞がれており、かつ、回転不可能である。内側ドラム31の外径は、外側ドラム32の内径よりも小さい。内側ドラム31の軸線A4方向の全長は、外側ドラム32の軸線A4方向の全長よりも短く、内側ドラム31は外側ドラム32内に配置されている。内側ドラム31と外側ドラム32との間に、軸線A4を中心とする環状の空間C1が形成されている。
【0032】
内側ドラム31と回転軸42とを連結する連結部材51が設けられている。連結部材51は、金属製の骨格であり、連結部材51は、内側ドラム31の軸線A4方向に間隔をおいて複数本配置されている。また、連結部材51は、回転軸42の回転方向に間隔をおいて複数本配置されている。回転軸42は、連結部材51を介して内側ドラム31の荷重を支えている。回転軸42の全長は、軸線A4方向で連結部材51を配置する範囲によって定まる。内側ドラム31と外側ドラム32とが、同心状に配置されている。回転軸42が回転すると、回転軸42の回転力は連結部材51を介して内側ドラム31に伝達され、内側ドラム31が回転する。
【0033】
内側ドラム31内は、軸線A4方向に沿って散水パートB1と反応パートB2とに区分されている。散水パートB1と反応パートB2とは、軸線A4方向で異なる位置に配置されている。散水パートB1は、軸線A4方向で、第1外蓋44と反応パートB2との間に配置されている。反応パートB2は、軸線A4方向で、第2外蓋45と散水パートB1との間に配置されている。搬送機構40は、内側ドラム31内で散水パートB1及び反応パートB2の両方に亘って配置されている。連結部材51は、反応パートB2で内側ドラム31内に配置されている。
【0034】
供給装置35は、焼却灰が投入される供給管52と、供給管52内の焼却灰を輸送するスクリューコンベア53と、を有する。第1外蓋44は、軸線A4方向に貫通した第1孔54及び第2孔55を有する。第1孔54は、重力の作用方向、つまり、
図6の上下方向おいて、第2孔55よりも上に配置されていればよい。
図6では第1孔54が、回転軸42よりも上に配置され、第2孔55は、回転軸42よりも下に配置されている例を示している。第1孔54は、
図6の上下方向で回転軸42とガス供給装置38との間に配置されている。第2孔55は、
図6の上下方向で回転軸42と排水装置37との間に配置されている。
【0035】
供給管52は第2孔55に挿入されている。供給管52の開口端56は内側ドラム31内に配置されている。供給管52のうち、外側ドラム32の外に配置されている箇所の端部にホッパ57が設けられている。スクリューコンベア53は、外側ドラム32の外に配置した電動モータ58と、電動モータ58により回転及び停止されるスクリュー59と、を有し、スクリュー59は供給管52内に配置されている。
【0036】
給水装置36は、給水管60と、給水管60に取り付けたノズル(スプリンクラー)61と、給水管60からノズル61に供給される水量を調整するバルブ62と、を有する。給水管60は第1孔54に挿入され、給水管60の一部は、散水パートB1で内側ドラム31内に配置されている。ノズル61は、給水管60のうち、内側ドラム31内に配置された箇所に設けられている。給水管60のうち、内側ドラム31内に配置された箇所は、軸線A4と平行に配置されている。ノズル61は、軸線A4方向に間隔をおいて複数配置されている。バルブ62は、給水管60のうち、外側ドラム32の外に配置された箇所に設けられている。バルブ62は、作業者が手動で操作するバルブ、または自動で制御できるソレノイドバルブの何れでもよい。給水管60のうち、外側ドラム32の外に配置された箇所の端部は、水道の蛇口、給水タンクに直接または間接的に接続可能である。また、給水管60のうち、外側ドラム32の外に配置された箇所の端部は、雨水を回収するタンク、ホッパに接続されていてもよい。
【0037】
排水装置37は、排水管64及びバルブ63を有する。排水管64は外側ドラム32の外に配置されており、排水管64の開口端65は、散水パートB1で空間C1に配置されている。排水管64の開口端65は、
図6の上下方向で外側ドラム32の最も下部において、空間C1に配置されている。バルブ63は、作業者が手動で操作するバルブ、または自動で制御できるソレノイドバルブの何れでもよい。
【0038】
