(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663351
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】温度感受性ヒドロゲル−コラゲナーゼ製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20200227BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20200227BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20200227BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20200227BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20200227BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20200227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20200227BHJP
A61K 35/74 20150101ALN20200227BHJP
【FI】
A61K38/48
A61K9/08
A61K47/34
A61K47/18
A61P15/00
A61P19/04
A61P43/00 111
!A61K35/74 D
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-547001(P2016-547001)
(86)(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公表番号】特表2017-502998(P2017-502998A)
(43)【公表日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】US2015011296
(87)【国際公開番号】WO2015108901
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2017年12月14日
(31)【優先権主張番号】201410018764.3
(32)【優先日】2014年1月15日
(33)【優先権主張国】CN
(31)【優先権主張番号】62/063,056
(32)【優先日】2014年10月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513141935
【氏名又は名称】バイオスペシフィクス テクノロジーズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ボー
(72)【発明者】
【氏名】ウェグマン,トーマス・エル
【審査官】
深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−234205(JP,A)
【文献】
特開2009−029967(JP,A)
【文献】
特表2011−528716(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/059619(WO,A1)
【文献】
特表2002−533377(JP,A)
【文献】
Macromol.Biosci.,2010年,Vol. 10,p.563-579
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)PLGA−PEG−PLGAの構造(式中、PLGAは、DL−乳酸−グリコール酸共重合体であり、PEGは、ポリ(エチレングリコール)である)を有するトリブロック共重合体からなる温度感受性のヒドロゲルと、(2)クロストリジウム ヒストリチクス菌(Clostridium histolyticum)に由来するAux IおよびAux IIコラゲナーゼの1:1の混合物からなる有効量のコラゲナーゼとを含む注射用の滅菌製剤であって、この滅菌製剤が、(3)トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを更に含み、これにより約8.5のpHであり、前記滅菌製剤が、28G1/2のサイズの針を備えたシリンジによって注射した後、コラゲナーゼによる処置を必要とする対象における治療標的部位に、ゲルをもたらすことができ、このゲルが、前記コラゲナーゼの少なくとも約80%を捕捉し、前記注射から約2日以下にわたって徐々に前記コラゲナーゼの主要部分を放出する滅菌製剤。
【請求項2】
前記対象が、コラーゲン病変部を伴う疾患に罹患している請求項1に記載の滅菌製剤。
【請求項3】
前記疾患が、デュピュイトラン拘縮、ペーロニー病、五十肩、ヒト脂肪腫、イヌ脂肪腫、セルライト、および子宮筋腫から選択される請求項2に記載の滅菌製剤。
【請求項4】
請求項1に記載の滅菌製剤を少なくとも1回の治療用量で提供するためのキットであって、このキットが、単位パッケージ内に、(1)少なくとも1回の治療用量に十分な量で滅菌温度感受性のヒドロゲル流体を含有する少なくとも1つの容器であって、前記温度感受性のヒドロゲルが、PLGA−PEG−PLGAの構造を有するトリブロック共重合体であり、式中、PLGAは、DL−乳酸−グリコール酸共重合体であり、PEGは、ポリ(エチレングリコール)である容器と、(2)凍結乾燥粉末形態での有効量のコラゲナーゼを含有する少なくとも1つの第2の容器であって、前記コラゲナーゼが、クロストリジウム ヒストリチクス菌(Clostridium histolyticum)に由来するAux IおよびAux IIコラゲナーゼの1:1の混合物である第2の容器と、(3)滅菌製剤のpHを約8.5とするトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、(4)添付文書とを含むキット。
【請求項5】
貯蔵中に凍結形態で維持される請求項4に記載のキット。
【請求項6】
向上された注入性および適合性の性質を有する注射用の滅菌製剤を調製する方法であって、前記製剤は、針中で事前ゲル化することなく注射部位で治療剤のための徐放ゲルを形成することができ、前記方法が、
(1)十分な量のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを、温度感受性のヒドロゲル溶液に添加して、中性から約8.5のpHとするステップであって、前記温度感受性のヒドロゲルが、PLGA−PEG−PLGAの構造を有するトリブロック共重合体であり、式中、PLGAは、DL−乳酸−グリコール酸共重合体であり、PEGは、ポリ(エチレングリコール)であるステップと、
(2)前記ステップ(1)で得られた溶液を、滅菌するステップと、
(3)前記ステップ(2)で得られた滅菌溶液を、治療有効用量のコラゲナーゼと混合するステップであって、前記コラゲナーゼが、クロストリジウム ヒストリチクス菌(Clostridium histolyticum)に由来するAux IおよびAux IIコラゲナーゼの1:1の混合物であるステップと
を含む方法。
【請求項7】
前記滅菌ステップが、前記ステップ(1)で得られた溶液を、0.22μmのフィルターによって濾過することによって行われる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液が、注射の直前に前記ヒドロゲル溶液に添加され、かつ滅菌されている請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置されている適応症の治療標的範囲で薬物の滞留時間が延長されることになる注射可能なコラゲナーゼの滅菌製剤、このような製剤の使用方法、およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、クロストリジウム ヒストリチクス菌(Clostridium histolyticum)に由来するAux IおよびAux IIコラゲナーゼの1:1の混合物からなるコラゲナーゼが、Xiaflex(登録商標)の名称で米国において、Xiapex(登録商標)の名称で欧州連合において、処方箋薬としての使用が承認されている。現在の承認された適応症は、デュピュイトラン拘縮に罹患している成人の処置およびペーロニー病を有する成人男性に関するものである。さらに、この製品は、いくつかのコラーゲン病変に基づくヒトおよび獣医学的用途、例えば、五十肩、ヒト脂肪腫、イヌ脂肪腫、セルライト、および子宮筋腫などについて臨床研究および前臨床研究下にある。
【0003】