ガス供給装置38は、外側ドラム32の外に配置された空気機械と、空気機械に接続された通気管66と、通気管66に設けられたバルブ67と、を有する。通気管66の開口端68は、反応パートB2の外側で空間C1に接続されている。通気管66の開口端68は、
図6の上下方向で外側ドラム32の最も上部において、空間C1に配置されている。空気機械は、ガスボンベ、ガスタンク、送風機または圧縮機の何れでもよい。バルブ67は、作業者が手動で操作するバルブ、または自動で制御できるソレノイドバルブの何れでもよい。
【0039】
排出装置39は、第2外蓋45を軸線A4方向に貫通した排出口69と、本体部43に設けられて排出口69につながった排出通路70と、排出通路70につながった排出管71と、スクリューコンベア72と、を有する。排出口69は、内側ドラム31内の反応パートB2につながっている。排出口69は、
図6の上下方向で内側ドラム31内の最も下部に配置されている。スクリューコンベア72は、本体部43の外に配置した電動モータ73と、電動モータ73により回転及び停止されるスクリュー74と、を有し、スクリュー74は排出管71内に配置されている。
【0040】
温度計測装置75が本体部43に設けられている。温度計測装置75は、内側ドラム31内における反応パートB2の温度を計測する機能、温度の計測結果を表示する機能及び信号で出力する機能を有する。温度計測装置75として熱画像カメラを用いることができる。第2外蓋45及び本体部43が熱伝導性に優れた材料、例えば、鉄板、鋼鉄、ステンレス等で形成されていれば、温度計測装置75として熱電対、放射温度計等を用いることも可能である。
図6の例では、温度計測装置75が、本体部43のうち、第2外蓋45とは反対の箇所に設けられている。
図7では、温度計測装置75が、上下方向で回転軸42と排出管71との間に配置されている。
【0041】
さらに、前処理装置30は、温度計測装置75の温度計測結果を処理する制御盤を備えていてもよい。制御盤は、入力部、コントローラ、出力部等を有する。制御盤から信号を出力して、電動モータ41,58,73の回転及び停止、回転速度を制御可能である。また、バルブ62,63,67としてソレノイドバルブを用いていると、制御盤から信号を出力して、バルブ62,63,67の開閉および開度を制御することも可能である。
【0042】
次に、前処理装置30により焼却灰を安定化処理する前処理方法の例を説明する。まず、ホッパ57から供給管52内に焼却灰を投入する。電動モータ58が回転すると、スクリュー59が回転し、供給管52内の焼却灰は、内側ドラム31内、具体的には散水パートB1に供給される。内側ドラム31内に供給された焼却灰D1は、重力の作用で下部に蓄積する。
【0043】
給水装置36は、ノズル61から内側ドラム31の散水パートB1に散水して、焼却灰D1の洗浄を行う。給水装置36から散水される水としては、炭酸イオンを含有する溶液を用いることができる。給水装置36から散水される水は、自重で落下して焼却灰D1を洗浄する。内側ドラム31内で焼却灰D1を洗浄した洗浄液は、自重で内側ドラム31を径方向に通り抜け、内側ドラム31と外側ドラム32との間の空間C1へ移動する。
【0044】
焼却灰D1を洗浄した洗浄液は、自重で内側ドラム31を通過して空間C1に至る。洗浄液は溶出成分を含む。溶出成分としては、水溶性イオン、例えば、重金属イオン、微細な粒子等が挙げられる。このようにして、焼却灰D1と洗浄液とが分離、つまり、固液分離される。なお、バルブ63を開くと、空間C1内の洗浄液は、排水管64から排出される。
【0045】
電動モータ41が駆動されて回転軸42が回転すると、焼却灰D1は、内側ドラム31内で撹拌され、かつ、搬送機構40の作用で反応パートB2へ搬送される。ガス供給装置38は、通気管66から外側ドラム32内に、二酸化炭素を含有するガスを供給する。外側ドラム32内に供給されたガスは、内側ドラム31を径方向に通り抜けて反応パートB2内に至る。すると、内側ドラム31内の焼却灰D1中の重金属、例えば、
鉛は、二酸化炭素により炭酸化して不溶化が促進される。すなわち、焼却灰D1からの重金属溶出を抑制できる。
【0046】
内側ドラム31の反応パートB2において、重金属の不溶化処理が済んだ焼却灰D1は、内側ドラム31の回転による搬送機構40の作用で、排出口69から排出通路70へ排出される。そして、排出装置39の電動モータ73が駆動されると、スクリュー74が回転し、焼却灰D1は排出管71から排出される。