前述の用途のすべては、コラゲナーゼ製品の局所的な(病変部位)注射を必要とする。コラゲナーゼが長期にわたって病変部位に留まって、酵素が最大程度まで働くことを可能にする最適な臨床的利益を実現することが非常に望ましい。しかし、注射用コラゲナーゼの現在市販されている製剤は、凍結乾燥コラゲナーゼ粉末を注射用緩衝食塩水で再構成することによって調製される溶液である。薬物動態学的試験に基づくデータによれば、市販の製剤中のコラゲナーゼのかなりの量が、注射後30分という早期に、患者の尿中で見つかったことが示された。これは、投与されたコラゲナーゼが、病変部または他の治療標的範囲における注射部位から容易に流出し得ることを示す。注射部位でより長い滞留時間をもたらす製剤は、コラゲナーゼ処置の治療効果を改善することができることが明白である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、処置されている適応症の治療標的範囲で薬物の滞留時間が延長されることになる注射可能なコラゲナーゼの製剤を提供することである。本発明の更なる目的は、活性成分に適合し、その活性に悪影響を及ぼさないコラゲナーゼの徐放製剤を提供することである。本発明の更なる目的は、処置に要求される用量を送達する能力を妨害する事前ゲル化(pregelation)を呈することなく、細いサイズの針で患者に有効に投与することができるコラゲナーゼの注射可能製剤を提供することである。
【0005】
本明細書において、用語「コラゲナーゼ」は、標準的なコラゲナーゼアッセイでコラゲナーゼ活性を呈する1種または複数のタンパク質を含むものであり、好ましくは、クロストリジウム ヒストリチクス菌(Clostridium histolyticum)に由来するAux Iおよび/またはAux IIコラゲナーゼであり、最も好ましくは、Aux IおよびAux IIコラゲナーゼの1:1の混合物である。
【0006】
治療標的部位でのコラゲナーゼの徐放ができるような適合性(compatibility)および注射性(injectability)のある製剤を、特定の熱可逆性ヒドロゲル(reverse thermogelling hydrogels)を使用して調製することができることが今回判明し、これが本発明の基礎を形成する。このようなヒドロゲルは、室温で流体であるが、より高い体内温度でゲルになり、このゲルは、所望の場所での徐放のために、体内の注射部位で相当量のコラゲナーゼを捕捉することができる。
【0007】
治療薬を送達するための熱可逆性ヒドロゲルは、依然としてかなり新しい技術であり、本発明の所望の目的を実現するために解決するための多くの問題が依然として存在する。1つの問題は、臨床的利用に関する決定的な課題を代表する注射性または注入性(syringeability)の問題である。例えば、T.R.Hoare and D.S.Kohane,Polymer’s 49(2008)1993−2007を参照。針内部での高粘度および早すぎるゲル化は、このような注射性の問題の2つ目の側面である。ヒドロゲルを含むポリマー溶液は、約24℃の室温で粘性であることが一般的である。「濃厚な」溶液は、シリンジによって溶液を投与する臨床医にとって厄介な問題である。注射を何度も行うことが含まれる治療行為に対する患者の受容性を改善するために、シリンジにおいて細いサイズの針を使用することが高度に望まれている。しかし、学術文献を見直すと、ヒドロゲルの動物への注射が報告されている場合、太いサイズのシリンジおよび針の使用が数多くの引用文献で示されていることが観察されたことは興味深いことである。例えば、ReGel(登録商標)というトリブロック共重合体が、23ゲージの針を使用してヒトに薬物を注射するために、使用されている(Anti−cancer Drugs,2007,vol18,No3)。
【0008】
従来のヒドロゲル組成物の熱応答性の性質に起因して、皮膚に侵入した後、シリンジの内容物を全て排出する前に、針内部でゲル化が起こり、よって針が詰まる。したがって、コラゲナーゼヒドロゲル製剤が許容される注射性を有するためには、(1)コラゲナーゼ−ヒドロゲル溶液を、室温で28G1/2のサイズの針を備えた0.5mLシリンジで快適に取り扱うことができ、且つ(2)針が皮膚に侵入した後、少なくとも30秒間にわたり事前ゲル化を呈さず、したがってシリンジの内容物が注射用コラゲナーゼを用いた処置の通常の条件下で投与できることを実証しなければならない。
【0009】
治療標的部位での温度感受性のヒドロゲル/コラゲナーゼ製剤のin situゲル化が、シリンジ中の当初溶液に最初に含有されるコラゲナーゼの量の少なくとも約70wt%、最も好ましくはコラゲナーゼの少なくとも80wt%を捕捉することになることが望まれている。現在承認された適応症についての注射可能用量でのコラゲナーゼの量は、約0.58mgであるが、製剤は、将来承認され得る他の適応症についてより多い、またはより少ないコラゲナーゼを含有するように適応させることとなろう。投与されたコラゲナーゼの捕捉されなかった部分は、標的コラーゲン病変部の即時の治療に利用され得る一方で、捕捉されたコラゲナーゼは、一回の注射からの治療時間の延長を可能にする期間にわたって放出される。数週間またはさらには数箇月の放出時間を有することができる全身性治療薬の徐放のための慣例的なゲル製剤とは異なり、コラゲナーゼゲルでの放出期間は、注射した時から数日、好ましくは約2日を超えないべきである。このようなレジームは、コラゲナーゼの正常組織への曝露に由来する望まれない副作用のリスクを最小限とし、病変部の有効な治療に必要とされる注射の回数を低減することで、このようなモダリティの治療に対する患者の受容性を高いレベルにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
多種の温度感受性のヒドロゲルが当技術分野で公知であり、市販されている。本発明の製剤で使用するのに好適な温度感受性のヒドロゲルは、PLGA−PEG−PLGAの構造のトリブロック共重合体であり、PLGAは、DL−乳酸−グリコール酸共重合体を表し、PEGは、ポリ(エチレングリコール)を表す。このような材料(Mn=1600−1500−1600)の市販のトリブロック共重合体は、Jinan、ChinaのDaigang BioおよびWest Lafayette、IN 47906、USA.のAkina,Inc.から入手可能である。
【0011】
本発明のさらに好適な実施形態では、粘度または酸性のpHが原因で注射性または適合性の要件を満たさない当技術分野で公知の温度感受性のヒドロゲル材料に対して、この溶液に、粘度調整またはpH調整をするのに十分な量のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の化合物を添加することによって、これら性質を改良するように処理してもよい。このようにして、このようなヒドロゲルの性質を、28G1/2のサイズの針でも閉塞することなく注射が可能になるように改変され、中性または弱塩基性のpHで、コラゲナーゼと適合することとなる。
【0012】
非臨床試験に適したコラゲナーゼ製剤は、PLGA−PEG−PLGAなどのトリブロックヒドロゲル溶液であって、リス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの添加によってpHが8.5に調整され、トリブロックヒドロゲルの濃度が13%〜15%である溶液0.5mL中に、1mgのコラゲナーゼと1.7mgのラクトースなどの多糖担体材料を溶解させて、調製することができる。このように得られた溶液は、28G1/2の針によってインスリンシリンジの中に容易に導入することができる。許容される注射性を有するためには、塩基性のpHにすることが重要であるということが判明した。コラゲナーゼは、37℃で少なくとも48時間保持される場合、この製法から形成されるゲル中で維持されているときに安定であることが判明した。さらに、このようなゲルに捕捉され放出されたコラゲナーゼは、このような過程を経ていないコラゲナーゼと同じ生物活性を有することが判明した。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルが塩基性条件に対して感受性を呈する場合、分解のリスクを最小限にするために、好ましくは、ヒドロゲル溶液にコラゲナーゼ粉末を混合する前に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンをヒドロゲル溶液に添加することができる。
【0013】
注射に適した製剤を提供するために、ヒドロゲル溶液は、滅菌されなければならない。高温にしたり、又はヒドロゲルの完全性(integrity)に影響し得る材料を使用したりする等を伴わない任意の方法が採用し得る。好適な滅菌方法には、滅菌した密封可能な容器内へ、フィルター、例えば、約0.22μmの孔といった小さい孔を有するフィルターでヒドロゲル溶液を濾過することが含まれる。得られた滅菌溶液は、好都合なことには、凍結原液として、使用する前に、貯蔵することができる。凍結原液は、必要なときに解凍し、注射の前に提供される凍結乾燥コラゲナーゼを溶解させるための希釈剤として使用することができる。