【0047】
ガス供給装置38が内側ドラム31の反応パートB2にガスを供給すると、焼却灰D1中のカルシウムと二酸化炭素とが炭酸化反応する際の発熱により、焼却灰D1の温度が上昇する。温度計測装置75は、反応パートB2の焼却灰D1の温度を計測している。このため、反応パートB2の焼却灰D1において、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応が進んでいるか否かを、リアルタイムにモニタリングすることができる。反応パートB2における焼却灰D1の温度が予め定めた値以上であると、焼却灰D1全体において、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応が進んでいるものと推定できる。この推定は、コントローラまたは作業者が行う。
【0048】
これに対して、反応パートB2における焼却灰D1の温度が予め定めた値に達しないと、反応パートB2の焼却灰D1全体において、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応が進んでいない、と推定可能である。この推定は、コントローラまたは作業者が行う。
【0049】
前処理装置30は、反応パートB2の焼却灰D1全体において、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応が進んでいない場合に、例えば、以下の第1の処理または第2の処理の少なくとも一方を行うことで、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応を促進することができる。
【0050】
第1の処理は、内側ドラム31の回転速度を高くする処理である。電動モータ41の回転速度を上昇させて、内側ドラム31の回転速度を高くすると、内側ドラム31内の反応パートB2で焼却灰D1の撹拌効率が向上し、焼却灰D1と二酸化炭素との反応が促進される。電動モータ41の回転速度の上昇は、作業者が手動操作で行ってもよいし、コントローラが自動的に行ってもよい。
【0051】
第2の処理は、内側ドラム31内の反応パートB2における焼却灰D1の処理時間を長くする処理である。反応パートB2における焼却灰D1の処理時間を長くすると、反応パートB2で、焼却灰D1と二酸化炭素との反応が促進される。例えば、電動モータ41もしくは電動モータ73の回転速度を低下するか、または、電動モータ41もしくは電動モータ73を停止して、単位時間当たりにおける焼却灰D1の排出量を低減すると、反応パートB2における焼却灰D1の処理時間を長くできる。電動モータ41もしくは電動モータ73の回転速度の低下または停止は、作業者が手動操作で行ってもよいし、コントローラが自動的に行ってもよい。
【0052】
なお、第1の処理及び第2の処理はそれぞれ単独で行ってもよいし、両方同時に行ってもよい。この場合、第2の処理のうち、電動モータ73の回転速度を低下する処理、または、電動モータ73を停止させる処理を行えばよい。また、第1の処理と第2の処理とを交互に行ってもよい。さらに、第1の処理または第2の処理の少なくとも一方を行う場合に、ガス供給装置38から内側ドラム31内に供給するガスの量を増加することにより、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応を促進することもできる。この場合、バルブ67の開度調節は、作業者が手動で行ってもよいし、コントローラが自動で行ってもよい。また、必要に応じて内側ドラム31内にCO2 濃度計を設置することも可能である。CO2 濃度計は、内側ドラム31内のCO2 濃度を検出する。そして、ガス供給装置38のガス供給量を、CO2 濃度計の検出結果に応じて、自動もしくは手動でコントロールすると構成にすることもできる。この場合、温度計測装置75が提供する情報に連動して、ガス供給装置38のガス供給量をコントロールさせる構成が好ましい。
【0053】
さらに、内側ドラム31内は、軸線A4方向で散水パートB1と反応パートB2とに分かれており、焼却灰D1は散水パートB1で洗浄が行われた後、焼却灰D1は反応パートB2に搬送されて、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応が促進される。散水パートB1では、焼却灰D1に含まれるカルシウムが溶出可能な状態、つまり、炭酸カルシウムの被膜が形成される前の状態で、焼却灰D1を効率的に洗浄できる。
【0054】
さらに、メカニカルシール48は、内側ドラム31内に供給されたガスが、前処理装置30の外に漏れることを防止する。
【0055】
(具体例2)
前処理装置30の具体例2を、
図8、
図9、
図10を参照して説明する。
【0056】
前処理装置30は、内側ドラム31及び外側ドラム32を有し、内側ドラム31は外側ドラム32内に配置されている。具体例2における内側ドラム31の材質、形状、構造は、具体例1の内側ドラム31と同様である。連結部材81が空間C1に設けられ、連結部材81は、内側ドラム31と外側ドラム32とを連結している。内側ドラム31及び外側ドラム32は軸線A4を中心として同心状に配置されている。連結部材81は金属製であり、軸線A4を中心とする回転方向に間隔をおいて複数設けられている。また、連結部材81は、軸線A4方向に間隔をおいて複数設けられている。
【0057】
第1外蓋44及び第2外蓋45は、固定構造物80により回転しないように支持されている。第1外蓋44はスリーブ82を有し、第2外蓋45はスリーブ83を有する。スリーブ82,83は軸線A4を中心として環状に形成されている。内側ドラム31及び外側ドラム32の軸線A4における第1端部は、スリーブ82内に配置されている。内側ドラム31及び外側ドラム32の軸線A4における第2端部は、スリーブ83内に配置されている。
【0058】
軸受84が、スリーブ82と外側ドラム32との間に設けられ、軸受85が、スリーブ83と外側ドラム32との間に設けられている。軸受84,85は、軸線A4を中心として回転方向に配置された複数の転動体を有する。転動体は、ローラ、ボールを含む。つまり、外側ドラム32及び内側ドラム31は、共に第1外蓋44及び第2外蓋45により回転可能に支持されている。
【0059】
また、外側ドラム32の外周面に環状のリブ86,87が設けられている。リブ86,87は、外側ドラム32の外周面から径方向に突出されており、リブ86とリブ87とは、軸線A4方向に間隔をおいて配置されている。リブ86,87は金属製であり、リブ86,87は、内側ドラム31及び外側ドラム32の荷重を支える剛性を有する。外側ドラム32の外周面に、リングギヤ90が設けられている。リングギヤ90は、軸線A4方向でリブ86とリブ87との間に配置されている。
【0060】
固定構造物80はローラ88,89を有する。ローラ88,89は軸線A4方向に間隔をおいて配置されている。
図10のように、ローラ88は、外側ドラム32の径方向に間隔をおいて2個設けられ、ローラ89は、外側ドラム32の径方向に間隔をおいて2個設けられている。2個のローラ88は、リブ86を介して外側ドラム32及び内側ドラム31を支持する。2個のローラ89は、リブ87を介して外側ドラム32及び内側ドラム31を支持する。
【0061】
電動モータ91が固定構造物80に設けられており、電動モータ91の回転力が伝達されるピニオンギヤ92が設けられている。ピニオンギヤ92はリングギヤ90と噛み合っている。ピニオンギヤ92及びリングギヤ90は、減速機を構成している。電動モータ91の回転力が、ピニオンギヤ92を介してリングギヤ90に伝達されると、外側ドラム32及び内側ドラム31が共に軸線A4を中心として回転する。電動モータ91、ピニオンギヤ92、リングギヤ90は、回転装置95を構成する。
【0062】
ガス供給装置38の通気管66は、第2外蓋45に取り付けられており、通気管66は軸線A4と平行に配置されている。通気管66の開口端68は、内側ドラム31の内部で反応パートB2に配置されている。
【0063】
排水装置37は、第2外蓋45に設けた排水通路93と、排水通路93に接続された排水管64と、を有する。排水通路93は、重力の作用方向、つまり、
図8の上下方向で第2外蓋45の最下部に配置されており、排水通路93は空間C1につながっている。また、排水タンク94が設けられており、排水管64の開口端64Aは、排水タンク94内の水に浸漬されている。
【0064】
具体例2の前処理装置30は、具体例1で説明した回転軸42、連結部材51、回転装置33、メカニカルシール48を有していない。具体例2の前処理装置30の他の構成は、具体例1の前処理装置30の他の構成と同じである。