【0014】
本発明の更なる実施形態では、標的適応症について対象(subject)の治療を行うために必要な各コンポーネントは、好都合なことには、キットの形態で医療専門家に提供することができる。このようなキットは、1回または複数の注射を提供するのに十分な量で温度感受性のヒドロゲル原液を含有する滅菌バイアル(vial)と、それぞれが凍結乾燥粉末として標的適応症についての治療用量のコラゲナーゼを含有する1つまたは複数のバイアルと、任意選択で、このキットを治療に使用する患者の管轄区域における薬物規制当局によって承認された添付文書(package insert)とを含む。ヒドロゲルが塩基性条件での長い曝露に感受性である実施形態では、別個のバイアル中にトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液を準備することが好ましい。最も好ましくは、バイアルは、使用前に冷蔵庫または凍結条件で貯蔵されることになる。
【0015】
本発明の製剤の調製および使用を、以下の実施例を参照することによってさらに例示する。本発明の範囲および特徴は、添付する特許請求の範囲によって規定されることになり、このような実施例によっていかなる点でも限定されないことは理解されよう。
【実施例】
【0016】
[実施例1]
PLGA−PEG−PLGA − コラゲナーゼポリマー溶液:調製および特徴付け
[ポリマー原液の調製]
DL−乳酸−グリコール酸共重合体−ポリ(エチレングリコール)−DL−乳酸−グリコール酸共重合体(すなわちPLGA−PEG−PLGA)(Mn=1600−1500−1600)のトリブロック共重合体を、Daigang Bio.、Jinan、Chinaから得た。15%(w/v)のポリマー溶液は、2〜8℃で乾燥ポリマーと水を混合することによって調製した。溶解は、穏やかな撹拌によって数日を要する場合がある。次いで溶液を0.22μmのフィルターによって濾過した。この滅菌溶液は、アリコートし、−20℃で貯蔵することができる。凍結した溶液は、コラゲナーゼ−ヒドロゲル溶液を調製する前に、冷蔵庫温度で一晩置くことが好適である
【0017】
[ポリマー希釈の方法]
ポリマー溶液を水で13%までさらに希釈した。この溶液はpH4を有する。この溶液は、37℃で軟質ゲルを形成することができる。コラゲナーゼを変性させる酸性条件であることに加えて、13%のポリマー溶液も、室温で粘性であることが判明した。多くの公開されている結果は、実際には通常4℃の冷却したポリマー溶液を使用したことからのものである。4℃の温度は、通常、周囲温度が好まれる臨床的作用条件として理想的な温度未満である。この粘度ではシリンジを使用することは不可能である。次いでpH7.5のトリス緩衝液を使用して、ポリマー溶液を希釈した。コラゲナーゼは、この時点で安全(safe)であるが、ポリマー溶液は、依然として濃厚すぎて室温にてシリンジで取り扱うことができない。pH8.5に調整すると、室温におけるポリマー溶液の粘度が大きく低減されることが判明した。pH8.5のポリマー溶液は、透明な流動性の溶液であった。これは、28G1/2の針を有するシリンジで取り扱うことができる。
【0018】
[コラゲナーゼ/ヒドロゲル溶液の調製]
コラゲナーゼ/ヒドロゲル溶液は、以下の通り、(A)計算した容量の滅菌した0.75Mのトリス緩衝液、pH8.5を、滅菌ポリマー溶液(実施例1)中に添加し、(B)必要な容量のポリマー溶液に、凍結乾燥コラゲナーゼ粉末を添加することによって、調製することができる。ポリマーの最終濃度は、13%(w/v)である。溶解したコラゲナーゼは、注射の前に30分間、冷蔵庫内に置くことが好適である。
【0019】
[実施例2]
[室温でのシリンジ試験−体温での針試験]
多くの温度感受性のヒドロゲル溶液は、粘性であり、特に細いサイズのシリンジおよび針が必要とされる場合、引き抜くことや空気を追い出すことなど、室温でシリンジを使用することに対して難題をもたらす。細いサイズのシリンジおよび28G1/2の針を使用してシリンジ試験を実施することができる。許容されるポリマー溶液は、室温で細いサイズのシリンジおよび28G1/2の針を用いて容易に取り扱われるべきである。コラゲナーゼ溶液の注射の現在の様式は、病変部内注射によるものであり、これは、臨床医がプランジャーを押す前に針の配置に時間を費やすことを要求される場合が多い。針が既に体内に入っているので、シリンジの内容物を排出する前にゲル化が起こり得る。プランジャーを押してヒドロゲル溶液を排出する前に、最大で40秒間、37℃に加温した緩衝液中に針を浸漬することによって、針試験を実施することができる。