【0065】
次に、具体例2の前処理装置30により焼却灰を安定化処理する前処理方法の例を説明する。供給装置35により焼却灰D1が内側ドラム31内の散水パートB1に供給される。また、給水装置36から、散水パートB1の焼却灰D1に洗浄液が供給され、焼却灰D1の洗浄が行われる。焼却灰D1を洗浄した洗浄液は、自重で内側ドラム31を径方向に通り抜けて空間C1に移動する。
【0066】
電動モータ91が駆動されると、外側ドラム32及び内側ドラム31が共に回転し、焼却灰D1は、内側ドラム31内で撹拌される。内側ドラム31内の散水パートB1の焼却灰D1は、搬送機構40の作用で反応パートB2へ搬送される。ガス供給装置38から、内側ドラム31内の反応パートB2にガスが供給され、焼却灰D1中の重金属、例えば、カルシウムは、二酸化炭素により炭酸化して不溶化が促進される。すなわち、焼却灰D1からの重金属溶出を抑制できる。内側ドラム31の反応パートB2において、重金属の不溶化処理が済んだ焼却灰D1は、排出通路70を経て排出管71に排出される。
【0067】
温度計測装置75は、反応パートB2の焼却灰D1の温度を計測しており、温度の計測結果に基づいて、焼却灰D1全体において、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応が進んでいるか否かを推定できる。前処理装置30は、反応パートB2の焼却灰D1全体において、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応が進んでいない場合、前述と同様に第1の処理または第2の処理の少なくとも一方を行うことで、カルシウムと二酸化炭素との炭酸化反応を促進することができる。具体例2の前処理装置30において、具体例1の前処理装置30と同じ構成については、具体例1の前処理装置30と同じ作用効果を得ることができる。
【0068】
具体例2の前処理装置30の排水管64は、開口端64Aが排水タンク94内の水に浸漬されているため水封されている。なお、具体例2の前処理装置30は、排水管64の密封性を高めるために、具体例1の前処理装置30の排水管64と同様にバルブ63を備えていてもよい。この場合、内側ドラム31及び外側ドラム32を停止せずにバルブ63を開くことで、空間C1の洗浄水を、排水管64から排水タンク94へ排出できる。なお、前処理装置30の密封性を高めるために、内側ドラム31及び外側ドラム32の回転中は、バルブ63を閉じることが好ましい。
【0069】
具体例1,2の前処理装置30に用いることの可能な制御系統例を、
図11を参照して説明する。制御盤76は、コントローラ77、入力部78、出力部79を有する。コントローラ77は、入力ポート及び出力ポート、記憶部、演算部を有するマイクロコンピュータである。出力部79は、液晶ディスプレイ、ランプ等を含み、作業者は出力部79を目視可能である。入力部78は作業者が操作する要素であり、スイッチ、ボタン、ノブ、レバー、テンキー、タブレット端末等を含む。
【0070】
入力部78の操作信号、温度計測装置75から出力される信号は、コントローラ77に送られる。出力部79は温度の計測結果、炭酸化反応の状態、電動モータ41,58,73,91の回転、停止及び回転速度、バルブ62,63,67の開度等を出力する。
【0071】
コントローラ77は、電動モータ41,58,73,91をそれぞれ回転及び停止し、かつ、回転速度をそれぞれ制御する。また、コントローラ77は、温度計測装置75が計測した温度から、内側ドラム31内の反応パートB2における焼却灰D1の温度を推定する。バルブ62,63,67がソレノイドバルブであれば、コントローラ77は、バルブ62,63,67の開閉、開度等を制御可能である。
【0072】
次に、具体例1,2の前処理装置30で行われる前処理方法の概要を、
図12を参照して説明する。前処理方法が開始されると、ステップS1では、散水パートB1で焼却灰D1の洗浄が行われる。ステップS1に次ぐステップS2では、内側ドラム31内にガスが通気されて、内側ドラム31内の反応パートB2でカルシウムが炭酸化反応する。ステップS3では、温度計測装置75が、内側ドラム31内の反応パートB2内における焼却灰D1の温度を測定する。ステップS4では、ステップS3で測定された温度を基に、反応パートB2における焼却灰D1の重金属の炭酸化状態を判断する。ステップS5では、ステップS4の判断結果を基に、第1の処理または第2の処理の少なくとも一方を行って、反応パートB2における焼却灰D1の重金属の炭酸化反応を促進し、前処理方法を終了する。
【0073】
さらに、
図8に示す前処理装置30の変更例を、
図13を参照して説明する。内側ドラム31内の反応パートB2は、反応パートB3を兼ねている。反応パートB3では、焼却灰D1に不溶化補助剤を混練する。不溶化補助剤としては、例えば、硫酸第一鉄や層状粘土鉱物の粉体、またはこれらの溶液が挙げられる。焼却灰D1に不溶化補助剤を混練することにより、廃棄物中の重金属を炭酸化することによって生じる六価クロムなどの他金属の活性化を抑制することができ、廃棄物のさらなる安定化が可能となる。
【0074】
反応パートB3で焼却灰D1に不溶化補助剤を添加するために、第2外蓋45に供給管96が設けられている。第2外蓋45は、供給管96を配置する孔を有する。また、供給管96にバルブ97が設けられている。バルブ97は、作業者が手動で操作するバルブ、または自動で制御できるソレノイドバルブの何れでもよい。バルブ97の開閉、開度を制御すると、不溶化補助剤の添加時期、不溶化補助剤の添加量を調整可能である。
図13の前処理装置30は、
図11の制御系統を用いることができる。バルブ97がソレノイドバルブであれば、コントローラ97の開閉、開度を制御することが可能である。
【0075】
反応パートB3を、内側ドラム31以外の箇所に設ける例を説明する。
図7または
図9に示すように、反応パートB3は排出管71内に設けることも可能である。排出装置39の排出管71に供給管96が接続され、供給管96にバルブ97が設けられている。供給管96から排出管71内に不溶化補助剤を供給し、焼却灰に混練することができる。
図7または
図9に示す前処理装置30に反応パートB3を設けた場合も、
図11の制御系統を用いることができる。そして、反応パートB3を有する前処理装置30においても、
図12の前処理方法を行うことができる。
【0076】
本実施形態で説明した内側ドラム31は、容器本体に相当し、外側ドラム32は、外側容器に相当し、コントローラ77は、判断装置、第1の調整装置、第2の調整装置に相当し、空間C1は、排水空間に相当し、第1外蓋44及び第2外蓋45は、蓋部材に相当し、電動モータ41は、第1モータに相当し、電動モータ91は、第2モータに相当し、連結部材51は、第1連結部材に相当する。また、ローラ88,89は、支持機構に相当し、連結部材81は、第2連結部材に相当し、ピニオンギヤ92及びリングギヤ90は、動力伝達機構に相当する。
【0077】
電動モータ41が内側ドラム31を回転する工程、電動モータ91が内側ドラム31を回転する工程は、第1工程である。
図12のステップS1の処理が、第7工程であり、ステップS2の処理が、第2工程であり、ステップS3の処理が第3工程であり、ステップS4の処理が、第4工程であり、ステップS5の処理が、第5工程及び第6工程を含む。
【0078】
廃棄物の前処理装置は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、具体例1及び具体例2の前処理装置30は、内側ドラム31及び外側ドラム32の軸線A4を、水平線に対して傾斜して配置することも可能である。軸線A4と水平線に対して傾斜する向きは、
図6及び
図8の上下方向で、散水パートB1よりも反応パートB2の方が低くなる向きである。具体例1の前処理装置30において、軸線A4と水平線に対して傾斜する場合、排水管64の開口端65を、空間C1で最も第2外蓋45に近い位置に設置する。ローラ88,89の数、連結部材51,81の数は、任意に変更可能である。さらに、モータは、電動モータに代えて、油圧モータ、空気圧モータ、内燃機関の何れかを用いることも可能である。
【0079】
廃棄物は、焼却灰、スラグ、汚染土壌の他、石灰改良土等のカルシウムを多く含有する土壌が挙げられる。スラグは、鉱石から金属を製錬する際に、冶金対象である金属から溶融によって分離した鉱石母岩の鉱物成分を含む物質である。また、重金属は、鉛(Pb)の他、カドミウム、鉄、銅、ニッケル、マンガン等、難溶性の炭酸塩を形成するものが挙げられる。廃棄物を洗浄する洗浄液は、水、炭酸イオンを含有する液体等が挙げられる。