【0020】
シリンジ試験は、コラゲナーゼ−ヒドロゲル溶液(0.25mL)を、コラゲナーゼ−食塩液と同様に取り扱うことができることを実証する。この針試験は、コラゲナーゼ/ヒドロゲルが体温で容易に排出され得ることを示す。
【0021】
[実施例3]
[滅菌方法]
ポリマー溶液は、4℃で0.22μmのフィルターに通して濾過することによって滅菌することができた。
【0022】
[実施例4]
[SRCアッセイを用いた適合性、最初の捕捉、およびコラゲナーゼ放出の試験]
コラゲナーゼ活性は、生物学的効力アッセイ法−SRCアッセイによって測定することができる。この方法は、基質としてラット尾腱の可溶性コラーゲンを使用する。アッセイは、Mallya(Mallya,S.K.,et al.(1986)Anal.Biochem.158:334−345)によって最初に開発された方法に基づく。コラゲナーゼ活性を、ニンヒドリン反応によって定量化される分解したコラーゲン(小ペプチド断片)の量によって測定する。反応溶液(紫色ニンヒドリン)の光学密度を570nmにて分光計で測定し、既知の量のロイシン(検量線)を使用するニンヒドリン反応と比較する。加水分解されたペプチドのnmolを計算して、ロイシン当量のnmolにする。コラゲナーゼ活性の単位は、ロイシン当量でnmol/分として表現する。
【0023】
200μLのコラゲナーゼ/ヒドロゲル溶液を、37℃に予め加温した1mLのトリス緩衝液(20nMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/4mMの酢酸カルシウム、pH7.4)が入った試験管に加えた。ゲル化は瞬時に起こった。試験管を最大で48時間とする様々な時間でインキュベートした。上清およびゲルのコラゲナーゼの有効性(potency)をSRCアッセイで測定した。表Iの結果は、コラゲナーゼがポリマーおよびゲル化プロセスに適合することを示す。この結果から、最初にコラゲナーゼの80%超がゲル中に捕捉されたことがわかった。また、この結果から、ほとんどのコラゲナーゼが48時間以内にゲルから放出されたことがわかった。SDS−PAGE試験は、同様の捕捉率および放出パターンを示した。多くの徐放性ヒドロゲルと対照的に、本製剤の放出は、遥かにより速い。この相対的に「速い」徐放性は、臨床用途にとってより望ましい。
【0024】
【表1】
【0025】
[実施例5]
[GPAアッセイでの適合性試験]
ヒドロゲルの適合性を、第2の生物学的効力アッセイ−GPAアッセイ、合成ペプチド基質ベースアッセイでも検証した。カルボベンゾキシ−グリシル−L−プロリル−グリシル−グリシル−L−プロリル−L−アラニン(zGPGGPA)は、クロストリジウム(Clostridial)のコラゲナーゼの合成基質である。この基質は、Aux IIコラゲナーゼ(コラゲナーゼABCII)によって直ちに切断されて、カルボベンゾキシ−グリシル−L−プロリル−グリシン(zGPG)とグリシル−L−プロリル−L−アラニン(GPA)の2つのペプチドになる。GPAとして放出された遊離アミノ基は、ニンヒドリン試薬と反応する。紫色ニンヒドリン反応溶液の光学密度を570nmにて分光計で測定し、コラゲナーゼ参照標準におけるニンヒドリン反応と比較する。コラゲナーゼ活性の単位は、ロイシン当量でnmol/分として表現する。このアッセイ手順は、W. Appel[H.U.Bergmeyer,ed.,Methods of Enzymatic Analysis;New York:Academic Press/Verlag Chemie,1974における]によって最初に開発された。
【0026】
合計で0.353mgのコラゲナーゼを、0.3mLの13/2%のトリブロックヒドロゲル溶液、pH8.5と混合した。このコラゲナーゼヒドロゲル溶液の0.2mLを、試験管中の1mLのトリス緩衝液に37℃で添加した。ゲル化は瞬時に起こった。試験管をロッカー(rocker)上に37℃で1時間置いた。ゲル化プロセスを経たコラゲナーゼを、GPAアッセイを使用して対照コラゲナーゼと比較した。対照コラゲナーゼが51473ユニット/mgで、ゲル中のコラゲナーゼが51182ユニット/mgという結果が得られ、これはコラゲナーゼがポリマーに適合したことを示す。